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204 名前:一刀十三号曰く、[] 投稿日:2009/09/06(日) 21:03:35 ID:fAoEGy1UO
「フウー」
かなり深刻な溜め息が出る。
「なんや北郷、ここ最近溜め息ばかり」
声の方向に目を向ければ腐れ縁の及川だ。
溜め息ばかりにもなる。
華琳達と共に駆け抜けた日々は、あまりに強烈で、あまりに鮮烈で、あまりに眩しすぎた。
まあ華琳達との思い出の方が比重が大きいのだが、それでも今の日本は平和だ。
むしろ平和過ぎて弊害が出る始末、本末転倒だよ。
「しっかし北郷、本当に二週間で変わったな?」
そう、あっちの世界に行き、華琳が大陸制覇をするあの夜までの間、こっちの世界は僅か二週間しか経ってなかった。
第一発見者によれば林道の脇に倒れてたらしい、制服からフランチェスカと判断され学校に連絡。
学校では行方不明の生徒が発見の報告に一時騒然、至急確認も兼ねた迎いが出た。
捜索願いも出でいたので、警察の事情聴取も行われて『二週間もの間、何をいたのか?』の問いに咄嗟に出た嘘が『山で道に迷った』だった。
方角も分からず、進めば進む程深みにはまる、偶然に見つけた川を下って途中から記憶が無いと喋ると。
後は勝手に大人達が自分のさ迷った道を作ってくれた。
まあ結果的には良かった、雰囲気や体つきが変わったのも山でのサバイバル生活での結果と無理矢理だが誤魔化せた。
それから一ヶ月が過ぎ普通の学生に戻った俺は平穏で退屈で人生全てにおいて霧がかかった日々を手に入れた。
目標だったはずの剣道部の先輩も春蘭の稽古?による飛躍的進歩のおかげか一本目の油断していた所を取った。
最も、その後は俺の成長を確認して的確に今のレベルを見抜いた先輩にコテンパンにされたが、いずれは手が届かなくもないと結論に達する。
それも稽古を続ければなのだが、何もかもが朧気状態なのだ。
そんなこんなで現状に到る、今の俺を見たら華琳は怒るだろうが、その怒る華琳が居ないのだから仕方がないと自分に甘える。
誰かが話し掛けている、及川だ。
まだ喋ってたのかと呆れかえるが、
「そういえばかずピー、聞いたか三年の先輩に転校生が来るらしいで、それがまたエライ美人らしいで」
及川の言葉に無反応、ただ美人という言葉に一人の女性が思い浮かぶ………フウッ、また一つ深い溜め息が出る。
205 名前:一刀十三号曰く、[] 投稿日:2009/09/06(日) 21:06:56 ID:fAoEGy1UO
なにやら廊下が騒がしいが気にしない。
ただ及川の声はしなくなったので個人的には耳元が静かになり助かる。
次第に騒音が教室に移った、こんなのは行方不明者が見つかったと見世物にされた二週間ぶり、それも3日で収まったが。
及川の声が再開されたがやや怒鳴り気味なことに意識を向ける。
「なんや自分!まったく興味無いふりして、ちゃっかり抜け駆けかい!」
なんのことか分からずも突然に閃いた。
まさかの淡い期待で逆に華琳が会いに来てくれた!!少しだけ気になり伏せていた頭の視線だけを少し上げた。
「(はい、既にアウト)」
腰の高さが華琳じゃ有り得ないぐらい高い。
腰に当ててる手が視界に入ると褐色の肌、更にアウト。
あれ?褐色の肌?誰だろうと記憶をたどる。
こっちの世界ではせいぜい真夏の田舎の爺ちゃんぐらいだが相手は女性、こっちでは女性にはほぼ無縁だ。
だが向こうの世界、魏に褐色肌の娘が居たか………いや居ない。
少し興味を持ちもう少し視線を上げてみると、見覚えのある素晴らしい胸が目に飛び込んできた。
しかし、俺のセンサーが“あの胸は揉んでいない”と告げる。
ここまで出かかっているのだが、よくよく考えればあれだけの素晴らしい胸が魏に居たら揉んでない訳がない。
結局あっちの世界でも無いと結論付け再び伏せる。
すると相手の声が聞こえた。
「は〜い、一刀♪」
声で確信しビックリして頭を上げた、そこには見知った女性と見知った制服があった、だが知らない組み合わせで形成されていた。
何が起きているのか理解出来なかった。
だが、何かが起きているのは理解出来た。
頭の霧は一瞬で晴れた。が、同時に恐怖にも襲われた。
なぜ今、目の前に現れたのが孫策なのか?
本気になれば素手でも余裕に俺を殺せるだろう。
黄蓋の復讐か?俺が消えた後に俺の詳しいことが彼女の耳に入り、ついには赤壁のことまで?
黄蓋が死ぬ原因は間違いなく俺に有った、なら黄蓋の復讐の相手は俺だろう。
しかし三国同盟成立の夜にだけ、しかも儀礼的にしか接してない、にもかかわらず陰険とか、怨みを引きずるだろうイメージは無かった。
ますます分からない?、なぜ華琳ではなく孫策なのか。
206 名前:一刀十三号曰く、[] 投稿日:2009/09/06(日) 21:09:38 ID:fAoEGy1UO
「ねえ、一刀。屋上にでも行かない?」
考え込んでると唐突に声をかけられる、人気の無い場所への誘いにどうしても接触した時間が短い為にネガティブな考えになる。
だがそんな俺の考えも露知らずに優しい声が続いた。
「これじゃ落ち着いて話もまともに出来ないわ」
周りを示唆する様な動作に釣られて周りを見回すと、俺に対する及川の殺意を筆頭に、孫策に対して女学生の妖しい視線が多数……流石は元女学院。
◇ ◇ ◇
屋上に着き再び周りを見渡すとあれだけいた野次馬も誰もいない。
遠巻きに着いて来てた野次馬も屋上まで着いて来る野暮な事はしなかった。
「まあ、悪いイメージで顔を覚えられたくないだけなんだろうけど」
「ん?何、一刀」
俺の声に反応し振り返る孫策、無造作な仕草なはずなのにあまり美しく華麗なのにビックリしてドッキリする。
及川が怒るのもなんとなく分かった。
こうして約二週間前まで、消えた最後の晩を抜かし敵対していた二人の王の片方と二人きりになったのだった。

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