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832 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/07/03(金) 15:36:22 ID:i0Isv1/v0
外史喰らい編第3話投下予告


・一刀は無印決戦後
・左慈、干吉がメイン扱いで登場
・オリ真名として、左慈:光(コウ)、干吉:雲(ユン)を設定。ネタ元は中の人
・光、雲がデフォルトでチートな上、一刀も乱世1回分というチート経験値なので、メアリー・スー気味
・仲間になった経緯が違うので、女の子→一刀の言葉遣いが原作と違います。
・半モブですが、オリキャラ有り。

〜あらすじ〜
気がつくと真っ暗な空間にいた一刀。
そこで、左慈・干吉と再び出会う。左慈は一刀を殺そうとするが、干吉がそれを止め、とある話を始める。
曰く、『外史喰らい』という、外史を喰らう存在が発生していて、その対処を手伝え、という。
外史喰らいを止めるには外史の存続を願う想いが必要で、そのための想いは一刀への想いを変換して集めるらしい。
前回と似た外史で想いを集めると聞き、再び愛した彼女達に出会えると感じて、手伝いを了承する一刀。
彼を主として立てるために、左慈と干吉は真名を預ける。
そして、新たな外史の発端が開かれた。

プロローグ(第0話):ttp://koihime.x0.com/ss/b011_294.html(まとめサイト)

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838 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:10:27 ID:i0Isv1/v0
ちょい遅れましたが、これから投下します
839 名前:外史喰らい編第3話(1/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:12:16 ID:i0Isv1/v0
「―――凄いなぁ」
「―――凄いですねぇ」
焔耶と揃って、街並みを眺めて感心する。
一度来たことがある街とはいえ、国の首都というものはやはり壮観だ。パッと見ただけでも、その偉大さがよく分かる。
増して、自分が治めている街の何倍もの都市だ。モロ「御上りさん」になってしまうのも仕方ないだろう。
「………おっと、呆けてないでそろそろ行こうか」
我に返って、足を進める。
隣には美少女。護衛付きとはいえ洛陽までの旅。なのに盛り上がれない。
理由は単純。
旅の目的が仕事で、裏側にキナ臭いものがあるからだ。


焔耶を仲間にして、白帝城に帰ってきてから三ヶ月程経ったある日、洛陽からの使いが来た。
内容は「黄巾党討伐の褒賞をやるから、洛陽まで来い(要約)」。
「罠だな」
「罠ですね」
「罠だよな」
展開を知ってる男三人で意見が一致した。
「正確には罠ではありませんが、用心が必要なことには変わりありませんね」
「どちらにせよ、受けん訳にもいかんだろう」
「だよなぁ」
まったく面倒くさい。
「あ、あの、お館…」
焔耶が、申し訳なさそうに話しかけてくる。
「なぜ、これが罠だとお考えで……?」
「ん?ああ、えっとね…」
そうか、歴史知ってるからここまで読めるんであって、普通じゃそれこそ一流軍師なんかじゃないと、この判断はできないよな。
843 名前:外史喰らい編第3話(2/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:15:39 ID:i0Isv1/v0
「まずね、褒賞を与えるために洛陽まで来い、って部分。俺みたいな地方城主に渡すために、わざわざ呼ぶのは不自然だ。さっきの使いに書類なり褒美なりを持たせれば済む。次に、褒美を俺程度に渡す事」
焔耶は首を捻る。
「だって、黄巾党討伐の褒賞なのでしょう?」
「だからだよ。大なり小なり、黄巾党を討伐した人は俺達以外にも山ほどいる。それ全部を洛陽に呼ぶなんて出来るわけがない」
じゃあ、ある程度以上の集団を討伐した人に限ったら、とした場合、俺に褒賞が来るわけがない。
張角を討ってるはずの曹操さんぐらいの手柄じゃなけりゃ、褒賞を受けるには値しないだろう。俺達の場合、自力討伐した数で言ったら、一万以下だ。
「ならどうして呼ぶのか?何らかの理由で、俺に会いたいからだ。たぶん、『天の御遣い』の噂に対しての釈明だろうね」
「……なるほど」
スラスラと出した推理に納得したのか、焔耶が頷く。
…………まあ、今話したこと全部後付けのでっち上げなんだけど。
ホントの理由は二つ。黄巾党討伐後っていう時期と、使いが「張譲から」だという点。史実に沿うならこの後は、十常侍と何進の権力争いだ。
これを踏まえて考えると、味方(駒)として使えるか否かを判断するために呼ぶ、って辺りが真相か。褒賞ってのは、味方に引き込むために賄賂だろう。
まあ、「天の御遣い」に対する釈明も入ってるんだろうけど、それだって「天」の名前を使うためだろうな。
皇帝の死後、天の御遣いが現れて張譲に味方する。劇的この上ないシナリオだろう。付き合わされたくはないが。
だけど光の言う通り、単なる城主に、朝廷の人間からの命令を拒む権限なんて無い。何かに巻き込まれるかもしれないのを覚悟で行くしかないのだ。
「とりあえず俺は行かなくちゃならないとして……雲、護衛の人選任せていいかな?」
「構いませんが、時間はいただきますよ。本日は急ぎの政務が多数ありますので、早くて明日ですね」
そんなに政務あったっけか?黄巾党討伐軍の後始末は終わったはずだし……
「先日、誰かさんが焔耶の警邏に同行するために怠けた仕事が、ほぼ丸々残っていましてね。まったく、真面目に政務に励んでいたかと思えば、女性が将軍職についただけでこれなんですからね、誰かさんは」
ごめんなさい。
847 名前:外史喰らい編第3話(3/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:21:01 ID:i0Isv1/v0
で、次の日。
「護衛部隊は白帝隊を使います。人数は十人程度で十分でしょうが、古参兵の中から登用してください」
「了解」
宣言通り、必要事項全部を一日で纏めた雲に舌を巻きつつ、報告を聞く。
「それと、焔耶を付けましょう」
「ワ、ワタシか!?」
何でもないように言った一言に、焔耶が目を剥いた。
「おや、不満ですか?」
「い、いや、不満は無いが……光の方が適任じゃないか?」
まあ、強さで言ったら光が上だしな。
「それでもいいのですが、汚名返上の良い機会ですからね」
「「……汚名返上?」」
焔耶と二人で、揃って鸚鵡返しに訊いた。
隠していても仕方ないので言いますがね、と前置きする雲。
「貴女は一刀殿に怪我をさせた」
「っ……!」
「ああ、いえ。私達は気にしていませんよ、不具になったわけでもありませんし」
慌てるな、と雲は手を振る。
要らない禍根が無いのはいいことだけど、そのセリフは俺のものだよな?
「ですが、兵の中にはそれを気にしている者もいるわけです」
「あー……、なるほど。だから汚名返上か」
納得がいった。俺の護衛っていう重要任務をこなさせて信用を取り戻そうって訳か。
護衛部隊の編成も、その辺の配慮だろう。精兵揃いのエリート部隊、その上で古参兵となれば、兵士間での影響力は推して知れるというものだ。
俺の性格知ってる人も多いから、俺が焔耶を全く恨んでないってことも察してくれるだろう。
852 名前:外史喰らい編第3話(4/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:25:26 ID:i0Isv1/v0
そんな経緯で焔耶と白帝隊十人とで洛陽まで来たわけだ。
ちなみに服装は、街の仕立屋で適当に作ってもらった城主っぽい政務服。
本物の天の御遣いか、って警戒されてるところに、わざわざフランチェスカの制服で行くのも馬鹿らしいからだ。
果たして、張譲さんへの謁見自体はつつがなく終わった。
黄巾党討伐の褒美は、巴東郡と宕渠(トウキョ)郡の統治の任務。今の郡と隣の郡をもらったわけだ。

謁見が終わり、焔耶と宮殿内を歩いている途中、
「ああ、北郷殿」
張譲さんから話しかけられた。
「張譲さん?何か用ですか?」
「ああ、話したいことがあるのだが……」
口籠って、焔耶を見る。
「ああ、部下の魏延です。護衛として同行させたのですが……あー、聞かせられないお話で?」
「うむ。できれば二人だけで話したい」
「分かりました。じゃあ、『魏延』。悪いけど、先に宿に戻ってて」
「はい、『北郷殿』」
雲からの言い付け、その一:張譲の前では、真名を使うな。「真名を預けるほど信用されてない主を装え」とのことだ。
焔耶も、それに倣った呼び方をしてもらった。
「それで、話っていうのは?」
一礼して先に帰った焔耶を後目に、張譲さんに訊ねる。
「『天の御遣い』の噂を御存知かな?」
「…………ああ、聞いたことはありますね」
ド直球で来たな。張譲さんにとって、それだけ重要事だってことか。
「なら話は早い。噂では、天の御遣いは白帝城城主―――つまり君だということだが、どうなのかね?」
「そんな訳ないじゃないですか」
わざとらしいが、肩を竦めた。
「今回の討伐でもそうですが、俺自身は何もしてませんからね。部下の活躍が、華々しく言われてるだけでしょう」
856 名前:外史喰らい編第3話(5/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:30:15 ID:i0Isv1/v0
「ほう。その部下は、中々有能そうだね?」
「ええ、優秀ですよ。政務もほとんど任せっぱなしですし、天の御遣いなんて呼ばれるなら、あいつの方が適当でしょう」
雲からの言い付け、その二:御神輿君主を装え、だ。まあ、俺自身まともに働けてないのは事実だが。
「ふむ………なるほどな」
「もういいでしょうか?せっかく洛陽まで来たんだから、帰る前に少し遊んでいきたいんですけど」
「ああ、引き止めてしまって、すまなかったな。洛陽はいい街だ存分に堪能していくといい」
興味を無くしたというか、当てが外れたみたいな顔して、張譲さんは背を向けた。
………作戦成功、かな?
雲の言い付けはつまり、俺自身が「君主として無能である」と思わせる策だ。
張譲さんが求めているのが権力争いのための駒だとすれば、本当に欲しいのは俺の下の戦力だろう。だけど、いくら君主を懐柔しようと、下が付いてこなくては駒としては使えない。
天の御遣いじゃないという否定。
信用されてない主。
部下の方が優秀だと、なんの憚りも無く口にしたこと。
ここから推測できる実体は、俺が実権のない御神輿君主だという結論だ。
それはつまり、部下は状況次第で主を斬り捨てることに躊躇しないってことだ。
張譲さんからすれば、それでは意味が無い。いざって時に、天の御遣いじゃない、何の役にも立たないお飾り君主一人置いてかれては困るだろう。
「ま、とりあえず、やれるだけのことはやったしな」
人事尽くして天命を待つ、だ。俺は使えないって思ってくれるように祈っとこう。
天の御遣いであることを否定しといて、天命ってのも変な話だけどな。
861 名前:外史喰らい編(6/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:35:22 ID:i0Isv1/v0
翌日、朝。
張譲さんに言った言葉ではないが、折角洛陽まで来たんだし皆にも暇を出して一日遊んで行こう、と焔耶と白帝隊の隊長――王平、という偉丈夫だ――に提案したら、即座に却下された。
「何を言ってるんです、お館。そんな危険なこと……」
「魏延様の言う通りです。せめて、何名かお付けください」
却下の理由は微妙にずれてたけど。
「えーと、遊んでいくことには文句ないの?」
「そりゃあ、洛陽まで来たんですから、休暇をもらえるなら嬉しいことです」
ですが、と続ける王平。
「我々の任務は、北郷様の護衛です。それを放り出して遊び惚ける訳にはいきません」
真面目な人だなぁ。今の言葉も、純粋に俺を心配してのものだし。でもさ、
「焔耶に一緒にいてもらうつもりなんだけど、それでも駄目かな?」
「えぇ!?」
「は……いや、それなら安心ですが………ああ、そういうことですか!了解しました。明日の出発については、日没頃に一度伺いに来ます。では魏延様!北郷様をお願いします!」
王平はそれだけ言って、一礼して部屋を出ていった。
察しが良くて助かる。
「…という訳なんだけど、焔耶。一緒に街回らない?」
「あ、…は、はい、あの……ワタシなんかと一緒でいいんですか?」
「―――」
またそれか。このところ、何かに誘った時の第一声は、大抵こうだ。……もしかして、避けられてる?
866 名前:外史喰らい編(7/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:40:16 ID:i0Isv1/v0
「………俺と一緒じゃ、嫌?」
「え?」
「怪我のことなら気にする必要はないし、客将だからって遠慮しないでハッキリ言ってほしい。―俺のこと、嫌い?」
「そんなことありません!」
いきなり大声で返事をされて、ちょっと怯んだ。
「ワタシがお館を嫌うなんて、そんな!お優しいし、ワタシみたいな新参者にも平等に接してくださいます!ワタシが嫌われるならともかく、その逆はありえません!」
「その、さ。なら何で避けるのかな?今回だけじゃないよね。二月くらい前からだ。俺、何かしたかな?馬鹿だから覚えてないんだけど、もし何かしてたら言ってほしいんだ」
「避けてなどいませんし、変なこともされてません。……いえ、だから、です」
「どういうこと?」
「お館は、いつもワタシに気を遣ってくださいます。いつも声を掛けていただいて……。ですが、そのことでお館に迷惑をかけてしまっては…」
「待って。迷惑って何」
口に出したことはおろか、思ったことさえ無いぞ。
「雲が言ってたじゃありませんか。ワタシが来てから、お館が政務を抜け出すようになった、と。そこまでしていただく程、ワタシは大層な人間ではありません」
あー………それ、かー。確かに政務サボりの大半は、焔耶と遊びに行くためのものだけどさ。そんな深刻な意図は無いぞ。
「焔耶さぁ、俺のこと、大きく見過ぎ。好きでもない子に気を遣うために仕事抜け出すほど、できた人間じゃないよ」
「え!あの…それは、つまり……」
「俺は焔耶に、無理して気を遣ってるつもりはないよ。可愛い女の子と一緒にいたいから声掛けるんだし」
「か…可愛い……ですか、ワタシが……?」
うん。
「あ、ありがとうございます……」
「よし。じゃあ、俺の行動に納得がいったところで、改めて訊くぞ。一緒に街見て回らない?」
871 名前:外史喰らい編(8/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:45:16 ID:i0Isv1/v0
偉そうな顔で誘ったものの、見知らぬ土地でやれることなんて、大通りを歩いて回るぐらいしかない。
それでも滅茶苦茶楽しいんだから、洛陽ってのはやっぱり凄い街なんだろう。
「そういえば、ちゃんと見て回るのは初めてだな」
「あれ?お館、洛陽に来るのは初めてじゃないんですか?」
ボソッと言った独り言が聞こえちゃったか。
「二回目だよ。前は……二年ぐらい前かな。光や雲と会う前だ」
反董卓連合として戦に参加して、恋の先導で忍び込んで二人を匿って、そのあとは戦後処理ばっかりだったからなぁ。月と詠を迎えに行く途中は白装束に襲われっぱなしで街を見る時間なんてろくに無かったし。
「…………あれ?」
なんか忘れてる気がする。
なんだっけな。洛陽で、白装束で、―――あれ?確か、忍び込んでから二人に会うまでだったと思うけど、あれ?
出てこない。
……ま、いっか。思い出せないなら、そこまで大切なことじゃないんだろう。もしくは忘れたいことか。
一人納得して頷いていると、焔耶に服の裾を引かれた。
「お館、あれ何でしょう?」
指さす方を見れば、道を塞ぐように人だかりができていた。
「芸人でも来てるのかな。行ってみよっか」
「はい」
集団に近づいて、適当に声をかけた。
「おっちゃん、これ何やってるの?」
「喧嘩だよ、喧嘩」
「喧嘩?」
「おう。女の子が男にぶつかったのに謝らねぇもんだから、言い合いになってよ」
その言葉を聞いて、おっちゃんの隣のおばちゃんが言った。
「馬鹿言ってんじゃないよ、アンタ。喧嘩なもんかね。男の方からわざとぶつかったんだよ。あたしゃ、最初から見てたんだから間違いないね」
「なんだ、そうなのか?ぶつかった本人以外にも、何人か女の子に、謝れって言ってたぞ?」
「そりゃぁ、ぶつかってきた男の仲間だよ。あんな小さな子達相手に四人も五人も集まってイチャモン付けてさ……情けないったらありゃしない」
874 名前:外史喰らい編(9/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:50:19 ID:i0Isv1/v0
そりゃ放っとけないな。
「お館、助けましょう」
「ああ。すんません、通してくださーい」
そうと決まれば、まずは状況確認だ。人混みを掻き分けて、前に出る。
人と人の間からヒョイ、と顔を出して話題の元を見た。
向かって左に、大柄な男が五人。武器は持ってない。服の汚れが、街で生活して出るレベルじゃないな。野盗かな?
そして、向かって右に女の子が二人。一人は小柄、というか、ホントに小さい。鈴々ぐらいの背丈だ。ホットパンツみたいな丈の短いズボンと、マント、帽子。
それと――――――――
「……ちょっと待て」
何で君が今、洛陽にいるんだよ。
見知ったメイド服でも出会った時の大仰な服でもない、たぶん彼女の平服だろう簡素な服装をした少女がそこにいた。
董卓だ。
マントの女の子を守るような位置で、チンピラと相対してる。
「さ、先にぶつかってきたのはお前らです!ねねは悪くないのです!」
「何言ってんだ、手前ェからぶつかってきたんだろうが!肩痛めちまった、どうしてくれる!」
「だ、だから、陳宮ちゃんは謝ったじゃないですか……」
「謝っただけで済むか!痛みが治まらねぇんだ、医者に行かなきゃなんねぇ!その医者代を寄こせっつってんだよ!」
考えるまでもなく、言い掛かりの理屈だ。それに対してあの位置にいるってことは、中身も月と変わらないようだ。
そう考えて、その嬉しさで、焦る右手を押さえる。落ち着け、助ける理由が一つ増えただけだ。
「…焔耶、武器無しで大丈夫?」
「問題ありません。あの程度の奴ら、素手で十分です」
ガッガッと両拳を打ちつける姿を見て、彼女の武器を思い出した。あんなの振り回す腕力で殴るんだから、そりゃ十分か。
「じゃあ、奥の三人は任せるけど、殺さないようにな。あんな小さい子に人殺しなんか見せちゃだめだ」
「当然です」
「よし、じゃあ行くぞ」
878 名前:外史喰らい編(10/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 22:55:28 ID:i0Isv1/v0
大きく息を吸って、人混みから一歩中へ入る。
「お前ら、いい加減にしろ!」
チンピラ達がこちらを向いた。
「女の子二人に大の大人がよってたかって、恥ずかしいと思わないのか!」
「んだとぉ…?手前ェにゃ関係ねぇ、ひっこんでろ餓鬼!」
「引っこんでられるか!さっきから聞いてれば、ろくでもない言い掛かりばっかりつけて。そんなに金が欲しいなら、女の子に声かけてないで真面目に働け!」
周りの人達から失笑が起きる。
「手前ェ……ぶっ殺す!」
一番近くにいたチンピラが、顔を真っ赤にして殴りかかってくる。
「だから遅いって」
…………まあ、一騎当千を地で行く連中を基準にするのもどうかと思うけど、ありがたいことに、眼はそっちの速さに慣れてるわけで。
カウンターで合わせて、相手の鳩尾に爪先を蹴り込む。
教わった通りに、即座に引いて次撃の準備を、って。
「ぐふ!、ぁ……」
その一撃で、チンピラは崩れるように倒れてしまった。
さすがは光直伝の足技(未熟)と、雲に出してもらった安全靴ってとこか。
これなら十分にやれる。右手は手刀に、左手は拳を握って腰に。光と同じ構えを取って、次のチンピラの方を向いた。
相手が準備を終える前に接近する。
『お前が狙うなら脚だ。しっかりと訓練を積んだ兵士でも、徒手格闘での下半身防御は疎かになりやすい』
「了、解…!」
訓練中に貰ったアドバイス通り、相手の脛を狙って足の甲を叩きつける。それで下がった頭に、返す刀でハイキックを叩き込んだ。二人目の男も、これで崩れる。
構えを崩さずに、大きく息を吐いて残心。
周りから歓声が上がる。見れば、焔耶の方も担当分の三人を倒し終えたところだった。
882 名前:外史喰らい編(11/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:00:21 ID:i0Isv1/v0
このままにはしておけないので、とりあえず前のめりに崩れた一人目を仰向けにさせる。と、そいつの懐から何かが落ちた。
バンダナみたいなサイズの布を、折り畳んだもので、色は黄色。顔が強張るのが分かった。
「―――焔耶」
黄色い布をつまんで、見せる。焔耶も顔を強張らせた。
「―――お館、こいつらまさか、黄巾党の残党ですか?」
「多分ね。決めつけるのは早計だろうけど…」
どっちにしろ、放っておくことはできない。
「捕らえて、軍部に連れて行こう。どう裁かれるか分からないけど、俺達が口出す問題じゃないしな」
洛陽の問題は洛陽の司法に、だ。
「では、こいつらはワタシが捕らえておきますから、お館はあの子達のところへ」
「分かった。そっちは頼んだよ」
焔耶に男たちを任せて、董卓と女の子に近づく。
「大丈夫だった?」
「は、はい……ありがとうございます…」
「助かったのです〜…」
二人揃って、安堵のため息をつく。そりゃ、あんな柄の悪い連中に絡まれれば、怖い思いもするよな。
「俺は、北郷一刀。君達は?」
「あ…、董卓といいます」
「陳宮というのです」
陳宮……呂布の家臣で、軍師だっけ?元は曹操の家臣で、それを裏切って呂布について。あれ?でも、それって確か反董卓連合の後の話だよな。……って、諸葛亮が入蜀前に仲間になる世界じゃ、関係無いか。
890 名前:外史喰らい編(12/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:05:16 ID:i0Isv1/v0
と、
「月っ!」
背後から声が聞こえた。そっちを向くと、一人の女の子がいる。ああ、やっぱり賈駆だ。
「大丈夫、怪我はない!?ごめん、ボクがはぐれちゃったせいで…!」
「私も陳宮ちゃんも大丈夫だよ、詠ちゃん。北郷さんが助けてくれたから」
賈駆はそう言われて、初めて俺に気付いたのか、少し驚いた顔でこちらを見た。
「あなたが月を助けてくれたの。ありがとう。名前を訊いてもいいかしら?」
「北郷一刀だ。えーと…君は」
「ああ、賈駆よ。じゃあ改めて、ありがとう北郷さ……北郷一刀?もしかして白帝城の天の―」
出てきた単語に、思わず賈駆の口を手で塞いだ。もう片方の手の人差し指を口の前に立てる。
「……一応、そういう噂をされてる本人だけど、こんな人通りの多い所でその名前出さないでもらえるとありがたい」
張譲さんが知ってたってことは、洛陽住民の中じゃ結構有名な話ってことだ。その真ん中で『天の御遣い』なんて単語出されたらどうなることか。
賈駆の思考もそこに至ったのか、うっかりしてた、という表情で頷く。
手を離すと、小さく溜息をつかれた。
「まさか噂の張本人が洛陽にいるとはね……驚いたわ」
それはこっちも同じだ。洛陽に噂が伝わってた時点でまさか、とは思ったけど、涼州にまで伝わってるとは思わなかった。傀儡の予定より随分と早い。
旅人から旅人へと話が伝わっているんだろう。この分じゃ、半年もしない内に大陸中に広まるな……。
「あなたがそういう立場の人間なら、ボクもそれなりの態度で話すわ。涼州太守董卓の家臣、賈駆よ」
「あー、と、昨日から巴東郡と宕渠郡の太守になった、北郷一刀だ。よろしく。…別に、そんな仕事口調じゃなくてもいいんだけどなぁ。今はプライベ――じゃなくて、太守としての立場じゃないし」
「…そう?なら、その方がありがたいけど」
砕けた口調に戻る賈駆。
そこに、焔耶がやってきた。
「捕縛、終わりました、お館!」
「ありがと。お疲れ様、焔耶」
いえ、と笑う焔耶。
「紹介するよ。右から、董卓、賈駆、陳宮。董卓は涼州の太守だそうだ。――で、こっちが魏延。俺の仲間だ」
互いに、よろしく、と頷き合う。
895 名前:外史喰らい編第3話(13/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:11:50 ID:i0Isv1/v0
「で、誰か軍部の場所知らないかな?あいつらを連れていきたいんだけど」
「軍部ならば、ねねが案内いたしましょう!」
と、陳宮ちゃんが勢いよく手を挙げる。
「そっか、陳宮ちゃんは軍部に勤めてるんだもんね」
「違いますぞ、董卓殿!」
「えっ……違ったかな?」
「違います!ねねが仕えているのは恋殿です!恋殿が軍部にいるから、ねねは軍部に行くのです!」
「へぅ……そうだったんだ。ごめんね、間違えちゃって」
何か、こだわりがあるらしい。
恋ってことは、やっぱり呂布か。………なんか、董卓勢力が集まってるな。あとは、張遼と華雄がいれば勢揃いか。
まあ、そんなことは起きないだろうけどな。


とか思ってたけど、実際は起きるもんだったらしい。
陳宮ちゃんに案内されて――董卓と賈駆も一緒に――たどり着いた詰所には、張遼さんと、銀髪の女の人が揃っていた。
「何や、ねね。董卓と賈駆っちに街案内しとるんやろ?こんなとこ連れてきたかてつまらんだけ―――そっちのお客さん、誰や?」
「北郷殿と魏延殿です。大通りでチンピラに絡まれていたところを助けていただきました」
「そうか、ありがとな兄さん。ウチは張遼。こっちは華雄や。あと、今呂布いうんが飯買いに行っとる。皆ねねの友達やさかい、代表してお礼言わせてもらうわ」
「北郷一刀だ。よろしく」
「魏延という。……お館、こいつらを先に」
と、焔耶は後ろの連中を指さす。
「そうだな。――張遼さん、その、陳宮ちゃんに絡んでた連中捕まえてきたんだけどさ、黄巾の連中の残党かもしれないんだ」
「―――なんやて?」
張遼さんの表情が変わる。
899 名前:外史喰らい編第3話(14/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:15:18 ID:i0Isv1/v0
「十割確実って訳じゃないけど、頭に巻ける大きさの黄色い布を持ってたんだ」
「なるほど…まあ、ほっとく訳にもいかんやろ。おおい、アンタら!仕事やで!」
張遼さんが奥に向かって叫ぶ。
縄を片手に、何人かの兵士が出てきた。
「あっちの縛られてる連中、とりあえず牢に放り込んどき、…って恋、アンタ何してん?」
え?
その言葉に振り向く。
見れば、チンピラの内の一人を凝視してる赤髪の少女がいた。当然ながら、呂布だ。
「…話は、聞いた」
呂布はチンピラを睨んだまま、ぽつりと呟く。
「そっか。ならちょいと手伝ったり。天下の飛将軍が睨み効かせてるとなれば、そいつらも少しは大人しゅうなるやろ」
「…こいつらが、ねねをいじめた」
「………恋?わかっとると思うけど、私刑なんてすんなや。アンタが本気でやったら、そいつらの首ぽろっと取れてまうからな」
「………………………………………(コクッ)」
「……ホンマ、頼むで」
返事までに挟んだ沈黙の長さに、張遼さんが疲れたように言った。
「まあ、ええわ。それよりこの人らに挨拶しとき。ねね助けてくれたんや」
その言葉で、呂布がこっちを向く。
「…ねねの、恩人?」
恩売れるほどのことした気は無いんだけどな。
「俺は北郷一刀。こっちは魏延だ。よろしく、呂布さん」
「……………違う」
「え?」
「恋で、いい」
……それ、真名だろ?
「…ねねを助けてくれた、お礼。……ねねは、友達。だから、そのお礼」
「れ、恋殿……ねねのことをそれほどまでに………」
視界の端で陳宮ちゃんがうるうる来てるけど、まあ、それは置いといて。
903 名前:外史喰らい編第3話(15/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:20:18 ID:i0Isv1/v0
「――じゃあ、恋。俺のことは一刀でいいよ。生憎と、真名が無い地域の生まれなもんで、それで勘弁してくれ」
「ワタシのことは焔耶と呼んでくれ。ワタシの真名だ」
「…一刀と、焔耶」
確認するように、恋が呟く。
「あ、ま、待って欲しいのです!」
と、陳宮ちゃんが慌てて割って入った。
「助けてもらったのはねねです!それなのに、恋殿の真名のみを許すなど…!」
「そう言われたって、もう許してもらっちゃったしなぁ。……撤回する、恋?」
「…………(フルフルッ)」
だそうだ。
「そうではなくっ…!ああ、もう、じれったいのです!要件だけ言うから、しっかり聞きやがれです!」
軽くキレたのか、陳宮ちゃんは乱暴に言って大きく息を吸う。沸点低い子だなぁ。
「音と三つ書いて音々音!これがねねの真名です!北郷殿と魏延殿は、今後そう呼んでいいのです!」
「……はい?」
思わず訊き返した。
「な、何ですかその顔はっ!?ねねの真名など受け取れないとでも言うつもりですか!?」
「いや、ちょっと驚いただけで…。うん、なら音々音って呼ばせてもらうよ」
「それならワタシの真名を音々音にも許そう。よろしくな」
「あ…はい。よろしくです」
噛みついたところをいなされた形になったからか、音々音は毒気を抜かれたような顔で頷いた。
ああ、なんとなく性格が分かってきたな。
勝手に納得して頷いてると、董卓と目が合った。何故か、すまなさそうな顔をされる。
「あの……ごめんなさい」
「…?何が?」
謝られるようなことされたっけ?
「私も助けられましたけど、真名を許すのは、少し……」
ああ、そういうことか。
「気にしなくていいよ。お礼が欲しくて助けたわけじゃないし」
むしろ、この程度で許してくれた二人が特殊なんだから。
まあ、本音を言えば、『月』って呼びたかったんだけどさ。
908 名前:外史喰らい編第3話(16/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:25:21 ID:i0Isv1/v0
と。
「おぉい、恋、ねね、仕事やで。大将が呼んでるそうや」
兵士から伝言を聞いていた張遼さんが、面倒臭そうな顔で言う。
それを聞いて、音々音は唇を尖らせた。
「またですか〜。このところ三日と空けずに呼びだされていますぞ?」
「我慢しぃや。恋の家族の飯代出しとるんは、アイツやで」
「…ご飯、大事……」
「む〜……仕方ないですな……」
渋々と了解した音々音は、俺の方を向いてぺこりと頭を下げた。
「申し訳ないのです、一刀殿、焔耶殿。助けてもらったのに、たいしたお礼も出来ず…」
いや、真名許してもらっただけで、十分すぎるぞ。
「お礼なら明日でもいいんとちゃうか、ねね?」
「あ、いや、悪い…俺達、明日にはここを出なくちゃならないんだ」
「なんや、あんたら洛陽の人間やないんかい。……ならしゃあないか」
この時代の長距離旅行じゃ、一日二日の日程の誤差なんか有って無しみたいなもんだけど、さすがに遊ぶために伸ばすってのは悪い気がする。
洛陽じゃ、宿代も馬鹿にならないしな。
「…っと、そうや忘れるとこやった。董卓、賈駆っち」
「はい」
「何よ?」
「アンタらにも、ウチの大将からお呼びがかかっとるで」
「………はぁ?何よ、それ。何でボク達が呼ばれる訳?」
「ウチに言われても知らんて。そういう伝言やもん。…で、行くん?」
董卓と賈駆は顔を見合わせる。
「どうする、月?」
「行かないと、失礼…だよね?」
「そりゃあ、礼は失するけど、でも呼ばれた理由も分からないのに…」
「そんな心配すんなや、賈駆っち。ウチらもおるんやで、下手なことできへんって」
「アンタ達は相手側じゃない」
「見損なうなや。確かに相手は上司やけど、筋の通らん事黙ってみとる程ウチらは外道やないで」
912 名前:外史喰らい編第3話(17/17)[sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:30:15 ID:i0Isv1/v0
少しムッとした顔で言った張遼さんに、賈駆は少し考え込んで頷いた。
「…分かった、信用する。行こ、月」
「うん。…あ、失礼しますね、北郷さん」
一礼をした董卓に、手を振って応える。
「うん。また、どこかで会えたら。―――気をつけてね」

たぶん、この時に、意識のどこかに予感があったんだろう。
『気をつけてね』、だ。洛陽の町中で、恋や張遼と一緒にいて、何に?
たった一言、具体的じゃなくても、せめて仄めかす程度でいいから何か言えてたら。
彼女は変わっていなくて。
あいつらは今は仲間で。
だから安心していた。否、気が抜けていた。
あの二つを結び付けず、放置していた。

―――そして、その時には、もう、手遅れだった。
915 名前:外史喰らい ◆g3lwFV02dE [sage] 投稿日:2009/07/03(金) 23:43:50 ID:i0Isv1/v0
以上です。

以下、補足という名の言い訳

・チート一刀の最低SS乙
読み返してもらえば分かると思いますが、相手は、野盗・黄巾党・黄巾党残党と、要するに雑魚ばかりです。
一刀が強いんじゃなくて、相手が弱い。そういうことです。

・オリキャラいらね
張譲はこれっきりです。洛陽に行く理由として必要だっただけですから。
王平は今後も使っていきますが、あくまで「白帝隊隊長」の代名詞です。
両方とも男ですしね。

次回はようやく反董卓連合に入ります。文章量多いんで、3分割ぐらいでの投下になると思います。
なお、次回はチートのレベルが一気に上がりますので、お気を付けを。

支援、ありがとうございました。

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