- 860 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:47:30 ID:BjmtF98Z0
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空気も読まずに「いけいけぼくらの北郷一刀(仮)」第一回目を投下します。
今回は本文5レス予定。
・魏ルート後に帰還したことを前提に描いてます。
・作中での加齢に関してはいい加減です。
・オリキャラに関しては、出す予定はありません。
・ただし、呉陣営以外で誰か子供を産むかも。その場合は史実の子供の名前ひっぱってくる予定です。
・ゲーム中と同じく地の文やセリフで史実・演義武将が出る程度のことはありますが、活躍したりはありません。
予告は>>636-637に。
- 861 名前:いけいけぼくらの(ry 1/5[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:48:16 ID:BjmtF98Z0
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「漢室の命數はすでに尽きた」
その日の評議は華琳のそんな宣言からはじまった。
たしかに、魏・呉・蜀の間で起きた戦乱がおさまってすでに四年。俺がこの世界に戻ってきてから
でも三年になる。俺が最初にこの世界に迷い込んでからは……何年になるんだっけな。この世界から
消えていたのは一年ほどだったが、体感時間では五年もかかったから、どうもうまく計算できない。
まあ、あまりあの頃のことは思い出したくも……っと。考えがそれたな。
ともかく、その間、いやそれ以前から、皇帝及びその周辺はこの大陸の安定を支えるどころか、逆
に騒乱の種になることのほうが多かったようだ。反董卓連合の一件がいい例だ。すでに支配者として
の実力も権威もないと言っていいだろう。
「我等に歯向かうものもなくなり、大陸が完全に平定されてしばらくたつこの折り、そろそろ旧き時
代の天子にはご退場願おうと思う」
さすがに軽くざわめきが起きる。いかに権威が失墜した帝室とはいえ、いざ排除するとなると、そ
れなりにためらいがある者も多いんだろう。いま集まってるのは、俺が最初にこの世界ににいた頃、
つまり、魏が覇者たらんと動いていた古参の将たちだから、抵抗が薄い部類に入るはずだが、それでも……。
「オマエたちうるさいぞ。私語せず、ちゃんと発言しろ」
あ、さすがに春秋姉妹はなにも動揺してないな。
「では、禅譲を受けて、華琳様が帝位に就かれるとー?」
風があいかわらずのんびりした声で問いかける。桂花がなぜか苦虫をかみつぶしたかのような顔を
してるけど、まさか、あいつ空箱を送られるようなこと言い出すのか? いや、この世界の桂花が俺の
知ってる荀文若と同じ行動をとるとは……。
「いいえ、わたしじゃないわ。簒奪も寝覚めが悪いしね」
軽く、けれどいたって真剣な声で華琳は応える。その後に続いた沈黙の意味は、だれしもがわかっ
ていただろうが、あえて尋ねるものはいなかった。春蘭でさえ、秋蘭に目配せはしてるものの、疑問
を声にはしないでいる。
華琳は面白そうに部下たちを睥睨するばかり。ああいう意地悪な顔させるとほんと似合うよなあ……。
かわいいからいいけど。
「それじゃ、だれにするんだ?」
- 862 名前:いけいけぼくらの(ry 2/5[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:49:43 ID:BjmtF98Z0
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いい加減焦れたんだろう華琳と桂花が俺に視線をむけてくるのを、「オマエガタズネロ」という暗
黙の指示とくみ取って、口を開く。
「天子なんだから、天の御遣いのあなたにきまってるでしょ、一刀」
「ああ、俺か。……って、ええええええええええぇぇ」
俺を含めた何人もの驚愕の声が広間にこだました。
いけいけぼくらの北郷帝〜開幕〜
皆に驚天動地の衝撃をあたえておきながら、華琳はあの後一方的に評議を打ち切った。この件につ
いて上申すべきことがあれば──賛成にしろ反対にしろ代替にしろ──次の評議までにまとめておく
ように、と申しつけて、三軍師を連れて、さっさと出て行ってしまった。
俺はというと、皆があっけにとられている間に、猛ダッシュでその場を離れて、自室にかけこみ、
扉に内側から鍵をかける作業に従事中というわけだ。これでも、本気になった春蘭や季衣相手には意
味がないのだけど……。あいつら、扉ごと蹴破るからなあ。
「なにやってんの、あんた」
不意にかけられた声にふりむくと、可愛らしいメイド服──この衣装を考えたやつは天才だと思う
ね──に身を包んだ少女が二人、書斎のほうから出てくるところだった。
「あ、詠に月」
「あ、じゃないわよ。何やってんのって聞いてるの」
勝気そうにふんぞりかえった少女がきつい口調で聞いてくる。その態度も、ミニスカートのメイド
服に身を包んでいたら、可愛らしいものにしか見えない。これが稀代の名軍師だと誰が想像できるだ
ろう。
「ちょ、ちょっと、一人になりたくて、部屋に鍵をかけてたんだ」
「あっそ、またなんかやらかしたんでしょ」
「へぅ……お邪魔でしたら、すぐ出て行きますけど……」
申し訳なさそうに言うのは触れれば崩れ落ちそうなたおやかな少女。こちらはロングスカートのメ
イド服に身を包み、さっきまで掃除でもしていたのか濡れた布をもっておろおろしていた。これが董
卓っていうんだから、世の中ってわからない。
「あ、いいんだ、月は。でも、よかったらお茶を淹れてくれるかな。落ち着きたいからさ。それから、
詠、またってやめなさい、またって。今回は俺はなにも悪くない」
……たぶん。
- 864 名前:いけいけぼくらの(ry 3/5[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:50:58 ID:BjmtF98Z0
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「ちょっと! 月は、ってなによ。まあ、それはいいわ、で、なにがあったの」
掃除道具を片づけて卓に座り込む詠。月のほうはお茶を用意してくれている。「いやー、それが口外していいものかどうか……。だいたい、詠、なんで今日はいなかったんだよ。
普段の評議は出てるくせに」
月と詠──董卓と賈駆の来歴は少々複雑だが、いまはここ洛陽にて、俺といっしょに働いている。
さすがに賈文和はともかく董卓の名前は出せないので、月はもっぱらメイド──俺つきの侍女の仕事
をしているのだけれど。
「あんた、ばっかじゃないの。今日の評議は魏の臣だけの内々の評議じゃない。あたしみたいな陪臣
扱いの人間が出られるわけないでしょ」
「え? それ、どういうこと?」
「……あんた、もしかしてわかってないの?」
はあぁ、と大きく溜息をつかれる。いつもみたいに怒鳴りつけられるより応えるぞ、これは。
「詠ちゃん、お茶はいったよ。ご主人様もどうぞ……」
いい香りが鼻をくすぐる。月の淹れるお茶はおいしいからたのしみだ。
「ありがとうね、月。ほら、せっかく月が淹れてくれたんだから、さっさと呑みなさいよ、このばか
ちんこ」
「詠ちゃん……」
「うっ、でも、こいつったら、ボクたちの立場とかまるっきりわかってないんだよ。自分の立場とか
さー」
「……詠ちゃん」
ほんの少し強く言う月に、詠が見るからに動揺する。そのいつも通りのやりとりを、なんとなく微
笑ましく思う、うん、こういう空気は実にほっとするなあ。
「しょうがないわね、月に免じてこの賈文和さまがあんたにもわかるように説明してあげるから、聞
き逃さないようしっかり聞きなさいよね」
「うん、ありがとう、詠」
「な、なによ、急に素直に礼なんて言ってるんじゃないのよ。このばか。……ええと、まず、あんた
自身があんたの地位を認識してないと思うんだけど、あんたは、形式上でいうと、曹操の客将なの」
ああ、なんだか、ずいぶん昔にそんなふうなことを言われた気もする。客というにはぞんざいな扱
いな気もするが、いまさらそんな対応されても困ってしまうのも本音だ。
- 866 名前:いけいけぼくらの(ry 4/5[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:51:59 ID:BjmtF98Z0
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「それで、ボクや月は、あんたの預かり、つまりは臣下なのよ。だから、曹操からしてみたら、ボク
は客将の軍師だから、意見を聞くことはあってもそれ以上のことはさせられないわけ」
「え、部下だったのか? 詠って、俺の軍師?」
「殴る前に、なんだと思ってたのか教えてくれる?」
殴るの前提かよ!
「……メイドさん?」
「月、こいつ蹴ってもいいよね、蹴るべきだよね。この、ばかっ、ちんこっ」
「いてっ、蹴りながら言うなって。いて、いて、痛いってば」
「詠ちゃん……ご主人様にそんなことしちゃだめだよ……」
卓の下で俺の足を蹴ってくる詠の裾をひっぱる月。
「ああ、月は優しいなあ。お茶もおいしくて最高だなあ」
つい、かわいすぎて月の頭に手をやってしまう。なでりなでり。
「へぅ〜」
「あーもうっ、月に気安く触るな、このちんこ太守。ともかく、ボクは曹操の部下じゃないから今日
の評議には参加できなかったの。わかった?」
「あ、うん、わかったけど……でも、なんで華琳は俺を適当な地位につけて部下にしちゃわないんだ
ろう。そうしたら、詠だって部下の部下だから命令することはできるだろ? 形式はさっき聞いた通
りだろうけど、実質的には部下と変わりないわけだし……」
俺がもっともな疑問を口にすると、月と詠は顔を見合わせて、どちらもなにかあきらめたような苦
笑を浮かべた。なんだろう。変なこと言ったろうか。
「ま、それはいいわ。今日、なにがあったのよ」
「いや、俺の軍師なら、主の疑問をだな……」
「な・に・が・あ・っ・た・の」
部下を扱うのってたいへんですよね。
しかたなく口止めをしてから全てを明かした。月たちが言いふらすようなことはないと思うけど、
念のためだ。暗殺とかされたらたまらないし。
- 867 名前:いけいけぼくらの(ry 5/5[sage] 投稿日:2009/01/18(日) 20:53:31 ID:BjmtF98Z0
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「ふーん」
「へぅ、ご主人様が天子さまですか……」
なんだろう、この落ち着きぶり。二人とも評議の場にいた面々のように叫んだりもせず淡々と華琳
のトンデモ発言を受け入れてるような……。
「あ、あんまり驚かないね」
「ボクは予測してたもの」
「わたしたちの時みたいに、華琳さんが責められたりしないでしょうか……?」
予測していたって? いったいどうやって……賈駆恐るべしというべきか、それとも俺があまりに
考えなしなんだろうか。
「言ったでしょ、予測していたって。ほとんどこの城に隔離されてるボクでさえ予測できるってこと
は、曹操はそれだけの準備をしてきたってことよ。たぶん、ボクが知ることができないような部分で
も色々しているはず」
こう自信たっぷりに言い切られると、なんだか俺が間違っているような気がしてくる。
「えっと、詠さん? その予測ってのの根拠を教えてくれないかな」
「全く、あんたは自分のことに関しては全然注意を払ってないんだから。そうねえ、まず……」
ぶつぶつと文句を言いつつも丁寧に展開されていく詠の説明を聞きながら、俺は、この世界に戻っ
てきてからのこと、会いたくてたまらなかった人たちと再会したこと、そして、新たに出会った大切
な人々のこと、そんな様々なことを思い出していた。
ということで、今回はおわりであります。(仮)がとれて「いけいけぼくらの北郷帝」ってことで。
桂花繚乱たのしみにしてます〜。