- 449 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 01:17:27 ID:xuasQr/F0
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今更なネタだけど保守代わりに
- 450 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 01:18:24 ID:xuasQr/F0
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名だたる群雄達が集った反董卓連合が解散し、大陸に平穏が戻ったように見えたのも束の間、天下に覇を唱えようと野心を抱く英雄・梟雄により、各地では新たな戦乱が勃発していた。
強者が弱者を呑み込み、勝者が敗者を蹂躙する。
時代はまさに群雄割拠する戦国乱世へと流れていった。
それは中原から遠く離れた辺境の地に於いても例外ではなく──
「なっ!?本初が攻めて来ただと!?」
河北の最大勢力を誇る袁家の軍勢が、幽州の遼西郡に攻め入ったのは洛陽制圧から僅か数ヶ月の事であった。
圧倒的な兵力で本拠地冀州とその近隣各州を併呑した袁紹は、最大の宿敵とも言うべき魏王曹操との戦いに備え、後顧の憂いを絶つべく幽州までその食指を伸ばしたのだ。
袁家襲来の報を受けた北平太守公孫賛は、直ちに軍勢をまとめると侵略者を迎え撃つべく出陣、易京で両雄は対峙した。
しかしその結果は惨憺たるものであった。
一軍を纏める君主としての能力で公孫賛が袁紹より劣っていたわけではない。
しかし名門袁家の当主であると言う肩書きを武器に大兵力を擁し、二枚看板と呼ばれる顔良・文醜を筆頭に猛将・知将をキラ星の如く揃えた袁紹に比べると、彼女の率いる軍はあまりに小さかった。
緒戦こそ善戦を見せたものの、文醜が精兵五千を引き連れ突撃を仕掛けるとたちまち戦線は崩壊、精強で名高い白馬義従も殲滅の憂き目に遭ってしまった。
頼みとする精鋭を失った公孫賛は、已む無く戦場を放棄、本拠地北平の城へ逃げ込むと城門を閉ざして籠城戦の構えを取ったのだった。
- 451 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 01:19:17 ID:xuasQr/F0
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開戦より20日余り──絶望的な兵力差を前に、公孫軍はよく持ち堪えていた。
しかし日に日に死傷者の数は増え、兵達の疲労も限界に達しようとしていた。
その日も朝から袁軍により激しい攻撃が加えられていたが、袁紹が空腹を訴えた為に一時的に陣へと引き上げ、公孫軍も束の間の休息を取ることが出来た。
「今、どれくらい残っている?」
傍らに控える副官──もっとも名の通った武将は既に皆戦死しており、彼は単なる一部隊長に過ぎないのだが──に問い掛けた。
「ハッ、およそ3000くらいかと」
「それは戦える人数でか?」
「い、いえ、戦える者で言えば1000と少しになります」
「そう、か……」
呟きながら城壁より眼下を見下ろす。
そこには数万の軍勢と見渡す限りの袁旗が立ち並び、その威容を誇っていた。
「潮時、かな」
自嘲気味に言うと、スッと立ち上がり、兵を見渡した。
「皆の者!よく今まで私に従って戦ってくれた!だがこれ以上お前達が屍を晒すのを私は望まない。よって我が軍はこれより袁紹軍に降伏する!」
公孫賛の宣言に兵達からどよめきが上がった。
「し、しかし、あの袁紹が我等の降伏を素直に受け入れるでしょうか?」
副官が疑問を投げ掛ける。
確かにこれまでの袁軍は自らの力を誇示する為に、一切の降伏を許さず力ずくで制圧してきた。
「フッ、袁紹とて人の子だ。私の首を差し出せば、昔の誼でお前達や城民達の身の安全くらいは保障してくれるさ」
「そ、そんな……。そ、そうだ!北郷軍に援軍を求めては!」
「そうだ!北郷軍ならきっと我等を助けてくれる!」
「おお、関羽殿と張飛殿がいれば袁軍など恐るるに足らずだ!」
兵達が次々に上げる声を、しかし公孫賛は一喝して遮った。
「ダメだ!北郷に頼めばきっとあいつは我が軍を見捨てる事は無いだろう。しかし如何に関羽・張飛が一騎当千の猛将とは言え、兵力の差は絶対だ。みすみすあいつ等を死地に呼び込むことは出来ん」
「ですが殿を犠牲にして我々だけ生き延びては……」
「馬鹿野郎!こんな時に兵や民を守る為に命を投げ出さずして何が将だ!──今日までに多くの兵を死なせてきた無能な君主によく付いて来てくれた。心から礼を言うぞ」
公孫賛が穏やかに微笑んでそう言うと、兵達の間からは押し殺した嗚咽が漏れた。
- 452 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 01:27:04 ID:xuasQr/F0
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と、そこへ場違いな声が響き渡った。
「伯珪さん!伯珪さん!!伯珪さんってば、早く顔をお出しなさーい!!」
「フフ、向こうから来るとは手間が省けたな」
城壁から顔を出すと、そこには胸を反らして声を張り上げる袁紹の姿があった。
「袁紹!私はここに居るぞ!」
「よ、ようやく顔を出しましたのね、伯珪さん。……ゼェゼェ」
声を出しすぎて疲れたのか、暫く息を整えていた袁紹だったが、やがて再び胸を反らすと傲岸な笑みを浮かべて口を開いた。
「どうかしら、伯珪さん。そろそろわたくし達の強さが骨身に沁みたのではなくて?いい加減負けを認めてわたくしの軍門にお降りなさいな。わたくし、貴女のその不細工な顔はそれほど嫌いではなくてよ」
どこまでも神経を逆なでする物言いに、内心溜息を吐きながらも公孫賛が答えた。
「確かにこれ以上戦っても互いに無用な死人を出すだけだ。正直私達に勝ち目は無い。お前の下に降るのも吝かではないな」
「あら、随分殊勝ですこと。まあ、そう言う事でしたら話は早いですわね。それでは降伏の条件を言いますわよ。その条件とは──」
「分かっているさ。私の──」
「我が袁家に楯突いた全ての兵の首を差し出すこと」
「なッ!?」
「そうすれば伯珪さん、貴女の命だけは助けてあげても宜しくてよ?但し、わたくしの愛玩奴隷として、ですけれどね」
「ば、馬鹿な事を言うな!兵の命を助けずしての降伏に意味なんかあるか!」
「何と言われようとわたくしは譲歩しませんわよ。袁家に逆らう者の末路と言うものを、あの生意気小娘に見せ付けてやらなくてはならないのですから。おーほほほほ!」
怒りに満ちた公孫賛の眼光も何処吹く風と受け流し、袁紹は高笑いを上げた。
「え……袁紹────ッ!!」
激昂した公孫賛は、傍らの兵から弓矢を奪うと、高笑いを続ける袁紹目掛けて矢を射ち放った。
「姫!危ない!」
しかし寸での所で文醜が引き倒した為、矢は袁紹の頬を僅かに掠めただけで後ろの地面へ空しく突き刺さった。
「だ、大丈夫ですか、麗羽様ー!?」
- 453 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 02:12:37 ID:xuasQr/F0
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袁家二枚看板のもう片割れである顔良も慌てて袁紹へと駆け寄る。
二人が助け起こすと、顔面を蒼白にした袁紹がプルプルと身体を震わせながら矢の掠った頬に手を
やった。
ヌルッとした感触が指先に伝わる。
恐る恐る見ると、その指先は鮮血に濡れていた。
「わ、わたくしの……わたくしの顔に、傷が……わたくしの美しい顔に傷が……ッ!!」
その目に激しい憤怒と憎悪の色を浮かべ公孫賛を見上げる袁紹。
「許せませんわ……ッ!!──顔良さん、文醜さん!!もう遠慮することはありませんわ!今すぐあの
不細工なお猿さんをわたくしの前に引っ立てて来なさい!このわたくしの顔に傷を付けた報いを受けさ
せるのですわ!伯珪さんなんか、兵士達の慰み者にした上で車裂きの刑にしてやりますわ」
袁紹の号令の下、袁軍による総攻撃が始まった。
袁紹の発する怒りに押されたか、それまで以上に激しい攻撃を繰り返す袁軍は、たちまち城壁に張り
付き公孫軍を追い詰める。
寡兵ながらも必死に岩を落とし油を掛けて敵を追い落とす公孫賛達だったが、遂に城郭の一角が破
られた。
一度突破口を開かれると人数に劣る城兵達は次々と斬り伏せられていく。
「ハハッ、どうやら本当に最期の時が来たみたいだ」
「お供します!」
残り僅か数十人となった従者の一人が答える。
「ああ、せめてもう一度くらいは本初の胆を冷やしてやろうか」
「ハッ!」
公孫賛は城内へ向かうと、厩舎に繋がれた愛馬に跨り城門へと駆けた。
そこは既に破られ、文醜配下の一部隊が入り込んできていた。
それを見た公孫賛は、鬨の声を上げて敵兵へと突撃した。
今、滅び逝こうとしているとは言え、彼女とて乱世に名を轟かせた一雄である。
更に付き従うは既に死を覚悟した死兵数十騎。
その気迫は城門を破って戦勝気分の漂い始めた袁軍の比ではない。
「おおおぉぉぉぉ────ッ!!」
あっという間に数人の兵を斬り斃し、勢いに任せ先鋒の将の胸に剣を突き立てた。
周りの従者も寡兵とは思えぬ奮戦を見せている。
思わぬ反撃に浮き足立ちかける袁軍だったが、そこに一騎の騎馬が進み出た。
「そこまでにしてもらおうかな、公孫賛殿?」
- 454 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 02:13:25 ID:xuasQr/F0
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純粋な武に関しては袁軍随一とも謳われる文醜だった。
「……文醜か」
「そのまま暴れまわっても力尽きて雑兵に討たれるだけっしょ?こっちも無駄に兵を失いたくはないしさ、ここはあたいと一騎打ちってのはどうかな?」
「フン、武士の情けって奴か?」
「あはは、そんな殊勝な気持ちは無いよ。あたいはただ、ちょっとでも手応えのある相手と戦いたいだけさ」
「フフッ、いいだろう。お前みたいな奴は嫌いじゃない」
「そうこなくっちゃ。──お前等、一切手を出すなよ!万が一にも余計な事をした奴がいたら、あたいが斬るからな!」
「「「ハッ、了解しております!!」」」
大将の影響か、文醜軍の兵士達はこういう場面で勝負に水を差す様な行為は厭うらしく、皆整然として二人の対決を見守る姿勢を取った。
「それじゃ──」
「──いこうかッ!」
二組の人馬がぶつかり合う。
激しい火花を散らして互いの刃が弾けた。
(こりゃあ勝てないな)
武人としても一角の実力を持つ公孫賛は、その一合で相手との実力差を悟った。
身の丈ほどもある巨大な大剣を軽々と振り回す文醜は、流石大陸に名を轟かせた豪傑の一人だった。
二合、三合と切り結ぶに連れ、自分の死期が迫るのを感じ取る。
そしてそんな状況にも拘らず、彼女は脳裏に一人の男の姿を思い浮かべていた。
(北郷一刀……)
手綱を返して斬撃をかわし──
(もう一度あいつと肩を並べて戦ってみたかったな)
繰り出した剣を弾かれ──
(もし生まれ変わってまた出逢う事が叶うなら)
大剣の腹で打たれ体勢を崩し──
(あいつに私の真名を知って欲しいな)
そして目の前に大きく剣を振りかぶった文醜の姿があった。
(北郷、私の真名は──)
- 455 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2008/11/04(火) 02:14:57 ID:xuasQr/F0
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「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「ん、どうした鈴々?」
政務の合間に中庭で恋と日向ぼっこに興じていた一刀は、自分を呼ぶ鈴々の声に身体を起こした。
見ると中池で水遊びをしていたらしい鈴々がぶんぶんと手を振っている。
「早く早くー!こっちの来るのだー!」
「わかった、わかった。──行ってみようぜ、恋」
「…………ん」
何事かと視線を送る恋を伴い、池の畔へと近づく。
「何かあったのか、鈴々」
「ほらほらー、池の真ん中に綺麗な花が咲いているのだ」
「ん、どれどれ?ああ、あの真っ白い花か」
「うん!ねぇ、お兄ちゃん、アレはなんて言う花なのだ?」
「え!?うーん、あれは……」
「あれは蓮の花ですね」
「そうそう、蓮の花だ!──って、え?」
不意に横から声を掛けられて見ると、そこには自分を探しに来たらしい朱里がいた。
その後ろには同じく愛紗が腕を組んで睨んでいる。
「まったくご主人様は、ちょっと目を離すとすぐにサボるんですから」
「あ、あはは、すぐ戻るよ」
「……愛紗も……花、見る……」
しどろもどろになる一刀に思わぬ助け舟を出してくれたのは恋だった。
さしもの愛紗も恋には強く出れないのか、小さく溜息と吐くと「少しだけですからね」と釘を刺し、傍らへ腰を下ろした。
「ですが確かに美しいですね」
「はわ〜、綺麗ですぅ」
「のだー」
各々その美しさに目を輝かす仲間達。
一刀もまた同じく目を奪われていたが、何故かその美しさの中に一人の少女を重ねていた。
優しく、気高く、ちょっとだけ素直じゃない一時だけの戦友だった少女を。
(元気でやってるかな、公孫賛)
その公孫賛が今この時に討たれた事、そして彼女の奮闘が自分達に掛けがえの無い時間を与えてく
れたことを、一刀はまだ知らない──
終