- 961 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:38:30 ID:XRrl/qXL0
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ダレモイナイ・・
| \ SSハルナラ イマノウチ
|Д`)
|⊂
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ランタ ランタ
ランタ タン
ランタ タンタ
♪ Å タン
♪ / \
ヽ(´Д`;)ノ
( へ)
く
ランタ ランタ
ランタ タン
ランタ タンタ
♪ Å タン
♪ / \
ヽ(;´Д`)ノ
(へ )
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|彡サッ [SS]
- 962 名前:1/7 遠のく光[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:39:35 ID:XRrl/qXL0
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光に包まれる。
――本当に気に入らない奴だ。
再び襲う喪失感。あの時の恐怖が蘇る。
ゆっくりと消えゆく、全ての感覚。
――もう貴様と会うこともないだろう。
圧倒的な何かに引き寄せられるような……宙を飛ぶような感覚。
足場を失い、支えの全てを奪われるような……奈落に落ちるような感覚。
――だが、俺はお前という存在を許しはしない。
失いたくない。必死で手を伸ばし、求める。
精一杯の叫びも声にならない。
――光り輝く世界で、絶望の中に生きるがいい。
過ごしてきた時間全てが、走馬灯となって頭をよぎる。
俺は……皆を。
――いっそ、潰れてしまえ。
自分はこれほどに小さく、無力な存在であったのか。
どれだけ皆に支えられていたのか。
――その方が、楽になる。
残された力で振り絞る魂の叫び。
離れたくない。
――それがお前という存在への、俺からの罰だよ!
手を、伸ばして。
- 963 名前:2/7 澱む空[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:40:16 ID:XRrl/qXL0
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今日も変わらぬ聖フランチェスカの光景。
学生達が世を謳歌し、学園の構えも相まって正に壮麗と言うに相応しい。
その学園の中心にある本校舎、その屋上。
華やいだ世界にあって唯一静寂が支配する場所。
そこに北郷一刀は佇んでいた。
風はなく、薄く雲った空。そんな鬱々とした午後。
どうしたことか、今の彼の瞳にかつての輝きはない。
しかしそれも今のうちだけ。あと少しもすればいつもの彼に戻らねばならない。
皆を不安にさせるわけにはいかない。そして彼にはそれが出来てしまうから。
刻を知らせる鐘の音が重く響く。一刀にはそれが己を喧騒へと追いやるように聞こえた。
「ご主人様ー! やっと見つけた」
そう言いながら一刀の元へ駆けてくる翠と、それに続く鈴々、愛紗。
「お兄ちゃん、一緒に帰るのだー」
鈴々が元気一杯に抱きつく。満面の笑みは何よりも輝いて見える。
「これ鈴々、人目がある中でなんとはしたない事を」
妹をたしなめつつ、愛紗は話しかける。
「ご主人様、この後のご都合は如何ですか? もしよろしければ、朱里や星も誘って紫苑の家へ行こうかと」
「そろそろ落ち着いたみたいだし、顔出しとこうと思ってさ。紫苑もご主人様に会いたがってたぜ」
話はすでに決まっているようなものだ。一刀も断る理由はない。
「そうだな、璃々ちゃんとの約束もあるし。皆で行こう」
「おーなのだ!」
一刀の優しい笑顔。何時も変わらなく見えるそれは、どれだけ彼女達を支えてきた事か。
皆が口にこそ出さずとも、その想いは決して違えることはない。
そして一刀もそれを十分知っているから、そう振舞える。
求める物を与えれば。その奥にある、気付かせたくない……気付きたくないものは誤魔化せる。そう思った。
永い旅の中、図らずも一刀が手に入れていた、天性の境地。
ただ一刀でいるだけで、一刀がそこにいるだけでこの世界は回る。
そう、できている。
- 964 名前:3/7 拾う手[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:48:55 ID:XRrl/qXL0
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それから数日後。
いつものように一緒に登校する月と詠。
詠はこの世界に大いに興味を示した。世に溢れる知識を真綿の如く吸収し、噛み砕いて月に話して聞かせる。
詠は本当に楽しそうに話し、そして月はそれを楽しそうに聞いている。
二人の関係はこれからも変わらないと信じられる雰囲気……ではあるのだが。
「詠ちゃん〜、転ばないようにね」
「ん?」
そう月が言った途端、派手に転ぶ詠。遅れて空を舞う黄色い物体。
もはや詠の代名詞となった登校時のバナナ滑り。
いつも清掃されている筈の通学路で、必ず彼女はこの憂き目に遭う。
「大丈夫……? 詠ちゃん……」
「っつぅ〜……ホントもうなんなのよ、毎日毎日」
赤くなった鼻をさすりながら、そんな話をして玄関へ向かう。
そして詠がロッカーを開けた時、最上段から落ちた分厚い辞書が詠の頭を直撃する。
その拍子にシンプルな外装をした一通の手紙がはらりと舞い落ちる。
頭を抱えてうずくまる詠を心配しつつ、落ちた手紙を拾う月。
またラブレターかな、と思いながらそれを詠に手渡す。
月もそうだが、詠もその堂々とした振舞いに同性から惚れ込まれることが多い。すでに過去に何度かあった事だ。
もっとも月一筋の詠には興味も無い事だが……しかし手紙の裏にある見知った名前に、詠はぎょっと目を開く。
北郷一刀。
隣で月も目を丸くしている。が、誰かの悪戯に違いない、と詠は考えた。
「は。あのちん○こがこんな回りくどい事をする筈が。犯人は誰だ……ろ………」
手紙を見た詠の声が小さくなっていく。月もそれを覗き込む。
そこにはただ、昼に屋上にきて欲しい、とだけ書いてあった。
他ならぬ、一刀本人の字で。
- 965 名前:4/7 開く扉[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:49:55 ID:XRrl/qXL0
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今日は風が強いな……そんなことを一刀は考えていた。
最近の彼はここに来る事が多くなっていた。
学園も広く、例え一刀の姿が見えなくとも彼を知る者は皆、どこかで誰かに振り回されているに違いない、と考える。
それもあって彼はこうして一人になることも出来る。
空は曇り、まるで彼の心を映した銅鏡。最近はこんな天気が続く。
そこへ錆びついた扉が開く音が聞こえ、詠と、その後ろに月がついてやってくるのが見える。
「……来てやったわよ。月も一緒だけど、別に問題はないでしょ」
憮然と言い放つ。
「今日はせっかくランチメニューに大好きな……まあいいわ。で、何なの」
いつもと雰囲気が異なる一刀に只ならぬものを感じ取ったのか、少し態度を変える詠。
後ろで月も不安そうに一刀を見つめる。
「……月も来たのか」
少し困ったような顔でそう呟く一刀に、月が顔を曇らせる。詠はそれを感じ取り
「ちょっと、ボクの月にそんな事言うと許さないわよ! 月だって、あんたを心配してきたんだから」
「ご迷惑、ですか…?」
へぅ、とすでに泣きそうな月。ここ最近は一刀と話す機会も少なく、楽しみにしていた所を砕かれた形だ。
「あ……いや、ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ」
一刀の煮え切らない態度に詠はいらついた様子で
「だから、なんなのよ! 月泣かせといて下らないことだったら殺すわよ」
「詠ちゃん……そんなこと言わないで……」
「でも!」
「謝るよ。ごめん、月。許してくれ……そんなつもりじゃなかった。月にも、聞いて欲しい」
「いえ……大丈夫です。それより、何かあったんですか……?」
いつになく暗い一刀。こんな姿はあちらの世界でも見たことはない。詠も黙って一刀の言葉を待つ。
「二人は……最近、どう?こっちにはもう慣れたかな。いや、誤魔化すわけじゃない。聞きたいんだ」
「ん……まあ、そうね。慣れてきたとは思うわ」
「私も……です」
「そうか……それは良かった。それじゃ」
一瞬の躊躇いを見せて、続ける。
「……俺がいなくても、平気か?」
- 966 名前:5/7 潰れる刀[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 01:51:02 ID:XRrl/qXL0
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その言葉に再び動揺する月をなだめ、再び一刀に火を噴く詠の口が収まるまでしばしの時。
一刀は言葉を搾り出すように続ける。
「嫌になったわけじゃない。皆と一緒にいられるのは幸せなことだって、わかってる。
ただ……気付いてしまったんだ。俺がどこか無理をしてることに。
俺はどこか気負っていたのかもしれない。この世界は皆より俺の方がよくわかってる。
だから皆を不安にさせちゃいけない、今度は俺が皆を守る、てね」
まるで自分に語るように、言葉を紡ぐ。
「どこか、守ってもらってばかりだったことに劣等感があったのかもしれない。
今度は俺が皆を守る……そうすることで、自分を高めて見せたかったのかもしれない。
だけど、それは間違っていた。俺には皆を支えられるほどの力は無いって気付いてしまったんだ。
一人の人間が、出来る事なんてたかが知れてる」
何かを言い出しそうな月を、詠が止める。
「このままじゃ、きっと持たない。あの時の左慈の声が聞こえるようだよ。潰れてしまえ、ってさ。
だから、話したかったんだ。誰かに聞いて欲しかった。でも、それで誰かを不安にはさせたくない。
悪いとは思ったけど詠ならきっと、聞いてくれると思ったんだ」
そこまでを一刀に言わせ……詠が突然、口を開く。
「そこまででいい?」
「え?」
一刀は詠の言葉の意味が掴めなかった。
- 967 名前:6/7 詠う風[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 02:07:38 ID:XRrl/qXL0
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「本当にあんたは馬鹿ね。これだから、あんたは本当に馬鹿なのよ」
「詠ちゃん……」
「全く、どこから突っ込めばいいのか迷うわよ。とりあえずあんたは本物の馬鹿だわ。
いい?そりゃ初めは不安だったわよ。でも、もう誰も不安になんて思ってない。
それはあんたと貂蝉のおかげよ。それは言える。
そしてこれからは皆自分で歩いていくのよ。ボクも、月も。そこにはあんたは必ずしも必要じゃない。
これまでだって皆生きてきたんだから、あんまり天下の名将達を舐めないで欲しいわね。
あんたの役割は、ここにいること。ここにいさえすれば、それで世界は回るのよ。
それは皆があんたにそばにいて欲しいと願ったから。この世界はその願いが叶った世界でしょ?
それだけで十分。……ボクは別にあんたなんかいなくても月がいればいいけどね。
でも月は、ここにいて欲しいと思ってる。だから……仕方が無いから、あんたはここにいなさい。
いなくなったりするのは許さない。けど、それ以上は無理強いなんかしない。
うじうじ考えてないで仲良しの関羽達に言ってみなさいよ、キツイって。
誰もあんたを見限ったりしないわよ、これ以上。そんなことで勝手に潰れられても誰も喜びやしないんだからね」
饒舌な詠に、一刀が呆然と聞いている。
「そのマヌケな面。そんでもって、どうしようもないちん○こ馬鹿。あんたはそんなもんよ。
大体一人でなんでも出来るなんて思うほうが可笑しいわよ。誰だって、一人じゃやっていけないわ。
あれだけ人数いたからあんたみたいなちん○こ太守でも三国を統一できたんでしょうが。
いまさらへこむなんてあんたらしくもない。あれだけどついても気にしなかった鈍感野郎のくせに」
悪口なんだか励ましなんだかわからない言葉だが、その全てが一刀の心につき刺さり、そして素直に染み入る。
「馬鹿なんだから考えすぎても良い事ないわよ、あんたは。誰もあんたにそこまで依存なんかしてない。
自由が欲しいなら、それこそ今まで通りに好き勝手やればいいじゃない。誰にでも手を出すのはあんたの
専売特許みたいなものなんだから。だからって月にちょっかいだしたら殺すけどね。
前の世界で学んだことを少しは思い出したら?あの時も今も、そう変わってないわ」
- 968 名前:7/7 照らす光[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 02:09:15 ID:XRrl/qXL0
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詠はそこまで言って、月が微笑みながらこっちを見ていた事に気付いて動揺したのか
「こ、これだけ言っても不安なら、呉の孫権にでも相談することね。似たような事、相談に乗ってあげてたんでしょ」
と後を濁す。
「詠ちゃん、真剣にご主人様のこと心配してるんだね」
「ゆ、月! ボクは別にこんな奴心配なんかしてないんだからね!」
「……ご主人様、私も、詠ちゃんと同じ気持ちです。もしここにいたら誰だって同じ事を言うと思います。
私達はご主人様に救ってもらったんです。だから今度はこっちの世界で、私達がご主人様の力になって差し上げたいんです。
今日だけじゃなくて、何時だって相談してください。私じゃ力になれないかもしれませんけど、聞いて差し上げるくらい
なら出来ますから……詠ちゃんだって、そうだよね?」
「月ぇ〜、どうしてそうなるの〜」
先程までの勢いとは一転、月には頭の上がらない詠。
「変わらない……か」
その様子を見て思わず吹き出してしまう一刀。
「何よ! 笑ったりして。……あ〜もうこれだからあんたとは関わりたくないのよ〜」
「そう言うなよ……ありがとな、詠。月も、そう言ってくれるとは思ってなかった。本当に嬉しかった。
俺、なんでこんな事考えてたんだろう。らしくないよな。ごめん。心配させちゃったな」
一刀はまるで光が差し込むように感じた。風が吹き、心の曇りが晴れてゆく。
「いえ……私も嬉しいです。ご主人様が不安を打ち明けて下さって……」
「ボクは迷惑よ! ちょっと真剣になってやったらすぐこれだもの。ボクが馬鹿みたいじゃない」
「いや、二人と話せて良かった……じゃなきゃ、こんな風にすぐには立ち上がれなかった」
月は本当に嬉しそうに、一刀と言葉を交わす。
そしてゆっくりとだが、かつての笑顔に戻りつつある一刀を見て、詠は呟く。
「……もしかしたらボクは早まったことをしたのかもしれないわ」
曇っていた空から、一筋の光が彼らに降り注いだ。
左慈は呪った。一刀の強さを封じて。
そうして復讐は果たせるかに思えた。
だが、その暗雲を吹き飛ばしたのはまたしても彼を支える多くの仲間。
そして、風を呼び込んだのは他ならぬ一刀自身の弱さ。
- 969 名前:完[sage] 投稿日:2007/04/13(金) 02:11:56 ID:XRrl/qXL0
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[ヒネリ真End後、詠(&月)] お終いです。
黒左慈の呪いで一刀を軽く鬱にさせてみました。
最初は一刀のあっちの強さも呪われる話のつもりでしたが、シュールに破綻したのでこうなりました。
えちぃSSを書こうとすると一刀に殺意が湧くので困ります。
では( ´∀`)ノシ