[戻る] []

846 名前:ところで[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 14:55:06 ID:PuXr2LWhO
そろそろスレ埋めもかねて、ちょい長編を土曜15時頃から51レス分順次投下するけどOK?
〈投下概要〉
・投稿数:全51投下予定
・陵辱:なし
・オリキャラ:あり
・クロスオーバー:なし
・ジャンル:無印 恋姫†無双
・タイトル:孫呉の乱0/51
・その他:連投規制回避のため3本ずつ逐次投下
847 名前:孫呉の乱1/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:00:03 ID:PuXr2LWhO
「クソ!忌ま忌ましい!」
顔を歪め荒れる左慈を于吉が宥める。
「おやおや、荒れてますね。まだこの間のことを気にしてるのですか?」
「当たり前だ!もう一歩で北郷を殺せたものを!くそっ、あの山の妙な結界さえなければ、、、」
「そのことなんですがね。いろいろ調べて、少しわかったことがあります。」
「なんだ?」
「やはり、あの山には宝具が封印されていたらしいのですが…」
「それがなんだ今更…大体なんで北郷は平気なんだ?それに英傑もいただろう。」
「ああ、それはですね。どうもあの結界は本物のバカには効かないらしいです。」
「………」
 ドッと疲れを感じたかのように落ち込む左慈に于吉は目を細めて微笑む。
「まあ、元気を出してください。宝貝を調べたお陰で良い手を思いつきましたから。」
「お前の作戦がうまくいった試しがあるか。いつもあと一歩のとこで逃げられるじゃないか!」
「そうですね、あと一歩で北郷は我らの牙から逃れる。何故だと思います?」
「何故だと!バカにしてるのか?!それは奴が危機に必ず英傑どもがおっとり刀で……」
「そう、北郷一刀の危機には必ず彼女たち英傑が駆けつける。
先のときも曹操、孫権たちが駆けつけたために敗れました。」
ニヤリッと笑う于吉に左慈がなにかに気づく。
「お前、何を?」
「ふふ、毒には毒を、英傑には英傑をですよ。」
于吉の背後の闇から現れる人影に左慈は目を見張った。
「こ、こいつらは……」
・・・
・・

「いい加減なんとかしてください!」
バンッと机を叩かれ一刀は首を竦める。彼の前で倒産会社に債権回収に来た取立屋のように、愛紗
が怒りに震えていた。
「いつまであの女に好き放題させるのですか?!」
「あ、あの女って?」
薄々わかっていながら一刀がとぼけて聞いてみると案の定、愛紗の柳眉がぐんっと逆立った。
「袁紹に決まってるでしょう!ご主人様が拾って来たあの女ですっ!」
848 名前:孫呉の乱2/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:01:57 ID:PuXr2LWhO
「拾って来たって、、、勝手について来たんじゃないか……」
情けない一刀の言い分を無視して愛紗のクレームは続く。
「いいですか!ご主人様はお優しい方です。そこが美徳と言ってよいでしょう。しかし!その優しさ
に付け込んで好き勝手に贅沢三昧!知ってますか!あの女は勝手に自分の親衛隊を募集しただけでは
なく、部隊の鎧一式、全部黄金で造ろうとしたのですよっ!」
「そ、そうなんだ。」
すでに朱里から聞いていたがすっとぼける一刀に愛紗のボリュームが上がる。
「黄金の鎧など戦場では何の役にも立ちません。その予算があれば良質な軍馬が何頭揃うか、優秀な
兵を何人養えるか!それをあの女はちゃらちゃらと着飾ることばかりしおって!あまつさえ、、、」
そこまで言って愛紗の頬が染まる。
「ご、ご主人様の正妻などと勝手に自称するなどっ!認めませぬ!私は断固認めませぬぞっ!愛紗は
絶対反対ですっ!」
涙目になって抗議する愛紗に一刀は苦笑せざる得ない。
「(また始まった、困ったな〜)」
麗羽が勝手に言い出した本妻宣言を一刀は軽く聞き流してたが、まわりは結構刺激を受けたらしく
洛陽に戻ってからもなにかと揉めていた。それに輪をかけて洛陽での麗羽の贅沢三昧が彼女たちの神
経を逆なでしているのだ。
いわく専用の豪華絢爛な黄金馬車を仕立てたとか、南皮から専属料理人を呼び寄せ無駄に広い厨房
を建てようとしたり、勝手に温泉を掘って黄金風呂を設置したり等々……
とにかく傍若無人な振る舞いにすでに洛陽で知らない者のない麗羽であった。
「ははっ、、、まあ落ち着けよ、愛紗。俺も袁紹が正妻なんて考えてないからさ。勝手に金使うなっ
て俺からも注意しとくからさ。な、機嫌直せよ?」
宥める一刀に愛紗の表情が少し和らぐ。
「ホ、ホントですか?本当に袁紹を正妻になどと、お考えじゃないですね。」
「もちろんだよ。俺を信じて、愛紗……」
近づき目に力を込めて見つめると愛紗の顔がますます上気していく。
「ご、ご主人さ、ま……」
潤んだ瞳を震わせて愛紗の唇が近づいてくる。
「愛紗……」
二人の唇があと数ミリで触れそうな所まで来たその時……
「うぉっほん!」
わざとらしい咳ばらいがびくんっと二人を引き剥がした。
849 名前:孫呉の乱3/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:03:32 ID:PuXr2LWhO
「なっ、、、か、夏候惇!」
「しゅ、春蘭、秋蘭。」
そこには赤面した春蘭とその後ろに影のように静かに秋蘭が佇んでいた。
「ま、真昼間から何をしているっ、惰弱だな、関羽!」
「う、うるさい!何の用だ!」
共に赤面しながら言い合う二人を横目に秋蘭が一刀に近づく。
「北郷殿、少し良いか?」
「ああ、何?また華琳が市に行きたいとか?」
「いやちょっと違うのだが、同行願えまいか?」
「? いいけど?」
「な、ご主人様!今度は曹操の所に……」
 一刀の了承に愛紗が小さく抗議の声をあげると春蘭が勝ち誇ったかのように笑った。
「フフンッ残念だったな、関羽。一人で慰めてるんだな。」
「ぬうっ、か、かか夏候惇っ!」
「(あ、やばい、キレる!)」
慌てて真っ赤になって身を怒りに震わせる愛紗を後ろからぎゅうと抱きしめる。
「あっ!ご、ご主人様?!」
 驚く愛紗の耳たぶを甘噛みして囁いた。
「(ごめん、ちょっと行ってくる。続きは戻ったら、、、な?)」
「(あぅ、あぁ……)」
怒り心頭の愛紗が嘘のようにおとなしくなるのを見て、夏候姉妹が沈黙する。
「はぁ、、、し、仕方ないですね。」
愛紗の躯から力が抜け落ちるのを確認して一刀は内心ほっとして離れた。
「で、では私は警邏に行ってまいります。」
 こほんっと体裁を整え恥ずかしげにさっさと立ち去る彼女を見送ると、一刀は夏候姉妹に向き直っ
た。
「じゃあ、行こうか、、、どした、二人とも?」
頬を上気させてじっーと睨む春蘭とニヤニヤ笑う秋蘭。先に口を開いたのは秋蘭だった。
「いや、ご主人様も随分立派な猛獣使いになったものだと感心していたところだ。」
「も、猛獣使いって……」
「ふふっ、逆鱗に触れ逆上する青龍をあのような手段で鎮めるなど、、、たいしたスケコマシぶりだな♪」
 面白がっている秋蘭とは対称的に春蘭はぷりぷり怒っている。
852 名前:孫呉の乱4/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:14:06 ID:PuXr2LWhO
「ふんっ!いやらしい!なんだ関羽の奴、ほうけた顔しおって!ふんっ……」
「ふふふ、姉者。素直に言ったらどうだ?『関羽がうらやましい。ご主人様、私もぎゅって抱きしめ
て耳元で囁いてください』って♪」
「バ、バカなことを、、、なんで私が……」
「ふふふっ、顔に書いてあるぞ、姉者♪」
「う、うるさぃ、う、うらやましくなんかない……あっ!」
 真っ赤になる春蘭が妹に気をとられてる隙に後ろから抱きしめた。

  ぎゅううう〜……

「は、離せっ、このぉ、、あ、はぁ〜」
 振り向いて一刀を振り放そうとしたところへ耳たぶを甘噛みされ春蘭の抵抗値が激減する。
「…だ、だめぇ、耳は弱ぃ、、、」
 くたっとなった姉を見て秋蘭が目を細め囁きかけた。
「姉者、いい顔をしているぞ、、、そんなに気持ち良いのか、ふふふっ。」
「はっ! くっ、離せ、バカ!」
「痛!」
 慌てて肘を喰らわせ一刀を吹っ飛ばす。
「ふ、ふん!さっさと華琳様の部屋にいくぞ。」
・・・
・・

「穏から?」
「はい、毎回きっちり届いていた報告が遅延しています。」
 思春からの報告に蓮華は止めていた筆を走らせる。
「穏も忙しいのでしょうね、近々届くわよ、思春。」
「いえ、あやつのことです。怠業している恐れもあります。大方珍しい書籍を見つけて現を抜かして
いるのでしょう。」
 思春が不満をあらわにすると蓮華がくすくす笑う。
「ふふふっ、穏ならありそうね、本の虫だから。」
「笑い事ではありません。厳重に注意すべきです。さっそく詰問使の派遣を。」
「そこまですることはないわ。穏はよくやってくれてるもの、少しくらいの遅れは多めに見ましょう。」
854 名前:孫呉の乱5/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:19:39 ID:PuXr2LWhO
 取り合わない蓮華に思春は肩を落とす。
「甘くなられましたな、これも北郷殿の影響ですか。」
「!」
 ぴたりと筆が止まる。美しい碧眼が思春を見上げた。
「思春、何が言いたいの。」
「申し上げました通りです。最近の蓮華様は何かと甘い。そう申しただけです。」
 臆する事なく思春が蓮華の視線を真っ直ぐ受け止める。
「穏は私に代わって呉の民を指導してくれているのよ。その苦労を考えたら、報告書が遅れたことに
一々目くじらを立てなくてもいいでしょう。」
「別に穏の事だけを指しているのではありません。最近の蓮華様は、少し気を緩めすぎではないかと
申し上げているのです。例えばその恋文がそうです。」
「な、、これは、その、そう、これは呉の状況報告よ。こ、恋文なんかじゃないわ。」
「ほう。それにしては随分書き直しが多いようですな。」
 と思春が机の端の書き損じの一つを拾い広げる。
「なっ!し、思春!いくら貴女でも主の文を盗み見るのは……」
「ご本人の目の前ですから盗み見ではありませんな。え〜『一刀、この文を読んでいる刻、貴方は何
をしているのかしら…』」
「わーっわーっわーっ!!」
 慌てふためき思春から書き損じを引ったくる蓮華。真っ赤な顔を膨らませ碧眼に涙の玉を溜めて、
思春を睨みつける。
「…珍しい書き出しの報告書ですな。」
「ししゅん〜っ(怒)」
「そのように膨れっ面になられると小蓮様そっくりですな。」
「もーっ!嫌いっ!」
 ぷいっと拗ねてしまう蓮華を気にすることなく思春は続ける。
「そういえば小蓮様で思い出しました。ご存知ですか?」
「なによ、シャオがどうしたのよ。」
「昨夜また北郷殿の部屋に泊まられたようです。」
「っ!、、、しゃ、シャ、シャオたらしょうがないわね。一刀に甘えてばかりで、、、一刀は忙しく
て疲れてるのに……」
 無理に平静を装う蓮華に思春の非情な追撃が続く。
855 名前:孫呉の乱6/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:21:51 ID:PuXr2LWhO
「小蓮様だけではありません。曹操は部下を使い己の部屋に呼び付けているそうです。それに袁紹、
あの女は好き放題やりたい放題…」
 一拍の間を置いて思春は断言した。

「…このままでは確実に寝取られますな。」

「うっ!」グサッ

「先に周喩に王権を纂奪され、今また男を寝取られる、、、孫仲謀の矜持はどこに在るのでしょうな。」

「くっ…」グサッグサッ

「黄泉の孫策様も余りの情けなさに嘆かれる事でしょう。」

「っ……」

 黙り込んでしまった蓮華に思春は声色を和らげる。
「私はそのような悲しい孫仲謀は見たくありません。あえて厳しい苦言を申し上げたのも蓮華様に勝
ち取って欲しいのです、北郷一刀を!興覇は蓮華様に微笑んでいて欲しいのです。」
「思春……」
 蓮華の前にひざまづきその手を握る。
「蓮華様、もっと自信をお持ちください。受け身なだけでは遅れをとります。今は恋文よりも行動の
時です!攻めて攻めて攻め抜くのです!!」
「し、思春、落ち着いて……」
 ぎゅぅと手を握る思春の語気に驚く蓮華。瞳の奥に熱血の炎がめらめら燃やし自らの語気に酔った
思春の声が高くなる。
「一言お命じください!不肖 甘興覇、蓮華様のためならば北郷殿への道の露払いとなりましょう!」
「えっと、あの〜ししゅん?(汗)」
・・・
・・
858 名前:孫呉の乱7/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:36:14 ID:PuXr2LWhO
「〜♪」
 機嫌良く警邏中の愛紗を鈴々と翠が眺めてひそひそ話す。
「(気味悪いくらい上機嫌なのだ。)」
「(ああ、多分エロエロ魔神と今夜の約束したんじゃねえの?見ろ、あの尻、嬉しそうにぷりぷり振
っちゃって。)」
「(う〜む、確かに嬉しそうなのだ。むぅ〜愛紗だけずるいのだ。)えいっ!」
 突然、鈴々が目の前を行く愛紗のお尻をわしづかみにする。
「ひゃ! な、何をするっ鈴々!」
「ずるいお尻を成敗してるのだ。うひゃひゃ♪」
「な、何を言ってる?わ、バカ、止めろっ!」
 尻にくっついた鈴々を引きはがそうと慌てる愛紗に翠がツッコミを入れる。
「抜け駆けするからだぞ、愛紗。」
「ぬ、抜け駆けなどしておらん。」
「ほー、じゃあ今夜はあたしたちに朝まで付き合って貰おうか。」
「うっ、そ、それは……」
 口ごもる愛紗に鈴々がすかさず追撃。
「やっぱりそうだ!今夜はお兄ちゃんとこでえっちするんだっ!ずるい、愛紗ばっかりっ!」
「う、ううううるさいっ!」
 顔を朱に染めて愛紗は鈴々を振り離し睨んだ。
「い、今は警邏中だ。そのような戯言は聞かん。フンッ!」
「あ、逃げた。」
「うん、逃げたな。」
「逃げてなどいないっ。私は……」
「いーよ、いーよ。今は警邏中だもんな。その話は今夜じっくり聞かせて貰おう♪」
「そーなのだ。愛紗、逃がさないのだ♪」
「え?いや、それはちょっと……」
 慌てる愛紗に二人の目が見透かすように細められる。
「こ、今夜はダメだ。用事がある。」
「ふーん、どんな用事かなぁ〜翠、気になるよね〜♪」
「そうだな〜あたしと鈴々の誘いより大事な用事、一体どんな用事かな〜♪」
「う〜〜あーもぅ!ああそうだ、今夜はご主人様の所に行かねばならんのだ!これでいいだろうっ!」
 追い詰められて逆ギレ気味の愛紗に二人はケタケタ笑いこける。
860 名前:孫呉の乱8/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:38:27 ID:PuXr2LWhO
「アハハ、愛紗、真っ赤なのだ。」
「最初っから素直にそういやいいのに♪」
「お前たちが抜け駆けだのなんのと言うからじゃないか、ふんっ。」
「拗ねない拗ねない。そりゃうらやましいからな〜意地悪もしたくなるぜ。な〜鈴々、、、あれ?鈴々?」
 振り向くとさっきまで隣で笑いこけていた鈴々がいない。
「どこに、、、あ、いた!」
「またか、警邏中だと言うのに、、、おや?あれは恋ではないか。」
 二人が鈴々の姿を捜すと少し離れた酒家の店先に恋と話してる鈴々を見つけた。恋の前には例によ
って山盛りの点心が並んでいる。
「またあんなにたくさん、旨そ〜♪」
「翠、よだれ。」
 翠の緩んだ口元を注意しながら恋たちに近づく。
「恋、凄い量だが金払いはちゃんとしたろうな?ツケとかはいかんぞ。ちゃんと給金の範囲で買い物
しないと……」
「払ってない。」
「なっ!マジ?これだけの点心がタダ食い出来るって、、、あ!大食い勝負か?制限時間内に食えた
らタダになるだろ?」
「翠、それはないのだ。恋や翠に早食い大食い勝負の参加許可する店もうこの辺にはないのだ〜にゃ
はは♪」
「な〜に自分外してんだよ。鈴々だってそうじゃんか。」
「恋、どういう事だ、まさか賄賂とかではあるまいな……」
 顔色を変えた愛紗に恋が小首を傾げる。
「わいろ?旨いの?」
「う……(か、可愛い)」
「愛紗、恋にそんな難しい事わかる訳ないじゃん。店の人に聞いてみようぜ。おーい、誰か!」
 翠が酒家の奥に確認すると店の給仕が小走りに出て来た。
「はいは〜い、ただいま〜ご注文伺いまーす、、、あっ!」
「あれ?」
「お前って確か……」
「袁紹とこの顔良、、、」
 エプロン姿にお盆を抱いた斗詩と三人の視線が交差する中、恋だけはもくもくと点心をやっつけて
いく。
863 名前:孫呉の乱9/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:45:03 ID:PuXr2LWhO
「あ、あははっ、ど、どうも、関羽将軍、馬超将軍、張飛将軍。3将軍揃ってどうされたんですか?
あはは……」
 ぽりぽりバツの悪そうな斗詩に愛紗たちが不思議そうに聞く。
「が、顔良将軍こそ、な、なにしているんだ?まるでここで働いているように見えるけど……」
「いえ、まるでじゃなくてここで働いてるんです。えへへ……」
 少し照れて答える斗詩に翠たちは目を丸くする。
「い、いや、しかし、お前たちにもちゃんと給金が出てるはずだろう。名に聞こえた顔良将軍が、な
ぜそんな町娘のような……」
「あはは、袁紹様、金使い荒いですからいろいろ物入りで、、、洛陽広いからバレないかな〜って思
ってたんですけど、やっぱそういう訳にいかないですね。」
「あにゃ〜袁紹のために働いてるのか〜苦労してるのだ。」
「ああ〜噂は聞いてるぜ〜袁紹なんかいろいろ勝手にやっちゃってるらしいよな。朱里が歎いてたぜ。」
「はぁ〜孔明ちゃんには申し訳ないです。あと関羽将軍もごめんなさい。なんか勝手にいろいろと……」
「うむ、そのことならもうよい。そうか、袁紹もお前のような忠義の臣に支えられているんだな、、
、ところでちょっと聞きたいのだが、この点心の支払いの事なのだが……」
「ああ、それならお連れの方が全部お支払いして行かれましたけど?」
「連れが払った?おい恋、連れって誰だ?」
「知らない人……」
「なっ!ダ、ダメじゃないか、知らない人から食べ物こんなに奢ってもらうなんて、、、名前も知ら
ないのか?」
「ん〜?聞いたけど忘れた。」
「おいおい(汗) しょーがねーなぁ〜大方、点心に気を取られてたんだろうけど、、、どうする?
愛紗。」
「……恋、その人に何か聞かれなかったか?誰かの知り合いとか…ん?どうした恋、私の顔を見て。」
「愛紗と鈴々の知り合いだって言ってた。ご主人様に会いに来たって……」
「私と鈴々の?」
「誰だろ?幽州の人かな?」
顔を見合わす愛紗と鈴々を横目に、翠が恋の隣に座り点心に手を伸ばす。
「愛紗たちの知り合いってもな〜ご主人様に訳わかんない奴会わせる訳にいかんだろ。そいつどこ行
ったんだ?恋、一個貰うぜ、はぐっ……」
「ご主人様居場所わかんないって言ったら、愛紗たちに聞きに行くって言って城に行った、もぐっ……」
865 名前:孫呉の乱10/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:50:41 ID:PuXr2LWhO
「あ、鈴々も〜もぐもぐ♪」
「おい!今は警邏中だぞ。こら、二人とも!」
 一度食べ出すと止まらない三傑相手に悪戦する愛紗を眺めて、斗詩はくすくす笑う。
「(ふふっ秋蘭さんもいるし案外居心地いいかな、ここ。)」
・・・
・・

「やっと来たわね、相変わらずグズね。」
 部屋に入るや第一声は桂花の罵声だった。
「いきなりご挨拶だなぁ〜桂花ちゃん。」
「ふんっ!華琳様から声がかかったら速攻で来るのが当然でしょっ!グズッ!」
「はいはい、すみませんね〜」
「『はい』は一回!」
 一刀と桂花の毎度のやり取りを眺めて茶を取っていた華琳が、くすくす笑いながら口を開いた。
「相変わらず桂花は一刀と仲良いわね。ちょっと妬けるわ♪」
「か、華琳様!わ、私は華琳様一筋ですっ!こ、こんないやらしい男になんか……」
「わかってるわ、1番は私、一刀は2番よね。」
「あ、う、、そ、それはぁ、、、」
「そーかー桂花にとって俺は1番じゃないのか〜残念だな〜♪」
「な、なにバカな事言ってんのよっ!バカじゃないっ!」
 華琳に調子を合わせた一刀にからかわれて桂花が赤面反論する。
「まあ、その辺にしときなさい。今日はちょっとマジな話なのよ、桂花。」
 華琳にふられて桂花がこほんと小さく咳ばらいをする。
「最近なんだけど呉からの情報が全く入らなくなったの。それで孫権たちに変な動きがないかと思っ
て……」
「変な動きって、どういう意味だよ。」
 一刀の表情が曇る。しかし桂花は構わず核心を突いた。
867 名前:孫呉の乱11/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:53:39 ID:PuXr2LWhO
「あのおっぱい軍師が呉に行ってる間に情報封鎖。普通、謀叛反乱独立を企んでると考えるのが当然
でしょ。」
「・・・」
 無言で一刀が席を立つ。桂花が睨みつけた。
「ちょっとまだ話は終わってないわ。どこに行くつも……」
「そんな話なら聞く気はない。部屋に戻る。」
 出口に向かおうとする一刀を夏侯姉妹が塞ぐ。
「北郷、華琳様がこのような事でただ陰口を聞かせるためだけにお前を呼ぶと思うか。」
「姉者の言う通りだ。華琳様はそのような方でないことは北郷殿もとっくに理解されていると思って
いたがな……」
「む、、、」
 二人の指摘に華琳を見ると彼女は黙ってお茶を飲んでいる。逡巡の後、一刀は華琳に頭を下げた。
「わりい、確かに春蘭たちの言う通りだ。華琳なりに心配してくれたんだな。すまない。」
「…別にいいわ、そんなこと。それよりこの件どう処理するつもりか聞きたいわね。」
「それは、、、まず蓮華に聞いてみるよ。後は朱理に聞いて、全てはそれから決めるってのはダメか
な?」
「・・・ま、貴方の事だからそんなとこだと思ったわ。相変わらず甘いわね。」
「華琳様の言う通りよ。孫権に叛意があったらどうするつもり。」
「んーそんなことないと思うけどね。華琳もそう思わないか?」
「そうね、確かに彼女は覇者たるには少々優し過ぎる性格だわ。呉王となったのも姉から引き継がさ
れたようなものだし。本人も今のところ貴方の愛妾で満足してる……」
 そこで華琳の眼がちらっと一刀を見る。
「な、なんだよ(汗)」
「別に……でもたとえ孫権がそうだとしても側近もそうとは限らないわよ。」
「側近って穏の事、疑ってるのか?」
「陸遜だけじゃないわ。甘寧も同じよ。」
 桂花が華琳のお茶を替えながら言う。
「場合によっては、あのこうるさい孫家の末娘が首謀者かも知れないわ。姉と違って覇気だけは一人
前だから……」
 と、そこまで言ったとき、扉を蹴破り小蓮本人が怒鳴り込んできた。
「ちょっとっ!黙って聞いていれば好き勝手言わないでよねっ!」
「シャオ!お前なんで?」
869 名前:孫呉の乱12/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 15:57:15 ID:PuXr2LWhO
「もーっ!一刀が野蛮女に拉致られるの見たから、心配して後つければ、なにぃ?シャオ達が謀叛企
んでるぅ?よくもまあそんな陰険な中傷出来たもんね!魏の軍師は恥を知らないのかしらぁ?ふざけ
んじゃなーーーいっ!」
 噛み付かんばかりの勢いでがなる小蓮を一刀が羽交い締めにして抑える。
「シャオ落ち着け!華琳は心配してるだけだから。」
「なによ〜っ!一刀はシャオの味方してくれないのぉ!シャオは一刀の奥さんなんだよっ(涙)」
 涙目になって振り向く小蓮、華奢な躯が怒りにぷるぷると震えている。
「(あーあ、下唇噛み締めちゃって、よほど悔しいんだな。)いいか、シャオ。よく聞いてくれ。」
 正面から小蓮の頬を包むと真っ直ぐ瞳を見つめる。
「華琳は、曹孟徳は、陰で人を中傷したりする奴じゃない。気に入らない奴がいたら我慢せずに正面
から正々堂々とぶっ飛ばす。春蘭達も同じさ。シャオだってそうだろ?」
「うっく、、でもぉ……」
「華琳は純粋に心配してるだけなんだ、だからそんなに怒るな、な?」
「うぅ、そんなのわかんないもん……じゃあ、か〜ずとぉぅ〜」
 少し機嫌が直りかけた小蓮の甘えた声に、一刀はほっと油断し微笑む。
「ん?なんだ?シャオ。」
「シャオに今チュ〜してくれたら許したげる〜くすっ♪」

 「…………………はぃ?」

 一瞬にして一刀の背後の音が静止した。
「(ちょ、おま、なんて危険球を!)」
 見ると小蓮の瞳が可笑しそうに揺らめいている。
「(コイツ〜わざとか、小悪魔め…とにかくこの場はごまかそう。)え〜と…」
 振り向かなくても後ろの華琳達が全身を耳にしているのがありありと解る。
 そんな背中を気にしながら小蓮をごまかそうと迷う一瞬の隙を江東の小悪魔は見逃さなかった!
「むぐっ!」
「ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
 頭をぎゅうっと抱きしめられしっかり舌を吸われること数秒、ポンッと音の出そうな勢いで小蓮は
離れるととっとと出口に向かった。
「ウフッ、一刀ごちそうさまぁ、またねぇ♪」
 呆気に取られる一刀を残し小蓮は来たとき同様に風のように去って行った。
873 名前:孫呉の乱13/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:06:42 ID:PuXr2LWhO
「(さっきまで泣きっ面はなんだったんだ?……ハッ!)」
 唇に残る小蓮の柔らかな香りに指先を伸ばしていた一刀は己が死地にいる事に気づいた。
「(い、いかん。振り向いてはいかん!そこには鬼がいる、間違いなくいる!)」
 背中にガンガン突き刺さる視線に無視して出口へ向かい一歩踏み出した途端……
「まあちょっと待たれよ、北郷殿。」
 ガシッと右肩が掴まれる。
「華琳様の部屋で呉の女と接吻とはいい度胸だな、北郷。」
 グワシッと左肩をわしづかみにされる。
「・・・」
 そんな一刀の脇をすっと抜け扉を閉めた桂花の背中越しにガチャンと錠が落ちる音が響いた。
「(な、なぜ鍵をぉぉぉ!)」
 青くなる一刀の後ろから華琳の冷えた笑いが重低音サラウンドのように響く……
・・・
・・

「?」
 月がふと首を傾げてキョトンとする。対面で洗濯物を片付けていた詠が?顔で手を止めた。
「どした?月。」
「詠ちゃん、今なにか悲鳴のようなものが聞こえなかった?」
「え?いや別に何も聞こえないわよ?」
「そう…気のせいだね。」
 再び片付けを再開する二人のメイド、そこへすたすた思春がやってきた。
「(む、二人だけか。)北郷殿はご不在か?」
「はい、夏候惇さん達と出かけられたので曹操さんとこだと思います。」
「(何っ!しまった先を取られたか!)そうか邪魔したな……」
 挨拶もそこそこに立ち去ろうとする思春に蓮華が慌てて追いついた。
「思春!ホントに一刀の部屋まで行くなんて……」
「蓮華様、ちょうど良かった。今ご出馬を願いにお迎えに行くところでした。」
「え?」
「曹操がまた北郷殿を拉致したようです。急ぎましょう。」
「い、急ぎましょうって、まさか曹操の部屋に?」
 キョドる蓮華に思春が力強くうなづく。
876 名前:孫呉の乱14/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:10:49 ID:PuXr2LWhO
「ちょ、ちょっと落ち着いて、思春。それはいくらなんでも……」
「ご安心下さい。私がついております。邪魔は……」
 そこまで言いかけたとき思春の眼が廊下の向こうから走ってくる小蓮の姿を見つけた。
「小蓮様……」
「どうしたのかしら、なんだかぷりぷりしてるわ?」
 向こうも蓮華達に気づいたらしくぷりぷり肩を怒らせながら近づいてくる。
「も〜お姉ちゃん!部屋にいないから探しちゃったじゃない!一刀ならいないよ〜曹操とこにいるか
ら。」
「そ、そう、、、それよりどうしたの。孫家の姫がはしたない。」
「そんなことどうでもいいのっ!あのね〜……」
 憤慨する小蓮の説明を聞く蓮華と思春の表情がみるみる強張っていく。
「…なんという屈辱か!言うに事欠き我らが謀叛などと!おのれ荀或!小賢しい真似を!」
 激昂する思春に小蓮がシンクロする。
「だよねーっ!なのに一刀たら曹操達を庇うんだよっ!しっつれいしちゃうーっ!」
「! 小蓮、それは本当なの?」
 真顔で小蓮を問いただす蓮華の迫力に小蓮は息を呑む。
「う、うん、、、たぶん。」
「・・・そう(一刀に疑われた……)」
 足元が崩れ落ちるようなめまいを感じ蓮華は立ち尽くす。しばらく二人が心配気に見つめていると
突然踵を返し歩き出した。
「ね、姉さま?」
「れ、蓮華様、どちらへ?」
「知れたこと。一刀の疑心を解かなければ!穏に大至急確認するっ!」
 思春は蓮華の口調がすっかり王の口調になっている事に気づいた。
「はっ、では直ちに早船を……」
「手ぬるいぞ、思春。私が行って直接穏に聞く。疾く行くぞっ!」
「! 蓮華様自ら、し、しかし……」
「思春、お前の言う通りだ。私は甘かった。腑抜けていた。お前に穏からの報せが遅れていると言わ
れたときに気づくべきだったのだ!なのに私は一刀への文に気を囚われ……」
 外に通じる中庭に急ぎながら蓮華は唇を噛み締め眉を歪める。
「……呉の民を任せてくれた一刀の信頼を忘れたのだっ!」
「お姉ちゃん……」
878 名前:孫呉の乱15/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:15:20 ID:PuXr2LWhO
「蓮華様……」
 涙を流し己のふがいなさを歎く蓮華に二人はかける言葉を失う。
・・・
・・

「おぉ、軍師はん、ここにおったんかいな。」
「はい?」
 声をかけられ朱里がひょいと頭を上げると霞が立っていた。
「なんでしょう、張遼さん。」
「いや城の前にな、ご主人はんを訪ねてきた客がおって。まあ、愛紗らの知り合い言うけど最近剣呑
やから、まず軍師はんに思うてな。」
「あ、張遼さん、お気遣いありがとうございます。」
 先の白装束の件を気遣かっての霞の対応に、朱里は素直に感謝の礼を言う。
「ええんよ、気にせんで。こっちは居候やからね。少しは役に立たんとただの穀潰しやねん。」
「そんなことありません。聞きましたよ。先の時も華琳さん蓮華さん達と出陣しようとした翠さん達
を紫苑さんと諭してくれたそうじゃないですか。皆が帰ってくる場所を護るのも大切だって。ホント
に助かりました。ありがとうございます。」
「あ、ははは〜な、なんや〜照れ臭いな〜あはは〜熱ぅ///」
 染まった頬をパタパタ手で扇いで照れる霞に朱里がくすりと微笑む。
「ま、まあ、とにかく向こうに待たしてるから。」
「はい。」
 霞についていくと客間から紫苑の笑い声が聞こえてきた。
「お待たせしました。」
「あら、朱里ちゃん聞いて〜この方、占い師なんですって。さっき相性占いしていただいたの〜///」
 うっとり頬を染める紫苑に朱里が小首を傾げる。
「相性占い、、、」
「でね、子供がたくさん出来るそうよ〜あーん困っちゃうわ♪」
「はぁ〜相変わらずやな〜」
「ははは……」
 頭からハートマークを振り乱してる紫苑をほっといて占い師に相対する。
「お待たせしてすみません。私、軍師の諸葛亮です。ご主人様への御用件、よろしければ私が伺いま
すが如何でしょうか。」
880 名前:孫呉の乱16/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:19:40 ID:PuXr2LWhO
 キリリと背筋を伸ばし真っ直ぐ見つめる朱里に返って来た答は意外なものだった。
「ほ、ほ、ほ、そう緊張せんでもわしは左慈・于吉の仲間ではない。安心しなされ。」
「え!」

 シャリンッ

 朱里が驚くのと霞の偃月刀が占い師の首筋に当てられるのはほぼ同時だった。
「おい、オッサン!仲間じゃない奴がなんで名前知ってんだ、ゴラァ!」
「ほ、ほ、ほ、さすがは張文遠。神速の槍使いだのう。」
 余裕の占い師に霞が吠えた。
「ほ〜余裕こくんかいな、うちも舐められたもんやね。軍師はん、斬っちゃってええ?」
「はわわ〜ちょ、ちょっと、ま、待ってくださ〜い。」
「そうよ、霞ちゃんまずいわ。」
 皆が騒いでる所に愛紗達が戻って来た。
「なんの騒ぎだ、、、あ!貴方は……」
「あ〜!お久しぶりなのだ♪」
 占い師を見て驚く愛紗達に朱里が助けを求める。
「あ、愛紗さん、鈴々ちゃん、お二人の知り合いさんですか?」
「うむ、紹介しよう。前にも話したかと思うが、、、この方が希代の占い師、管公明殿だ。」
「そーだよ、鈴々たちがご主人様に会えたのはこの管輅おじちゃんのおかげなのだ。」
 二人の紹介に朱里達が改めて管輅を見る。
「ほ、ほ、ほ、ひさしいのぉ、関羽殿、張飛殿。二人の活躍は旅の噂でよお聞いたわい。無事善き主
君を得て信念を貫かれておるようじゃな。善き哉善き哉。」
「は、ありがとうございます。それも全ては、あの時の貴方様の予言があればこそです。あの時貴方
が、真に万民を救う道を示してくれなければ、私はただやみくもに暴れるだけの無頼漢として、今も
名も実も無い虚しい人生を送っていたでしょう。」
「うん、そーなのだ。あの頃の愛紗はただ強いぐうたらなゴロツキと変わんなかったのだ♪」
「鈴々!調子に乗るな!」
 柳眉を上げる愛紗のゲンコツから逃げる鈴々を尻目に、朱里が丁寧に管輅に頭を下げた。
「知らずとはいえ、失礼しました。どうかお許し下さい、管輅様。」
「善き哉善き哉。天下の逸才、諸葛孔明。徳操自慢の天才ならばいろいろ心配するのは当然だて。気
にしとらんよ。」
882 名前:孫呉の乱17/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:31:03 ID:PuXr2LWhO
「はわわっ!す、水鏡先生のお知り合いなのですか!?」
「うむ、徳操とはまあ同門のようなものじゃ。修学途中で飛び出した弟子を心配しておったが、息災
であったと伝えておこう。」
「はわわ〜すみません〜先生にはいつかちゃんとご説明しようとは思ってるんですが……」
「ほ、ほ、ほ、だがお主の活躍をまんざらでない様子で喜んでおったぞ。」
「お恥ずかしいですぅ〜///」
 小さくなる朱里の横で愛紗が話を進める。
「しかし今日は一体どうされたのですか?なんでもご主人様にご用件との事ですが……」
「うむ、実はのぅ……」
・・・
・・

「ううーん」
 自室のベットでは、華琳達にボコられた一刀を月と詠が手当していた。
「ご主人様、まだ痛みますかぁ?」
「あ〜ありがと月。だいぶ楽になったよ(こんなんばっかだな俺)」
「ふん、情けないわね!それでも男なの。」
 薬箱を片付けながら詠が悪態をつくが、今の一刀にはさすがにいつもの口喧嘩をする元気はない。
「詠もあんがとな〜」
「ふん……///」
 ぷいとそっぽを向く詠に微笑みながら月は思い出して言った。
「でも、シャオちゃん達大丈夫かな。さっきのなんかあれだったよね、詠ちゃん。」
「ん、あーあれ。そーね、ちょっと剣呑な雰囲気だったわね。」
「? なんのこと?シャオとなんかあったの?」
 二人の様子にただならぬものを感じ一刀は問いただした。
「うん、実は……」
 月と詠がさきほどの小蓮と蓮華達のやり取りを一刀に語っているところに朱里が来た。
「あの、ちょっとよろしいですか、ご主人様。」
「お、ちょうど朱里に相談に行こうと思ってたんだ。」
「え?なんでしょう。」
「いや、まず朱里のほうから聞くよ。何?」
884 名前:孫呉の乱18/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:33:29 ID:PuXr2LWhO
「すみません。実はご主人様にお客様が来てまして。」
「客?長老会の人かな?」
「いえ、管輅さんって方です。なんでも愛紗さん達がご主人様の事を占ってもらったそうで……」
「おーそういや聞いたな、その名前。でもなんの用だろ?」
「はい、なんでもあの山の結界の件だそうです。」
「結界?そんなんあったっけ?」
「あ、やっぱり気がつかれてませんよね。(つまり袁紹さんと同じくらいってことじゃ……汗)」
「うーん、とにかく会うよ。」
「はい。こちらです。」
 客間に移動する途中で一刀に後ろから声がかかる。
「あ〜ら、一刀さんじゃありませんの♪」
「(げっ、この声は袁紹。またやっかい事を……)」
 無理矢理笑顔を作り振り向くと麗羽と後ろに山盛りの荷物を持つ猪々子がいた。
「よ、よお、なんだ市に買い物か?」
「ええ。私の帰りを待ち遠しくて出迎えなんて、可愛いい人♪」
「い、いや、そういう訳ぢゃ……」
「そうです、ご主人様はお仕事中なんです。袁紹さん、遠慮していただけますか。」
 朱里が警戒心あらわに麗羽と一刀の間に割って入る。
「あら、おチビちゃん。そういう態度は良くなくてよ。北郷一刀は貴女のご主人様でしょう。という
事は私も貴女の主筋になるのよ……」
「なんでそうなるんですかぁ!私達は誰も貴女がご主人様の右に座る事なんて認めてませんっ!」
 おとなしい朱里が珍しくがるると牙を剥くが、麗羽は馬耳東風にするりと一刀の腕に絡み付く。
「ねえ〜かずとさん〜市で美味しい茶を買ってきましたの。一緒にお茶をいたしましょう♪」
「な!また無駄遣いしたのですか!袁紹さん、貴女もう今月の給金は使い果たして来月分も前借りし
たばかりじゃ……」
 朱里の目が三角になるが、本人はまるで聞こえないかのように一刀に巨乳を押し付ける。
「ねぇ〜いいでしょう。とても珍しい茶なのですわよ。」
「い、いや、これからちょっと客に会うから……」
「そ、そうですよっ!ご主人様っ、行きましょう、さ!」
 朱里がぐいぐい一刀の腕を引っ張り麗羽から引きはがす。
「む、、、私の誘いを無下にするほどの客ですの?なら私も同席いたしますわ、よろしくて。」
「え?そ、それは……」
885 名前:孫呉の乱19/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:36:24 ID:PuXr2LWhO
 驚く朱里を無視して麗羽は再び一刀の腕を捕り客間へと向かった。
「ちょ、ちょっと……」
 二人に両腕を捕まれ護送されるかのように客間に消える一刀を見送り猪々子はため息をついた。
「あ〜あ、姫ももーちょい考えればいいのに〜めんどくさい事にならなきゃいいけど……」
・・・
・・

「奴らは縛ってない?」
 左慈が少し驚いた表情で于吉を見ると于吉は嬉しそうに頷いた。
「ええ、自由意思を尊重してます。」
「しかし、それではいつ裏切るか知れんぞ。」
「大丈夫ですよ。利害が一致してるうちは我らの駒として動いてくれます。」
「利害か、、、確かに北郷達へ恨みを抱いている奴はそうだろうが、皆がそうとは言い切れまい。」
「ふ、その辺は呉の地から一歩も出られないようにはしてますから安心ですよ。おや?」
 見下ろす窓の外に何かを見つけ、于吉の口許が緩んだ。
「おやおや、どうやら面白くなってきましたね。」
「なんだ?何が……」
 左慈が覗き込み眼を見張る。
「あれは、、、孫権。」
 長江の桟橋に着いた早船から降りる蓮華達を見つけ、左慈が眉をひそめる。
「甘寧に孫尚香もいる。奴ら気づいたのか?」
「いや、近くに他の英傑の気配がありません。彼らだけで来たと見るべきでしょうね、ふふふ。」
「そうか、陸遜からの連絡が途絶えたので様子見に来たのか。しかし自らとは迂闊な。ちょうど良い
、奴らがどうするか見せて貰おう。」
「そうですね。」
 左慈達の冷酷な視線に気づかず蓮華達は桟橋を抜け県令府である元呉の王宮へ急ぐ。
「姉様、そんなに急がなくても大丈夫だよ。ここに来るまでいつも通りだったじゃない。」
 競歩で急く姉に結構遅れて小蓮が声をかけるが歩みが緩むことはない。
 遅れず付き従いながら思春は蓮華の横顔をちらっと見る。
「(船中からずっとだ。まずいな、いつもの余裕がない。焦りすぎて禍を招かねばよいが……)」
 懐かしいはずの呉に近づくにつれて何故かチリチリと広がる不安感を抑え見慣れた呉の町並みを見
回す。
887 名前:孫呉の乱20/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:40:54 ID:PuXr2LWhO
「(特に変わったところはないな。むしろ皆明るく賑わっている。)」
 かつての戦災の傷も癒えた市には活気がある。焼け落ちた呉王宮も新たに建て直されていた。
「ん?」
 その時になって思春は違和感を感じた。視界に見慣れぬ物が写ったのだ。
「(あれは、まさか……)」
 己の見た物が信じられず思春の瞳が見開かれる。
「馬鹿な……」
 思春の瞳が捉えた物、それは見慣れぬ物ではなく、かつて余りにも見慣れた物ゆえ最初は視界に入
っても違和感を感じなかったのだ。
「ね、姉様、あれ!」
 小蓮も気づき蓮華に促す。
「え?・・・え!」
 小蓮の指差す場所にはためくその存在に気づき、蓮華の脚がぴたりと止まった。
「そんな、どうして……」
 三人が茫然と見上げる視線の先には、青空にはためく孫呉の牙門旗が悠然とその紅い風薫を漂わせ
ていた。
「蜀の軍門に下った呉が勝手に、それも平時に牙門旗を起てるなど、、、穏の奴、本気で謀叛を企ん
でいると言われても言い訳出来んぞ。」
 唸るように言う思春の言葉に蓮華が気を取り戻す。
「(本気で謀叛を……)」
 ギリッと歯の軋る音が思春と小蓮の耳朶を打つ。ぞっとして眼を向けると憤怒の瞳を牙門旗に向け
る蓮華が歯軋りを鳴らしていた。
「(やば〜い!姉様マジギレ!)」
「うっ……」
 孫呉でも本当に蓮華に近い者しか知らないが、蓮華はただおとなしいだけの少女ではない。
 いや、むしろ日頃おとなしいその表情の下には孫呉王家に脈々と流れる熱い血が眠っている。
 そしてその血は時々熱い灼熱の溶岩となって吹き出すのだ。
 蓮華の歯軋りはその前触れ、噴火前の地鳴りだった。
「(まずいな、この状況でキレるのは上手くない。とはいえキレた蓮華様を止められるのは亡き雪蓮
様か冥琳だけだ。私でお止め出来るだろうか。)」
 今にも暴れ出しそうな蓮華にじりじり近づき、いつでも押さえ込めるように構える思春の耳朶に意
外な声が飛び込んで来た。
888 名前:孫呉の乱21/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:43:50 ID:PuXr2LWhO
「蓮華様、そのような歯軋り、孫呉の王には似合いませんな。」
「な!お、お前は……」
「嘘、なんで生きてんの?!」
 驚き眼を見張る三人の目の前に、彼女はその黒髪を風に漂わせ佇んでいた。
「貴女が生きていたなんて、、、冥琳……」
「お久しぶりです。蓮華様。」
と彼女は婉然と笑った。
・・・
・・

「神殿の宝具?」
「さよう、あの山の神殿には禁忌とされる宝具が封印されていたはずじゃが、先日それが破られての
う。じゃがどうやら誰の仕業かわかったわい。」
 そう言うと管輅は首を麗羽に向けた。
「な、なんですの、わ、私は何も関係ありませんわっ!」
 あからさまに挙動不審な麗羽に皆の視線が集中する。
「と言うてもおぬしからわずかに宝具の残り香がするのう。アレをどうしたんじゃ?」
「どうもこうも知りませんわ。」
 ぷいとそっぽを向く麗羽をフォローして猪々子が尋ねる。
「あの〜その宝具ってどういった物なんすか?」
「ふむ、アレは古の宝具でな。余りにも質が悪い故、長く封印されておったのだ。並の者では近づく
ことも敵わんはずなのだが……」
 そこでふと麗羽の顔を見る。
「まったくそれがこのような形で破られるとはのう。げに無知に優る力無しと言うが、面白いものよ
のう、ほ、ほ、ほ。」
「なんだか馬鹿にされた気がしますけど、そんな妖しげな物にこの私が手を出す訳がないでしょう。
すごいお宝があると聞いて、艱難辛苦数々の罠を突破して手に入れた妖しい一物を、猪々子や斗詩に
使ったあげく谷底に落として壊したりなんてしてませんわ。」
 ぶるんっと胸を張る麗羽に猪々子がこめかみを押さえる。
「姫ぇ〜〜」
「なるほど、あんなとこにいたのは宝探しだったのか。壊したのはまずかったな。」
 そう一刀が呟くと管輅が手を振り訂正した。
890 名前:孫呉の乱22/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 16:46:46 ID:PuXr2LWhO
「いやいや壊してくれてかまわんよ。あんな物、世間を騒がすだけじゃて、無くなったほうがわしも管理が楽で良いての。ところで北
郷殿……」
 管輅が話題を変えたところに翠が駆け込んで来た。
「なんだよ、皆ここにいたのか。まったく探し回ったぜ。」
「翠か、何があったのか?」
「いや、ちょっと気になる事があってさ、星が朱里に報告したほうがいいって言うから……」
「なんですか?翠さん。」
 愛紗の後ろからひょいと朱里が顔を出す。
「実はさっき城門の衛兵から報告があって、なんか孫権達が急に早船仕立てて出てったらしいんだ。
朱里かご主人様、なんか聞いてるか?」
「え!そ、それって、まさか呉の方向にじゃないですよね?」
「そうだけどまずいの?」
「はわわ、ま、まずいですぅ、最近呉から情報が絶えてるんで……」
 あたふたする朱里を見ながら一刀は先程、月と詠から聞いた蓮華達の話が蘇る。
「(まさか蓮華の奴、本気で俺に疑われていると思い込んだんじゃ……)」
 生真面目な蓮華の紺碧の瞳が脳裏に浮かんだ。
・・・
・・

「なぜ貴女が生きているの?あのとき確かに……」
 まじまじと見つめる蓮華に冥琳は唇を緩め答えた。
「ええ…私は確かにあのとき紅蓮の炎に包まれて死に愛しい雪蓮の元に旅だったはずでした。」
「さては影を身代わりにしたな。そして呉に潜み反乱の機会を……」
 思春が蓮華を庇うように前に進み半月刀を逆手に構える。しかし冥琳は淡々と続ける。
「反乱?それは違う。本来の主の元に呉が戻って来ただけだ。」
「本来の主?バカを言え、呉の主君は蓮華様唯一人だ!貴様ではないっ!野心に分を忘れたかっ、周
公謹っ!」
 射殺さんばかりに睨む思春の眼力をさらっと受け流がす冥琳。両者が睨み合っていると、冥琳の背
後の陰から明るい声が飛んで来た。
「ダメよ〜冥琳。そんな言い方じゃ蓮華達が混乱しちゃうだけよ♪」
「な、、、」
898 名前:孫呉の乱23/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:25:31 ID:PuXr2LWhO
 聞き覚えのあるその陽気な懐かしい声に蓮華は絶句する。
「(そ、そんなはずない、、、姉様が……)」
 瞬きも忘れて目を凝らす陰の中から散歩でもしてるかのようにのんびり現れたのは、死に別れたは
ずの姉、孫策こと雪蓮その人であった。
「ね、姉様……」
「嘘、お化け……」
「バカな……」
 三者三様の驚き様に雪蓮はきゃきゃ笑いながら冥琳に抱きつく。
「ふふ、見て冥琳。あんなに驚いてるわ!思春たら口まで開いてびっくりしてる♪」
「お、おい、雪蓮、真昼間から人前で抱き着くな……///」
「何よ〜夜な夜な激しく求めて来る冥琳は何処に行ったのかしら〜♪」
「バ、バカ。蓮華様が呆れているでしょ。あ、こら、変なとこに手を入れるんじゃない!」
 バカップル状態の雪蓮を見て茫然自失の三人は、ほとんど同じ感想を抱いた。
「(こ、この場の空気を読まないお気楽極楽ぶり、、、間違いない、本物だ……)」
 数歩よろよろ蓮華が前に出る。
「しぇ、雪蓮姉様……」
「蓮華、小蓮、久しぶりね。二人とも少し大きくなったかしら、ふふ。」
 冥琳から離れて近づく雪蓮、蓮華も思春達もその優雅で自然な歩みに警戒することすら忘れていた。
「会いたかった。」
 ぎゅうと蓮華を抱きしめる雪蓮の体温と香りが蓮華の記憶を呼び起こす。
「(あぁ、間違いない。雪蓮姉様だ。この柔らかく温かい感じは姉様だ……)」
 つぅーと紺碧の瞳から一筋涙が走る。気づいた雪蓮がぺろりと涙を舐めて微笑む。
「ふふふ、蓮華は相変わらず泣き虫ね。」
「姉様、どうして……」
「んーあたしも詳しく知らないんだけど、冥琳もあたしも蘇ったみたいなの。は、反?なんだっけ?
冥琳。」
「反魂の術だ。死者を呼び戻す道家の秘術らしい。」
「道家だと?と言うことは周喩、貴様あの左慈達の傀儡と言う事か。」
 思春が再び警戒心を高めるが雪蓮があっさり明るく否定した。
「思春も相変わらず心配性ね〜大丈夫よ、あたし達誰にも操られてないわ。自分の意志で貴女達の前
にいるのよ。」
 そういって今度は思春をぎゅうぎゅう抱きしめる。
899 名前:孫呉の乱24/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:28:37 ID:PuXr2LWhO
「しぇ、雪蓮様、お止め下さい。」
「し、しぇねえ……」
 思春の横で小蓮がうるうるした眼で見上げているのに気がつき、雪蓮のハグが思春から移る。
「シャオはちょっと見ない間に、すっかり女の子らしくなって嬉しいわ♪」
「しぇねえ♪ホントにしぇねえだ〜♪」
 目の縁に涙を溜めて抱きつく小蓮の頭を雪蓮は優しく撫でる。
「ふふ、甘えん坊なとこは変わってないわね、可愛いシャオ♪」
 再会を喜ぶ姉妹の横で思春が複雑な表情で冥琳に尋ねる。
「周喩、操られていないと言うならあの牙門旗はどういうことだ?お前も呉の軍師ならあの旗を再び
立てる事が何を意味するかわからん訳があるまい。」
「……」
「まさか雪蓮様が戻ったのをいいことに、また覇道を歩むつもりではあるまいな!」
「思春、それは違うわ、冥琳を責めちゃダメよ。」
「雪蓮様、しかし呉はすでに北郷の軍門に降ったのです。これでは蓮華様の立つ瀬がありません。」
「うーん、その話は聞いてるわ。あたしも平和になるならそのほうが良いわ。元々冥琳や二喬達みん
なで楽しく暮らせればまぁ文句ないしね。だけどどうしてもダメだって人がいてね……」
「? 誰なの、しぇ姉。」
「んっとね〜蓮華達がよく知ってる人、シャオはまあ初めてかな?多分もうすぐ来るわ、蓮華達が来
たの知らせといたから、うふっ♪」
 楽しそうに悪戯ぽい笑みを浮かべる雪蓮を訝っていると、冥琳が何かを見つけ声をかけた。
「噂をすればだな。来られたぞ……」
「え?!」
 冥琳の示す大通りの彼方からぱっかぱっか蹄を鳴らし馬が近づいてくる。
「誰?……」
「……」
「む?……」
 三人に向かい、馬は減速する様子もなくぐんぐん近づいてくる。
「れんふぁ〜!しゃ〜おれ〜んっ!」
「え?あれって!」
 馬上の主を確認した蓮華が雪蓮を見ると、彼女は冥琳と避難中だった。
「蓮華、小蓮。ちゃんと受け止めたげてね♪」
「ええ?!」
901 名前:孫呉の乱25/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:34:31 ID:PuXr2LWhO
 驚く三人に向けて馬上の主がダイブする。

 ばふる〜んっ……ばふっ!
「二人共大きくなったな!あたしが死んだ時は、まだまだガキんちょだったのに!母さんは嬉しいぞ
ぉぉぉーっ!」
「だ、大蓮かあさま、むぐっ……」
「えぇ?!おかあさ、むぎゅ……」
 蓮華と小蓮を天空より強襲した超爆巨乳がエアバックの如く包み込む。ほとんど顔が埋まった状態
の二人を豪快に母、孫堅こと大蓮はぎゅうぎゅう抱きしめた。
「ほーら、お前達の大好きなおっぱいだぞ!懐かしいだろーっ!雪蓮も蓮華も小蓮もみーんなこのお
っぱいが大好きだったもんな!ほっとくといつまでも吸ってたもんな〜アハハ♪」
 ハイテンションで二人を振り回すうちに、ぐったりと蓮華と小蓮の力が抜けた。
「母様、その辺でやめないと二人共、帰って来れなくなりますよ。」
「ん?そうか?」
・・・
・・

 長江を早船が降っていく。その船上には一刀と愛紗達の姿があった。
「結局みんなきちまって、大丈夫だって言ってんのに。」
「そういう訳には参りません。ご主人様は軽く考えすぎです。」
 そういって睨む愛紗の背後、河向こうから聞き知った声が飛んできた。
「そうだな、少し軽率だぞ。ご主人様♪」
「か、夏候惇っ?!なぜ貴様がいる!そ、それにご主人様をご主人様と呼ぶなと何度言えば……」
「善いではないか。愛紗、水臭いな、真名を許しあった仲だろう。」
「そ、それは貴様を武人として認めたからであって、ご主人様のことを認めた訳ではないっ!」
「偏狭な事を、、、あまり嫉妬深いとご主人様に嫌われるぞ、ふふっ」
「む、夏候淵!し、失礼な、私は嫉妬深くなどない!」
 真っ赤になって反論する愛紗を併走する早船越しに夏候姉妹がからかう。
「まあそう怒るな。我らは槍姉妹ではないか。」
「槍姉妹?」
 秋蘭の言った意味がわからず小首を傾げる愛紗だが、すぐ意味に気づき真っ赤な顔からボンッと爆
発したように湯気を出した。
902 名前:孫呉の乱26/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:37:46 ID:PuXr2LWhO
「な、な、な、なんて破廉恥な例えをするっ!や、や、やりなどとっ!秋蘭貴様、羞恥心はないのか
っ!」
「もちろんあるが、それは華琳様とご主人様のための取っておきだ。喜ぶからな、くくくっ」
「う、う、う、、、」
 すっかりやり込められた愛紗を見かねて一刀が話題を変える。
「どうしたんだ、確か洛陽に残るんじゃ?」
「私達はそのつもりだったが、アレがな。」
 秋蘭が顎で示す後方にもう一槽の早船が見える。
「なんだかキラキラしたのが騒いでるけど、アレってもしかして袁紹?」
「うむ、奴が後を追うと知ってな。急遽、華琳様も出ることになったのだ。ふぅ……」
 こめかみを擦り秋蘭はため息をつく。
「そ、そうか大変だったな。ははは……(なんだか疲れてる?)」
 一刀の脳裏に麗羽に対抗して華琳がわがままを言い出し、その段取りに奔走する秋蘭達の姿が浮か
んだ。
「まあな、慣れたよ。では呉でな。」
 そう手を軽く振り船室に戻ろうとする秋蘭に春蘭がくいくいと手を引く。
「? どうした、姉者。」
「うむ、そのなんだ。さっきのだな……」
「さっき?」
 怪訝な顔になる秋蘭の耳元に春蘭が恥ずかしげに囁く。
「その…槍姉妹ってなんだ?なんで愛紗があんなに恥ずかしがってんだ?大体 奴はともかく私の獲
物は大剣だし秋蘭のは弓だろ?」
「姉者……」
 くらっとめまいを感じ苦労性の妹はまたこめかみを抑えた。
「ふぅ(愛紗より鈍いとは……)ん、あれは?」
 行く手の河線上に船影を見つけ秋蘭が眼を細める。
「あれは、呉の旗!」
 隣の春蘭が呉の軍旗を見つけ闘気を上げた。
「一槽だけか。さすが呉の水軍、速いな。」
 あっという間に近づくと器用に反転して一刀達に併走する。
「あれは、穏じゃないか。」
 甲板に立つ穏の姿を認め一刀が声をかける。
905 名前:孫呉の乱27/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:48:43 ID:PuXr2LWhO
「おーい、穏!」
「あらら〜まさかと思ったんですけどやっぱり一刀さんですか〜愛紗さんに朱里さんもいますね〜ち
ょうどいいですぅ♪」
 すーっと船舷が触れんばかりに接近しひょいと飛び乗ってきた。
「よいしょ、お久しぶりですぅ〜一刀さ〜ん。」
 ぶるんっと揺れる爆乳に眼を奪われる一刀ににっこり笑い、視線を朱里に移す。
「穏さん、貴女が来られたってことはやはり……」
「はいです〜孔明ちゃんの読み通り、皆さんをお迎えに参りました。呉の大王の使者として……」
「大王?」
 怪訝な表情の朱里に穏がこくりと頷く。
「はい、着くまでに詳しくお話ししましょう。実は……」
・・・
・・

 呉に着いた一刀達の目の前にど派手な彩色の闘技場が広がっている。腹に響く銅鑼や太鼓、弦楽器
に合わせて華やかな舞が踊る闘技場にはひな壇があつらえてあり、孫家の三代王が座していた。
「左にいるのが孫仲謀だから、右が先代の孫伯符、中央にいるのが先々代の孫文台ね。ふん、孫呉の
三代揃い踏みか……」
 華琳が一刀の隣で笑う。隣の朱里が驚きを隠せない表情で呟いた。
「はわわ〜穏さんに聞いてはいましたがホントに生き返ったんですねぇ……」
「ああ、奴らもなりふり構わず無茶苦茶しやがる。」
 穏から聞いた話では反魂の秘術で蘇った孫堅達により呉は掌握されており、于吉らが孫堅達を使い
北郷を倒す企みを画策していることは明らかだった。
 彼女達は于吉の手で復活したものの意思まで支配された傀儡ではないが呉の地に縛られているため
逆らえずにいるのだと言う。
『すみません、本来ならすぐ洛陽に報告するべきだったのですが、冥琳様に止められちゃって、、、
ごめんなさいね〜えへっ』
 そう言って自分でおでこを叩いていた穏も今は冥琳の隣に立っていた。
「穏さんにとって周瑜さんは師匠だから、きっと逆らえないんでしょうね。」
 朱里が同情するのを聞きながら蓮華を見ると、彼女もじっとこちらを見つめていた。
 その表情には悲しげな憂いの色が浮かんでいる。
「蓮華……」
908 名前:孫呉の乱28/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 18:59:04 ID:PuXr2LWhO
 今、彼女が悩み苦しんでいるのがその碧い瞳から伝わってくる。母と姉のためには呉の孫権として
あの場に立たざる得ない彼女の苦悩が一刀にひしひしと伝わってくる。
 彼女の隣にいる小蓮と思春も複雑な表情だ。
「(つらいだろうな、待ってろよ。)」
 一刀がぐっと奥歯を噛み締めたとき、会場に豪声が響いた。
「よく来たな!北郷一刀!私は孫文台っ!蓮華、小蓮の母にして呉の大王であるっっ!!」
 大音量とともに裂帛の気合いがびりびりと大気を震わせる。
「むぅ!何という気迫!」
「さすが江東の虎なのだっ!」
「くぅ〜血が騒ぐわ!」
 愛紗たち武闘派が闘気に充てられ紅潮した顔で色めき立つ。
「話しは穏から伝えた通りだ。勝負は五番勝負っ!大いに競おうではないかっ!はーははははーっ!」
 顔の半分が口で占めるかの大笑いで武闘大会の幕は切って落とされた。
「なーんかテンション高け〜母ちゃんだな〜」
「そーね(てんしよん?)場の空気を豪快に吹っ飛ばす種類の人間だわ、あまり関わりたくないわ。」
 華琳が耳を塞ぎながら嫌そうに顔をしかめていると闘技場に最初の戦士が現れた。
「お、最初は、、、あ、あれ?あいつは……」
 その戦士を見た一刀達の目が丸くなる。
「ま、まさか、あやつも復活していたのか。」
 そういう愛紗に向かい、その戦士は真っ直ぐ手にした鉞を突き出した。
「久しぶりだな、関羽。さあ上がってこい!今度はお前をこの華雄がたたっ斬ってやるっ!」
 そう愛紗を睨みつけるその戦士、あの氾水関で散った華雄その人であった。
「うぬっ!よかろう!再び黄泉路に送ってくれるっ!」
 青龍偃月刀をがっしり握り愛紗が闘技場に上がる。
「気をつけろよ、愛紗!」
「愛紗!がんばるのだっ!」
「気張りやっ愛紗!」
 霞達の応援を背に愛紗は華雄と対峙する。
「ふん、また斬られに生き返ったか、華雄。」
「ふっ…この日を待っていたぞ、関羽。蘇った日から何度貴様を斬る夢を見たことかっ!くくっ!」
915 名前:孫呉の乱29/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 19:55:50 ID:PuXr2LWhO
ガキンッ!
唐突に繰り出される鉞を偃月刀で受け止める愛紗の顔が歪む。尋常でない戟圧にずしんっと手が痺
れたのだ。
「むっ!これはっ?!」
「ふっどうした顔色が変わったぞ、関羽。」
にやりと笑う華雄を愛紗が睨み据える。
「貴様、この力は一体……」
「ふふふ、これか、この力か、くくくっ……」
笑い出した華雄から尋常ならざる闘気が沸き上がる。
「き、貴様!?」
「くはははははっーーー!」
獰猛な肉食獣のごとき勢いで華雄の豪撃が愛紗を襲う。
「う〜やばいのだ。」
「やばいな〜押されっぱなしちゃうん?うちの愛紗が負けるなんて……」
鈴々と霞が手に汗握り応援する中、黙って見ていた恋がぽつりと言った。
「ダメ、このままじゃ愛紗負ける。」
「え?」
「あの鉞おかしい……」
「あ、そいや確かあいつの得物は槌斧のはずや。なんやあのまがまがしい鉞は?あ、あかん!」
連撃をかろうじて受け止めていた愛紗が弾き飛ばされ、闘技場の端まで転がるとようやく華雄の手
が止まった。
「ふはははっ、どうした!もう終わりか?関雲長!自慢の青龍偃月刀は飾りかっ!くははは〜っ!」
「ぐっ……調子に乗るなっ、華雄!」

「お!」
 愛紗のその言葉に、ニヤリと華雄の唇が歪んだ。

「……ふっ、調子にも乗るさ!我が相手に不足があるのだからな!」

「……っ!」
青龍偃月刀を杖に必死の形相で立ち上がる愛紗の表情がみるみる憤怒に染まる。
916 名前:孫呉の乱30/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:02:55 ID:PuXr2LWhO

 ギリッ

「取り消せ…許さん、、許さんぞ!華雄!」
「ふふふ、そうだ、その顔だ。その屈辱に歪む貴様の顔。己の武を、矜持を汚されて、その美しい顔
が歪むのをどれほど観たかったことかっ!あぁ〜いいぞ関羽、いい顔だ、ふふふ……」
 ぺろりと舌なめずりをして愛紗を見下ろす華雄の瞳に妖しい情欲の炎が光る。
「ありゃ、あいつもかい。あかん、愛紗はうちのや。」
 同族の匂いを感じ取り霞が殺気立つなか愛紗が気を吐く。
「気色の悪い目で見るなっ!気づかないと思っているのかっ、なんだその妖しい鉞は!」
「ほう、やはり気づいたか。どうだ好い得物だろう。」
「奴らから与えられた妖しげな武具に頼るとは、、、見損なったぞっ華雄っ!」
「なんだと……」
「氾水関でお前とまみえたとき、己の武を、士としての矜持を貫かんとするその心根に私は敬意と共
感を感じ全身全霊を持って答えた。」
「・・・」
「なのに今のお前はなんだっ?ただの傀儡ではないかっ!あの誇り高い武人華雄はどこにいるっ!?」
「……ふん、ならば聞こう。関羽、お前は戦に行くのに駄馬と名馬、どちらかを選ぶとしたらどっち
に乗る?」
「なに?そんなことは決まっている。名馬を駆るは武人の誉れだ。」
「ふっ、その通りだ。ならばなまくらな槍と名槍、どっちを選ぶ?!」
「むっ……」
 ギリッと愛紗が唇を噛み締めるのを見て華雄は勝ち誇る。
「わかったようだな、より良い武具を得物とするは武人の誉れよ!さあ休憩は終わりだっ!」
 ガキンッ
 再び華雄の猛攻が始まる。防戦一方の愛紗が追い詰められる。
「くっ(なんて重く速いっ、こうなれば……)」
 轟っ!と愛紗の全身から上がる闘気が増すと華雄は距離を取った。
「ん?」
「ゆくぞ、華雄っ!我が魂魄を込めた一撃受けてみよっ!」
「面白い!はああああああーっ!」
 必殺技を繰り出さんとする愛紗に華雄もまた闘気を練り上げる。
919 名前:孫呉の乱31/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:15:32 ID:PuXr2LWhO

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーッ

 二人の臨界に達した闘気が大気を大地を震わせ、そして……

「青龍逆鱗陣っ!」

「武神豪撃っ!」

 互いの必殺技が同時に放たれる。

 ズゴゴゴゴゴゴゴゴーーーッ

「うおっ!あ、愛紗っ!」
 猛烈な衝撃波が闘技場を吹き荒れる。小さな朱里がころころ転がってしまう中、鈴々がしっかり踏
ん張って闘技場を見つめていた。
「愛紗……」
 呟いた鈴々の声に一刀が闘技場に愛紗の姿を探す。
「あ、愛紗!」
 もうもうと上がる砂煙が収まるとそこには勝敗が決していた。
「勝った、、、私は関羽に勝った……」
 そこには互いにぼろぼろの状態になりながら立ち尽くす華雄と力尽きた愛紗がいた。
「あ、愛紗が、し、死んだのか……」
 混乱する一刀に恋が落ち着いた声をかける。
「気絶してるだけ。闘気を使い果たした。」
「そ、そうか……」
 ほっとする一刀の前では華雄が勝利を繰り返していた。
「勝った、私は勝ったぞ、勝ったんだ、、、」
 目の前に伏す愛紗を見下ろしながら何度も己の勝利を繰り返す。
「(勝ったのに……なんだこの虚しさは?なぜ勝利の喜びが湧いてこない?)」
 ふと愛紗の手元に転がる青龍偃月刀が目に入る。刃毀れし主同様ぼろぼろになったその様に反して
、于吉から渡された宝具の鉞は傷一つなく輝きを放っていた。
920 名前:孫呉の乱32/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:24:29 ID:PuXr2LWhO

『なのに今のお前はなんだっ?ただの傀儡ではないかっ!あの誇り高い武人華雄はどこにいるっ!?』

 じっと手にした獲物を見、ほとんど裸同然の傷だらけの己を見る。
「くっ……」
 彼女は憎々しげに顔を歪めると愛紗に背を向け闘技場から降りた。
「どうした華雄、関羽にトドメは刺さんのか?」
「ふん、こんな勝利では終わらせん。次は実力で倒す。」
 そういうとガランッと鉞を投げ棄て横になる。
「疲れた、寝る。」
 そう言ってふて寝する華雄をほほえましく眺めてから、大蓮は気絶した愛紗を心配そうに抱き上げ
る一刀を見つめた。
「(試合に負けて勝負に勝ったか、、、良い武人がいるのだな、北郷の元には……)」
 闘技場には二人目の戦士が立っていた。が今度は華雄と違い白頭巾で目元以外を隠しているため正
体がわからない。しかも白馬に騎乗したまま闘技場に上がってきたから一刀達はどよめいた。
「な、なんやありゃ?白づくめやんけ。」
「あの白装束の隊長なのかな?」
「お、誰か指名するぞ。あたしにしろ!愛紗の敵討ちだ。」
 鈴々や翠が色めき立つ中、白頭巾が剣で指す先には……麗羽達がいた。
「へ?」
「あり?あたしらご指名?」
「え〜そんな〜どーしよ文ちゃん。」
 驚く麗羽達三人に白頭巾が声をかける。
「袁紹!上がってこい!」
「ええ!わ、私ですの?」
「よかったじゃないすか〜袁紹様〜ご指名ですよ〜♪」
「ち、ちょっと文ちゃん……」
「な、何をしてますの、文醜さん!背中を押すんじゃありませんっ!」
「なに遠慮してんすか。こんな大舞台、なかなかないっすよ!さ!麗羽様〜気合いれてこ〜♪」
「ふ、ふざけるんじゃありませんわ!な〜んで私が!猪々子さん!こ〜ゆ〜ときこそ役立つときです
わ!日頃大喰らいさせてる恩に答える時でなくて!」
924 名前:孫呉の乱33/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:33:21 ID:PuXr2LWhO
「あにいってんすか!アタイ斗詩に食わしてもらったことはあっても麗羽様におごってもらったのな
んて南皮以来記憶にないっすよ!」
「きぃー!なんて忘れっぽい胃袋を……」
 いつまでもどたばた騒ぐ麗羽達を白頭巾が呆れて声をかける。
「お、おい、お前ら……」
 白頭巾の声も麗羽に届いていないようだ。いらつく白頭巾が馬蹄を進めたとき、闘技場に笑い声が
響いた。
「あーははははっ!天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!悪を倒せと蝶を呼ぶっ!」
「な、だ、誰だっ!」
 突然の声の主を探す白頭巾。一刀がぽりぽり頬を掻く。
「いないと思ったら星の奴……」
「誰かと問われれば応えよう!とうっ!」
 闘技場にすっくと見慣れた姿が現れる、顔に蝶のマスクをつけて。
「華蝶仮面推参っ!」
「え、、、ち、趙雲、何してるんだ?」
「む、私は華蝶仮面、趙雲などという素敵な英雄とは関係ないぞ。」
「いや、どーみても趙雲だろ。恥ずかしくないのかそんな蝶の仮面して……」
「ぬう!違うと申しておろう!大体貴様こそ、なんだその仮面は!目だけ隠さないなど邪道なり!
貴様に仮面をつける資格はないっ!」
「そこかよ!」
 星もとい華蝶仮面に一刀のツッコミが入るが白頭巾はあっさり普通に流した。
「いや、仮面でなくて頭巾だから……」
「うぬ、言い訳無用っ!」
 華蝶仮面の神速の槍が白頭巾に襲い掛かるが、ひらりと白馬がステップを踏み交わす。
「ちょっと待て、私はお前とやる気は……」
「黙れ、邪道仮面。正義の槍を喰らうが良いっ!」
 闘技場でなし崩しに始まった仮面対決を麗羽達が呆れ返って眺めている。
「なんか始まっちゃったけど、いいのかな、斗詩?」
「うん、そだね〜いいんじゃない。」
「あんな訳のわからない白頭巾の相手などしてられませんわ。」
 麗羽がほっとした顔で髪をかきあげる。そんな麗羽達から目を移し一刀は朱里に声をかける。
「なあ、白頭巾って、星のこと知ってて、袁紹に恨みがあるってことは……」
926 名前:孫呉の乱34/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:50:55 ID:PuXr2LWhO
「はい、それに白馬の扱い上手いですから、多分ご主人様の予想通りだと思います。」
「やっぱり。でもなんで正体隠してんだろ?」
「うーん、恥ずかしいからですかね?」
「まさか?んーよし、本人に聞いてみよう。」
 たたっと闘技場に近づくと一刀は白頭巾に問いかけた。
「なあ、伯珪。なんで顔隠してんだ?久しぶりなんだからさ。顔見せてくれよ。」
「っ! な、何を言う。わ、私は公孫賛ではない……」
 明らかに動揺し自爆する白頭巾に華蝶仮面が槍を繰り出さんとするのを一刀が止める。
「む、なぜ止めるのだ、あるじ…もとい北郷殿。」
「まあちょっと待ってて、なあ伯珪、公孫賛伯珪だろ。顔隠してもその目を見ればわかるさ。」
「う、ほ、北郷……」
 頭巾越しに目元が朱く染まるのが見える。一刀は確信して声を強くした。
「なあ、伯珪、覚えてるか?啄県に二万五千の黄巾党が迫ったとき、お前が防いでくれた。」
「う、あれは……」
「反董卓連合で弱小な俺達が虎牢関の先鋒をやるはめになったときもお前は助けてくれた。」
「……」
「今度は俺がお前を助けたいんだ、伯珪。」
 一刀の問い掛けにびくっと白頭巾が揺れる。
「む、闘気が消えていく。」
 油断なく構えていた華蝶仮面が槍先を落とすと白頭巾が白馬から降りてきた。
「まったく…恥ずかしいこと大声で言ってんじゃないよ……」
 しゅるしゅる頭巾を解くと下から見事な赤毛が零れ舞う。
「久しぶり、北郷。」
「伯珪……」
 視線を絡め見つめ合う二人を華蝶仮面がこほんと注意する。
「あ〜公孫賛殿であったか。なにゆえ仮面など……」
「北郷……」
「伯珪……」
「おーい、聞いておるか〜?」
 完全に蚊帳の外に置かれむくれる華蝶仮面をよそに一刀が尋ねる。
「なんで顔隠してたんだ?」
928 名前:孫呉の乱35/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 20:55:38 ID:PuXr2LWhO
「いや〜なんか恥ずかしくてさ。負けたこと根に持つ暗い奴って思われたくなかったんだ。へへっ…
…///」
「そっか、なあ、その袁紹のこと、そんなに恨んでるのか?」
躊躇い気味に聞く一刀に伯珪はからっと笑った。
「いや〜それが、、、あいつら見てたらなんか阿呆らしくなってきた、ははは……」
 そういって麗羽達のほうを見ると麗羽がつんと口を尖らせた。
「ふ、ふん、べ、別にあの時のこと、悪い事したなんてマツゲ1本分も思ってませんわよ。乱世の習
いですもの、私だって一刀さんに敗れたこといつまでも恨んでませんしお互い様でしょ。」
「姫〜こじつけだよぅ。」
「おだまりなさい。」
 斗詩を叱る麗羽から目を移し一刀は伯珪の手を握る。
「まあ、あれでも謝ってるつもりらしいから許してやってくれ。」
「そうみたいだな、ふぅ……」
そういうと彼女の顔から硬さが抜けた。そこに大蓮の声が響く。
「勝負ありっ!この試合、北郷軍の勝ちとする。」
「えー母様なんで?公孫賛、まともに試合になってないよ?」
「んふふ、いいんだよシャオ、それもまた一つの勝ち方だからね。」
 母の笑顔に小蓮が首を傾げる。
「武技を持って敵を降すを勇、知恵を持って敵を陥れるを智、赤心を持って帰順させるを徳と言う。」
 小蓮のおでこを撫でながら母の言葉は続く。
「復讐の念に悩むが故に公孫賛は頭巾を付けた。あれは奴の敵意と迷いそのものだ。それを北郷は自
らの想いを吐露することで自解させた。」
 小蓮の顔に明るさが戻る。
「そっかぁ、だから一刀の勝ちなんだぁ♪」
「そういうこと。北郷一刀、噂通り中々の徳の持ち主らしいな。」
「うん、一刀凄いんだよ!」
 本当に理解してるのかいないのか喜び踊る小蓮から目を移す。
「次はお前だな、冥琳。」
「はい、お任せください。大蓮様。」
 軽く頭を下げ闘技場に向かう冥琳に雪蓮が抱きつく。
「がんばってね、冥琳。」
934 名前:孫呉の乱36/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:12:19 ID:PuXr2LWhO
「ああ、行ってくるよ、雪蓮。」
「ん、ちゅ、、」
「ん、、、」
 接吻を交わした冥琳が闘技場に上がってくる。その目は真っ直ぐ朱里を睨んでいた。
「はわわ〜や、やっぱり私ですかぁ〜」
 蛇に睨まれた蛙のように震え上がる朱里に桂花が近づき笑う。
「がんばってね〜諸葛亮、応援だけしたげるわ、くくくっ♪」
「はうぁ〜荀或さん、ひとごとだと思ってぇ……」
「そんなことないわ、興味はあるわよ。三国を代表する軍師の対決。ぞくぞくするわ。」
「う〜やっぱひとごとですぅ。」
 あきらめて闘技場に怖ず怖ず上がる朱里に仁王立ちの冥琳が迎える。
「来たな、諸葛亮。貴様とは一度どちらが上かはっきりさせたかったぞ。さあ、なにで勝負するか選
ぶがいい、私はなんでもよいぞ!」
 自信満々の冥琳に朱里が選んだのは、やはりあの軍人将棋ような遊戯盤だった。
「ふっ、いいだろう。」
 サイコロを振り、朱里が先攻で勝負は始まる。一手二手と進むうちに双方長考に入るときが多くな
った。
「う〜なんだよ、地味だな〜もっと派手になんかないのかよ。」
「鈴々、なんだか眠くなってきたのだ、ふぁ〜……」
「お、おい、翠、鈴々。朱里ががんばってるんだから寝ちゃダメだろ。」
「えーだって、向こうも寝てるぜ。」
「え?あ、、、」
 見ると大蓮はもちろん冥琳を応援してた雪蓮まで船を漕いでいる。
「(あちゃ〜まともに観戦してるのは穏と蓮華くらいか……)」
 とはいえ蓮華も場が読めているようには見えない。穏だけがなにやら真剣にメモを録っていた。
「むぅ……」
「あぅぅ……」
 唸り悩む二人を除き、場の空気がなんとも白けた雰囲気になってきたとき、突然冥琳が頭を抱えて
絶叫した。

「ぬぅぅ〜天はこの世に周瑜を生みながら、なぜ諸葛亮をも生んだのだぁぁーっ!」
936 名前:孫呉の乱37/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:17:41 ID:PuXr2LWhO

 血を吐かん勢いで叫ぶとそのまま髪を振り乱し、ばったり卒倒してしまった。
 突然の卒倒劇に皆がア然となっていると桂花がふうっと息を抜いた。
「美周郎も可哀相に……可愛い顔してえげつない手を打つわ、恐るべし諸葛孔明!」
「? な、何が起きたのかわかるのか、桂花?」
「まあね。ここであれを理解してるのは、私と陸遜くらいでしょうね。」
「えっと?つまり?朱里が勝ったんだよな。」
「ええ、えぐい嵌め手でね。」
「なんですか〜荀或さ〜ん。」
 闘技場から降りて来た朱里が間に割って入ってきた。
「ご主人様が素人だからって変なこと言わないでくださいね〜荀或さん。うふふ……」
「何を言ってんのよ、貴女さっきのは禁じ手の……」
「うふふ〜じ・ゅ・ん・い・くさん〜」
「うっ、わ、わかったわよ。」
 桂花と朱里のなんとなく理解したくない会話を聞いていると闘技場から声がかかった。
「次、よいか?」
 見上げると思春が複雑な表情でこちらを見ている。
「思春、お前まで……」
「いうな。私は蓮華様の臣。蓮華様が呉のために立つなら私は、、、迷わない。」
 すらりと抜刀する思春の目に決意の色を見て一刀はごくりと息を呑んだ。
「そういうこと……では手加減いらないわね。春蘭行きなさい。」
「御意っ!」
「え?」
 隣に立つ華琳の名を受け春蘭が颯爽と闘技場に上がる。
「華琳?」
「一刀、見物も飽きたわ。孫呉に好き勝手させるのもね。」
「だけどな……」
「いや、私はかまわん。ただし夏候惇も北郷殿の負け星になるがいいな?」
「なにっ!ほざいたなっ!」
 思春の一言に春蘭の眦が上がると同時に大剣が一閃した。
938 名前:孫呉の乱38/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:23:56 ID:PuXr2LWhO

ガキンッ!

 春蘭の剛剣を受け流す思春。一刀が止める間もなく四戦目は始まる。
「ふん、噂通りの猪ぶりだな。盲夏候。」
「きさまーっ!その名で呼ぶなっ!」
 ブォンと唸りをあげて襲い掛かる剛剣をひらりとかわし思春は春蘭を挑発する。
「あかん、元ちゃん悪い癖や。甘寧の挑発に振り回されとる。」
 霞が眉をひそめるが華琳は平然としている。
「おい、いいのか?華琳。」
「ふん、まあ見てなさい。春蘭はここからが面白いのよ。」
「?」
 一刀が首を捻ったと同時に闘技場から春蘭の怒声が響いた。
「許さんっ!甘寧っ!」
 ぶんぶん振り回す剛剣が思春を両断せんと迫るが余裕の表情で彼女は交わし続ける。

ドゴッ!

「ふん、剣圧で地にめり込むとはたいした馬鹿力だ…なっ!」
 嘲笑う思春の頬が強張る。大地にめり込んだ大剣がそのまま地を持ち上げ、斬り上げてきたのだ。
「くっ!」
 跳ね上がる土砂に視界を遮られながらも剛剣を受け止める。いや受け止めたつもりだった。
「ぬぅんっ!」
 春蘭の剛剣は衰えることなく思春を鞠のように高々と弾き飛ばした。
「思春っ!」
 蓮華の口から悲鳴にも似た叫びが上がり、その声が飛びかけた思春の意識を引き戻した。
「(う、れんふぁさ、ま……お、墜ちる!?)」
 己が大地にたたき落ちる途中で気づくと猫のように身を捻り着地した。
「ぐっ……」
 ずきんっと鈍い痛みが鳩尾辺りに走る。見ると刃は歪み、鎧はひび割れていた。
「(刀で防いでも衝撃でこれか……馬鹿力め。)」
 くの字に歪んだ剣を捨て思春は春蘭に向き直った。
939 名前:孫呉の乱39/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:28:11 ID:PuXr2LWhO
「どうした、顔色が悪いぞ。甘寧。」
「ふん、非常識な奴だ、床に大穴が開いたではないか。」
「ふふん、得物もないのに余裕だな。」
「得物か……あるさ。」
 そういうと思春の指先からすーと何かが蜘蛛のように降りた。

チリン……

「鈴?」
 闘技場に鈴の音が静かに響く。思春の指先から極細の釣り糸のような糸に繋がった鈴が揺れていた。
「あぅ、姉様、思春が鈴鳴らしてる……」
「ええ、久しぶりに本気になったみたいね。」
 蒼白になった蓮華達の目の前で思春がすっと春蘭に鈴を向ける。
「こいつを使うのも久しぶりだ。夏候惇将軍、覚悟して来るがいい。」
「……」
 思春の変化を百戦練磨の春蘭はひしひしと感じていた。
「(なるほど、これが甘興覇の本気か……)」
 お互いの顔から余裕が消える。じりじりと間合いが詰められ、緊張感と闘気が高まっていく。
「互いに仕掛ける気や。」
「うむ、勝負は一瞬で決まるのだ。」
 霞と鈴々が固唾を呑んで見守る中、二人の闘気が弾ける。

「魏武の大剣っその身に受けてみよっ――――――っ!」

「鈴の音は夜道に誘う道標と心得よ、頸断の一撃っ!」

 二人の影が交差した瞬間、その衝撃が大気を震わせる。
「うっ……」
「くうっ、すげぇ衝撃波なのだ。」
「春蘭、思春?!」
 一刀達が注目する闘技場の中央に二人の姿があった。
941 名前:孫呉の乱40/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:35:18 ID:PuXr2LWhO
「し、春蘭、思春……」
「元ちゃん……」
「姉様、思春が……」
「……思春。」
 蓮華達が息を呑むその先には絡み合う思春と春蘭の姿があった。
「ぐ、ぐっ……」
「ぬぅ……」
 春蘭の躯を思春の鈴糸が複雑に絡み束縛している。手首を肩を太腿を乳房を締め上げる細糸が春蘭
の大剣を思春の眼前で食い止めていた。
「(くっ、面妖な糸を、、、くそ、切れん……)」
「(馬鹿力女め、、、これ以上力を入れたら切れてしまう。)」
 お互いに微妙な力の均衡を維持したまま時だけが流れていく。
「ふむ、これは勝負がつかんな。」
 しばらく眺めていた大蓮がぽつりと言うと小蓮がニコッと応じた。
「じゃあこの仕合は引き分けね。でもそれじゃ五番勝負の二つ負けてるから次に勝っても勝負がつか
ないよ、母様。」
「ふっ、心配いらん。そんなこともあろうかと最終戦に大将戦を取っておいたのだ。全ては次で決す
る。」
 ぶるんっと爆乳を震わせて立ち上がると大蓮は一刀に向かい一声を放つ。
「北郷一刀!こうなったからにはお互い次の一戦、大将同士で雌雄を決しようではないか!いざっ!
尋常に勝負!」
「えっ?!」
 大蓮の提案に一刀より朱里達があわてふためく。
「はわわ〜だ、だめですよぅ、それじゃ今までのが意味無いじゃないですかぁ〜」
「そーだよ、お兄ちゃん。次は僕が行くね!」
「いや、あたいだよな!」
 鈴々、翠が騒ぐ中で一刀は向かいに立つ蓮華を見つめていた。
「(蓮華……)」
「(一刀……)」
 互いの視線が絡み合う。
「お母様、最後の勝負、、、私に行かせてください。」
943 名前:孫呉の乱41/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:41:07 ID:PuXr2LWhO
「蓮華様!いけませんっ!」
 まだ春蘭と絡み合ったままの思春が叫ぶが、蓮華の決意は揺るがない。
「ふむ、、、」
 なにやら面白そうに見つめている大蓮の意を取り、雪蓮が蓮華の瞳を見つめて聞いた。
「いいの?蓮華。大将として出るということは、貴女は孫呉そのものとして彼と闘うということよ。
それは……」
「はい。決して負けてはならないということです。姉様。」
「蓮華……」
 妹の強く輝く碧い瞳に姉は息を呑んだ。そこに不退転の強い意思を見たからだ。
「……いいでしょう、孫家の宝剣南海覇王を預けるわ。行きなさい蓮華。」
「はい!」
 舞台に上がると蓮華は南海覇王を抜き、まっすぐ一刀に向ける。
「北郷一刀!いざ尋常に勝負っ!」
「蓮華、、、」
 惹かれるように舞台に進む一刀を鈴々たちが慌てて止める。
「ダメなのだ、お兄ちゃん!孫権は愛紗や鈴々より弱いけど、お兄ちゃんよりはずっとつおいのだ!」
「鈴々の言う通りだぜ。ここはアタイらに任しとけば…」
「わかってる。俺じゃ敵わないことくらい、、、でもここは退いちゃいけないんだ。怖いけどな、ハ
ハッ」
 青ざめた顔で無理矢理笑顔を作ると一刀は舞台の中央へ向かった。
「……一刀」
「蓮華……」
「なにも言わないで……一刀、私は孫仲謀。江東の虎・孫文台の娘。江東の小覇王・孫伯符を姉に持
つ孫呉の王族。それがすべて・・・」
 すぅ〜と手にした南海覇王を一刀に向け彼女は言い切る。
「そして今は……貴方の敵。」
・・・
・・

「ようやく奴が出てきたぞ。」
 闘技場を見渡す窓越しに左慈が眼を細める。
「そうですか、いよいよ佳境ですね。」
945 名前:孫呉の乱42/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:46:12 ID:PuXr2LWhO
 左慈の肩越しに一刀を見る于吉。その時、彼らの背後の扉が開いた。
「やっと見つけた!こんなとこに隠れてたのか。」
「おや……誰かと思えば確か許緒とかいう名前でしたね。迷子ですか?」
「いや迷子ではない。我らの目的地はここだ。」
 睨みつける季依の後ろからゆっくりとスレンダーな肢体が入って来たのを見て、于吉と左慈の眉が
ひそむ。
「夏侯淵……」
「死者の安寧すら利用する外道道師、于吉に左慈!天道を恐れるがいい。」
 シャン!と空気を裂いて秋蘭の弓が鳴る。
 一度に放たれた二本の矢が狙い違わず、于吉と左慈の眉間に吸い込まれるように迫った。
「停!」
 于吉が素早く印を組むと矢は二人の眉間直前でビタリと空中に静止した。その矢を払い落とし左慈
が不敵に笑う。
「ふん、傀儡風情が…縛っ!」
 双矢に続いて放たれた季依の鉄球がピタリと止まり左慈の手の中に落ちる。
「あぅ、う、動けない…」
「ぐっ、、、」
 道術による束縛で二人とも蝋人形のように動かない。
「ふふ、残念でしたね。声などかけずに不意打ちをしたらよいものを…英傑の矜持が騙し討ちを許し
ませんでしたか?」
「くっ、、、殺せ……」
「まあ、そう慌てることはありません。貴女たちは北郷一刀を葬ってしまえば消える存在なのですか
ら。そこでゆっくり眺めてなさい。くくっ」
「な…んだと…貴様ら一体何をした?!奴らをどうやって操っている!」
「操る?くくっ、いえいえ、彼らは操ってなどいませんよ。それでは英傑といえどただの傀儡です。
傀儡で用足りるなら白装束どもで十分。わざわざ禁を犯して彼らを復活させた甲斐がないというもの
ですよ。」
 口許を隠し笑いながら于吉の解説は続く。
「彼らの意思を縛ることは簡単です。しかしそれではせっかくの英傑としての持ち味が色あせてしま
う。北郷一刀を洛陽から引き出したにしても必ずついてくる関羽ら英傑に対抗する駒としてそれでは
困るのですよ。」
「馬鹿な、そんな不確実な方法で……」
947 名前:孫呉の乱43/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:52:40 ID:PuXr2LWhO
「不確実ですか…そうですね、確かに彼らを自由に解き放したならばせいぜい各地で小競り合い程度。
しかしこの呉の地から離れられないように制約を与えればどうでしょう。」
 ニヤリと于吉の眼が細くなるのを見て秋蘭が愕然となる。
「そう…か、呉の地から出られないように制約をかければ、奴らは北郷殿から呉に出向くように策を
……呉の情報封鎖も全てそのためか!」
「ええ、彼らは良くやってくれましたよ。さすがは美周郎・周瑜公謹。三国を代表する軍師ですね、
こうもうまくいくとは思いませんでした。ふふっ♪」
「まんまと…嵌められた訳か、くそっ!」
 悔しがる秋蘭を窓際の左慈の声が遮る。
「ふん、北郷め、必死に逃げ回ってるな。いつまで持つか見物だ。」
「ほう、孫権も手加減するかと思ったのですが情け容赦なく攻めてますね。これだから女は……」
 二人の道師が見下ろす闘技場では一刀が蓮華の剣を必死に交わしていた。
 キンッと受けるたびに火花が散る南海覇王の剣撃をぎりぎりで受け流す。
「くっ、蓮華っ!」
「・・・」
 一刀の呼びかけにも碧眼を据えたまま答えない。ただ不乱に剣を繰り出す蓮華の背中を見つめる小
蓮が雪蘭の袖をぎゅと握る。
「やだ、、、姉様ホントに一刀を斬る気だ。しぇ姉、止めようよぅ、こんなのシャオやだ……」
「そうね、蓮華の剣には手抜きは見えないわ。でも大丈夫じゃないかな。」
「え?」
「少なくとも受ける分には北郷殿も様になってるわ。よほど身を護る鍛練を受けているのかしら?う
まく逃げるものね。」
「あぁ〜いつも関羽や趙雲にボコボコにやられてるから、身体が逃げ方覚えてるんだと思う。一刀弱
いもん。」
「臣下にボコボコに?ふ〜ん、随分面白い君主さまね♪」
 面白そうに眼を輝かす雪蓮が闘技場に眼を戻す。

 ガキィィィン

 何合めか、強烈な斬圧に一刀の剣ごと弾かれる。よろよろ後退する一刀にようやく蓮華が口を開い
た。
949 名前:孫呉の乱44/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 21:57:56 ID:PuXr2LWhO
「なぜ攻めてこない!北郷一刀っ!」
「ぜ〜ぜ〜、、、む、無茶言うな。れ、蓮華だって俺が弱いの知ってるだろ。受けが精一杯だって。」
「そうか、なら斬られるがいい!ぬんっ!」
 キンッ
「とと、危ね〜やめろって蓮華!
「聞く耳持たぬ!せいっ!」
 ガキンッ
「うおっ?!」
 キィィン
「れ、蓮華、、、」
 ガキンッ
「……き、聞いてくれっ!」
 キンッ
「…俺が下手に斬り込んだら、、、お前そのまま斬られる気だろ。」
 ピタリと蓮華の剣が止まる。
「・・・」
「これでも毎日、愛紗たちに扱かれてるんだ。お前の剣に必死さはあっても殺気がないくらいわかる
さ。俺を追い詰めて反撃がきたら斬られる。それで今回の責任を取るつもりか?」
「私は……」
 睨む一刀の眼から視線をそらし蓮華は苦悩を吐露する。
「私は孫呉の王族として、母や姉とこの呉を……」
「孫呉の地や血に逃げるなよ。お前はなぜ俺に真名を許した?蓮華という真名をなぜ北郷一刀は呼ん
でいるんだ?」
「っ……」
「真名が孫権仲謀の生き様そのものを意味する大切な呼び名なら、、、俺はもう呼べないのか?呼ん
じゃいけないのか?教えてくれ、俺はお前をなんて呼べばいい?」
953 名前:孫呉の乱45/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:07:14 ID:PuXr2LWhO

 カラン……

 剣を棄て両手を広げ蓮華に一歩近づく。

「く、来るな、、剣を拾え、、、」

「教えてくれ、なんて呼べばいいんだ。」

「来るな、、、来ないで……」
 後ずさりながら構える南海覇王の切っ先は震えていた。

「もうお前を呼べないのか?」

「………ぃや」

「もうお前の真名を呼べないのか?」

「………いや」

「真名を呼び抱きしめることも出来ないのか?」

「……………いやよ………………そんなのいやよ、かずと!」

 ガランッ

 蓮華の指をこぼれ落ちた南海覇王が闘技場の床を鳴らす。
「私は……私は……」
「……なんて呼んだらいい?」
 ぎゅぅと一刀の胸に抱きつき泣き叫ぶ。
954 名前:孫呉の乱46/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:13:07 ID:PuXr2LWhO

「れいふぁと………蓮華と呼んで!かずとぉ!!」

 胸元に顔を埋めてむせび泣く蓮華の銀髪を撫でながら一刀は囁いた。

「蓮華……」

 抱き合う二人を眺め大蓮がふっと息を吐く。
「我が娘ながら…甘いな。雪蓮、けじめを!」
「はい、お母様。」
「え?お母様?しぇ姉?」
 驚く小蓮を尻目に雪蓮が闘技場に上がると転がる南海覇王を拾う。
「蓮華、貴女にこの南海覇王はまだ早過ぎたみたいね。」
「え?姉様…」
 背後の姉に気づき振り向いた蓮華の脇を一閃の煌めきが走る。

 ブシュー……

 己の腹にかかる真っ赤な液体に気づくのに蓮華の碧眼は時間がかかった。南海覇王に貫かれた一刀
の脇腹あたりから噴き出していることにも……

「南海覇王はこうやって使うのよ、蓮華。」
 近くにいるはずの姉の声が妙に遠くに聞こえる。

「れ、ん、ふぁ、、、」
 強く抱きしめていた一刀から力が抜けゆっくり崩れ落ちていく。

「かずと……?」
 倒れた一刀の脇腹辺りから真っ赤な水溜まりがどんどん拡がっていくのを見て、蓮華の思考が時間
を取り戻した。

「いやぁぁぁーかずとぉ!」
955 名前:孫呉の乱47/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:19:11 ID:PuXr2LWhO

 倒れた一刀にしゃがみ込もうとする蓮華を姉の豪腕が引き上げる。
「離してぇ!一刀が死んじゃう!」
「無駄よ、もう死ぬわ。」
「姉様!なぜ!なぜ一刀を?!」
「なぜ?蓮華、私は言ったはずよ、孫呉を背負う戦いに大将として出るということは、貴女は孫呉そ
のものとして彼と闘うということ。」
「っ……」
 唇を噛む蓮華の後ろから大蓮の声が上がる。
「よくやった雪蓮!さあ道師ども、約は果たしたぞ!北郷一刀を討ち取った!呉の地から我らを解き
放ってもらおうか!出てこい!」
 悄然と静まり返る闘技場にすぅ〜と霧から現れるように于吉の姿が立った。
「来たか、、、お前一人か。相棒はどうした?」
「ふふふ、貴女方孫家のお相手は私のほうがよいでしょう。正史からの因縁がありますから……と言
っても貴女方にはなんのことかわからないでしょうが。」
「ああ、わからんな。それよりさっさとそちらの約を果たしてもらおうか!」
「いいでしょう。ですが今更呉の地を出て天下に覇権を求めるのですか?前に話した通り北郷一刀が
死んだ今、左慈が用意してる銅鏡の儀が完了してしまえば徒労に終わるのですよ。」
「ふん、道師風情に覇者たる者の気概がわかるものぞ。最後の一瞬まで志を千里に走らせる。それが
英雄の心意気というものよ。」
 ぶるんっと超爆乳を揺らし気炎を吐く大蓮に于吉は肩をすくめて印を組む。
「解! さあこれで呉から出ても土に戻ることはありません。残り少ない魂魄をお好きなように……!」
 そこまで口を開いて于吉の表情が固まる。いや固まったのは表情だけではなかった。
「(か、身体が……これは一体?!)」
 驚愕する于吉の前に一人の道師が現れる。
「(管輅! そうですか、貴方が術を……この者達にかけた縛りを解くのを待っていたのですね。)」
「そうじゃ、于吉よ。おぬしともあろうものが焦りに場を見失うとは……禁呪の反魂に手を出した時
点で管理者が調整に来ることは予測できたであろう。左慈に入れ込み過ぎたのう、惜し哉惜し哉。」
「(ふっ、、、相変わらずえげつない。英傑を利用して隙を狙うとは。夏侯淵たちも貴方の差し金で
すね。左慈はどうしたのです、殺させたのですか。)」
「安心するがよい、おお、ちょうど来たのう。」
957 名前:孫呉の乱48/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:24:52 ID:PuXr2LWhO
 と管輅が見る方向から左慈を抱えた秋蘭、季依がやってきた。
 どんっと放り出された左慈も蝋人形のように動かない。
「管輅殿、ご指示通り無傷で連れてきました。お渡しします。」
「うむ、すまぬな。しかしこやつらの裁きは、我らの大師がなすでの。」
 二人に封呪符を貼ると管輅は倒れた一刀に声をかけた。
「もうよいぞ、囮役ご苦労。死んだふりもキツかろう、北郷殿。」
「……ふぅ〜ホント、キツいな死んだふりって。」
 むっくりと一刀が起き上がる。その半身は真っ赤に染まっていた。
「かずとっ!」
「蓮華、塗料で汚しちまったな、ごめん、びっくりさせちまって。」
 そういうと服の脇を開いて見せる。そこには鎖帷子とざっくり裂けた革袋が結び付けてあった。
「それじゃ、姉様も……」
「ええ、もちろん。でも穏から策を聞いたときには驚いたわ。ホントに君主自ら囮になるなんてね。」
「穏?…じゃあ、あの時!」
「えへへ〜そーです〜北郷さんたちを迎えに行ったとき、冥琳さまの案を孔明ちゃんたちと打ち合わ
せたんです。管輅さんが同乗されてたのが幸いでした〜」
「じゃあ、みんな知っていたのね。酷いわ姉様、お母様、私本当に……」
 じわっと涙目になる蓮華の頭を雪蓮が撫でる。
「ごめんね、蓮華。でもあいつら油断ならないからさ。ご先祖様も敵を騙すには味方からって言って
るでしょ。」
「うう……姉様のいじわる、知らない。」
 そんな姉妹に皆が眼を細めるなか、管輅が一刀に声をかける。
「では北郷殿、世話になったの。急ぎこやつらを大師に渡すゆえ失礼する。」
「あ〜、でも孫堅らは?まさかいきなり死んだりしないよな?」
 ピンッと場の空気が張る。皆が管輅の言葉に注目した。
「ふむ、それはこやつらの処分が決まってからじゃの。まあ、扱いが決まるまでは北郷殿にお任せし
よう。」
 そう言い残すと于吉、左慈とともにすぅ〜と消えてしまった。
「任せるって(さては押し付けて逃げたな)、、、」
 呆然と呟く一刀がふと気づくと雪蓮たちに囲まれていた。
957 名前:孫呉の乱48/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:24:52 ID:PuXr2LWhO
 と管輅が見る方向から左慈を抱えた秋蘭、季依がやってきた。
 どんっと放り出された左慈も蝋人形のように動かない。
「管輅殿、ご指示通り無傷で連れてきました。お渡しします。」
「うむ、すまぬな。しかしこやつらの裁きは、我らの大師がなすでの。」
 二人に封呪符を貼ると管輅は倒れた一刀に声をかけた。
「もうよいぞ、囮役ご苦労。死んだふりもキツかろう、北郷殿。」
「……ふぅ〜ホント、キツいな死んだふりって。」
 むっくりと一刀が起き上がる。その半身は真っ赤に染まっていた。
「かずとっ!」
「蓮華、塗料で汚しちまったな、ごめん、びっくりさせちまって。」
 そういうと服の脇を開いて見せる。そこには鎖帷子とざっくり裂けた革袋が結び付けてあった。
「それじゃ、姉様も……」
「ええ、もちろん。でも穏から策を聞いたときには驚いたわ。ホントに君主自ら囮になるなんてね。」
「穏?…じゃあ、あの時!」
「えへへ〜そーです〜北郷さんたちを迎えに行ったとき、冥琳さまの案を孔明ちゃんたちと打ち合わ
せたんです。管輅さんが同乗されてたのが幸いでした〜」
「じゃあ、みんな知っていたのね。酷いわ姉様、お母様、私本当に……」
 じわっと涙目になる蓮華の頭を雪蓮が撫でる。
「ごめんね、蓮華。でもあいつら油断ならないからさ。ご先祖様も敵を騙すには味方からって言って
るでしょ。」
「うう……姉様のいじわる、知らない。」
 そんな姉妹に皆が眼を細めるなか、管輅が一刀に声をかける。
「では北郷殿、世話になったの。急ぎこやつらを大師に渡すゆえ失礼する。」
「あ〜、でも孫堅らは?まさかいきなり死んだりしないよな?」
 ピンッと場の空気が張る。皆が管輅の言葉に注目した。
「ふむ、それはこやつらの処分が決まってからじゃの。まあ、扱いが決まるまでは北郷殿にお任せし
よう。」
 そう言い残すと于吉、左慈とともにすぅ〜と消えてしまった。
「任せるって(さては押し付けて逃げたな)、、、」
 呆然と呟く一刀がふと気づくと雪蓮たちに囲まれていた。
959 名前:孫呉の乱49/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:31:09 ID:PuXr2LWhO
「ふ〜ん、これが噂の天の御遣い?な〜んか蓮華やシャオに聞いたのと随分違うわね。蓮華、こんな
のにヤラレちゃったの?」
「ね、姉様!や、やられたとか……」
「そ〜だよ、しぇ姉様、のほほんとしてるけど、かずと手が早いんだよ♪アタシのときも凄かったん
だから♪♪」
「な!(シャオさんここでカミングアウトすか?!)」
「なんだと……」
「ひぃ!」
 大蓮が穴を空けん勢いで一刀を睨む。江東の虎としていくつものレジェンドを残す英傑の眼力に全
身の毛穴が開く。
「(ぶっ飛ばされるかな〜そりゃ親としては当然か、うぅ……)」
 半ばあきらめ覚悟をする一刀に大蓮が近づく。
「待って!お母様っ!」
 慌てて蓮華が間に入ろうとするが江東の虎は遥かに速かった。

 むぎゅ

「あひいっ!?」
 電光石火の早業で一刀のズボンの中に滑り込んだ大蓮の指にふぐりをわしづかみにされ一刀は変な
悲鳴をあげてしまった。
「ほ〜う、この孫文台の眼力を受けて縮み上がらんとはなかなかたいした一物だのう〜ふふっ♪」
「な、な、何を……孫堅さん。」
「ふふふ、昔から良い男はふぐりで確かめるものよ。これならたくさん子種が出そうじゃのう〜なぁ
小蓮、蓮華?」
「え?子種・・・///」
「うん♪一刀いっぱい出るよ!何回も!ぜつりんっていうんだって♪」
 赤面して黙り込む蓮華とあっけらかんと笑う小蓮に大蓮はニヤリと一刀を睨む。
「ほ〜絶倫か、結構結構♪そうでなくてはの、ふふふ。」
 急所を握られ直立不動の一刀に吐息がかかるほど顔が近づく。
「ふむ、やはり似とるな。」
「母様、似てるって誰に?」
 雪蓮の問いに大蓮が意外そうに視線を送る。
969 名前:孫呉の乱50/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:36:40 ID:PuXr2LWhO
「ん?お前覚えておらんのか?蓮華は小さかったし、シャオはまだ孕んだばかりじゃったから無理な
いが、お前は面影くらい覚えておろう。」
「え?え〜と、それってつまりお父様のこと?」
「他に誰がおる。シャオから話を聞いて世の中には似たような男がいるもんじゃと思ったが…中身だ
けでなく見た目もよ〜似とる。最初見たとき、あの人も蘇ったかと驚いたわ。」
 そういいながら一刀の顎を摘んで右左と角度を変える。
「ちょ、ちょっと、孫堅さん首痛い……」
「母様〜お父様はこんな弱っちぃ感じじゃなかったわ。もっと身体も大きくって良く肩に載せて……」
「そりゃお前が小さかったからじゃ。あん人はそりゃも〜弱くてな。そのくせバカが付くくらいお人
よしで優しいから面倒ばっかしょい込んで…結局、私が面倒見てるうちに呉を従える羽目になったん
じゃ。取り柄と言えば……」
 ぎゅうとまたふぐりを握り眼を細める。
「枕事だけは得意じゃったの〜おかげでポンポン三人産めたわ。ふふふ♪」
 艶っぽい眼で見つめる大蓮に蓮華の女の勘がアラームを鳴らす。
「お、お母様っ!いつまで一刀のふ……を握るおつもりですか、一刀が嫌がってます。離されては……」
「ん〜?なんじゃその蚊の鳴くような声は。孫家の女なら腹から声を出さんか!」
「うぅ…ふ、ふぐりです。一刀のふぐりから手を離してください。嫌がってるじゃないですか、お母
様っ!」
 頬を染めながらも必死に食い下がる次女に大蓮はカラカラ笑う。
「そ〜かの〜そのわりには竿のほうも隆々と勃起しとるがなあ〜♪」
「(うぅ、黙ってればズボンでばれないと思ったのに…このセクハラ母ちゃんは、、、おぉ!)」
 ふぐりをまさぐっていた指が男根に移り扱きはじめる。熟練された絶妙な指使いに思わず表情が蕩
けるのを蓮華は見逃さなかった。
「かずと……?」
「おうおう、カリ高の良い一物じゃ、これでぐりぐりされたらたまらんの♪」
「お、お母様……」
「あ〜母様ずるい!シャオも〜」
 母のパワセクぶりに絶句する次姉を尻目に小蓮が嬉々と参戦する。
「シャオ…ちょ、やめ、ズボンが破れるっ」
「応。なかなか筋が良いぞ、シャオ。さすが我が娘じゃ♪」
「まかせて〜♪かずとのことならシャオにおまかせ〜♪」
972 名前:孫呉の乱51/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:42:04 ID:PuXr2LWhO
「こ、こら…」
「シャオ、はしたないわよ、止めなさい。母様もはしゃぎすぎ、蓮華が涙目になってるじゃない。」
 さすがに洒落にならないと思ったのか長女としての責任感からか雪蓮が止めに入る。
「む、なんじゃ蓮華情けない。遠慮してどうする。全くあの人に似て優し過ぎじゃのう。ちなみに我
の悪いとこはぜーんぶ雪蓮、善いとこは全部シャオが継いだのぉ♪」
 頭を撫でながらシャオに微笑む母に雪蓮が口を尖らす。
「なにその露骨なえこひいき、鬼母が〜、ぐれちゃうわよ♪」
「何を今更、不良娘が。おぉ、そうじゃ。良い機会じゃから雪蓮お前も一人くらい仕込んで貰え。」
 まるでそこらへんで点心でも買うかのような気軽さでとんでもないことを言う。そんなパワセク母
に食い下がったのは冥琳だった。
「お待ち下さい大蓮様、雪蓮は、その、私が……」
「ちちくりあっとるんじゃろ。」
「ち、ちちくりって……」
「まあ、それはかまわん。かまわんが女同士でいくらちちくりあっても子は生まれん。國はまず人ぞ。
うむ、そうじゃ冥琳お前も一人産め。孫呉の柱石として次代の後継者作りは責務じゃ。雪蓮と仲良う
子作りに励め。」
「はぁ?何言ってんの。冥琳は私のなんだから。ダメよ〜」
 そんな親子喧嘩を眺める華琳に秋蘭たちが近づく。
「よろしいのですか?」
「ほっときなさい。バカバカしい。」
「まったくです。北郷も鼻の下を伸ばしてみっともない!」
 頬を染め憤慨する春蘭だったがふと隣の気配に気づいた。
「お、愛紗、復活したか。」
「ど、ど、どういうことだ、春蘭。人が気がついてみれば、なんだあの桃色事態は?!」
「私に聞くな。私だってゴニョゴニョ……」
「落ち着きなさい関雲長。一刀が女に弱いのは今に始まったことじゃないでしょう。一番付き合い長
いんだから度量を見せなさい。」
 そう諭す華琳も柳眉がぴくぴく震えているのを見て愛紗が春蘭たちに耳打ちする。
「(……なあ、ひょっとして怒ってるのか?)」
「(ああ、かなりな……)」
「(北郷殿も可哀相に……洛陽に戻ってからが見物だな。)」
「(ふむ、主には良い薬だな。)」
973 名前:孫呉の乱52/51[sage] 投稿日:2009/01/24(土) 22:46:06 ID:PuXr2LWhO
「(はわわ〜星さんダメですよ、面白がっちゃ〜)」
 仁王立ちで一刀を睨む華琳の背中でひそひそと騒ぐ愛紗たち。その向かいでも大蓮たちの喧騒にふ
て寝してた華雄が起き上がる。
「うるさいな〜寝れね〜だろうが……」
「起きたか、華雄。」
「公孫賛、まだやってるのか?」
「いや、終わったんだが孫堅がな……」
「?」
 あきれ顔の伯珪の視線の先を追い華雄が首を捻る。
「何をやってるんだ?……おい孫堅!」
「おう、起きたか華雄。そうだお前も参戦しろ!」
「参戦?戦さか!」
「うむ、乙女の矜持をかけた戦さだ!」
「矜持!うむ!よし!任せろ!」
「あ!お、おい華雄……」
 伯珪の静止などすでに聞こえていない華雄は、大蓮の煽りに喜色を浮かべ飛び出した。
「(うわ〜こいつホントに猪だな……)」
見ると一刀も華雄に気づいたらしく涙目で伯珪にアイコンタクトを必死に送っていた。


「・・・ごめん北郷、私じゃ無理!」


手を合わす伯珪の背中には蒼く澄んだ晴天がどこまでも広がっていた・・・


……………………終 劇……………………?

 [戻る] [上へ]