[戻る] [←前頁] [次頁→] []

844 名前:北郷帝予告編 1/5 ●一壷酒[sage] 投稿日:2009/04/01(水) 17:21:33 ID:EjCLStOX0
唐突ですが、予告編を投下。


 いけいけぼくらの北郷帝 予告編


「華琳様からの御命令はないのかっ」
 夏侯惇将軍の焦れた声が、玉座の間に響く。猫耳頭巾をかぶった軍師荀ケが、それに不機嫌そうに返事をす
る。
「別命あるまでけして動くな、との厳命だって言ってるでしょ。もしも動くようなら、曹魏を捨てると心得よ、
ともね」
「しかしだな……」
 さらに言葉を継ぐ前に、一人の兵が広間に駆け込んでくる。
「伝令! 伝令であります!」
「よし、そこで伝えよ」
 それまでずっと腕を組み、目を瞑っていた夏侯淵が兵に命じる。
「はっ。河北より伝令です。烏桓およそ一〇万が南下中。その先頭に翻る旗は……」


「お前達、烏桓突騎の実力を見せてみろ!」
 公孫伯珪、真名は白蓮。白馬長史とうたわれる女性は、砂ぼこりを巻き上げて走り続ける大集団の先頭に立
って、後続の騎兵に向けて叱咤する。
 その後ろに続くのは、光武帝の時代より恐れられ続けた烏桓突騎。
 生まれてからずっと馬と共に暮らし続けてきた遊牧民族の技術を取り入れたその騎兵たちは、重い鎧をつけ
ていない分、速度も漢人たちに比べると、格段に早い。
 そんな精鋭騎兵たちが、公孫賛に導かれ、ひたすらに駆けに駆ける。
「目指すは蜀漢! 西涼の連中に負けるなよ!」
 待っていろ、北郷一刀。白蓮は万感の思いを込めて、その名を呼んだ。
845 名前:北郷帝予告編 2/5 ●一壷酒[sage] 投稿日:2009/04/01(水) 17:22:30 ID:EjCLStOX0
「公孫賛か……」
「予想通りですね」
 郭嘉が眼鏡をくいとあげる。そのレンズが反射しているために、その瞳を見ることはできない。
「動けないとは、歯がゆいものですね」
 楽進将軍が、去って行く伝令の背を見つめながら、呟く。それに賛同する頷きがいくつもある。
「華琳様も心配なのー」
「せやからちゅうて、うちらが押しかけたら、余計、華琳様を煩わせてまうやろ」
「それはわかってるのー。でも……」
 于禁、李典両将軍のいつもの掛け合いも、深刻さが先立って、場を和ますには至らない。
「張遼将軍より伝令!」
 二人目の伝令が駆け込んでくるのを、皆はすでに予想していた。
「征西将軍馬超、鎮西将軍馬岱に率いられた羌族、西涼の騎兵十二万、長安を迂回し、漢中へと進撃を開始し
たとのことです!」


 長安の城壁は固く固く閉ざされていた。普段は隊商が行き来する大門はしっかりと閂がかけられ、城壁の上
には魏の正規兵の鎧に身を固めた兵達がびっしりと並んでいる。
「ほら、お前たち、長安の兵達が見送ってくれているぜ」
 西涼の錦馬超とあだなされる少女が笑って言うと、それに続く荒くれ武者どもが、同様に笑みを見せた。そ
れに対して、一人の小柄な少女が、口をとがらせて不満をもらす。
「お姉様ー、はやく行こうよー。みんな待ちくたびれちゃうよー」
「そう言うなよ、蒲公英。少しは息抜きも必要だぜ。馬を潰すわけにもいかないんだし」
「うわ、脳筋のお姉様が、まともなことを!」
 こらっ、と殴り掛かるふりをすると、馬岱は馬首をうまく巡らせて、その攻撃を逃れる。周囲がさらに笑い
に包まれる中、二人は追いかけっこをするかのように軽快に馬を走らせ続けた。

846 名前:北郷帝予告編 3/5 ●一壷酒[sage] 投稿日:2009/04/01(水) 17:23:35 ID:EjCLStOX0
 深い森の中、地響きが轟く。
 先程から続いていた振動は耐えがたいほどになり、鳥や動物たちはすでにその隠れ家を逃げ出している。逃
げおくれた不幸な穴熊が一匹、尻尾を丸めて穴蔵のすみで震えていた。
 めきめきと木々をへし折り、信じられないほどに巨大な体がその姿を表す。
 四つの足が硬い下生えをばりばりと割り潰し、それでも邪魔になるものを、長い鼻が器用に持ち上げてどか
しながら、それは大きな耳をばたばたと揺らし、突進し続ける。
 その灰色の巨大な姿は──象。
 しかも一匹だけではない。次々と密林の中から姿を表す象たちの列は途切れることがない。
「にゃはははーっ。すすめすすめなのにゃー」
 その背には、猫によく似た姿の少女たちが幾人ものっかっている。
「ミケ、トラ、シャム、行くのにゃー」
「おうにゃー」
 何人もの南蛮兵をのせた象たちは進む。
 北へ、北へと。


「南方では征南将軍孟獲率いる象部隊三万あまり、そして、歩兵五万が北上中です」
 郭嘉がすでに入手していた報告をあらためて繰り返す。
「象、とやらは騎兵のようなものか?」
「かなーり大きいのー。背は馬の二倍はあるのー」
 象を見たことがあるらしい于禁が派手に体であらわそうとするが、皆はいまいちよくわかっていないようだ。
「いずれにせよかなりの迫力でしょうね。南蛮では三、四人が一匹の象にのっているらしいけど」
「となると、操るもの以外が降りて戦うとすると……あわせて一五万ほどにもなるのか」
 その数を認識して、玉座の間の面々はそろって苦虫をかみつぶしたかのような顔になる。その中で、夏侯惇は
見えもしないはるか東の方を向いて目を細めずにはいられなかった。
「あとは、あいつらだけか……」
847 名前:北郷帝予告編 4/5 ●一壷酒[sage] 投稿日:2009/04/01(水) 17:24:46 ID:EjCLStOX0
 公演の勢いは最高潮に達しようとしていた。
「みんなー、あいしてるー」
 ほわああああ。
「あのねー、今日はー、みんなにお知らせがあるのー」
 ほわあああああああ。
 親衛隊の手によって、手から手へと、黒い布が配られていく。
「私たちが歌ってきたのは、ある人のことなの」
 北・玄・太・帝! ほわああああ。
 彼らはその布を頭に巻く。黒い頭がずらりと並び、波のように動く。
「そう、知ってるよねー? 蒼天はもうだめ、次は玄い天だよねー?」
 ほわああああ。ほわああああ。
「いまねー、天子様は蒼天を征伐しに行ってるんだよー。だからねー、わたしたちもいっしょにいかないとい
けないのー」
 穂先きらめく槍が次々と配られていく。すでに人々はきらきらと輝く鎧を身につけていた。
「みんなー、ちぃのために戦ってくれるー?」
 北・玄・太・帝! 北・玄・太・帝!
「では、行きましょう。私たちの天子を救うために。西へ」
 三姉妹は声を揃え、一層届く声を、彼女たちの声を求め続けた群衆に向けて放つ。
「蒼天已死 玄天当立!
 歳在甲子 天下大吉!」
 玄武の大西進と後に言われる、玄巾三〇万の進軍が、いま始まる。


 北から、南から、西から、東から。
 人々は集う。
 その手に武器を抱き、その目に意志を宿し。
 その全てが、一点を目指す。
 目指すは漢中盆地。
 かつて、高祖劉邦が封じられ、その名を国号とした因縁の土地。

848 名前:北郷帝予告編 5/5 ●一壷酒[sage] 投稿日:2009/04/01(水) 17:25:42 ID:EjCLStOX0
 そこに、彼らはいる。
 一人は曹魏の傀儡と噂される北郷朝最初の皇帝、北郷一刀。
 一人は後漢最後の皇帝となるか、前の陳留王、劉協。
 いま、二つの大いなる流れがぶつかり、最後の決戦が始まる。

 ──二〇〇九年秋、ついにクライマックス!!










……を迎えられるといいなあ。
なお、予告と本編は多少異なる場合があります。
まあ、ほら、四月一日ですし……。

 [戻る] [←前頁] [次頁→] [上へ]