良く晴れた昼下がり。
小腹が空いたのでパンでも買っていこうか、と聖フランチェスカの食堂を訪れた俺は、
一歩足を踏み入れたところで思わず立ち止まってしまった。
「……………」
鈴々に恋に季衣に猪々子…聖フランチェスカが誇るフードファイターの面々が同じテーブルを囲み、
思い思いにラーメンやらうどんやらA定食やらをかっ込んでいるのだ。
既に空になり、積み上がった器の数々が何ともこちらの食欲を削ぐ。
そして、そんな彼女達のテーブルの近くに、いつものように春蘭と秋蘭の二人を従えた華琳が
陣取っていて、目の前の猛将達の戦い振りを眺めているようだった。
「おーい、華琳。何があったんだ、これ」
極端にマイペースである恋を除けば、誰もが争うようにして箸を、そして口を動かしている。
ただの食事の延長とはとうてい思えなくて、俺は何か知っていそうな華琳に声を掛けた。
「あら、一刀」
カチャカチャうるさい中でも俺の声は届いたようで。いつもの不遜な笑みを浮かべて華琳は俺の方を振り返る。
「いえね、ネットをしてたら面白そうな記事を見つけたので試してみたのだけれど」
思ったほど効果はないみたいね。そう言葉を続けながら、華琳は歩み寄る俺に一枚の紙を手渡してきた。
ttp://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2007031300881
2007/03/13-18:25 桂花の香りで食欲抑制=ラットの実験−阪大など
大阪大大学院人間科学研究科の山本隆教授(行動生理学)らの研究グループは13日、植物の桂花の香りが、食欲を抑える働きを持つことをラットの実験で確認したと発表した。
研究成果は20日から大阪市内で開かれる日本生理学会で発表される。
これまでの研究で、脳内の細胞が作るオレキシンというたんぱく質の量が増えると食欲が増し、飲食量が増えるとされる。
同教授らが桂花の香りとの関係を調べたところ、香りをかがせたラットは、かいでいないラットに比べ、オレキシンを作る遺伝子の量が少なくなった。
「華琳……これ……」
そういえば、食べ物や器に埋もれてしまっているけれど、四人の側には背もたれ有りの椅子に
紐で結わえ付けられた桂花の姿がある。
米粒やら何やらが絶え間なく血しぶきのように飛散する、彼女の性格からすればとうてい耐えられるモノでは
ないだろう武将達の争いを前にして。
「……………」
桂花はウットリとした恍惚の笑みを浮かべていた。
「どうかしたの? 一刀」
――あぁ、そういえばそうだった。