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571 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:25:44 ID:Vkd4zMFt0
 まぁ、色々言われてますが、後半が書きあがりましたので、投下します。
572 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:30:21 ID:Vkd4zMFt0
 城の横で潜んでいた兵士を連れてきたのは、何を隠そう進行軍の総大将‐呂蒙 子明である。
「や〜い、ひっかかった、ひっかかった♪」
 明らかに愛紗を馬鹿にした口調は、まるで子供そのものだ。
「どういう事だ!」
 だが、そのような事に構っているような事態ではない。既に、城の伏兵と、正面からの兵に、愛紗は囲まれていた。
(くっ……城から離れないように警戒したはずが……)
 明らかに狭すぎる範囲で、彼女は夜の闇を利用し巧みに伏兵を置いたのだ。ちなみに、この案は全て穏の物であるが……。
「だって、りっちゃんたちは、ずっとのろし台をせめてたのに、気付かないんだもん」
「気付かなかっただと?」
「うん……これにだまされちゃったんだよね」
 そして、呂蒙が後ろに合図をすると、その兵隊の姿が露になった。その、松明を5つ背負った兵隊に。
「なっ!」
「夜だとよく見えないから、かんちがいしちゃうんだって。やっぱりりっちゃんはすごいよ〜」
 よくよく考えれば、単純な謀であった。
 夜では、城からは敵兵がよく見えない事を出来ないのを利用し、大量の松明を焚き、実際の兵よりも多く見せていたのだ。今にして思えば、銅鑼や雄叫び等も、それをより誇張するための布石であったのだろう。
 呂蒙達は囮となって、愛紗達を引き付けて、その間に、穏達が率いる主力が、烽火台を占拠したのだ。
「くっ……」
「もうすぐ、りっちゃんたちは荊州のお城をせめはじめるんだもん。そうしたら、もーちゃん達の勝ちなんだもん♪」
 形勢は一気に逆転していた。このままでは、荊州城の陥落も時間の問題である。
573 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:36:24 ID:Vkd4zMFt0
「ならば、貴様等を蹴散らし、城に戻るのみ!」
 そういうと、焦る愛紗は城へ向かい始めようとする。
「だめ……もーちゃんは通さないもん」
 そして、同時に呂蒙も自分の獲物である槍を構える。彼女の槍は、体が小さくても振るえるようにするためか、先端の刃が銛のように細いものだ。おそらく、まともに愛紗とやりあえば、折れてしまうのは必至だろう。
「そうか、ならが、遠慮は要らんようだな……はっ!」
 だが、彼女はそれでも遠慮はしない。彼女を唐竹に割る一撃を繰り出すだけだ。本来ならば、そこに屍を曝すだけのはずの彼女。しかし、その少女は、既に居なかった。
「何!」
「その首、もーらい♪とりゃー!」
 その居ないはずの呂蒙の声が聞こえる。その場所は、愛紗のすぐ横。
「なっ!」
 ガキッ!
 金属同士が奏であう耳障りな不協和音。それが、呂蒙の一撃を愛紗が防いだ事を意味していた。
「くそっ!ちょこまかと……」
 しかし、それを聞き終わる前に、既に彼女は横薙ぎの一撃を呂蒙へと繰り出した。だが、その一撃を小柄な体と瞬発力によって、空振りへと変えてしまう。
「うりゃー!」
 愛紗の死角から、放たれる呂蒙の一撃。それは、愛紗を一つ一つが死へと導く軌跡である。一方でそれを受け、反撃する愛紗の切っ先は、尽く、間合いの外に居る呂蒙にかわされてしまう。
 一撃離脱を駆使する呂蒙に力だけの一撃など通じるはずも無い。だが……。
574 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:40:15 ID:Vkd4zMFt0
「はっ!」
 それは彼女が並の武人ならばの話だ。神速にも勝る一撃は、呂蒙の速さに追いついていく。そして、
 ガキッ!
「ほにゃわ!」
 ついに、彼女の一撃に呂蒙の槍が甲高い声を上げた。それは、彼女が呂蒙を捕らえたのを意味している。
「貰った!」
 その期を逃さず、彼女は力一杯、刃を振り下ろす。
 バキッ!
 何かが折れる音。それは呂蒙の槍が折れたことを意味する。しかし……
 ドスッ!
 鈍い鈍痛が愛紗の脇腹へ走っていた。
「なっ……」
「あっぶな〜」
 良くみれば、呂蒙の放った蹴りが愛紗の脇腹を抉っていた。完全に虚を突いた一撃であった。いや、彼女が普段のように、焦りがない状態で戦っていれば、恐らく、十分対応出来ただろう。
 しかし、荊州城陥落という時間制限を背負った彼女には、少しばかり焦りが生じていた。だが、それが決定的となっていた。
「このっ!」
 そのまま、彼女に向かい横薙ぎを放つが、蹴りによって減速させられた刃が、彼女にあたるはずも無い。
「あぶないあぶない……」
 しかし、既に呂蒙の武器は半壊している。今の蹴りもただ逃げるためのものだろう。もはや、決着はついていた。そう、全ての決着も……
「もーちゃーん♪」
 唐突に割り込んだ暢気な声。
 そして、その声が発せられたのは、既に『陸』という旗が立てられた荊州城からだった。
575 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:45:20 ID:Vkd4zMFt0
「もーちゃんのかちだよね」
 荊州城の早すぎる陥落。原因は恐らく将の不在である事は明らかだ。しかし、そのような事はどうでも良い。
「もう、逃げられないし、もうすぐ丁ちゃん達も来るよ」
 もはや、周りは敵兵に囲まれ、自軍の兵は既に気力を失っている。逆転の可能性はゼロであった。
「ここまで……か……」
 ゆっくりと槍を振りあげる呂蒙。
そんな前でも彼女の頭に浮かぶのは愛しき一刀の姿。
(ご主人様……) 
そして、槍は愛紗の喉に放たれ……

ガキッ!
576 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:50:08 ID:Vkd4zMFt0
「にゃに!」
彼女の目の前で止まっていた。方天画戟という壁に阻まれて。そして、それを操る一騎当千の将という大壁に阻まれて。
「なっ……恋」
「……助けに来た」
 相変わらずの調子のその将‐恋はそのまま方天画戟を振り上げる。同時に、呂蒙の槍はそのまま空中へ高々と飛ばされた。
「な……どうして?もーちゃんたちの兵隊が囲んでいるはずなのに……」
「……邪魔したの、みんな倒した」
 良くみれば、包囲一部の兵が倒れている。恐らく恋が1人で倒したのだろう。
「でも……1人ぐらいふえても……」
「1人やないで!」
 そして、割り込む4人目の声。そして、それは朝日を背に立って現れた軍団からであった。
「ウチの愛紗を助けるんや!全員、突撃ぃぃぃぃぃぃぃ!」
 迫るは、神速を誇る張文遠の部隊。そして、先頭に立つのは、当然その部隊を率いる霞であった。
「霞……援軍なのか?」
 愛紗は、まだこれが夢であると感じていた。もはや、絶望の中に射した一筋の光、それが自分をこの中から助けようとしているのだ。これが、夢で無くてなんだというのか?
「あわわ……もーちゃーん!」
 一方で、荊州城の穏はパニックに陥っていた。予想できない伏兵。それが一気に自分たちに向かっているのだ。
「もーちゃん」
「りっちゃん!早くもーちゃん達のへいたいをおしろの中へ!その後、ろうじょうするから!」
「う……うん!でも、関羽将軍は……」
「ほっとく!今はおしろのぼうえいが先だから!はやく!」
 そんな中、呂蒙だけは冷静に軍を荊州城へ引いていた。関羽の命をとる前に……。
577 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:55:12 ID:Vkd4zMFt0
 こうして、荊州城は呉の手に落ちたものの、愛紗は九死に一生を得、そのまま、恋と霞の部隊の本陣へと案内された。
「愛紗!」
 そこで見つけたのは、彼女の愛しき主人である一刀だった。
「ご主人様!」
 しかし、彼女はそのまま顔を俯けてしまう。
「申し訳ありません……荊州城を守れませんでした」
 彼女はそれが悔しかった。絶対守ると誓って志願したのに、結果は味方の全滅と荊州城の陥落という始末だ。
「もう、合わせる顔が……」
 しかし、その言葉は途中で途切れた。愛紗が、一刀が自分を抱きしめたからだ、と気付いたのは、何秒後であっただろう。
「ご……ご主人様?」
「よかった……本当によかった」
 その言葉を聞けば、愛紗はその先を言えなくなっていた。今、彼のこの気持ちを邪魔するのは気が引けたから。そして、彼女もこの抱きしめられている時間を大切にしたかったから。
578 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 02:59:13 ID:Vkd4zMFt0
 それから、数時間後、一刀たちの部隊は一路幽州へと撤退していった。
「しかし、ご主人様……どうして、援軍に?」
「いや、実は相手が呂蒙って将軍だって聞いたから。それで嫌な予感がしてさ……」
 一刀たちの世界では、三国志内で関羽は呂蒙に荊州で討たれている。そして、それに気付いた一刀はすぐに援軍を出す手配をしたのだ。
「しかし、援軍に出せるような部隊は……」
 しかし、その問いは隣にいる霞と恋が持っていた。
「愛紗……ウチらの事、忘れてへんか?」
「……(コクコク)」
「あっ……」
 そう、恋は基本的に幽州警備に回されており、また対魏戦では、霞は元敵将という事により表には出なかった。そのため、あの軍議では名前が出なかったのだ。
「すまん……」
「いや、謝られても困るんやけど……」
「でも、本当に愛紗が無事で良かった」
「しかし、荊州はとられてしまいました」
 そう、対呉戦の要の荊州は陥落した。もう呉軍は容赦なく攻めてくるだろう。
「そんなの、取り返せば良いさ。それに……」
「それに?」
 すると、一刀は愛紗に向けて言った。
「みんなで力を合わせれば、何とかなるだろ?」
「……はい」
 彼は彼女達の無事を祈る。それは、また、新たな外史を紡ぐ事に繋がる。
 その辿り着く先に何が待つのか?それは、きっと……。

                            (終わり)
579 名前:史実的?外史・愛紗荊州編[sage] 投稿日:2007/02/14(水) 03:04:32 ID:Vkd4zMFt0
 まぁ、これで終了です。長かった……orz
 覚悟を持っていた方は、なお、楽しめるように書いたつもりでしたが……最後に、王道でごめんね……orz

 補足
 今回の謀は横山三国志で(確か)劉備が黄布党に対して用いていた策を少し変更したものです。

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