[戻る] []

814 名前:kagura[sage] 投稿日:2009/03/30(月) 17:33:25 ID:oKnXwNdT0
初めまして

初書き込みと初投下にチャレンジさせていただきました

魏アフターでの話を書かせてもらいました

オリジナルキャラが出てる物ですが、よろしかったら、ご意見等をいただけると嬉しいです

http://koihime.x0.com/bbs/ecobbs.cgi?dl=0234




二人の男女の会話が聞こえる

「…帰るの?」

寂しげに少女は呟く

「君に会えてよかった」

少年も寂しげに返す

「そんなに言うなら……ずっと私の側に居なさい」

少女が強気な声で、少年に言う

「ダメよ…そんなの認めないわ」

消え行く少年に彼女は言う

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

「一刀……!」

「さよなら……愛していたよ、華琳」

完全に消える寸前に、少年はそう言って姿を消した。

「ばか……ばかぁ………………」

そして、少女は、人目も憚らず声を上げて涙を流した。

魏の覇王曹操が、泣いている


それを、離れた所から見ている影二つ


「………」

「何時の世も、女が泣き崩れる姿というのは、見たくないものだな」

影の一つの男性が漏らす

「そうね、特に好いた相手と引き裂かれて泣く姿は、見て居て悲しくなるわ」

もう一人の影の女性が答える

「全くだな」

男性が歯痒そうに、答える

「まぁ、今回のお役目は、彼女達の為のものなんだし」

「そうだな、それにしても、望まぬ結果なら、留まらせればいいものを」

「時間と歴史の調整上、仕方ないでしょう?」

女性が嗜めるように答える

「まぁ、それを調律するのが俺たちの役割か」

そう言いながら、少しずつ、曹操から離れていく

「本当なら、今すぐにでも、声をかけてあげたいけれど…」

「下準備もあるからな仕方あるまい」

その言葉を最後に、二人は姿を消した。

残ったのは、嗚咽を漏らして泣き崩れる華琳だけであった。





一刀が去ってから、数ヵ月後

華琳の部屋

「ふぅ…今日はこの辺にしておきましょうか」

そう言いつつ、読んでいた書物を机の上に置く

「先日の馬鹿騒ぎが、嘘の様ね…」

椅子から立ち上がり、窓の外を見ながら、一人呟く

先日、三国の首脳達が集まって行われた宴の喧騒が、既に懐かしく思えるほどに、城内は静かだった。

「………散歩でもしようかしら」

そう呟いて、華琳は部屋を出た。


夜の静かな城内を一人歩く

「……………」

のんびりと歩いていると、気がつけば庭に出ていた。

月明かりに照らされ、涼しげな夜風が頬を撫でる

「静かね…不思議な位に……」

まるで誰かに語りかけるように、華琳は口を開く

「丸い月……嫌な事を思い出すわね」

そう言いながら、空に浮かぶ満月を見る

「………………そろそろ出てきたらどう?」

月を見たまま、華琳は言った。

「やれやれ………流石は、魏の覇王と言った所か」

「全くね、邪魔しないように気配を消していたつもりだったのに」

そう言いながら、二人の男女が、草むらから姿を現す。

見た限り、城の者ではなさそうだった。

「どちら様かしら、ここは、魏の王城、不審者が入っていい所ではないわね」

「まぁ、それは存じてるよ、でも、貴女様に、用があってね」

そう言いつつ、男は、華琳の方へ歩み寄る

「とりあえず、自分の素性ぐらいは名乗ったらどうかしら?」

「これは失礼、まぁ、俺達はしがない旅の楽士という事にしておいてくれ」

「随分とふざけた話ね」

「まぁ、私達の素性や名前など知った所で意味を持たないものですから」

不満そうな華琳に、女が言う

「とりあえず、呼ぶのに名が必要であれば、俺の事は、虎とでも呼ぶといい、そっちの娘は龍とでも」

「センス無いわね」

虎の言葉に、龍と呼ばれた娘は、呆れた表情で返した。

「せんす?」

「ああ、気にしないでください、私達の国の言葉です」

「貴方達、異国人なの?」

「まぁ、似たようなものだな」

龍が、困った表情をしながら、答える

「まぁ、いいわ、それで私に会いに来た用件は何?」

「おお、そうだった」

言われて思い出したかのような反応を虎と名乗った男はした。

「ふざけてるの?」

少々不愉快そうに、華琳が冷めた視線を向ける

「失礼失礼、話が脱線すると、用件を忘れ気味になるのが、俺の悪い癖でね」

「物忘れが激しいだけでしょ」

「やかましいわ」

龍の言葉に、不満そうに言い返す

「いい加減になさい」

冷ややかな声で、華琳が言った。

「すみませんでした、それでは、お話をしましょうか」

「そうしてもらえるかしら」

「では、単刀直入に…曹操様……いえ、華琳様」

「何かしら?」

「会いたいですか?」

誰にと、聞き返そうとして、何故か言葉に詰まる。

「おそらく今貴女が思った人の事ですよ、私が聞いたのは」

そう言いながら、龍は、柔らかな笑みを浮かべる

「何故そんな事を聞くのかしら」

「とりあえず、お答え頂けるとありがたいんだがな」

少し硬い表情で、虎が言った。

「会いたくないと言えば、嘘になるわね…」

俯き気味になりながら答える

「もし…会えるといったらどうする?」

「会えるの?」

虎の言葉に、パッと顔を上げる

「ええ」

「会わせて」

龍の答えに即座に、そう返す

「その前に、聞きたいのですが」

「何かしら?」

「彼に会うためなら、貴方は何を捨てられますか?」

「代償を払えということ?」

「まぁ、そんな所ですね」

眉を寄せた華琳に、龍が答える

「もし、国、もしくは貴女の配下の将を引き替えにしろと言われたら、差し出…」

「断るわ」

龍が言い終えるよりも前に、華琳は即答した

「即答……か」

「ええ、そんな取引には応じられないもの」

「珍しいですね、こういう問いには大抵悩む方が大半だと思うのですが…」

そうは言いつつも、意外そうな顔をするでもなく、龍は言った。

「例え、その要求に応えて、一刀が帰ってきたとしても、あいつは良い顔しないわよ、そんなの」

強い気持ちを含ませた声で答える

「………なるほどなるほど」

「悪いけど、そういう話なら、お断りだわ、さっさと帰ってちょうだい」

そう言いながら、部屋に戻ろうと二人に背を向ける

「ああ、ちょっと待った」

「何よ?」

去ろうとした華琳を、虎が呼び止める

「合格ですよ」

「……何ですって?」

再び2人に目を向ける

「まぁ、大丈夫だとは思ってましたけどね」

「さっきの取引に応じるなんていった場合は、記憶消して早々に退散するつもりだったがな」

「……この私を試すとはいい度胸ね」

「申し訳ないが、自分の目的しか見えない奴に、手助けをする趣味は無くてね」

「すみません、性質の悪い相方で」

申し訳なさそうに、龍が言った。

「どうせ、今後付き合う訳でもないからいいわ」

諦めた様に華琳は応える

「ま、聞く事は終わりだ、さて、失礼するか」

「勝手に現れて勝手に消えるのね…何処かの誰かみたいだわ」

「その誰かに会えるのは近いと思っていいですよ」

柔らかな笑顔で龍は言った。

「その相手と共に歩けるかは、あんた等の意志次第だがな」

「…当てにしないで待ってるわ、貴方達の言葉も、あいつもね」

(……素直じゃないわねぇ)

龍は、口には出さずに、頭の中でそう思った。

「なるほど…これが、ツンデレという奴か」

華琳の反応を見て、虎がぼそりと呟く

「つんでれ?」

聴きなれない言葉に、華琳は首をかしげる

(いきなり、何を言い出すのよっ!?)

「ああああ、気にしなくていいですよ、それじゃ、結果をお待ちくださいな〜」

焦り気味の龍が虎の首を掴むと同時に、風が吹く

「…何?」

風が止むと、2人は消えていた。

「……一刀…」

そう呟いて、華琳は、消えた2人の居た場所を見つめていた





時と場所は変わって…

聖フランチェスカ学園

華琳との別れの後、気がついたら、一刀は自分の部屋のベッドの上だった。

戻って来た元の世界に、懐かしさで感動するかと思いきや、一刀の頭と心を支配しているのは、別れた華琳や魏の仲間達の事や、寂しさが殆どだった。

あの世界に行っていた間の時間は、こちらでは経っていなかったようで、特に行方不明だ何だと騒がれているようなことは無かった。

それから数日の間、学園に通いつつも気の抜けた日々を送っていた。

「………はぁ」

今日も授業を受けて、そのまま寮に直行して、ベッドに倒れこむ

「華琳に、皆…どうしてるんだろう……いや、どうなった…なのかな?」

むくりと、起き上がって、部屋を出る

そして、図書館へ向かう

夕方の図書館は、人もまばらで、司書が暇そうにしていた

「あの………」

カウンターで暇そうにしていた司書に話しかける

「何かしら?」

「中国の歴史を扱った本ありますか?」

「いつぐらいの?」

「三国志の頃のなんですけど、出来れば人物とかに重点おいた物があれば」

「ちょっと待ってね」

そう言うと、司書の女性は、手元のキーボードをカタカタと叩く

「分かったわ、案内しましょ」

そう言いながら、カウンターから出てきて、歩き出す、一刀もそれに付いて行く

案内された先は、ずらりと本棚が並んだ書庫だった。

「この辺りにある本がそうね」

そう言って、女性は、本棚を指差す

「ありがとうございます」

「申し訳ないんだけど、ここの本は貸し出し不可だから、そこで読んでね」

一刀の後ろを指差して、そっちをみると、閲覧用の机と椅子があった。

「分かりました」

「それじゃ、ごゆっくり………」

そう言って、司書の女性は去っていった。

「さてと…」

教えられた文献を一冊手に取り、椅子に座る

パラパラと読みたい所を探しつつ読む

一刀が知りたいことは唯一つ、自分が変えた歴史は、自分の居る世界の過去なのか否かだった。


2時間後

「やっぱ、違うのかぁ…」

そう言いながら、読み終えた文献を置いて、机に倒れこむ

幾つかの文献を読んでは見たものの、内容はほぼ同じだった

曹操を始めとした魏の武将を始め、三国志の時代に実在した武将達は、基本男性として記録されていた。
定軍山で、夏侯淵が討死していたり、郭嘉が赤壁前に病死していたりと、あの世界に行く前から知っていた事実と大差なかった。

一部異説として扱われていたものとすれば、劉備は女性だったという説をあげているものもあったが、劉備に限定されたものであって、やはり、あの世界とは無関係のようだった。

顔を上げて、壁にかかった時計を見る

「げ、結構時間経ってたなぁ」

そう言いながら、読んだ本を棚にもどす

「引き揚げるかなぁ……ん?」

戻した本の隣の本に目が留まる

タイトルは、今まで読んでいたものと大して代わらない、しかし、何故か引きつけられる

手に取り、その場で読む

「これは……!」

そこに書かれているのは、あの世界にほぼ符合する内容だった。

武将達が主に女性であり、魏の曹操が、勝利を収めたなど、一刀自身もその場に居た事だった。

極めつけの文章もあった。

曹操に仕えていた、武官文官は、その誰もが優秀で、名も知れた有名な人物が多いが、一人、名前が残されていない人物が居る、その者は、天の御使いと呼ばれ、曹操の傍で、様々な予言を行った人物とされている。

「俺の事………だよな?」

「その通りだよ、北郷一刀君」

「っ!?」

その声に、驚いて、顔を上げると、そこには、さっきの司書の女性と、同僚らしき男性が居た。

「その本は、君が、あの世界に干渉した為に生まれた本だよ」

「………俺が?」

「そうだ、世界は、数多の選択によって、木の枝葉…いや、それどころか、細胞の一つ一つと言うくらいに様々な姿に変わっていく」

男性の方が、頷きながら語りだす

「その細胞の一つ一つが、世界と考えれば、無限の数の世界があるという事は分かるだろう、今君や私達が居るこの世界も、大きな樹を構成するちっぽけな細胞の一つに過ぎないのさ」

「世界は、そんな細胞の一つ一つでもあり、時折、二つの細胞が一つに結びつく事もあるのよ」

男性に続き、司書の女性も語りだす

「無数に分かれた世界も、時折、絡んだり、一つになる事もある、その結果が、貴方が持ってる本よ」

「これが?」

そう言いながら、本をまじまじと見る

「君がこの世界から、あの世界に旅立って、向こうで行った結果が、この世界にも流れてきたのさ」

「ある意味、この世界は、貴方の本当に元居た世界とは、少し違うかもしれないわね」

「俺が元々居た世界では、三国志の武将達は女だったなんて話は無かったからか?」

何となく理解できてきた事を口にする

「そうだ、今居るこの世界は、二つの事象を踏まえた上で生まれた、新たな世界とも言えるな」

男性はそれに頷きながら答えた。

「まぁ、大した変化ではないから、生きてる人は同じだし、貴方がここに居ることにも、何ら問題は無いけどね」

「だとしたら、俺が居た、元々の世界はどうなるんだ?」

「別に何もないさ、君が居なくなっただけで、そのままの時間が進んでいるんじゃないかな」

「もしくは、この世界に取り込まれているか、どちらかね……まぁ、気にしたらきりがない話よ」

少し鬱陶しげに、女性が話を切る。

「まぁ、俺らは、そんな無数に広がる並行世界の講義にしに来たわけじゃないんだよ、北郷一刀君」

「………じゃあ、何の為に?」

「会いたい?」

「相手は、言わなくても分かるな?」

「…………会いたいよ…」

2人の問いに、ゆっくりと答える

「だよな」

「ここで、会いたくないとか言ったら、はっ倒してやろうかと思ってたけどね」

「…なんで、そんな風になるんだ」

当然だといわんばかりの表情の2人に、一刀はげんなり気味に答える

「そりゃあ…」

「だってねぇ」

そう言いながら、2人は呆れたような視線を、一刀に向ける

「「女を泣かすような奴は、馬に蹴られて死んじまえ」」

「って言うじゃない?」

息ぴったりに二人は言った。

「いや、言わないと思うんだが………って、泣かす?」

「お前さんが消えたせいで、未だに悲しんでる奴が居るのさ」

「分かるよね?」

「………華琳か?」

「そう、貴方が愛した寂しがり屋の女の子よ、気丈に振舞っていても、心の中は、雨が降りっぱなしね」

「俺だって、離れたくなかったさ…」

苦しそうに、俯きながら一刀は言った。

「まぁ、それが聞ければ十分だ、その為に俺達は来たわけだ」

「どういう事だよ?」

「ここまで、話したんだから分かる様なもんだろに、もう一度あの世界への扉を開く」

「そして、貴方をあの世界へ送る、それが…」

「俺達が、お前さんと、あのお嬢さんに会いに来た理由だ」

「あんた達は…」

「まぁ、さっきの話を蒸し返す訳じゃないが、数多の世界を旅する旅人って所だな」

「これが疲れる旅だったりするんだけどね」

苦笑いをしながら、女性は言った

「本当に戻れるのか?」

「ただ、確認することがある」

「何を?」

「分かってるか?」

「だから、何を?」

「余程の事が無い限り、もうこの世界には戻れない、それでも、行くか?」

「俺が行った場合、この世界はどうなるんだ?」

「恐らく、お前さんがいないまま世界は続く、お前さんがいた事が抹消されるか、残るかは、分からんな」

「どちらかというと、貴方に未練が無いかどうかという話よ」

「………全く無いってのは無理だけどさ、それでも、俺は行かないといけないと思う」

「いいんだな?」

「ああ…」

「本来は代償を頂くんだが、この世界を捨てるというのが代償でいいわな」

「逆にそれくらいしかないしね」

そう言いつつ、2人は、一刀の方へ、手を掲げる

「んじゃ、行ってきな」

「今度は、泣かせちゃ駄目よ?」

「…ああ」

掲げられた手から光が溢れ出し、目を開けていられない程の光になり、一刀は目を閉じる。

(………こんな感じの光、前にも見た気が…)

そんな事を考えながら、一刀は意識が薄れていった。




場所はもどって……


魏・許昌

今日も、華琳は、執政に励んでいた。

例えそれが、自分の気持ちを誤魔化す為であったとしても

そんな華琳の気持ちを知りつつも何も出来ずに歯痒い思いをしている者達が居た。

春蘭、秋蘭、桂花の3人である。

仕事の途中で、たまたま一緒になった3人は、歩きながら話し込んでいた。

「全く…北郷のせいで華琳様は、ずっとあの調子…どうしてくれようか」

腹立たしいといわんばかりの表情で、春蘭が言う

「あんたに賛同したくは無いけど、そこは同意するわ、あのゴミクズ…もし見つけたらタダじゃおかないから」

こちらも不愉快極まりないという表情で、桂花が言った。

「2人とも、いい加減落ち着け…本人が居ない所で、どれだけ文句を言っても変わらんだろうに」

機嫌の悪い2人を宥める様に、秋蘭が言った。

「そうは言うが、秋蘭!」

「姉者の気持ちもよく分かるが、落ち着け」

「あんな奴居なくなって清々したのに、なんで華琳様達は、気にするのかしら……全く」

「北郷の直属だった凪達は、もちろんの事、季衣や流琉、風達も、気落ちしているのは確かだからな」

そう漏らす秋蘭も、残念そうな表情をしている。

春蘭や桂花は、純粋に華琳をあんな気持ちにさせている一刀に対する不満を漏らしているが、秋蘭は、一刀を気に入っても居たので、残念がっているのだ。

もちろん、春蘭達も、顔には出さないが、心の底では、そういう気持ちはあるのだと言う事を、秋蘭は知っている。

ただ、今は、居ない人間に不満をぶつけるでもしなければ、このやり場の無い気持ちをどうする事も出来ないというのも事実だった。

「「「はぁ…」」」

どれだけ不満を漏らしても、最終的には、ため息が出るだけというのが、魏の将達の状況だった。

一刀が姿を消してから、そろそろ1年が経とうとしていた。

大陸全土を統一し、三国による統治を実現させた、誰もが疑わぬ優秀なる魏の将達の士気は、だだ下がりだった。



そんな許昌の都の街中を、一人の少年が歩いていた。

この国の人間ではないであろうその服装、しかし、街の人々は、その服装に覚えがあった。

かつて、天の御使いと呼ばれ、曹操の配下となり、この街の警備隊長を勤めていた少年だと

ざわつく人々の視線を知ってか知らずか、一刀は、ゆっくりと街並みを眺めながら歩いていた。

「賑わってるんだなぁ…華琳達が、頑張った結果だな、うん」

長きにわたる戦も終わり、昔以上に、街には活気が溢れているようだった。

幸せそうな人々を見ていると、華琳達が上手くやっているんだなと、改めて思う

そして、それに自分も少しは役に立てたんだなというのも嬉しく思えた。

「感慨に浸ってないで歩け」

そんな声と共に、頭を小突かれる

「痛っ!」

「気持ちが分からんでもないが、今はそれよりもやる事があるだろう」

一刀を小突いたのは、司書の男性…虎であった。

「分かってるよ、まずは、皆に…華琳に会わなくちゃな」

「まぁ、お膳立ては、家の相方がやってくれるだろうから、夜までは大人しくしておく事だ」

「ああ…」

そう言いながら、2人は、人混みに紛れて行った。






同じ頃

王城

執務室で、仕事をする華琳の下に、来客が来ていた。

誰にも断りなくだったが…

「お久しぶりですね」

「相変わらず、唐突ね、貴方達」

呆れ顔で、華琳は龍に言った。

「まぁ、神出鬼没が、私たちの得意技ですから」

「何か間違っている気がするわ」

「まぁ、そこは気にしない方向で…」

誤魔化す様な感じで、龍は言った。

「全く…」

「ところで、華琳様、今晩はお時間ありますか?」

「特に、問題が無ければね」

「では、今晩、川原にお越しくださいな」

「川原?」

「覚えがありますでしょう?」

ニヤニヤとした笑みを浮かべて、龍は華琳を見る

「ええ」

「では、今晩、お会いしましょう」

にこりと笑いながら、龍は姿を消した。

「やっと、会えるわね…覚悟してなさい、一刀」

そう言いながら、華琳は、外を見ていた。

そんな2人の会話を聞いている者が居た。

「……あのゴミクズが帰ってきた?」

華琳の部屋にたまたま入ろうとしていた桂花であった。

「………ふ…ふふふ」

怪しげな笑みを浮かべながら、桂花は踵を返した。

かつかつと、足音を立てながら、廊下を歩く、その表情は、何か謀を巡らしている表情だった

しかし、それを見かけた城の者達は、それと同時に、喜んでいる様にも見えたと口を揃えて言っていたのだった。

そして、そんな桂花を見かけた人物が一人

「なぁ、秋蘭」

「何だ、姉者?」

「今、桂花がやけに嬉しそうな顔をしながら、歩いていったんだが…何かあったのか?」

「ふむ………さっきは、随分と機嫌が悪かったはずだが…」

「失礼しまーす」

首を傾げる2人の部屋に、風と稟が入ってくる

「2人とも、何か用か?」

「いえー、今しがた、桂花ちゃんが、久々に企み事を巡らしている顔をしてましたので、何か知りませんかー?」

「ああ、その件は、今、姉者と2人で話していた所だが、全く思い当たる節が無いな」

「さっき、私たちと一緒にいた時は、北郷の事で、随分と機嫌が悪かったはずなんだが…」

「一刀殿のことで?」

「うむ…まぁ、華琳様にしろ、皆にしろ、一刀の件は、まだ………な、その事で、不満を漏らしていたのだ」

稟の言葉に、秋蘭が言葉を濁しながら、答える

「そうですねー、そろそろ1年程経ちますが、皆、元気無いですもんねぇ」

「凪達は、今は落ち着いたが、当初は、かなり気落ちしていたしな」

「霞ちゃんもですねー」

「そうだな」

「全く、北郷の奴め勝手に居なくなった挙句、皆にこれだけ迷惑をかけるとは、もし帰ってきたら斬ってやるっ!」

「まぁ、落ち着け姉者」

「秋蘭っ!!」

「…帰ってくる………ですか」

春蘭の言葉に、稟が何かを考えているかのような言い方をする

「稟ちゃん、どうかしましたかー?」

「いや、そう言えば、桂花のあの表情、よく一刀殿に対して、何かしようとしていた時に、よく見た気が…風も覚えがあるでしょう?」

「…くぅ」

「「「寝るなっ!!」」」

「おおっ……確かに、あの表情は、そんな気がしないでもないですねー」

3人からの突っ込みに、パッと目を開くと、風は言う

「しかし、北郷が戻ってきたなどという話は、もしそうなら、直ぐにでも騒ぎ出すもの達が居そうなものだろう」

「そうですよね…」

秋蘭の冷静な意見に、稟が残念そうに答える

そんな風に、話し込んでいる4人の居る部屋の外から、バタバタと何人かの足音が聞こえてきた。

「本当に、本当に隊長だったのか!?」

「見回りの奴が言うには、そう言ってたんやけどなぁ〜」

「う〜、真桜ちゃん、はっきりしてほしいの〜」

凪、真桜、沙和の3人だった。

「大体、何でその後確認に行かなかったんだ!?」

「しゃーないやん、誰かと一緒やったらしいけど、追いかけようと思ったら、人混みに紛れて見失ったっていうんやもん」

「でもでも、街の人に聞いたら、隊長が着てた服とそっくりなのを着てたって言う人が、何人か居たの」

「沙和もそんな話聞いてるなら、何で探さなかった!?」

「だって〜、一人で探すのは難しいし〜、凪ちゃんと真桜ちゃんが居た方がいいな〜って」

「流石に、警備隊の連中を、仕事中に借り出すわけにいかんしなぁ」

「全く…」

「とりあえず、うち等だけでも探しにでよか、ちなみに言っとくけど」

「何だ?」

「何〜?」

「2人とも、抜け駆けは無しやからな?」

「「…」」

真桜の言葉に、一瞬無言になる2人

「…分かってる」

「私達、皆、隊長の女だもんねぇ〜」

「その沈黙には、あえてつっこまんでおくわ、いくで〜」

そう言いながら、3人は、外へ向かおうと歩みを早くする

「そこの3人、ちょっと待て」

「「「え?」」」

秋蘭が、3人を呼び止める

「今の話は本当なのか?」

「秋蘭さま?」

「一刀殿を見たのですか?」

「稟ちゃんも居るの〜?」

「私も居ますですよ?」

稟といっしょに、風も部屋から出てくる。

「皆居たんか」

「そんなことはいいっ、北郷を見たというのは本当なのか!?」

春蘭が、真桜に詰め寄る

「ウチが見たわけやないですけど、警備隊の人間や、街の住民がそれらしいのを見たと」

「よしっ!!」

真桜の答えに、春蘭は駆け出す

「姉者、何処へ行く?」

「決まってるであろう、北郷を探し出すのだっ!!」

言うや否や、春蘭は、駆けていく

「ウチらも行くで、凪!沙和!」

「分かっているっ」

「2人とも待ってよぉ〜」

春蘭を追うように、凪たちも駆けて行った

「やれやれ…まだ、確証が出た訳ではないというのに」

「でも、気にはなりますよねー?」

「ですね」

呆れ顔の秋蘭に、楽しげに答える風と稟

「少なくとも、桂花ちゃんですら、確信してるくらいです、信憑性は高いかと」

「私達も、探してみますか」

「そうだな」

「その前に、華琳様に報告をしなければ」

「あー、それがですねー」

「ん?」

「華琳さまは、先ほどお出かけになると、出て行かれたのですよー」

「……風」

「何でしょー?」

「お主、最初から確信していたのではないか?」

「さて、そろそろ私達も行かないと、皆に出し抜かれますよー」

そう言いながら、風も歩き出す

「全く…風も人が悪い」

「とりあえず、私達も行くとするか」

そう言いながら、秋蘭と稟も、風の後について歩き出した














許昌・川原

華琳は一人、龍に指示されたとおり、ここを訪れていた。

正直に言えば、この場所にはあまり近づきたくはなかった。

ここは、一刀の思い出が多い場所だったからだ。

春蘭の着替えを見た罰として、一刀を河に落としたり、話を覆すのはどうかとと言われ、自らも水浸しになったり、買い物に付き合わせた折、休憩したり、抱き合ったりと…色々な思い出が脳裏をよぎる。

じゃり…と、土を踏む音がして、振り向くとそこには、龍の娘が居た。

「こんばんわ」

「人を呼び出して後から来るとはいい身分ね」

「これは失礼しました、まぁ、私からは大した用事はないので」

「………本当に、会えるの?」

「私や、家の相方は、冗談は言う事もありますが、本気で願う人を裏切るという事はしませんよ」

そう言いながら、真面目な表情で龍は言った。

「私が、ここに来たのは、今後の助言のためです」

「助言?」

「ええ、まぁ…途方もない話ですが、もし、貴女の想い人が貴女の元に現れなかった場合があったとしたら…」

「そんな話に意味があるの?」

「実際にあるんですよ、この世界では、彼は貴女様の元に来ましたが、他の世界ではね」

「それは、桃香や雪蓮の所に行った事もありえたということ?」

「よくお分かりですね、まぁ、それでですね」

龍は、華琳の傍に、より口を耳に寄せて、何事かを伝える

「………へぇ」

「まぁ、そんな道を辿った彼も居たということですよ」

「種馬だ種馬だといわれてはいたけれど、本当に種馬だったのね」

呆れ顔で、華琳が言う

「まぁ、彼をつなぎとめるには、そんなのもありではないかと言う話ですよ」

くつくつと笑いながら、龍が言う

「さて…っと、伝える事は伝えましたので、私はこれでお暇しますわ」

そう言いながら、龍は、森の方に、一度視線を向けた。

「どうかした?」

「いえ、またお会いしましょうね、華琳様」

「気が向いたらね」

そう答えた時には、龍の娘は、姿を消していた。

そして、その場には、静寂だけが残った。

近くの岩に腰掛け、空に昇る満月を見上げる

「……………」

そんな華琳の背後に人の気配がする

「……遅いわよ」

「ごめん」

後ろに立った人物は、申し訳なさそうな声で答える

「全く、どれだけ待たせれば気が済むのかしらね」

「………」

「貴方、自分が、誰のものか分かってるの?」

振り向かずに、華琳は、続ける

「ああ、十分承知しているさ」

力強い声で、答えが返ってくる

「言って御覧なさいよ」

「俺は…北郷一刀は、曹操…華琳のものだよ」

「本当にそう思っているのかしら?」

そう言いながら、岩から下りて振り返る

そこには、苦笑いを浮かべた一刀が立っていた。

「私を放って元の世界に帰るなんて、本当にいい度胸をしているわね、一刀?」

「……ごめん」

「今度は、居なくならないでしょうね?」

「ああ、ずっと、華琳の傍にいるよ」

華琳の言葉に改めて、一刀は誓う

「その言葉、裏切ったら、許さないわよ?」

「ああ、もちろんだ」

「絶対よ……もし、裏切ったら………殺すわよ?」

そう言いながら、華琳は、一刀に体を寄せる

丁度、一刀の胸に華琳の顔が当たる位置になる

華琳は、耳を胸に寄せて、一刀の心臓の音を聞く

とくんとくんとなる音と、確かな温もりは、一刀がそこに居る事を実感させてくれるものだった。

「………華琳」

「…抱きしめなさい」

「…ああ」

そう言って、一刀は華琳を抱きしめる

「待たされた分は、きっちり払って貰うからそのつもりで居なさい」

「ああ、もちろんだ」

ゆっくりと華琳の手が、一刀の体に回された。

「おかえりなさい…一刀」

「ああ、ただいま」

そう答えながら、一刀は強く華琳を抱きしめた。

「………………?」

幸せを感じていた一刀は、ふと誰かの視線を感じた。

華琳を抱きしめたまま、何となく草むらの方に目を向けてみる

(………………おいおい、勘弁してくれよ)

視線の先には、一応隠れてはいるようだが、懐かしい顔が勢ぞろいしていた。

(皆、何で居るんだよ………)

草むらには、春蘭、秋蘭、桂花を始めとした、魏の将達が勢ぞろいしていた。

「あのゴミクズ………帰ってきたと思ったら、もう華琳様に、手を出して……」

桂花が殺意を込めた目で、一刀を睨みつける。

「北郷の奴め、やっと見つけたと思ったら、華琳様と抱き合ってるとは、これでは殴りに行けないではないかっ!」

「まぁ、落ち着け姉者、そういうのは、後にしておけ、華琳様の邪魔をするわけにもいくまい」

一刀を見つけたら、とりあえず殴ってやろうと思っていた春蘭は、それをする事もできなそうなので、不満を漏らしていた、そして、秋蘭はそれを宥める

「隊長……本当に隊長だ……ううっ」

「おお、凪泣くなって…」

「そーゆー、真桜ちゃんだって、泣いてるの〜」

一刀を見た凪は、喜びのあまり溢れる涙を止める事ができなかった、それにつられたのか、真桜も沙和も、涙を零した。

「こ、このまま、御二人は、まさか、こ、ここ、こここで、ぶっ」

「はいはい、稟ちゃんー、とんとんしてあげるから落ち着こうねー」

抱き合う2人に興奮した稟が、鼻血を噴きそうになったのを、風が食い止める。

「流琉〜、兄ちゃんが、居るよ〜」

「兄様、本当に帰ってきたんですね…」

「一刀の奴、勝手に居なくなったと思ったら、勝手に帰ってきてからに、ちゃんと落とし前はつけてもらうんやからな」

春蘭達の騒ぎを聞きつけ、一緒に一刀を探していた季衣と流琉は、手を取って喜び合い、霞は霞で、文句を言いながらも、顔は笑っていた。

(参ったなぁ……皆、泣いたり怒ったりしてるな………)

遠めでも、自分を見て、色んな反応をして居るのが見える

そして、そうなる原因が自分なのも分かるので申し訳ない気持ちでいっぱいになってくる

(ただ、桂花とか、一部、怖いんだが………どうしたものか)

そんな風に考えあぐねていると…ふいに、華琳の抱きしめる力が強くなった。

「………一刀?」

「ん、ああ、どうした?」

「どうした…じゃないでしょう?」

「………えーと」

「ただ抱きしめるだけで満足するほど、私は甘くないわよ」

不満そうな目で、一刀をじーっと見つめながら華琳は言う

「あー、いや、その……俺も、できれば、もっと先まで進めたいわけですが…」

「何よ、何か問題でもあるの?」

「いや、華琳、気づいてない?」

そう言いながら、視線を草むらの方へやる

「………ああ、後ろの事を気にしているの?」

何を言うのかといった表情で、華琳は答える

「いや、流石に衆人環視の中でってのは……」

「あら、そんな事を気にするような性質だったかしら、我らが魏の種馬様は」

意地の悪い笑みを浮かべながら、華琳は一刀に顔を近づける

「いや…まぁ、最初にした時も、皆に見られちゃ……んむっ」

「んっ………ちゅ」

言いかけで、華琳に口を塞がれる

(ええいっ、もうどうにでもなれっ!!)

一刀は、そう吹っ切って、華琳とのキスに集中した。

「あ、あ、あ、あの全身精液男っ、こんなところで華琳様にっ!!!」

口づけあう、華琳と一刀を見て、桂花が顔を真っ赤にして叫ぶ

「ちょっ、ちょっと、押さないでよ、桂花っ」

しゃがみ気味に見ていた季衣が、後ろから押してくる桂花に言う

「もう、我慢ならないわ、あの孕ませ無責任男、今ここで止めを刺してやるわっ!!」

そう言いながら、前に乗り出そうとする

「やめんか桂花、今ここで2人の邪魔をしたらっ!」

春蘭が桂花を止めようとしたが…

「………えい」

「へ?」

「え?」

誰かの声と共に、春蘭と桂花の背中が押される

「ちょ、ちょっとーーっ!?」

他の者達も、桂花を止めようとしたりしていて、かなりバランスの悪い立ち方をしていたので、そのままいっせいに倒れこむ

「「「うわーーーっ!?」」」

「風…貴女と言う人は…」

「あららー、大変ですねー」

そう言いながら、楽しそうな表情をする風と、呆れている稟が、倒れた面子を見ていた。

「いったー、誰だ、押した奴!?」

「うー、春蘭様―、ど、どいてくださいー」

「す、すまん、季衣っ」

「霞さま、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫やけど、な、凪、はようどいて」

「す、すみませんっ」

そんな風に、起き上がろうとしたり、皆を押した人物に不満を漏らそうとする面々だったが…

「あなた達………」

ビクっと、口々に文句を言って言ったものたちが沈黙する

「………」

恐る恐る、皆が顔を上げる、そこには…

苦笑いを浮かべる一刀と、怖いくらいの笑顔の華琳が居た。

「か、華琳様」

「春蘭、桂花…これは、何事かしら?」

「あ、あの…その………」

「別に見ているだけなら、何も言う気はなかったけど…」

「い、いや、お邪魔をするつもりはなくて、これは桂花がっ!」

「私じゃありません、だ、誰かが、後ろから押したんですっ!!」

「お黙りなさい」

言い訳をする2人に、華琳が冷ややかな声で黙らせる。

「………………」

「これは、お仕置きが必要かしら……」

そう言いながら、春蘭と桂花、そして、いっしょに倒れこんだ者達を見やる。

「「「ご、ごめんなさーーーいっ!!」」」

一部は逃げ出し、一部は、諦めてその場に座り込み、約一名は、お仕置きという言葉に反応したのか、顔を伏せてふるふると震えている、恐らく喜んでいるのだろう

「……やれやれ」

逃げ出した人間を、追いかける華琳を見ながら、一刀は一人そう呟く

「全く、皆さん、雰囲気という物を分かってないですねー」

「貴女がそれを言いますか、風」

「稟の言うとおりだな」

そう言いながら、風、稟、秋蘭が、一刀の元へやって来る

「風、稟、秋蘭、ただいま」

「お帰りなさいですよー、お兄さん」

「全く、勝手に消えて、また戻ってくるとは…」

「ごめん、秋蘭」

「よく戻られましたね、一刀殿」

「ありがとう、稟」

「にしても、お兄さん、これから大変ですよー」

「何がだよ?」

「1年間、華琳様も、私達もみーんな、待たされてましたからねー」

「その帳尻は合わせてもらわんとな」

「その通りですね」

笑いながら言う風達に、一刀は…

「まぁ、やれるだけやるさ」

そう言いながら、一刀は笑う

「北郷、貴様何を笑ってるっ!!、一発殴らせろーーーっ!!!」

「春蘭待ちなさいーっ!!」

叫び声と笑い声が、川原には響き続けた。

その日、魏の王城では、いつまでも宴の明かりが落ちなかったそうな

次の日の朝、華琳を初め、魏の重鎮達が揃って、一つの部屋で、一刀を中心に寝ていたのが発見された。

一つの外史が終わり、新たな外史が始まる

 [戻る] [上へ]