- 91 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー&ホワイトデー[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:31:40 ID:JtvG3z2s0
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今日は、時間がないので朝の内に桃香します。
注意点
1:呼称が原作と違ってます。
2:本編のネタバレをしないため出てくるヒロインは一人です。
3:バレンタインデーの時に参加してなかったのでセットになってます。
以上の点を踏まえた上でご覧下さい。
5+8の13分割になります。
- 93 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー(1/5)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:35:40 ID:JtvG3z2s0
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それは、気温も下がり寒くなってきたある日の話
とある、城の一室に一人の少年がいた。
その少年は、この世界では見慣れぬ格好をしており、その服は部屋に差し込む日の光を浴び輝いていた。
少年は自分の机にて、仕事に勤しんでいたが、ふと
「そういえば、すっかり忘れてたけど、今日はバレンタインデーか……」
「まぁ、この世界の住人はそんな日のことは知らないんだよな」
以前、飯店の店主との会話を思い出しながら呟いていると。
コン、コン
扉を軽く叩く音が聞こえる。
「ん?どうぞ」
その音で来客を認識した男は中に呼び入れる。
「失礼するぞ。一刀」
そう言って入ってきたのは、赤い髪の少女だった。
「おお、白蓮か。どうしたんだ?」
「ちょっとな。今、時間はあるか?」
「ん?そうだな、ちょうど昼時だから大丈夫だぞ」
「そうか、なら今日は私と食べないか?」
「あぁ、別に構わないよ」
どこか固くなっている少女に疑問を持ちつつ食事の誘いを受ける。
「そ、それじゃあ、今日は私が作るから。ここで待っててくれ」
そう告げて、少女は急ぎ足で部屋を出る。
- 96 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー(2/5)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:39:42 ID:JtvG3z2s0
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「なんだろう?急に……」
部屋を訪ねてきてからの少女の発する雰囲気に違和感を感じていた。
数分後、再び部屋の扉が叩かれる。そして
「ほら、持ってきたぞ」
少女が入ってきたが、そこには、一人分の料理しかなかった。
「あれ?白蓮の分は?」
「あぁ、私はいいんだ」
「いや、でも……」
「いいから、いいから、気にするな」
「そ、そうか、なら気にしないよ」
「あぁ、それじゃあ、食べてくれ」
少年の返答に満足した様子の少女は、自らが作った料理を食べるよう勧める。
「そうだな、それじゃあいただきまーす」
「あぁ、存分に食べてくれ」
「あぁ……もぐもぐ、んぐ、ぷはぁ、うまい!」
「ほ、ほんとか!?」
少年が、食べる姿を笑顔で見守る少女に、感想を告げると少女の顔に喜びが満ちる。
「あぁ、うまいよ、白蓮て料理上手だったんだな」
「そ、そんなことないさ。たまたま作れるってだけだ」
感心した様子で告げる少年に、少女は照れつつ謙遜する。
少年は、謙遜しなくてもと思いつつ、再び食べ始める。
食べ始め、料理の味に魅了された少年は、ふと感想を口からこぼす。
「もぐもぐ、ごくっ、いや〜、やっぱり、白蓮は女の子としても十分だな」
「な、なに言ってんだ。馬鹿」
少年に、そう告げながらも少女の頬は真っ赤に染まっていたが、その顔はとても幸せそうだった。
そんな、少女の顔に少年が見惚れていたことに、気づけるほどの余裕は彼女にはなかった。
- 99 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー(3/5)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:44:24 ID:JtvG3z2s0
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それから、しばらくして、料理を一通り堪能した少年は先程から抱いていた疑問を少女に投げかける。
「ところでさ、何で今日はまた手料理を振る舞ってくれたんだ?」
「ん?どうしてだ?」
「いや、俺としてはさ、大歓迎なんだけどさ。大変だったんじゃないかなって思って。
実際のところ、大変だったんじゃないか?白蓮は忙しいんだろ?」
「べ、別にそんなに大変じゃなかったって。一刀は気にしないで満足してくれれば良いんだ」
「そ、そうか?それじゃあ、ありがとうな白蓮」
「そう、それでいい。今日は……」
少年の素直な感謝を受け、少女は嬉しそうに頷くが何か口を滑らしそうになったのか口を押さえる。
「ん、今日はなんだ?」
「え、えぇと……今日は、ほら、あれだ、時間があったからだ」
「そうなのか?」
「あぁ、そういうことだ」
その後、二人は何気ない会話を続けていき、気づけば一時間ほど経っていた。
「おっと、もう少しゆっくりしたかったけど、私はそろそろ行くよ」
「ん?そうか、それじゃあ、今日は本当にありがとうな。満足させてもらったよ」
「あぁ、満足してくれたならそれでいいさ。それじゃあ、頑張れよ」
「あぁ、白蓮もな」
扉がしまるまで少女の方を見送る。
今回の物語はここでは、終わらない。
もう少しだけ、続く。
- 101 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー(4/5)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:48:20 ID:JtvG3z2s0
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手料理を食べた日の午後から数日間で、少年は、少女が来訪した経緯を
知ることになる。
城にて、侍女から
「ふふ、北郷様のためだったんですね。え? 何をかって、それは料理の練習ですよ。少し前から急に私たちに
料理を教えて欲しいと仰られまして、指に怪我をしながら練習していましたよ」
そう告げられ、少年は、最近少女の指に包帯が巻かれていることが多かったのを思い起こし、納得する。
そこで、ある文官にも話を聞いてみると
「そういえば、やけに無理をなさっていました。毎日、仕事を遅くまで休憩もなく行っていました。
なんでも、どうしてもまとまった時間が欲しかったとかで」
という答えが返ってきた。
また、かつて、バレンタインについて教えた飯店の店主からは
「御使い様から聞いた『ぱれんたいん』ってやつを教えたら随分興味深そうにしていましてね
こう言っちゃあ、悪いのですが。年相応の女の子って感じでしたね。あっ、これは内緒で、頼みますよ」
と笑いながら告げられる。
他にも、当日、部屋のそばを通ったという兵は
「あれには、驚きましたよ。初めはどこかの女の子が北郷殿を訪ねてきたのかと思いましたよ。
北郷殿の部屋の前で立っているときに纏っていた雰囲気が、普段と違いすぎましたからね。」
と、苦笑気味に語った。
- 103 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー(5/5)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:52:13 ID:JtvG3z2s0
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そんな、情報から少年は一つの結論を導き出す。
「そうか、あの時、俺に手料理を振る舞ってくれたのはバレンタインを意識してだったんだな」
飯店で店主に聞いてバレンタイについて知って頬を染めながらバレンタインに想いをはせる少女。
チョコは無理だが、せめて、手料理を振る舞おうと、料理の腕を磨くために指にたくさんの傷を着けながらも
真剣な表情で取り組む少女。
そんな、料理の練習を行うために休憩の時間を切り詰め仕事漬けになって頑張る少女。
そして、当日、少年に料理を振る舞うため緊張しつつ心を込めて作っている少女。
そんな、数々の少女の姿を思い浮かべ、可愛いと思いつつ頬を赤くする少年。
恥ずかしさのせいか、思わず頬をかく。
頬をかきつつ、飯店の店主に教えていなかった、バレンタインに関わるもう一つの大きな日に
ついて計画を練り始める。
少年がそのような計画を立てているとは、少女は予想すらしていないだろう……
- 105 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー&ホワイトデー[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 09:55:56 ID:JtvG3z2s0
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ここで、バレンタインデー編は終わりで次からホワイトデー編です。
まとめの方へ
バレンタインデー4/5で飯店の店主の台詞にある『白蓮様に』を消して頂けると
ありがたいです。
あと、2つめの4/5は5/5の間違いです。すみません
- 107 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(1/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:06:04 ID:JtvG3z2s0
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少女が心を込めて作った、手料理を食べた日から丸々一ヶ月経った日。
少年は、朝から、城の廊下を歩いていた。
「さて、今日は絶対成功させないとな」
自らの頬を張って、気合いを入れる。
少年は、この日のために日々、貴重な空き時間を使い、準備を行ってきたのだから無理もない。
そんな気合いの入った少年はとある部屋の前に止まる。
コン、コン
「ん?誰だ?」
「あぁ、俺だけど。ちょっといいかな?」
「か、一刀!ちょ、ちょっとまっててくれ」
「わかった」
その後、部屋の中から聞こえる、騒々しい音に、少年は思わず苦笑を漏らす。
数分後、部屋の扉が開かれる。
「ど、どうしたんだ?今日は」
「あぁ、白蓮が今日は空いてるって聞いてさ。一緒に出かけたいと思ってさ。
どうかな?行かない?」
「も、もちろん行くぞ。なんなら、今から行くか?」
「そうか、それじゃあ。そうしようか」
想像以上に、食いついてきた少女に顔を綻ばす少年。
「な、なんだよ。にやにやして」
「別に、ただ一緒に出かけるのが楽しみだなと思って」
少女は、少年にむくれながら尋ねるものの、思わぬ反撃をくらい赤面するという早変わりをした。
そんな、少女の手をとり語りかける。
「どうしたんだよ、ほら、行こうぜ」
「あ……お、おい」
少女は、手を握られ、動揺してしまう。
少年は、その隙を狙い引っ張っていく。
- 109 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(2/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:10:35 ID:JtvG3z2s0
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「はぁ……まったく」
少年に引っ張られながらも、少女は少しでも、少年の体温を感じられるように、そっと手を握り返す。
「さて、まずどこから行くかな」
「なんだ、予定はなかったのか?」
街についた二人は言葉を交わす。
さすがに、恥ずかしかったのだろう、手はつないでいない。
「ん?なら俺に付き合ってくれるか?」
「私は、別に構わないぞ」
「それじゃあ、露店を見たいんだけどいいかな?」
「あぁ、いいぞ」
その後、露店の並ぶ通りを二人は気になる店を見ながら歩く。
「お、これ面白いな。どうな商品なんだろ?」
「それかい、それは……」
「そっか、ありがと。おっちゃん」
少年が、店主との話しを終え、振り返ると少女は、別の場所を見ていた。
「お、白蓮。何か欲しいものでもあったか?」
「え!?い、いや、ほら、楽団を見てたんだ。なんだか懐かしいと思ってさ。ところで
そろそろ昼を食べにいかないか」
「ふ〜ん、ま、いいか。そうだな、食べに行くとしようか」
「あぁ、それじゃあ、店はどうするんだ?
「ちょっと、俺に当てがあるんだけど、どう?」
「構わないぞ。行こうか」
少年の先導で目的地へと向かう。
着いた先で少女が見たのは予想していなかった店だった。
「ほ、本当にここなのか?」
「そうだけど……どうした?」
- 111 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(3/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:14:45 ID:JtvG3z2s0
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「いや、ここって結構高いって話だぞ」
「あぁ、大丈夫。予約してあるし、俺持ちだから」
「い、いいのか?」
店と、少年を見比べ問いかける。
「あぁ、気にしなくていいから。さっさと入ろうぜ」
「あ、あぁ……」
「いらっしゃいませ」
「あぁ、予約入れておいた北郷なんだけど」
「北郷様ですね……確認いたしました。どうぞこちらへ」
店員の後に続き、案内された席へと付く。
メニューを見た少女は、驚愕の表情で少年を見る。
「な、なぁ、やっぱり私は自分の分出すって」
「いいから、俺に出させてくれよ」
「で、でも」
「たまには、見栄を張らせてくれよ」
「はぁ、それじゃあ、ここは出してもらうことにするよ」
「そう、それでいいんだよ」
少女は、少年の言葉に納得いか無い様子ではあるが、頷く。
互いに、食べたい料理を決め、店員へと頼んだ。
「しかし、すごい店だな」
「あぁ、ここは高級店の中でも人気のある店たからな」
「へぇ、よく知ってるな」
「まぁ、俺は何度も街に出てるからさ、いろんな人から話を聞くんだよ」
「お待たせいたしました」
店員が料理を運んできたところて、会話が止まる。
「それでは、失礼します」
「あぁ、ありがとう」
店員が立ち去ってから会話を再開した二人は、食事を終えるまで何気ない会話を続けた。
- 114 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(4/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:18:38 ID:JtvG3z2s0
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店から出た二人は、再び街を歩く。
「いや〜、美味かったな」
「そうだな、だけど一刀、本当に大丈夫なのか?」
「ははは、大丈夫だよ。俺ってさ、金の使い道が無くて貯まる一方だったから。少し余裕あるから
気にしないでくれよ」
「悪い、ちょっとしつこかったな」
「いやいや、気にして貰えるのは嬉しいって」
「そ、そうか?」
「もちろん、当たり前だろ。白蓮みたいな娘に心配されて嫌なことなんて無いよ」
「まったく……そうやって何人口説いたんだ?」
顔を赤く染めながら、からかうような口調で少年に突っ込みを入れる。
「いやいや、白蓮の中で俺はどんな人間なんだよ」
「自分の胸に聞いてみろ……まったく、私はどうしてこんな奴を……」
「ん?」
「い、いや、何でもない。それより、また店でも見て回ろう」
「まぁ、いいか。そうだな店を見るか」
そうして二人は再び、街を歩き出す。
しばらく、街を見て回り気がつくと、すっかり日は傾き、夕日へと変化している。
「そろそろ、城に戻るか?」
「あぁ、そうだな。今日はとても楽しかったぞ。ありがとう、一刀」
「そっか、そう言って貰えたなら。誘った甲斐があったよ」
そこで、浮かべた少年の笑顔に少女は思わず見惚れる。
そんな、少女と彼女の様子に気づかない少年といった微笑ましい二人は城へ向かって歩き続ける。
城門前に到着したとき少年が急に立ち止まる。
「ん?どうしたんだ、一刀」
「あのさ、俺ちょっと野暮用を思い出したから先に戻っててくれないか?」
「あぁ、わかった。それじゃあ、先に戻ってるぞ」
「悪いな、それじゃあ」
そう告げて、少年は再び街の雑踏へと溶け込んでいく。
- 117 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(5/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:22:39 ID:JtvG3z2s0
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「まったく……何だったんだ今日は?」
少女は、一日を思い返し、不思議な日だったと改めて感じた。
「本当に……」
不思議だったが、穏やかな一日だったのもまた、確かだった。
もっとも、少女の心は穏やかどころか、乱れに乱れていたが。
その後は、特に何も無いまま時間が過ぎ、夜になった。
少女が、自室で寛いでいると。
コン、コン
「白蓮、いるか?」
控えめに扉を叩く音と自分を呼ぶ声が聞こえ、扉を開ける。
「どうしたんだ?」
「あのさ、少しいいかな?」
「あぁ、構わないぞ」
そう告げて、少年を招き入れる。
「で?どうしたんだ」
「実は、白蓮に渡したいものがあるんだ」
「え?」
「これなんだけど、受け取ってくれないか?」
そう言って、少年は少女に少し大きめの袋を手渡す。
「いったい、なんだ……これは、服?」
「あぁ、是非着て欲しいんだ」
「まったく……ちょっと部屋から出てくれ」
「あ、あれ?怒った?」
「馬鹿、部屋に居られると着替えられないだろ」
「そりゃ、そうか。悪い、それじゃあ出てるよ」
胸を躍らせながら少年は、一度廊下へ出る。
数分後、少女の着替えが終わり中へと再び入る。
「な、なぁ……この服って何だ?」
- 119 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(6/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:27:18 ID:JtvG3z2s0
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「ん?気に入らなかったかな?」
顔を真っ赤にした少女の問いに問いで返す。
「いや、気に入ってない訳じゃないんだが、ちょっと恥ずかしくてな」
「成る程……まぁ、見たことない服だろうからしょうがないか」
「これは、天の国の服なのか?」
「あぁ、それは俺が居た世界であった服に出来るだけ近いものを作ってもらったんだ」
「どんな、服なんだこれは?」
「それは、俺が着ている服の女性用だな」
言葉のとおり、少女が着ている服は少年の服と傾向が似ている。
その服は、少年が、かつて通っていたフランチェスカの女物の制服である。
「一刀が着ている服の女物?」
「あぁ、そうだよ」
「なんで、これを?」
「それは、男物の服は俺が着ているだろ?」
「そうだな」
「それで、女物を白蓮が着てるだろ」
「あぁ」
「そして、俺たちの格好は他人に真似できない。こういうのを、少し異なるけど俺の世界で
ペアルックっていうんだよ」
「ぺあるっく?」
「あぁ、お揃いの服を着ることをいうんだ」
「成る程、確かにお揃いだな」
「あぁ、主にやってるのは、恋人同士なんだよ」
「こ、こいびっ恋人!?」
「はは……照れた姿も可愛いな」
「!!??」
少年の言葉に少女の顔は徐々に林檎が熟れていくかのように赤く染まっていく
「あと、もう一つ。渡すものがあるんだ」
「え?」
「これだよ……」
「これって……絡繰り?」
- 120 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(7/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:32:22 ID:JtvG3z2s0
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少年が手渡したのは、手のひらに収まるほどの寸法の箱形の絡繰りだった。
箱には、とってのようなものが付いており、その部分をつかんで回すことが出来るようになっている。
「ほら、白蓮さ、今日楽団を見てたろ?」
「あぁ、見てたけど?」
「それで、前に公演に行ったときに、もう一度聞きに行きたいって言ってたろ」
「あぁ、言ってたけど、よく覚えてたな」
「まぁな、ただ最近は忙しさが増してきてるし、楽団もあまり移動ができないから。こっちと時間があわなくて行けないだろ」
「そうだな……」
「だから、前々から、せめてこれを渡そうって決めてたんだ」
「そう……か」
「ふふ……ほら、動かしてみてくれよ」
「ここを巻けばいいんだよな」
「あぁ、巻き終わったら、机に置いて大丈夫だから」
「わかった」
少年の説明を受け、取っ手をねじのように巻く少女。
巻き終わり、机に置くと絡繰りが動き出す。
「あっ!?」
「どう?」
「きょ、曲が流れてくる」
「あぁ、これは一曲だけどいつでも音楽が聞くことができる絡繰りなんだよ」
「そんなものがあったのか」
「ふふ……どう?気に入った?」
「あぁ、気に入ったよ。ところで、この曲は?」
「ふたの裏に刻まれてるよ」
確認すると、少年の言うとおり、ふたの裏に『志在千里』と刻まれていた。
「『志在千里』か……いい曲だな」
「そうだな……」
どちらともなく互いの距離をつめる二人。
そして……触れるか触れないかの距離まで近づいたとき少女が口を開く。
「なぁ、一刀」
「ん?」
- 124 名前:無じる真√N−拠点ホワイトデー(8/8)[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:37:20 ID:JtvG3z2s0
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「何で、今日はこんなに尽くしてくれたんだ?」
「バレンタインデーのお返しだよ」
「え?」
「白蓮が俺のために頑張ってくれたのを知ってさ」
「え?え?」
「それで……な。あと、俺のいた世界にはバレンタインデーと対をなす日があってな。
ホワイトデーっていうんだけど、その日は、バレンタインデーのお返しをする日なんだ」
「そんな日があったのか、なるほどな。だけど、やり過ぎじゃないか?」
「いや、白蓮の手料理に比べたらこれでも釣り合わないよ」
少年は、そう言って、笑いかける。
「何言ってんだ、まったく……」
少女は、そう言いつつもまんざらでもない様子で少年に笑い返す。
そして……
同じ服を着て、同じ曲を聴きつつ、二人はどちらからともなく寄り添い合う。
この、ささやかで貴重な二人の時間を全身で噛みしめるために。二人は示し合わせたかのように目を閉じる。
少女は、少年の肩に頭を乗せ、もたれかかる。
少年は、少女の肩を抱き寄せ、支え続ける。
こんな、二人の関係がいつまでも続くことを祈りつつ、今回の物語の幕はここで閉じる――――――
しかし、二人の物語はまだ終わりを迎えることは無いだろう――――――
二人が願い続ける限り、その物語は紡がれ続けるのだから――――――
- 125 名前:無じる真√N−拠点バレンタインデー&ホワイトデー[sage] 投稿日:2009/03/14(土) 10:42:14 ID:JtvG3z2s0
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以上となります。
支援&付き合って頂いた方々、どうもありがとうございました。
あちこちにあらがあったと思います。すみませんでした。