- 339 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/06/13(水) 02:35:39 ID:4YdQxQmt0
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ちょっと聞いてくださいよお前さん方。
さっきすごいもの見つけたんだ。
いやね、俺は妄想伝に応募した人間のひとりなんだが、さっきなんとなく送信ボックス開いてみたんだ。
そしたらすごい文があってさ……。
『このメールはまだ配信されていません。』
さて、ちょっとお茶でも飲んでくるよ。
- 344 名前:339[sage] 投稿日:2007/06/13(水) 14:32:55 ID:4YdQxQmt0
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>>342
確かに、せっかく書いたんだしこのままってのも悔しい気がするなぁ。
それじゃ、ちょっと手直しした後お披露目しますか〜。
な、内容はあまり期待しちゃだめなんだからねっ!
- 353 名前:339[sage] 投稿日:2007/06/14(木) 05:55:57 ID:4XJJUYrP0
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手直し終わったので投下。
一気に全部投稿すると長め?になるかもしれないので、1〜2場面ごとに区切って小出しにします。
上の方に習って最後には〜了〜をつけます。
- 354 名前:339[sage] 投稿日:2007/06/14(木) 05:57:28 ID:4XJJUYrP0
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「う〜ん、今日もいい天気だ」
のんびりと街中を歩いているのは散歩というわけじゃないぞ。
警邏の仕事だ……一応な。
まぁ、同伴したのが鈴々だと、こうなるのはわかっていたんだが。
はるか前方ではちびっこ達を追い回している鈴々。
うむ、平和なのはいいことだ。
「おや、太守様。お散歩ですか?」
ふと声の方を見ると、屋台のおじさんがにこにこしながらお辞儀をしていた。
そういえばここの店はいろいろ変なものを売ってたっけ。
「散歩じゃないぞ。警邏の仕事だ」
「ははは、そうでしたか」
「ところで、今日は何か珍しいものある?」
街に出たらここの珍品を見る事にしている。
もっとも、実際に買うことはほぼないのだが。
「そうですなぁ……ああ、これなんてどうでしょう?」
「ん? これは?」
おじさんが手に取ったのは、小さな瓶に入った青色の液体だった。
「はい、これは珍しい入浴剤でして……」
「……ひょっとして催淫作用があるとか?」
「催淫……ですか。そういった効果はございませんが、噂ではこの湯につかった者は体が小さくなるとか。効果時間は一日くらいらしいのですが」
「へぇ……それは珍しいな」
「でしょう? 太守様にはちょうどいいのでは?」
「俺にちょうどいい? どうして?」
- 355 名前:339[sage] 投稿日:2007/06/14(木) 05:58:44 ID:4XJJUYrP0
-
珍しいのは分ったが、どうして俺にちょうどいいということになるんだ?
「どうしてって……」
そう言うとおじさんは視線を鈴々に向けたまま耳元でとんでもないことを言ってくれた。
「だって太守様。張飛将軍みたいな小さな子が好きなんでしょ? 以前もあのくらいの子を連れてらしたと聞きましたが」
待って。
確かに鈴々のことは嫌いじゃない。
朱里や月、詠のことだってもちろんかわいいと思うが、だからって俺は幼女趣味じゃないぞ?
……本人の前で言ったら拗ねられそうだな。
いや、それはともかくだ。
「ち、違うぞ。それは誤解だ。あれはただ当番の関係で……」
「おや、そうでしたか。じゃあこれは必要ありませんな」
「……いや、まって」
瓶を箱の中に戻そうとするおじさんを止める。
いやね。
使ってみたいじゃないか。
こんな面白そうなものは。
決して幼女趣味ではないぞ?
「お兄ちゃ〜ん!置いてくのだ〜!」
前方を見れば、いつの間にかちびっこ達とのじゃれあいを終わらせた鈴々が退屈そうにしている。
「今行くよ〜! ……それじゃ貰っていくよ、おじさん」
「まいど〜」
片手を軽くあげ挨拶すると、鈴々の方へ走っていった。
- 356 名前:339 2/12[sage] 投稿日:2007/06/14(木) 08:38:48 ID:4XJJUYrP0
-
「買ったのはいいけど……よく考えるとウソくさい話だよなぁ」
外はすっかり真っ暗。
元の世界にいた頃ならテレビでも見ながらゆっくりしている頃だろう。
政務の合間にそっと引き出しを開けると、あの青い液体の入った瓶が。
「催淫作用がある入浴剤の前例はあるけどさ」
誰もいない静かな自室で呟く。
体が小さくなるなんて、そんなことあるか?
手の中で小瓶を転がすと透き通るような青がわずかに揺れた。
「ご主人様」
入り口からの声と扉をノックする音に意識が引き戻される。
この声は……紫苑かな?
仕事の追加だったら勘弁してほしいところだが。
「いるよ。どうしたの?」
「あ……いえ、お風呂が空きましたのでお知らせに。あとはご主人様と愛紗ちゃんだけですよ?」
願いが通じたのか、紫苑が持ってきたのは仕事関係ではなく、お風呂が空いたという報告だった。
この世界のお風呂に保温機能なんて当然ないから、なるべく短い間に全員が入浴を済ませた方がいい。
あまりバラバラに入ると沸かしなおしの手間や燃料が無駄にかかってしまうというもの。
「分った。すぐ行くよ」
ひとまず手を止めると着替えの準備をする。
もちろん、例の入浴剤も忘れずに持っていく。
愛紗だったら俺の入浴中に入ってくるなんて事はないだろう。
だったら、上がる時に湯船にこの入浴剤を入れておけば……。
- 357 名前:339 3/12[sage] 投稿日:2007/06/14(木) 08:41:14 ID:4XJJUYrP0
-
さて、俺がこうして風呂場の前を半袖でうろうろしている訳は言うまでもない。
入浴を終えた愛紗が出てくるのを待っているわけだ。
こんな場所で待ち構えてても不自然にならないように、風呂場を出るとき脱衣所に上着だけ置いてきた。
それにしても小さくなる……か。
やっぱり、朱里や鈴々くらいになるのかね。
いや……もしかすると璃々ちゃんくらいだとか?
「おや、ご主人様?」
すっかり別世界へ旅立っていた俺の意識は、背後から呼びかけられることでようやく戻ってきてくれた。
「こんなところで何をしているんです? 先ほどからだいぶ長い間いらっしゃったようですが……」
不思議そうに首をかしげる愛紗はいつもと同じ目の高さ。
まったく縮んでいるようには見えないぞ?
「あー……いや、脱衣所に上着を忘れてね」
「え? ああ、これですね」
白い学生服を受け取り、雑談をしているうちに興奮していた先ほどまでの気持ちが冷めていくのがわかる。
……まぁ、それはそうだよな。
いくらなんでも体が縮むなんてあるわけないじゃないか。
魔法でもあるまいし。
ま、今回はこれでいい勉強だったと言うことにしておこうかな。
「じゃあ愛紗、俺はもう寝るよ」
「はい。おやすみなさい、ご主人様」
「うん、おやすみ」
騙されたはずなのに不思議と悪い気はせず、そのまま部屋に戻ると布団にもぐりこみ目を閉じた。
- 362 名前:339 4/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 01:12:12 ID:5vQzlJjM0
-
「……様……ご主人様っ!」
ん〜?
もう少し眠らせてくれ……。
「ご主人様、起きてください!」
「……っ!」
この声は愛紗!?
跳ねるように上体を起こす。
まずい!
このひどく急かされている様子……もしかして、かなり寝過ごしたんじゃないか!?
まだ開ききってない目で入り口を見ると……あれ、誰もいない?
よく見れば窓の外は薄暗く、『暁月夜』なんて言葉で表現するとちょうどいい頃。
「……夢か」
じゃあ、もう一度夢の世界へお邪魔するとしますかね。
頭まで布団の中に潜り込む。
「夢ではありません!起きてください!」
しかし、愛紗の声は聞こえる。
ついでにゆさゆさと体を揺すられるこの感触も実にリアルだ。
仕方なく布団から頭だけ出して横を見ると。
「……おはようございます、ご主人様」
璃々ちゃんを思わせるような小さな子が立っていた。
どこか困ったような表情で俺の顔を覗き込んでいるそのちびっこは、なぜか布団に包まっている。
布団をずるずると引きずりながらここまで歩いてきたのであろうその様子を思い浮かべるとなかなか微笑ましいが……この子だれ?
「えっと……?」
この世界でこんな子に会った記憶があるか?
黒い髪と瞳。
それからポニーテール。
うーん、まるで小型版愛紗みたいだぞ……。
……小型版?
こめかみを嫌な汗がつたう。
「まさか……愛紗?」
「……はい」
小型版という言葉に思い当たる節があった俺はやっとこのちびっこの正体を理解した。
- 363 名前:339 5/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 01:12:59 ID:5vQzlJjM0
-
「……つまり、朝起きたら体が小さくなっていたと」
「はい」
一通り愛紗から事情を聞いた限り、俺が使った入浴剤以外怪しいものは何もない。
「……あの薬本物だったんだな」
「薬? 何のことです?」
ベッドにちょこんと腰掛けた愛紗が不思議そうに首をかしげる。
ぬぅ……普段厳しい愛紗とのギャップのせいか、こういった動作がとても可愛らしく見えてしまう。
「いや、なんでもない。……ところで、その布団はなんなんだ?」
「それは……その」
とても話しにくそうに視線を泳がせる愛紗。
「まさか、その布団に隠れて来たとか?」
「いえ、その……服が……服の大きさが合わないものですから」
ああ、なるほど。
確かに、今の体格じゃこれまで来ていた服は着れないな。
「ところで!」
キッと俺を見上げた愛紗が口を開く。
この強烈な威圧感や雰囲気は普段の愛紗と何ら変わりない。
「さりげなく話をすりかえましたね? 薬とは何のことでしょうか?」
「う……」
わかってる。
わかってるさ。
この状態の愛紗に抵抗するのは危険だということくらい。
今の愛紗に抵抗する事は、紫苑をおばさんと呼ぶ事や貂蝉と一夜を共にする事に等しい。
……命に関わる。
「えっと……実は……」
お小言を頂戴するのは覚悟の上。
ゆっくりと口を開いた。
- 364 名前:339 6/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 01:13:43 ID:5vQzlJjM0
-
あれからどのくらい経っただろうか。
朝一番から延々と続いたお説教は、なかなか起きてこない俺の様子を見に来た紫苑の仲裁もあってようやく終了し、今日は愛紗と行動を共にする事、一部愛紗の仕事を受け持つ事などを条件になんとか許してもらった。
……で、すっかり机とお友達になっているわけだ。
横の椅子には璃々ちゃんの服に身を包み、指示を飛ばす愛紗。
自分の政務だけでも少なくは無いというのに、愛紗の分まで追加というのはなかなか堪える。
横で愛紗が指示を飛ばし、俺が書簡に書き起こす……と。
とは言え、この形は普段とそれ程変わらないか。
「ではご主人様、警邏に同行願います」
俺が代筆した書簡を確認した愛紗は椅子から飛び降り、てくてくと入り口へ。
まぁ、一日中机に齧りついているよりいいか。
それに口答えでもしようものなら……ね。
「お、きたきた」
部屋の外で出迎えてくれたのは翠だった。
「あれ、翠も警邏か? 確か、今日は当番じゃなかったはずじゃ?」
「そうだけどさ、愛紗に頼まれてね」
「愛紗が?」
視線を落とすと、機嫌の悪そうな顔と目が合う。
「当然です。この体では青龍刀など扱えるはずがないではありませんか」
「なるほど、それで護衛役に翠ね」
それでもついて来ようとするあたりは真面目な愛紗らしい。
「じゃあ、出発しようか」
そうして出発したのはいいが。
いつも通りのペースで歩いていると愛紗が少しずつ離されてゆく。
少し離されると小走りで駆け寄ってくるが、歩き始めるとまた離され……。
このままちび愛紗を眺めているのも悪くは無いがさすがにちょっとかわいそうか。
ゆっくり歩いてもいいけど、自分のせいで全体が遅くなってしまう事を愛紗は良しとしないだろうし……『私に合わせてくれる必要はありません!』なんて言われそうだよなぁ。
足を止めて愛紗にひとつ提案をする。
「愛紗、おんぶしようか?」
- 372 名前:339 7/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 21:35:29 ID:5vQzlJjM0
-
「な、ななななななな何を!」
「だってさ、ついて来るの大変そうだし」
「だ、だからと言って!」
あ〜あ、始まっちゃったか。
それにしても、二人とも仲いいよなぁ……。
ぼーっと眺める視線の先には楽しそうなご主人様と赤くなっている愛紗。
はぁ〜……いいなぁ。
あれだけはっきりご主人様と話せるのはちょっと羨ましい。
……ちょっとだけだからな。
「翠! お前もご主人様に何か言ってくれ!」
「あたしに振るなよ〜。どっちにしても早く行かないと帰りが遅くなるぞ〜?」
「らしいよ? さ、愛紗」
相変わらずだなぁ、ご主人様は。
「う……ご主人様がそこまでおっしゃるなら、家臣の私は聞かないわけにもいきませんが……」
ご主人様におぶわれ、どこか落ちつかなそうな愛紗を複雑な気持ちで見ながら門を出た。
うらやましくなんか……ないんだからな。
ああもう! なんだよ、この感じ……。
外れてしまいそうなほど頭を振って気持ちを切り替える。
……そう言えば、どうして愛紗は小さくなったんだっけ?
確か、ご主人様が何かしたってのは聞いたんだけど。
「な、なぁご主人様」
「ん?」
「あのさ、どうして愛紗は小さくなったんだ?」
「えっと、それは〜」
「ご主人様のいたずらだ! 変な入浴剤を街で買ってきたとか。まったくもう……」
気まずそうに視線をそらすご主人様の代わりに、背中の愛紗が早口で答える。
入浴剤で……いたずら?
まさか……ご主人様……。
じりじりと距離を取る。
「……翠?」
- 373 名前:339 7-2/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 21:36:30 ID:5vQzlJjM0
-
不思議そうな顔をしているご主人様に早口でまくしたてる。
「入浴剤でいたずらって……ご主人様、愛紗と一緒に風呂に入ったんだな!」
「いっ!? ち、ちがっ……」
この慌て方……やっぱりそうなんだ!
「それから、ま……また、変な事したんだろ!? エロエロ魔人エロエロ魔人エロエロ魔人!!」
「なっ、なななな何を言っているんだ、翠! 私がご主人様と一緒に風呂に入るなど……そんなことがあるはずが無いだろう!」
「えっ……違うのか?」
思わず愛紗の顔を見てしまう。
あれだけ手が早いと言うか節操が無いと言うか……あのご主人様が手を出さないなんて事が?
「そ、そっか。何もなかったんだな。よかっ……じゃなくて、め、珍しいこともあるんだな」
モヤモヤが消えてほっとしたのも束の間、ご主人様の背中でそわそわしている愛紗を見ていると、また胸がチクチクと痛み出す。
いいよなぁ……ご主人様はいっつも愛紗ばっかり構うんだからさ。
しかも、小さくなった愛紗にもべったりなんだもんな。
……まてよ?
あたしだって小さくなればいいんじゃないか?
「あー……それでさ、ご主人様。その入浴剤買ったお店ってどこにあるんだ?」
「ん? ほらちょうどあそこの……」
ご主人様が指差した先には、なるほど小さな露店がある。
う〜ん、ぱっと見た感じそれっぽい物はなさそうだけどなぁ。
ちょっと聞いてみようかな。
あたしだって小さくなれば……。
違うからな。
別に構ってほしいわけじゃないんだからな!
あたしは……そ、そう、小さくなれば仕事休めるからなんだ。
まるで自分に言い聞かせるように心の中で繰り返す。
「翠? いくぞ?」
愛紗の声に顔を上げてみるとご主人様たちはずいぶん前を歩いていた。
あっちゃ〜。
愛紗が目を光らせてるんじゃ露店に寄るなんてできないじゃないか。
その後も抜け出せる機会は無く、そのまま城門へと戻ってきてしまった。
- 374 名前:339 8/12[sage] 投稿日:2007/06/15(金) 21:39:05 ID:5vQzlJjM0
-
う〜……。
小さくなっても愛紗は変わんないなぁ……。
正直、今日は楽できると思ったのにさ。
ん? あそこにいるのは……。
特徴的な服装の人影に目が留まる。
おおっぴらに上着の前を開け広げたまま、中庭をうろうろ。
いかにも『暇してます』という感じだ。
ご主人様から聞いたところ三食昼寝付き〜なんて言ってたらしいけど、捕虜の自覚あるのかね。
曹操達と言い、この張遼と言い、ここを旅館か何かと勘違いしてるんじゃないか?
まぁ、ご主人様がいいって言うんだから構わないけどさ。
「お、ご主人様に馬超やん。巡回の帰り?」
こちらに気がついたのか足早に近づいてくる。
「お? その背中におんのは……」
同時に、さっとご主人様の背中に顔を隠す愛紗。
「ん? 愛紗なにやって……」
「あ〜い〜しゃ〜!!」
あ〜……言い終わる前に目の前をすごい速さで張遼が飛んでった。
そういえば、張遼は愛紗が好きだとか言う噂がみんなの間で流れてたっけ。
曹操たちじゃあるまいし、まさかとは思ってたんだけど……。
振り向けば、良くわからない声で叫んでいるちびっこが一名。
ひどく興奮した様子でちび愛紗をもみくちゃにしてる人が一名。
どうすればいいのかわからず、立ち尽くしている人が一名。
もう解散していいのかなぁ。
……あ。
今なら抜け出せるんじゃないか?
相変わらず愛紗は張遼のおもちゃになっている。
張遼……いい仕事してるっ!
ご主人様の目を盗みあたしは城門を飛び出た。
〜今日はここまで〜
- 376 名前:339 9/12[sage] 投稿日:2007/06/16(土) 22:25:14 ID:pEdTaLhx0
-
「この辺りのはずだけど……」
さっきご主人様に教えてもらった露店は確かこの辺りだったはず。
露店だから、もうほかの場所に行ってしまったのかもしれないけど。
弱ったなぁ……。
キョロキョロと周囲を見回していると、警邏中に見かけたおじさんの露店が目に付いた。
あった!!
よ〜し、入浴剤っと。
「いらっしゃいませ。……おや、これは馬超将軍ではありませんか」
こちらが声をかけるよりも早く、おじさんはこちらに気がついたようだ。
軽く挨拶を交わしつつ並んでいる商品を見渡す。
やっぱり薬っぽい物なんて見当たらないけど……。
おじさんの露店には小物が半分、あとは……何に使うかよくわからない物が半分。
これは聞いてみるしかないか〜。
「あ、あのさ、おじさん。何か珍しい物ないかな?」
「はぁ、珍しい物……ですか?」
「うん……例えば、入浴剤とか」
「入浴剤ですか。でしたら……」
おじさんは手元に置いてあった箱を開けると中から小瓶に入った緑色の液体を取り出した。
「そういえば、先日太守様も入浴剤をお買い上げになっておられましたが……」
「……っ!! じゃあ、それなんだな!? その……身長が変わるって言う……」
「身長が……? え、ええ、そうですね。ですがこれは……」
「買った!!」
「あ、あの馬超将軍。この入浴剤はですね……」
分かってるさ。
身長が小さくなるんだろ?
「分かってる。頼むから、何も聞かないでくれよ」
小さくなりたい理由なんて言えるはずないじゃないか。
「はぁ、分かってらっしゃるのでしたら」
「悪いな。助かったよ」
おじさんにお金を渡すと小瓶を大事にしまいこむ。
鈴々あたりに見つかっちまったら、面倒だからな。
少し日が陰ってきた空の下、小走りに城へと急いだ。
- 377 名前:339 10-1/12[sage] 投稿日:2007/06/16(土) 22:27:34 ID:pEdTaLhx0
-
「……様、ご主人様」
「……んあ?」
ぼんやりとした頭で半分開いた目。
この時の俺の顔がとても愉快なものであったろう事は、容易に想像できる。
「あ、起きていただけましたね。おはようございます」
「あ……おはよう」
俺を起こしに来た女性の顔を眺めること数秒。
「あの……」
「なんでしょう、ご主人様」
「えっと……君は誰だったっけ?」
まだ頭が完全に目覚めてないからだろうか。
侍女にこんな人いたっけ?
もちろん、城中の侍女を覚えているわけじゃないが、身の回りの世話をしてくれる人の顔と名前くらいは覚えているつもりだ。
身長は愛紗と同じくらいだろうか。
綺麗なショートの金髪に赤紫の瞳。
スタイルもなかなかバランスが取れていて……って、それはいいとして。
こんな綺麗な人なら忘れるはずないんだけど……でも、この人の雰囲気は絶対知っている。
どこかで会った事はあるはずだ。
「ふふふ。お分かりになりませんか?」
必死に頭の中の引き出しを捜索している俺に、女性は楽しそうに微笑みかける。
「う〜ん、降参。誰だったっけ?」
分からないなんて言ったら怒られそうなものだと思っていたが、目の前の女性はこの状況を楽しんでいるように見える。
「仕方がないですね〜。私は……」
「ご主人様!」
女性が答えを口にする前に部屋に飛び込んできたのは、昨日までちびっこだった愛紗。
なるほど、一日で効果が切れるらしく元の大きさに戻ってる。
- 378 名前:339 10-2/12[sage] 投稿日:2007/06/16(土) 22:29:12 ID:pEdTaLhx0
-
「知らない声が聞こえるからおかしいと思って来てみれば……誰ですか、その娘は!」
『誰ですか!』なんて言われても……こっちが聞きたかったくらいなのに……。
「えっと……わからない」
「わからない? 素性も知れぬ娘を連れ込んでこんな朝っぱらから何をしているのです!?」
「何って……」
「どうせまた変なことをしていたんでしょう!」
文字通り顔を真っ赤にして怒っている愛紗。
顔が赤いのは怒っている事だけが原因のようには思えないが、それはいいとしてだ。
……今回は何もしてないよな?
よくわからない娘を連れ込んだ覚えはないし、変なことをした記憶もない。
「ご主人様……?」
背筋が冷たくなるような声に顔を上げてみると、じっとりとねめつける顔がひとつ。
その後ろで問題の女性が見るからに慌てている。
「は、はわわ、愛紗さん私は……」
え、その口癖は……。
って、それより!
次の行動がなんとなく予想できてしまい、必死に愛紗を押さえ込む。
「貴公、どういうつもりで私の真名を……っ、ご、ご主人様!? いきなり抱きつくなど、ふざけてらっしゃるのですか!」
予想通りというかなんというか。
いつぞやの華琳達との出来事が頭をよぎったよ……。
「落ち着けって愛紗、あれは朱里だよ。……だよな?」
『はわわ』なんて口癖を持つ人物なんて記憶の中に1人しかいない。
- 379 名前:339 10-3/12[sage] 投稿日:2007/06/16(土) 22:34:30 ID:pEdTaLhx0
-
「……はい。お騒がせしちゃったみたいで……」
ごめんなさい、と俯く朱里。
やっぱりか。
しかし、これだけ外見が違うと普通わからないよなぁ。
かわいい女の子から綺麗な女性になった感じだ。
声も少し大人っぽくなっている気がする。
でも、どうしていきなりこんな変化が?
「あ、いや、朱里だったのか。悪かった。それにしても、その姿は……?」
「わかりません。朝起きたらこの姿に……」
女性の正体が朱里だと分かり、すまなそうにしていた愛紗の動きがぴたっと止まる。
「朝……起きたら?」
「はい。あの……愛紗さん、何か心当たりがありますか?」
「……ある。ですよね? ご主人様?」
うわ、目が笑ってない。
ゆ〜っくりとした動きで振り返える愛紗。
「ご主人様。あまり反省してらっしゃらないようですね?」
「ちょ、ちょっと待て。今回の事は本当に知らないぞ!? あ、愛紗さん? 部屋の中で青龍刀なんて振り回すと危ないかなぁ……なんて」
じりじりとにじり寄ってくる愛紗。
こんなのと向き合わなければならない敵兵に同情してしまう。
「問答無用です!」
〜今日はここまで〜
- 381 名前:339 11/12[sage] 投稿日:2007/06/17(日) 05:36:11 ID:BYKdR0Nk0
-
「ちょ、ちょっと待った!」
さすがに黙っておけなくなり、あたしは部屋に飛び込んだ。
「翠? どうかしたのか?」
「翠さん?」
振り上げたままの青龍刀をぴたりと止めたまま振り向く愛紗と、おろおろしている感じの朱里、それと言葉も出せずに小さくなっているご主人様。
とりあえずご主人様は無事みたいだな。
「あ……のさ、今回の事はあたしが……その、やったんだ」
「今回のこと? ひょっとして朱里のことか?」
ゆっくりと青龍刀を下ろしこちらに向き直る愛紗。
「その……悪い」
がばっと頭を下げる。
言葉が見つからないのか、愛紗も朱里もご主人様も黙ったまま。
「翠が自分から頭を下げに来るとは珍しいな。しかし、どうしてこのような事を?」
しばらくの沈黙の後、愛紗が口を開いた。
「それは……」
小さくなれば構ってもらえると思った……なんて言えないよなぁ。
しかも、薬の効果が予想外のものだったなんて。
今思えば、店のおじさんの説明を全然聞いてなかったしな。
「ふぅ……では、罰として翠には今日の警邏に加わってもらう。……よろしいでしょうかご主人様」
あれ?
いつものようにお説教が始まるかと思ったけど、意外とあっさり終わったぞ?
ご主人様が了承するのを確認すると、部屋を出て行こうとする愛紗。
そして、あたしとすれ違う前に一言。
「ご主人様の警護頼んだぞ」
そう呟いた愛紗の顔はとても優しく見えた。
- 382 名前:339 12/12[sage] 投稿日:2007/06/17(日) 05:37:01 ID:BYKdR0Nk0
-
「それにしても、結局どうして翠はあんな入浴剤使ったんだ?」
あれからご主人様とあたしの二人で警護のため街にやってきていた。
「身長がもっと欲しかったのか? 今のままで十分だと思うけどな」
「ち、ちがうって」
そんな理由じゃないんだよ。
あれ? でも、あたしの背が大きくならなかったのはどうしてだ?
「あっ」
目に留まったのは例のおじさんの露店。
そういえば、昨日もここで露店を開いてたっけ。
「おや、これは太守様に馬超将軍ではありませんか」
あたし達に気がついたおじさんはぺこりと頭を下げる。
「見たところ入浴剤は効かなかったようですね」
「どういうことだ?」
おじさんの近くへ駆け寄ったあたしに、一番聞きたかった事を小声で口にしてくれる。
「あの入浴剤は背が低い者にしか効かぬのです。逆に、太守様がお買い上げになった入浴剤は背が低い者には効果がないのですが」
「うぅ〜……そういうことだったのかぁ〜」
「はぁ、ですからお止めしようと思ったのですが」
「ま、わかったよ。ありがとな」
それだけ答えるとご主人様と警邏を再開する。
やっぱりあれかな。
薬の効果なんかに頼っちゃいけないんだ。
入浴剤の効果はなくても、こうしてご主人様と二人きりになれたんだ。
ちょっとだけ頑張ればあたしだって愛紗達みたいにご主人様と普通に付き合う事だってできるはずさ。
まぁ、今日二人きりになれたのは、出発前に警邏担当だった鈴々が愛紗に呼び出されたって言うのもあるけど。
「さ、ご主人様いくぞ」
急ぐふりをして手を引っ張る。
今はまだこんな形じゃないと手も握れないけど……さ。
あたしだって愛紗たちには負けないからな。
よく晴れた昼下がり。
街の喧騒が抜けるような青空へどこまでも響いていた。
- 383 名前:339 [sage] 投稿日:2007/06/17(日) 05:44:25 ID:BYKdR0Nk0
-
これで一応終了です。
長いことお付き合いいただきありがとうございました。
それにしてもアレですね。
改めて読み直すと、いろいろ付け加えてみたくなったり、訂正してみたくなったり、イマイチ盛り上がりに欠けるなぁとか思ってみたり・・・。
まだまだ修行不足ですね@@;
とりあえず、謝謝に採用された作品を楽しみに待ちつつ、気が向いたらまた投稿してみようかななんて思っています。
最後に、支援・感想ありがとうございました。