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245 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 00:52:14 ID:D8GQd3fL0
んじゃお言葉に甘えて

及川の口調はあんまし覚えてないんで違和感あってもスルーでヨロ
246 名前:夢の跡[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 00:53:34 ID:D8GQd3fL0
『行かないで、一刀!』
 自分を必死に引き止める、悲痛な叫びを耳に残しながら一刀は目覚めた。
 ぼんやりとした視界が最初に捕らえたのは真っ白い天井だった。
 ゆっくり見回すと、テレビやガラス窓など以前は見慣れた物が目に入る。
 自分が寝ているのが病院のベッドらしいと言うのも認識できた。
 しかし一刀が今の状況について感じたことは1つだけだった。
「帰って来ちまったんだな、俺」
 ポツリと呟く。
 それは長くも儚い、夢の終わりだった。

 目覚めた後、一刀は自分の身に起こった出来事を聞いた。
 授業中に突然何かに驚いたように窓の外へ顔を出すと、それっきり意識を失い、丸二日眠っていたと
言う事だった。
 あちらで過ごした日々が、この世界で僅か二日間の出来事でしかなかった事に一刀は驚いた。
(あれが本当に夢だったと言うのか?)
 だが直ぐにその考えを払拭する。
 夢と片付けるには、彼の頭はあまりに現実味を持って彼の世界の事を憶えていた。
 血と鋼に彩られた戦場の臭いも、愛しい少女の甘い香りと肌の感触も。
(彼女たちと──華琳や春蘭・秋蘭達との想い出が只の夢なんかである筈がないじゃないか)
 なら、胸を張ろう、そう思った。
 自分は為すべき事をやり遂げたのだから、と。
247 名前:夢の跡[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 00:54:36 ID:D8GQd3fL0
「おーい、かずピー」
「ん?ああ、及川か。何か用か?」
「いや、別に大した用やないんけどな。かずピー、最近妙に景気悪そうな顔してるやんか?」
「そうか?そんな事も無いと思うけど」
「いやいや、なんや遠い目してシリアス決めてる時あるで?」
「き、気のせいだろ?」
 内心ドキリとしたのを何とか覆い隠す。
 何時の間にか華琳たちの事を思い浮かべてる事が多いのは自覚していた。
「気のせいなんかやないて!おかげでクラスの女子も『最近の北郷君って陰があってちょっと格好良
い』なんて噂しとって羨まし……いや、俺も心配しとんねんて」
「……今、本音が駄々漏れしてなかったか?」
 思わず半眼を返す。
「ま、まあ、そんな事よりやな、かずピー三国志とか好きやったろ?」
「何だよ、藪からスティックに?」
「……。昨日ネットで三国志関係のおもろい話見つけてん」
「スルーするなよ。──で、面白い話って?」
 一刀が食いついてきたのを見て、及川がニヤリと笑った。
「かずピー、前に歴史の課題で一緒に資料室行った時、俺が鎧を見て可愛い女の子が着てたかもって
話したら、くだらない妄想だとか何とかバカにしたやろ?」
「え!?あ、ああ……そんな事も……あったな」
 先ほどよりも大きく鼓動が跳ね上がった。
 美しくも勇壮な少女達の顔が脳裏に浮かぶ。
「んー?どうかしたんか、かずピー?」
「いや、何でもない。──それで?」
248 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 00:55:34 ID:D8GQd3fL0
「おお!それがな、最近あの魏の曹操が女やった、っちゅう説が出てきたそうやねん」
「!?」
「それどころか夏侯淵や夏侯惇、荀ケみたいな武将や軍師達も女の子やったらしいんや」
「そ、そんな話何処で……?」
「何でも曹操の城の1つやと思われてる城跡から、当時の竹簡が見つかったらしゅうてな。それがどうや
ら曹操の自伝っちゅうか回想録みたいな物らしいんやて」
「……」
「お、流石のかずピーもちょっと気になるか?」
「いいから続きを話せ!」
「な、なんや、バカにしてた割には随分と食いつくやないか」
 一刀の剣幕にやや鼻白む及川だったが、促されるままに言葉を繋いだ。
「俺もネットでちょっと見ただけやから詳しい内容はよう知らんねん。けどそれによると夏侯淵は定軍山
で討ち取られなかったり、赤壁では魏が勝ってたり、最終的に曹操が天下統一して劉備や孫策に国を
任せてたりと、所謂トンデモ本の類やな。ほんでうちの学校の図書室にはその竹簡の内容を翻訳した
本があるて図書委員の子が言うてたから、かずピーも一緒に見に行かへんかと誘いに──ってかず
ピー!?ちょ、一人で行くなや!」
 いきなり駆け出した一刀の背中を及川の声が追うが、既に一刀の耳には届いていなかった。
250 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 00:56:49 ID:D8GQd3fL0
「……ハァハァ。これか」
 図書室に駆け込むなり書架の整理をしていた1年生を問い詰め、目的の本を手にすると、すぐに一刀
は内容へ目を通し始めた。
 そこに記されていたのは、一刀が彼の世界で体験した歴史そのものだった。
 様々な想いが溢れ出しそうになるのを必死で堪えながら読み進める。
 そこには彼がこの世界へ帰ってきた後の出来事も幾つか書かれていた。
 曰く、幾度か異民族の侵攻があったものの、その都度三国が協力して敵に当たり撃退したこと。
 曰く、曹操は生涯夫を取らず、養子を迎えて丕と名付け跡継ぎとしたこと。
 曰く、家臣も独身を貫き、養子を持っていたこと等々──。
「華琳、春蘭、秋蘭、季衣、流琉、凪、沙和、真桜、霞、稟、風、天和、地和、人和、ついでに桂花……」
 胸が詰まる程の想いと共に、一人一人の名を呼ぶ。
 そして最後の文章を目にした時、ついに一刀の中で堪えていたものが決壊した。
 それは曹操が天寿を全うする直前に書かれた言葉であると説明されていた。
『我魂永遠有一刀共也(我が魂、永遠に一刀と共に有り)』
252 名前:夢の跡[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 01:01:20 ID:D8GQd3fL0
「お、いたいた。──おーい、かずピーっとと……」
 大声で一刀に声を掛けた及川だったが、周りの生徒達に睨まれて慌てて声を落とした。
 バツが悪そうな表情で一刀の席まで来ると、一刀の肩に手を置いて背中越しに本を覗き込んだ。
「ったく、さっさと行きよってからに。まさかそないにかずピーが興味持つとは思わんかったで。んで、ど
うやった、曹操ちゃんは──って、あれ?」
 そこまで喋って及川は手を置いてる一刀の肩が震えているのに気づいた。
「な、なんや、かずピー、泣いとるんか?」
 一文章を両手で包み込むようにして涙を流す一刀の姿に及川がうろたえた様な声を出すが、今の一
刀には気にもならない。
 それよりも愛した少女が、終生自分を想い続けてくれていた事実がただひたすらに嬉しかった。
 やがて、涙の止まった一刀が立ち上がると、居心地悪そうに立ち尽くしていた及川がホッとした顔を向
けて話しかけてきた。
「な、なんや、曹操ちゃんが女の子らしいって分かって泣くほど感動したんかい。かずピーも意外とすけ
べーやないか」
 しかし及川の軽口には答えずに、
「なあ、及川。俺ってこの世界で何が出来るんだろうな?」
「な、なんや急に?」
「俺、思うんだ。きっと俺にはこの世界でやるべき事があるんだって」
(そして、その為に帰ってきたんだろうって)
「ま、まあ、人間ちゅうんは何かしら意味を持って生まれて来とるもんやろうからなぁ。きっとかずピーに
もかずピーにしか出来ん事があるんとちゃう?」
「ああ!俺はそれを見つける。そして必ずやり遂げて見せる!」
「なんやよう分からんけど、かずピーが元気出たんならそれでええわ。ま、頑張りぃや」
 苦笑する及川を尻目に、一刀は一人決意を固めていた。
(この世界での俺の使命をやり遂げたら、きっとまた逢いに行けるよな、華琳)
 その時に胸を張って彼女に逢えるように。
 彼女の想いに恥じる事の無いように。
 一刀はこの世界での一歩を踏み出したのだった。

 END
254 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/13(火) 01:02:24 ID:D8GQd3fL0
以上ですた
途中の漢文は適当なんであまり気にしない方向で
あと1レスタイトル付け忘れたorz

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