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351 名前:エロ本[sage] 投稿日:2008/06/07(土) 14:12:40 ID:eNSn6EVK0
とりあえず、うpしてみる

ttp://iroiro.zapto.org/cmn/jb/jb.cgi?mode=dlkey&id=5406
pass:koihime

注意
・形式は何故か圧縮したワード。いろいろ初心者なので勘弁してください。
・オリキャラがこの回から出てきます。
・地の文の表記が途中から真名(オリキャラ除く)になってます。これは作者のモチベーションの問題なのでご了承ください。

恋姫†無双〜サイド呉〜
第2話

 世の中、流される人は流されるものである。
 そして、青空のもと、パンダに乗って数千の兵士を連れて建業への道を行く彼‐北郷 一刀もその例に洩れなかった。
「何で、こんな事に……」
「もぉ〜、さっきから何溜息なんてついてるのよぉ」
 隣でそのように言うのは白虎に跨っている孫呉のお姫様こと小蓮である。
 まぁ、彼がため息をつくのも無理はないのだろう。
 いきなり、訳のわからない世界に来たと思ったら、いきなりのお婿さん宣言。そして、今は山賊と軍隊を引き連れて建業への道をまっしぐら。
「これでため息つかないほうがおかしいっての」
「まぁ、そうでしょうね〜」
 隣で馬に乗っているおっぱい軍師(by一刀)こと穏がそれに同意する。
 一応であるが、建業への道のりは長いため、双方の事情を話していた。一刀のほうは、この世界とは別の世界から来た事、自分の世界とこの世界は違うこと、などを話した。その際、穏が微妙に顔を赤らめていたのだが、何故かは不明である。
「でも、占いが当たるなんて思いませんでした〜」
「だから言ったでしょ?シャオの勘はよく当たるんだって」
 一方で、小蓮の方は一刀に出会ったのは一つの占いがきっかけであったという。
『楊州会稽に天の御遣いが降り立つ。其の者この国に平穏をもたらすものなり』
 そんな胡散臭い占い師の言うことにより、たまたま家出した小蓮は気分転換兼気まぐれに竹林を散策していたのだという。
 ただ、彼女の家出の理由は語ってはいないが。
「いや、でも俺は天の御遣いなんかじゃ……」
「確かに、兄さんは威厳とか零ですからねぇ」
 後ろの山賊の兄ちゃんが笑いながら否定できないことをいう。
「とはいっても、その名に似合うような光る服を着てますよね〜」
 隣の穏は、今まで見たことがないような材質に興味津々のようである。
「いや……これはポリエステルだから」
「ぽりえすてる?」
 聞きなれない単語なのか、小蓮、穏共々、頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。まぁ、この時代には合成繊維は誕生してないようなので仕方ないのだが。
「でも、いくらそんな事があったなんて、お婿さんにするって」
「何言ってるの?一刀。シャオは天の御遣いとか関係なく、一刀を気に入ったから選んだんだよ?」
 こんな男のどこがいいのか?と一刀自身で自分のことを突っ込むのは御愛嬌だろう。
「で、これから何処に?」
 おそらく、建業へと向かうのであろうが、一応穏に再確認する。
「え〜っとですね、穏達はこのまま建業から南に20里ほど行ったところにある平地に向かいます。そこでおそらく孫権様達が訓練をしていると思いますので〜。おそらくあと3日もあればつくと思いますよ〜?」
 そう言いながら、馬を進めていく穏。
「まぁ……いいけどさ。ところで、穏」
「はい?」
「後ろの兵隊なんだけどさ」
「何でしょうか?」
「数が、増えてない?」
 そういうと、一刀はゆっくり後ろをもう一度見る。
 そこには、丁奉が率いる呉軍、小蓮が仲間にした山賊以外にも兵隊がいた。
「ああ、それでしたら、小蓮様にあらたに付いてきた皆さんも加わっていますので〜」
「ああ、そう」
 そうすると、額から汗が出るしかない。
 おそらく、先ほどの戦いでの黄巾党の負傷兵、戦いを見ていた義勇兵なども加わっているのか、後ろには5,000余りの兵隊が列を作っている。
(これも、呉の御姫様の人徳なんだろうか?)
 そんな事も思いながら、彼らは進んでいく。建業まではもうすぐであった。



 そして、何のトラブルもなく3日が過ぎようとしていた。
 もう、パンダの乗り心地にも慣れた一刀はゆったりとしていた。
「いや〜、結構乗れるもんだな。パンダって」
 動物園でしか見たことのない動物に3日続けて跨るなんて普段なら絶対にしない経験だろう。
 まぁ、したくもないというのが本音であるが。
 すると、いきなり穏が口を開いた。
「小蓮様! 前を見てください!」
 すると、小蓮とそれにつられた一刀が前を見る。
 そこにあった光景は信じがたいものであった。
 無数に上がる黄の布、そしてそれに対峙するかのようにと『甘』の旗、そして隣には牙門旗が立っている。
「お姉ちゃん!」
「ま、まさか……」
 よく見れば、砂ぼこりが立っており、銅鑼や雄叫びが離れたこの場所にも聞こえてくる。見れば、孫の旗を掲げている者たちは、今にも黄巾に押しつぶされんとしていた。
「まさか、訓練中を狙われたのか?」
「いえ、それにしては兵が少なすぎます。おそらく、終わった後、帰るときの後詰めを狙われたんでしょう」
 穏が冷静な分析をする。見た限りでは、黄巾は20000の兵を抱えている。一方、呉軍は5000余りの部隊。とてもではないが、太刀打ちできないようだ。
「皆!お姉ちゃん達を助けに行くよ!」
 小蓮はそう決断をした。
 だが、現実はうまくいかない。
「け、けど……あの数じゃ」
「てめぇ! 孫尚香様の為なら命は惜しくないって言ったろ」
「け、けど、あれじゃ負けちまいますよ!」
 後ろの兵隊が騒ぎ出す。新兵として入ってきた連中が騒ぎ出しているのだ。
 しかし、それだけでも統率を揺らがせる原因となる。騒ぎが一滴の水滴だとすれば、不安は滴下した後には波紋のように広がっていった。
「ちょっと! みんな!」
「だって、孫尚香様、あの数じゃあ俺たちだけじゃどうにもできませんぜ?」
「だったら、呉の増援隊を待ってから……そうじゃねぇと全滅しちまう」
 兵隊が次々と声を上げた。
「そ、それは……」
 その声の多さに小蓮も少しだけ引き下がってしまう。確かに彼らの言っている事は正論だ。穏も決してそれに反論はできなかった。
「でも……」
 だが、今はそんな事は問題ではない。
 今行かなければ駄目な気がしたのだ。だから、一刀は、口を開いて
いた。
「みんな!」
 驚いた全員が一刀の方を振り返る。しかし、その不安げな表情を向けられると、思わず引き下がってしまいたくなった。
 だが、彼はここで引くわけにはいかない。
「確かに、ここで戦ったら皆傷つくかもしれないし死ぬかもしれない。そんなに怖いのは分かってる。でも、もしあの軍が負けたら次に向かうのは、街だ。
 あそこには小蓮のお姉さんがいる。もし、あの軍が負けたらお姉さんもきっと殺されるんだぞ! そして、街も蹂躙される」
 その言葉はスラスラと出てきた。自分の思っていること、この世界を、何を守りたいのか。
「そうしたら、小蓮は大事な国とお姉さんを失うんだ。それだけじゃない。呉のみんなも、何万といるみんなが居なくなる。でも、俺はそんなのはいやだ。だから、我が儘かもしれないけど、俺はみんなに戦ってほしい。小蓮と呉の笑顔を守るためにも」
 一瞬の沈黙が走る。
 正直にいえば、自分の我儘を言っただけだ。
 しかし、少しの沈黙の後に後ろにいた山賊の兄ちゃんが声を上げた。
「その通りだ!俺たちゃ、孫尚香様のためにここまで来たんだ! その子を泣かせてどうすんだ!」
 すると、それは再び波紋のように広がっていく。
「そうだ! その通りだ」
「俺たちゃ、命なんて惜しくねえんだ! ビビってどうすんだよ!」
「おっしゃー!やったるでー!」
 次々と上がる歓声。それは一つに纏まっていく。
「一刀……」
 隣から声が聞こえた。それが小蓮のものだということがわかる。
 どんな顔をしているかは分からない。振り向けばいいだけの話なのに、一刀には振り向く気はなかった。
「行こう」
 今やるべきことは別にあるから。
 そう思うと小蓮も号令を発した。
「先頭はシャオでいくよ! 穏は指揮をとって! 皆! いっくよー!」
 そういうと、彼女はチャクラムを握りなおし、白虎が走り出す。その後ろに一騎当千の意志をもった兵士が続いた。
 それは、再びの戦いの合図で会った。



 結果から見れば、不利であった。
 いくら相手の虚を突いたとはいえ兵力差は圧倒的。
 それを覆そうにも、呉の部隊と連携が取れていない以上、小蓮達の兵が苦戦するのは必至であった。
「ああーもう!」
 小蓮がイラつきの一撃をふるうと、また一つ屍が出来上がる。
 だが、いくら屍を作ったところでその後には数倍の兵士が殺到する。
「あう〜、このままだと危ないです〜」
 一刀の隣にいる穏が慌てたように言う。
 ここまでの混戦になってしまえば兵法など関係ない。ただの数の勝負となってしまう。無論、相手もそれを分かっているのだろう。
「このままだと、押しつぶされちゃいます」
 多少混乱気味の穏が警告を発する。もう、駄目かもしれない。そう思ったときであった。

ジャーン!!ジャーン!!

戦場に銅鑼の音が響いた。
 戦の兵士が皆そっちに振り替える。その先にいたのは……。
「も、もーちゃん?」
 穏がそう呟いた。
 先にいたのは『呂』の旗を筆頭に突撃してくる呉の兵士たち。さらに後ろには『黄』『程』『周』などの旗も続いている。
 すなわち、それは増援であった。
「とつげき―!」
 先頭を進む少女が一気に黄の布の海へ飛び込んでいく。それに続くさまざまな旗が、黄色の海の中に潜り、屍の山を作っていく。
「これは……」
「もーちゃんたちが増援に来てくれたんですぅ」
 唖然とする一刀に穏がすかさず解説を入れる。彼女の言う『もーちゃん』が誰だかはわからないが、おそらく彼女も武将なのであろう。
「なぁ、今が……」
「好機ですよねぇ」
 一刀が言う前に、穏が動いていた。
「小蓮さま〜、もーちゃん達が増援に来てくれましたよぉ。今が好機ですぅ」
「もーちゃんが……よっし!」
 そういうと、小蓮は大声を上げる。
「みんな! 反撃開始―!」
 たったそれだけの号令。だが、今の状態ではそれ以上の号令は必要ないのだろう。
 戦場の女神は、彼女たちに味方したのだから。



 増援の効果は圧倒的であった。
 一気に崩れた黄巾党に士気を取り戻した兵たちが再び覆い尽くす。
 その結果、烏合の衆であった黄巾は壊滅し、武器を捨てて逃げて散り散りになる兵が一目散に逃げて行った。
 もはや、それは戦の時間はとうに終わっていたのだ。
「一刀!」
「のわっ!」
 戦が終わるとすぐに抱きついてくる小蓮。そして、一刀はそれを必死に受け止める。
「しゃ……小蓮」
「さっきはとってもかっこよかったよ♪ さすがシャオのお婿さん」
 そういうと、頭を一刀の胸にすりすりと押しつける。当の一刀は困ったように頭を掻いているが。
「あ〜、えっと……なんだ?こんなところで」
「お暑いですねぇ〜」
 それを傍目からニコニコと見ているのは当然ながら穏だ。
「いや、止めてくれよ」
 困り顔の一刀が助けを求めるが無駄なことだろう。それに、今の小蓮を見れば他の誰でも止めることは無理だろう。
「それに、シャオ、少しだけ嬉しかったよ」
 甘えたような声で小蓮はゆっくりと目を閉じる。
「一刀はやさしいんだね」
「小蓮……」
 その格好は甘えるように。儚いように。彼女の見たことのない姿が、先程の孫呉の御姫様とはかけ離れた小蓮がそこにいた。
「小蓮……そのさ……」
「りっちゃん。このあとあのおにーちゃんどうするの?」
「もーちゃんには少し早すぎるかもしれませんねぇ」
「うにゅ〜、もーちゃんにはよくわからないんだもん」
「……えっ?」
 唐突に聞こえた声は穏だけのものではなかった。気になり少し首を回すと、穏とは別の小さな少女がこっちを興味心身に見つめている。その少女は、先ほど増援の先頭に立ち、敵に突っ込んでいった少女であることを一刀は憶えている。
「あの〜、どちらさまでしょうか?」
 思わず小蓮を抱きしめたままの体勢で固まる一刀。すると、その少女は元気に答えた
「もーちゃん?もーちゃんはね、性は呂、名は蒙、字は子明だよ?もーちゃんって呼んでね♪」
 彼にとっても爆弾発言を含めながら。
「はぁ、呂蒙ちゃん……って、まさか」
 まぁ、彼が再び冷や汗をかくのも無理はない。呂蒙といえば、蜀の勇将である関羽を打ち取った武将として有名である。それが、こんな外見年齢10歳程度の少女だと誰が想像しようか?
「それで、おにーちゃんは誰なんだもん?」
「この人はですねえ、小蓮様のお婿さんなんですよぉ」
「って、穏! いきなりそれはないだろ」
「でもぉ、穏はそういう風に紹介を受けましたしぃ」
 頭の上に音符を浮かべながら面白おかしく話している穏。それは絶対にわざとだ。
「じゃあ、蓮華様にほうこくしなくちゃね、りっちゃん」
「そうだね〜、もーちゃん」
「って、こっちはこっちで聞いてないし、ってか仲良いですね」
 華麗に一刀の事を無視して、穏と呂蒙は話を続けていく。その間、
「むぎゅぅ……一刀。苦しい」
「って、うわぁ! ごめん」
一刀が小蓮の事を窒息寸前まで抱きしめていたのは御愛嬌であった。



 それから一刀たちは後の本陣へと通される。
 そこを見ると、意外なことに負傷兵の数が少ないものの不穏な空気が陣内を包んでいる。その空気の大本は彼らの中心である牙門旗の下である。そして、一刀が連れて行かれたのは、まさにそこであった。
「……」
(うわっ、すごい目で見られてる)
 彼を見る視線は4つ。
 一つは目の前にいる、派手な頭飾りをつけた浅黒の肌の少女。
 そして、その傍に仕えている地味な印象を持つ少女。
 この2人は一刀の正体を探るような目つきで見据えている。
 一方で、一刀達の隣にいる2人の少女、一人は鞭を持ったもーちゃんと同じぐらいの背格好の子供で、もう一人は槍をもった外見17歳ぐらいの少女だ、はただの興味本位で彼を見ているような目つきであった。
「……」
 空気が重い。そう感じた矢先に口を開いたのは頭飾りをつけた少女であった。
「お前の名は何という?」
「え?俺は……」
「北郷 一刀だよ、お姉ちゃん」
 すかさず、隣にいた小蓮が答えた。
(お姉ちゃん?じゃあ、この女の子が……)
 呉の王である少女。孫権 仲謀なのだろう。どうやら呂蒙が言っていた蓮華とは真名の事なのだろう。
「小蓮様。蓮華様はその北郷とやらに聞いているのです!」
「良い、興覇」
 小蓮を嗜めようとする地味な少女を蓮華は『興覇』と呼んだ。つまり、彼女は甘寧 興覇なのだろうと予想はつく。
「それで、北郷とやら……」
「お姉ちゃん!」
「何だ?」
 蓮華が何かを話そうとした瞬間に、小蓮が割り込む。
「一刀はお姉ちゃんにとって恩人なんだよ?いくら、お姉ちゃんが王様だからって、恩義を受けた相手にそんな態度をとるのが孫家の道理に反するよ?」
「むっ……」
 確かに、『北郷とやら』という言葉遣いは失礼だろう。一刀は孫権の家臣ではないのだから。
「済まない、北郷殿。非礼を詫びよう」
「いや、別に俺は……」
 とはいっても、正直にいえば、一刀がこの空気の中で発言すること自体が難しい。
「それで、北郷殿。我が孫呉の姫たる孫尚香を連れ、どのような用件かをお聞かせ願いたい」
 隣の甘寧もその言葉が蓮華から発せられると目つきが一段と鋭くなる。
 しかし、その沈黙を破ったのは小蓮、ではなく穏であった。
「え〜っとですねぇ、一刀さんは小蓮様のお眼鏡にかなってお婿さんになったんですよぉ〜」
 その瞬間、空気が凍った。おもに甘寧と蓮華の周りの空気が。
 穏や小蓮は笑顔で一刀の顔を見ている。
「……小蓮」
「何?お姉ちゃん」
「お前は孫家の血を継ぐものだ。其の者が、まだ、素性も知らない男と婚約をするなど……」
「なに?もしかして、お姉ちゃんはシャオの決めた人が訳の分からない男だから結婚しちゃだめっていうの?」
 すぐさま不機嫌な色を見せる小蓮。その態度を見れば、今の発言がどれだけ彼女にとって不愉快であったかが良く分かる。
「い、いや、そういうわけではなく……」
「小蓮様!」
 口籠る蓮華の代わりに口を開いたのは、隣にいた甘寧であった。
「小蓮様は孫家の血を受け継ぐお方です! それなのに、此度の家出騒動を起こし、挙句の果てに誰だか知らないような男と結婚なさるなど、孫家としての自覚が足りません!」
「シャオが誰と結婚しようが思春には関係ないでしょ!」
 だが、一方の小蓮も決して引くことはない。ちなみに、『思春』とは甘寧の真名であるらしい。
「小蓮様!」
「それとも、思春はシャオの人を見る目が信用できないの?シャオだって、孫家の一員。だから、人を見る目はあるんだけれどな〜?」
「むっ……」
 孫家の名を出され、思わず引いてしまう思春。いや、具体的には回答が出来ない状況を小蓮が作り出したのだ。そうなれば、思春も引かざる負えないのだろう。
 そして、少しの沈黙の後、
「あっはっはっは……思春ちゃんの負けだね〜」
新たな大声が彼女たちの間を通り抜けた。
「こ、公覆殿?」
 声を出したのは、先ほどから隣にいながらも声を発さなかった二人組の、幼い少女の方であった。
(公覆……)
 その字を持つ者は一人しかいない。
「確かに、小蓮様に人を見る目がないとしたら、それは文台様の血だからね〜。いや、そうなると意外と説得力が」
「公覆。母上の侮辱はいくらお前とて許さぬぞ」
 黄蓋 公覆
 呉の旗本の一人であり、孫家三代に仕えた老将。
(それが、こんな子供?どうなってるんだ、この世界は? もしかして、三国志は全然関係ない世界なのか?)
 一刀は、自分の世界にある三国志とは違う世界であることを思い知らされるように思えた。もしかしたら、名前だけが同じであり、実際の三国志とは関係がないのかと思う。だが、それは……
「いや〜、ちょっとした冗談だって。そんなに目くじら立てると、老けるのが速くなるよ?」
「公覆様に言われると説得力がありますねぇ。歳の功ってやつですかぁ?」
「穏ちゃん? 口は災いのもとって知ってるかな〜?」
(……もしかして、前言撤回?)
 どうやら、彼女はこの世界でも老将らしい。
(となると……)
 穏の頬っぺたを黄蓋が引っ張っているのをわき目に、一刀はもう一人の少女に目を向ける。
(おそらく、あの子も……)
 黄蓋と並べるような将の名をもつ少女なのだろう。
(陸遜、呂蒙、孫権、甘寧、そして黄蓋……全員女の子になってる。もしかして、他の武将も?)
 この世界にいるであろう劉備や曹操も女性なのだろうか?そして、ここはどこなのだろうか?
そのような疑問が浮かぶ一刀。だが、その答えをこの場で出せるような雰囲気は存在していなかった。

「で、蓮華ちゃん。どうするのかな?」
 穏の頬を一通り捻った黄蓋が
、自分の主に向け口を開く。
「む……」
 ふざけた空気から一転し、再び重苦しい空気が流れ込んでくる。だが、それも多少は和らいだようだ。
 そうしたのも、黄蓋のおかげなのだろう。
「確かに、北郷殿は恩人だ。それなりの褒美を取らせるのが普通だろう。だが……小蓮との婚約は認められん」
「ぶーぶー。蓮華様は、けちんぼなんだもん」
 呂蒙からのブーイングが飛ぶが、蓮華は一切無視する。
「それで、北郷殿。何が望みか?」
 そのまま、全員の視線は一刀に移った。だが、今は彼の望みは一つだけだ。
「この世界の事を教えてほしい」
「……はっ?」
「はっ、なるほど〜」
 隣にいた穏が何かを理解したように頷いた。当の蓮華は分からないようだが。
「伯言。どういう事だ?」
「実はですねぇ〜。一刀さんは天の世界の人間なんですよぉ〜」
「……はっ?」
 再びのクエスチョンマーク。いや、普通の人間であれば、いきなりそんな事を言われて信じる者はいないだろう。
「そ、そうなんだもん?」
 約一名、例外を除いて。
「実際に、『ぽりえす照』という変わった服も着ていますからねぇ〜」
 微妙に発音が違った気がするが、一刀はあえて無視する。
「伯言! そのような絵空事を信じるというのか!」
 当然ながら、反対する思春。今にも斬りかからんとする勢いは、穏のほんわかとした空気とは全く正反対だ。
「でもぉ〜、実際にそうなんですから〜」
 一方の穏は自分の姿勢を崩してないようだ。
 意見がすれ違う。
 だが、それを収めたのは、
「伯言、興覇。二人ともいい加減にしろ」
「はっ!」
「はぃい!」
 目の前にいた孫呉の王、蓮華であった。
「北郷殿。もし、この世界の事を知りたいというのなら、一つだけ提案がある」
「……提案?」
「もし、このまま見聞の旅を続けるというのであれば、止めはしない。しかし、見るに北郷殿はこの世界に疎いと見える」
「あ、ああ……」
 実際にこの世界の事を一刀は何も知らない。
「それで、一つ提案だが、我が孫呉の客将として北郷殿を迎えたい」
「れ、蓮華様!」
「この世界の事を知りたいというのならば、伯言と子明に付くが良い」
「穏ともーちゃんに?」
「ああ、伯言は我が国の書物を読破している才女だ。それに、子明はあれでも優秀な才を持っている。お前が求める情報の助けになるだろう」
 明かされる驚きの事実。
「ほぇ?」
「うにゅ〜、もーちゃんおねむだもん」
 とてもそうには見えないが。
「ああ、分かった」
 これで、話は終わった、かのように見えた。
「じゃあ、一刀の所属はシャオの親衛隊長だね」
 この一言がなければ。
「しゃ、小蓮?」
 いきなり割り込んだ声に思わず、間抜けな声を出す蓮華。
「だって、一刀はシャオのお婿さん候補だよ?それに、今、客将を置くような場所はないんでしょ?」
「な、何?」
「確かに、それがいいかもしれませんねぇ〜」
「の、穏?」
「まぁ、あの冥琳ちゃんの目をごまかすにはそれしかないだろーね」
「公覆まで……」
「もーちゃんもさんせー」
 呂蒙、黄蓋、穏の賛成、この場に反対するのは、隣にいる思春ぐらいであろう。
 そう考えると、蓮華の決断は早かった。
「……好きにしろ」
 こうして、北郷 一刀は孫呉に入ることになる。
 これが、すべての始まり。一人の少年が紡ぐ孫呉の、いや、世界の始まりであった。

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