- 507 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:48:33 ID:IDsn+KwW0
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>>458
逆に考えるんだ、穏がわざわざ上下さかさまに読んだんだと……。
すまん、間違いだから各自補完して読んでくれ。
そして、>>481も>>487もGJ!
素晴らしい。
そして>>462に期待しつつ、投下いってみるぞ。
何かもう色々とアレだが、書いた以上は退路はない!
投下するぞオオオオオオオオオオオオオ!
- 508 名前:月は出ているか 1/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:49:34 ID:IDsn+KwW0
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暑いなあと汗をぬぐうと、ほんのり塩のにおいがする。
まるで引越しのように次々と世界を変えた俺であるが、だからこそ思う。
生きることって戦いだ。
そりゃあ向こうのように殺伐とした事はないけど、だから楽かってそういう事でもない。
生きるのに一生懸命って、こういう事なんだなあ。
「…暑いな」
「一刀、あまり暑い暑いと言いなさるな。余計に暑くなってくるではありませんか」
「そうは言ってもなあ……」
まだ六月、梅雨の時期だっていうのにこの暑さは異常だ。
この世界はどうやらご丁寧に、地球環境の問題まで継承してしまったらしい。
「…けど、星。なんだか星は、全然暑くなさそうに見えるぞ」
「これは異なことを…私とて暑いに決まっているではありませぬか。私はかまどか何かか?」
「いや、そりゃ違うだろうけどさ……」
制服であるという事は変わらないのに、星の方は大して汗をかいてないように見えるし。
何か秘訣でもあるんじゃないかと思ってしまう。
「例え暑いとしても、暑さに屈しさえしなければそれほど暑いとは感じないものです」
「…むう」
「……まぁ、愛紗や夏侯惇は少々極端ですが」
「ああ、あの二人はなぁ……」
見てるだけでこっちが暑そうなぐらい汗をかいているというのに、進んで精力的に振舞おうとするのだ。
星が心頭滅却というなら、あれは炎上の域に達していると言えよう……俺には無理だな。
それにしても、あれで熱中症か何かにならないか心配だ。
「…私の名前を呼びましたか」
噂をすればなんとやら。
のんびり歩く俺達の後ろから、せっつくように愛紗が顔を出してきた。
- 509 名前:月は出ているか 2/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:51:24 ID:IDsn+KwW0
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「愛紗、暑そうだな……」
「…別に、この程度の暑さはどうというものではありません。そうです、暑さ程度でなど」
そんなことは言うものじゃないんだけどな。
言ってる傍から汗がどんどん出てるんだけど……。
「まぁ、それも一つの方法ですな」
「確かにらしいって言えばらしいんだけどさ……」
「…二人とも、私の事はいい加減どうでもいいでしょう。それより、一刀は少しだれ過ぎています。
私の事より、その方が問題でしょう」
むう、話題がよくない雲行きだ。
そこまでではないと思うんだが、星や愛紗を見ていると確かに不安になってくるな。
「そんなに俺って気だるそうにしてるかな?」
「無論です」
「時おり、見苦しいほどですな」
ううむ。
確かに最近そんな感じはあるかもしれないけど、それは暑さのせいであって……。
って、こういう考え方がすでに駄目なんだろうな。
「悪い、気をつける」
「…気の緩みは事故に繋がりますから。そういった意味でも、くれぐれもご注意下さい」
「そうですな。一刀が倒れたりなどしたら、それこそ一騒ぎでは済みますまい」
「さも面白そうな顔をして言われてもなあ、星さんや」
「気のせいでしょう。私は誠実に一刀の体調を心配していますぞ?」
…多分心配はしてるんだろうけど、他にも興味はあるんだろうな。
でも、これ以上ややこしい問題をあんまり起こしたくないぞ。
ただでさえ、やまたのおろちとか何だとか聞こえがよくないあだ名が幾つかついてるのに。
そのためにも対策は考えておかないとな。
「…今年は早めにあれを出すべきかな」
「あれ……ですか?」
「夏対策の秘密兵器さ」
その名を扇風機という、変声機としても役に立つ一石二鳥アイテムだ。
女子寮には冷房完備だが、男子寮にはそれがないから早めに出した方がいいかもしれないな。
「一刀、その秘密兵器とは机の壁側の裏にテープで固定してあるモノのことですか?」
いや、それは違う。それは思春期男子の必須アイテム……
- 510 名前:月は出ているか 3/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:54:14 ID:IDsn+KwW0
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「……って星、何故それを! というか、いつ?!」
「この前、一刀の部屋に招かれましたな。あの時、明らかに一刀の視線が変でしたので何であろうと」
「…見たの?」
「熟読し、記憶してあります」
「熟読しないでよ?!」
道理で久しぶりに見たとき、覚えのない付箋がしてあると思ったら、あれは星か!
そんなに気にした覚えはないのに……他の誰かが読まないうちに場所を変えないと。
「それにあれなら、今は朱里や月の愛読書になっていますが」
「又貸しは良くないだろっていうか、もう読んでるのか……」
そりゃ俺だって滅多に使わなくなったが、それでも大事な青春の1ページなんだ。多分。
って考えてる間に、さっきから不可解だという顔をしている愛紗に星が耳打ちしてしまった。
「…ということだ、愛紗」
「むむ、そんなものがあったとは……。私も、是非読んでみなくては」
「いや、いいから! 十分だから!」
月と朱里はともかく、愛紗にまで回ったら一体誰まで見られていくのか検討がつかない。
「しかし! …星や朱里まで見ているというのに、それでは不公平です」
「そんなこと言われてもなあ……」
しかし、ちょっとむくれた愛紗を見ていると心がぐらつく。
「別に構わないではありませぬか。愛紗が読んだ分は一刀に還元されるのでしょうから」
「そうです。資料は幾らあっても足りないのですから」
確かにそうなんだろうけどさ。
「…まあ、いいや。もう好きにしてくれ」
使うこともほとんどないだろうし、どうせもう見られてしまってるんだ。
必死になって今さら隠しても仕方ないだろう。
「でも、星も愛紗も往来では読まないでくれよ?……頼むから」
「もちろんです。…それでは、私は先に用事があるので失礼します。また後ほど」
微笑むと、愛紗は早歩きになってさっさと行ってしまった。
…さっきに比べて、より溌剌としているように見えるな。
「気持ちの持ちよう、か」
ごく自然に力を漲らせた愛紗を見ていると、星の言うことも一層説得力を増してきた。
そういえば暑くても寒くても、楽しい時は気になったりはしないからな。
- 511 名前:月は出ているか 4/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:56:39 ID:IDsn+KwW0
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…しかし。
「…ダメだ、考えていたらまた暑くなってきた。とりあえず早く建物の中に入ろう、星」
せめて万民の憩いの場である日陰にさえ行けば、こんな気分もマシになるはずだ。
足を急がせると、承知しましたと星もついてくる。
「ふむ……そうまで暑さを苦手とするのであれば、今夜はまた一段と辛くなるでしょうな」
「なんだ? 今日は何かあるのか?」
「いえ、最近ではとりたてて大した事でもありませんが……。今夜もまた、雨だそうですよ?」
「…そりゃ、蒸し暑そうだな」
夜は日光が無いからといって侮ってはいけない。
肌に纏わりつくような蒸し暑さは、寝つきをとても悪くしてくれる。
「憂鬱だ。せめて除湿機があれば……」
雨の時期が近づいていると知ってて用意してなかったのは俺なんだけどな。
「しかし、そんな夜は夜でやれる事もあるというものでしょう?」
「…いや、そう言われても簡単に思いつかないぞ。星は蒸し暑かったり寝苦しかったりしないのか?」
「いいえ。無論、私とて不便なものは不便なのです。…ですから、一刀。今夜はお邪魔してもよろしいか?」
……は?
「…何ですか、その呆けた顔は」
「あ…いやいや、別になんでもない。ついな」
いつもの会話の調子で突然言うから、頭の中で理解するのにちょっと時間がかかったぞ。
そんなに「何だこの人は」って顔で見るな、星。
「でも、それって解決になってるのか……?」
「何を言います。良き伴と、良き酒を飲む。これ以上に気を晴らす方法がありますか?」
「……まあ、ないな」
「そうでしょう、そうでしょう」
疑問はあるんだが、星の妙な迫力の前で無理に質問を投げかけることもない。
断る理由なんて最初からないし。
「気持ち良く酔えれば、それだけで寝苦しさなど気にならなくなるというものです」
そう言って星は気持ちよく笑っていた。
こういった事があるなら暑さや雨にも感謝していいかもなあ、と思う俺はいい加減だな。
まあ、何にせよ今夜はすんなりと寝ることができそうだ。
「…ところで、やっぱりメンマは買ってくるのか?」
「無論です」
- 512 名前:月は出ているか 5/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 22:58:43 ID:IDsn+KwW0
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ざあざあと雨が降る外の音を聞きながら、俺はノートとにらめっこ。
ついさっきズドンと一発雷が落ちた時から、さらに雨が強くなってる気がするな。
「……落ち着かないな」
みんなが時間にアバウトなのは、時計という文明の利器がある現代においても同じことらしい。
星によれば、細々しく時間を決めるなど駆け引きも情緒もないでしょう、とのこと。
「まあ、分からなくもないんだよな」
不便なこともあるんだけど、結局向こうの生活も気に入ってたってことなのか。
…まだ手書きの手紙を書いたことはないが、そのくらいは思う。
しかし、手持ち無沙汰なこの気分……時計を見るとまだ八時だ。
この雨で窓から星が入ってくるかは疑問だが、そうじゃなくても迂闊に寝るわけにも。
「……」
というわけで余裕のある宿題を見てはいるのだけど、集中できないのか答えが芳しくない。
いや……訂正しよう、この場合はどう見ても俺の能力が足りないんだな。
明日にでも誰かにヒントか何かを聞くことにしよう。
「それだけじゃなくて、そっちも間違ってるわよ」
「…あ、ほんとだ」
なかなか気付かないもんだな。
……ん?
「って、うわ?! ……っと、痛っ!」
反射的に横に逃げた俺は、足を滑らせて何かに頭をぶつけたらしい……何かがちょっと見える気がするぞ。
「…何やってるの」
そのまま上を見上げると、蔑んだ目線の華琳が見えた。
ついでに後ろの方に視線をずらすと、春蘭と秋蘭もいるな。
「いや、そんな事言われても…そもそも華琳が何で――」
「曹操、そこで一刀に何をしている!」
思わず言葉を切られる怒号。
扉の方を見ると、息を切らせた愛紗がいた。
「愛紗! 貴様、突然入ってきてその言い草はなんだ!」
「いや、まず突然入ってきてるのはお前らなんだけど……」
…と言うものの聞こえるはずもなく、今日もまた騒動が始まってしまった。
ごめん隣の住人。
- 513 名前:月は出ているか 6/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:01:49 ID:IDsn+KwW0
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「停電したのよ」
「停電って……ひょっとして、さっきの雷でか?」
「どうやら断線してしまったようで、寮のほとんどの区画で今は電気が使えないのです」
補足した愛紗の説明に、はあと華琳はため息をつき、春蘭に秋蘭、季衣が頷いた。
「でも、寝ることは出来るだろ?」
「あんな部屋、空調が掛かってなければただの風通しの悪い小部屋でしょう」
…文明利器の落とし穴ってやつだな。
「だからって何で俺の部屋に来るんだ?」
「寝れないなら、せめて暇つぶしをしようとね」
「おいおい……」
俺の意思とか都合とか体調は無視か……まあ、今さらなんだけど。
「愛紗もそうなのか?」
「わ、私は! …停電したかと思えば曹操が突然飛び出したので、何かと思いそれを追ってきたのです」
なるほど、まあそうだろうな。
「…で、その騒ぎを追いかけてきたと」
「いや、だって暑いのは確かだしさぁ」
「はう〜……す、すみません」
「そうは言っても、華琳だけお兄ちゃんと遊ぶのはずるいのだ」
飛び込んできた愛紗の後にぞろぞろついてきたのは、鈴々に翠に朱里。
それにしたって、俺の部屋に来ても大して暑いことには変わらないんだけどな。
「……ふむ。やけに騒がしいと思えば、これだけ集まって一体何が起きているのです?」
「あ、星」
声に顔を向けてみれば、きょとんとした顔の星が立っていた。
そういえばすっかり頭の外に追いやられてけど、星と飲む約束をしてたんだっけ。
「…って、星は寮にいなかったのか?」
「ええ、私は少々外に出ていましたので。何か問題でもあったのですか?」
外に出ていたわりには濡れてる様子がないぞ……何を使った、何を。
「落雷で断線したようで、寮は今電気が使えない状態だ。それで、
居心地の悪くなった全員がこちらに移ってきたという訳だ」
「なるほど」
秋蘭の説明を聞くと、星は納得したように笑う。
「では、ちょうど良いではありませんか」
- 514 名前:月は出ているか 7/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:08:02 ID:IDsn+KwW0
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「ちょうど良いとは、どういうことだ?」
「なに、一刀と酒でも飲み交わそうと思っていてな。折角だから大人数で、と思ったのだが」
「おお! いいじゃんか、明日は都合よく休みだしさぁ」
…どうやらお隣さんとの関係が悪化するのは避けられなさそうだが、仕方ない。
「…けど星、俺の部屋に置いてあるものだけじゃ流石に足りないぞ……?」
「ご心配なく。そんな事もあろうかと、今さっき調達してきましたので。それとメンマを」
それはメンマのついでに買ってきたっていう間違いじゃないのか?
しかし、高揚するみんなにちょっと置いてかれ気味な朱里、そしてもう一人は浮かない顔。
「…酒、ですか。しかし、あれは…そう頻繁に飲むものでは」
まあ、愛紗はあまり飲みたくないのも分かる。
「何だ、軟弱な奴だな。酒の一つ飲むのに怯えるとは」
「…なんだと?」
愛紗の目つきが変わってしまった。
こういうところで簡単に乗せられるのは変わらないんだな……。
「良いだろう、この私の力を見せてやる!」
「……愛紗は単純なのだ」
「では、決まりだな」
朱里も何だかんだで丸め込まれて、結局宴会に決まってしまった。
「それはいいけど、他に誰かまた来るんじゃないのか? どうなんだ?」
「…確かに、私達が愛紗さんを追ってきたように、他の人達が追ってくる可能性も十分ありますよね」
特に貂蝉の姿が今のところ見えていないのは、逆に恐怖だ。
「月と詠は残ってたし、紫苑も様子を見るからって残ってたのだ」
「呂布が暑いからってどっか行って、それを華雄と霞が追ってたよ、兄ちゃん」
「…じゃあ、来れそうもないな。蓮華達は?」
「孫仲謀なら、もたもたやってるうちに周喩に捕まってたわよ。煽りを食って妹の方もね」
華琳達と違ってブレーキ役ってものがいるからな……ん?
「そういえば、桂花はどうした?」
てっきりいつものように華琳についてきてるかと思ったが、いないみたいだ。
「確かに、どこへ行っているのだろうな」
「…起きているのなら来るでしょうし、もう寝てるんじゃないかしら。構わないから、さっさと始めましょう?」
まあ、華琳がそう言うならいいか…桂花の場合、俺が心配しても仕方ないし。
- 516 名前:月は出ているか 8/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:09:20 ID:IDsn+KwW0
-
そんなわけで、避暑には程遠い宴会が始まった。
騒ぐのはともかく、頼むから壁を破壊するようなことは起きないで欲しい。
近所付き合いって大切だ。
「……ぷはぁっ! どうしたどうした愛紗、ペースが遅れているぞ?」
「あーー……っく、うぃー…そんなことが、あるものかっ…! 言いがかりというものらっ!」
いや、そのりくつはおかしい。
どう見てもろれつが回ってないぞ。
「その辺にしとこうな、愛紗……?」
しかし、完全に出来上がっている愛紗に比べて春蘭は涼しげもいいところだ。
…酒豪ってやつだろうか。
「ご主人様までぇ、そのようなことを……いっく……おっしゃいますかっ!」
「これでも心配してるんだぞ?」
というか、ご主人様に呼び方が戻ってるぞ。
「ならばぁっく、心配はぁ、無用というものでりゅふ! …そもそも、何故ご主人様の膝の上に、朱里がいるのですかぁ!」
「……って言ってもな……」
さっきから完全に目を回したまま止まらない朱里は、俺の膝の上で体重を預けている。
時々漏れるはわわはわわという呟きが実に朱里。
「はわわ、はわわわわわわ〜……WAWAWA」
「でもこんなんだから、どかすとそのまま倒れちゃいそうだし」
「……むー」
くるくると目を回す朱里の髪を梳くと、愛紗が不機嫌な顔になりだした。
うー、うーと唸りながら口を尖らせる姿はまるで駄々っ子みたいだ。
…恋に見せたらどんな反応をするだろう?
「………です」
「ん?」
「……私もれすっ!」
ぐがぁー、と吼えたかと思うと愛紗は突然べったりと膝に頬を寄せてきた。
それだけでは物足りないとばかりに、体を丸めて密着させてくる。
愛紗も朱里も、普段が普段だけにこの状況はちょっとくるものがあるぞ?!
「……はふぅー……」
「いや、リラックスしましたっていう感じのため息をつかれてもな……」
俺は苦笑するしかないのだった。
- 517 名前:月は出ているか 9/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:11:16 ID:IDsn+KwW0
-
「……ふんっ、他愛ない。付き合っていた私がバカらしくなるじゃないか」
「羨ましいのか、姉者」
「誰がだッ!」
憤慨しながら一気に酒を飲みたてる春蘭……うーん、呑み慣れてるな。
屋台巡りをするみたいだし、普段から口にする機会があるんだろうか。
季衣はといえば、向こう側で鈴々とデッドヒートを繰り広げている。
お前ら胃に穴開くぞ。
「…なんだ、もう空じゃないか。まだあるんだろう? 何処だ?」
空になった一升瓶を転がして、きょろきょろと視線を動かす。
視線の先には、まだ満杯の一升瓶。
「……む。待て春蘭。その酒はな」
「何だ、趙子龍。今さら飲むななどとは言わないだろうな。ここにある以上は、誰が飲んでも良いもののはずだぞ!」
「いや、無論それはそうなのだが」
「ならば、何も言うな」
まあお主がいいならば良いのだが、と呟く星を気にも留めずに春蘭は栓を開けた。
「…しかし、それで何本目だよ」
「いちいち酒の本数を数えるなどと……北郷、貴様は女々しい奴だな。そういうお前は飲んでいるのか?」
「……俺はのんびりやるよ」
というか、この集団のペースに付き合うと二日酔いどころの話じゃない。
…と言ってる間に、もう瓶が半分くらいなくなってるし。
「…そもそも、貴様はなぁっ!」
「うおっ」
どがん、と一升瓶の底を床に叩きつけて、間近から顔を覗き込まれる。
慣れたとかそういう問題じゃなく怖いから、その声はやめてくれ。
「貴様は、いつもいつも甘い事を言う癖に、やる事がえぐすぎる!」
「そ、そうか?」
確かに夢想的なことを言ってる割に、ままならない部分があったのは確かなんだけど。
でも、それをえぐいって言うか?
「この前など、後ろから執拗に擦り付けてご主人様と呼ばせ、恥ずかしいことをあれだけ言わせた挙句、結局挿れてくれなかったろうが!」
「ぶぅっ?!」
思わず口にしていた酒を噴き出してしまったのは、俺のせいじゃないと思いたい。
- 518 名前:月は出ているか 10/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:15:37 ID:IDsn+KwW0
-
いきなり何を! 春蘭は絶対そういうことは口に出せないと思ってたのに?!
足元の朱里や愛紗まで一瞬完全に開眼してた気がするが、それは気のせいだろう。
気のせいということにしておこう。
「それはまた随分と凝ったやり方ですな。一刀にそういった手合いがあるとは迂闊でしたが」
「そうね、人の純朴さにつけこんだのかしら。許せないわね」
そんな笑顔で言われるのが逆に怖いぞ、華琳。
しかし春蘭が堂々と暴露してくれるとは……本人は全く気にしないという具合に、酒を煽っていた。
全く気にしない……ん?
「…姉者?」
さすがに秋蘭も不審に思ったのか、声をかける。
そうだ、さっきまで全くの素面だったはずなのに急に酔っ払いになってるぞ?!
「星、さっきの酒は何だ?!」
「…ああ、それなら『与那国』という銘柄でした」
「何か、凄く嫌な予感がする名前なんだけど……。それ、何か特徴はあるのか?」
「アルコール度数が高い以外は、それほど問題ありません。…ただし、60度以上とありますが」
「60度って何だよ?!」
余裕で火がつく度数じゃないか!
むしろそれをがぶがぶと飲んで、酔うだけで済んでいる春蘭が凄いというべきなのか。
「……うぐ」
言ってるうちにみるみる顔色が悪くなってきたぞ。
近づいて春蘭の両肩を持ち、少しゆさゆさとしてみると余計気持ち悪いのかうなり始めた。
「おい、しっかりしろ春蘭…! 大丈夫か、俺の言ってることは聞こえるか?」
「あー、うー……ぃっく…… うううー…」
さっきまでの覇気はどこへやら、本当に気持ち悪そうだ。
…と、急に顔を上げてこちらを見つめて、硬直する。
「おい、春蘭……。……春蘭?」
何かおかしい。何か――
そう思った時は遅かった。
「ぐ……うえ。○×△□■#Ωл――!!」
「ぎゃああああああああああああああああああああっ?!」
(表現の限界を超えた状況が発生しました。しばらくお待ちください)
- 519 名前:月は出ているか 11/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:16:47 ID:IDsn+KwW0
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「……ひどいめに遭った」
「ちゃんと洗ってきたでしょうね。冴えない上に臭い物が近くにいるのはお断りよ」
そう言うだろうと思って、洗い場で念入りに洗ってきた…完璧だ。さすがに華琳でも恋並の嗅覚は持ち合わせていまい。
「……ふむ。さすがにあれだけの酒では普通でいられませんでしたか」
「星…何だってあんなものを買ってたんだよ?」
「なに、景気づけというやつです。とはいえ本来ならば、飲まないか、皆で回し飲みでもしようかと思ったのですが」
好奇心旺盛なのはいいんだけど、洒落にならないぞ……。
月あたりが飲んだら粘膜がおかしくなりそうだ。
「そんなもの、貂蝉にでも飲ましておけよ」
多少ひどい扱いでも貂蝉なら大丈夫だろう、と思ってしまう俺ガイル。
「そうすると酔った貂蝉が一刀を押し倒すことになりそうですが、よろしいか?」
一瞬目の前に薔薇が満開になって、飛び散った。
「…そうだな、やめておこう」
「貂蝉も無碍にされたものだ」
からからと笑う星……やめてくれ、洒落にならないぞ。
俺の貞操は墓まで持ち帰るんだと固く決めることにした。
「…あなたたち、気持ち悪い話をしていないで私に酌でもしなさい。忌々しい」
「悪い悪い、控えるから」
俺だって別に好き好んで話しているわけじゃないんだが、華琳の貂蝉嫌いは異常だからなぁ。
というか、不細工嫌いか? …貂蝉の場合、不細工というレベルを超越してる気がするけど。
「一刀、私にもどうか一献」
「はいはい」
華琳や星は、比較的落ち着いて酒を飲んでるみたいだ。
…それでも飲む量自体は俺がついていけるような半端な量じゃないみたいだけど。
「そういえば華琳、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
「華琳が入ってきた時、俺はちゃんと鍵をしておいたはずなんだけど。どうしたんだ? 窓から入ったのか?」
「…あのね、猿じゃあるまいし、そんなところから入る筈がないでしょう」
すまん、しかしお前の隣にはそんな奴がいるんだよ。
「これを使ったのよ」
しゃらんと鳴って懐から出てきたのは、鍵だった。
- 520 名前:月は出ているか 12/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:20:11 ID:IDsn+KwW0
-
「……あれ? 俺、鍵なんて落としたっけ?」
よくわからないが、俺の部屋の鍵ということなんだろう。
華琳が拾っておいて助かったな。
「落としてないわよ。だってこれ、合鍵だもの」
おい!
「一体いつ俺の鍵を使って合鍵作ったんだよ……」
「さあ、いつだったかしらね?」
にやにやしながら鍵を見せびらかす華琳。
プライバシーも何もあったもんじゃないな。
「…それ以前に、そんなもの作るなよ。さすがに人の部屋に勝手に入れるのはマズイだろ?」
「あら、呼ばれてもいないのに情事の最中に乱入してきて、私達三人を後ろからよがらせていたのは誰だったかしら?」
ちょっと聞いてくれ……冷静に諭したはずが、いつの間にか逆転されていた。
なんというブーメラン!
今になってそんな事を持ち出されるとは思いつかなかった。
「ほう、そんな事があったとは。…一刀、曹操にそこまでしておいて、何故私の寝床には奇襲をかけてくれぬのです?」
「いや、そうじゃなくてあれはな……そのなあ…」
やむなき事情が……と言いたいんだけど、大体合ってるから反論しづらい。
実際に三人がくんずほぐれつやってるところを覗いちゃったのは確かだしな……。
「まさか太守だから、捕虜だからで済ますつもりじゃないでしょうね? 善良で監視もつけない北郷一刀は」
「それは公私混同ですな、一刀」
「しないってば!」
しないけど……ああもう、駄目だ。
とにかく過去のことはともかくとして、なんとしても鍵だけは阻止しなくては。
一人許したら、それこそ伝染的に増えていきかねない。
防犯的にも俺の健康的にもそれは色々と遠慮したいところだ。
なんとか有耶無耶にして手放させる方法は……
「…けど、さっき入って相子になったって考えなら鍵まで持ってるのはおかしいだろ。対等な関係なら、俺だって華琳の合鍵を持ってないとおかしいぞ」
これでよし。
さすがに自分のプライバシーまで侵されるのは許し難いだろう。
後はなんとか舌戦に持ち込ませずに押し切って鍵を回収すれば……!
「ああ、構わないわよ」
- 521 名前:月は出ているか 13/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:21:42 ID:IDsn+KwW0
-
「……え」
多分、予想以上に自分の声は間抜けだったと思う。
「私の部屋の合鍵でいいんでしょう? ならいいでしょう。入ってきても構わないし」
「え……いや、その」
まだ頭に整理がつかない俺の目の前で、華琳は次の瞬間すっと目を細めた。
「その覚悟があるなら、だけど?」
……。
しまった、墓穴を掘った?!
「いや、その、華琳」
「二言はないでしょうね、北郷一刀。ここには見届け人もいるのだし」
先手を打たれて潰された……。
いいアイデアだと思ったのに、俺の頭は所詮平民の頭だということか?
「曹操。その合鍵、私が作るためにも貸してもらおうか」
「ちょっ、星! 何で?!」
「おや、一刀が言ったのではありませんか。対等な関係なら、合鍵を持ってもよいと」
「そう解釈しても、問題ないでしょうね」
やばい最悪の事態だ。
どうやら俺は、ハッタリをかける相手を根本的に間違えてしまったらしい。
「じゃあ貸しておいてあげるわ、星」
「ありがたい。…では一刀、私の合鍵は出来次第渡しますので。無論、朝駆け夜這いは望むところですので」
「…ああ、やっぱりこうなるのか……」
対処を間違えてから……いや、ひょっとしたらこの世界に来てからこうなる事は決まっていたのかもしれない。
というか、よく考えたら華琳や星と違って俺は部屋にたどり着くの自体、至難の業な気がするぞ?
お隣さんの有名なシスコンは鍵縄つきロープで潜入したとかしてないとか聞いたことあるが……。
忍者じゃないんだから。
「ああ、それと曹操。一刀が愛読していた艶本があるのだが、お主はいるか?」
「広めないでよ、これ以上?!」
「あら、そんなものがあるの。それは是非とも見てみたいところね」
華琳の笑みが邪悪だ。邪悪すぎる。俺に見せつけてるだろ間違いなく。
自棄になる自分を感じながら、俺は手元の酒を思いっきりあおるしかなかった。
…酔ってやらい。
- 522 名前:月は出ているか 14/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:25:21 ID:IDsn+KwW0
-
…雨はまだ降っていた。
ひさしの中に入り込んだ雨で濡れた地面の上を歩く。
「…ふう…っと」
階段を上って俺の部屋まで一直線。
目を覚ました時はだるかったけど、一度身を起こすと今度はやけに目が冴えた。
交感神経がどうのとか聞いた覚えがあるけど、よく覚えてないな。
…まあ、もう一度横になれば簡単に寝れるだろうけど。
「おや、一刀。お帰りなさいませ」
扉を開けると、ベッドに腰掛けた星がいた。
「…なんだ、星も起きたのか?」
「は、唐突に。…あるいは、一刀が動いたので私も目覚めたのかもしれませんな」
扉をゆっくり閉めてから辺りを見回すと、星以外は相変わらずの状態というか惨状だった。
散らかしっぱなしの部屋に、大の字で寝たり壁に座り掛けていたり、誰かの上にいたり逆に下敷きにされていたりと様々。
…毛布ぐらい用意しておけば良かったかな…?
「そうか、それは悪かったな」
「いえ、お構いなく。うとうととしていた程度ですし、どの道起きていたでしょう」
「そっか」
足元を出来るだけ見ないように、そして踏まないようにしながら(結構難しい)縫って歩く。
しかし、今一体何時だろう?
…最後に時計を見た記憶が宴会の始まる時で、それが8時だから……まあ、分からないな。
「よいしょ……っと。お邪魔するよ、星」
「どうぞどうぞ」
断りを入れてから、俺は星の隣に腰掛ける。
ベッドが僅かに軋んでいた。
「星、眠くないのか?」
「はて……どうでしょうな。眠ろうとすれば眠れてしまうでしょうが、かといって眠るのも名残惜しい」
「…じゃ、良ければ付き合ってくれるかな」
杯を揺らすと、星は満足そうに笑っていた。
「勿論です。…ふふ、ですが主こそ大丈夫ですか? 後半は飛ばしていたようですが」
「心配しなくても、前半の貯金がまだ余ってるさ。……ほら」
気を回しているのが見透かされるようじゃ、本末転倒だな。
…まあ、俺自身も星と少し飲んでいたいんだから問題ないだろう。そういう事にしておこう。
- 523 名前:月は出ているか 15/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:26:12 ID:IDsn+KwW0
-
ざあざあと屋根をうつ雨の音と、あちこちで聞こえる寝息を聞きながらちびちびと酒を飲む。
やっぱり俺は豪快にあおるよりこっちの方が合ってるな……酒に大して強くないってことも含めて。
ふと星の横顔を見る目をずらして窓に向けると、雨の中に浮かぶようにして月が在った。
「……なあ、星」
「何でしょう?」
「いや、ふと思い出したことなんだけどさ。…この世界の月は、どうかなって」
以前、俺は星に言った。『こちら』の月は、あっちみたいに綺麗じゃないって。
…雨の中、木立を眺めるようにして浮かぶ月はいつの時代も同じなのに。
「…そうですな、何度か見てきましたが」
ゆっくりと星が窓の方を向いた。
「そう悪くはありません。あの世界の月に比べれば見栄えがしないのは確かですが、綺麗に輝くだけが月ではありませんよ。あれには、我々が今までやってきた事が集約されているのでしょう?」
「…だから、悪くないのか?」
「その通りです」
「なるほど。なるほどな」
確かに月の見栄えが綺麗だっていうのはことだけでは、語れないこともあるっていうのは分かる。
…でも、何となく。
「それは嘘だろ、星?」
「ほう、なぜそう思います?」
「星はそういう月を見て美しいとそれだけ感じられるほど、無責任じゃないと思うからな」
「……ふむ」
…いつものにやにや顔だ。
まあ、当たらずとも遠からずって感じだろうか……この様子なら。
「確かにその通りですが……しかし、そう悪くないと思ったのは確かですよ?」
「…あれ、そうなのか? じゃあ、何で?」
星の性格からして、妥協した言葉じゃないだろう。
「それでは、一刀はあの月をどう思います?」
「俺? 俺は……」
そう言われて咄嗟に思い浮かばなかった俺は、もう一度だけちらりと窓の外を見た。
こういう時は直感でいいだろう。
「こう言っちゃなんだけど……やっぱり寂しいし、煙が巻いてて鮮やかじゃないなって思うぞ」
単純に視覚的にも良くないし、あの世界の凍えるほど鮮やかで冷厳な月はここにはないのだ。
- 524 名前:月は出ているか 16/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:27:40 ID:IDsn+KwW0
-
「そうですか。では、一刀がこの月を見るのは二度目だと存じていますが……それと比べてなら、どうです?」
「? 俺が愛紗達と出会う前にいた世界と比べて……ってことか?」
「左様」
……なるほど。
「悪くないな」
「そうでありましょう?」
以前、俺はあんなに美しい月があることを知らなかったから――その時に見た月は今より綺麗に見えていたと思う。
それでも、今見る月の方が気持ちがいい。
「…みんながいるからか」
「そう一刀が思ってくれているのなら、私もこちらの月を見に来た甲斐もあったというものです」
向こうの世界でも言ってたっけ。
例え俺のように月が酷くても、みんながいれば多少は……って。
「そうでなくては、どれほどの名酒と月があろうと心を動かされることはありませぬ。
…ましてや、最悪今生の別れすらあるやもしれなかったのですから」
「……そっか。…そういえば、その節は心配をかけたな」
「お構いなく。それにあの時賜りました勅は、今でも私の誇りでありますからな」
また一世一代の弱音を誇りにされたもんだ。
…しかし苦笑する気にもなれない俺は、手元の酒をゆっくりと嚥下した。
「しかし、一刀が大して変わらないと言おうものならどうしようかと思いましたが」
「おいおい、俺はそんなに薄情者か?」
今度こそ苦笑した。
星は星で笑いながら、中身が無くなった俺の杯に酌をしてくれる。
「……と、打ち止め…かな」
「そのようですな」
とぽとぽと注がれていた酒の勢いが唐突に弱くなって、切れる。
これで一本空か…とはいっても、あんまり自分が飲んでる量は把握してないんだけど。
完全に空になったことを確認すると、星は足元の床に空になった容器を置いた。
相変わらず、周りからは規則正しい寝息と雨の音しか聞こえない。
星は置いた後に体を起こすと、ちょっとだけ赤みを帯びた顔で俺の瞳を覗いてきた。
「…ふむ、一刀」
「何かな?」
「抱いてみますか? この私を」
- 525 名前:月は出ているか 17/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:31:37 ID:IDsn+KwW0
-
「また、唐突だな…」
「その割には、大して驚いているようには見えませんが?」
窓から入ってくると見せかけて外を覗いた俺を後ろから押したりとかしない分だけ、まだ自然と言える。
「まあ、先程は一刀から持ち掛けていただきましたので」
「変なところでまた律儀だなぁ」
「気になさるな。…それに、実を言えば昼間に声を掛けた時から、私はその気だったのですよ?」
ねだるような表情と、あえて抑え付けるような声に、むずがゆくどこかをくすぐられるような感じがする。
どうやら本気のようだ。
…杯をそっち除けてゆっくりと唇を近づけると、星は抵抗せずに僅かに目をとろんとさせた。
「ん……ちゅ、ふ」
「んくっ……じゅるっ……ふァ、ん、ん……」
奪うのではなく、重ねる。
触れた瞬間にむわっと広がる酒の残り香と、汗ばんだ星の匂いに感覚を蝕まれる。
それだけで頭の奥が溶けていくような。
さりげなく星が両足をベッドに乗せて体勢を変えたので、俺も完全にベッドの上に乗る。
「れろ…じゅ、んく、…じゅ、ずっ」
唇を突き合わせていただけのキスはすぐに終わって、俺が動くと同時に星の舌も動いた。
押して引いて、お互いの口内を行き来して、お互いを舐って溶かしつくす。
否応なしに唾液が交換されると、体に火がついてくる。
「ちゅ……ん、ふぅ…」
やがて一呼吸置くためか、頃合を見て星が唇をゆっくりと離そうとする――が。
なんとなく。
「んっ……?! あ、かず、んっ…ふぁ…!」
いつも奇襲されてるんだし、今日の思いつきぐらい許されるよな。
俺は離れようとする星に対して、間に掛かった透明な唾液を辿るようにして追撃をかけた。
ゆるりと優しく抱きかかえるように、星の後ろに腕を回して逃げ道を塞ぐ。
不意打ちで薄くなった防御を突破して、今度は一方的に星の口内をかき回して空気を奪うようにむさぼる。
溢れてきた誰のものかわからない唾液が、口元をてらてらと濡らしていた。
「ん……じゅるるっ……ちゅ、ぷはっ……っと」
ようやく俺が唇を離すと、切なげに突き出した舌を引っ込めて混ざった唾液を嚥下する星が在った。
…しかし、これだけ立て続けで、息が切れないのは流石だな。
俺が限界だったぞ、肺活量的に……。
- 526 名前:月は出ているか 18/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:33:07 ID:IDsn+KwW0
-
「んくっ……んくっ……ふぅ。これは、なんと…」
「良かったかな?」
光悦と心底驚いたような表情が混じった星を見ると、実に誇らしくなる。
俺はやったぜじいちゃん。よく分からないけど。
「接吻だけでここまで昂ぶることが出来るものなのですな……。…奥が深い」
本当はもっと続けるつもりだったけど、俺の肺活量的に保たなかったとは言えない。
まあ、俺としては星の目を白黒させただけで十分なんだけど。
ともかく次の段階に進もうと、逸る気持ちもそこそこに、窺うように体重をかける。
星は抵抗せずに、そのままぽすんと布団に体を横にした。
「…ふふ、酔いに任せているかの確認はしないのですか?」
「水と同じようなものなんだろ? …まさか、今さら酔ってるとか言わないよな」
あんまりくどいのもと思うし、もう聞かないことにはしているのだ。
「勿論、酔っていますとも」
「えぇ?」
……まさかここまで来て、またおあずけとかあるのか?
それは厳しいと思っていると、下から伸びてきた星の指が胸の辺りを柔らかになぞる。
「ただし、この空気と……一刀の唇に、ですが」
「…また上手いことを言ってくれるなあ」
朱が差した顔で、星がふふっと息を吐いた。
「しかし、酔いより大きな問題がまだあったかもなあ……」
「おや、一体他に何がありますか?」
「……周りがな」
一瞬すっかり忘れていたが、ここは宴会の跡地だったんだ。
当然、部屋の中では今でもたくさんの数の寝息が聞こえていた。
…起きれば一騒動あるのは間違いないな。
「それならば、問題ないでしょう」
「何で? …まさか、睡眠薬を入れたとかそういうのじゃないだろうし」
「酒の席でそんな無粋な真似はしませぬ。…そうではなく、その方がいわゆる『燃える』というものでは?」
今度は何処から覚えてきたんだ、そんな言葉? というか、見つかった時の事は考えないのか。
あまりにも後先考えないその思考に、俺はさすがに自信を持って言った。
「その通り」
…結局は俺も、人の事は言えないくらいおかしい。
- 527 名前:月は出ているか 19/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:34:57 ID:IDsn+KwW0
-
「ちゅ、じゅ、んふ…っ」
「ん、くふっ、ちゅ、じゅる……」
もう一度キスをしたまま、お互いの服に手を差し入れる。
手馴れた手つきは嬉しいやら悲しいやら、星をあっという間に半脱がし。
「んくっ……ふぁん、そこは、一刀ぉ……」
「いや、悪い。星のがあまりに美味しそうだから、つい手がでてさ」
「あふっ、こねる……っ。愛紗や紫苑の方が、立派なものを持っているでしょうに……はンっ」
「そう かんけいないね。俺は今、星のおっぱいが揉みたいんだから」
「ふあ、は……一刀、この体勢では、私が奉仕できぬではないですか…はぁん、ふ」
「いいんだよ。徹底的に星に気持ちよくなってもらうことにしたから。今決めた」
というか、未だに星が大人しいのには不気味さすら感じてる俺は情けない。
どうせだから、この機会に味わっておきたいと思うのは正しい反応のはずだ。
「はぁぁんっ……、ずるいですぞ、あ……ふぅ、そんなに、強く揉んでは…ぁっ!」
「だーめ。そんな切なそうな声をしても聞かないぞ?」
上から見下ろす体勢のまま、張りがある胸を強く弄ぶ。
と、ふと逃げるように上に向ける顔のおかげで、露になった首筋が気になった。
「あぁん、あぁぁっ! そんな、強く吸われ……ぁん、んんんっ!」
「ちゅ、じゅ……ん、じゅううっ……! いや星、可愛いよ……?」
追いかけてあちこちに唇を這わせながら、手はなおも動く。
伸びてきていた手の動きが鈍くなったのを見計らって、俺は左手を星の大切な場所に潜らせた。
「…うわ。星のここ、もう凄く溢れてるぞ?」
「それは、一刀が、さんざ私の体を弄るからでしょうに……ふあっ、くぁァん」
「そうだな。それで星がえっちな気分になってくれてるんなら、俺は嬉しいぞ。あそこの様子を見せられないのが残念だけど」
「あく、ぁあ…っ、そんなことを、言いますなら…!」
反撃したいのか腕が伸びるが、いつもとは比べ物にならないほど弱々しく、俺は割とあっさり弾く。
逆に胸を揉み潰していた手で、硬くなった乳首を手のひらで押し潰すように動かすと、また一段と高い嬌声をあげて、
伸びてきていた手は俺の腕をやわらかく握るだけになっていた。
しかし、まだ意固地になっているのか声を出すことを躊躇ってるな。
往生際の悪い星め。
- 528 名前:月は出ているか 20/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:35:55 ID:IDsn+KwW0
-
「星、どうした? 手元がお留守になってるみたいだけど」
「ううっ、か、一刀はぁっ……! うー、うー」
「悪いな、星。でも気持ちよくなってもらいたくてやってるってのは本当だぞ? 本当に駄目なら、やめるけどさ」
「…私にいまさらそれを聞くのですか? ……嫌であろうはずが、ないではありませんか」
「それなら良かった」
ちょっぴり拗ねるような、それでいてはっきりした声。
何度確かめても気持ちのいいものがあるな。
だから――
「じゃ……どうか気持ちよくなってくれ。星」
「はぁ、んっ……! そんな、突然あぁふっ、激しく……っ!」
手でもう一度胸を揉み潰すようにして、もう片方の先っぽを口で咥える。
そんなものは何処にもないのに、確かに甘い匂いを感じながら舌で舐めて、
突っついて、口でしゃぶる。
同時に秘所をかき混ぜる指に、緩急をつけてゆっくりと引き抜いては差し込んだ。
執拗で激しい三点責めを加える。
「はぁん、ああっ……あぁくうぅっ! あっ、一刀ぉっ……!」
僅かに震える星の体を感じ取って、俺はラストスパートをかけた。
じゅぷじゅぷと埋没する人差し指に中指を添えて、思い切って責め立てる。
星……おもいっきり、感じてくれよ…!
「はくぅっ……! あ、はあぁぁあぁぁぁんっ!!!」
その身体を弓なりに反らして、一際高く嬌声をあげた。
溢れる愛液に押し戻されるようにして、俺は指を引っこ抜く。
「はぁ、う……はぁ、はぁ……」
胸に添えてある手はぴくぴくと、星の余韻を感じ取っていた。
ほんの少し夢うつつな表情の星を見ていると、随分な達成感があるな。
「……とと」
さすがにちょっと俺も疲れたかな? 力が妙に抜けている。
結構骨だったからなぁ……。
と、力が抜けた俺の胸板に星が掌を押し当てる。
ああ、妙に熱っぽくて気持ち良い――って、
「わ……っ?!」
- 529 名前:月は出ているか 21/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:39:10 ID:IDsn+KwW0
-
そう思ったのは一瞬のことだった。
何でって、視界がほとんど一回転する形でほとんど変わってしまったから。
「せ、星……!」
「ふふ……隙有りですぞ、一刀?」
あっという間に俺の上半身は押し返されて、さっきとは全く逆の位置関係になってしまった。
しまった、達したと思って油断した。
「あの程度の痙攣はすぐに収まります故。…まぁ、多少名残惜しくはありますが」
「すぐに収まるって、おいおい……」
…星相手に油断してしまったのが運の尽きってやつか。
「というか、別にいまさら……」
「そういうわけにはいきませぬ。一刀に尽くして頂いたまま、
私が何もせぬのは沽券に関わります故。それに……」
そう言って、俺の体が抑えられたまま星の視線が、唇が下側に移行していく。
…やばい、眼がやばい。本能的に何か色々とやばい予感が走る。
あれはいつもの、肉食獣と悪魔を掛け合わせて2で割らないような目だ!
「…先程の接吻に対する返礼も、まだですからな」
「いや、そんな事まで張り合わなくても……! って、うおうっ」
「……んっ……」
ちょ、直接かっ……!
移動した星が、手を添えたまま側面に唇を這わせてくる。
くすぐったいと思ったのは最初だけで、確実に俺を昂ぶらせていく。
「うあ、くっ……それ、やばっ……」
「ちゅ、ちゅ……ふふ、いかがですか? 存外に側面というのも、良いものでしょう?」
「わ、わかったから……あぁうっ、」
啄ばむように繰り返されるキスが俺の性感帯を確実に見極めて当てているのは確定的に明らか。
艶かしい舌の動きがたまらなくて、ぎちぎちと張り詰めていくのが分かる。
「…また一段と、ご立派になっておられますよ? …んっ……ふふ」
「うぅ……」
駄目だ抵抗できねぇ。
一部がやたら元気になってるのに比べて、体全体が脱力していく。
しかし気持ちいいものの決定打がなく、拷問にも似た快感が続いていた。
- 530 名前:月は出ているか 22/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:39:55 ID:IDsn+KwW0
-
「せ、せひっ……ちょ、限界だって……あうっ」
「情けない事を言いなさるな。…時間をかけてみた方が、味も濃くなるというものです」
だあっ、さっきの事をよっぽど根に持っているな。
「もう十分すぎるだろ……頼むから、は、くっ」
「…ふむ、もう少し見ていたかったのですが。まあ、あまり待たせるのも悪いでしょうから…」
手が持ち替えられ、つつ、と側面をなぞる舌が頭頂部に移動していく。
期待と興奮と、さっきから続く快感で頭の奥が熱い。
やがて頂点にたどり着くと、星は片手で髪を梳いた後に軽くかぶりついてきた。
先っぽを軽く咥えられて、揺さぶりながら舌で責められると圧倒的な気持ちよさが押し寄せてくる。
「はぁう、くああっ…!」
「じゅる、んちゅく……ふふ、では…こんなのは如何です?」
「う、うおおうっ?! は、入ってくる…! こん、な……っ!」
舐っていた星の舌が突然にゅるにゅると尿道に侵入してくる。
そのままぎちぎちと押し広げて、まるで舌に犯されているみたいな感じがする。
って冷静に解説してる場合じゃないだろ痛い!
痛いのと気持ちいいのがないまぜになった感じで体が痺れる。
「…あだっ、ちょ、ちょおおおっ! 星ぃいいいぃっ!」
「おや、申し訳ありませぬ。それでは、これで……」
怪しく笑った星によってずずと引き抜かれる舌が、今度は開放感に直結して気持ちいい。
そのうえ急に深く喉で咥えてくると、今度は抱え込むように手と口と舌で愛撫してくる。
こ、この直後にこれは……っ!
「ああ、ぐっ……駄目だ、耐えられない……っ!」
「はむっ……じゅる、じゅぱっ……はふ、じゅるううっ…!」
こちらの意図を察したのか、星の喉が一気にしごき立ててくる…!
「あ、うっ……星、出るッ……! あああああっ!」
俺はそのまま、暖かすぎる口内に包まれたまま射精――した。
頭の中が一瞬フラッシュして戻ってくると、僅かな倦怠感が体を覆う。
「んむっ……ん、くっ…こくっ……」
下半身に目を向けると、星が大量に吹きつけられた白濁を嚥下している最中だった。
さすがに受け止めきれずに、下に僅かに零れている。
…しかし、冷静に考えてあの状態で出されてよく咳き込んだりしなかったな。
- 531 名前:月は出ているか 23/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:40:41 ID:IDsn+KwW0
-
「…直接出しちゃったからなぁ。悪いな星、大丈夫か?」
「んく……ぷはっ。なに、問題ありませぬ。この程度ならば……鍛えてますので」
そういう問題じゃないだろ…多分。
それにしても嫌な顔一つせずに飲み込むのは、何回見ても凄いものだ。
「少々零してしまいましたな……申し訳、ありませ…じゅる、ちゅふ」
「う、おお、ちょっ……! いいってば、そこまで…」
「いえ、私の気が済みませんので……それに、勿体のうございますよ?」
出したばっかりで敏感なのに、舌を這わせて白濁を舐め取っていく。
「…おや、出したばかりなのにまた大きく、硬くなってしまわれましたな」
「仕方ないだろ。誰のせいだよ……」
「はは、問題はありませぬ。責任を取る準備は、出来ておりますからな」
「…まあ、俺のせいもあるけどな」
「では、相子ということで」
お互いに笑って、俺と星は上半身を起こしていた。
そのままゆっくりと、星を抱き寄せて――
「……ああ、すみません。少しお待ちくだされ、一刀」
すかした。
「一体なんだ?」
「そんなに切なそうな顔をしなさるな。…少し試してみたい事があるだけですよ」
星はそう言うと、ころんと体を横向きにした。
そのまま上になっている左足の膝を持ち上げて、間を作る。
しなやかな足が、まるで誘うように不自然な空間を作り出していた。
「一刀、ここに片足を通してくれませぬか」
「…まあ、見た感じ言うと思ったよ。……っと」
ごそごそと布団の上を移動して、慎重に右足をその間に通していく。
…しかし、何だってこんな体勢にこだわるんだろう?
星がこのテの事に好奇心旺盛なのは今に始まったことじゃないんだけど……。
気になる。
「……ん……?」
その時、ふと目を上げて見えたまんまるい飾りが目に入った。
……なるほど。
- 533 名前:月は出ているか 24/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:44:38 ID:IDsn+KwW0
-
「……星」
「何でしょう?」
「これを何処で習ったんだ?」
「無論、一刀の愛読書からです」
「なるほどね。…名前を教えてくれるかな?」
「おや、一刀はもうご存知なのでは?」
今度は含みのない笑いで応えてくれる。
…目に入ったものを見た時、あの付箋が閉じてあった場所を思い出した。
四十八手と呼ばれる、四十八に分類された体位の内の一つ。
それが……
「「窓の月」」
お互いに同時に声を響かせて、笑った。
「じゃ……いくぞ、星」
「ふふ……ええ、どうぞ」
星の右足を下にしたまま、徐々に腰を押し進めていく。
――窓の月。
四十八手の一つで、女性の足の間に男性が片足を入れて挿入することをそう呼ぶ。
名前の由来は、二人で同時に窓の外の月を見ながら行為することから…という事らしい。
もっとも実際には月ばかり見てるわけじゃないんだろうけど。
今も星は俺の方を見てるし。
「くぅ、とっ……」
「は、ぁああう……一刀、のがぁ……」
少しずつ押し入れていく度に、無数の襞が絡み付いてくる。
酒を汲んでいたせいか、いつもよりなお一層熱く、中はじりじりとしていた。
「くっ、熱い……なっ……」
「一刀の、もぉ……あふ、深いぃぃっ……!」
ところでそれは俺のも熱いって言ってるのか深いって言ってるのか、それとも両方なのか?
…そんな事を問う暇も俺にはなかった。
足を入れているせいか、いつもよりかなり深く押し入って、その分だけ圧迫してくる。
「星……っ、星の中、暑くて溶けそうだ……」
「一刀の逸物もぉ……っ、また一段と熱いですぞ…?」
- 534 名前:月は出ているか 25/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:45:18 ID:IDsn+KwW0
-
少し熱が引いたのか、甘く声をあげると身を僅かに捩ってくる。
「月、か……」
「無論です。せっかくこのような形になったのですから」
ちらとこちらの様子を窺うのもそこそこに、星は窓の外に視線を向けていた。
どうやら相変わらず、外は雨が降りしきっているようだった。
…なるほど、こういう風に見る月もまた変わった感じがするな。
「って、くぁっ……!」
「ふ、はぁ……ふふ、あまりそちらの方ばかり見られても困りますな。妬けてしまいますぞ?」
「くっ、それなら……っ」
「はぁ、あぁぁっ……」
明後日の方を見ながらじりじりと腰を振る星に応えて、俺も動く。
ゆっくりと昂ぶらせるように、引いては押して。
二人で月を見ながら、息を合わせてそうしているだけでも、油断すれば暴発してしまいそうだった。
「はぁ、くっ……眺める余裕って、あるのかよこれ…!」
煙に巻いたようにはっきりしない月は、まるで俺を冷笑しているかのように見えた。
これも一つの見方ってやつなのか?
「んふぁっ……頼りない事を、言いなさるな。もう少し気を入れて頂かねば……」
ベッドに手を当てた星が、結合したところを支点にぐちゅぐちゅと音を立てて揺さぶってくる。
ややべっとりとしたお互いの体も絡んで、快感が抑えきれない。
まだまだ余裕と言わんばかりの表情が気になって、俺も責めることにした。
「ふううっ……くっ!」
「はふ、……あぁっ?! ふぁっ……!」
よし、効いてるぞ頑張れ俺。
「ひくぅあっ?! ぁん、ひぃあふっ、くぅ、かっ、一刀…!」
……あれ? さすがに効きすぎている気がする。
「し、びれますっ……! 膝、いや、腿がぁ…っ!」
「ん、んんっ……く、ああ、なるほど……」
下に目を向けると、ちょうど俺の腿が星のクリトリスを刺激する形になっていた。
…そうか、この体勢だとそういう利点もあるんだな。
ともかく俺もそう長くなさそうだし、利点を見つけたところで一気に責め立てることにしよう。
「はぁ、くふぅっ……! そんなに、擦り付けなさるなっ……!」
- 535 名前:月は出ているか 26/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:46:03 ID:IDsn+KwW0
-
「どうした、星? 自分で弱点を暴露するなんて、らしくないじゃないか」
まあ、調子に乗って責めるから構わないんだけど。
「ふ、ふふっ……はぁ、んっ…! そこまで言われては、黙っているわけにはいきませぬな」
そう言うと、俺の腰をがっちりと両脚で固めてくる。
「……では、いざ! いざっ……!」
「う、うおおうっ?! くぁっ……!」
ほとんど諸刃の剣を振るような勢いで、脚で固めたまま腰を振り回してくる。
俺と星の動きが相俟って、結合部からとめどなく混ざった液が溢れ出す。
音は一層激しくなって聴覚を何処かおかしくしてしまいそうだった。
「はぁぁんんんっ! 一刀っ、一刀ぉ……!」
「星……星っ! 俺もそろそろ、限界だっ……!」
切なげでいて激しい呼びかけが、頭の遠くで響いていた。
ラストスパートのように二人で腰を動かすと、星の中がひくひくと蠢き始める。
それが俺の最後のとどめになった。
「はぁ、ああああああっ! くぅああああんんっ!!」
「くああぁぁあっ! 星、出るっ……射精る……ッ!!」
盛大に噴き出したカタマリが、星の中を満たしていく。
余韻のようにざわめく中の襞が、まだ残っていた白濁を強制的に呼び起こしていった。
「ふ、ううっ……!」
余韻から危うく倒れそうになるところを、なんとか両腕で抑える。
危ない危ない。
「は、あ……ふふ、一刀のもので私の中が満たされておりますぞ…?」
「ふう……っ、星、大丈夫か…?」
「無論、大丈夫ですとも。…気だるげなのがまた、心地よい。
…それとも、二回戦でもやりましょうか?」
「……いや、やめておこう。とりあえず今日は」
「ふふ、承知しました」
さすがにそれだけ立て続けにやるのは体力的に厳しいところが……。
それに、なんとなくこうしておいた方がいい気がする。
「…では、せめてこのままでも構いませぬか?」
「このまま?」
- 536 名前:月は出ているか 27/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:54:18 ID:IDsn+KwW0
-
「左様。…今日はこのまま繋がっていたいと思ったのですが…」
「ああ、別に構わないけど…でも、さすがにちょっと体勢変えるな?」
「無論です」
足を組み入れたままだと、さすがに色々と問題がある。
「はンっ……」
「大丈夫か?」
「ふふ、お構いなく。あぁ、一刀の温もりを感じますよ……?」
「それなら良かった。……ふぅ」
「……それでは――」
「…ああ。お休み、星」
そのまま二人でころんと横になって、お互いの顔を見ながら眠りに就く。
…僅かだけど、綺麗と呼ぶには語弊があるけど。
それでも大切な光が差し込む中で、俺は瞼を閉じた。
……。
「――、―――」
……むぅ。
「―――――、――」
「もう、ちょっと」
寝ぼけ眼でついと視線をずらすと、人影が見える。
よくわからないけど。
「もう、ちょっと――」
「起・き・て・く・だ・さいッ!!」
- 537 名前:月は出ているか 28/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:54:58 ID:IDsn+KwW0
-
「はっ?!」
「…お目覚めのようですね、一刀」
突然痛みと何かデジャブを感じて思わず瞼を開けると、目の前には愛紗がいた。
――何だろう、何故か視線が冷たい気がするな。
「あら、関羽。もう少し大人しく起こしてあげたらどう? 昨夜はさぞ激しかったのでしょうし?」
「……あ、あれ…?」
「…間抜け面をする前に、自分の目の前のものぐらい見たらどうなの」
にこにこ笑いが不機嫌顔に。ただしその間に感じられるのはずっと絶対零度の空気だ。
「はぁ、んっ」
「せ、星っ?!」
視線を移すとそこには、まだ俺と繋がったままの星がたった今の動きで目が覚めるところだった。
…し、しまった。
そういえばついみんなが周りにいたって事を忘れてしまっていた……!
「…ああ、お早うございます。一刀」
「あ、ああ……お早う」
まるで何事もないかのような星の態度に、さらにどこかが寒くなった気がする。
「あ、愛紗。昨日酒を随分飲んでたみたいだけど、大丈夫なのか?」
「ええ、ご心配なく。一刀を見たら、何故か頭が随分明瞭になりましたから」
「そ、そうか」
……怖すぎる。
まさに取り囲まれる俺は孤軍、なんだか周囲からすごい気が漂ってきてるし。
その一部はどうやら星にも注がれているようだった。
「なんだ。まさか抜け駆けはなし、などと女々しい事を言うつもりではあるまいな?」
「だが!」
「それに、そもそも私は一刀と先約をきちんと取っていたのだぞ?
本人に確認してみれば良い」
俺に振るな星、頼むから俺に振るな?!
「…その話は真ですか、一刀」
「ま、まあ……そうだな。昨日の昼からだと思うから」
「この通りだ。まぁ、酒にあっさり酔い潰れてしまう者には結局無理だったろうがな」
火に油注ぐな?!
- 538 名前:月は出ているか 29/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:55:45 ID:IDsn+KwW0
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「これはどうやら、ご主人様に朝から一働きしてもらう必要があるようね」
「同感です!」
「同感だな」
やめて華琳微笑まないでお願いころさないで。
秋蘭もくつくつと笑っているようで、何かいつもには無い威圧感が大変危険だ。
「…こればかりに関しては、同感だ」
「どーかんなのだ」
「…同感です」
「同感同感。こういう事は平等にしてもらわないと不公平だろ」
朱里まで言うか……?
どうやら、俺の味方は何処にもいないようだ。
当然俺と未だに繋がったまま笑っている星は味方に数えられない。
「……というか、お前こうなるの分かってただろ星?!」
「おや、何のことでしょうな?」
抜け目ない星が気付いていなかったはずがない。
「見苦しいのはそこまでにしてもらいましょうか。春蘭」
「御意!」
「せ、星っ! 謀ったな、星――ッ!!」
「一刀は良い男でしたが、それ故にその人徳が悪かったのですよ。…今回の場合は、ですが」
満面の笑みの星が、最高に憎たらしくて最高に綺麗だった。
ちくしょう。
「あうっ、あおおおっおっうおうああおおうっ?!
も、もう駄目! もう駄目だってば!
もう出ないのらめえぇぇええええええええええーーーーーっ!!」
〜まだちょっとだけ続く〜
- 539 名前:月は出ているか 30/30[sage] 投稿日:2007/07/15(日) 23:59:09 ID:IDsn+KwW0
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……同刻、某所。
温度が高まり続けている気がする室内の中で、色んな意味でもがき苦しむ一人がいた。
「か、りん様ぁ……はぁ、はぁ……」
昨日、華琳が騒ぎ出した声にいち早く反応して起き上がったのが遥か前。
視界が真っ暗で、それが停電であることに気付いたのがそのすぐ後。
そして、華琳に命じられるまま自分を戒めていることに気付いたのがさらにそのすぐ後。
「はぁ、んくはぁっ……あぁ、華琳様ぁ……」
何がなんだかよくわからなかったが、当人――荀ケは、一つの答えを導き出した。
『これもいわゆる虐めだ。』
誰にもついていけないほどぶっ飛んだ思考なのだが、本人は極めて大真面目である。
何せ華琳様は、きちんと耐えられればとっておきのご褒美をくれると言ってくれた。
私を忘れるはずがない、きっとそのうち現れて……
「はぁぁん、ふっ……!」
それだけで、彼女は思わず達しそうになってしまいのだった。
……ところで、今は何時だろう?
そんな事も気に留めず、彼女はただ自分を慰め続ける。
ある意味、誰よりも幸せであった。
〜今度こそおわり〜
窓の月は月にやらせるか星にやらせるか、それとも3Pにするかいっそ詠も加えて…とか最後まで悩んだ。
最終的に月だと見ていてあまりにも紛らわしいので星に譲った。
エロは初めての試みなので、ねーよwwwwwwwな部分があればどうか教えてほしい。
あと、支援してくれた人たちありがとう。多謝。