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204 名前:ハム√予告編を書いた人[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:10:27 ID:M1SDqkoq0
援護が期待できそうなので投下します。前回の続きということで
12-15レスくらい、地の文に一人称を使ってるので、そういう文章が嫌いな人はスルーしてください
205 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:11:36 ID:M1SDqkoq0
[一]

「えーっと…次は、貴方ですか?」

 やたらと強面の人たちに囲まれて早数時間。

「やはりこの男、本物の天の御遣いではないかと、私は愚考する次第なのですが」
「少しお前は黙っていろ。
 …すまんな、どうやら混乱させてしまったようだ」

 爺ちゃんと同じぐらいの年齢の人に、頭を下げられたら流石に恐縮する。
 慌てて頭を下げてしまった。

「いえ、こちらこそ」
「とりあえず、ここは幽州一帯を治める公孫賛様の居城だ。
 まさか、太守様の名前を知らないというわけではあるまい」

 とまあ、そんな感じで説明を繰り返されても、わからないものはわからない。
 わからないことを具体的に説明してはいるんだけど…。

「いや、公孫賛…様の名前は知ってるんだけど。
 なんというか、俺はこの世界そのものがわからないというか」
「ではどこからきたのだ。
 まずは、お前の素性を説明してもらおう」

 もう一度、確認するように言って筆をとるのは、今しがた部屋に入ってきたばかりの老境に入った男の人だ。
 中国史の漫画にでてくるような、「いかにも」な文官の格好をした人に、何度となく説明した言葉を告げる。
206 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:12:26 ID:M1SDqkoq0
「はい、説明させてもらいます。
 俺は多分ここら一帯に住んでいた人間じゃありません。
 かといって、海の向こうとか山の向こうからきた異民族というわけでもありません。
 そもそもこの世界の人間じゃないと思います。
 皆さんが言う天界とか仙郷とかいう場所…ともまた違うとは思います」
「…ならどこから来たのだ」
「一番近いのは『未来』、だと思います」

 まあ実際は違うかもしれない、と思ってはいるけれど、俺の相手をしているこの人たちを、これ以上混乱させたくはない。
 というか、余計なことを言えば、自分が困るだけだというのはここまでで十分理解した。
 多元宇宙論だのパラレルワールドだの、そんな言葉を説明してもわかるはずがないだろう…この人たちが、本当に三国志の時代の人たちなら。

「未来…ふむ。
 証左は何かあるのか?」
「これを見てください」

 そう言って、俺はこれまた何度目か思い出すのが億劫になってきた説明を始める。
 取り出したるは、携帯電話。
 別に、ボールペンでも服でもいいけど、結局皆が一番納得してくれたのが『これ』だった。

 かくして、俺の携帯電話の機能のほんの一部を見た文官の爺さんは。

「…これは、私の手に余る…」

 そう言って、頭を抱え、出て行ったのだった。
 …うん、そう言うと思った。だって五人目だし。
207 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:15:50 ID:M1SDqkoq0
 最初は門番の男の人に話を聞かせた。
 で、その人が匙を投げた後は、彼の部隊の隊長が俺から話を聞いた。
 次は少し身奇麗な服を着た人が俺の相手をして。
 そのまた次は学問をかなり嗜んでそうな壮齢の男性が一部始終を聞いて、頭を抱え。
 で、今の爺さんが本人曰く、この郡の主簿…なんだそうな。

 そろそろ、一番偉い人が出てくるんだろうか。

 公孫賛。この城の主。
 三国志の中でも、割と有名な武将だ…飛射とか連鎖とか白馬的な意味で。
 あとは、確かあの劉備と同じ先生の下で学んだとか何とか。

 目が覚めて。数時間同じようなことを話続けてきて。
 この世界のことを、おぼろげながら理解していたつもりになっていた俺は。
 実のところ、この世界のことを全く理解していなかったことを、この後思い知らされるのである。
208 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:16:35 ID:M1SDqkoq0
[二]

「私が公孫賛だ。字は伯珪。一応この城の主…というか、ここら一帯の太守をやってる。
 よろしくな」
「…」

 一瞬、ぽかーん、と。口を開けたまま呆けてしまった。
 そりゃあそうだ。
 むさいオッサンが来ると思ってたら、俺とほとんど同い年にしか見えない、可愛い女の子が来た。
 さらにダメ押しで、彼女が自分で公孫賛と名乗った。

 …どうやら、ここは。
 俺が考えていた「ただの」三国志の世界じゃないようだ。

 そんなことを考えつつ前を見ると、部屋に入ってきた女の子がじーっとこっちを見ていた。

「…えっと」
「ふーん…」
「…どうかした?」
「いや、それっぽくないなぁと思ってさ。
 天の御遣いってぐらいだから、後光の一つや二つ、あると思ったんだが」
「いやいや、俺普通の人間だから」

 反射的にそんな言葉が口をついた。
 それは、先ほどから何度も同じようなことを言われていたせいでもあるけど。
 反射的にそう言ってしまったのは、どこか恥ずかしかったからだったり。

「…っと。忘れてた。
 俺は北郷一刀。姓は北郷、名は一刀、字はなし。
 なんか、天の御遣いとか言われてるけど、聖フランチェスカ二年のただの学生。
 正直、自分がどういう状況下に置かれてるかわからないで困ってる」
209 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:17:31 ID:M1SDqkoq0
 慌てて言った言葉にも、公孫賛は特に気を悪くした様子はない。
 そんな些細なことで、いい人だなぁ…なんて思ってしまった。

「お、そういえば名前聞いてなかったな。
 …で、結局お前は天の御遣いじゃないのか?」
「俺自身はそうじゃない、と思ってる…んだけど」
「けど?」
「状況証拠からしたら、どうも俺みたいな気がしないではない…というか」
「いや、わけわかんないし」

 割と鋭いツッコミ。かといって感心してても話は始まらない。
 このままここに閉じ込められてるわけにもいかないのである。

「うーん…つまりさ。
 俺自身は天の御遣いだの何だのと呼ばれる人間じゃないけど、流星と一緒に墜ちてきたのは俺じゃないかな、と。
 結果として、占いの話に出てくるのは俺なのかもしれない、というわけで」

 先ほど、兵士の人から聞いた、管輅の占い。
 そして本当に五台山の麓に落ちた流星。
 さらには、ほとんど汚れらしい汚れがなかった俺の服。
 それらの情報を組み合わせれば、俺でも一応こういう結論にはたどりつける。

「ああ、そういうことか…って、墜ちてきた?
 どこからだよ」
「いや、それがわかれば苦労はないんだけどさ」
「おいおい」
210 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 20:18:28 ID:M1SDqkoq0
 公孫賛は目を閉じて、溜息。
 そんな顔も可愛いなあ…じゃなくて。
 このまま、何も説明しないと何か疑われそうな気がしたので。
 先ほどまでいろんな人に繰り返してきた話をまた話し、ひと段落ついたところで、公孫賛はやっと納得してくれた。

「…まあいいか。とにかく、噂になってる天の御遣いはほぼお前で間違いない、と」
「多分、ね。俺自身はそんな大層な人間じゃないとは思うけど」
「確かに天の御遣いにしちゃ、貧相だよな」

 さくっと言われたその言葉に、傷つかなくもない。
 とはいえ、それを否定することもできないわけで。
 間を探って目を泳がせた後、俺はずっと言いたかったことを口にした。

「あー…とにかく、拾ってくれてありがとう」
「な、なんだよ急に」

 礼の言葉に、何故か動揺する公孫賛。

「いや、公孫賛…さんが拾ってくれなかったら、俺はあそこで野垂れ死んでたかもしれないわけで」
「ま、まあそりゃあそうだな」
「となれば、公孫賛さんは命の恩人だろ?
 命の恩人に礼を尽くすのは当然、というわけ」
「うー…そうかもしれないけど、正面から言われるとこっ恥ずかしいなぁ…」

 俺の言葉に対するその反応で、やっぱりこの人はいい人なんだなー、なんて再確認してると。

「と、とにかく、公孫賛さんはやめてくれ。
 伯珪でいいよ」
「字で呼んでいいの?太守様なんだろ?」
「いや、そんな溜め口で言われても説得力ないだろオイ」
217 名前:名無しさん@初回限定[sage マジ] 投稿日:2009/01/12(月) 21:04:54 ID:M1SDqkoq0
 目を閉じて、そんなことを言う公孫賛に、思わず笑みがこぼれてしまう。

「じゃ、伯珪。本当にありがとう」
「ああ、どういたしまして。
 で…お前、これからどうするんだ?」
「うーん…」

 腕を組んで、首を捻る。

 どうやって元の世界に戻る?そんな方法なんてさっぱりわからない。
 どうやって雨露をしのぐ?家なんてない。
 そもそも…どうやって飯を食う金を稼ぐ?

「…どうしよう」
218 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:06:11 ID:M1SDqkoq0
[三]

 かくして、見たまんま人のいい公孫賛さん…伯珪は、俺を城に置いてくれることとなったのだった。
 流石にただ飯を食らうわけにはいかないので、いくつか仕事はもらったけど。

 とはいえ、いくら人のいい(ように見える)彼女でも何も考えていないわけではないんだろう。

 聞いた話では…世は乱れている。
 おそらく今は、名高い黄巾の乱が起こる、少し前の時代。

 宦官達による皇帝の傀儡化、地方の腐敗。
 増加する盗賊、荒れる田畑。
 彼女がこの先の、英傑達が鎬を削る乱世を予想してはいないまでも、乱れた世を治めたいとは思っているはずだ。

 そんな最中、噂どおりに天の御遣い…かもしれない、俺が現れた。
 果たして彼女が、本当に俺を天の御遣いと思っているのかはわからないが。
 それでも、俺を担ぎあげる奴らが現れるかもしれない以上、手元に置いておいたほうがいいと考えるのが普通だろう。

(…本物のお人よしにも見えるけどなあ)

 心の中の思いと重なるように、彼女の困ったような笑みが頭を過ぎる。
 男だったら、あんなに可愛い女の子は助けたい、と思うものだし、一宿一飯の恩義もある。
 何より、やっぱり公孫賛は普通の「いい人」にしか見えないのだ。
 だからこそ。

(とりあえず、何か、俺に出来ることがあったら…)

 助けてあげたい、などと分不相応なことを考えて。
 目を、閉じた。
220 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2009/01/12(月) 21:12:31 ID:M1SDqkoq0
以上で投下終了です。
残り2レスでさるさん喰らうとは思いませんでした。本当にごめんなさいorz
投下を先走りすぎました…支援してくれた方々、すみませんでした
次回は飲兵衛で筍好きなあの人が登場する予定です
一人称は苦手なので、どこか違和感があったら是非教えてください。
ではまたッ!

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