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277 名前:恋曰く、[] 投稿日:2009/03/31(火) 02:13:39 ID:eBxEmLxQO
「まだまだ平和かなと思ってたけど、確かに日本も治安が悪くなったわね」
夜、近所のお婆さんが引ったくりに会うのを目撃し、追跡の為に駆け出しながらそう呟く。
「お婆ちゃん、少し待ってて。取り返して来るから!」
「あぁ、いいんだよ雪蓮ちゃん。お金だけで事が済むな…」
返事を聞く所か、言い終わる前には既に姿が見えなくなっている女性。
数多い友達からは、色々と危ないから少し控えた方が良いと親切な忠告をうけている。
だが、物心ついた時からの体が先に動く性格がそうそう直る訳もなく引ったくり犯を追いかける。
「こら!待ちなさい!」
追われてると判った引ったくり犯は“逃げる者達の為の場所”と言われてる所に文字通り逃げ込む。
そこは分かれ道が多く、曲がり角も多い為に見失い勝ちになり逃げ切れる場所だ。
特に追いかける側が一人ならば。
「待ちなさーい!」
普段なら終わってるはずの逃走も、今回の追跡者に限って一向に巻けない。
追跡用のレーダーでも有るのか?と疑う程だ。
そして、焦りからか逃走者達が“行ってはいけない場所”に着いてしまう。
つまりは『行き止まり』である。普段の倍は走った引ったくり犯は肩で息をしながら振り返る。
「あら?もう終わり」
と、声をかけてきた女性の呼吸が乱れて無いのが引ったくり犯を苛ただせた。
「どうやって着いて来た?」
疑問を口に出す。
「走ってよ、流石に飛べないわよ」
「惚けるな!明かに姿が消えたのが最低で4・5回は有った!どうやって“間違わず着いて来た!”」
自分の姿が見えない状態での3択以上の追跡を見事全問正解してきた女性に怒鳴る引ったくり犯。
「ああ、それなら勘よ」
あまりに自然なので事実なのだろうと判ったのだが、その事実に驚愕した。
「デタラメめ!」
いっそう倒すかと考えたが、実はそこそこ“心得が有る”だけに目の前の女性がまともにやっても敵わないと悟る。
すると窮鼠猫を噛むとは良く言ったもので、懐に手を入れると何かを取り出す。
本格的に身構えた女性、刃物ごときでは臆するつもりは無かったが。
「あら〜、本当に治安が悪くなったわね、今の日本」
懐から出てきたのは拳銃だった。
これで並大抵の猫なら逃げ出して終わっていたが、引ったくり犯に取っての不幸は相手が猫ではなく虎だった事だろう。
278 名前:ミケ曰く、[] 投稿日:2009/03/31(火) 02:18:28 ID:eBxEmLxQO
依然として平然な態度に怒った引ったくり犯は。
「オモチャじゃねえぞ」
バンッ!
空に向けて一発、発砲した。
「どうだ、オモチャじゃないって判ったか?」
だが態度が変わらない女性にますます苛つく引ったくり犯。
「お前のせいで弾が一発無駄になったな、責任を取って貰おうか……そうだな、その体でな」
「従うと思う?」
「なら代わりに鉛玉を喰らわせるさ」
片手で拳銃を構える。
自分が絶対有利と信じての余裕だ。
雪蓮と呼ばれた女性の方はこれは流石に命の殺り取り(やりとり)になるかもと思った瞬間、恐怖も確かに有ったが歓喜の方が勝った。
偉く遠い、時代を超えた懐かしさを感じた。
すると今までどんな状態でもどんな相手でもムカつくのが関の山だった感情に、生まれて初めて憎くも無い相手に殺意が沸いた。
この場ではそれが自然だと云わんばかりに。
「な・何だ突然!来るな!」
「あら?近づかないと、触れないし抱けないわよ」
本来、絶対的に有利なのは引ったくり犯のはずなのだが、突然の殺意に呑み込まれてガタガタ震えながら両手で拳銃を構え直す。
なお、近づいて行く雪蓮。
「来るな――!」叫ぶ事で隙が生じると雪蓮の姿が消えた。
ただ、しゃがんだだけなのだが冷静ではない引ったくり犯には混乱の極み。
依然、殺気は消えず、このままだと殺られるのだけは判っていた。
恐怖に思わず目を瞑って咄嗟に引き金を引いた。
バンッ!
二度目の乾いた音。
女性の左肩に灼熱が走った、弾が命中したのである。
瞬間、フラシュバックと共にある記憶が甦る。
自分が王だった時の記憶、一緒に駈けてくれた男(ひと)の記憶。
左肩の激痛と突然の膨大な情報によろめきながらも、撃たれた反動も利用して延髄蹴りを決めて引ったくり犯を気絶させた。
「痛っ!」
撃たれた肩の痛みに耐えながら立ち上がる。
銃声で通報が有ったのかパトカーがサイレンを流しながらやってくる、ランプに紅く照らされた雪蓮が喋る。
「私の名前…………雪蓮って真名だったんだ」
更に集まるパトカーに更に紅く染まる、まるで全身を返り血で浴びたかの様に。
「君、大丈夫か?」
駆け寄る警官。
左肩を抑えながら、誰にも聞こえない呟きが続いた。
「北郷…一刀………………フランチェスカ…学園」

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