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52 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:16:03 ID:vDYOpzkY0
わたしの名はメーテル……チョコを食べる女。
何も無ければ10分後に投下するわよ、鉄郎……
55 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」1/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:27:36 ID:vDYOpzkY0
「ふーんふふーん♪、ふふふふーん♪」
 美羽は上機嫌だった。

 彼女には大きすぎる玉座に腰掛け、足をぷらぷらとさせ、邪気のない笑顔で楽しそうに鼻歌など歌っている。
 見るからに上機嫌。
 彼女は普段からころころと良く表情を変える娘であるが、ここまで天真爛漫な笑顔を晒しているのは珍しい。
 
「あら、美羽さん、随分とご機嫌のようではありませんの」
「あ、官渡の戦いで曹操にけちょんけちょんにされて、妾を頼って転がり込んできた麗羽姉さま」
 声をかけてきたのは、美羽と同じ金を基調とした服を身につけている髪の毛くるくるくるくるーな彼女、袁本初。美羽の従姉の麗羽であった。
「説明臭い台詞をどうも有り難う。それで美羽さん、今日は一体どうしたんですの? 随分とご機嫌のようですけれども」
「えへへー」
 と、不倶戴天の天敵である麗羽に声をかけられても笑顔を崩さない美羽の様子を見て、麗羽はおやっという顔をした。
 
 だと言うのに今日のこの浮かれた様子、よほどのことがあったに違いないと麗羽は考えた。

「えへへー。姉さま、今日は伴連太陰日というお祭りの日なのだそうです」
「伴連太陰日? 聞いたことがありませんわね」
「聞いたことが無いのも仕方ないのです。何せ天の国の行事だそうですから」
 声を弾ませて言う彼女は、シミ一つ無い雪のような白い肌に、人形のように華奢な手足、毎日七乃が長い時間をかけて手入れしている金糸の如き長い髪、それから太陽のような笑顔、その姿、正に天使の装い。
 一刀がいたならもっと多くの人に彼女のそんな姿を見せてやりたいと思い、一方七乃がいたなら独り占めしたいと思う、そんな姿だった。

「天の国、ねぇ。確か美羽さんが拾ったほんにゃらさんとやらが、天の遣いとか言われてるそうですけれども、その方から聞いた行事ですの?」
「はい、そうなんです」
 言って美羽は手足をぱたぱたさせた。
「それで、その伴連太陰日とやらは、どのようなことをする日ですの?」
「それはですね、女性が好きな相手に血横霊刀なる菓子を送る日なのだそうです」
「血横霊刀?」
 またまた分からない単語が飛び出して、麗羽は再び首を真横にかしげた。

58 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」2/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:30:29 ID:vDYOpzkY0
「はい。なにやら黒くて甘い、口の中に入れると滑らかにとろけるになる世にも不思議な菓子だそうです」
「それはただの砂糖菓子ではありませんの?」
「はい、全然違うのです」

 口に入れると溶けていく、けれど砂糖菓子に非ず。聞くだけだとなんと奇っ怪な菓子なのであろうか。
 とりあえず麗羽は雪のような菓子なのだろうと見当をつけた。

「へぇ。物騒な名前のわりには美味しそうな菓子ですわね。そのようなものがこの世にあるとは興味深いですわ。それで、美羽さんはそれを貰ったのですわね?」
 興味を引かれたという風体で麗羽が聞き返す。
 けれど、美羽の口から出てきたのは否定の言葉だった。

「いえいえ。一刀が言うには、ここには材料がないから血横霊刀は作れないとのことです」
「あら、そうですの」
 散々じらされてから肩すかしを食らい、麗羽は眉をハの字にした。
 だが、一方で美羽はニコニコ笑顔を崩していない。

「はい。でもですね。血横霊刀を食べられなくてがっかりしていたわたくしの為に、七乃が代わりのお菓子を作ってくれたのです」
 美羽はよいしょと声をかけ、玉座の後ろに手を伸ばして、そこから小箱を一つ取り出した。
 両手に収まってしまうくらいの白木の箱には熨斗がつけられ、達筆な字で「血横霊刀」と書かれている。
「えへへー。これなのです」
 美羽がパカリとふたを開けると、そこには精巧な拵えの木の台座と、その上に置かれた白い絹にくるまれた丸い何かが一つあった。
 美羽は物珍しそうな顔で麗羽がのぞき込んできたのを確かめると、ゆったりとして手つきで絹の包みを解いていった。
 するとあらわれたのは、小指くらいの大きさの黒くて丸いもの。
 真っ黒な宝石に見えないこともない。
「……このちっぽけなのが、血横霊刀ですの?」
「はい! 七乃が南蛮から取り寄せた黒蜂蜜を使って作ってくれた、血横霊刀なのです!」
 満開の笑顔でそれを見せる美羽だったが、そこで彼女の体がぶるりと震えた。
 その直後、彼女の顔に、さっと朱がさす。

60 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」3/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:34:18 ID:vDYOpzkY0
「あら? どうかいたしました美羽さん?」
 そこで直ぐに異変に気づけるのは、大陸広しといえども七乃か麗羽くらいであろう。何せ麗羽はそれだけこの従姉のことを気に入っているのだ。
「あの、その……」
 玉座の上で膝を合わせてもじもじとする美羽。頬はうっすら紅の色。
 その様子を見て美羽の窮状を察したのか、麗羽は雄弁な笑みを浮かべた。
「ああ分かりましたわ、美羽さん、あなた厠――」
「ちょ、ちょっ、姉さま!」
「あら、恥ずかしがらなくとも良いではありませんか。あなたが小さかった頃などはわたくしがあなたを……」
「し、失礼いたします姉さま! わたくしちょっと用事が……っ!」
 美羽を襲った生理現象。原因は昼に飲み過ぎてしまった茶であろう。
 だが、そんなことはどうでも良い。よりにもよって麗羽の前で晒してしまった醜態に、美羽は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めるのみ。
「用事、ねぇ……」
「用事です!」
 そして、慌てて席から立つと(尤も、この場合は降りるが正しい)、その上に白木の箱を置いて、彼女は外へ向かって駆けていった。

 美羽が去り、そうして玉座の間には、麗羽が一人残される。
 彼女の前には、未知の菓子が安置された白い箱。
 それを見つめる麗羽の喉が、ごくりと鳴った。



(お嬢さま、喜んでくれたかなぁ)

 夜も更けた頃。
 一仕事を終えて、そんなことを思いながら玉座の間の前を通りがかった七乃は、ぴたりと足を止めた。
 誰もいないはずの扉の向こうから、スンスンという誰かが泣いているような物音を耳にしたからだ。

(あれぇ?)

 この時間なら美羽は自室に戻っているはずだ。それなのに物音がする、これはおかしい。
 七乃が不思議に思って扉を開けて中を覗いてみると、案の定、数本の蝋燭に照らされた暗い王の間には、人影が一つあった。

61 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」4/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:37:21 ID:vDYOpzkY0
「えぐ、えぐっ、うぅ、ひっく」
 玉座に座り、一人ぽつんと泣いていたのは美羽だった。

「あれれー? どうしちゃったんですかお嬢さま」
「な、七乃かえ……?」
 その声を聞いて美羽が顔を上げる。すると涙で目を腫らした美羽の顔が七乃の目に入った。
「あらあら、折角のお顔が台無しじゃないですかー。可愛い美羽さまには涙なんて似合いませんよー」
 七乃は懐から手巾を取り出して美羽に近づくと、それで美羽の涙鼻水涎でぐじゅぐじゅになっているその顔を、ごしごしと拭いてあげた。

「もー。一体誰が私の可愛いお嬢さまに意地悪したんですか」
 言って顔を拭いている間にも、美羽の目からは真珠のような涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。

「うう、あのくるくるが……ぐすっ、あのくるくるが……」
「くるくるって、……ああ、袁紹さんのことですか」

 この大陸でくるくると言えば、普通は曹孟徳か袁本初を連想する。そして、この場に限って言えば、美羽の口から出てくるそれが前者である可能性は限りなく低い。
「また袁紹さんにいじめられたんですか。本当に袁紹さんが苦手なんですねー、お嬢さまは」
「ひっく、ひっく……あやつめは、七乃が、七乃が折角作ってくれた……」
「はい?」
 聞き返しつつも、その言葉で七乃には何となく先が読めてきた。

「七乃が折角作ってくれた血横霊刀を、あやつにとられてしまったのじゃ……」
「あらー」

 美羽の口から嗚咽混じりに出てきた切れ切れの説明を要約するとこうだ。
 麗羽に七乃から貰った血横霊刀を見せつけていると、美羽はちょっとした用事でその場を立たねばならなくなってしまった。
 その用事を終わらせて戻ってみると、麗羽の姿はそこになく、ついでに玉座の血横霊刀も消えていた。
 慌てて城中を探してみたものの、結局麗羽は見つけられず、美羽は疲れ果てた末に玉座の間に戻り、それからずっと、こうして玉座の上で一人泣いていたらしい。

63 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」5/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:40:17 ID:vDYOpzkY0
「ずびっ、妾が……妾がしっかりしておらなんだばっかりに、七乃が折角作ってくれた血横霊刀を、麗羽にとられてしまったのじゃ……う、うえぇぇぇぇぇぇぇん!」
 感極まったのか、美羽は七乃の大きな胸に飛びつくと、恥も外聞もなくわんわんと泣き始めた。
 突然抱きつかれた七乃は、一瞬驚いたような顔をしたが、直ぐに左手を美羽の背中に回し、開いた右手で優しい主人の頭を撫で始めた。
「ああもぅ。自分でさっき涙は似合わないとか言っておいてなんですけど、美羽さまは泣いてても可愛らしすぎですよぅっ」
 そう言って、今度は七乃が愛しさに任せて美羽をぎゅーっと抱きしめた。

「もぅ、お嬢さまったら泣いてても笑ってても最高に可愛らしいですけど、そんなふうに悲しんでる姿を見てたら、私まで悲しくなって来ちゃうじゃないですか」
「ひっく、ひっく……妾が泣くと、七乃も、悲しくなる、のか?」
「そうですよー。ついでに切なくなっちゃいます。だから早く泣き止んでいつものお嬢さまに戻って下さいよぉ。血横霊刀の材料はもう少し残ってますから、もう一度、今度は二人で一緒に作りましょうねぇ」
 その声を聞いて、それまでしゃくり上げていた美羽の動きが止まった。
 そしてゆっくりと言葉の意味を反芻してから、恐る恐ると聞き返す。
「な、何? ということは、七乃の血横霊刀、まだ作れるのかかえ?」
 上目遣いに美羽が問いかけると、七乃は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「はい。こんなこともあろうかと、あと一つくらいは作れるように材料は残しておきました。だから安心してくれちゃって大丈夫ですよぅ」
 それを耳にした美羽の顔が、ぶ厚い雲から太陽があらわれるようにして、一気に輝いた。

「ほ、本当か七乃!? 妾はまだ七乃の血横霊刀を食べられるのか!?」
「えー? 私、大好きな美羽さまに嘘なんて言いませんよー」
「――ッ! うむ、うむっ! 流石七乃じゃ! 褒めてつかわすっ!」
「ええへー。それじゃ今から一緒に厨房へ行きましょうか」
「うむっ! くるしゅうない、くるしゅうないぞ! 七乃よ、妾についてまいれ! うはははは、なのじゃー!」
「はーい」
 そうして二人は仲の良い姉妹のように連れだって、厨房へと向かうのであった。


64 名前:真・恋姫無双 外史 「美羽と七乃と伴連太陰日」6/6[sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:43:18 ID:vDYOpzkY0
 一方その頃、麗羽はというと……

「う、うわっ! 斗詩! ちょっとこれ見ろよ!」
「そんなに大声出してどうしたの文ちゃ……って、麗羽さまっ!? なんかすっごく縮んでる!?」
「うわっ、うわっ、うわー、なんだこれ……うわー、この猫耳、ちゃんと頭から生えてるよ……それにこの肉球のさわり心地、うはぁー、最高ぉー」
「だ、駄目だよ文ちゃん! 寝てる麗羽さまにそんな悪戯しちゃっ!」
「だって、麗羽さまのこれ、マジにでぷにぷにだぜぷにぷに。斗詩も触ってみろよ」
「え、えー……」
「斗詩がいらないんなら、全部あたいが貰うー」
「うー、そう言われると、私もちょっと触ってみたいかも……」


 終
66 名前:メーテル ◆999HUU8SEE [sage] 投稿日:2009/02/14(土) 23:47:47 ID:vDYOpzkY0
わたしの名はメーテル……投下終了を告げる女。
美羽は七乃の子を孕むべきだと思うわ……。

ちなみに、今回のお話は、以前節分に投下したお話とよく似た外史なのよ、鉄郎。

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