- 412 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 00:55:19 ID:bNgLpAm50
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過疎など知らん、突貫するのみだ止めてくれるな!
本編終了後の真END後想定で外史を始める。
愛紗シナリオのような気もしたが、後半はそんなことはなかったぜ……!
うおオオオオオ投下するぞオオオオオオオ
- 413 名前:テロ五月病 1/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 00:56:57 ID:bNgLpAm50
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三国志を舞台にした一つの外史が崩壊し、また新しい外史が作り出されてから一ヶ月。
リアル浦島太郎を引き連れてきてしまった時はどうなるか心配したものだったけど、とりあえず大きな問題も起こっていない。
貂蝉の話の通り、かなりご都合主義がまかり通った世界らしい。戸籍とか。
「……一刀?」
「何だろう、愛紗」
「さっきから何を一人でブツブツと言っておられるのです。周りから不審に思われてしまいますよ?」
隣の愛紗からジト目で見られて周りを見渡すと、思い思いに時間を過ごす学生達が見えた。
そうだよな、誰も気にしてないよな。よし。
でも、次からは気をつけることにしよう。
「それとも、私が何かお気に障るようなことを致しましたか。…それならば、どうか遠慮せずに――」
「ちょっ……違う、違うってば愛紗! 愛紗はよくやってくれてるよ。ちょっと考え事をしてたんだ」
僅かに顔を伏せる愛紗に慌ててフォローすると、それならばいいのですが、といつもの表情に戻る。
この世界に来たころ(本人にとっては)失敗続きだったせいか、時々こういう事に敏感に反応することがある。
もともとこんなところはあったんだけど。
一刀と呼び方を変えるだけでも、かなり苦労してたからなぁ……。
できれば俺に対する敬語も直るといいんだけど、完全に染み付いているようなので、とりあえず強制しない事にした。
習慣というのは恐ろしい。
「ここにきてから、そろそろ一ヶ月だろ? なんだかんだ、みんな馴染んだよなぁって思ってさ」
「…はい。最初のうちこそ戸惑いましたが、私達もこの世界の一員ですから」
結局、みんなどこにいても性根たくましいという事なんだろう。
「鈴々なんか、もう覚えきれないくらい友達を作ってるしなぁ」
「あやつにとっては、環境の違いなど壁にはならないのでしょう。…確か、華琳も何か…始めると言っていた気がしますが」
「ああ、株か。この前言ってたな、そういえば」
…身近な幸福のためにも、華琳が投資した会社の重役が逮捕されないことを祈る。
- 414 名前:テロ五月病 2/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 00:59:50 ID:bNgLpAm50
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「あの調子で少しは勉学の方も励んでくれると、姉としては言う事もないのですが」
「はは…まあ、朱里も強制されて身につくものじゃないって言ってただろ?……っと」
「む」
そんな事を話しているうちに、予鈴が響いてきた。
話してると早いなぁ。
「…なんて暢気にしてる場合でもないか。愛紗、急ごう」
「はい!……ひゃっ?!」
スタートダッシュを切って、慌ててフライングでスタート地点に戻る。
そこでは、愛紗がその場で地面にへたり込んでいた。
「す、すみません! 少し、気が抜けていまして……」
「いやいやいやいや、謝るのはいいから。それより大丈夫か? 怪我はないか?」
「は、はい……もちろん、…大丈夫です」
見たところ、目立った傷もないし……とりあえず大丈夫か。
でも、どうしてこんなところで転んだりなんかしたんだ?
愛紗は確かにどこかうっかりなところはあるが、それはこういう時に発揮されるうっかりじゃない。
どちらかといえば、こういう時に発揮してくれるのは朱里か詠だ。
「それよりも、早く行きましょう一刀。このままでは遅れてしまいます」
「…いや、ちょっと待ってくれ。愛紗」
何ですか――と聞こえるが早いか、俺は愛紗の額に手を伸ばした。しかしあたらなかった
「…い、いきなり……な、なんですか一刀!」
「ちょっと額を出してもらえないかな、愛紗。調べたい事があるんだけど」
「……! だ、駄目です!」
駄目ときた。これはやはり怪しい。
愛紗が怒らずに、うろたえているのが何よりの証拠だ。
「…愛紗」
「う……。そ、その…違うのです一刀。今のは、近寄らないでとか、そういうのではなく! ただ、その――」
その時、視線が一瞬おぼつかなくなったと同時に――愛紗の体が傾いだ。
「…! 愛紗っ!」
「ご主人…様……」
周りの生徒の目も気にせず、俺は弱弱しい愛紗の体を抱きかかえた。
- 415 名前:テロ五月病 3/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:04:42 ID:bNgLpAm50
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「…五月病だね」
保健室の外で、俺はその言葉を聞いた。
目の前には、噂通り大人とは信じられないくらい幼児体型の教員。
驚くところだろうが、外史で鍛えられたのだ。さすが俺、この程度ならなんともないぜ。
「五月病って、あのやる気が出ないっていう……?」
「正しくは、環境に適応できないことによって起こる抑鬱、無気力なんかだね。適応できなくても症状が出るかは、人によって違うんだけど……ざっと診てみた限りでも、応対してみた結果でもそうだと思うよ」
「でも、それであんな酷い状態になるものなんですか?」
「無気力や焦りが眠りを妨げたり、疲労感を誘ったりして体調を崩すことは十分にある。…彼女の場合は、特に症状がひどいみたいだけどね」
愛紗は運ばれてきてすぐにベッドに寝かされた。
俺が覚えているのは、目が覚めた愛紗が始終申し訳なさそうな顔をしていた事だけだ。
「彼女は転入生だからね。……まあ、その辺りの事はきっと君の方が詳しいと思うけど」
「…はい」
詮索はしない、と暗に込められた言葉がありがたい。
…正直、かなりショックだった。
愛紗は確かに苦労してはいたけど、凛とした瞳といつも通りの笑顔を見せてくれていたから。
……一ヶ月。馴染んだと思っていた生活。倒れる寸前の、ご主人様という言葉がまだ響いている。
他のみんなもそうだけど、愛紗は特にあの世界では使命を信じて精力的に尽くしてきた。
ひょっとしたら俺は、愛紗に大変な無理をさせてきたんじゃないだろうか?
愛紗が人一倍誰かに、俺に、弱みを見せたがらないって事はよく知っていたはずなのに。
……俺は愛紗をどれだけ頑張らせてしまったんだろう?
「とにかく、他の可能性も調べてはみるけど。体調の様子を見ながら、気分転換させてあげるといい」
「…わかりました。……あれ?」
先生が?マークを浮かべると同時に、突然遠くから何かの音がし始めた。
一体何だ?
「うぉおい! 愛紗がぶっ倒れて寝込んだって、ホント……うわっ?!」
「どわっ?!」
突然廊下の角から現れた翠が見えたと思ったら、俺は吹っ飛ばされた。
「あたたたた……っておい、一刀? あ、あちゃー……」
「翠。急ぐのは分からんでもないが、床に伏す人間をもう一人増やしてどうするつもりだ?」
- 416 名前:テロ五月病 4/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:05:54 ID:bNgLpAm50
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「い、いやぁー…悪い悪い、なにせ急いでたもんだからさ。な?」
「にゃははー。廊下を全速力で走ったせいなのだ」
「なんだと鈴々、お前だって全速力で走ってたじゃんか! あたしより遅かったから、あたしの方がぶつかっただけだろ!」
「鈴々は走ってたんじゃなくて、早歩きだったもんねー!」
「あんな早歩きがあるか!」
「ええい、いいから二人とも今は静かにしろ。何のために授業を抜け出したのだ?」
星に戒められると、二人は大人しくなる。
…相変わらず元気だなぁ。
「して、一刀? 愛紗が倒れたと聞きましたが、一体どういう事なのです?」
「それは……」
俺はここまで聞いたことと、愛紗がきっと無理をしてたんだろうという事を話した。
「あんなに傍にいたのに、俺は気付いてやることができなかったんだな……」
「…それは違うよ、お兄ちゃん。鈴々だって気付かなかったのだ。きっとお姉ちゃんは、そうさせないようにしていたんだと思うのだ」
「鈴々の言う事が正しいでしょう。一刀や鈴々がこれまで気付かなかったのは、それだけ愛紗の隠し方が巧妙だったという事です」
「愛紗って、そこらへん融通がきかないところがあるからなぁ」
他人に事情を話すと、頭の中をぐるぐると巡っていた厭な霧が、それだけで少しは晴れた気がした。
…そうだな。とにかく、俺が今落ち込んでいる場合じゃないか。
苦しんでいるのは俺じゃなくて、愛紗なんだから。
「しかし、事情がそれでは…気を晴らしてやるとはいっても難しいでしょうな」
「お姉ちゃんのことだから、きっと他人に心配をかけるだけで嫌がると思うのだ」
「だよなぁ……」
精神的な要員が大きいというのが、事態をもっとややこしくしている。
愛紗は心配されているのに身体が思うように動かないというだけで、自分で自分を潰しかねない。
「…とにかく今は授業に戻ろう。愛紗に余計な心配をさせるのも、まずいだろうから」
「そーだなー……じゃ、せめて愛紗の分のノートでも取ってやるとすっか」
「翠、不慣れなことはやめておけ。ノートを見た愛紗が卒倒しかねん」
「なんだと星、そりゃどういう意味だ!」
「翠の汚い字じゃ、無理もないのだ」
「だからお前が言うな鈴々っ!」
…とりあえず、ノートは朱里にでも取ってもらうことにしようか。
- 418 名前:テロ五月病 5/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:06:52 ID:bNgLpAm50
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誰かの調子が悪くなると、きっと俺の調子もどこかおかしくなるんだろう。
これほど集中できないのも久しぶりだ。
とはいえ俺もそれなりに太守をやったせいか、そこまで周りに気付かれることもなかった。
目敏い周喩に気付かれてそれとなくグサリと言われたりはしたけど。
…もうあっという間に放課後だ。
様子見の大役を仰せつかった俺は、保健室の扉を開ける。
と、それに気付いた先生が軽く人差し指を唇に当てて、軽く微笑んだ。
なるほど。
できる限りの忍び足で備え付けのカーテンを開けると、滅多にお目にかかれない愛紗の寝顔があった。
というか、初めての気もする。愛紗は昼寝しないし、部屋に入る機会も滅多にないからな。
ほとんど布団や服が乱れてないあたり、愛紗は寝相もいいんだな。
少しだけこちら側に傾いた顔は、普段見せてくれる表情とはまた違うものだった。
安らかで、同時に…なんだか、とても――
「……? …かず……と?」
「…あ、……悪い、起こしたかな?」
「…はい……いえ、お気になさらず」
反射的に飛び起きようとする愛紗の手を握ると、意図を察したのか枕に頭をつけてくれた。
「授業はもう終わったよ。愛紗のノートは朱里に取ってもらってるから心配しなくていい」
「ありがとうございます」
「…俺が心配しなくてもいいっていうのも、どうかと思うけどな」
「ふふ、そうですね」
二人でしばらくの間、笑う。そういう元気はまだあるみたいだな。
笑いが止まると、愛紗はふと視線を移していた。
「…あれは? 先ほど起きた時は、なかった気がしますが」
台の上、花瓶に差してある花。
「あれか。…恋が取ってきたんだよ。最初は食べれば治る?って聞いてたんだけどな。それは治った後にしようって言ったら、昼の間にどこからかさ」
誰からそんな事を教わったんだろう。
とにかく、恋が愛紗のためにお気に入りの花を取ってきたんだろうというのは間違いない。
「そうですか……恋が」
「ちなみに花瓶は蓮華と小蓮と、思春が持ってきてくれたんだぞ」
本人は語らなかったが、蓮華の様子からして思春も入れて間違いはないだろう。…多分。
- 419 名前:テロ五月病 6/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:10:09 ID:bNgLpAm50
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「…ありがとうございます」
「いや、俺は何もやってないぞ?」
「いえ、一刀はこうして側にいてくれましたから。…もちろん、同じくらい朱里や恋や…皆にも、感謝しています」
普段のはっきりした声とは違うけど…きっと、本心だっただろう。
こんなにか細くて、崩れ落ちてしまいそうな愛紗は初めて見たかもしれない。
離れていく足音を遠くに聞きながら、ふう、と息を吐いて力が抜ける愛紗の手を優しく握る。
「…無理をおしている自覚はなかったのですが…こうなって分かる事も、あるものですね」
普通の人にとって無理をするという事を、ずっと愛紗は繰り返してきたんだろうけど。
その度に押し退けてきたのが愛紗の強さでもあるんだろう。
「不思議ですね。今、私はとても楽になった気分です。…たった今、倒れた直後だというのに」
「それが悩みを共有するってことだよ。それを聞いたら、みんなも喜ぶんじゃないかな」
「…そうですね。どうやら、私の考えすぎだったようです」
もっとも、多少の悩みなら愛紗は自分で切り開いてしまうだけの能力は持っているし、事実そうしてきた。
ただ、今回は――
「…少し、弱音を吐いても宜しいでしょうか」
「ああ…聞かせてくれ」
それが弱った愛紗にとって、少しでも捌け口になるならそれは嬉しいことだ。
俺が答えると、愛紗はふっと笑ってくれた。
- 420 名前:テロ五月病 7/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:13:05 ID:bNgLpAm50
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「私の使命と呼べるべきものは、たった一つの大きなものでした」
「…戦乱で苦しむ誰かを助けること。その為にも俺を、広大な地を治める主にすること」
「その通りです」
……そうか。
「ご主人様や貂蝉の言葉を疑ったわけではありません。…私達が望む限り、あの世界は続くのでしょう。ですが」
顔が僅かに曇るのを俺は見逃すことができなかった。
「この世界に来てから、違和感を時々感じたのです。…まるで半身を失ってしまったかのような。加えて、この世界に上手く馴染めなかった私は――」
ごくりと何かを飲み込む音は近くから。自分だったのか、愛紗だったのか。
「――何のために、この世界に来たのだろうかと」
元気に暮らす民達こそが、向こうの世界で愛紗を支えていたものの大きな一つだった。
もちろん俺や、鈴々や、他のみんなも勿論そういう部分はあっただろうけど、こと愛紗は割合が大きいんだろう。
時に、彼女自身の大きな暴走や変調を引き起こすほどの。
…お世辞にも良い方法でなく別れをする事になった結果が、愛紗を環境に耐えられなくしたのか。
「それは、愛紗自身が見つけないと」
でも、俺は代わりを作ることはできない。
「愛紗が苦しむ人々を救おうと決めたようにね。愛紗は天の御使いに会ってからも、いや会ってからなおさら自分の意思で護ろうとしてたはずだ」
「…はい」
「やらなきゃならない事はなくても、愛紗にやれる事はきっとあるし、必要とされていると思う。それを探す手伝いを、俺にもさせて欲しい」
きっと変われるはずだ。
単純に目的をすり替えなかった愛紗は、それだけ自分の中のことを真剣に考えていたってことだから。
「とりあえず、俺は愛紗がいなくちゃ困る。しっかり者がいないとな。…もう俺は太守じゃないけど、いてくれるかな?」
「は、はい! もちろんですとも。…勿体ないお言葉です」
「…もう太守じゃないってば」
勿体ないなんて、そんなものはいらないのにと、苦笑がこぼれる。
でも、そんな言葉を聞くのもひどく久しぶりな気がして安心した。
「いえ。私自身が嬉しかったからこそ、そう言ったのです。…この身に持て余します」
そう言って、本当に屈託なく明るく笑ってくれた。
……ああ、なんだか愛紗がひどく可愛いと思える。
- 421 名前:テロ五月病 8/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:14:27 ID:bNgLpAm50
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「…まあ、愛紗のことだから無理はするなとは言わないけど、少しでも話し掛けてくれよ」
「そうします。…どうも少し、内向的になっていたようです。頼りにさせていただきます」
「うん。それに、個人的には嬉しいんだよ。愛紗の役に立てることがあるって分かるだけでも、俺は嬉しいんだから」
いつも世話になりっぱなしだものな。
貸し借りでつけるとしたら、俺は一体どれぐらいの不良債権を抱えてるかわかったもんじゃない。
「それは私としても光栄ですが、…一刀、それは私だけですか?」
…ジト目で見られても、はっはっはと乾いた笑いをするしかない。
「……いえ、できればみんなの役に立てればいいなあ、とか思ってます」
「…ふふ、ご心配なく。今はそんなことで拗ねたりはしませんよ」
どうやら俺は力になれるみたいだ。
今はっていうのが気になるけど、とりあえず忘れておこう。
「一刀」
ん? と改めて愛紗を見ると、少しだけ瞳がとろんとしてきているのが分かった。
「その……今日は、お忙しいですか」
「いや、特には片付けなきゃならない事はないよ。おかげさまで」
課題や宿題は、常に注意されていたり、一緒にやろうとみんなが持ち込んでくるので自然と早く片付く。
でもみんな熱心だからなあ。
昔の経験で今は教えることの方が多いけど、いつ逆になり始めることやら。
実際に一部の科目は朱里や詠に助けられることが多くなってきた。
「では、その……」
もごもごと動かす口は見ていてほのぼのするのだけど、肝心の言葉が出てこない。
まあ、きっとそういう事だろう。
「大丈夫。愛紗がまだ落ち着くまでは、ちゃんとここにいるから」
もう一度強く、できるだけ優しく手を握る。
「…はい。ありがとうございます」
愛紗の顔が綻ぶのが、俺も嬉しかった。
暫くしているうちに愛紗はうとうとと眠り込んでしまって、結局寮に帰るのは遅くになった。
…みんなを待たせていたのをすっかり忘れていて、後日俺が一人ずつ色々と奢ることになったのは愛紗には内緒の話。
これぐらい、みんなの笑顔のためなら安いもんだ。
- 422 名前:テロ五月病 9/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:15:55 ID:bNgLpAm50
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めぐみTake
著しく体調を崩した愛紗は、熱やら何やらを出して結局倒れた翌日から学校を休んでいる。
まあ、働き者なんだしこの際しっかり療養するのはいいことだ。
交代で愛紗を看てくれるみんなの配慮もあって、愛紗はそれなりに休みを受け入れてくれているようだし。
…ちなみに俺も、ほとんど毎日様子をうかがってたりする。
さすがにダメかと思ったが、事情を話すと女子寮の管理人がかなりアバウトに通してくれた。
助かるけど、それでいいのか?
そんなこんなで、愛紗が倒れてから六日。愛紗が倒れたのが火曜日だから、今日は日曜。
まあ、もともと何処か問題がなければ愛紗の体力は凄いものだから。
日に日に順調に回復して、今もかなり元気だ。
この際だからと全快するまで休みを取ることになっているが、明日にも全快するような勢いである。
…もっとも、まだ愛紗の問題が全部解決したわけではないけれど。
それはともかくとして、俺が今どこにいるかと言えば――
- 423 名前:テロ五月病 10/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:17:34 ID:bNgLpAm50
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「おーい一刀、早くこっちに来いよ!」
周りの目も気にせずに、ぶんぶん振られる手は全部で四つ。
ああ、もう慣れたよ好奇の視線とか、他にも色々な意味で注目される視線とか。
「お兄ちゃんが遅いせいで、バスが一本行っちゃったのだ!」
「翠も鈴々も早すぎるんだって。逃げやしないんだから、そんなに慌てなくても」
まだ日も昇ったばかりなのに。
「そんなこと言ってると、あっという間に夜になっちゃうのだ」
「それに、遠出っつったらこう、気分がばばーんって感じになるだろ? 本当は始発でも良かったんだぞ」
一番乗りをこんなところでも適用しないでくれ、お願いだから。
「…まあ、時間が過ぎるのが早く感じるっていうのは分かるけどな」
「そうなのだ。鈴々もこのまえ街に行った時は、あっという間に日が沈んでたんだのだ」
まだまだみんなにとっては新鮮だからなぁ。
「愛紗の全快祝いの準備もしなくちゃならないからな。時間はいくらあっても足りないよ」
そう、それが今日、街でやることの一つの大きな目的でもあった。
確かに土日を挟めたのは幸運だったな。
「大丈夫だよ、ちゃんと余裕を持ってあるんだから。…っと、バスが来たぞ」
「お、思ったより早かったなぁ」
しかしまあ、初めて乗用車を見た時のみんなの反応といったらなかった。
それぞれ違う反応ではあったけど。
「さて、乗る……って、おいどうした翠?」
違和感を感じて後ろを振り向くと、いざ乗ろうという時に何故かためらう翠。
「翠?」
「……財布、忘れちまった」
……マジかよ。
「お兄ちゃん……」
「鈴々、お前もか!」
ううう、と揃って申し訳なさそうな顔をする二人。
「悪い、一刀! 走って取ってくるから、さき行っててくれ、すぐ追いつく!」
そう言うが早いか、鈴々と一緒に人智を超えた速さで走っていってしまった。
まあ実際追いついてきてしまうだろう。
「…先に乗ってるか」
時間が足りないって言ってたし、きっと俺だけでも先に行った方がいいだろう。
- 424 名前:テロ五月病 11/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:20:09 ID:bNgLpAm50
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…そう思ってる時期が私にもありました。
「何でこんなことになるかな……」
かろうじて隣の客に聞こえるかなあ、程度の声で思わずつぶやいてしまう。
いいじゃないか、俺だってこんな芸風を覚えたつもりはない。
「そのまま真っ直ぐいけ! 止まるんじゃねぇぞ! 妙なこと考えたら分かってんだろうなコラ!」
…俺だって覆面被った人間が銃で運転手を脅していなければ、こんな風にはなりません。
翠や鈴々は、このバスを見つけてくれているのだろうか。
そういえば、あの二人がバスのルートを正確に追ってこれるかということは考えてなかった。
いや、ある意味見つけてくれないほうがいい気もするんだけど。
……何か、色々と平和的に。
見た感じ典型的な悪党だが、持ってるものがものだから迂闊に手は出せない。
出さなくても、きっと成り行きで悪いことにはならないだろう。
もちろん、俺にやれることはするつもりだけど。
ほとんどカカシだったとはいえ、多少は場慣れしてるもんな。
そう思って、とりあえず俺は隣のおばあちゃんを励ますことにした。
はためくカーテン、跳ね上げられた毛布、そしてスイッチの入ったままのテレビ。
「はいはい、起きてるー? …って、ちょっと居ないじゃないのよ! 窓が開いてるし! まさか…」
「…待って、詠ちゃん……。このニュース、見て……」
「…なるほどね。あのち○こ魔人、つくづく人に迷惑をかけてくれるんだから」
- 425 名前:テロ五月病 12/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:21:35 ID:bNgLpAm50
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昼前の平和な空気は、突如として街を巻き込んだ大事件に飲み込まれた。
街に突入し、交通規制を無視して走り続けたバスはしかし、結局じりじりと追い詰められる。
今は街の一角で完全に停止し、周りをものものしい数の人間に取り囲まれることになった。
「あっちゃー……まずいなぁ。よりによって、一刀が乗ってるとは……」
その野次馬に混ざった、誰がどう見ても不自然な一団。
「…っていうか、お前らまでこんなところにいたのかよ」
「それはこちらの台詞だ。久しく街に出たというのに、この騒ぎ……まったく」
「落ち着け、姉者。……季衣もいがむな。今はそれどころではあるまい」
子供二人に、女性が三人。大別すればそうなるだろう。
しかし、明らかに普通でない雰囲気を纏っていた。いい意味でも悪い意味でも。
「あーもう、じれったいな、くそっ!」
「突撃してお兄ちゃんを助けちゃダメなのか?」
「どういう行動に出るか分からない以上、得策ではないな。勢い余って指を引くだけで取り返しのつかない事になる」
「中の人がどうなってるか分かれば、やりようもあるのになぁ」
うずうずと、今にもはずみで動き出してしまいそうな四人と、何とかなだめる一人。
「そもそも北郷がだらしないのが悪い! 私が中にいるなら、一瞬で片はついているものを…!」
「…おい夏侯惇、どうでもいいから足揺するなよ。落ち着きがないぞお前」
「なんだと!」
「……姉者、落ち着け」
「私は別に心配などしていない!」
「そんなことまで言ってねぇっての……」
そして、さらに春蘭がいきり立ち、以下省略。
いかんせん、この面子で静かにしていろという方に無理がある。
「とにかく、ここは成り行きを見守るしかあるまい。迂闊に動いてくれるなよ」
「うぅ……秋蘭さま、ボクこういうの苦手ですよぉ」
「鈴々だって嫌いなのだ。人質を取るなんて、ヒキョー者にもほどがあるのだ!」
「しかも、よりによって一刀がなぁ……」
話題ループ。
しかし、そこにひょっこりと――また彼女達とは別の尋常でない雰囲気が現れた。
「……ご主人様?」
「お前は……呂布!」
「あれ?……恋じゃないか」
- 426 名前:テロ五月病 13/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:23:16 ID:bNgLpAm50
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「何だよ、珍しいな恋がこんなところにいるなんて。いつもは街の中なんて来ないじゃないか」
「…騒がしいから、来た」
ある程度やり取りができる翠や鈴々に対して、魏組の三人は脇で様子を見ているだけである。
彼女と(本当になっているかどうかは定かではないが)親密になるには、もう少しきっかけが必要なのだろう。
「セキトは?」
「……セキトは、あっちで……おるすばん」
そういって彼女は指で方向だけを指し示した。
「……ご主人様」
「そうそう、お兄ちゃんがあの中で悪いやつに捕まってしまったのだ! だから、みんなで相談してるんだよ」
「……ご主人様が?」
あまりにも低音で、緊張感を伴わない声を出しながら、恋はほんの暫くの間動かなかった。
…だから、鈴々以外の全員がその事態に気付くのが遅れた。
「……ってバカ、鈴々! 正直に言ってどうす――うわっ?!」
「ひゃあ!」
一瞬で翠の横を抜け、足元の季衣を弾き飛ばして、秋蘭の掴みかかろうとする手を避けて、恋がはじけた。
カモシカという比喩が生ぬるい強靭な足と、見た目にそぐわない肉体が人垣を突進し、飛び越える。
「くっ……待て呂布、貴様ッ!」
「あ、待ってくださいよ春蘭さまぁ〜!」
「あーくそ、やっぱりこうなったっ! 鈴々、あたしらも行くぞ!」
「…仕方あるまいな」
「ちくしょう……何でこうなった……ちくしょう……」
早くも試合は負けムード。7回で10点差以上がついてるとか、そんな感じだろう。
このまま行けば間違いなく捕まるだろうが、心配なのは追い詰めてしまうことだ。
監視しやすいように二箇所にまとめてあるおかげで、撃たれれば多くの人が巻き添えになりかねない。
刺激はできればあまり与えないで欲しいなと思うのだが……。
…それにしても外がちょっと騒がしい……って、あれ? 何か近づいて来……
がしゃどがああああああんっ!すたっ!
「ご主人様!」
「って、うおををををををををををををいっ?!」
- 427 名前:テロ五月病 14/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:25:13 ID:bNgLpAm50
-
気付いてから飛び込んでくるまで、まさに一瞬。
恋がいかなる手段を用いてか、窓枠ごと跳び蹴りで叩き壊して中に入ってきた!
いや、いかなる手段っていうか蹴りだけど、っていうか蹴り? 本当に蹴り?
「……」
「な、なんだてめぇはあああっ!」
こちらを見たのも一瞬のこと、恋はすぐに正面の犯人に向かって臨戦態勢。
どうやら画戟は持ってきてないみたいだけど、徒手空拳で構える姿だけで分かる。
勝てないだろこんなの。
「……ぐへえっ!」
「……弱い」
うん。『絶対に勝てない』んだ。すまない。
三度のメシよりっていうし、謝って許してもらおうとも思っていない。
……でもきっと、更正するのにその経験は役に立つ思うよ?
「……ご主人様」
しっぽがあったらきっとぱたぱたと振っていることだろう。
うん。良かった。良かったけど、俺達が固まってなかったら窓枠で誰か怪我してたかもな。
「……って、うおっ?!」
「「「「「「わああああああああああっ!」」」」」」
目の前の脅威がなくなったからか、誰か一人が席を立った瞬間に全員が弾けたように走り出した。
唯一の出口である扉へ。
……ひょっとしたら、犯人より恋の方が怖いと思ったせいかもしれないけれど。
「…ご主人様、こっち」
「……っとと」
俺の体を引っ張るのは、座席と座席の前後の間に入った恋だろう。
すとんというよりは、ふにゃんといった擬音が正しい感じで抱きかかえられ、そのまま――
「おわっ?!」
跳んだ恋は、俺の体を抱えたままなんなく着地する。
俺の足がちゃんと地面をとらえたのを確認してから恋は俺を放して、あらためて俺の方を見た。
「……恋は、ご主人様を助けた?」
「ん……ああ、そうだな。助かったよ。ありがとう、恋」
満足そうに笑っていた。
- 428 名前:テロ五月病 15/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:26:47 ID:bNgLpAm50
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ほどなくして全員の乗客と運転手が逃げ出したんだろうか、反対側で歓声が聞こえた。
それと同時に、バスの窓からなんだかほとんどへろへろの男が顔を出す。
……ぞっとするほど黒光りする銃を握り締めて。
しまった、すっかり忘れてた……! しかも恋に対して後ろ側!
「危ない!」
「……ぐあっ!」
思わず恋を庇ったが、思わず声を出したつもりはない。
改めて目を開けてバスの方を見ると、手元をおさえて呻く犯人と、バスの外に落ちた拳銃が見えた。
「…これでいいんだろう? 北郷殿」
「秋蘭か! …助かったよ。ありがとう」
拳銃だけ弾き落とすという神業だが、きっと狙ってやってくれたんだろう。
「なに、当然のことだ。…だが、そろそろ離したほうが良さそうだぞ」
「……ご主人様、ちょっと苦しい」
「あ、ああ……ごめんごめん、恋」
ちょっとだけ嬉しそうに見えたのは目の錯覚じゃないと思いたい。
「むー、結局おいしいとこを恋が全部持っていっちゃったのだ」
「あたしたちは骨折り損のくたびれもうけだもんなぁ」
「はは……まあ、何事もなかったから良いだろ? みんなにはあらためて、後で何かおごるよ」
「うわ、奢りですって春蘭さま! 兄ちゃん、さすが太っ腹!」
「…まあ、そういう事なら今回のことは水に流してやらんでもない」
「……(じゅる)」
しまった……! 今ここにいる大食い比率を忘れて思わずいつも通りの対応をしてしまった。
やばい、せめてどうにか限定をつけて言い包めなければ。
この前も奢ったばかりだというのに、これじゃカップ麺生活になってしまう。
「……あれ、なあ一刀? …あれ、ひょっとしてまずくないか……?」
「何だ翠、言っておくが食べ放題ってわけじゃないぞ……って、『あれ』……?」
……言われて、翠の指をたどる。
そこでは、今まで微動だにしなかったバスが動き始めていた。
「……まさか」
- 429 名前:テロ五月病 16/20[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:30:51 ID:bNgLpAm50
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あの犯人、バスの運転なんて出来たのか? あるいはヤケクソかもしれないが、そうだとすれば余計まずい。
集まっていた群れが悲鳴をあげて散り散りになっていく。
「兄ちゃん、あれ何かぶつけたら止まるかな?!」
「いや、分からない!」
でも一体何をぶつけるんだ?――と聞く前に、真後ろから俺の頭上を飛び越えて飛んでいった。
自転車が。
綺麗に放物線を描いて飛んでいった自転車は、バスの窓の一つにクリーンヒットして犯人がうろたえる。
「おおっ、効いてるぞ!」
「いや、それはマズ……って、ちょっと?!」
いや確かにスピードは落ちましたけど、それは違う。違うけど、それを上手く伝えられない俺が憎い!
「でやぁぁぁぁぁっ!」
季衣が手近な自転車を放り投げ、
「らっしゃおらぁぁぁぁっ!」「喰らえーーーっ!」
翠と鈴々がバイクを放り投げ、
「……ふっ……くっ……!」
恋が軽自動車を――
「って、おい待て恋んんんんんんんんんんっ?!」
待たなかった。
まるで特撮映画でも見ているかのように、少女が軽自動車を頭の上に持ち上げて放り投げた。
「俺の新車がぁぁあああああああっ?!」
泣いてるよ。泣いてるよ、犠牲者が。俺も泣きたいよ。
「ふんっ……ぐっ……! はぁ、はぁ……」
「…何をやっているのだ、姉者」
「い、いや……私も何か投げたほうが、いいかと思って……」
一方、夏侯惇は電柱を持ち上げようとした。
「……それはさすがに無理だ、姉者」
「わ、分かっている! ちょっと試したみただけだ。……そんな目で見るなぁ!」
「泣くな、姉者」
「泣かんっ!」
- 430 名前:テロ五月病 17/19[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:33:38 ID:bNgLpAm50
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「ひいいいいいいいっ?!」
しかし、それでも止まらない。ボロボロの体を引きずって加速し始める。
…立場さえ違ったら感動的なんだろうになあ。
「まずい、突っ込んじまうぞ!」
しかも今度は、全速力の自爆覚悟だ。
もう、どうしようもないのか?
「……待ていっ!」
しかしその時、声が聞こえた。
その声はこの混乱のさなかであっても、誰もが思わず立ち止まってしまうほどの力がある。
「あれは……」
たなびく黒髪。青龍刀を握り締め、道路の中央に堂々と立つその姿は見間違えようもない。
「……愛紗!」
「聞け! 罪なき民を恐怖に陥れ、今まさに世に混乱を生み出そうとする者よ!
我が名は関雲長! 聖フランチェスカの守護者にして、北郷一刀の護人也!」
そう言っている間にも、バスはどんどん加速していく。
「貴様の罪、この青龍刀が介錯つかまつるッ!」
半狂乱で声を上げながら、ヤケクソで道路のど真ん中に立つ愛紗に突っ込んでいく。
「うああああああああああああああっ!」
「……来い!」
…思わず目を瞑った俺が初めて見たものは。
すり抜けたように向こう側へ走っていくバスと、目を瞑ったまま片膝をついて青龍刀を地面につける愛紗。
俺は愛紗の幻でも見ていたのだろうか? …と思ったのも束の間。
バスが、真っ二つに割れた。
「う、うわぁっ?!」
間もなく勢いを失って、分かれたバスは両側に音を立てて倒れる。
愛紗は目を開くと、ゆっくりと立ち上がる。
- 431 名前:テロ五月病 18/19[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:34:57 ID:bNgLpAm50
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「愛紗!」
「一刀。それに皆も、怪我らしい怪我がなくて何よりです」
「愛紗のほうこそ、体は大丈夫なのか?」
「はい、ご安心ください。私も完全に全快したと思ったからこそ、こうして馳せ参じたのですから」
満面の笑顔で言ってくれる。
「ふん、そうでなくては張り合いがない」
「姉者は素直ではないな」
「うるさいぞ秋蘭!」
春蘭もなんだかんだ、心配してくれてるんだな。
笑うのはみんなで。
「…よし、じゃあ愛紗も来たことだし。今日はこのまま街を巡って、帰ったら全快祝いだな!」
「もちろん、それは一刀の奢りなんだよな?」
……え。
「……ご主人様、さっき言った。……なんでも奢り」
「いや、何でもじゃなくて何かと……ええい、まぁいい! 今日は全部俺の奢りだ!」
「やったーーっ!」
ハハハ、さようなら今月の俺の生活費。
早くも歩き始める大食い軍団の後ろで、軽く愛紗に袖を引かれた。
「一刀……今回で私も、この世界でやれることが、やりたいことが、ほんの少しだけ見つかった気がします」
「…それは良かった」
本当にそう思う。
「さぁ、行きましょう! 今日は奢りだそうですので、私も遠慮なくいただきます!」
「ああ、存分にやってくれ」
今度は手を。
きっとまだまだ問題はあるだろうけど、必ず乗り越えていけるはずだ。
だってここは、俺達のための外史なんだから。
〜もうちょっと〜
- 432 名前:テロ五月病 19/19[sage] 投稿日:2007/06/24(日) 01:37:04 ID:bNgLpAm50
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和気藹々と街に消えていく彼らを見つめる影が、三人。
先ほどの現場からほど近い建物の屋上に、彼女達はいた。
一人は筋肉達磨、一人はちび、そして……
「……うう……出るタイミングを、逃してしまった……」
一人は、しょんぼり。
三人はいずれも蝶をあしらったマスクを被っている。ぶっちゃけ変態だ。
「まあまあ。せっかく愛紗ちゃんが復活したことなんだし、今日はいいんじゃないの」
「そ、そうですよ。水を差すような雰囲気でもないですし……」
そう言ってはいるが、三号の気持ちに別の思惑があることは確定的に明らか。
(うう、こんな格好なんてやっぱり恥ずかしいですよぅ……)
「……そうですな。折角ですから、今日は愛紗に華を持たせてやることにしましょう」
眼下をにやり、と見つめながら華蝶仮面一号は気を取り直す。
「私達はこれからどうするのよ?」
「我々は我々で、先に帰って祝い事の準備をすることにしよう。今日はアレも出さねばならないな」
「じゃ、私もとっておきのものを出すときねん。夜が楽しみだわぁ」
「…さあ、では行くとするか」
次こそは必ず華麗にデビューを果たすと心に堅く決めて、華蝶仮面一号はその場を去った。
〜おわり〜
本当に終わり。素直に二つに分ければよかったと反省している。