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785 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:45:32 ID:F3ptDXPq0
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設定:真END後・朱里
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7月も終わる頃。
聖フランチェスカ学園にも本格的な夏がやってきた。

暑い……なんでこんなに暑いんだ。
どうしようもない問いを呻くのは、一人校門に佇む一刀。
昼間よりは幾分マシになったとはいえ、じっとしていると体に
湿った空気がまとわりついてくるように感じる。
目の前をスーツ姿のサラリーマンが汗だくになりながら
通り過ぎるのを見ると、甚平で良かったな、と思う。
「それにしても、ちょっと早すぎたかな」
校門の奥にある時計を見る。約束の時間まではあと10分程。
待たせるよりはいいか、と早めに出たものの。どうやらかなり
早く着いてしまったらしい。
786 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:46:53 ID:F3ptDXPq0
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どこかで少し時間を潰そうか、と考え始めた時に
「ご主人様〜」
と、後ろから朱里の声がした。
振り向くと、遠くから浴衣姿の朱里達が駆けてくるのが見えた。
A
「ご主人様、コレ面白そうだから、皆で行かないか?」
「鈴々もいきたいのだー」
そう言いながら翠と鈴々が一枚のチラシを見せてきたのは先週のこと。
そこには「花火大会」の文字が大きく印刷されていた。
どうやら愛紗や朱里達ともすでに話をつけているらしく、
あとはご主人様の予定が合えばいいんだけどさ、と付け加えてきた。
「ああ、隣町で毎年やってるやつだな。来週かー」
当日に予定が入っていないのを確認し、行ける旨を伝えると
すぐに皆に伝えてくる、と翠と鈴々は走っていってしまった。
787 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:48:57 ID:F3ptDXPq0
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B
あれから浴衣や甚平を買いに出かけたり、色々しているうちに
あっという間に今日になってしまった。
結局集まれたのは元北郷軍の面々だけで、他の仲間達は
それぞれ旅行に出かけていたりで、都合がつかなかったらしい。
とはいえこれだけ見栄えのする女性達が、一様に浴衣姿で
集まると……なかなか、圧巻というべきか。
「何を惚けておられる、主?」
見透かしたような星の一言で我に返ると、皆が同時に吹き出した。
思いのほか見惚れてしまっていたようだ。
C
隣町までは、電車で一駅。そこから歩いて会場に着く頃には
すっかり日も暮れてしまった。
皆の浴衣姿がよく見えなくなってしまったのを残念に思いつつも、
鈴々や璃々ちゃんが楽しそうに夜店を回っているのを見ていると
788 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:50:55 ID:F3ptDXPq0
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実に微笑ましい気分になってくる。
「なんだか久しぶりですね。こういうことも」
と、横にいた愛紗がつぶやくのが聞こえた。
「そう?」
「えぇ。やはり祭は、民達から力をもらえる様な気がします」
そして、今では私達も同じ民ですが、と微笑んだ。
「学園の生活は、まだ慣れない?」
「いえ、そうではありません。ただ、こういう雰囲気は懐かしい」
なるほど、と思う。学園はやはり西洋の雰囲気だし、近代的だ。
こういう昔ながらの風景というのはどこか懐かしく、落ち着けるのだろう。
「お兄ちゃん、見て見てー!鈴々のと同じ腰巻なのだー!」
鈴々が駆け寄ってきて、夜店の景品だろうベルトの玩具を見せてくる。
本当によく似ているヒーローのベルトに多少驚きつつ、
「まだ花火も始まってないんだから、ほどほどにな?」
と、一応釘を刺しておく。そこへ後ろからついてきた璃々ちゃんが
789 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:51:35 ID:F3ptDXPq0
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「すごいんだよ!鈴々お姉ちゃんなんでも取っちゃうんだよー」
と、キラキラと目を輝かせて話してくれる。
ついでに口まわりや手もアメでキラキラと輝いているのを見て
紫苑が優しく布で拭き取っていく。
「璃々、あんまり食べ過ぎたらだめよ?」
「うん!」
D
微笑ましい親子のやりとりを見ていると、会場のスピーカーから
短い雑音の後、もうすぐ花火が始まるとのアナウンスがあった。
「あら、始まるようですわね。どこか広い所へ移りましょうか?」
「あぁ、そうだね。土手を降りてみようか」
紫苑の声を合図に、皆で座れるような場所を探す。
「ご主人様ー!ここ空いてるぜー!」
と、大声で叫ぶのは翠。何事かと周囲の目が一斉にこちらに集まる。
「おお、でかした翠。ささ、参りましょうぞ。ご主人様」
790 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:52:31 ID:F3ptDXPq0
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わざと「ご主人様」と強調して促す星。全く意地が悪い。
こんなこともあろうかと、と朱里が用意してくれていたシートを広げ
おもいおもいの位置に座ると大きな花火が一つ、上がった。
美しい大輪の華に驚く全員の上に、次々と花火が上がり夜空を彩っていく。
大きな円を描いたかと思えば、踊るように宙を舞う。
皆、こんな美しいものは見たことがない、と驚嘆の声を上げていた。
ただ、幻想的ともいえる光景の中、なぜか少し寂しそうな朱里の目が
心に残っていた。
E
花火が終わり、祭りのあと。
すっかり楽しんだ様子で帰路につく皆の後ろについて歩く朱里と、一刀。
「今日は、楽しかった?」
「は、はい!とっても……楽しかった、です」
「そう?それなら、いいんだけど」
翠のうっせー、という声がする。鈴々がまた何かからかったのだろう。
791 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:54:12 ID:F3ptDXPq0
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「なんだかさっき、寂しそうだったから。気になって」
「……ご主人様は、よく見てますね」
朱里は微笑む。
「少しだけ、思い出してたんです。むこうの、事を」
「前の世界の事……?」
こくん、と頷く。
「ご主人様と一緒に居られて、幸せなんです。本当に幸せなんです。
 でも、むこうの世界も……私にとっては、大切な場所なんです。
 お父様やお母様、家族がいて、家があって。水鏡先生がいて」
むこうの世界があったから、いまの私がいるんです、と言い切る前に
すでに声はかすれて。
小さな体が、いつも以上に小さく震えて見えた。
無理もない。
あまりに突然に起こってしまったことだから、気持ちに整理をつける
暇もなかっただろう。ここへ来てからも、不安がる皆を支えてくれて
793 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 22:55:12 ID:F3ptDXPq0
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いたのも知っている。
一人で泣く暇すら、なかったに違いない。
「いいんじゃないかな、もう……我慢、しなくてもさ」
「え…?」
「今のは、朱里の本当の気持ちだろ?だったら、隠すことなんかない。
 そういう、なんていうかな……朱里の弱い所も、見せて欲しい。
 俺は、皆は、そういうことも分かち合える仲間なんじゃないか?」
そういって、抱きしめる。押し潰してしまわないように。
「はわわ…」
「俺だったら、ここにいる。皆もそうだ。ずっと一緒に、いるんだ。
 代わりにはなれないかもしれないけど、きっと、力になれる」
何を言うべきなのか、わからなかった。ただ、言葉が口をついて出る。
少しでも、伝われば。
「ありがとう、ございます。ご主人様」
そういって、朱里も背に手を回してくれる。
794 名前:781[sage] 投稿日:2007/03/25(日) 23:27:01 ID:F3ptDXPq0
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「私は信じてます。ご主人様も、皆も」
なんだよ、これじゃ。
「だから、もう、大丈夫ですよ」
これじゃ、こっちが慰められてるみたいじゃないか。


2人が自分達に突き刺さる視線の元に気づいたのは、もう少しあと。

おわり


改行その他、雑な作りはごかんべん
長い事ありがとでしたー。

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