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62 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:36:38 ID:KG+L1Kq00
では、そうします。
やべ、めっちゃ恥ずかしい。


王だった頃に比べると、余りに退屈な日々。
不自由はほとんどない。外出すら禁止されていない。
その証拠に、たった今も部下の甘寧を連れて市を見て回っているところだ。

「はぁ…」
私の一歩後方からついてくる甘寧にも、聞こえてしまうのではないかと思うほどの大きな
溜め息。

士気に関わる…か。やはり、溜め息など堪えなければならないか。
いや、最早その必要は無いだろう。今は彼女も私も同じ立場。
あの男…北郷の捕虜…でしかないのだから。

「はぁ…」
その名を思い出すとまた、溜め息が漏れる。
なぜだろう、胸が苦しい。深く息が吸えない。
あの男は…あの人は、あの時私に買ってくれた服に、何か呪いでもかけていたのか…?
ああ、そんなことを考えるとますます息が苦しくなる…。
なぜだ……逢いたくて逢いたくて…仕方ない。
「蓮華様、どこか具合でも…お顔が赤い。熱でもあるのでは…」
私の後ろからついてくる甘寧は、私の溜め息を聞いて身を案じてくる。

「いや、大丈夫。少し日に当たりすぎたのかもしれない。」
「…そろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
63 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:41:29 ID:KG+L1Kq00
「…蓮華様…」
城に帰ってからも、蓮華様は溜め息ばかりだ。
確かに、王であった頃とは違う。あれだけ忙しかった蓮華様が、今は何もすることがなく
毎日を無為に過ごされている。
そのご自分の立場を憂いておられるのかとも思えるが…。
ここ数日は、あまりにも心ここにあらずだ。
今も、窓にもたれて外を眺めては溜め息をついてらっしゃる。

北郷からは、書庫の本も自由に読んでいいと言われている。
捕虜となった最初の内は蓮華様も時間を惜しむように読書をされていたが、最近ではさっぱりだ。
この間私が書庫からお持ちした本は机の上に積まれたままだ。

これは…蓮華様のこんな様子は…
64 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:41:59 ID:KG+L1Kq00
コンコン
重苦しい静寂を破る音がした。
誰かが扉を叩いたのだ。

「誰だ」
「…!」
私が返事をしたと同時に、蓮華様が過剰なほどの反応で扉の方に振り返ったのには多少驚
いた。

「あ、俺。あんまり静かだから留守かと思ったよ。入っていい?」
北郷一刀…だ。

「うm」
「はい!どうぞ!」
…蓮華様!?…驚いた。これがさっきまであらぬ視線を宙にさ迷わせていた人の声だろう
か。おまけに…はい、どうぞとは…。これが呉の王だった方の言葉なのか…。
だが、これで蓮華様の溜め息の理由に確信が持てたな…。
では、ここから私は、北郷が妙な行動を起こさない限りはもの言わぬ人形になるとしよ
うか…。

「お邪魔しま〜す」
当の本人は呑気なものだ。私達の気持ちなぞ知りもしないのだから無理もないがな…。
65 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:43:54 ID:KG+L1Kq00
甘寧の気遣いで市に行ってはみたものの、何も手につかずにただ歩き周り時間を無駄に費
やしてしまった。
城に帰ってからも、精力的に何かをする気持ちにはなれない…。
窓の外は城の庭だ。眺めると広場の中央では、張飛と馬超が手合わせをしている。努力家
達なのだな。
しかし、あやつらは軍議などで北郷とちょくちょく顔を合わせているんだろうな…。
…まずい、なぜか胸が痛くなってきた…。
そういえば、机の上には甘寧が持ってきてくれた本が積まれたままだったな…。
北郷も面白い奴だ。捕虜に外出許可を出したり、書庫を自由に使わせたり。
…北郷…。あいつは今頃何をしているのかな…。どうせ、関羽あたりとイチャイチャして
いるんだろうな。関羽とは仲が良さそうだったからな…。
あぁ、嫌だ。どうして私はこんな風にしか考えられないんだろう。
そもそも、なぜ私がたった一度肌を合わせたくらいであの男のことでここまで頭を悩ませ
なければいけないんだ。
そうだ!一度肌を合わせたくらいで……肌を…合わせ…た……。

……………

だ、だめ。だめだめだめだめ。こんなことを思いだしちゃ…。

…ふぅ…本を読むような気持ちじゃないな…。すまない、甘寧。

「…はぁ」
北郷は何をしているんだ…。あれきり、私に声もかけてくれない…。私の心は、あの時か
らおかしくなってきたのだ…。
66 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:47:37 ID:KG+L1Kq00
コンコン
「…!」
北郷かっ!?

「あ、俺。あんまり静かだから留守かと思ったよ。入っていい?」

北郷だ!
「はい!どうぞ!」

北郷が来たっ北郷が来たっ♪
あれ?どうして私はこんなにうかれているんだ?でも、嬉しくて仕方ない。北郷が、一刀
が私に会いに来たんだと思うと、自分の気持ちを止められない!
胸が高鳴る。頬が赤く染まっていくのが自分でもわかる。ほら、膝の力が抜けていく…!

でも、言葉は自由に出てこない。
こんなに嬉しいのに、上手に表すことが出来ない。
もし、下手なことを言って嫌われでもしたら…。
私はかつて北郷の敵だった人間だ。私の指示で北郷の沢山の兵が死んだ。
北郷は、一兵卒の死にも気を使う男だ。本当は私のことを恨んでいるだろう。私のこんな
気持ちを知っても嫌がるだけじゃないだろうか…。
もし、嫌われでもしたら…。私は、私は…!
67 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:49:06 ID:KG+L1Kq00
「お邪魔しま〜す」
私のそんな葛藤なぞお構い無しに、北郷は部屋に入ってきた。

「な、なんの用だ?」
努めて平静を装う。
手が震えてくる。ど、どうしよう!
ああ、甘寧、なんでそんなに黙っているの?助けて…。

「いや、たいした用事じゃないんだけどさ、今日の政務も終わったし。一緒に市にでも行
こうかな〜って。ほ、ほら!ここ最近あんまりおしゃべりしてなかったしさ。王としての
作法とかも教えてもらえるかな、とか…。い、いや、あの、えと…。」
一気にそこまでペラペラとしゃべって、北郷は押し黙った。
「あ……そ、そうか」
北郷が市に誘ってくれた!嬉しい、嬉しい、嬉しい!!上手く言葉で表現できないのがも
どかしい!

「お、王としての作法なら、曹操にでも聞けば良いのではないか?」
ああ、どうして私の口な素直な言葉を吐かないんだ…!
「あ、う。そりゃそうだけど。」
ほら、北郷が困ってるじゃない。私のバカ!
68 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:50:33 ID:KG+L1Kq00
…なんか、傍らで座ってる甘寧が揺れてる…?
貧乏ゆすり?
…お、怒ってる!?
イライラしてる!?

「すいません!」
「!?」
いきなり北郷が頭を下げた。
「本当は、王としての作法なんてどうでもいいんです。ただ、蓮華と市に行きたかっただ
けなんです!」

え…?

「こないだ買った服を着てさ、二人で市に行きたいんだ。」
北郷が頭を挙げて真っ直ぐ私の顔を見てくる。
あ、あ…嬉しい。顔が益々上気してくる。
でも、もうマトモに彼の顔を見ていられない…。
「…ダメ?」
ああ、そんな女心をくすぐる声を出さないで…。
「あ、そうか。二人でってのがマズイ?」
言いながら北郷は、甘寧をチラッと見る。
「…この間、市に行った時の様子を考えると、貴様に蓮華様に危害を与える意思は無いよ
うに思う。ただ、我々は今日、既に市にi…」
「行きましょう!」
思わず大声が出た。
「行きましょう!では、お望み通り、この間買って頂いた服に着替えますので。しばらく
後ろを向いていていただけますか?」
69 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/24(土) 20:52:07 ID:KG+L1Kq00
...とりあえずここまでです。

なぜか、自分で入れてない改行がたくさん入ってしまいました。
読みにくくて申し訳ありません。

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