遠くから彼がやってくるのが見える。
いつものように、彼のそばには多くの少女が競って纏わりついている。
そこは、私が心から求める安息の場所。そしてもはや叶うことのない夢、幻。
私は自分が何者かを知っている。生まれ落ちた、その理由さえも。
それ故に。私にはそこにいることは許されない事だと解ってしまってもいる。
全てが否定する。私が存在する理由も、体も、何もかもが―――私の、この心を。
幾度も忘れようと思った。けれどそうするほどに、私は自分の心という物をつくづく思い知らされた。
もう、耐えられない。
私のこの心は、私を苦しめるものでしかない。
そしてこの心こそ、私が私でいる理由。
導き出された答えはたったひとつ。もう彼の笑顔が、決して私に向けられないのなら。
ゆっくりと、柵を乗り越える。
迷いがないと言えば嘘になる。けれど、もう。
恋焦がれ、引き換えに全てを失ってもいいと思える、彼の元へ。
彼女は、その身を躍らせる。
「ご主人様、umeの木が咲き誇る公園があるそうなのです。一緒に行きませんか?」
「また抜け駆けかよー。ホントそういう所はしっかりしてるよな」
「ぬ、抜け駆けとは人聞きの悪い。私はただな」
「喧嘩はするなよ。皆で行けばいいじゃないか。そっちの方がきっと楽しいぞ」
「そう言われるのでしたら……私に否はありません」
「はは、また埋め合わせはするよ。それじゃ、また後で」
「……はい! ご主人様。それではこれで」
「また放課後な。……ん、なんだ? 急に暗く……」
「……っ! ご主人様、避けて! 危ない!」
「え?」
「…………いやあぁぁ!!」
〜病姫†無双 貂蝉 BAD END 完〜