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372 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:06:59 ID:AwUY5f3j0
まとめ人様乙です&華雄さんもハイペースですなぁ。今後も楽しみです。
>>370 自分のイメージした孫堅ママそっくりですわ。流石虎。
そして>>265からの続き。今回はギャグなしです。


こんなにもいい天気だってのに心のモヤモヤは晴れはしない。
ナーバスになるのは性に合わないってのに、しこりがいつまでも残って自分ではどうしようもない。
これが政務だの軍議だのならまだ頑張れる。それがみんなの、仲間の為になるんだしな。
けど今回の件だけはそう簡単に片付くものでもない。
そしてそれは顔にでも出てしまっていたのだろうか。
今日ぐらいはせめてゆっくりして下さい、とみなが言ってきてくれた。
こんな頼りない君主でもいなければいないで仕事が難しくなるだろうに。
「ホントに…みんなには世話かけっぱなしだよなぁ…」
申し訳なさがつのってしまうが、同時にありがたくも思う。
こんな自分でも頼りにしてくれているのだから、折角の休暇でこの陰鬱な気分を吹き飛ばしてしまおう。
独りでは余計な考えばかり浮かんでしまうが、今日の同伴者はそんな事をさせてくれそうもない。
そんな簡単に浮かぶこれからの事を考えて、つい笑いがこみ上げてくる。
こんな時の為と、少ない小遣いをやり繰りして買った上等の酒を腰に下げ歩みを進める。
つまみは必要もないだろう。何せ絶好の肴は既にあるのだから。
そんな自分を急かすように、前を進んでいた一人と二匹がこちらを呼びかける。
「ほらぁ〜、何モタモタしてるの一刀!?そんなんじゃ日が暮れちゃうよ〜!」
白虎にまたがる小蓮がプンスカと顔を膨らませて大声で叫ぶ。
「まだ太陽が頂点に達してないのにそれはないだろうよ…」
ほらな、言ったろ?こんな絶好の酒の肴があれば退屈はしないって。
373 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:07:39 ID:AwUY5f3j0
「ふわぁ〜、いい所だね〜!涼しくて風も気持ちいいしっ!んん〜っ!」
まるで猫が伸びをするように小さな体を目一杯伸ばし、川岸に近付く。
「おいおい、足元気を付けろよ?あんまはしゃいでると滑って転ぶぞ?」
「んもぅ、シャオそこまで子供じゃないもん!そんなおっちょこちょいな事しないよーっだ!」
そういう言い方が子供なのだとは、心の中で思うだけにしておこう。
こんな無邪気さと、時折見せる大人びた所が小蓮の魅力なのだから。
「だからこんな事しても平気…っとっと、わひゃあっ!?」
まったく言わんこっちゃない。すぐ助けられるようにしておいて正解だ。
すぐさま傍に寄り、川に滑り落ちそうな小蓮を腕に抱えて救出。
「アハハ……ありがとね、一刀。で、でもシャオが悪いんじゃないもん!この滑る岩が悪いんだもん!」
小脇に抱えられたまま言い訳しても説得力ありませんよ?
「はいはい、そういう事にしておきましょうね。ほら降ろすぞ?」
「むぅ〜、信じてないなぁ〜?」
わがままな子猫を地面に下ろして、足だけを小川につけて酒盛りの準備をする。
「ほらこうすると足の疲れが取れるぞ…って小蓮歩いてなかったな」
「む、人を怠け者みたいに。ま、いっか!………ホントだ、ヒンヤリして気持ちいい〜」
自分と同じように靴を脱ぎ、ちょこんと隣に座る。
その自分達のすぐ後ろには、どうぞ背もたれにして下さい、と言わんばかりに白虎が寝そべる。
「お、お前も気がきくねぇ。そんじゃ遠慮なく」
こんなのんびりしているとあんなにも悩んでいた事が馬鹿らしくなる。
やはり小蓮は騒がしくしてくれるだけでなく、こういう風に気持ちを安らげてくれる女の子なんだな、と再確認する。
これで以前の手酷い仕打ちはチャラにしてあげよう。
374 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:09:04 ID:AwUY5f3j0
「でもごめんな小蓮。最近あまり構ってあげられなくて」
「ホントだよ!…って言いたいけど流石に今回はしょうがないよね。城にあの二人がいるんじゃシャオから会いに行く訳にもいかないし」
そう、現在小蓮は自分達が用意した町のほうの家に住んでもらっている。
「俺としてはこうなったらもう孫権にも言ったほうがいいと思うんだけどなぁ」
「駄目だよ!シャオが一刀の所に世話になってるってお姉ちゃんが知ったら絶対怒られるもん…」
同盟を交わし、尚且つ大国魏が自分達に降った今ではもういいとは思うのだが。
「そんなもんかねぇ。俺としては孫呉と争う気なんてないから状況は変わらないと思うけどな」
「むっ、一刀の浮気者!そんなにお姉ちゃんのほうがいいの!?」
「ちょっと待て!そんな事は言ってないぞ!?………ただ、やっぱり姉妹は仲良くしてもらいたいしさ」
「それはそうなんだけど……あれ?」
そこで何かに気付いたように苦い顔から一転、あのいつものニヤリとした顔になる。
「ははぁ〜ん、なるほどなるほど。そうかそうかぁ〜、ふふっ納得」
「ど、どうしたんだよ」
こんな顔つきをした時はあまりいい目には合わないがそれでも気にはなる。
「もーっ!一刀も遠回しに言わないではっきり言ってくれればいいのにぃ〜。
 『小蓮に傍に居て欲しい』ってちゃんと言ってくれれば最初から納得出来たのに」
「んなっ!?」
ちょっと待てぇい!?どう言葉の行間を読めばそんな結論になるんだよ!?
「うっ…、やっぱダメなの…?シャオ…一刀の傍に居ちゃダメなの…?」
今度は泣き落とし!?小蓮め、いつの間にこんな高等テクニックを!?
375 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:16:23 ID:AwUY5f3j0
「い、いや、そんな事はないぞ!?小蓮は、その、俺の……えと」
どう言ったものか言葉に詰まっていると、小蓮は我が意を得たりと攻め立ててくる。
「『俺の』…なぁに?シャオ、はっきり言ってくれないとわかんないなぁ〜」
こうなりゃやけか。
「その、だな。小蓮は…俺の」
「うんうんっ!」
「俺の……傍に、居て欲しい…」
台詞がこんなにも恥ずかしいとは!今の自分の顔は真っ赤になってることだろう。
そうやってつい顔を背けたから、またも不意打ちに気付かなかった。
チュッ
唇に小蓮の瑞々しい唇が触れる。とっさの出来事に呆然としていると小蓮はそのまま川の中に歩いていく。
そして振り向いてから自らの想いを告白。
「えへっ、ありがと一刀っ!シャオも一刀のこと大好きだから、ずっと傍にいてあげるよっ!」
満面の笑顔。華開く笑顔とはこういうのを言うのだろう。
そしてまたも再確認。ああ、俺も小蓮の事が大好きなんだな、と。
376 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:17:20 ID:AwUY5f3j0
こんな事態で始まった休暇ではあるが、それでも自分達の関係は相変わらず。
一緒に小川で遊んでは、疲れを知らない小蓮を酒の肴にして、そんな自分を無理矢理引っ張り回して。
余計な事は考えずにシャオを見て!と言わんばかりに振り回される。
それでも悪い気はせず、むしろ楽しんでいる。
そうしてようやく疲れたのかわがまま子猫は今、自分の体に寄り添い寝転がっている。
「えへへっ、一刀の体あったかーい!ふわぁ…ポカポカして眠くなるぅ〜」
「寝ててもいいぞ?俺はどこにもいかないからな」
そう言って小蓮の髪を梳く。その感触が気持ちいいのか小蓮はますます顔を緩ませる。
「ん〜、それは分かってるけどぉ〜」
もっとお喋りしたいのか、それでも睡魔には勝てそうもなく目をゴシゴシさせる。
妹がいればこんな感じなのだろうか。
あいにく、自分はもうそう見る事は出来ない。小蓮はもう、一人の女の子としか見れないから。
そんな穏やかな気分でいると、小蓮がこちらを見ながら問い掛けてくる。
「…ねぇ、モヤモヤした気分はもうなくなった?」
「………いつからバレてた?」
そんな表情は極力隠していたはずだが。
「最初っからだよ?一刀のことでシャオの目は誤魔化せないもん。…何かイヤな事でもあった?」
本当に敵わないな、この子には。
「イヤな事って言うか…ちょっと考えちまってな。…俺がこの世界の人間じゃないってのは話したろ?」
小蓮は無言で先を促す。
377 名前:小蓮if話[sage] 投稿日:2007/02/09(金) 20:18:12 ID:AwUY5f3j0
「俺を慕って、信頼して多くの人が付いてくる。でもその反面、俺のせいで多くの人が危険な目に合っていく」
ただ自分を殺す為だけに白装束は華琳を利用した。そんな大掛かりな真似までして生かしておきたくはないのか。
「決心したつもりだったんだけどな。……やっぱ考えちゃうんだよ。俺はこの世界にいていいのかって。
 本当は俺がこの世界を乱しているんじゃないのか…ってな」
決意が揺らいだ訳ではない。皆の願いは分かっているし、それを裏切るつもりは毛頭ない。
それでも考えてしまうものは考えてしまう訳で。
だがそんな悩みも小蓮はいつものように笑い飛ばす。
「なぁんだ、そんな事だったんだ。くだらないなぁ」
「くだらないとは失礼な。これでも俺は――」
「だって自分でもう答えを言ったのにまだ悩んでるんだもん。まぁ、それだけ真面目って事なんだろうけど」
小蓮は一体何を言ってるのか?俺がもう答えを出しているって?
「さっき言ったじゃん。『俺はどこにもいかない』って」
ストンと心に収まった気がした。そうか、そんなのでよかったんだ。
「ハハ、ハハハッ!そう…だよな、俺、とっくに答え出してたんだ」
「もぅ、変な所で鈍いんだから。……ふわぁ〜、もうダメ…限界、ふみゅう…」
スッキリしたのを感じ取ってようやく安心したのか、小蓮は体に身を沈ませ寝息を立てる。
やはりこの少女には敵わない。そうだよな、この寝顔が見られるんなら戦う理由はそれで十分なのかもしれない。
「ありがとな、小蓮」
穏やかな寝顔にキスをする。心の煩悶はもう、ない。

<三回目・完>

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