- 250 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:30:06 ID:vAd6PqnI0
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わたしの名はメーテル……ひな祭りSSを投下する女。
何事も無ければ、10分後から投下を開始するわよ、鉄郎……
- 254 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」1/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:40:59 ID:vAd6PqnI0
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「思った通り。壮観な眺めじゃ」
玉座の前にででんと鎮座する威容に、美羽が満足そうに頷いた。
今日はひな祭り。
何かと祝い事が多い天の国の祭りの中でも、美羽が楽しみにしていたものの一つである。
「良かったね、美羽ちゃん」
「うむ。月も飾り付け、ご苦労であった」
豪華な七段雛を前に立っているのは二人、美羽とメイド服の少女だった。
「ううん。このくらい全然苦労じゃないよ。私たちを助けてくれた美羽ちゃんの為だもん」
「うはははは! 月よ、くるしゅうない。妾の懐の広さをもっと褒めてたも!」
「あははは」
そう言って拳を突き上げた美羽を見て笑う少女、彼女の名は董仲穎。
以前、都で帝を蔑ろにした暴政を敷き、逆賊として討たれた筈の董卓その人である。
彼女は今、当時反董卓連合の中核であった袁術に保護される形で、この城に匿われているの
だ。
「それに、董家の名誉を回復するために、流言を収めようとしてくれたこと、私、忘れてない
よ」
「ふん。あれは十常侍と麗羽の奴めの姑息な奸計が成就するのを、黙ってみているのが気に入
らなかっただけじゃ」
今度は照れ隠しに顔をぷいと背けてしまった美羽を見て、月はますます花のような笑みをこ
ぼす。
- 255 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」2/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:43:37 ID:vAd6PqnI0
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「それにしても、綺麗にできあがって良かったね」
「うむ。流石は我が袁家が擁する職人達。良い仕事をしてくれるわ」
二人が見上げた赤い布が敷かれた台座は七段。
そのうち、一、二、四段目には木彫りの牛、曳かれる牛車、その他様々な小さな模型が置か
れ、三、五、六、七段目には豪華な装束を着た人形が数体ずつ座っている。
人形の方はそれぞれ、お内裏様に三人官女、五人囃子に随身、三人上戸。服装こそ大陸風の
装いだったが、一刀のうろ覚えの知識で再現されたそれは、紛れもなくひな壇であった。
「……綺麗」
そう呟いた月の視線の先には、最上段に飾られた二体の人形、男びなと女びな。
袁家らしく随所に金をあしらった豪華な衣装を身に纏った二体は、月がこれまで見てきたど
んな人形よりも美しかった。
「うむ、ずっと飾っておきたいくらいじゃの」
「あ、駄目だよ美羽ちゃん。一刀さんが言っていたじゃない、おひな様は今日が過ぎたらすぐ
に仕舞わないと、結婚できなくなるって」
「うー、そうであったな……」
美羽と月、二人の関係はまるで姉妹のよう。
だが、それは美羽と七乃の関係とは少し違う。
月は七乃より、ちょっとだけ厳しい。
「あ、美羽ちゃん。髪が乱れてるよ」
「むぅ? どこじゃどこじゃ?」
「ほら、ここのところ。すぐに直してあげるから、玉座に座って」
「うむっ」
月の言葉に素直に従い、美羽は玉座に腰掛ける。彼女の体格にはまるで合っていない玉座に
ちょこんと座る様子は、彼女の方こそ人形のようである。
「それじゃ美羽ちゃん。失礼しますね」
月は美羽の髪を一房手にとって、メイド服のポケットから櫛を取り出すと、それで彼女の髪
を梳き始めた。
- 257 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」3/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:46:48 ID:vAd6PqnI0
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美羽の髪は長く、細く、美しい。まるで最高級の絹糸のようだと、常々月は思うのだ。
「月は髪を梳くのが上手いのぅ」
「うふふ。ありがとう、美羽ちゃん」
「うむ。最初は七乃以外に任せるのは不安だったのじゃが、今は月が侍女となってくれたこと
を嬉しく思うぞ」
詠と二人、美羽の元で匿われて以来、月はずっと美羽の侍女として傍らにあった。
その仕事は暫く前まで七乃がやっていた、美羽の身の回りの雑務を含んでいる。
無論、七乃はその仕事を自分以外の人間に任せるのを泣いて嫌がったのだが、袁術軍の大将
軍を任されている七乃はさる事情でここのところ多忙を極めており、思うように美羽の世話を
焼く時間が割けないのも事実。
そんな七乃が断腸の思いで仕事を任せたのが月だったのである。
以来、直ぐに打ち解けた二人は互いに真名を許し合い、それこそ仲の良い姉妹のようであっ
た。
月は元来人見知りが激しい性格であるが、これでなかなか面倒見がよい。そういう意味で、
美羽は彼女にとって手間のかかる妹といったところだ。
一方、美羽にとって月は、七乃を除いて初めての年の近い友人である。おまけに月も、袁家
ほどではないにしろ名家の出身。そんな二人なりに共感するところもあったのかもしれない。
そんな二人がすぐに仲良くなったのは、必然と言えば必然だったかもしれない。
「……のう、月」
髪を梳いて貰いながら、じっとひな壇を見つめていた美羽が口を開いた。
「? どうしたの、美羽ちゃん?」
「妾は、天下をとるのかの?」
- 258 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」4/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:49:45 ID:vAd6PqnI0
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彼女が漏らしたそんな一言。まるで明日の天気でも話すように口にした言葉は、途方もなく
スケールが大きかった。
劉備が夢見、曹操が憂い、孫策が求めようとする天下。月は太守であったころから、そんな
もののことを深く考えたことはない。それを彼女はいとも簡単に口にした。
それ自体、良いことか悪いことかは月には分からなかったが、そんな風に無垢に天下を語る
のは、彼女だからこそできる芸当ことのように思えた。
「どうなのかな? そうかもしれないね」
「うむ。七乃はそう言っておる」
自信満々に美羽が言う。だが、その先を続けようとする美羽の顔が、今にも泣き出してしま
いそうな不安に満ちたものであることに、月は気付いた。
「じゃが……じゃがな、妾が天下を取って、それでも七乃は妾の側にいてくれるのかの? 今
以上に忙しくなって、妾のことなど、どうでも良くなってしまうのではなかろうか」
じっと前を見つめる美羽の目線の先は、先ほどの月と同じで内内裏。
頂上であるそこには、二体のひなが、仲良く並び立っている。
その姿を見て思うところがあったののだろうとというのは想像に難くなかった。
月は、そんな彼女に言った。
「……美羽ちゃん、七乃さんがいなくて、寂しい?」
図星を指摘され、美羽ががばっと向き直る。
「べ、別に寂しいなどとは言っておらんっ! ただ、妾は七乃がいないと嫌じゃと言っただけ
じゃっ!」
抗するも、その顔は赤。誰の目から見ても、思うところは明らかだ。
「うふふ。それがきっと寂しいってことなんだよ。美羽ちゃんは七乃さんが本当に好きなんだ
ね」
「わ、妾は大人の女じゃ、別に寂しくなんか……」
「そう? 私は最近、詠ちゃんが傍にいてくれなくて、ちょっと寂しいかな」
「ふぇ?」
- 260 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」5/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:52:50 ID:vAd6PqnI0
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いつも月の傍らにあって最も近しい間柄だった賈駆文和もまた、月が保護されているのと同
様に、今は美羽の庇護下にある。
ただ、彼女の場合月とやや事情が異なり、保護対象と言うよりは配下に加わったという方が
正しい。
そして七乃が忙しいのと同様に、詠もまた、ここ最近は忙しい日々を送っているのだ。
「少し前までいつも一緒だったのに、最近あまりお話しできないから……詠ちゃんのお仕事が
とても大切なのは分かってるけど、私はちょっと寂しいな」
「月……」
「あ、でも詠ちゃんには内緒だよ」
「……月よ、実は妾も本当は、」
と、美羽がそこまで言いかけたとき、戸口の影から飛び出して、二人の方へ雷の如き迅速さ
で走る影一つ。
二人とも、咄嗟のことに反応できない。
そうしてそれは、飢えた獣の如き勢いで二人に近寄ると、ばっと月に飛びかかった。
「ゆ――――――え――――――――っ!!!」
「きゃぁっ!?」
叫んで月に飛びついたのは、月と同じくらいの身長の少女。
「ごめんね月っ! ボク、月がそんな寂しい思いをしてるっていうのに全然気付けなくって!
」
そう、彼女が先頃話に出た賈駆文和、詠である。
- 261 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」6/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:55:28 ID:vAd6PqnI0
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「もーっ、詠ちゃんったら堪え性なさ過ぎですよー。もう少しでお嬢様の最高に可愛い顔が見
れたのにぃ」
「七乃!?」
次に詠の後を追って影から出てきたのは、美羽の方の求め人、七乃である。
「もー、お嬢さまったらー。私もお嬢さまとあんまりお話しできなくてとーっても寂しかった
ですよぅ」
「べ、別に妾は寂しいなどと……」
「やっぱりお嬢さまの傍で、トンチンカンな指示に従ってるのが一番楽しいですよ」
「七乃……」
それ以上の言葉はいらない。二人はひしっと抱き合った。
「あっ、そうだ詠ちゃん。明日から私の仕事半分にしちゃっていいですか?」
そして七乃は、美羽と抱き合ったままで、少し離れたところでぶら下がるように月に抱きつ
いている詠に向かって、あっけらかんとそんなことを言ってのけた。
月しか見えない状態の詠だったが、そこは生粋の軍師、彼女は七乃の言葉の意味を即座に理
解して言い返した。
「!? ちょっ、あんた何言ってんのよ! そんなことできるわけ無いでしょ!? 今がどんな
時期か分かって言ってるの!?」
最近動きを活発にしている孫策。その袁術陣営が抱えている爆弾に対処するべく、彼女たち
はここしばらくの間忙しく働いていたのだ。
「えー? 孫策さんなんて放っておけば良いんですよー」
「良いわけ無いでしょ! そんなんだからあれだけの資金と兵力があるのに、弱っちい軍しか
編成出来ないのよ!」
「えー、だったら私達の仕事、ねねちゃんに代わりにやって貰えば良いんじゃないですかー?」
きらきらと顔を輝かせて、七乃はそんなことを言った。
その言葉の意味するところを理解して、思わず詠も一歩たじろぐ。
- 263 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃とひな祭り」7/7[sage] 投稿日:2009/03/03(火) 00:58:40 ID:vAd6PqnI0
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「達って、あんた何を……」
「もうっ、分かってる癖にぃ。詠ちゃんも、月ちゃんと一緒にいたいんじゃあないんですかぁ
?」
「うっ……」
――黒い、あまりにも黒い考えだ。
けれど余りに蠱惑的な囁きであることも確か。
「お仕事が半分になれば、もーっと月ちゃんと一緒にいられる時間がとれますよぅ?」
「う、ううぅ……」
甘美なる誘惑に、詠の持ち前の責任感が必死に抵抗する。
「だ、駄目だよ詠ちゃん! お仕事さぼったりしちゃ!」
月の声もそれを後押ししてくれる。
しかし、敵は狡猾。さらなる甘言で詠の心を絡め取りにかかった。
「私はですねー。今からお嬢さまにべったりくっついて四六時中お嬢さまのお世話をしちゃい
まーす。ご飯を作ってー、蜂蜜入りのお茶を作ってー、一緒にお勉強してー、一緒にお風呂に
入ってー、一緒のお布団で寝ちゃいますよぅ」
「う、ううぅぅっ! そんな、お風呂、月とお風呂……それから一緒に布団で……月と一緒に
……」
ガラガラと音を立てて、理性の壁が崩れていくのを、詠は耳にした。
「詠ちゃんっ! しっかりして!」
ひな壇が飾られた玉座の間に、月の悲痛な叫びがこだました。
そんなやりとりがあった翌日。
陳宮の部屋から、啜り泣くような声が聞こえたのは言うまでもない。
終
- 265 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/03/03(火) 01:03:32 ID:vAd6PqnI0
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わたしの名はメーテル……投下の終了を告げる女。
今回から42字で区切ってみることにしたわ。
携帯電話などで見づらいという意見があれば、何か考えるわ、鉄郎
色々とぼかして書いているから「あら?」と思うかもしれないけど、話の表側についてはまた後日……