- 799 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:26:24 ID:uCfYYqQa0
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やっと書き上がったんで、周瑜生存IFルート投下いたします。
- 800 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:29:09 ID:uCfYYqQa0
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目を覚ますと、真っ先に視界に飛び込んで来たのは、見知らぬ天井だった。
最初、自分が何処に居るのか分からず、3、4回ほど目をしばたかせる。
自らの置かれている状況を確認しようと、身を起こしかけると、身体の数カ所に引き攣れるような痛みが走った。
その痛みが、自分が生きている事を何よりも雄弁に教えてくれる。
たちまちよみがえってくる、意識を失う直前までの記憶。
雪蓮の大望であった天下統一の夢を叶えるべく、謀反を起こし、孫権不在の孫呉を掌握し、北郷軍との決戦に臨んだ。
そして、敗れた。
せめて、雪蓮の目指したものと同じ道をわずかでも歩んだ事を誇りとし、彼女への想いを胸に散ろうと、玉座の間に火を放ち、自害しようとした。
そのはずなのに……
状況が把握できず、部屋の内部を見渡していると、
「冥琳様! 冥琳様──────っ!!」
唐突に部屋の空気を切り裂いたのは、冥琳のよく聞き知った声だった。
声の方向を振り返ろうとした時には、胸元に軽い衝撃を感じていた。
二つの小さな体が、ベッドから上半身を起こした冥琳にすがりつくように抱きついている。
「……小喬、大喬!?」
今回の戦を起こす以前に、北郷一刀を籠絡する為の手駒として送り込んだ筈の二人であった。
冥琳としては、自分が決起した時点で、二人はとうの昔に人質として殺されたものとばかり思い、覚悟すらしていたというのに……
冥琳が驚き、呆気にとられていると、
「ああ、良かった。無事に目が覚めたんだな」
続いて、白い制服を着た青年が、数名の部下を引き連れて部屋に入ってきた。
- 802 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:30:40 ID:uCfYYqQa0
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「……北郷……一刀」
冥琳が声のトーンを落として青年の名を呟くと、青年……一刀は笑顔を浮かべながら、ここに至るまでの経緯を話し始めた。
それによると、玉座の間が瓦解する寸前、趙雲や馬超、呂布といった猛将が、その豪撃で炎を切り払い、寸でのところで冥琳を救出したこと。
冥琳の怪我は、外傷は軽度の火傷で済んだものの、煙を大量に吸い込んでおり、実に十日余りも意識不明の昏睡状態だったこと、を聞かされた。
朱里も間に立った説明が終わると、冥琳は自嘲の笑みを浮かべ、呟いた。
「結局……私は死に損なったというか……」
冥琳はたまらなく惨めな気持ちだった。
愛する友の妹をも欺いてまで、友の夢を果たそうとしたにも関わらず、結果それを果たせず、
また愛した友の下へ逝くこともできず、挙句の果てにはみすみす敵に命を救われ、こうして生き恥を晒している……
「ふざけたこと言ってんじゃねえよ」
冥琳の思考を遮ったのは、一刀の怒気に満ちた声だった。
良く言えば穏和な、悪く言えば少々頼りない印象を受ける一刀の発した意外な迫力に、冥琳は思わず顔を上げた。
「俺達には、アンタが何を思って戦い、誰を想って自決しようとしたのか、蓮華に聞いた以上の事は分からない。
けどな……大喬と小喬の二人が、アンタの事を案じていなかった時は、一時たりともなかったよ。
同盟の使者として送られてきた時も、孫呉との戦になった時も、そしてアンタが眠り続けている時もな。
二人もの女の子が、自分の命も省みずにアンタの事を想ってたのに、アンタはその想いを踏みにじろうって言うのかよ!?」
周囲に侍る愛紗達は、滅多に目にすることのない一刀の激昂に、驚きを隠せない。
冥琳はハッとしたような表情を浮かべ、懐に感じる温もりに目をやる。
- 803 名前:周瑜生存IF[規制キッツイsage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:42:14 ID:uCfYYqQa0
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「冥琳様が無事で良かった……本当に良かった……」
「冥琳様……冥琳様ぁ……」
大喬と小喬の二人は、まだ冥琳に抱きついたまま、嗚咽を漏らし続けている。
その姿に、冥琳は落雷に撃たれたような衝撃を覚えた。
己と亡き親友、それぞれの配偶者をも大望成就の為の駒として利用した、鬼畜とも言える所業に対する責めは一言も無く、
二人の少女はただひたすらに自分の無事を喜んでくれている……
その事実が、冥琳には、たまらなく痛かった。
そして、自分には雪蓮だけでは無かったという事を改めて思い出し、今更のように二人の少女に対して愛しさと後ろめたさの混じった感情が募っていく。
「小喬……大喬……本当に済まなかった……」
二人に謝罪しながら、その頭を撫でるしか、冥琳には出来なかった。そこへ──
「冥琳!」
またも真名を呼びながら、新たに数名の少女が部屋に入ってくる。
「……蓮華様」
その先頭に立つ少女を見て、冥琳の表情が固く引き締まる。
蓮華の表情も、どことなく重い。
「さぞ……貴女には私が滑稽に見えているでしょうね……。
あれほど王としての有様を説いておきながら、結局は孫呉を滅ぼしたのは、この私自身……」
「それは違う、冥琳」
冥琳の懺悔を、蓮華は強い口調で遮った。
- 804 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:43:47 ID:uCfYYqQa0
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「お前をそこまで追い込んだのは、この私……。
孫呉の王としての器量が足りなかったばかりに、雪蓮姉様の想いを受け継げなかった、一重に私の責任だ」
「そんな、蓮華様!」
「いいんだ、思春。……けれど、冥琳。これだけは信じて欲しい。
私は、もう誰一人、孫呉の民を、親しい者達を失いたくはなかった。
国の存亡をかけてまで、これ以上の流血を経てまで、中原に覇を唱えんとすることが、どうしても出来なかった。
だから、せめて母様と、姉様が愛した孫呉だけでも守りたかった……たとえ、冥琳にどんなに失望され、軽蔑されようとも。
しかし、結局は私の至らなさが、お前に今回の選択をさせ、国を失わせる事になってしまった……。
全ては、孫呉の国主として不明だった、この私の責任……どうか許してくれ、冥琳……」
蓮華が涙を流しながら懺悔を口にするのを、冥琳はただただ黙して聞くしかなかった。そして、尋ねる。
「蓮華様は……私を疎み、憎んでおいでではないのですか」
「……私が、冥琳を? そんな事あるはずがないわ……。
私にとって、貴女は最高の師であり、友であり、そして壁だった……。
貴女が居たからこそ、今の私が……そしてこれからの私がある……」
自らの主である少女の告白に、冥琳は瞠目し、打ちのめされていた。
蓮華は、決して無能でも、無気力な国主でもなかった。
むしろ、彼女は自分なりのやり方で、ただ一心に民草の安寧を考え、孫呉の平和を維持することに心を砕いていた。
そして、その為に自分を師として仰ぎ、友として慕い、臣下として信頼を寄せてくれていたという。
翻って、自分はどうであっただろうか。
日頃から、二言目には孫呉の事を第一に考えろ、亡き孫堅や小覇王・孫策の築きあげた孫呉を中原の覇者とせよ、と口喧しく苦言を呈してきた。
しかし、それは果たして、蓮華のように孫呉の事を心から第一に考えての言動だったのか、今となっては分からなくなってしまっていた。
もしかして、自分はただ単に小覇王・孫策たる事を、蓮華にも強制しようとしただけなのではないか。
雪蓮への想いという名の縛鎖に、自分は囚われていただけなのではないか。
だとするなら、自分が今までやってきた事は、一体何であったというのか……
- 805 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:46:40 ID:uCfYYqQa0
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「蓮華……様……」
いつの間にか、冥琳は、その翡翠の双眸から涙を溢れさせていた。
そう、冥琳は気付いてしまっていた。
自分が天下を志そうとしたのは、ただ最愛の人の死を認めたくなかっただけなのだと。
その弱さ故に、亡き友の残した、夢の残骸にすがっていたかっただけなのだと。
「申し訳……ありません……私は……私は……」
「これからは仲良くやろう、冥琳。もう私も、お前も、雪蓮姉様という鎖に縛られる必要はないのだから……」
「……はい」
蓮華と冥琳は、共に涙で濡れた顔に微笑みを浮かべ、強く抱き合った。
その光景を、思春や穏といった孫呉の将達が、笑顔で見つめていた。
事の成り行きを見守っていた一刀は、ウンウンと満足げに頷くと、こう言った。
「いや、二人が仲直りできてよかったよ。何せ、蓮華達にはこれから疲弊した呉の国を復興するって仕事が残っているからな。
その中心にならなきゃいけない二人がいつまでも仲違いしたままじゃ、何も始まらない」
「……え?」
事も無げに言い放たれた一刀の言葉に、冥琳は思わず呆然とした間の抜けた表情を浮かべてしまう。
ふと横を見れば、蓮華はさも可笑しそうに肩を小刻みに震わせている。
「……北郷殿? 済まない、言っている意味が良く分からないのだが」
「意味も何も、言葉通りなんだけどなあ。呉を治める事に関しては、アンタたちの方が適任だろ?」
「しかし私たちは、あなたの捕虜で──────」
「なら捕虜って扱いはやめて、協力者ってことにしようか? それとも大守?
呉の民たちのことを考えれば、俺よりも蓮華たちが呉を治める方が適任なんだ。
もともと領土が欲しくて戦ったワケじゃない。色んな要素が絡まって戦いに発展し、そしてたまたま勝負がついた。それだけだろ?」
- 806 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:54:19 ID:uCfYYqQa0
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冥琳は一刀の話を聞いている内に頭痛がしてきた。
一刀の言わんとしている事の理屈は理解できる。だが、北郷一刀の持つ人間性は、冥琳の理解できる範疇を大きく逸脱するものであった。
「領土が欲しくて戦ったのではない……そう言うのであれば、北郷殿。あなたはこれまで、一体何の為に戦ってきたのだ。
己が国の版図を広げ、国をより大きく、豊かに富ませようとするのは、王たる者の当然の欲求であり、行動目的ではないのか?」
冥琳に問われた一刀は苦笑して、頭を掻いた。以前にも、華琳に同じ事を聞かれた事を思い出す。
「前にも、同じような事を質問されたけどさ。俺は元々、王だの天下だのは、どうでもいいんだよ。
ただ俺は、俺のかけがえのない大切な人達と、いつまでも平和に、幸せに暮らしたいだけなんだ。
でも今は戦乱の世で、ひと時も人心の休まる暇のない、過酷な時代だ。
だったら天下を平定して、平和な時代を作るしかない。俺が仲間達と一緒に、いつまでも幸せに暮らす為には、これしか方法がなかった……ただ、それだけの事だよ」
一刀が語った想いに、冥琳は記憶の奥底を激しく揺さぶられた。
それはまさに、亡き最愛の人・雪蓮が語った言葉と同じものだったからだ。
『私の夢は冥琳と二人で天下を統一して、平和な世界で冥琳と大喬ちゃん小喬ちゃん、四人で仲良く幸せに暮らすこと。ずっと一緒にね』
そう、雪蓮が天下を目指したのは、あくまで手段に過ぎなかった。
彼女の本当の望みは、天下統一の果てに平和な世界を作ることで、親しい者達と一緒にいつまでも幸せに暮らす事だったはずだ。
だというのに、冥琳は雪蓮の死後、いつの間にか雪蓮の願いの本質を忘れてしまっていた。
雪蓮の夢を叶えたいという想いに拘泥するあまり、雪蓮が何の為に天下を望んだのかという基本的な事を、冥琳は見失ってしまっていたのだ。
その事を思い出させた一刀の言葉は、冥琳を大きく混乱させた。
目の前に立つ男こそが、雪蓮の本当の願いを実現できる者だというのだろうか。
蓮華でも、ましてや冥琳自身でもなく、この北郷一刀こそが真の王たる器だというのだろうか。
- 807 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 04:57:49 ID:uCfYYqQa0
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「……本当にそれでよろしいのか?」
「問題は無い。朱里──孔明にも言われた事だけど、魏と同様、呉の領土を治めるにしても俺達には人材が足りないからな」
「しかし、我々を信じていいのか? 蓮華様はともかく、私は主君を裏切り、これだけの大きな戦を引き起こした張本人……
そんな女を、あなたは信じるというのか、北郷一刀殿?」
「俺は蓮華を信じている。そして周瑜、あんたはその蓮華が心から信頼する人だ。だから、俺もあんたを信じる。もう二度と、こんな事はしないってな」
「………」
事も無げに、つい先ほどまで敵だった者を信じると言ってのける男。
この男は、ただの馬鹿なのか。それとも、本当に天下を統べる、覇王たる人物なのか。
冥琳には、まだ分からない。ただ、見極めたいとは思った。
雪蓮と同じ言葉を喋り、同じ大望を抱く、目の前の男が、これから何を成し遂げるのかを。
冥琳は、心の中で、雪蓮に語りかける。
ごめんなさい、雪蓮。
まだ私には、やるべきことが残されているみたい。だから、貴女に逢いに逝くのは、もう少し先になりそうよ。
大丈夫、貴女には……いつでも逢いに逝けるから。
その時、冥琳は雪蓮の笑顔を見た気がした。それに合わせて、冥琳も穏やかな笑みを浮かべる。
それは、氷の軍師という異名からは、遠くかけ離れた暖かみのある笑顔だった。
そうして、真顔に戻ると、冥琳はあらためて一刀に向かって言った。
「北郷殿……あなたの申し出、謹んでお受け致します。ただ、私が謀反人であり、敗軍の将であることは消えぬ事実。
このまま、何の咎も無く、あなたの幕下に収まるわけには参りません。ですから……」
冥琳は、そう前置きし、一旦言葉を切った。その表情には、一転して重い感情が浮かんでいる。
この雰囲気に覚えがありすぎる一刀たちは、冥琳が続けるであろう言葉を大方予想したのか、場に緊張が走る。
そして、冥琳は搾り出すように、残りの言葉を口にした。
「北郷一刀殿。この私、周公謹に、敗軍の将として辱めを、お与え下さい」
(続く)
- 808 名前:周瑜生存IF[sage] 投稿日:2007/02/18(日) 05:04:33 ID:uCfYYqQa0
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長くなりすぎたんで、ここまでを前編として一旦終了。
ち●この遣いが、その本領を発揮する後編に続く。