前々から気になっていたものがある。何時如何なる時も己が存在を示すそれ。
たまにへたってたりもしたけど。
「……」
「な、なんだ北郷。人の顔をじろじろ見て。失礼なやつだな」
「あのさ、春蘭。春蘭のその跳ねた髪の毛って寝ぐせか何か?」
「ん? ああ、これのことか。そうだな……教えてやるか」
そう言うと春蘭はピコピコと揺れていた自らの跳ね毛に手を伸ばし、摘まんで上へ向けた後に手を離した。
支えを失ったそれは、当たり前にへたりこむ。初めの位置とは違う場所、すこし右へずれた位置へ。
「ふむ、こっちか」
一言呟いて歩き出してしまう春蘭を俺は慌てて追いかける。
「急にどこ行くんだよ、春蘭。何か用事でもあったのか?」
「何を言うか。貴様が私の髪の毛が気になるというから教えてやろうとしてるのではないか」
「え? だって急に春蘭が歩きだしたからさ」
「口で説明するより見せた方が早いからな……っと、ほら北郷」
「どういうことだ? って、華琳じゃないか。こんな所にいるなんて珍しいな……。で、春蘭は何を見せたかったんだ?」
「何を言っておるのだ貴様は。私の髪の毛が何なのか知りたかったのではないのか」
「いや、そうだけどさ。 春蘭の髪の毛とここに連れてこられたことの関係がわからない」
「あら、春蘭じゃない、それに一刀も。二人してどうしたのかしら?」
「はっ。こやつが私の跳ねた前髪が気になるとのことで」
「なるほどね。確かに疑問に思わなくもないわね、春蘭の髪の毛は」
「えっ? 華琳は何か知ってるのか?」
「当たり前でしょう。春蘭は私に身も心も捧げているのだから。自分の物なんだもの、把握していて当然じゃない」
「なるほど。で、結局春蘭の髪の毛って何なんだ? さっぱりわからないんだが」
「仕方ないわね。春蘭、もう一度やってくれるかしら」
「はいっ! 華琳様」
そして春蘭はまた髪の毛を摘まんで上へ向けた後に手を離した。
そして髪の毛は今度は左側へ、華琳がいる方へと倒れて――
「あ、もしかして……」
「気付いたようね。その通りよ。理屈は解らないのだけれど、春蘭の髪の毛は何故か私がいる方向を指し示すの」
「華琳様ぁ、理屈が解らないなどと仰らないでください。私の華琳様への愛を持ってすれば、この程度の事の一つや二つ造作無いことです」