澄み渡った星空の下、呉の使者大喬は一人月を眺めていた。
「………はぁ」
孫策、雪蓮が亡くなってからたびたび一人で空を見上げることはあった。
ここ北郷軍にきてからさらにその頻度が上がったように思う。
しかし、そんな彼女の心を悩ませるのは今は亡き彼女ではなかった。
「なに暗い顔してるのよ、お姉ちゃん」
「あ、小喬ちゃん……」
声に振り返るとそには双子の妹が立っていた。
「まったく、一人でうろうろしてたら危ないでしょ」
そう言いながら隣に腰を下ろし、先ほどまでの大喬と同じように空を見上げた。
「うーん、なかなかいい月夜だねぇ」
小喬はこういう時、決まってなにも聞かなかった。
冥琳や大喬が一人で悲しげな顔をしているとき、誰を思っているかなんてわかっていたから。
へたな慰めに意味はない。当たり前のように隣にいることで
自分なりのやりかたで二人支えになりたいから。
339 名前:二喬[sage] 投稿日:2007/02/08(木) 15:20:10 ID:ivbnIAT00
しばらく黙って月を眺める。
沈黙を破ったのは大喬の方だった。
「ねぇ、小喬ちゃん」
「何?」
話そうとして少し躊躇した。これから話そうとしていることは妹にとって
あまり愉快な話ではないことはわかっている。でも、聞いて欲しかった。
一番そばにいてくれた彼女には。
「小喬ちゃんは……一刀さんのことどう思う?」
「……………は?」
呆気にとられたような顔。大喬とって予想どおりの反応だった。
もともと答えを期待していたわけでもない。
「私ね、時々一刀さんの中に雪蓮様を感じるの」
小喬は何も言えなかった。正直なにを言い出すのかと思ったが
話し上手とは言えない姉がなにかを伝えようとしていることはわかった。
「たぶん心の真ん中にあるものが同じなんだと思うんだ。雪蓮様が一番欲しかったのは天下なんかじゃなかった。
天下統一はただの手段で冥琳様や私や小喬ちゃんやみんなが笑顔で暮らしていける世界を求めてた。
ここで色んな人の笑顔を見てるとね、思っちゃうんだ。雪蓮様が欲しかったのはこういう世界なんじゃないかって。
雪蓮様の夢叶えられるのは蓮華様でも冥琳様でもなくて……一刀さんなんじゃないかって」