- 428 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:14:21 ID:sE5L1gae0
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だれもいないみたいだから一刀×冥琳を投下しようと思う。
ところで、ここはエロおkなんだっけか?おkならまた別の話で書いてみようとも思うけど。
こんなの冥琳じゃねえ、っていうのはゆるく受け流しいてくれるとうれしい。
- 429 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:15:53 ID:sE5L1gae0
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孫策が孫呉から。現世から去ってから幾許かの時が流れた。
新たな孫呉の王として知識と力をつけ、雪蓮に劣らぬ働きを続ける蓮華も、着実に王としての道を歩いている。
今日も空は高く、淡いブルーの雲間に消えていく千鳥の姿を眺めることができるのは、平和の証だろう。
「……」
そんな中、呉の…いや、大陸全土の中でも屈指の軍師である周瑜にも認められ、“種馬”という役割も持ちながら北郷一刀……俺はそこにいた。
ただ、その日の悩みの種はそんな自分の存在理由だった。
「…はぁ」
こんな日は、街をぶらつくか明命や亞莎と一緒に穏やかな時間を過ごしてたはずなんだけどな、と溜息。
もしくは、祭さんに稽古をつけてもらっているか、穏に勉強の手伝いをしてもらっているかだ、が。
今日に限ってはそのどれでもなく。朝から祭さんの姿はなく、穏も仕事、亞莎も勉強として穏のそばに付き、明命も相変わらずの気概で見張りの任を果たしている。
雪華の言葉だけでなく、自分の意思として蓮華を支えようとしてきた。
天人としての血を入れる、という役割も……まぁ成行きだったり理由はいろいろだが、自分なりに頑張ってるつもりだ。
たまに零れる溜息は、雪蓮の死を悼んでのものではなく、自分がどうしたいかという壁にぶつかったせいで。
いつまでも彼女の死を引きずるのは失礼だとも考えたし、何より一番傷つき、悔しいはずの蓮華や冥琳が頑張っているのだから。
「あなたたちの夫になる相手、か……」
だいたい全員に、自分はそう紹介された。で、どうするんだ俺。と再度胸に問いかけてみる。
孫権…蓮華のことはもちろん好きだし、俺自身、これからも支えていければと思っている。普段は俺に厳しい思春だって、本当は優しいのだ。
明命や亞莎だってその通りだし、祭さんに認めてもらえる男になることも、目標の一つで。
みんな好きなんだからしかたない、で片づけていいものなのかどうなのか…。
- 431 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:18:41 ID:sE5L1gae0
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ちら、と横目に机の上を見てみると、そこには山積みの本。
冥琳と一緒に買ったもので、彼女はもう読み終わったらしい。真似できない速度は流石というべきか。
ほとんどが子育ての本。冥琳に、自分の知らないだれかとの子供がいるんじゃないかと勘ぐり、変にヤキモキしたことははっきりと覚えてる。もちろん、その後の情事も含めて。
いつも、俺に背中を向けて先を歩く冥琳。けど、声をかければ俺を気にかけてくれて、追いつくまで待ってくれて。いつも涼しげで、たまに微笑んでくれる。
風になびく薄布のストールと一緒に舞う、文字通り漆を塗ったように美しい漆黒の髪と、彼女の笑顔は、何度も俺を見惚れさせた。
素直に見惚れた、と伝えても、天然なのか疎いのか、おかしなやつだな、なんて一言で受け流されるけどね。
「けど、みんなが好きな俺って、優柔不断?」
誰もいない空に呟いてみる。
呉のみんなのことが、俺は好きだ。もちろん、冥琳のことだって、俺は好きだし、きっとみんなを愛してしまってる。
頭をかいて、もう一度溜息と一緒に本に視線を送った。正直、これを全部読むのは遠慮したいんだけど、冥琳の、子供を待つ嬉しそうな笑顔と一緒に差し出されると、断れなかった。
と、そんな中でノックの音が響く。入室前にノックをして、ということは全員に一度話したのだが、律儀に守ってくれるのは冥琳と明命、亞莎くらいなのは悲しいね。
「どうぞ〜……」
「……もう少し覇気のある返事はできないのか、北郷」
「ごめん、冥琳。それより、どうしたの? 仕事?」
もうひとつ、ため息の理由があるとすれば、それは彼女の多忙さか。
彼女の多忙さは、きっと蓮華と同じくらいか、それ以上だってことは素人の俺にもわかる。それで時間が取れないことや顔が見れないことが、寂しかったんだ。…言わないけど。
なら、手伝えることは手伝いたいし。けど、冥琳は首を横に振って後ろ手に持っていた何かを投げてよこした。
慌ててそれを受け止めると、桃によく似た、それ。
- 433 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:22:10 ID:sE5L1gae0
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「李?」
「ああ。私も、今日街に出ていたら貰ってしまってな。仕事は、他の二人のおかげで落ち着いてきている」
「そっか。じゃ、いただきます。冥琳も、時間あるなら座って食べていけよ。お茶もあるぞ?」
「そうだな…。貰おうか」
なぜか、ちょっと嬉しそうな気配が滲んでる冥琳に首をかしげながらも、俺は先にお茶を淹れることにした。
齧り付けば、相変わらず強い甘みと心地よい酸味が弾ける。ちょっと時期は外れてるけど、十分に美味しい李。
冥琳と反対側に腰かけて、さりげなく本を隠すように位置取る。冥琳も、俺と同じように李を齧った。
「………」
「ん?」
やってることは俺と変わらないのに。
チョコレート色の肌の中でうっすらと赤い唇に触れる李が。果汁を舐める舌が。ほんの少しだけ覗く白い歯が。堪らなく俺の奥底を加熱する。
じっと見つめる俺に首をかしげる冥琳。けど、なんの反応も示さないで見つめ続ける俺に、形のいい眉をゆがめた。
「私の顔に何か付いているのか? それとも、二つ食べたかったのか?」
「いや、見惚れてただけ…だけど?」
「…ふむ。珍奇な奴だな、お前は」
「ひどいなあ」
「ふふっ、そうか?」
冥琳がまた一口李を齧る。
赤い赤い、小さな舌。感触も熱も。はっきりと思い出せる。
窓から入ってくる風がなびかせる髪も、それだけで俺の目をくぎ付けにする。
たまらなく。触れたかった。
「冥琳…」
「ん? やはり何か付いているか?」
「…キス、してもいいかな?」
- 434 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:24:51 ID:sE5L1gae0
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キスの意味が、すぐに伝わらなかったのか首を傾げる冥琳。
口付けのことだって説明したら、面白そうに笑った。
「まだ、空は明るいぞ?」
「キスだけでいいんだけど?」
「…それは駄目だな」
ちょっと…いや、かなりがっかりする。
触れ合える時間は減ってしまったし、結局あの絵本の最終巻も、忙しさにかまけて半分くらいしか進んでいない。
そんな俺の顔が情けなかったのか可笑しかったのか、冥琳が柔らかくも細い微笑みを浮かべる。そして、机を挟んでいた俺のほうへ。
「……ふぅ。それだけでは、私が満足できない…」
「……冥琳…んっ」
「ん…ちゅ…」
水面を映したような瞳に吸い込まれる。
啄ばむように、俺のほうからキスをする。
離れた冥琳の頬は、うっすらと赤くなっていて、俺なんかにそんな顔を見せてくれることが少し嬉しかった。
それ以上に。触れ合えることが。冥琳の体が温かいことが、嬉しかった。
「っちゅ…んはっ…。冥琳も、俺と会えなくて、寂しかったりした?」
「…少しだけ、な? だが…ちゅ、ん…北郷。お前は…ふふ。私以上に切なかったようだな…」
- 435 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:27:13 ID:sE5L1gae0
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見抜かれてる…。
一瞬で爆発するみたいに熱くなる顔を見られたくなくて、俺は冥琳の体を強く抱きしめた。
俺と変わらないくらい長身で、スタイルも抜群なのに。折れそうなくらい細い。なのに武官としての才もある。
あまりに深くキスしたせいか、彼女の眼鏡のフレームがカツカツと俺にもあたってズレを直すために冥琳の顔が離れていく。
かなり、名残惜しい。
「照れを隠すな。私も、それで嬉しいぞ……?」
「……いつも、俺の先を歩いてるな…」
彼女は何時だってそうだ。俺が彼女の後を追いかけるのが、いつものこと。
けど、声をかければ立ち止まり、待っていてくれる。微笑んでくれる。時たま見せる茶目っ気も、彼女らしい。
きっと、俺はずっと彼女を追い越せなくて。追いかけるように恋をするんだななんて。
もう一度。どちらからともなく唇を寄せ合う。
俺は…変に納得してしまった……。
- 437 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 14:30:59 ID:sE5L1gae0
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俺は顔をあげた。
そこには、三つの石碑。誰のかなんて、今さらだろう。
彼女と一緒に買って。一緒に読んだあの大量の本は。ほかのみんなとの子供の世話で役に立ったけど。そこに、彼女はいない。彼女との子はいない。
もう、俺が追いかける先に彼女はいない。立ち止まって振り向いても、彼女はいない。そもそも、彼女が俺の後ろにいたことなんてなかった。
だったら。俺は歩き続けるよ。いつかその先で、彼女が立ち止まり。俺を見惚れさせる姿で、待っていてくれるかもしれないから。
会いたくないと言えば嘘になる。叫べば、祈れば会えるなら。喉が潰れるまで叫ぶだろう。
もちろん雪蓮のことも。あんまり冥琳、冥琳言ってると、雪蓮が拗ねるかもしれないし、なんて。
「一刀。そろそろ戻らないと、日が暮れるわよ」
「わかった。でも、迎えに来てくれたのか? 蓮華」
雪蓮に似てきたな、ってしみじみ思う、蓮華。
一度切り落とした髪も伸び始めて、表情にも余裕が出てきてる。
「子供たちがあなたがいないとご飯食べないって、駄々をこねるんだもの」
「それは…悪いことをしたなぁ」
- 445 名前:それは一つの初恋の形[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 15:31:37 ID:sE5L1gae0
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俺はみんなのことが好きで。愛してるけど。
隣にいて、二人三脚のようにあり続けてくれるみんなが大切だって思えるけど。
きっと。あれが初めての。追いかける初恋だったんじゃないかな。できればあのまま。いつか追いつける日まで、追いかけ続けるのも、悪くなかった。
「なに笑ってるの?」
「んー? 料理、楽しみだなって」
「ふふ。まるで大きな子供ね。一刀ったら」
二人とも。いや、三人とも、かな。見ててくれてるか。
呉は、雪蓮の目指した形はちょっと違うかもしれないけど、立派にやってる。心配ない。
三人は安心して。酒でも飲みながら、待っててくれ。そう……待っててくれると、俺はうれしい。
今日も、雲間には千鳥が消えていく。きっと明日も、明後日も。
「今度は、茘枝酒でも持ってくるかな?」
「えっ。なに?」
「いや…。なんでもないよ。蓮華」
了
- 446 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 15:35:11 ID:sE5L1gae0
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申し訳ないです。
今後、投下することがあればしっかりと気を付けます。
とりあえずこれで終わりですので、ちょっとROMります。