[戻る] []

396 名前:1-1/4[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 18:40:27 ID:KVcrGjUH0
「ん、あそこにいるのは……」
政務の息抜きという名目で訪れた中庭に茶色のポニーテールを見つけた。
考え事でもしているのか、階段に腰掛けたままで、こちらに気がついた様子も無い。
うん、息抜きの相手にはちょうどいいか。
本当はこっそり近づいて脅かしてやりたいところだが、うちの優秀な家臣の皆さんは勘がいいのか、誰にやっても気づかれてしまう。
まぁ、うちの家臣に限らず、春蘭や秋蘭、思春達だって同じなんだけどね。
と言うわけで、この楽しみは朱里や璃々ちゃん限定となっているわけだ。
「お〜い、翠〜」
「はぁ〜……」
ありゃ?
「お〜い??」
「はぁ……」
うーむ、おかしい。
いや、返事が溜息であるということよりも、溜息が聞こえる距離になっても翠がこちらに気づいてなさそうということがだ。
紫苑あたりなら気がつかない振りをしてくれていると考えられるけど、翠がそんなことするかな?
ゆ〜っくりと翠の正面に回り込んで……。
「お〜い?」
「ん……って、うわぁ! ご、ご主人様!?」
突然目の前に現れた顔に驚いたのか、ひっくり返りそうなほど仰け反る翠。
うむ、いい反応をする。
と言うか、本当に気付いてなかったのか。
397 名前:1-2/4[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 18:41:13 ID:KVcrGjUH0
「で、どうかしたの? 何か考え事?」
「ん……別に何も考えてないよ」
ふいっと顔をそらす翠。
「本当に? 俺が近づいてた事にも気がついてなかったみたいだけど?」
「なんでもないって言ってるだろ……」
うーん、なんだか今日の翠は元気が無い。
会話中なのにぼーっとした感じで……。
……ああ、もしかして。
おもむろに翠の額に手を当てる。
「やっぱり。熱あるじゃないか」
「このくらい……何でもないよ」
そういえば朱里は以前、風邪をひいた俺の顔を『愛紗さんにイタズラを見つかったときの鈴々ちゃんと翠ちゃんみたい』と例えたが、なるほど言い得て妙だ。
今の翠は、星にメンマの盗み食いがバレたあの時を再現しているかのようだ。
「よっと」
階段に腰掛けたままの翠の首元と膝に両腕を差し込み持ち上げる。
いわゆるお姫様だっこなわけなんだけど。
「わっ! なにするんだよ! 放せったら!!」
びっくりしたのか、お姫様は腕の中でジタバタと暴れておられる。
しかし、やはり力が入っておらず抵抗はすぐお終いとなった。
とりあえず俺の部屋が近いから連れて行く事にした。
398 名前:2/4[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 18:43:38 ID:KVcrGjUH0
「まったく……具合が悪いならそう言えばいいのに。倒れたりしたら大変だぞ?」
「だって……」
誰もいない廊下では俺の足音と翠の小さな声以外は何も聞こえない。
「だって、私はこのくらいしか役に立たないから」
「はい?」
「愛紗も星も紫苑も……みんな戦いでも政務でも役に立ってるだろ? 朱里だってそうさ。政務はもちろん戦いの時は軍師の仕事をしっかりこなせる。でも、私は政務じゃ役に立てない。見回りくらいしか……」
鈴々は出てこないのな……なんて、冗談が言える雰囲気じゃないか。
「だから無理して見回りをしようとしてた訳か」
「いいじゃないか。あたしだってご主人様の……」
だんだんと小さくなっていく翠の言葉は扉を開く音に遮られよく聞き取れなかった。
半開きだった扉を足で器用に開けると、そのまま布団へと向かう。
「それじゃ、朱里に薬をお願いしてくるから休んでて」
「あ……」
「ん? どうかした?」
そっと布団の上に翠をおろし部屋を出ようとしたが、なにやら用がある様子。
「しばらく……側にいてくれないかな……」
ああ、なるほど。
確かに、風邪ひいたときに一人ぼっちっていうのはちょっとさびしい気がするかも。
「分かったよ」
布団の横に椅子を移動させ腰掛ける。
辛そうな、しかし、嬉しそうな翠の顔を眺めていたからだろうか。
一刀は全く気がついていなかった。
扉の向こうに人がいたことを。
400 名前:3-1/4[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 19:52:55 ID:KVcrGjUH0
「お兄ちゃ〜〜ん!!」
それは翠が寝てしまった後、朱里に風邪薬の調合をお願いした帰りの廊下でのこと。
土煙が見えそうな勢いで廊下の向こうから走ってきたチビっ子が目の前でぴたりと止まる。
あれだけ走ってきたにもかかわらず息が乱れた様子もなく、下から見上げるその目は何かを期待しているかのようにも見える。
「どうかした? 鈴々」
「頭が痛いのだ!」
にっこりと笑顔を振りまきながら口にしたその言葉は、笑顔で話すようなものじゃない気がするんだが。
「う〜ん……頭の薬が欲しいのだ……」
頭の……薬?
一瞬、『鈴々は勉強が苦手なことを密かに、かつ真剣に悩んでいるんじゃ?』などと考えてしまった。
「あ……ああ、頭痛薬ね。じゃあ、朱里にお願いしてみようか。薬のことは俺じゃよくわからないし」
「え〜っ……お兄ちゃんに診て欲しいのだ〜。きっと風邪なのだ」
診て欲しい、なんて言われてもなぁ。
俺は医者じゃないし、何よりも目の前のチビっ子はすこぶる元気そうに見えるんだけど。
「えっと……」
「こら!鈴々!」
どうしたものかと考えていた俺の元へやってきたのは、愛紗だった。
訓練帰りだったのか、手には青龍刀が握られている。
「まったく……お前はまたご主人様を困らせて……。それだけ元気なのに風邪であるはずが無いだろう!」
「う〜……」
遠慮なく言い切ると、そのままお説教モードへと移行する。
「仮病を使って仕事を休もうとでも思ったのか? いいか鈴々。私たちはだな……」
「う〜!愛紗のばか!」
しばらく唸っていた鈴々だったが、突然頬を膨らませ走り去っていった。
なんだ、元気じゃないか。
よかったよかった。
401 名前:3-2/4[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 19:53:51 ID:KVcrGjUH0
「あ、こら鈴々! ……まったく、後でキツく言っておく必要がありますね」
「あ……ああ、程ほどにね」
考えてみれば、自分も政務を放置しているわけで。
「ところで、ご主人様」
「は、はい?」
どうやって違う話に持っていこうかと考えていると、こちらに向き直った愛紗がコホンと咳払いをひとつ。
……ひょっとして政務のことがバレた?
「じ、実は朝から咳が出るんですが」
「へ?」
まったく予想外の告白に間抜けな声が漏れてしまった。
「え……っと、ね、熱もあるような……無いような……そんな気がします」
なるほど、愛紗の顔は少し赤い気がする。
というか、そんな状態で訓練やってたのか?
「あー……風邪かもしれないね。流行ってるのかなぁ? じゃあ朱里に……」
「い、いえ! 朱里にお願いするほどの事では! え、えっと……朱里はきっと忙しいでしょうし」
その言い方だと、まるで俺が暇人のように聞こえるじゃないか。
……否定はしないけど。
「でも、俺は医者じゃないからちゃんとした人に診てもらった方がいいと思うよ?」
「で、ですが、ご主人様は天界の方ですから……あっ!」
ひどく慌てた様子の愛紗。
振り返ってみると、後ろからやってきているのは我らがお医者様こと朱里だった。
「あ、ちょうどよかった。実は愛紗が……」
「用事を思い出しました。失礼しますっ!」
言い終わる前にすごい速さで走り去る愛紗。
「元気じゃないか」
小首をかしげる朱里の横でそんな言葉が漏れた。


〜支援感謝です〜
402 名前:4/4 終了[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 19:59:56 ID:KVcrGjUH0
「そんなことがあったんだよ」
「あらあら……」
次の日、よく晴れた中庭で紫苑と雑談に花を咲かせていた。
昨日はあの後、何があったのか知らないが、やけに機嫌の悪い愛紗との訓練につき合わされひどい目にあった。
何があったんだろう。
……ああ、そう言えば鈴々に説教するって言ってたっけ。
じゃあ、そのせいだな。
「それは……病気ですね」
先日の鈴々や愛紗の話を聞いた紫苑は少し考えた後、そう答えた。
「えっ、紫苑にはわかるんだ?」
「ええ、わたくしも女ですから」
「へぇ……」
なるほど、女性特有の病気だったって訳ね。
それじゃ俺にはわからないよなぁ。
「鈴々も愛紗も大丈夫かな? 一応仕事はこなせているみたいだけど」
「今は大丈夫ではないでしょうか。ですが、油断はできませんよ? ひどくなると仕事も手につきませんから」
そういえば、昨日の翠はだいぶ辛そうだったなぁ。
確かにあれじゃ仕事はできないよな。
「うん。確かにそうだね。気をつけないと」
「……あら?」
納得して頷いた俺を見る紫苑の顔は『意外』とでも言いたそうな顔だった。
「あ、そろそろ政務にもどるよ。あまり長く休んでると、また愛紗に怒られるからね」
「はい、頑張ってくださいね」
「あ、そうだ。その病気の名前って分かるかな? 薬とかあればいいんだけど……」
仕事もできなくなるような病気が城内で流行るのはさすがにまずい。
仮にもここの主としては対策を立てておきたいところだ。
「えっと……調べておきますね」
そう答えた紫苑の表情は、どこか困ったような、呆れたような複雑な表情だった。
遠くに離れてゆく主の背中をしばらく見つめる紫苑。
もう、言葉は届かないだろう距離で小さく病名と薬の名を告げる。
「恋の病の特効薬は『ご主人様』なんですけどね……」
403 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/06/19(火) 20:43:18 ID:KVcrGjUH0
朝起きたらこんなネタが浮かんだので書きかけの物にくっつけて投稿。
前回と比べ短めだったので一気に投稿してみたものの、思ったより長かったかも。
やっぱり小出しにすればよかったかもしれない・・・反省。
勢いで書いたので、チェックはしたけどいろいろおかしいところあるかも。

支援ありがとうございました〜。

 [戻る] [上へ]