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　賊軍討伐から数日も経たないうちに賊軍討伐のために派遣された公孫賛軍の一隊は村を後にしていた。

　後処理も大方終わり、守備の補強に避ける分の兵力さえ村に残存させれば十分となったため、それ以外はすぐに下邳へと戻ることにしたのだ。
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　予期せぬ大物の予想だにしない登場の仕方に一刀や鳳統、側近や普段は動じることも少ない趙雲までもが面食らい、混乱も未だ抜けきってはいない。ただの賊討伐から何か不穏な雲の中に飛び込んだような状態を一刀は感じ取っていた。

　その一刀はというと、帰還をする隊と別れ何故かまだ村に残っていた。それは下邳への搬送が決まった後のこと。大喬の一言が切っ掛けだった。
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「……え、えっと。そうなりますと、護衛も今回ほどしっかりしてないですし、危険かもしれませんよ？」

「か、かまいません。あれは……なくしちゃだめだから……でも見つからなかったら、諦めます」
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「え？　そうなのか」

　華佗の補足に一刀は眼を丸くする。そんな一刀に華佗は腕組みしながら深々と首を縦に振りながら答える。
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　あごに手を添えながら趙雲がふむと頷く。寝台で横になっている孫策を思い出しているのだろう。

「むふぅ、そのとおり。愛する者を心から案じ全てをもって尽くしている姿は誠に美しかったぞ。あれは儂も見習わなくてはいかんわ。ふははは」
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「ま、少しは安定に近づいたとはいえ、彼女はまだ予断を許さない状態だからな。大喬ちゃんも迂闊に探しには行けなかったようだ」

「本当に大切だったのだな。孫策殿が」
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「良い子だな。やっぱり……」

「え？」
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「ん。わかったよ……それじゃあ、こうしよう」

　大喬のそばにより微笑みかけると、一刀は全員へと顔を向ける。
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「俺は……この子の〝さがしもの〟につきあうよ」

　大喬の頭に手を置きながら一刀は自分の意志を伝えた。それを聞いた趙雲がため息を口から零して肩をすくめる。
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「大丈夫だって。俺の方も……心強い護衛がいるし、な？」

「ぬふぅぅぅぅぅぅぅ！」
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「やめいっ！　というか、いつから俺がお前のご主人様になった！」

「照れずともよいわぁぁぁっ！　がはははは」
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「落ち着け、卑弥呼よ。少々、お主の雰囲気が親しい者と似ておったので、ついな。だが、信頼にたる程の強者の風格は感じたぞ」

「がはははは。当然である。漢女道は王者の風よ」
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「……は、はい」

　伏し目がちに小さく頷く鳳統。一刀は、大喬から離れ、彼女の元へいくと……抱き上げる。

「ごめんな。でも……時間ができたときはしっかり相手してやるからな」
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　未練を振り切ると一刀は、困惑した顔で彼を見上げている大喬に片目をつむった。
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　†


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　範囲の広さに驚きながらも額に手をかざして辺りに眼を配っている一刀が大喬に尋ねてくる。

「はい。恐らく、この近くに落ちてるはずなんです」
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　だが、それ以上に信じられないのは目の前にいる人物、話を聞いてみれば天の御遣いと称され、民たちからも信望を得ているそうだが、それにしても人が良すぎる。
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　腰を折りながら歩き回っていた一刀が屈み込んで這いつくばるような体勢へと変わっていく。

「……なんでこの人は。ここまで親身になってくれるんだろう」
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「え……？」

「なにぼうっとしてるんだ？　君の捜し物だろう？　ちゃんと手伝ってくれないと困るぞ」
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　河原に転がる石ころの大群のせいでどうにもすぐには見つかりそうにはない。それでも、石を払いのけたり水辺を見たりしていくが一向に見つかりそうにない。

「うーん、このあたりも違うか。でも、救出されたあたりを考えるとなぁ」
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　言われて空を見上げる。汗だくとなった大喬を見下ろすように天高く太陽が輝いている。どうやら、いつの間にか昼頃のようだ。
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「そこの丁度大きさの岩にでも腰掛けようか」

　そう言って一刀が前を先導するように歩き出す。大喬はそれに従って、彼の横に腰掛ける。
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「え？　わたしの分も……ある」

　二人の間に置かれた堤は確かに二人分ある。ここまで持ってきたのが一刀だったため大喬は全く知らなかった。
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「大喬ちゃんも遠慮せずどうぞ」

「それじゃあ、いただきます」
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「あ、おいしい……鳳統さんて頭も良くて、料理もできるんですね……」

「はは、握り飯一つでそこまで評価されるとは……流石、雛里。そうだな、可愛いし、気立ても良いし万能な娘だよ」
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「周瑜と？」

「あ、いえ。ちょっと思っただけです。どうしてるかなぁ」
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　謎の集団に襲撃されてから、早幾日。音信不通のまま消息を絶ってしまっているわけで、それに対して周瑜や姉、そして本国がどうなっているのか気になる。

　孫策も所在がわからないということなのだから、きっと、大騒ぎになっていることは間違いないはずである。
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　一刀の提案に頷くと大喬はすっかり食べきってしまった弁当を片付け、再び河原の石たちへと視線を落としていく。

　大喬に続くように立ち上がった一刀が両腕をあげながら背伸びをする。首を左右に折ると骨のなる音がなる。

「よーし……気合い入れて探すとするかな」
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　その声と同時に聞こえるドボン、という大きな音。大喬が音の方を見ると、水面に顔を出した一刀が川の中で笑っている。

　その手には見覚えのある髪飾り。
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　手渡される髪飾りを両手でぎゅっと握りしめると、頭をぺこぺこと何度も下げる。

　いつの間にか上着は脱いでいたようだが、下の方はすっかり全体にわたってびしょ濡れで泥も所々についてしまっている。

「お召し物が……」
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　一刀の方を見ると、水分をある程度絞り出した服を着てくしゃみをしている。

「あの、大丈夫ですか？」
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「気にしなくていいさ」

　一刀はそう言って脱いで岩にかけてあった上着を着ると、帰ろうと言って歩き出す。大喬も隣を歩き始める。

　木々の間を抜けながら村へと進む。隣を歩いている彼の視線は空を向いている、すっかり日は落ちて暗い夜空に星が点灯し始めている。
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「会ったばかりなのに……親切すぎる気がして」

　大喬は、きょとんとした顔の一刀をじっと見つめる。すると、彼はふっと息を吐き出すと微笑みを浮かべた。
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「いや、大切なものを失くたらさ……やっぱり自分の一部が欠けたんじゃないかって思うほどに辛く、そして魂が痛むだろ。でも、だからこそ、まだそれを取り戻せるのなら……取り戻したい。そういうもんなんだよな」

「は、はい。そうなんです。だから絶対……絶対に、見つけたかったんです。大事な……大事な髪飾りだから」
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「あの、北郷さまもそういう経験ってあるのですね」

　天の御遣いとは言われているから縁遠い人物に思えていたけど、少し身近に感じられて大喬は口元を綻ばせながら彼を見上げた。

「ん？　まあね……たくさんあるよ、たくさん」
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　平野を超え、下邳へと帰ってきた北郷隊が入城するのを確認した公孫賛は部下に命じて彼らを迎えに行かせた。
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　公孫賛は視線を泳がせながら、二人に声をかける。

「二人とも、今回は大変ご苦労だったな。それで、どうだったんだ？」
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「白蓮殿。討伐に関しては平常通りだったのですが、一つお伝えせねばならぬことがありましてな」

　趙雲の言葉に、公孫賛は膝の上でとんとんと上下させていた指を止める。
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「あーなるほど。あいつ、またなんかややこしい事態を引き寄せたか」

　肘掛けに肘を乗せて頬杖をつくと公孫賛はため息を零す。彼の事情を知っているから平穏な普通の日々を送ることが難しいことはわかっている。
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「ああ、その報告は受けているぞ。別段、問題があるようでもなかったが……」

「ただその中に少々、まずい患者が含まれておりましてな」
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「もったいぶるのはやめて、さっさと言わんか」

「いや……これは皆、驚きますぞ」
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　一瞬で空気が締まった中、鳳統が咳払いをする。

「……あの。実は、こちらの方で預かる患者が一名。いらっしゃるんです」
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　玉座から立ち上がりながら、公孫賛は眼を見開く。
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「む、そうか」

「そうではなく。ちと厄介な広いものをしてしまったようですぞ」
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「重症者の中に含まれている人物、それは呉の王」

「まさか……嘘だろ。いつもの冗談なのだろう、星？」
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「孫策の身に何があったのか、謎よね。恐らく、簡単なことではなさそうだし」

　賈駆はなにやら思うところがあるのか、顔に手を添えて考え込んでいる。
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「……あの。実は、孫策さんは未だ意識が戻らずでして」

「そうなのか。それは困ったな……そういえば、こんな重大事なのに一刀はどこほっつき歩いてるんだ？」
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「あのバカ……」

　三名程、一様に引きつった顔をする。
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「……ご主人様は、孫策さんと一緒にいた大喬さんが困っていたので」

　一刀がどうしているのか、そのことについて鳳統が必死に説明しているが余り賈駆や華雄の機嫌は直っているようには見えない。勿論、公孫賛も立腹しっぱなしである。
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「あいつが、超がつくほどのお人好しなのは今に始まったことじゃないしな。それに、あいつらしいじゃないか」

「……はい」
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「ふ。とはいえ、主がそのようなお方だからこそ、惚れ込んでおる。そうだろう？」

　趙雲のその言葉に場は一瞬でしんと静まりかえる。何とも言えない空気が漂い、誰も視線を合わせなかった。
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　下邳城へと戻ってきた数日後。朝も早くから、北郷一刀は豪勢さのある館の片隅にある一部屋の扉を開き、中へと入っていった。
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「あ、おはようございます」

「やあ、おはよう」
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「はい。北郷さんや他の方たちも来てくださるので……休むことはできています」

「でもま、心配なのはしょうがないよな」
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　王子様が口づけでもいしたら目覚めるのだろうか。恐らく、目覚めの代償は首なのだろうなぁ、と考え一刀はぶるりと震える。

「早く目覚めるといいな」
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　よく見れば、腕まくりをしたままの大喬の手は少し赤くなっている。やはり、何度も手も気も休めることなく看護し続けているのだろう。

「おっと……俺も何かするか」
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「孫策さんか。どんな人かと思ってたけど」

　前の外史では、孫策という人物については伝聞でしか一刀は知らなかった。
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「ホント、元気になってくれるといいな」

「北郷さん……」
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「北郷さん、ずっと気になってたんです。村で会ったときから、今までずっと……」

「気になっていたこと？」
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「北郷さんは、わたしや雪蓮様に対して……その、凄く、よくしてくださってます」

「そう、かな」
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「どうして、なんですか？　どうして……そんなに優しいんですか」

「…………」
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「……そう、ですか」

　良い返事が一刀には思いつかない。自分の内情を話したところで、彼女を困惑させるだけなのは目に見えている。
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「おーい、入るぞ」

　そう言って沈黙を破るように部屋へと入ってきたのは公孫賛だった。
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「どうやら、大喬は相も変わらず孫策の看病か……自分が体を壊さないよう気をつけろよ」

「あ、はい。他の皆さんもですが……北郷さんがよく付き添ってくださるので、負担は大分軽くなってます」
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「それより、白蓮。何か用があってきたんだろう？」

「ああ、そうだった。その、なんと言えばいいか……」
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「わかった。気を引き締めて聞こう」

「あの……わたし、外した方がいいですか？」
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「わたしたちもですか。なんなんだろう……」

　席を立とうとした大喬は公孫賛の制止を受けて、小首をかしげながら座り直す。
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「当然と言えば、当然か。涼州の方も大分落ち着いたようだしな。そうなるよな」

「郯の方には星を既に派遣してある。詠も向かわせてあるし、あっちは大丈夫だろう」
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「もっとも、曹操相手じゃ通用する策を私らが考えつくとは思えんけどな」

「…………そうだな。まあ、その辺りは雛里頼りになりそうだな」
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「へぇ、何か考えてるのか？」

「ああ、一応な。この子と孫策を巻き込むわけにはいかんから、呉軍に使者を送っておいたんだよ」
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「それでも、だよ。ありがとな」

「あ、わたしもお礼を言わせていただきます……。公孫賛様、本当にありがとうございます」
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「開戦になる前に、恐らく孫呉から迎えも来るだろう。孫策を移送するかどうかは難しいが。どうにかするしかないか」

「曹操なら、改めてやりあるなら正面からくるだろうしな。それまでになんとかできればな」
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「ああ、最初は貂蝉を通して鄴へ戻すように手を回すつもりだったんだがな。お前が帰ってくるの遅くて会えないままになるから……と、凄まじい文句の嵐でな」

「そ、そうか。仕事に徹する彼女たちにしては……珍しいな」
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「とにかく。これから、忙しくなるぞ。だが、大喬は今まで通りでいいぞ」

「あ……はい。雪蓮様のお世話をしてます」
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　肩口で切りそろえられた大喬の紅色の髪は手入れもしっかりしており、撫でる一刀の手をさらさらと泳ぐ。

「……暖かい」
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「いや、西涼戦終結以降の曹操軍について考えていくと……俺たちと戦うなら、こういうこともありうるかなと」

　空間に指で地図を描きながら一刀は説明をする。公孫賛も頷きながら地図をなぞる。
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「うむ。とにかく、曹操と相まみえるその瞬間までに精一杯準備に励むしかない。あとは孫呉に送った使者次第、か」

　孫策たちのことさえ伝えることができれば、孫呉との間に何か意味はあるはずである。そう信じることが一刀にとっての希望でもあった。
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