[戻る] [←前頁] [次頁→] []

903 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/05/24(日) 02:53:24 ID:2NU+2XfJ0
無じる真√N-13話
------------------------------------------------------------
(あらすじ)
劉備三姉妹と再会を果たした一刀は、連合軍の会議へと出席する。
そこでとある出来事に巻き込まれる。その他にも様々な出会いが彼
に訪れる。そして部隊は水関へと移る。その戦いの結末は!?
------------------------------------------------------------
(この物語について)
・原作と呼称が異なるキャラが存在します。
・一刀が、今回ちょっと活躍します。(一周した成果を見せます。)
・上記が嫌な片は見ないことをオススメ致します。

(注意)
・過度な期待などはせずに見てやって下さい。
・未熟故、多少変なところがあるかもしれません。
------------------------------------------------------------
URL:http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0278



「無じる真√N」第十三話 後編




―――水関前にたどり着くと、これまでとは違う独自の空気が辺りを支配していた。

「うぅ、なんだか緊張するね」
 あたりを漂う、ピリピリとした空気を感じながら桃香が呟く。それは、差はあれどその
場にいる者たち全員が抱いていることだった。
「あぁ、後は号令が掛かれば戦いが始まる」
「えぇ、そしてこの戦いを切り抜けなければなりません」
 自らに言い聞かせるように答えながら愛紗は気合いを入れる。同じように鈴々、星も普
段とは異なる武人の顔へと変わる。そして、今開戦の合図が辺りに鳴り響く―――。

―――連合軍が、水関を攻略せんと動き始めてから少し経った頃、その水関では二人
の女性が言い争いをしていた。

「もう、我慢出来ん!!私は出る!」
「アホなこというな!」
「何と言われようと構わん、さすがにあれだけ好き放題言わせるのは我慢ならぬのだ!」
 華雄がここまで荒々しくなっているのには訳があった。先程から城門付近に居る一人の
少女によって華雄という一武人の名がけなされているからだった。それを知りながらも華
雄を止めようと女性は尚も説得を続ける。
「武人としての誇りか?アホぬかすんやない!!ウチらはそんなモンより"大事なモン"のた
めに戦ってるんちゃうんかい!」
「ぐっ、確かにそうだが、もう私一人の誇りではない。私の部下たちも限界なのだ」
 そう言われて、袴の女性"張遼"は華雄隊の兵を見る。どの兵も殺気立っており、華雄が
動けばそれに合わせて動くであろうことが手に取るように分かってしまった。
「……それでもや、ウチらは守るべきモンがある。それともアンタは違うんか?華雄」
「くっ、それはそうだが……」
 張遼に鋭い視線と共に言葉を投げつけられる華雄。彼女とて、張遼の言うことは理解し
ていた。しかし、連合軍による己の仕える主への―――彼女からすれば―――狼藉に対し
て既に怒り心頭であるが故、彼女の沸点は低くなってしまっていた。
 もちろん、張遼も華雄同様怒りを内包しており、それを知っているからこそ華雄も未だ
に暴走していないのだった。
 あと少しで、華雄を宥め落ち着かせることが出来る。その時、張遼はそう思っていた。
 
 もうすぐ、連合による更なる一手によってそれが覆されてしまうことになるとも知らず
に―――。



―――劉備軍と北郷隊による共同の陣へ一人の少女が戻ってくる。その表情は優れない。

「駄目なのだ……何度も言ってるのに出てこないのだ」
「うーん、困ったね……」
「そうだな……」
 今回の華雄の行動は一刀にとって"予想外"であった。彼の知っている華雄であれば既に
出てきているはずだった。しかし、実際には未だに籠もったままだった。
 全く進展しない現状に困り果てていると。そこに第三者が現れる。
「どうやら、苦戦しているみたいね」
「あ、孫策さん」
「まだ、籠もったままなのね」
「そうなの、何度か挑発してみたんだけど効果が無くて……」
「そうでもないと思うわよ」
「え?」
「私、華雄のことはそれなりに知ってるのよ。華雄はこんなに大人しくしていられる様な
人間ではないはずよ」
「でも、実際出てきてないんですよ?」
「恐らくは、誰かが食い止めてるのでしょうね。でも恐らくあと一押しがあれば出てくる
でしょうね」
「そうなのかな?」
「そこで俺を見られても困るが、まぁ華雄が噂通りならそうなんじゃないか?」
「まぁ、どちらにしても打つ手がないのなら少し見ててくれないかしら」
「?」
「私たちに任せてくれないかしら?」
「……わかりました」
「期待してていいわよ」
 どこか余裕を感じさせる笑みを浮かべ、手をひらひらと振りながら軍の先頭へと消えて
いった―――。



―――水関に立て籠もっていた華雄は進み出てきた女性を見て動揺を露わにした。

「や、奴は……」
「どないしたん?」
「まさか……な。私の知る人間に似ているが……」
 先程から華雄の様子がおかしい、それに気付く張遼。華雄と同じように女性を見ようと
したのとほぼ同時に女性が口を開いた。
「聞けぃ!我が名は孫策伯符!華雄よ!貴様が水関を守っているようだな!だが、貴様
はかつて我が母、孫堅文台によって破られた。ならば、その子である私に破られるのもそ
う時間は掛からぬであろうな。違うか?違うと言うならその手で我が口を封じて見せよ!
もっとも恐れていなければの話ではあるがな。なぁ、臆病者の華雄?」
 張遼は孫策の言葉が終わると同時に、隣から何かが切れる音が聞こえた気がした。その
音の出所へと視線を向けるとそこには身体をわなわなと震わせている華雄の姿があった。
「ちょ、華雄。あんな言葉気にしたらあかん」
「うるさい!もう限界だ!私は出る。出て奴らを蹴散らしてくれる!!」
「な、何言うとるんや!さっきも言ったやろが―――」
「そんなことはわかっている!その上でもう限界なのだ!」
 自分の言葉を遮って叫ぶ華雄を見て、張遼は最終手段を試みる。
「……もし、あんたが出陣するっちゅうんなら。ウチらは虎牢関まで撤退する。"ここ"を
守るべきアンタがその役目を放棄するならこの水関は落ちたも同然。そんならウチらは
下がらせてもらう」
「ふん、好きにしろ!」
 半ば、脅しに近い形で告げるが焼け石に水、もう華雄を止めるのは不可能。そう判断し
た張遼は自ら率いる隊に指示―――張遼隊の撤退―――をした。
 それを横目で見つつ華雄は部下たちに号令を掛ける。
「良いか!華雄隊の強き兵たちよ!これより我らは愚かなる連合軍を蹴散らしに出る!覚
悟を決めろ!」
「うぉぉぉぉおおお」
 華雄の声に続いて兵たちの怒号が辺りに響く、そして水関の門が開かれる―――。



―――水関内部で動きがあったことを察知した孫策たちは一度桃香たちの元へ戻った。

「出てくるのは華雄の部隊3万だけみたいね」
「それじゃあ、私たちが相手をしましょうか」
 周瑜の報告を聞き、孫策は桃香たちの方を向きそう告げた。その言葉に桃香が応える。
「いえ、私たちも戦います」
「へぇ、私たちだけでも相手はできるんだけどね」
「そうもいきません我々としてもここで名を上げなければなりません」
 孫策の言葉に愛紗が応える。孫策はその答えが分かっていたのか大した反応は見せなか
った。
「それじゃあ、華雄を討ち取るのかしら?」
「出来ればそうしたいところです」
「そう、それじゃあ私たちは華雄を含めた主軸以外のおまけを倒すとしようかしら」
 そう言って孫策は周瑜の反応を伺う。周瑜はただ目を閉じ腕を組んだまま黙っていた。
それを肯定と見た孫策は、兵たちを引き受ける趣を桃香たちへ伝えた後、そのまま陣へと
戻ろうとする。その際に、一刀は彼女に声を掛けた。
「孫策さん、ありがとう」
「あら、どうして礼なんか言うのかしら?」
「すごく嫌な役目を任せちゃったからさ」
「へぇ、どう嫌な役目なのかしら?」
 どこか観察するような目で一刀を見る孫策。
「孫策さんたちに華雄の挑発をしてもらったのに、実際に出てきたところで孫策さんたち
は華雄とは戦わない……見方によっては、言うだけ言っていざ目の前に来たら逃げ出した
ように見える……下手をすれば、余計な評判がつきかねない。違うかな?」
「そうね、貴方の言う通りよ」
「だからこそ、ありがとう……そして、ごめん」
「ふふ、いいのよ。劉備にも言ったでしょ?私が彼女たちに"誠意"を見せるって、だから
、今回のことで、いずれ呉を取り戻す上で協力して貰えるのならこれくらい問題ないわ」
「そっか……頑張って、としか俺には言えないかな」
「ふふ、それじゃあもう戻るわ」
「あぁ、ごめん呼び止めて」
「気にしなくていいわ」
 そう言って一刀と別れ自陣へと戻る孫策。一刀には言わなかったが彼女は短い間とはい
え会話が出来た事は彼女にとって悪いことではなかった。
(収穫があったわね……)
 そんな事を思いながらもどる彼女の顔には不思議と笑みがこぼれていた。幸いその顔は
周瑜にも、また影から自分を守っている少女たちにも見られることはなかった。

 そして、華雄隊が全て水関より出てきたことで。ついに戦が始まった―――。



―――華雄隊と劉備軍、孫策軍、北郷隊のよる連合軍前曲が激突を始めてから数刻たった。

 戦いは終わりを迎えるどころか一層激しさを増していた。
「くそっ、孫策はどこだ!」
 華雄は、目的の人物を捜し駆け回っていた。邪魔な兵士を薙ぎ倒し、進むのを邪魔する
敵兵を倒しただ、進み続けた。途中、劉備軍の将である関羽が近づいてこようとしていた
が部下によって食い止められていた。華雄としては戦いたかったのだが、今は孫策を優先
していた。
「孫の旗、おそらくあそこだと思われます」
「よし、敵を蹴散らし奴の元へ行くぞ!」
 部下の指した方向へ向かい、直進を始める華雄。この時、戦っているどの軍も予想して
いない事が起こる。劉備の軍の兵を蹴散らし、孫策の元へ向かう華雄の前に劉備軍
とも孫策軍とも違う。もちろん自分たちとも異なる部隊が出てきたのだ。
「おいあの十文字旗は何だ?」
「恐らく、公孫賛軍の北郷だと思われます」
「あぁ、あの天の御使いとか言われている胡散臭い奴か」
 華雄も噂には聞いていた。もちろん、そんな噂など信じていなかったが。
「まぁ、関係ない我らは邪魔な敵を蹴散らすのみ!」
 そう意気込み、華雄はさらに前進する速度を上げた―――。



―――北郷隊は、あくまで一部隊である。その為、劉備軍の補佐をしながら戦っていた。

 その結果、気がつくと劉備軍と孫策軍の間に移動してしまっていた。そして、そこへ華雄
が突撃してきたのだった。
「北郷様、敵の本隊がこちらへ向かって直進しております」
「そうか……参ったな」
 その報告を聞き、一刀は少し考える。彼が望んでいたものとは異なった状況になったた
めである。彼はこの水関での戦いである目的を隠し持っていたのだが、それは戦いの後
、行う予定だった。
 そんなことを考えている内に、両方の兵による激しい戦いが始まっていた。なんとか劉
備軍の兵と連携を行い上手く戦って居るが、それでも華雄隊の一部は抜け出てきてしまっ
ていた。
「華雄将軍!多くの兵が足止めを喰らっております」
「やむを得ん。我らだけでさらに前進するぞ!」
 一刀はその声を耳にした時には目の前に華雄がいた。
「貴様も邪魔だ!」
 華雄が叫びながら戦斧を振り上げる。一刀はもの凄い速度で迫られていたため反応が遅
れてしまった。周りの兵は他の兵に遮られ手が出せない状態、一刀はもはや自分の命がこ
れまでなのだろうかと考えた。そして、目的も遂げられずここで散ろうとしている自分に
対し、情けなさといらだちを感じた。一刀のそんな思いなど関係なく、戦斧は振り下ろさ
れた。
 だが、一刀の頭に触れようとした瞬間、戦斧が止まった。よく見ると、何かが戦斧の柄
に引っかかりそれ以上下がらないようになっていた。
「ふぅ、間一髪でしたな」
 その言葉と同時に、華雄の戦斧の柄から"龍牙"が勢いよく引き抜かれ、その反動で戦斧
を弾いた。
「せ、星!」
「申し訳ありません主、遅れました。ですが、私が来た以上、主を死なせるような真似は
させませぬ!」
 そう言って星は槍<龍牙>を構え、華雄と対峙する。それを見て、華雄はにやりと笑み
を浮かべる。
「さぁ、華雄よ!この趙子龍がお相手致す!」
「よかろう、この華雄の金剛爆斧を止めるとは……なかなかやる。不足はない!」
 華雄が横振りの一撃を放つが、目標の姿はすでになかった。それに驚くと同時に戦斧を
持つ両腕に重みがかかった。気がつけば、刃の腹に星が乗っていた。
「ふ、それが自慢の一撃か?」
「!?なめて貰っては困る!」
 華雄は、不敵に笑う星を振り落とそうと斧を力任せに持ち上げる。その勢いにのって星
は飛んだ。そして、落下しながら突きを放つ。それに対して、華雄は下から振り上げる。
「なんと!?」
「ちっ、やはり力が足りなかったか!」
 星は華雄の振り上げた一撃に驚かされた。何故なら、元々かなりの重さである戦斧を下
段から振り上げるという無理な動きをしたにもかかわらず、華雄はその威力を弱めること
なく重い一撃を放って見せたのだ。普通の相手ならば今の上空からの勢いに乗った一撃と
戦斧を振り上げ弱まった一撃という二つの要素によって倒せていただろう。
 だが、目の前にいる華雄はそんな事を感じさせないほど強い一撃を放った。一般の兵な
らここで恐れてしまうことだろう。しかし、彼女の相手をしているのは一般兵ではない、
星、もとい"趙雲子龍"である。星は、恐れるどころか高揚感に包まれていた。その顔には
笑みすら浮かんでいる。
「やはり、一筋縄ではいかぬか。さすがは、"猛将"華雄といったところ」
「ふ、そういう貴様もやるではないか。この金剛爆斧の上に飛び乗ったのは貴様で二人目
だ」
「ほぅ、きっと一人目はさぞかし華麗なる御仁だったのだろうな」
「いいや、貴様同様、いやそれ以上に怪しさを放つ奴だった」
「怪しい、そんなはずはなかろう」
「いいや、おかしな仮面を被り、妙なことを口走る変な奴だった」
「……」
 華雄の言葉を聞いた星からもの凄い気迫が発せられる。ちなみに先程から二人の戦いを
見ていた一刀は、今のやり取りを見た瞬間、背中に悪寒が走ったのを感じた。
「おっと、つい余計なことを話してしまったな。いくぞ!」
「……」
 華雄が先程以上に爆発的な勢いで突っ込んでくるが星は未だに俯き黙ったままだった。
それを隙とみた華雄が上段から振り下ろす。
「もらったぁ!」
 華雄の振り下ろしによる勢いに乗った一撃を星は槍の柄で受け止めた。そう"避けた"で
もなく、"受け流した"でもない……受け止めたのだ。それには華雄も一刀も驚かされた。
何故なら、普通これだけ強力な一撃を柄の部分で受けたりしたら槍は真っ二つとなり、持
ち主である星にそのまま一撃が当たってもおかしくないのである。
「そ、そんな馬鹿な!?」
「……変人といったな」
「?」
「あの"華麗さ"と"美しさ"と"強さ"を兼ね備えた人物を変人と申したか!」
 星が俯かせた顔を上げる。その顔は今までと同じだった。だが、普段の飄々とした雰囲
気は無く、どこか恐ろしさを感じさせていた。その不気味な気に当てられたのか華雄が距
離を取る。
「な、なんだ貴様は!?」
「……ふ、まぁいい。説教は後だ!」
 瞬間、星の姿が華雄へ向けて直進する。その動きに合わせ華雄が上段右から下段左へと
斧を振り下ろす。がやはり、星に止められる。あり得ないことに華雄は動揺した。その僅
かな気の揺らぎが隙を作ってしまった。斧の側面を滑らすように槍ごと前進し、滑らせる
ことで突いた勢いに乗せ素早い一撃を華雄に当てた。
「ぐぁっ!」
「これで終わりだな」
 地面に転がった華雄の胸に星の龍牙が突きつけられた。華雄は倒された際に手放してし
まった金剛爆斧を見て諦めた。
「くっ、私の負けだ!殺せ!」
「ふ、そうもいかぬ。そうですな?主」
「あぁ、よく分かったな星」
「主のお考えは再会するときには予想できておりましたよ」
「そっか、それじゃあ星。取り敢えずこの水関の戦いに終止符を」
「御意」
 一刀の言葉を受けた星は、華雄を縛り上げた上で全体に聞こえるよう声を上げた。
「聞けぃ!華雄の兵たちよ。華雄はこの趙子龍が打ち破った!!命ある者は、無駄な抵抗を
止め、投降せよ!」
 その言葉を切欠にあたりの喧噪が鳴り止んだ。こうして水関の戦いは終止符を迎えた
のだった―――。



―――その後、孫策軍が始めに水関の内部へと突入したのに続き劉備軍、そして北郷隊と
入って行ったのを切欠に連合軍は水関へと入った。

 そして、各軍が次の戦いへ備え準備をしている中、一刀は一つの天幕にいた。
「ところで星、さっきのはどんな仕組みなんだ?」
「何のことですかな?」
「あぁ、ほら華雄の一撃を正面から受け止めていただろ。あれって」
「ふん、おそらく私の攻撃が柄に触れる瞬間、槍の角度をずらし最も威力を発揮する垂直
から外させたのだろう?」
 一刀の疑問に答えたのは目の前にいる星ではなかった。それは二人の前で縛られている
華雄だった。
「そうなのか?」
「えぇ、今の説明通りに威力を落とした後、身体全体で衝撃を吸収し、振り抜けなくしま
した」
「それを、あの僅かな瞬間でやるとは……凄いな星」
「いえ、これくらい大したことではありませぬよ」
「いやいや」
「おい!いつまで待たせるのだ」
「ん?あぁ、ごめんごめん」
 いつまでも相手にされずにいた華雄が怒り出す。怒られた一刀は、これでは立場があべ
こべじゃないか、と思いつつも口にはしなかった。これ以上怒られたくないからである。
「どうせ、私の頸を落とすのだろう?ならば早くしろ!」
「待ってくれ、俺は別に君の命を奪うつもりはない」
「何!?そうか!ならば拷問にでもかけるのか!」
「だぁぁ、なんでそう痛いことばっか考えるんだよ。違うから俺、そんなことして喜ぶ様
な変態じゃないから!」
「ふん、どうだかな。今の二つが違うなら私を嬲り、陵辱しつくすつもりなのだろう!」
「ほう、お盛んですな。主」
「違うからね!無理矢理そんなことするつもりないから!というか話を聞いてくれ!」
 天幕内には今喋っている三人しかいないのに、何故か自分が一番立場が弱くなっている
という事態に直面した一刀の頭には"何故"という単語が飛び回っていた。
(なんで、俺こんなに押され気味なんだろ?俺って星の主だよな……華雄って俺たちに負
けたんだよな?あ、あれ……なんだか目頭が熱くなってきたぞ)
 一刀はそんな事を考え、身体を震わせながら口を開いた。
「あぁ、なんだか泣けてk―――」
「それより、早く用件を言ってはどうですかな?」
「……泣かせても貰えないのね」
 涙を流しそうになったところで星に促され、結局本題に移ることになった。
「さて、それじゃあ本題だ」
「……なぁ、貴様はあの"天の御使い"と聞いたが本当か?」
「ん?まぁ、そう呼ばれているね」
「……じぬ」
「あれ?どうし―――」
「信じぬ! 貴様が天の御使いなどという戯れ言、私は信じぬぞ!!」
「え?」
「貴様が本当の天の御使いならばこんな戦いに参加しているはずがない!いや、そもそも
起こるはずがない!」
「……そうだな」
「主!……華雄よ今のは聞き捨てならぬぞ」
 星が華雄に厳しい視線を向ける。だが華雄はそんなことなどお構いなしに一刀を睨み付
けていた。
「ふん、そやつも自ら認めて居るではないか!」
「!」
「星、待ってくれ」
「主……」
 華雄の言葉に反応し、動こうとした星を一刀が手で制す。そして華雄と顔の位置を合わ
せ、正面から向き合い語りかけた。
「華雄……本当にすまないと思ってる。きっとこんな言葉じゃ足りないんだろうけど」
「……」
「俺はさ、天の御使いだなんだって言われているけど実際には何の力も持っていない情け
ない男だ……現に君の言ったとおり、この戦いを食い止めることも出来なかった。だけど
俺は、まだやれることがあると思ってる」
「何だと」
「華雄、俺は君に降れとも、捕虜になれとも言わない。ただ、一つ頼みがある。だが、そ
の前に確認させて欲しいことがあるんだ」
「……」
「ここに書いてあること、これは真実だよな?あ、くれぐれも具体的な単語は口にしない
でほしい」
 そう言って、一刀はひとつの竹簡を取り出して開いた。それは星と再会した際、受け取
っていたものだった。そこには"董卓没做圧政、長安和洛陽都和平"(董卓は圧政をしてお
らず、長安も洛陽もいたって平穏なり)と書かれていた。
「なっ!?」
「どうかな?あってないかな?」
「そんなわけあるか!ここに書いてあるとおりだ!むしろ、今回のことで荒れ始めている
くらいだ!」
「やっぱり、そうか……」
 普通ではありえない一刀の行動に、華雄は困惑する。
「どういうつもりだ?」
「いや、だから頼みがあるんだ」
「私が、聞き入れると思うか」
「まぁ、普通には無理だろうな」
「どんな、手を使われようと私の心は動きはしないぞ」
「そんなに、気を張らないでくれ。俺も無理矢理なんて嫌いだからしないからさ」
「……」
 この男なら確かにしないかもしれん。華雄はそんなことを思ってしまう自分を叱咤した。
(馬鹿か私は!変な期待をしても後悔するだけだ!)
「なぁ、華雄」
「……」
 一刀は華雄が一応、自分を見たのを確認して、再び話し始める。
「俺の狙いが、これに書いてある。もちろんこっちのも具体的な単語は言わないでくれ」
 そう言って、一刀は白蓮に見せた竹簡を華雄と星に見せた。星はやはりと呟き、納得し
たように頷いたが、華雄は目を見開き言葉が出てこないのか口をぱくぱくとさせていた。
「!!??」
「俺は、"彼女たち"を救いたいと思っている。ただ、連合に参加せざるを得ない今 表
立っての行動は出来ないんだ。俺の恩人に迷惑が掛かるからね」
「な、ななな」
「それと、どこに、他の陣営の兵が紛れ込んでいるかわからないから具体的な話は勘弁し
て欲しい」
「……」
「そして、この作戦を実行するのには華雄、君が必要だったんだ」
「な、なんだと……」
「そして、ここからが重要な話。実際の所、俺たちがいくら救いたいと思っても連合に離
反する真似は出来ない。確実に潰される。そこで、俺は諸侯に内緒で"彼女たち"を匿おう
と思っている」
「何!?」
「だけど、きっと匿うと言っても彼女たちは信じてくれないはずだ。そこで華雄には、俺
と一緒に説得して欲しい」
「ほ、本気か貴様!?」
「あぁ、本気だよ。彼女たちは悪いことなんてしていないんだ。だったら、みすみす死な
せるわけにはいかない」
「……」
「どうかな?俺の頼み受けて貰えないかな?」
「それがお前の本心だという保証が欲しい」
 華雄が条件を提示してくるのに対して、一刀は苦笑する。だが、一刀は気付いていない
彼女が一刀に対し、"貴様"と言っていたのが"お前"となっていたことに……それが意味す
ることに……。
「保証は、俺の頸でどうかな?」
「な、何だと!?」
 華雄が驚き声を上げる。傍観者に徹していた星も僅かに驚きを見せる。
「俺は、これから華雄の縄を解く。そして華雄には俺の側にいてもらい、彼女たちに会っ
たとき危害を加えようとするようなら、その金剛爆斧だっけ?で」
 一刀がそこまで言った時、誰かの喉がごくりと音を立てた。
「俺の頸を落とせばいい」
「!?」
 この瞬間、華雄は完全に圧倒されてしまった。初めて"武"も"知"も使わず"心"のみで負
けを認めさせられてしまった。そして皮肉にもそれが原因で先程自分が一刀を罵った時に
彼が見せた悲しみに彩られた瞳の意味に気付いてしまった。
(こいつは、本当に董卓様の身を案じている……そして、今の私同様、守れなかった事を
悔やんでいる……)
 華雄が先程の出来事を後悔していると、急に体が自由になった。
「さて、どうかな?俺と一緒に来てくれるかな?」
 そう言って一刀が手を差し出す。
「……いいだろう。お前の隣でしっかりと見張らせて貰うぞ」
 華雄はそう言いながらも、差し出された手をしっかりと握りしめた。

 その後、その報告を白蓮に伝えるため記した竹簡を兵に届けさせるため星が出ていった
のを確認した一刀は、こっそりと華雄へ尋ねた。
「ところで、董卓の周辺に白装束のやつはいたか?」
「いや、一度も見たことはない」
「そうか、ありがとう」
「それが、どうかしたのか?」
「いや、何でもないんだ。ごめんな、変なこと聞いて」
 聞きたいことも聞いたので、機嫌を損ねないうちに話を切り上げようとする。
(しかし、どうやらこの世界には"あいつら"はいないみたいだな)
 一刀が一人の世界に入ろうとしていると

「ちょっと、待て」
 華雄が声を掛けてくる。
「え?」
「私にも質問をさせろ」
「あ、あぁ、そうだよな俺だけ聞くってのもないよな。で、何かな?」
「何故、お前はそこまでする……何故、私を信じ、董卓様を信じられるのだ?」
「う〜ん、それは董卓は悪人じゃないってわかってたからかな。それに華雄はよくはわか
らないけど、真っ直ぐな人なんだろうって感じたからかな」
「ふん、知ったような口を……というか、そんな理由で私の拘束を外したのか?」
「ん?そうだな、今の理由に加えて武人だから己の信念に反することはしないって思った
からだな」
「武人……確かに私は武人である以上、姑息な真似は好かんのは確かだな」
「だろ……あっ、あと、もう一つあった」
「何だ?」
「女の子を縛りっぱなしというのは嫌だったからかな」
「き、貴様、武人たる私を捕まえて女だとぉ!」
「お、落ち着けって、別に貶そうとしたわけじゃないんだって」
「何?」
「いや、華雄に武人としての信念があるように俺にだって信念があるんだ。その一つがた
だ、"そういうこと"なんだ。だから貶している訳じゃない。信じて欲しい」
「……わかった。一応納得しておこう」
 "武"のみで生きてきた華雄にとって"女性"として見られたのは初めての経験だった。董
卓を初めとする、よく一緒に居た者たちからはどちらかというと"家族"として見られてい
たため、一刀が彼女を"女性"と見た初めての人だった。

 その後、星が戻ったところで虎牢関へと進軍することとなった。華雄の部下である
兵たちの残りは報告を受けた白蓮が、水関での北郷隊の功績を上手く使い公孫賛軍本陣
へと移送させた。そしてそれと同時に、先の戦いで減った兵の補充も行ったのだった。

 こうして次の戦いへの準備は整った。果たして、次の虎牢関ではどのような戦いが待ち
受けているのだろうか―――。

 [戻る] [←前頁] [次頁→] [上へ]