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252 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:00:14 ID:Qusnp8ww0
今日もうおなか一杯かもしれませんが……

寝る前に4レス程投下してもよろしいでしょうかね。
253 名前:真√:風拠点[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:04:07 ID:Qusnp8ww0
まあこっそり落としておきましょう。


真・恋姫†無双 外史
北郷新勢力ルート:風拠点

月下告白 ─ツキノシタ オモイヲツゲル─


少しだけ、お付き合い下さい。
254 名前:真√:風拠点 1/4[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:07:31 ID:Qusnp8ww0
 それは、黄巾の乱が終結する一月程前の事。


「……こんな所ですかね。あとは実践あるのみと言った所でしょうか」
 風はそう一人ごち、一刀から聞いた天の国の話から考えたある草案をまとめ上げると、
外気を取り入れようと窓を開け放って軽く伸びをした。
 随分長い間集中していたようで、辺りはすでに暗く、空には星が瞬いている。
 今日はこの辺りにしておこうと、執務室を後にしてあてがわれている部屋へと向かう。
 一ヶ月前、ここ漢中で黄巾を倒す助勢をしたときに、漢中太守の要望でこの地に留まることにした一行は、
その後荊州からの流入量の増えた黄巾軍と連戦を重ねていた。
 救いは、太守の計らいで、正式な客人として城へ留まらせてもらえていることと、
この地の官軍が北荊州とは違い、協力的でかつ、練度もそれなりであったことだろうか。

 ふと、城壁の上に続く階段が目に入り、少し遠回りになるが、何となくそちらへと足を向ける。
先程窓から見た晴れ渡った夜空が美しかったからなのだが。
 今宵は満月。城壁から見る月はさぞ綺麗だろう。

 城壁の上をのんびりと歩いていると、一角に守兵とは違う人が座り込んでいるのに気が付いた風は、
一瞬曲者かと警戒したが、月明かりに照らされたその顔が、己が主――北郷一刀であることに気付き、
そちらへと近づいていった。
 一刀は風に気付いたか、軽く片手を挙げて招いた。
 その手には……杯。
 たまに皆で飲むことはあっても、一人で飲んでいる所を初めて見た風は、少々驚きつつも一刀の隣へ腰を下ろす。

「ご主人様、独り酒とは珍しいですね?」
 風の言葉に「ああ」とだけ返した一刀は、杯に少しだけ残っていた酒を軽く飲み干すと、
壁にもたれたまま空を仰ぐ。
 それ以降、どちらも口を開くことは無く……さりとて、決して不快ではない沈黙の中、
風も一刀と同じように空を見上げる。

 そんな沈黙を破ったのは、一刀だった。
257 名前:真√:風拠点 2/4[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:10:38 ID:Qusnp8ww0
「……夢を見たんだ。……寝なおそうと思っても、寝付けなくてね」
「夢……ですか。それはどのような?」

 けれど一刀は、その問いに答えるでもなく、空へ浮かぶ月へと手を伸ばす。

「月ってのは……どこも変わらないものなんだな」
「……!」

 その一言で風は理解した。
 一刀が見たのは、天の国の夢。そして彼は今きっと……いや間違いなく、強い望郷の念を抱いていると。
 儚げに薄く笑って空を見上げる一刀が、夜の闇に相まって、まるでそのまま消えてしまいそうな……
そんな想いに囚われて、風は思わず空に伸ばした一刀の手を取り、握り締めていた。
「風……?」
 そんな風に、一刀は「どうした?」と言うような視線を送り、
風もまた衝動的にとってしまった行動に慌てるが、手を離す気にもならなかったので、
ふと思っていたことを口に出した。

「ご主人様は……もし『今すぐ天の国に帰る方法が有る。今を逃せば後は無い』と言われたら……
いかがなさいますか?」

 そう聞いてくる風の様子は、少し不安気だ。
 一刀はそんな風を見つめた後、再び空へと視線を戻してぽつりと言葉を出す。
「昔の……出会ったばかりの頃だったら、きっと一にも二にもなく飛びついてただろうな。
あっちには家族も居る、友人も居る、慣れ親しんだ生活も有る」
「そう……ですか……」

 寂しそうに呟く風を横目で見ながら、さらに言葉を続ける。
「けど……今は正直分からない。
 悩んで悩んで悩んで悩んで………それでも自分では答を出せないかもしれない。情けない話だけどね」
「…………」
258 名前:真√:風拠点 3/4[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:14:52 ID:Qusnp8ww0
「この世界に来てもうすぐ半年。……いや、まだ半年って言った方がいいのかもしれないな。
 ……そのたった半年の間に、あっちに置いてきてしまったものと同じぐらいの大切なものが出来た」
「それは何か……聞いてもよろしいですか?」

 一刀は今だ不安そうな風の頭をくしゃりと撫で、
「……今まで共に戦ってくれた皆。星に、稟に……そしてなにより、風」
 そのまま引き寄せ、抱き寄せる。
「だから、今すぐに帰る方法があったとしても……きっと頭が破裂するぐらい考えても、選べないと思うよ。
 風を、稟を、星を……俺に期待をかけてくれる皆を捨てて戻ることなんてね」
 そこまで言った後、一刀は口を閉ざした。
 そして風も、その心情を察した。
 帰れるのか帰れないのかも分からない。……いや、帰りたいのか帰りたくないのかすら分からないのに、
そんな場所をまざまざと思い返す夢を見てしまった。
 今一刀の心は、千路に乱れているのだろう。

「……ご主人様……」

 だからこそ伝えよう。

「先ほど私達の事を、天の国と同じぐらい大切だとおっしゃられたことは……すごく嬉しく思うのですよ」

 自分の気持ちを。

「そしてそれ以上に……風はご主人様のことを、心よりお慕いしているのです」

 大切な人が、迷わないように。

「ですから……」

 この先も、永久に共に歩いていけるように。

「ご主人様が、何があったとしてもこちらに残りたいと思えるようにしてみせるのですよ」
259 名前:真√:風拠点 4/4[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:16:04 ID:Qusnp8ww0
 夜空の下、にこりと微笑む幻想的な風の美しさに見とれる一刀へ、風はそっと口付ける。
 それはまるで、神聖な儀式の様に。

 少しの後、そっと唇を離した風は、一刀から離れ、自室へと足を向ける。

「ご主人様。……風はどこまでも、たとえ何があったとしても、ご主人様をお支えしていくのですよ」

 そんな誓いにも似た言葉を残して。



 風が去ってからしばらくして、一刀も静かに腰を上げた。


「ははっ……まったく……今日はいい夢が見れそうだ」


 月明かりが照らす中、その顔には最早、先ほどまでの憂鬱な影は無い。
260 名前:真√:風拠点[sage] 投稿日:2009/02/16(月) 02:17:45 ID:Qusnp8ww0
以上、お目汚し失礼しました。

では、またいずれ。




……支援に感謝を

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