- 393 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 06:57:44 ID:wfUZuYHJ0
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>かなり遅レス気味だが、魏延はこんな感じか?
こうですか、わかりません。
そんなわけでまとめスレの魏延ネタを読んで即興で書いたもの。
……一刀の性格が全然違うとかそういう類の感想は却下。
自分でも良く分かってるからorz
「やっぱり熱々の肉まんは堪らないな」
城を抜け出して肉まんを頬張りながら通りを歩いてると、女の子にぶつかってしまった。
不意を衝かれたのか、女の子は転んで尻餅をついた。
「あ……その……ごめんなさい」
褐色の肌をした女の子──歳は鈴々と同じくらいか──は、怯えた様に小さくなって俺に謝った。
「ごめん、俺がボーっとしてて……怪我とかしてない?」
「あの……その……ええと……はい、大丈夫、です……」
言葉を一つ一つ選ぶように、その女の子は答える。
「うん、それは良かった」
安心した俺が微笑みを浮かべると、女の子は真っ赤になって俯いてしまう。
……随分と恥ずかしがり屋な娘だなぁ。
「おや、太守様。また女の子に手を出してるんですかい?」
八百屋のオヤジさんが、そんな俺たちを見て茶々を入れてくる。
「『また』とはなんだ、『また』とは。大体、そんな話を愛紗に聞かれたら……」
「私に聞かれたらどうだというのです?」
……後ろから、凄く聞きなれた声。しかも、感情を無理に押し殺したような、硬質の声。
うん、振り向きたくない。凄く振り向きたくない。
「殿、こちらを向いてください」
- 394 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 06:59:59 ID:wfUZuYHJ0
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意を決して振り向くと……そこにはやっぱり愛紗がいた。
その顔には素晴らしいまでの笑顔が浮かんでいる。超怖い。チビりそう。
「とりあえず、お話はお城に戻ってからいたしましょう」
「…………はい」
観念してうなだれる俺。
……ご想像の通り、その後こってり愛紗に絞られる事になりましたとさ、まる。
その頃、通りでは。
「太守……様?」
褐色の娘は、反芻するように、先程出会った青年の事を呟いていた。
何故なら彼女の知る「太守」には、彼のような人はいなかったから。
- 395 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 07:01:12 ID:wfUZuYHJ0
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「あ、また会ったね」
前回と場所を変えて街の甘味処に逃げ込んでいたところ、こないだ会った女の子と出会う。
「太守……様……」
ビックリしたような彼女の反応に思わず苦笑する。
「ハハ……バレてるみたいだね
でも、俺はそう呼ばれるの慣れてないからさ、出来れば名前で呼んでくれてるとうれしいな。
そういえば、自己紹介もまだだったね、俺は北郷一刀。君の名前は?」
俺が自己紹介すると、彼女はおずおずと返す。
「そ、その……ぎ、魏延と……いいます」
「……魏延?」
魏延というと……三国志演義では蜀に不満を募らせて結局は裏切った将だけど……
「……あ、あの、私、なにか、粗相を……」
「あ、いやいや、なんでもない! なんでもないよ」
不安げな顔をして俺を見上げている魏延を安心させるように微笑む。
……この世界の魏延ちゃんはこの世界の魏延ちゃん。それで良いじゃないか。
月や恋たちだって、俺の知ってる「董卓」や「呂布」とは違うんだ
だが微笑んだ俺と眼が合うと、この間と同じように魏延ちゃんは真っ赤になって俯いてしまった。……やっぱり恥ずかしがりやさんみたいだ。
そんなことを思っていると……
「おら、オヤジ! メシ出せ、メシ!」
「酒もだ! とっとと持ってこい!」
「お、女もだな!」
いきなり大声をあげて入ってきた三人組のチンピラたちが、周りの客を押しのけて椅子に腰掛ける。
……すぐに警備兵や愛紗、星たちが来るだろうが、放っておく訳にも行かない。
そう思って声をかけようとすると、脇から軽く袖を引っ張られた。
見ると魏延ちゃんが上目遣いで俺を見ている
「あ、あの危ないと……思います……」
「そうなんだけどね、でも止めないと周りの人が怪我しちゃうからさ」
勘違いが混ざってるとはいえ、彼らに信頼されている。その気持ちを裏切りたくない。
それがどんなに小さなことでも。力が及ばなくても。
そう説明してチンピラたちの前に出ようと一歩前に踏み出そうとすると……
「私が……やります……」
- 396 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 07:16:42 ID:wfUZuYHJ0
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魏延ちゃんにそう言って止められた。
「……え?」
「私……人より……少し、強いから」
言うが早いか、素早く男たちの所に行って彼女は声をかける。
「あ、あの……やめて下さい」
「あん?」
リーダー格の男が下卑た笑いを浮かべながら魏延ちゃんをなめつけるように見る。
「やめなきゃどうだっていうんだい? お嬢ちゃんが俺たちの相手をするってのかい?」
「その…………怪我します」
魏延ちゃんの言葉にチンピラは呆気にとられた顔をした。
「……は?」
「ハハハハハ」
「じゃあ、怪我させてもらおうかなぁ」
チンピラたちが魏延ちゃんの体に手を伸ばそうとした瞬間。
三人の体は宙を舞い、通りまで吹き飛んでいた。
何が起こったのかまったくわからない。止めに入る暇も無かった。
追い討ちをかけるように魏延ちゃんが通りに向かうのを追いかけたところで。
「何事だ! 何があった!」
愛紗の大きな声が店の中にまで響いてきた。
「貴様か! 貴様がこの騒動の元凶か!」
「え、いえ、その……」
魏延ちゃんは愛紗の詰問に身を小さくしている。
そしてその後ろでは先程の男たちがコソコソと逃げ……
「愛紗! 後ろの三人捕まえて! そいつらがこの騒動の大元だから!」
「と、殿!? どうして……あ、いえ、承知!」
俺が出てきた事に驚いた愛紗だったが、すぐに俺の言葉に反応してチンピラ三人組をお縄にした。
- 397 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 07:18:32 ID:wfUZuYHJ0
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「で、魏延とやら」
「は……はイ!」
裏返った声で返事する魏延ちゃん。……やっぱり恥ずかしがり屋みたいだ。
「……殿を救って貰ったことには礼を言うが、暴れることには関心せんぞ」
「はい……」
うな垂れる魏延ちゃん。
「それは俺のせいだから許してあげて……でも、強いね魏延ちゃんって」
僕がフォローのつもりで言った言葉は、しかしそれは鋭い刃となって僕の胸に返ってくる。
「……家族の皆が戦で亡くなって……生きるためにはそうなるしかなかったから……」
………………ッ!
思わず息を詰まらせる。
……俺は分かってるつもりで何もわかってなかった。
戦っていうのは皆にこんな悲しみや苦しみを背負わせることなんだ。こんな小さい子にまで、関係なく。
「ごめん……」
そう思うと、謝罪が口をついて出ていた。
「あ、いえ、そんな、つもりじゃ……」
慌てて魏延ちゃんが弁明しようとするが、その言葉を遮り俺は一つの提案をする。
「行く当ては、あるの?」
「え……?」
俺の今からやる事はきっと卑怯で、偽善的な事だ。
- 398 名前:名無しさん@初回限定[sage] 投稿日:2007/02/10(土) 07:20:27 ID:wfUZuYHJ0
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「もし無かったら、俺らの城に来ない?」
「え……でも……?」
でも、彼女の寂しさや苦しみを一つでも減らしてあげたい。たとえそれが偽善といわれても。
「部屋も余ってるし迷惑とか考えなくても良いからさ。
もちろん、戦いに参加してくれとも言わない」
「…………」
「駄目……かな?」
俺が問い直すと、魏延ちゃんはジッと俺の眼を見つめ、言った。
「……一つだけ、その……お願い、して、いいですか?」
「勿論。出来ることなら、何でも、いくらでも」
「私も、闘いに参加させてください。
……出来る事をしなかったら、きっと、後悔すると思うから」
ああ、俺の気遣いなんて必要なかった。
彼女は凄く強い。
そうだ。彼女はそんな苦しみにいながら尚、俺を助けてくれる程のやさしさを持ち続けてくれているんだ。
俺に出来ることは、ただ彼女の信頼に答える事。
そして、少しでも彼女を幸せにする事。それだけだ。
そして、この日。北郷軍には、新しい仲間が出来たのだった。
……まぁ、やっぱり愛紗にはその後コッテリ絞られたけど、それはご愛嬌という事で。
チラ裏イエー! ……その、なんだ。出来に関しては笑ってやってくれて一向に構わん