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440 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/01/21(水) 15:11:12 ID:aU0dNJzD0
ちょっと投下準備をしようと思ったんだが、>>428が終わったのかどうかわからんので待機する。
447 名前:名無しさん@初回限定[] 投稿日:2009/01/21(水) 15:43:42 ID:aU0dNJzD0
では、投下します。
話の時間軸的にオリキャラを出さざるを得ないっていうか、オリキャラしか出ないので注意。
具体的には関平と劉邦とその他(自分で言うのもなんだが面子カオス)。
448 名前:関平と劉邦(1/6)[] 投稿日:2009/01/21(水) 15:45:55 ID:aU0dNJzD0
諸侯が互いに争い、鎬を削った戦乱の世は終結した。
 
 天下は三つに分けられ、魏・呉・蜀の三国は互いに互いを監視しつつも、良好な関係を築き上げていき、大陸の民は三国の世に平穏を憶えた。
 
それから、約20年の時が流れた。
449 名前:関平と劉邦(2/7)←分母ミス。[] 投稿日:2009/01/21(水) 15:48:55 ID:aU0dNJzD0

「ああ・・・・いい空だ」
 蜀の都、成都の郊外。森の中を静かに流れる小川のほとりで、青年・劉邦は呟いた。  適当な場所に寝そべると、まず聞こえるのは川のせせらぎ、次いで風が草木を撫でる音。
 木立の間に覗く空は何処までも蒼く、ふと気付くと、意識がどこか遠くへ呑み込まれそうになる。
 (・・・・いや、このまま呑み込まれるのも悪くないな)
 そう思い至ると、彼は心を空に、身体を大地に委ねて、ゆっくりと目を閉じていく。

「見つけましたよ」
 底冷えするようなその声が聞こえたのは、それとほぼ同時に劉邦の顔の真横に煌めく白刃が突き立てられたのとほぼ同時だった。
「お・・・・・おおおおおおお!?」
 眠気も余裕もなにもかもが、きれいさっぱり吹き飛んだ。劉邦はほぼ反射的に跳ね起きて、腰に携えた『靖王伝家』を引き抜いて構える。
 目の前に立っていたのは、長い黒髪を後頭で一つに束ねた少女だった。木漏れ日に照らされるその姿は、彼女の怒りの籠った表情と、片手に持った青龍刀さえなければ、息を呑むほど美しかった。
「げぇっ!関平!!」
「なにがげぇっ、ですか劉邦様!また政務を放って、あまつさえ護衛も付けずにこんなところに・・・!自分の立場をお考え下さい!」
 黒髪の少女・関平は、主君であり、また兄でもある青年を凄まじい勢いで怒鳴りつける。
今の二人を見るものが見れば、かつて北郷一刀が関羽に叱られる姿を思い出しただろう。それほど劉邦は父に、関平は母に良く似ていた。
「いや、ごめん愛香さん、でもちょっと、今の起こし方は体に良くないと思」
「15回です」
 劉邦のセリフを遮って、再び関平が話し始める。
「今年だけで!まだ初夏なのに!!一真兄様が政務を放り出して勝手に城を出て行ったのは、これで15回目です!!今までは見逃していましたが、もう限界です!次抜け出せば、警告無しにこの青龍偃月刀で斬りかからせて頂きます!」
「もう斬りかかられたじゃん俺!」
「問答無用!さあ帰りますよ!私が得物を振り下ろさぬうちに!」
「・・・・はい」
 いざここに至っては、もう取りつく島もなかった。劉邦は剣を手に持ったままだった剣を収めると、まだ憤懣やるかない、といった関平の後をすごすごと付いて行った。
453 名前:関平と劉邦(3/7)[] 投稿日:2009/01/21(水) 15:57:20 ID:aU0dNJzD0
関平と劉邦。
 この二人は一応主従関係にあるが、同時に実の兄妹でもある。
関平は、蜀の武将にして三国屈指の武人、関羽の娘。真名を愛香。
 劉邦は、蜀の王にして泰山靖王の末裔、劉備の息子。真名を一真。
 どちらも、天の遣いにして乱世を治めた三国同盟の盟主、北郷一刀を父に持つ。
 劉邦は、北郷兄弟の長兄であり、また蜀の後継者でもあった。そのため、幼少より文武と王の心得を叩きこまれて育った彼は、正に生粋の王族である。
 筈なのだが。
 
(今だって面倒臭いのに、王様になったらもう、やってられないよなぁ・・・)
「何か言いましたか?」
「い、いいえなんでもありませんよ?」
 監視と手伝いを兼ねて、劉邦の隣で作業をする関平は、先ほどから刺々しい態度を一向に納めない。よりにもよって自分は、彼女の機嫌が悪い時に遊びに出て行ってしまったらしい。
それにしても、この山と積まれた書類の量はどうだ。まるでこの城にある全ての書類が自分に回って来ているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
 実際に、やる気はともかく次期国王でもあり、机仕事においても有能な劉邦には、下手な文官や部署に比べて、遙かに多い書類が回って来ていたりする。
 先ほどの昼寝は、そんな肉体的精神的に疲労している自分への、ほんの数時間のささやかな安息のつもりだったのだが、今更何を言おうが関平は耳を傾けてくれまい。
「手を休めないで下さい」
 ため息をついたのを見咎められて、劉邦は泣く泣く作業を再開した。
   
455 名前:関平と劉邦(4/7)[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:01:19 ID:aU0dNJzD0
結局、仕事が全て終了したのは夜も更けてからだった。関平が「他に仕事がありますので」と言い残して、日が傾く前に出て行ってしまった後は、鬼のような量の書類を一人で処理する羽目になってしまった。
ふと劉邦は、自分が実は昼飯すら食べていないことに気付いたが、同時に、この時間では厨房には誰もいないだろう、ということにも気づいてしまった。
「・・・・寝るか」
 明日の朝飯をたらふく食べることにして、彼は寝台に身体を投げ出した。
「・・・・・・・・・・・」
 今の自分の境遇に不満があるわけでは無い。むしろ、大陸の大多数の人間よりもずっと恵まれていることも理解している。政務は面倒だが、辛いわけではない。戦は嫌いだが、無辜の民を、大切な人を守るためなら血に塗れるのも構わない。
 しかし、城の豪華な宴会より、城下の友人や兵卒たちと飲んで騒ぐ方が好きだった。
書類仕事より、森の中で寝そべって、空を見上げている方が好きだった。
戦場を駆け回るより、まだ見ぬ場所を旅して廻る方が好きだった。
仰向けになって上を見上げると、そこにあるのは暗い天井。これを見つめていると、時折、ここは牢獄なのではないか・・・・・そんな気持ちに囚われることがある。
王ではない別の何かになって、自由に旅をしてみたい。
 それは、子どものころから心の片隅に、しかし確固として在り続けた、劉邦の願いだった。
456 名前:関平と劉邦(5/7)[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:02:41 ID:aU0dNJzD0
劉邦の意識が睡魔に乗っ取られようとしていた時。
 不意に、こんこん、と戸を叩く音がした。
「劉邦様・・・・一真兄様・・・起きてらっしゃいますか?」
幼い頃から慣れ親しんだ声。その声色は、昼間と違って穏やかだった。
「・・・・ん、愛香か・・・いいよ、入って」
「・・・・・失礼します」
 す・・・と、ほとんど音も立てずに関平・・・愛香が部屋に入ってくる。
 昼間もそうだが、彼女の気配の断ち方は神懸かりだった。存在感がまるで無いのに、月明かりに照らされるその姿は、この世のものでは無いかのように美しかった。
「一真兄様、その、お食事を抜いておられたようなので・・・・兄様?」
「え?あ、うん。それでどうしたのかな?」
 思わず見惚れていたことを取り繕うかのように尋ねた一真は、そこ初めて彼女が握り飯と茶を乗せた盆を持っているのに気がついた。 
「それ・・・俺に持って来てくれたの?」
「あ、はい。どうぞ・・・・」
差し出された塩握り飯にかぶりつきながら、劉邦は、どうも愛香が昼間とは打って変わってしおらしい、というより妙に遠慮している雰囲気を纏っていることに気が付いた。目をそらしたり体を揺らしたり、居心地が悪そうなのだ。
昔からそうだが、彼女は芯の強い娘であるが故、言い辛いことは胸の内に秘める癖があった。更に、正直者で嘘がつけない性格なので、隠し事がたちまち顔や行動に出てしまう。
「どうしたの?愛香。なにかあるなら相談に乗るけど?」
「!い、いえ、その・・・・昼間のことなのですが・・・・申し訳ありませんでした!」
 そして、追及されるとそれを隠しきることも出来ないのだった。
「まあ、それは別にいいよ。というか俺が悪いのは事実だし。まあ青龍刀にはさすがに驚いたけど、それもこのおにぎりで帳消しだよ」
「兄様・・・・・」
 申し訳なさそうに項垂れる愛香の髪を優しく撫でる。彼女の黒髪は、絹よりも滑らかで、まるで水のように手の隙間を零れて行った。
458 名前:関平と劉邦(6/7)[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:11:30 ID:aU0dNJzD0
「兄様は、政務がお嫌いなのですか?」
 食事を終え、寝台に腰かけていた一真に、隣に座っていた愛香が不意に口を開いた。
「ああ、うん。まあ、好きじゃないな。たまに、羅馬にでも逃げ出したい気分になるよ」
 一真の冗談めいた答えに、しかし愛香は顔を俯かせた。
「?どうしたの、愛香」
「・・・・・兄様は、いつも空ばかり見ています」
 俯いたまま、愛香は話し始める。
「兄様は蜀の王となるべきお方・・・蜀の地を、蜀の民を、蜀の空を見渡し、慈しむことのできるお方・・・・でも」
愛香が顔を上げて、一真の瞳を真っ直ぐに覗き込んだ。普段は強い意志の光を宿した切れ長の瞳が揺らいでいる。
「兄様は、蜀の玉座に興味が無い」
「そうだな。うん、愛華の言う通りだ」
 疑問をあっさりと肯定された愛華の瞳に、激情の炎が灯った。
「兄様!兄様が玉座を継がねば、一体誰がこの国の王になるというのです!?」
「袁麗か関興に任せればいいんじゃない?政務を放り出す放蕩王子よりは真面目だよ」
「姉様にも弟にも、兄様ほどの器はありません!馬騰にも趙統にも、私にだって!」
 堰を切ったように、愛音の言葉が、涙が溢れてくる。どうやら今日の愛香は、本人が知ってか知らずか昂っているようだった。
「兄様は蜀の王となり、ゆくゆくは三国同盟の盟主となるお方です!それなのに、張本人がそんなお気持でどうするのですか?」
「家臣たちの中には、姉妹たちを祭り上げ、兄様を貶めようとする輩も大勢います!もし兄様が王位継承権を放棄しても、連中は将来の禍根を断つために、兄様の命を奪いろうとするでしょう!」
 
459 名前:関平と劉邦(6.5/7)[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:14:20 ID:aU0dNJzD0
つ・・・・と、愛香の瞳から零れた涙を指で拭うと、一真は彼女をそっと抱き締めた。
「俺の事を心配してくれてありがとう、愛香。本当は、王座から逃げたいって言うのは、きっと俺の我儘なんだってわかってる。だから、愛香。こんな俺に付いてきてくれるかな?王の責務から逃げ出さないように、どこかに一人で行かないように」
「・・・はい・・・!」 
 涙を流しながら、一真の胸板に顔を押し付ける愛香。
「なんだか・・・・今日の愛香は昔に戻ったみたいだな。泣き虫で、愛紗母様の稽古から必死に逃げて俺にしがみ付いてた頃みたいだ」
「・・・・・女には、月に一度はそんな日があるのです」
 憮然とした表情でそっぽを向いた愛香の頭を、一真は優しく撫でた。



 
461 名前:関平と劉邦(7/7)[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:16:55 ID:aU0dNJzD0


 朝。窓から差し込む眩しい日差しと、鳥たちの忙しない鳴き声が、部屋を包むまどろみを、ゆっくりと溶かしていく。
 それが全てが、劉邦の部屋の扉とともに吹っ飛んだ。

 「な・・・なんだ!?」
 余りの轟音に、眠気を一気に吹き飛ばされた一真が、寝台から飛び起きる。 
「兄〜ちゃん、おっはよー!!なのだ!」
犯人はすぐにわかった。燃えるような赤毛の小柄な少女が、目を輝かせながら手を振っている。
「ら・・・・・蘭々!?扉に入る時はノックをしろって言ってるだろ!?」
 10才を少し過ぎたばかりの妹・・・猛将、張飛の娘である張苞(真名・蘭々)は、不思議そうに小首を傾げた。
「?ちゃんと叩いたのだ」
「吹っ飛ばしちゃダメなの!!」
「そっかー・・・そんなことより、今日こそ蘭々と遊んでもらうのだ!お兄ちゃん、いっつもお仕事と昼寝で蘭々の相手をしてくれないのだ!」
「いや、それは・・・」
「兄様は子どものお前と違ってお忙しいのだ、蘭々」
 むくりと布団を押し上げて、愛香が起き上がる。昨夜、なし崩し的に一夜を共にした(正しい表現です)のを、一真はすっかり忘れていた。
「ああああーっ!!愛香、ずるいのだ!蘭々だって、兄ちゃんと一緒に寝てないのに!」「兄様がお前と同じように早寝してしまったら、兄様の仕事が滞ってしまうだろう」
 何気にひどい事を言われたような気がする。
「むむむ・・・・・蘭々もお兄ちゃんと一緒に寝るのだ!」
「おごっ!?ちょ、蘭々?遊びに行くんじゃなかったのか!?」
「兄ちゃんと一緒なら、どこでも構わないのだ!」
「兄様・・・・今の言は、遠まわしに『遊びに行きたい』と言っているのだと捉えてもよろしいのですね?」
「何故バレたんだ!?」
「兄様っ!」
「ごめんなさい!!」
 こうやって風に過ごせる時が、日常の中にほんの少しでもあるのなら、きっと王でも何でも苦もなくやっていけるだろう。
そんなことを頭の隅で考えながら、一真は今この瞬間の幸せを噛み締めていた。
464 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:28:12 ID:aU0dNJzD0
作者です。初投下ですが、6.5とかあり得ないだろ・・・常識的に考えて。
とりあえず、桃香の息子は、史実の息子にするとなんか格が落ちそうなので、思い切って太祖様にしてみた。今は反省している。
最近妊娠、出産が相次いだので、そろそろ考えてた次世代ネタを使わないと先に投下されそうだったのでプロトタイプSSを急遽投入。結果はこの駄文・・・・・ちょっと、修行しなおしてくる。
続きが出るかは反響次第で。ではこのへんで失礼して 

>>428  心配せずとも、設定上ではほぼ9割娘なのでご安心を。しかしそう言われると、奴に息子が生まれるのか疑問だw
465 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 16:30:08 ID:aU0dNJzD0
>>464 >>463だった。ホントもう、最後までこの有様だよ!!

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