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829 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:13:24 ID:mhNhxriU0
すまん。なんか立て込んでるっぽいが
投下することを許してくれ

ちなみに一刀×恋
830 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:14:49 ID:mhNhxriU0
ある晴れた日。

今日も町は相変わらずの賑わいをみせていた。
市が立ち、人々の笑顔が絶えない。人も、店も、みんなが幸せそうで。
その中を、赤い髪で少し眠たそうな瞳の少女が一人歩いていた。
時折、通り過ぎる子供達を見送る目には、穏やかな優しさが見える。

が、どうしてだろう。どこか憂いを感じさせる空気が流れているのは。
浮かない顔を前に向け、再び歩き出そうとした時。

「よっ、お嬢ちゃん。今日は一人かい?」

「・・・・・?」

 呼び止められて彼女、恋はもう一度振り返った
831 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:16:29 ID:mhNhxriU0
よくよく見てみると、そこはいつも一刀と寄る点心の店。
暖簾から、人の良さそうな笑顔を覗かせているのは店主だった。

「今日は太守様と一緒じゃないんだな。一人でお勤めかい?」

「・・・・・(コクッ」

「ほほぅ、珍しいねぇ」

「ご主人様は、部屋から出られない」

「するってぇと?」

「・・・・仕事。今日は、恋とごはん・・・警邏できないって」

今日もいつものように一刀の部屋を訪れた恋だったが、
座る机一刀の前には、山のような書簡。両脇を固める愛紗と朱里。
町民の声、戦後処理、部下から上がってくる報告。太守の仕事は幾らでもある。
その中でも今日は急務が立て込んでいたらしい。

訪れた恋に一刀は、申し訳なさそうに苦笑を浮かべて。

『ごめんな、恋。今日は一緒に行けないんだ』

愛紗や朱里がいうのなら兎も角、一刀本人にそう言われてしまえば聞くしかない。
恋は自分でも驚くほど素直に一刀の部屋を後にした。

久しぶりに感じた、胸のちくちくと一緒に。
832 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:24:17 ID:mhNhxriU0
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あ〜・・・はははっ、お嬢ちゃんはホントに太守様が好きなんだなぁ」

何があったのかは大体想像がつく。店主にも一刀の困り顔が見えた気がした。
しかし困った。回想し、今にも泣き出しそうな恋の表情。
いつも一生懸命にうちの点心を頬張ってくれる子の、こんなに寂しそうな顔は見たくない。

どうしたもんか・・・。

「お! ちょっと待ってな、お嬢ちゃんっ」

「?」

店主は手鼓を打つという、なんともベタなリアクションと共に店の中へと戻る。
一方の恋はポカンとしつつも、そのまましばらく待った。
相変わらずの寂しそうな表情で。
833 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:28:15 ID:mhNhxriU0
――数分後。

「ほい!お待ちっ」
「?・・・・点心、肉まん」

出てきた店主の腕には、紙袋いっぱいに入った点心と肉まんがホカホカと湯気を上げている。
見ているだけで胃が鳴りそうなそれを、店主は恋に渡した。

「ああ、蒸籠から出てきたばかりのホッカホカだ。持っていきな」
「・・・・恋、頼んでない。お金もない」
「いーんだよ、いっつもご贔屓にしてくれてるんだ。
 なんて言ったかね、天界語で“さぁびす”ってやつよ!」
「・・・・・・・・」
目の前で湯気を上げる肉まん達と店主の顔を見比べながら、恋はまだぽかんとしている。

「今なら昼飯に間に合うだろ? 早く太守様のとこにいってやりな」
「でも、ご主人様は忙しい・・・」
「お城の中なら固ぇ事は仰っしゃらねぇよ。冷めねぇうちに、な」
「・・・・ありがとう」

僅かに、それでも確かな笑顔。直ぐさま踵を返し、恋は早足に駆け出す。
人がひしめく市を、まるで流れるように交わしながら、あっという間に見えなくなった。

「へへっ、太守様も罪なお人だ」

その後ろ姿を見送って、店主も戻る。
べっぴんさんは笑ってねぇと。店主は満足そうだった。

その後、店主は奥さんに耳を引っ張られて、平謝りするハメになるのは誰も知らない。
834 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:34:25 ID:mhNhxriU0
「だあぁぁ〜やっと終わったぁ〜!」

俺は大の字に体を投げ出す。芝生が舞い、俺の頭や肩にくっついた。
政務からようやく解放されて、俺がやってきたのはいつもの中庭。
数分前まで机に向かっていたからか、すぐに昼食という気分にもなれなくて。
ついつい足は、こっちに向かっていた。

もしかしたら恋がいるかもしれない。
部屋から出ていく恋の表情は、政務でパンクしそうな頭からも消えなくて。
恋に会えば、頭の中の余計な思案も消してくれると思ったのだが。
そんな期待は見事に外れてしまった。

木漏れ日を感じながら考えてしまう。
もうすぐこの戦いが終わって、戦争で人々が理不尽に死んでいくこともなくなる。

俺達が戦場に立つことも、ついさっきまで見ていた痛々しい戦後報告に目を通すことも。
みんなが望んでいた平和だ。誰もが笑顔で生きていける世の中になる。

でも、それが実現した時、俺はこの世界に必要なんだろうか。
役目を果たした天の御遣いが、平和な世界に居る意味は?
このまま大陸を治めるか? いや、俺なんかよりよほど相応しい人間が大勢居る。

乱世を鎮めた後、俺は――。

「・・・帰るんだろうな」
「・・・・・・・・ッ」
「!?」

振り返って見つけた顔は 今一番会いたくて。
迂闊に零れた今の言葉を、一番聞いてほしくない存在だった。
835 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:50:06 ID:mhNhxriU0
「・・・・・・・・・」
「恋、あのなっ。今のは・・・その・・・」

上手く言葉が出てこない。言わなくちゃいけないことは幾らでも有る。
それなのに、口はただ動くだけで言葉を紡がない。
両手に抱えられた肉まん入りの紙袋。それだけで答えに辿り着ける。
きっと恋は――そう考えるのは自惚れだろうか? 不覚にもそれがすごく嬉しくて。

だから俺は、何の言い訳もできずにいる。
今まで見たこともないほど、悲しそうな恋を見ても。

「・・・・ッ!」
「恋ッ!」

紙袋が地面に落ちるのと、恋が駆け出すのは同時だった。
俺は立ち上がろうと腰を上げた瞬間、芝生で足を滑らせて前のめりに転んでしまう始末。

「くっ、待ってくれッ恋!」

顔を上げた時には、恋の姿は何処にもなかった。
残ったのは、芝生まみれになった無様な俺と、散らばってしまった紙袋の中身。
立ち上がって拾い上げた肉まんは、まだほんのりと温かかった。
836 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 04:56:25 ID:mhNhxriU0
こういう時、頭は冷静に働いてくれないものだ。
散々探し回って、此処を思い出すころには陽が沈んでしまっていた。
 
さらさらと流れる小川。俺と恋、セキトが泳ぎにくる場所。
頼りになるのは月明かりだけ。それでも、見つけるには充分な光。

上流のほとり。一際大きな岩の上に、探していた姿があった。
今にも泣いてしまいそうな表情は、見惚れてしまうほどに綺麗で。
不謹慎な頭を振り、気持ちを切り替える。

2mはある巨大な岩。恋なら一飛びなのだろうが、俺はそうもいかない。
後ろからどうにかよじ登った。
837 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 05:02:14 ID:mhNhxriU0
「・・・・よぅ、恋」
「ッ・・・・ご主人、様」
「あ〜・・その、いい夜だな」
「・・・・・(フルフルッ」
「で、でも、月か大きくてすごく綺麗だぞ?」
「・・・・・(フルフルッ」
「そ、そうか・・・・」

参った。取りつく島もない。
俺は俺で、いざ恋を前にすると口が動かない。恋を見つけられた安心感で満たされてしまって。

俺はこの子に、ちゃんと言わなくちゃいけない言葉があるのに。
 
ほんの少しの沈黙。ようやく恋は俺の目を見てくれた。
でも、紡がれた言葉はそれ以上に、俺に突き刺さった。

「ご主人様は、恋のことが嫌いになったの?」
838 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 05:10:10 ID:mhNhxriU0
「え・・・・」

どうして、そうなるんだ? 

「恋のことが嫌いになったから、帰るって言ったの?」
「違うッ、そんなことあるわけ・・・」

ゆっくりと歩み寄ってくる恋。俺の声がまるで聞こえてないように続ける。

「警邏とか、愛紗から言われたこととか破ったから、恋が嫌いになったの?」
「違んだ、恋」
「恋が悪い子になったから、ご主人様は・・・」
「恋ッ!」

俺は恋の肩に両手を当て制止する。恋の体は、俺が知っているものよりずっと冷たくて。
恋はいつもと変わらない瞳で、いや、ずっと悲しそうな瞳で俺を見つめる。

「いい子に、なるから」
「え・・・?」 
「警邏も、ちゃんと行くから。愛紗のいうことも、ちゃんと聞くから・・・。
 敵も、いっぱい・・・やっつける、からっ・・・・」

震える肩、恋の瞳から溢れ出す涙を見て、

ようやく俺は――。

「帰らないで・・・・嫌いにならないでっ・・・ご主人様」

――――恋を抱きしめてやることができた。
839 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 05:24:11 ID:mhNhxriU0
「ごめん・・・ごめんな、恋」
「ご主人、様・・・」
「恋は悪くないッ、全然悪くないんだよ・・・悪いのは、俺だ。
 お前を不安にさせるようなことを言った、俺が悪いんだ」
「じゃあ・・・恋を嫌いに」
「なるはずない。だって恋は、こんなに優しくていい子なんだから」

俺のちっぽけな独り言を、こんなにも受け止めてくれて。
悪いはずもないのに、こんなにも悩んでくれて。

情けないな、俺は。
恋を泣かせた罪悪感と、この子の想いが嬉しすぎて。
声が震えるどころか、目頭さえ熱くなっていく。

「帰ったりしない。恋を残して、俺は消えたりしないからッ」
「ずっと一緒?」
「ああ、ずっと一緒にいてくれ」
「・・・・・うん、うんッ」

恋はようやく俺の背中に手を回してくれた。
俺も強く抱き返す。恋の存在を確かめ、俺自身がいることを教えるように。
841 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 05:54:47 ID:mhNhxriU0
二人で散々泣き晴らした後、俺達はしばらく水面を眺めていた。
胡座をかいた俺の上に恋が座り、背中を預けてくる。
恋の体温が心地いい。何をするわけでもないのだが満ち足りていて。
これ以上の幸せはない、そう実感できる。

「ねぇ、ご主人様」
「ん?」
「これ、何?」
「・・・・あ! すっかり忘れてたぞ」

俺は懐から、くしゃくしゃになった紙袋を引っ張り出す。

「それ・・・・」
「ああ、恋が持ってきてくれた点心と肉まんだ。すっかり冷めちゃったけど」

無論、冷めてるだけじゃない。紙袋は随分小さくなってしまっている。
恋を探している道中、形振り構わず動き回っていたせいで、中身は潰れてぺったんこになっていた。

「俺と食べるために、昼間持ってきてくれたんだろ?」
「・・・・・・(コクッ」
「ごめんな。そんなことも知らないで俺は」
「でも、いい」

恋は袋に手を入れ、中身が半分以上出てしまっている肉まんを取り出した。
842 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 06:33:03 ID:mhNhxriU0
「もぐっ」
「れ、恋」
「もぐ、もぐもぐ・・・っん。おいしい」

指を舐める仕草にドキっとしてる場合じゃないぞ俺!
そんな俺に構わず、今度は点心を口に放り込んでみせる。

「っん・・・ご主人様と一緒なら、冷たくても、潰れてても、おいしい」

やばい。せっかく引いた涙がまた戻ってきそうだ。

「? ご主人様も食べる。一緒に・・・・んッ」

俺は返事の代わりに、触れるだけのキスをする。

「肉まん味、だな」
「んッ・・・でも、好き」

心臓は、今すぐにでも恋を押し倒してしまうほどに高鳴っていた。
けど、今はこの幸せに身を任せていたかった。

もし神様なんてのがいて、俺を喚んだのがあんたなら。
これくらいの我が侭は聞いてくれ。

どうか終わらせないでくれ。

――――この、幸せを。


END
843 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/03/30(金) 06:35:16 ID:mhNhxriU0
ダラダラ続けてしまって申し訳ない
色々文句もあるだろうが、大きな心で許してくれ!

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