- 353 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 01:44:20 ID:KDORntSO0
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北郷新勢力ルート
──黄巾の乱──
筆が遅いにも程があるが、前編ができました。
後編が出来てから一挙投下でもいいですが、いかが致しましょうか?
ちなみに9レス+後編のプロローグ1レスほどですー
そして黄巾の乱と言いつつも、内容はほぼ状況説明と会話のみという体たらく('д`)
- 361 名前:353[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:03:29 ID:KDORntSO0
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……ではお先に投下させていただきますか
しばしの間お付き合いくださいませー
- 363 名前:真√:黄巾の乱-前編 1/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:05:46 ID:KDORntSO0
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──北荊州、襄陽近郊──
「……今です!左翼、右翼共に横撃を!」
怒号と剣戟の音の中、稟の凛とした声が響き渡る。その合図に呼応し、
縦長に伸びる様に突撃してきていた黄色い一団へ、左右から挟みこむ様に兵達が襲い掛かる。
「おやおや、敵さん大混乱ですねー。流石稟ちゃん、攻め時は見逃さないのです」
そんな、戦場には似つかわしくない様なのんびりとした口調で言ったのは風だ。
約四ヶ月前のあの日──風と稟が一刀に仕えたあの日を境にする様に、
大陸の情勢は日増しに悪化の一途を辿った。
これまで以上の匪賊の横行、それに伴う各地での飢饉、追い討ちを掛けるかの様な疫病の発生、
そして、漢王朝……中央政府の腐敗。
その後、幽州付近で「路銀が無くなったので、ちょっと仕官してくる」という、
なんとも『らしい』理由で仕官しにいった星と別れ、南へと旅を続けた三人にとっては、
ただの噂などではなく、まざまざとその悪化振りを見せ付けられることになったのだが。
そして三人が荊州北郡へ入った頃である……
農民達を主とする庶人の怒りは、丁度起こり始めて居た新興宗教と結びつき、大規模な爆発を起こした。
『蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉』
後に言う、黄巾の乱の勃発である。
- 366 名前:真√:黄巾の乱-前編 2/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:08:06 ID:KDORntSO0
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一刀の持つ『未来の知識』でこの事態を予期していた三人は、それまで義勇兵を募りながら、
増え続けて行く匪賊退治をしつつ旅を続けていたのだが、そのまま北荊州中〜西部を拠点に、
黄巾党に当たることになった。
これが約二ヶ月前の事だ。
この二ヶ月、こちらから攻めることは出来なかったとはいえ、敵は人公将軍張梁を信奉する一軍団。
中原の本軍程では無いとはいえ、自軍の数倍はある敵軍団の、荊州北部への撤退・侵攻を防いでいた点を見れば、
むしろ良く守ったとほめるべきであろうか。
兵数で言えば、多くても一万程度の北郷軍がここまで戦えている要因を上げるとするならば、
風と稟の軍略・献策あればこそと言うのは言わずもがなであるが、『天の御遣い』を主に戴く天兵である。
……と言う士気の高さを外す事は出来ないだろう。
まして敵の主だった兵は、食い詰めて略奪・暴動に走った農民が殆どだ。
欲望に惑いただ暴走する者と、大儀に燃え、勇を振り絞って立ち上がった者……軍対軍の戦において、
士気の高低と言うのは時に勝敗を決する程の影響力を持つものだ。
「ご主人様ー、そろそろ本陣も行くべきかと」
戦況を眺めつつそう進言して来た風に、「ああ」と返事をした一刀は、後ろに控えている兵たちへと向き直る。
「皆!もう一押し、よろしく頼む!………全軍、突撃!」
『おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!』
自身の発した号令に応じ、本陣の兵達が雄叫びを上げながら突撃して行く。
その様をまばたききもせず見つめながら、おそらくは無意識にだろう、強く強く拳を握りこんでいるのに気づくと、
風はそっと一刀の手を取りその拳を開かせてやる。
……まるで、言外に『無理しなくいい』と言っているかの様に。
「号令は大分様になってきましたねー。ですが、やはりまだ慣れませんかー?」
「こればっかりはなー……自分の号令一つで、大勢の人が死地に向かって行く。大勢の人が殺し合いを始める……。
多分、これからもこれに慣れることは無いだろうし……慣れたいとも思わないかな」
- 367 名前:真√:黄巾の乱-前編 3/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:09:30 ID:KDORntSO0
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戦いの無い、平和な国から来たただの学生である一刀にとって、個人・部隊・軍……規模を問わず、
戦争……いや、殺し合いと言うもの自体、慣れる事は出来そうも無かった。
これまでも、兵を率い、君主として戦うなど出来るはずもないと、何度もくじけそうになったりもしたが……
風と稟……程cと郭嘉という、三国志の中でも名を残す程の知将に主として認められたのだから、
その期待に応えたい……という思い、そして何よりも……力ない人々が苦しむのを判って居ながら、
何もせず傍観することなど出来るはずも無いという思いで、ここまでやってきたのだ。
「そんな顔するなよ」
そう言って、ひどく心配そうな顔をしていた風の頭を軽く撫でる。
「……慣れる事は出来ないけど、自分の下した決断や発した言葉の結果は、受け入れる覚悟はしているつもりだよ」
そう言ってもう一度、今度は少し強めに……くしゃくしゃっと頭を撫でると、戦場へ向き直った。
そこに、前線で指揮していた稟が戻ってきた。本陣の投入によって、大方の決着が付いたようだ。
「お帰り、稟。……無事で良かった」
そう安堵の声を漏らす一刀に、苦笑を漏らす稟。
「ありがとうございます。それにしても……一刀様の心配性は、いつまでたっても治らないのですね」
「はは……今、風にも同じようなこと言われてたよ。『まだ慣れないのかー』って。
……まぁ、こればっかりは勘弁して、心配ぐらいさせてくれよ?」
そんな一刀の言葉に、「しかたないですね」といいつつも、どことなく嬉しそうな顔をする。
「……さて…一刀様、どうやら敵軍が退却を始めたようですので、追撃をかけたいのですが」
「ああ、任せるよ。……ただし、深追いはしないようにね」
「はっ!…では追撃に…」
「も、申し上げます!」
移りますと言いかけた時、稟の言葉を遮る様に伝令が駆け込んできた。
その慌てた様子から、話を聞くまでも無く悪い内容だと言うのは感じ取れるのだが。
「どうした?」
「は、はっ!東方に砂塵と共に部隊を確認!旗は黄巾!兵数は目算にて約一万程かと」
その報告を聞いた瞬間、その場に居た者達の表情が凍りついた。
一刀は、想像した通り嫌な内容だったなと思いつつ、とりあえず深呼吸して気持ちを無理やり落ち着かせる。
- 368 名前:真√:黄巾の乱-前編 4/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:10:44 ID:KDORntSO0
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「さて……風、今まで戦ってた敵の様子は?」
「…不幸中の幸いとでもいいましょうか、逃げ足だけは速いのですねー。もうある程度離れてはいるのですよー。
こちらに向かって来ている部隊に気づいているわけでは無いようですので、もしかしたら、
敵の援軍として来た訳ではないのかもしれないです」
「じゃあ、逃げてる部隊には斥候を放って、逐次動向を監視しておいて。挟撃だけは避けたいからね。
稟、追撃は中止。部隊を纏めて向かってきている方に当たって。動ける兵士さんはどれくらい残ってる?」
「戦えるのは……七千程でしょうか。……厳しいですが、まあやるしかないですね」
「うん、すまないけど頼んだよ」
そういくつか指示を出し終わった時、再び伝令が駆け込んで来た。
「申し上げます!」
「ん。何?」
「はっ!こちらに進軍中の黄巾軍の後方に、更に部隊を確認!旗は孫の牙門旗、及び周、黄!」
その報告を聞いた後、風は少し考え込むと、
「孫……と言うことは、袁術さんの所の孫策さんでしょうねー。となると……やはり黄巾は、
先ほど戦っていた部隊への援軍と言う訳では無く、単に孫策さんから逃げているだけかとー」
「ふむ……では一当てして敵部隊の足を止めて、孫策軍の追いつく時間を稼ぎましょう」
「そですねー。無理にこちらでまともに相手することはありません。孫策さん達に任せちゃいましょー」
刻々と変化する状況を迅速に把握し、それに応じて的確な戦略を立ててくれる……そんな二人の様子に、
一刀は改めて頼もしさを感じていた。
「では、行ってまいります」
「ああ、気をつけて……稟」
現在北郷軍において、前線の指揮は主に稟が取っている。
本来であれば武の象徴となるべき将が前線に立つのが一番なのだが、居ないものは居ないのだから仕方が無い。
一刀が本陣の指揮を取れれば良いのだが、残念ながら所詮一学生だった彼には酷な話。
無理をさせられない…と言うよりも、素人に部隊指揮などさせて全滅したらたまったものではない。
……と言った方が正しいかもしれないが。そのため、風がその補助として本陣の指揮を取っているので、
稟自身が前にでなければいけない状況が続いている。
- 370 名前:真√:黄巾の乱-前編 5/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:11:51 ID:KDORntSO0
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……まあ、『我々の用兵を見て勉強して下さい。人手不足なのですから』と、
耳にたこができるぐらい言われているため、最近では先程の様な指示程度ならできる様になってはいるが。
「全軍、遊撃陣を取って、前方の黄巾軍の動きを止めます!」
戦場に再び稟の声が響き、それに合わせて兵達が陣形を組み上げていく。
「合図と共に弓の斉射後、突撃します!弓隊構え!…………三・二・一…今です!!」
凛の合図で、幾百、幾千の矢が敵軍へと降り注ぐ。
「全軍、突撃!!!」
そして、矢の雨に一瞬怯んだ敵軍へと、突撃した。
「策殿!前方に展開した部隊と黄巾共がぶつかったぞ!」
「分かってる!冥琳、あれはどこの部隊?」
「旗は十文字に郭、程……恐らく、ここ二ヶ月程この辺りの黄巾賊を抑えくれているって言う義勇軍ね」
「それって、天の御遣いって噂の?」
冥琳……周瑜の言葉に、孫策は記憶の中から最近聴いた噂を手繰り寄せる。
「ええ。だと思うわ」
「ふぅん……どうやら足止めしてくれているみたいだし、突っ込むわよ!」
前方の様子にそう判断した孫策は、迷う事無く突撃の命を下すと、
「おう!……黄蓋隊、儂に続けえぃ!!」
黄蓋の号令一下、黄巾党へと襲い掛かった。
孫策軍の突撃から一刻程。
すでに勝敗は付いた後、一刀達の元を三人の武将──皆女性だ──が訪れた。
「アナタが今噂の『天の御遣い』君?」
そう聞いてきたのは、真ん中に居た女性。赤みがかった長髪、無邪気さと鋭さの同居するような眼差……
独特な雰囲気を持つ女性だ。と、一刀は思った。
「……噂かどうかは知りませんが、一応そう呼ばれては居ますよ。……あなたは?」
「人に名を尋ねるときは、自分から名乗るのが礼儀であろう!」
真ん中の女性にそう言った一刀だが、彼に答えたのは右斜め後ろに居た、銀髪の女性だった。
彼女の言うことは分かるのだが、納得はできずムッとする一刀。
- 372 名前:真√:黄巾の乱-前編 6/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:15:22 ID:KDORntSO0
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「……兵に取り次ぐこともなく他所の陣に堂々と入ってきた上に、挨拶も無くいきなり『お前が天の御遣いか?』
なんて聞いてくる人達に、礼儀を問われたくないですが」
言ってから、ちょっと言い過ぎたかなーと言うか、やっちまったかなー……と言う考えが頭をよぎったが、
言ってしまったものは仕方が無いので、相手の出方を見ることにする。
一方、言われた三人は一瞬きょとんとした表情で顔を見合わせると、一斉に笑いだした。
「……くくっ…あはは!いやー、どう言う反応が返ってくるかと思えば……まったくその通りだわ。悪かったわね」
そう言ったのは、真ん中の女性。
「私の名は孫策、字は伯符よ。で、後ろの二人は……」
「私は周瑜、字は公瑾だ」
孫策に継いで名乗ったのは、左後ろに居た眼鏡を掛けた黒髪の女性だった。
続いて右斜め後ろの、先ほどの銀髪の女性が、
「儂は、性は黄、名は蓋、字は公覆じゃ。先ほどはすまなかったな」
と名乗った。
さすがに、こうまであっさり折れられては毒気も抜かれると言うものである。
「いえ、こちらこそ言い過ぎました。
俺は北郷一刀。さっきも言った様に、一応世間からは『天の御遣い』なんて呼ばれてます」
孫策に周瑜、それに黄蓋。三国志をかじったことの有る人間なら、間違いなく名前ぐらいは聞いたことがある…
と言う程有名な武将達。
旗の報告を受けたときに、有る程度の予想はしていたとはいえ、実際にこうして眼の前にすると感慨深いものだ……
そんなちょっとした感動に浸っている間に、稟と風も自己紹介を終える。
「ところで、皆様は本日はなぜここに?」
そう切り出したのは稟だ。
大方、先ほどの戦闘に関してなのだろう……とは予想は付いていても、聞かないわけにもいかない。
「ああ、そんな大した事じゃないのよ。
噂の『天の御遣い』君がどんな人か知っておきたかったって言うのと……さっきの戦闘、
敵の足止めしてくれてありがとうってだけ。
……まぁ、後者の方は本当に感謝してるのよ?
万が一逃がしてたら、袁術にどんな嫌味言われるか分かったものじゃないからさー」
そう言ってあははーと笑う孫策。
- 374 名前:真√:黄巾の乱-前編 7/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:19:49 ID:KDORntSO0
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そんな孫策の様子に、なんとも、所々子供っぽい感じの人だなー……などと思いつつ、
一刀はふと気になった部分を聞いてみることにした。
「ねえ孫策さん、さっきもちらっと言ってたけど……『天の御遣い』ってそんな噂になってるの?」
「そりゃぁ……って知らないの?結構いい噂になってるわよ?」
孫策にそう言われるが、どうも実感の沸いていなさそうな一刀に、
「……まぁ、袁術が適当すぎるのが原因なのだが、守りの手薄な荊北西部を、わずか一万程の手勢で、
その数倍の敵を押さえ込んで居るのだ。……噂にならない方がおかしいだろう?」
と、周瑜が説明してやる。
……まぁどちらにしろ、噂になっている状況を見ているわけではないので、
説明されても実感として沸かないのは変わらないのだが。
それからしばらく、当たり障りの無い……大陸の情勢や黄巾党の様子等を話していた所へ、
早馬が駆け込んできた。
先ほど退却する黄巾軍へ付けた斥候のようだ。
「申し上げます!……あっと…」
孫策達の姿を認め言い淀んだ兵に、稟が近づいて報告を受ける。
と、その表情が少し苦い物に変わって行った。
報告を聞き終えた稟は、兵に二、三指示を出し下がらせると、一刀達の所へ戻り、口を開く。
ここで話すと言う事は、孫策達に聞かれても問題のない事なのだろう。
「ご報告申し上げます。
北方に撤退した黄巾軍ですが……寿春方面から来たと思われる袁術軍と遭遇。
転進して袁術軍の追撃を受けながら、西方へ撤退した様です」
「ふむ…西方に逃げられるとまずいのか?」
そう聞いたのは黄蓋だ。……まぁ、稟の方向を聞いた一刀と風も一様に嫌な顔をしたので、
聞きたくなるのも無理は無いが。
- 375 名前:真√:黄巾の乱-前編 8/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:21:05 ID:KDORntSO0
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「……見ての通り我々は寡兵です。そのため、敵に広範囲に展開されると対処しきれなくなるので、
なるべく荊州入り口で追い返すようやってきたのですが……
その為にはこの辺りに戦力を集中させなくてはなりません」
「つまり、西方には兵が居ない……と」
その言葉に、凛は首を横に振る。
「一応四千程の守備兵が居ることは居るのですよ。……官軍ですが」
「官軍か……」
「官軍ね……」
稟の一言で大方予想は付いたのだろう、黄蓋と孫策が何ともいえない表情をする。
「……以前上庸に駐屯している官軍の様子を見る機会があったのですが……
はっきり言えば、あれなら我々義勇軍の方が、練度も士気の高さも上です。
……それに、ここより西方……上庸の更に先には、漢中があります」
「なるほど……漢中か」
稟の言いたいことが分かったのだろう、周瑜の表情が険しいものに変わる。
一方、いまいちよく分からない黄蓋の顔も、違う意味で険しいものになっているのだが。
「あ〜……よければ説明してくれると助かるのじゃが……」
そんな黄蓋の様子に苦笑をしながら、周瑜が説明をする。
「漢中は、ここより西にある上庸を越えた先にあるのはご存知ですよね?」
「ああ、それぐらいは知っておる」
「問題はその漢中が、荊州、涼州、益州、そして長安を結ぶ交易の要衝であることなのですよ。
黄巾本隊との決戦が近いことは、あの袁術が、今まで放っていたこの地方へ大軍を動かしたということでも明白です。
北へ逃げたという黄巾軍が、すぐ近くに居る味方の元へ行くのも断念する程のね」
「なるほどのう……ようするに、そんな時期にその要衝たる漢中を奪われるのはまずいというわけか」
得心が行ったと言うように、うんうんと頷く黄蓋。
そんな黄蓋へ、風がさらに説明を続ける。
「それにですねー……現在涼州、益州方面では、あまり黄巾党が出ていないのですよー。
下手をすれば、西方に逃げた黄巾の一軍が漢中を獲った瞬間……眠っていた火種に火がつく恐れがあるのですー」
そうなれば、折角諸侯の活躍で収束に向かいつつある乱が、再燃…いや、さらにひどくなる恐れもある。
と、そこに兵が一人進み出てきて、稟に何事か耳打ちした。
「ご報告いたします。撤収準備、整いました。いつでも出陣できます」
- 381 名前:真√:黄巾の乱-前編 9/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:42:24 ID:KDORntSO0
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「……ほぅ、すでに出陣の指示は下しておったか」
先程下がらせる兵に指示していたのはこれだったのだろう。その報告を受けた一刀は、
「それじゃあ俺達は西方に逃げた敵を追うよ」
そう孫策に言って、連れられて来た馬に跨がる。
「あら、天の御遣いも馬に乗るのね」
「おう。……神通力で空でも飛ぶと思った?…まぁ、こっちに来た時には馬にも乗れなかったんだけど」
「へぇ……って、そういえばあなた達の軍、義勇軍の割に騎兵の数が多いのね?」
隊を整えて行く軍の様子を見た孫策がそう指摘する。孫策の言う通り、北郷軍は約半数が騎馬兵だ。
義勇兵の大半が、元は訓練も受けていないような農民や町民であることを考えると、
よくぞそれだけの騎兵を揃えたと言えるのではないだろうか。
ちなみに馬の乗り方は、義勇兵の中にいた乗馬の得意な者に、この四ヶ月みっちりと仕込んでもらった。
「恐らく私達にも、袁術から出陣指示が来るだろうからあなた達を手伝うことは出来ないけど、
この辺りの守りはしっかり固める様に袁術に言っておくわ」
「うん、ありがとう。宜しく頼むよ」
「ええ。……って、あら?」
軍の方から一刀へと視線を戻した孫策は、いつの間にか一刀の前にチョコンと風が乗っているのに気づいた。
「そちらの軍師さんは、馬に乗れないの?」
孫策のその問いに、風はフルフルと首を横に振り、
「いいえー。むしろ風の方がご主人様よりうまく乗れるのですよー。…ここは風の特等席なのです」
ふふふーと笑いながらそう言った。
「雪蓮……天の御遣いと話してみた感想は?」
一刀たちの軍が進軍していく様を見つめる孫策へ周瑜が問う。
孫策は、先ほどまで一緒に居た者達を思い出し……
「そうね……面白い子だと思うわよ?軍師の二人もなかなか食えない相手の様だしね〜。
この乱世が続くのならば、必ずまた会うときが来るでしょう。その時──我らの敵となるか味方となるか……」
「まぁその時までには……儂等は儂等の悲願を果たしておきたいものよの」
そんな黄蓋の言葉に、孫策と周瑜は苦笑を交わす。
「ではその時まで……ご武運を、御遣いクン」
彼女等の悲願……袁術よりの独立と、孫呉の復権への道は、まだ長く遠い──。
- 385 名前:真√:黄巾の乱-前編 10/10[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:44:41 ID:KDORntSO0
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…………
少女は、森の中をがむしゃらに走って行く。
身に着けている、豪奢だが少女によく似合う質素な色合いの服は、葉や枝にこすれ、
あちこちが破れてしまっているが、気にしてなどいられなかった。
少女はもともと運動は得意な方ではない。
今立ち止まれば、間違い無くへたり込んで立ち上がれなくなるのは目に見えている。
そうなれば、待っているのは『終わり』だ。
自分一人が『終わる』のならまだ良い。だが間違い無く、周囲の多くの人に悪影響を与える。
……それも多大な、だ。彼女はそう言った立場の人間だった。
だからこそ少女は立ち止まれない。そして走りながら天に祈る。どうか助けて下さい。と。
そして祈りながら、自分を待って居るだろう親友のことを思い浮かべる。
『居るかどうかも分からない神様に祈るぐらいなら、自分に出来る事を精いっぱいやるべきよ』
聞く人が聞けば卒倒しそうな台詞だが、彼女ならきっとそんなことを言うに違いない。
だからこそ少女は祈る。今自分に出来るのは、ひたすらに逃げる事と、祈る事ぐらいしかないのだから。
「……頑張るよ、詠ちゃん」
……だからお願いします。蒼天におわす神様、どうか助けて下さい。
……けれども、背後から聞こえる足音は、徐々に近づいてきていた──。
- 386 名前:真√:黄巾の乱-前編[sage] 投稿日:2009/01/21(水) 02:45:44 ID:KDORntSO0
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以上、お目汚し失礼しました。
そして途中さるさんくらっちゃいました。申し訳ない。