「無じる真√N70」 「なあ、そろそろ何か食べたいと思わないか?」  北郷一刀がそのように声を掛けてきたのは、ちょうど城へと到着したときだった。頃合いを見計らったのか、はたまた思いつきなのかはわからない。ただ、その顔からは少なくとも戻ってくるよりは前から食事のことを考えていたであろうことが伺い知れる。  趙雲は夕闇の迫る街並みを前にすっかり泣き虫となった腹をさすりながら一刀の後へと続く。どこか店なり屋台なりに寄ると思いきや彼は居並ぶ店舗を見向きもせずすたすたと過ぎ去っていく。  華雄も不思議そうに一刀の顔を見ているが、彼は一向にどこへ向かっているのかを教えようとはしない。 「行けばわかるよ」  ただそれだけ答えて、彼は先導するように歩いていく。夕日はもう三分の二以上が姿を消している。赤く染まった軒並みが美しかった街も段々と影の領域を増し、暗くなり始めている。  どこか普段より静かな様子の一刀に連れられて二人が辿り着いたのは、彼が利用している館だった。 「おや、戻ってきてしまいましたな? 道でも誤られましたか」 「いや、ここでいいんだよ。初めから、帰ってくる予定だったし」 「要するに、店で済ますというわけではないと」 「ああ、まあいいからいいから」  敷地内へと踏み入れたところで漸く一刀が笑みを浮かべる。街を歩いているときはどこか緊張にも似た堅さが感じられていただけに趙雲は内心ほっとしていた。  また、同時にちょっとした疑念も抱いていた。 (どういうことなのだ? 主に一体何が?)  そんなことを思っているうちに趙雲は館の本邸ではなく、外れにある厨房へと通された。綺麗に整備された竈、気持ち程度に置かれている卓、そして食材を調理する食台。  普段見慣れているものとそう大差ない内装を一覧すると、趙雲は椅子に腰掛けながら一刀に尋ねる。 「もしや、主直々に何か振る舞ってくださるのですかな?」 「ああ、まあね。とにかく、二人はそこで待っててよ」 「手伝わなくて良いのか?」 「ああ、華雄もゆっくりしてなって」  華雄の方へ視線を向けることなくそう言うと、一刀は食料庫から食材を取りにさっさと外へと出ていってしまった。  残された二人は、卓を挟んで向かい合うように座ったまま腕組みして、「ふう」と息を吐き出す。 「一体、どのような風の吹き回しなのだろうか」 「恐らくは、気を利かせたつもりなのだろう」 「どういう意味だ?」 「星は来たばかりだからまだ知らぬのだろうが、少々ややこしいことでな」  腕組みしていた手で顎に触れながら華雄は何かを思い起こすように宙を見る。 「ここに住む民にとって、我らの行いは決して歓迎できるようなことではない」 「うむ、それは確かにそうだろう」 「劉備、袁術、曹操と次々主が変わったここ、下邳。民としては曹操によってある程度の規律も守られるようになり、落ち着き始めていた。そこに我らが現れて街の主導権を奪った」 「それは、傍若無人な侵略者と大差ない……と」  確かに今回の行動は一刀らしくない本人の願望ありきのものだった。他者を軽んずることをしないと趙雲が認めた人物らしからぬ行動だった。  華雄は僅かばかり表情を曇らせながら深々と息を吐き出す。 「そうだ、正直な話、一刀や我々は快く思われていない……」 「まあ、事情を知らねばそれもやむを得まい」 「…………なに?」  趙雲の言葉に華雄がぴくりと片方の眉を吊り上げる。趙雲は内心で掛かったとほくそ笑みながら答える。 「主のことだ、訳あって動いたのだろう?」 「何を言う。これは、あうまで白蓮の指示によるもので、一刀の意思がどうのというわけでは」 「くく、すまぬがそのような外へ向けて行った情報操作は私には通じぬぞ」 「お前……」 「白蓮殿だがな、主が動いたと知ったときに大いに動揺を見せたのだ」 「そうか、それで別に……本当の事情が別にあると勘付いたわけか」 「ああ、もっともこれを知っているのは私を含めごく僅か。白蓮殿の身辺に携わる者でも一部だけだ」  そう、公孫賛の動揺した様子を見た数少ない人物である趙雲には今回の一件に公孫賛の意思が全く絡んでいないことはわかっていた。 (何か事情があったのだとは思うが……この様子では華雄からは聞き出せぬか)  華雄は趙雲の言葉にほっと胸をなで下ろしているようだったが事情の説明をしようという気があるとは到底思えない。  それでも趙雲はダメ元で彼女に聞く。 「して、主の事情とはなんだったのだ? こちらに来ていない霞が何やら関係ありそうだが」 「…………まあ、それは否定しない。だが、一刀本人が伝えていないのなら私の口から勝手に伝えるわけにはいかん」 「やはり、ダメか」 「気になるのなら、やつに訊けば良かろう」 「果たして口を割ってくださるかどうか、以外と強情だからな、あの御方は」 「はは、それは違いない。そうそう、一刀といえばだな……」  肩を竦めた趙雲のぼやきに華雄は微苦笑しながら一刀について語り始める。その顔は雑談を楽しむ、というものであるいじょうにどこか幸せに満ち足りた表情をしている。  それをじっと見ながら趙雲は一度強制的に中断された詮索について再度斬り込んでみることにする。 「やはり、主とは何かあったのだな」 「ま、またその話か。いい加減、そこから離れたらどうだ」 「いや、私としてはそこは非常に気になる点でな。どうにも二人の距離が以前とは微妙に違うように思える」 「気のせいではないのか?」  卓上に肩肘を置いて頬杖をつきながら華雄が呆れたような顔をする。 (いや、そのようなこと。あるはずがない……)  まだ再会してからの時間はあまり経ってはない。それでも、観察をしているうちに一刀と華雄の接し方が軟化かつ自然なものに……いや、以前以上に自然なものとなっている。  顎に指を這わせながらむむっと華雄を直視する。 「な、なんだ……ジロジロと見て」  華雄は若干身体を後ろに引きながら姿勢を変える。  腕組みしていた両手を解いて、片手で腰布をちょんと抑え、その二の腕にもう片方の手を置いて少し身体を隠すように腰を捻っている。 「ふむ。ほんの僅かではあるが、女の色香のようなものが出ているような……」 「とち狂ったか? この私にそのようなもの、無縁であろう?」 「いや、女はいつどのような切欠で変わるかわからないものだからなぁ」 「阿呆か。まったく、お前には付き合いきれん」  そう言って華雄は後ろ髪を掻き上げる、汗のため肌がべたついてるため気になるのだろう。そういえば華雄は先程の稽古の時に汗をかいていたなと趙雲は思い出す。 「汗……か。確かに、お主の言う通り私の思い過ごしだったのかもしれぬな」 「だから、そう言っているだろう。星よ、お前はすぐに妙な方向へと話を持っていこうとするが……そういうお前自身はどうなんだ」  卓に両肘をついて両手に顎を乗せながら華雄が訊ねてくる。趙雲はそれに対して鼻で笑うと自嘲気味に答える。 「ふ、愚問だな。よく考えてみろ、華雄のように主の側にいる時間が多々あったわけでもないこの私に好機がそう感嘆に訪れるとでも?」 「…………う、うむ。それはそうだな」  僅かばかし気まずそうな顔をしながら華雄が勝手口の方をちらりと見やる。いたたまれない気持ちにでもなったのだろうかと思い趙雲は苦笑を漏らす。 「なに、すぐにでも挽回するさ。お主にできたのなら、この趙子龍にとっても不可能ではあるまい」 「私にも、は余計だ……それでは、まるで私では一刀を陥落できないようではないか」 「むしろ、手籠めにされたのであろう?」 「――――っ」  華雄の顔が一瞬で茹であがったように真っ赤になる。先ほど、森でみたのと全く同じ反応に趙雲は口もとを歪ませて顔を近づける。 「語るに落ちたな」 「き、貴様っ! 謀りおったな、そこに直れ!」  卓に手を突き、椅子を倒しながら勢いよく華雄が立ち上がる。湯気を吹き出しそうな程に羞恥か憤怒かわからぬ顔をしている彼女を冷めた目で見上げ一瞥すると、趙雲は目を伏せる。 「遠慮させていただこう。こちらは腹を空かしているのだ、無駄に体力の消費などしたくはない」 「逃げるのか!」 「好きに言えば良い。ただ、一つだけ言わせもらおう」  そう言うと趙雲は再度華雄を見上げる。ただ、その視線はじろりと睨み付けるようにである。趙雲の厳しい目つきに身構える華雄に趙雲はぼそりと言葉を発する。 「元々、お主とでは勝負にならんだろう……」 「侮辱しおってぇ!」 「そうではない……ただ」  これ以上先を口にするのも嫌な気分だが趙雲は溜め息混じりに告げる。 「華雄にはまだ及ばぬのだ。肉体も心も……まだ遠い」 「は?」 「遠い、どうすれば近づけるものなのか、わからぬな」 「いや、私には何を言っているのかがわからんのだが?」  首を傾げる華雄に応えず趙雲は溜め息を零す。華雄もそうだが、こちらへやってきて会った公孫賛もまた、鄴にいたときとは違いどこかすっきりとした様子だった。恐らく長きに渡って悩んでいた一刀との関係に何か変化があったのだろう。それくらいは安易に想像が付く。  本当に趙雲には主君と仰ぐ人物への道のりが非常に遠く思える。 「お待たせ」  一人で気落ちしていた趙雲の耳に一刀の声が届くそちらを見ると、彼は何やら色々なものを抱えながら厨房へと入ってきた。 「で、悪いんだけど、もうちょい待ってくれないか」 「別にお構いなく、じっくりと調理なされよ」 「下手に急いで不味い飯を用意されても困るからな」 「へいへい、懇切丁寧にやりますよっと」  からかうような華雄の言葉に肩を竦めると一刀は料理器具へと向き直り食材と睨み合いを始める。  その様子を遠目に眺めながら趙雲は今のちょっとした二人のやりとりに対して羨ましいような嫉妬のような苦い感覚を覚えていた。  そんな感情から気を逸らすように趙雲は先ほどちらりと見えた食材の事を思い出す。食材の中には趙雲が非常に気になるものがあった。 (確かにあれは……筍だった、それもかなり上質なもののようだが、主は一体どうしたのだろうか?)  興味を食材へと移した趙雲の熱い視線に気付くことなく一刀は調理を始める。余程集中しているのか、まったく趙雲たちの方へ意識を向けない。 「しかし、一刀が料理か……ふむ、私も少し学んでみた方がよいのかもしれんな」 「…………そうかもしれぬが、華雄は料理の方は?」 「……聞くな」  そっぽを向いた華雄を見て、いまなら彼女の腰布をめくっても一刀は何ら反応しなさそうだな、などと趙雲が考えながら待っていると、手際よく動いていた一刀が丼に白飯をよそい始める。 「ほう、丼物か」 「なんだか、いい香りが……むう、腹の虫が」  華雄の剥き出しの腹からぐうと一刀を催促するような音が鳴る。それを聞いて一刀が微笑みを浮かべながら振り返る。 「はは、どうやら待ちくたびれてるみたいだな」 「う、うるさい」 「ちゃっちゃと準備を終えるからあとちょっとだけ待ってくれよな」 「……くそう」  顔を赤くして腹をさする華雄に趙雲はくすくすと笑う。 「わ、笑うな……ああ、恥ずかしい」 「まあ、華雄らしい素直な腹でよいではないか」 「……本当に厭な奴だな、貴様は」 「褒め言葉として受け取っておこう」  そんなやり取りをしている二人のまえに丼が置かれる。 「お待たせ、俺特性のメンマ丼」 「おお、まさか主のメンマ丼にありつけるとは……しかし、これは食欲をそそりますな」 「そうだな、涎が出てきそうだぞ」 「いや、出てるよ」 「なにっ!?」  一刀の言葉に慌てて華雄がごしごしと口もとを拭う。趙雲はそんな彼女にくくと笑いながら事実を伝える。 「本当は出ていないのだがな」 「おい!」 「冗談だって、悪かったよ」  掴みかかろうとした華雄をひらりと躱すと、一刀はその場を離れて自分の丼を取りに行く。  そうして三人揃ったところで各々箸を取る。 「それじゃ、いただきますっと」  一刀の言葉を皮切りに三人はメンマ丼を食し始める。 「こ、これは……」 「星? どうしたのだ」 「これ程のメンマが存在したとは……やはり、まだまだメンマの道は奥深い」  そう呟くと趙雲は一心不乱にメンマ丼を掻っ込んでいく。 (このほのかな酸味、更にはしっかりとした歯ごたえと柔らかさが同居している。この独特な食感は……恐らくは南部の新鮮な筍を使用しているのだろう)  分析をしながらもしっかりと味を楽しみ、そして腹を満たしていく趙雲。  今一時の至福が彼女に舞い降りてきていた。これまでに食べたメンマとは一線を画す上質も上質、超上質と言っても過言ではないメンマに趙雲は心の中で感涙にむせび泣く。 「主!」 「は、はい、なんでしょう?」 「このメンマ……とても美味ですぞ……」 「そうか、それはよかった」  ほっとした顔をする一刀、その横では華雄が無言でがつがつむしゃむしゃとメンマ丼を平らげようとしている。  それから暫くの間、沈黙の中で三人はメンマ丼に舌鼓をうった。  そうして満腹になったところで、一刀の用意したお茶を飲みながら彼女たちは食後を過ごすことにした。 「ふう、なかなか美味だったぞ一刀。ごちそうさま」 「お粗末さん。満足したようでよかったよ」  お茶を飲みながら一刀がにこにこと笑う。どこか子供を相手にした保護者のようにも見えて少し可笑しく思いながら趙雲は気になったことを一刀に切り出す。 「主、少々訊ねてもよいですかな?」 「ん? 別に構わないけど、気に入らなかった?」 「いえ、そうではなく、このメンマ……いや、筍ですがどこかで食べたことがあるような気がするのですが、どこでなのでしょうか?」 「さあ? 俺に聞かれても」 「では、質問を変えます。この筍はどこで?」 「それに答えるにはまず、街の近況を話さないといけないな」  神妙な面持ちになった一刀がふうと深い溜め息を零す。趙雲は既に華雄から聞いていた内容に関することだろうと当たりをつけて訊ねる。 「関係修復ができていない……ということですかな?」 「ああ。もしかして、白蓮にでも聞いたのか?」 「いえ、先程華雄から」 「そうか、なら話は早いな。実は、雛里の存在があって少しずつだけど関係は修復できてる。その中でも今じゃ馴染みの店もできててさ、そこの親父さんが絶品のメンマを出してくれるんだ」 「ほう、そのような職人がおるのですか」 「ああ、親父さんのメンマはラーメンにもあうし、本当に最高だよ。で、そのメンマを親父さんに頼み込んでちょっとばかし譲って貰ったんだ」 「ほう……しかし、このメンマに使われている筍、恐らくは南部のものと思われますが」  そう訊くと、一刀は目を丸くして驚きを露わにした後くすりと笑った。 「流石、星だな。そう、実はその親父さんの弟が大陸の南の方……交州だったかにいて、そのおかげで乾し筍を仕入れることができるらしいんだよ」 「筍を仕入れる弟、絶妙な味付けをする兄、この極上メンマは人の繋がりが作り上げたメンマだったわけですな。そのような貴重なものを私に振る舞っていただけるとは、感謝いたしますぞ、主」 「いやいや、元々星への土産にでもと思ってたからな。問題ないさ」  頭を掻きながらそう言って一刀は手を振りながら微笑を浮かべる。態々自分のために用意してくれたことを趙雲は喜ばしく思う。  そして、同時に先程の疑問が再度浮上する。 「となると、やはり不思議ですな」 「え?」 「いえ、このメンマ……どこかで口にしたことがあるはずなのですが、思い出せないのです」 「偶々似た味のメンマを食べたことがあるってだけじゃないのか?」  まったりとくつろいでいた華雄がそう訊ねるが、趙雲は首を横に振る。 「いや、それはないな。この私が味の判別ができないはずがない」 「星が言うと説得力があるな……」 「主、笑い事ではありませんぞ。この奇妙な謎、どうにかして答えを知りたいとは思いませぬか?」 「いや、俺に言われてもなぁ」 「主も口にしたことがある……何故かそのような確信があります。ですから、主も何か覚えが無いか応えてくだされ」  そう言って趙雲は状態を乗り出して一刀に迫る。だが、横から伸びてきた手によって制される。 「星、ちょっとしつこいぞ。一刀も困っているだろう」 「華雄よ、私は至って真剣なのだ。何か、忘れてはならない何かがある気がするのだ……」 「……星」  趙雲は胸の中で燻るものに多少の苛立ちを感じながらも一刀の顔を見る。その顔は影が差し、瞳は冷め、僅かに寒気を……それ以上に悲しみを彼女に覚えさるのに十分な表情を浮かべている。 「主?」 「今日はもう休んだ方が良い」 「な、なにを急に」 「きっと、疲れてるんだ。ほら、片付けは俺がやっとくから、な?」 「し、しかし――」 「星、一刀の言う通りだ。今日のお前はどこか変だ……まあ、いつも変だが今日は特別変だ」  そう言って華雄が趙雲の背中を押す。納得がいかない彼女は一刀の方に顔だけで振り返るが彼は丼を集めていて顔を見ることは出来なかった。 (あの顔……主は何を隠しているのだ……)  趙雲の中に宿った……いや、表出してきた何かは余程のことがなければ冷静沈着なはずの彼女の心を掻き乱す。  廊下を歩きながらも趙雲は何度も足を止めて厨房のある方角を振り返る。そして、その度に華雄に促されて歩き出す。  その繰り返しを経て自室として宛がわれた部屋の前へと到着した。 「それでは、私はまだ仕事があるから失礼するぞ」 「ちょっと、待て」  立ち去ろうとする華雄の肩を掴む。彼女は藁だ、趙雲にとっての藁なのだ。その藁にもすがる思い出趙雲は華雄を振り向かせて両肩を掴む。 「華雄。頼む、教えてくれ。主は何を隠しておられるのだ……何故、私には何も言ってくださらぬ!」 「……すまぬが、それを言うわけには」 「わかっている。それはもう十分にわかっている……だが、なんなのだこの胸のざわつきは、何故これ程までに苦しいのだ……その理由をお前は知っているのだろう?」  知らず知らずのうちに両手に力が籠もり爪が食い込んだ華雄の両肩に血が滲み始める。趙雲は普段の彼女らしくないほどに冷静さを失いつつある。  趙雲はありえないことに熱くなっている目頭を隠すように頭を垂れる。 「頼む……たのむ」 「…………ならば、ちょっとした助言をしてやろう」  その言葉に趙雲は顔を上げる。今は逆に華雄が俯いており、垂れた前髪に隠れている顔がどのような表情を浮かべているのかはわからない。 「自分の心に忠実でいろ」 「……本当にそれでよいのか?」 「さあ、どうだろうな。信じる信じないはお前に任せよう。それより、いい加減肩を放してくれ」  無責任なことを言うだけ言うと、華雄は趙雲の手を肩からどけて廊下の向こうへと姿を消してしまった。  趙雲は彼女を呼び止めることはせず、そのまま自室へと入り、自分の心に耳を澄ますことにした。  何故かはわからない。だが、確かにまるでもう一人の自分が何かを訴えかけてくるような奇妙な感覚が趙雲の中に起こり始めていた。  †  夕食を終えてから大分時間も経ち、夜も更けて、辺りが静まりかえってきた頃、北郷一刀の自室に白い影がゆらりと蠢いていた。  それは彼の下半身のあたりでごそごそと動き、何かを貪るように弄り回している。  窓から差し込む月明かりに照らされた青みがかった髪が怪しく煌めく。きめ細やかな細い指が目の前に聳える太く逞しい肉の塊を愛おしげに撫でる。 「ん……うっ……んぅ……」  刺激を与えると枕元から男性のうめき声が上がる。白い手がその男性の肉竿を包みこみ、ゆっくりと上下させる。すると、彼の息子は快感に喜びむせぶようにうち震える。 「ほう……こうすると気持ち良いわけか」  マジマジと肉棒を眺めながらそう呟くと、白い着物に身を包んだ女性が熱く猛々しい先端部に唇をあてがい、ちろと伸ばした舌で撫でる。 「んっ!」 「…………起きては……おらぬな」  一瞬腰が撥ねたため驚いて男性の顔を見たが、ぐっすりと気持ちよさそうに眠っている。それを確認した女性は意識を再び彼の分身へと向ける。  舌が触れた部分は濡れて鈍い光を放っており、それがまた淫靡な雰囲気を醸し出す。 「主……」  女性……趙雲はぽつりと漏らすと、ごくりと唾を飲み込んで口を竿部分に近づけていく。先程よりも大胆に舌を伸ばして、血管の浮き出た茎竿を舐める。  少しむれたそこは独特の塩味がある、おそらく寝汗をかいていたのだろう。そんなことを考えると益々興奮してくる。 (これではまるで変態……痴女だな)  そう思う反面それに対して否定的な考えも浮かんでいる。これは相手が目の前にいる人物だからするのであって、誰彼構わずするなんてことはない、と。  自室に戻ってから趙雲は考えた、ただそれだけに専念した。そして、その答えも見出した。 「ぺろっ……ん……ちゅ」  舌を這わせながら口付を何度も何度も愛おしげに繰り返す。徐々に茎竿部分は趙雲の涎でべたべたになっていく。  一蹴するように舌を動かし、仕上げとばかりに裏筋を一気になぞる。 「ふあっ……うっ……ううん……」  女性のようなよがり声に趙雲の背筋はぞくぞくと震え、ますます陰部を弄くるのに熱が籠もる。反り返った肉刀を舌でぐいっと押し込んでみる。が、途中で舌が滑って逸れると撓った弓が弾かれたように元の位置に戻ろうとして勢いよく動き、趙雲の頬をはたく。 「…………主の息子に張られてしまった」  くすりと笑いながら趙雲は当たった箇所を舐めるように舌なめずりをする。  そして、再び彼の陰棒を弄り始め、趙雲はおずおずと一刀の先端部を口の中へと含んでいく。想像以上に口内を拡張されて少し苦しいがそれ以上に妙な達成感を覚えていた。  彼女はゆっくりと手を上下させ、同時に亀頭を舌で転がしていく。 「んあっ……くぅ……ふあぁ……っ」  刺激が余程効いているのが一刀の身体がびくびくと小刻みに震えている。 (もう少し、動かいても大丈夫だろうか……)  趙雲は口唇愛撫の激しさを徐々に増していく。  すると、流石に異変に気付いたのか一刀が目を覚ました。 「ん? んぅ……うおっ!? な、何してるんだ、星……んっ」 「ふあ? おひられまひふぁふぁ、ふぁふひ」  驚いて顔をする一刀を上目で一瞥するも趙雲は熱心に一刀の男性器をしごき続ける。もごもごとさせたことが意外に効いたのか肉棒がぶるぶると震えて膨張する。 「ん……んあ……ちゅ、ぱっ……れろ……ん」 「くぅ……な、んで星がいる……いや、それ以前に……っ」  一刀が何か言っているが喘ぎに混じっているため良く聞こえないため趙雲は無視して亀頭を嬲り続ける。竿で片手を上下させながらもう一方の手で陰嚢を揉み続ける。  一刀がさらに慌てた様子を見せるが趙雲にはそんなことなどどうでもよくなっていた。限界ギリギリまで高めた一刀の息子を一心不乱に刺激することで頭が一杯になっている。  淫靡な水音を立てながら趙雲は一刀の肉棒をむしゃぶり続ける。既に表面張力な状態となっていた一刀の滾る性欲は直ぐに溢れることとなった。 「う、うあっ……で、出る……くっ」  一刀の身体が弓なりになり射精を迎えた。  音を立てるようにドクトクと放たれた白液を趙雲は嚥下しなければならないとして、一刀の一部を離さない。むせるような匂いを伴った糊状の液体をゴクゴクと呑んだ。 「ん……ぷはっ」 「せ、星……どうして……」  未だ意識がもうろうとしているのか一刀は譫言のように訊ねてくる。  まだ熱があるかのように上気した顔をしながらも趙雲は少しずつ冷静さを取り戻し、一刀に跨がるようにして顔を近づける。 「何故だと思われますかな?」 「……わからないから……聞いてるんだけどな」 「したい、と思ったからした……それだけですよ」 「あのなあ……冗談はいいから」 「ふふ、主のここはこんなにも固くなっておられるではありませんか。辛抱堪まらないのでしたら、この趙子龍の身体で思う存分消化なされては如何ですかな?」  一刀の両脚の間に陣取って肉棒を弄りながらそう言うと、趙雲は妖艶な笑みを浮かべ、ゆっくりと股を開いていく。着物と太腿の合間からは僅かに濡れて染みのできた派手な装飾の紺色の下着をちらりと覗いていることだろう。  一刀はそこから目を離せないと言わんばかりに熱い視線を向けながらごくりと唾を飲み込む。 「…………前にも行ったけど、誘ってくるなら容赦ないぞ、俺は」  そう言うやいなや一刀が身体の上に覆い被さってくる。趙雲はすかさず、あらかじめ考えていた反応を見せる。 「あ、主……ああ、いやぁっ! でも感じちゃう、びくんびくん」 「…………なにそれ」 「おや、お気に召しませんでしたかな?」 「いや、意味が分からない」  その言葉は本気なようで一刀はどこか引き気味な表情で趙雲から離れる。  趙雲は首を傾げながら身体を起こす。寝台の上に陰部をもろ出しの男と、夜這いに来た女が並んで座るという奇妙な光景が出来上がっていた。 「いえ、強引に押し倒されたとき、殿方というのは『口では嫌といいながら下の口は正直だぜ、うへへ』と抵抗するのとは真逆に熱を帯びてく肢体……そのような反応を望んでおられるものなのでしょう? ですから、主の願望を叶えて差し上げるべきかと……」 「そんな同情みたいなのいらないし、反応がまずおかしいだろ」 「おや、間違っておりましたか? 参考書にはそう書かれていたのですが」 「その参考書って……」 「七乃から借りたものです」 「七乃? 意外なところから――」 「まあ、雛里の本なのですが」 「七乃……又貸しかよ。というか、やっぱりか。それ以前に、どんな艶本を読んでるんだよ、あの娘は……正直、そっち系への関心度合いは朱里と一緒なんじゃないかと心配になるぞ、俺は」 「何か仰ったられましたか?」 「いや、なんでもない」  何かをぼそりと付け加えるように呟いたようだが、趙雲には聞き取れなかった。 「だけど、そうか……星も色々考えてるんだなぁ」 「なんだか、意味合い的に艶事関連限定で言われている気がするのですが」 「え? そう聞こえなかった?」 「主……流石に、それは私としても非常に不本意なのですが」  むっとした表情で一刀の顔を睨み付ける。一刀は申し訳なさそうに頭を掻きながらそっぽを向く。  そして、咳払いをすると趙雲の顔をみながら溜め息混じりに肩を竦めてみせた。 「でも、わかったよ。あそこまでさせちゃったなら、俺も星の気持ちに応えないなんて言えないよ」 「本当ですか、主」 「うん。でも、そうだな。一つ話をしよう……そう、一人の馬鹿な男の話」 「唐突ですな、それが何か関係があるのですかな?」  急なふりに趙雲はほんの少し身構える。何故か一刀は神妙な面持ちをしているのが気になるためだ。 「そいつはさ、大切な仲間と世界を守れずに新たな世界へとやってきたんだ。でも、そうじゃなかったんだ。その世界は前の世界から続いていたんだ」 「壮大な物語ですな……」 「はは、そうだな。で男なんだけどな、そいつはその世界にちょっとした希望と絶望を同時に抱いた」 「……希望と絶望」  表と裏、陰と陽のように相反する二つ。それでいて、どちらかがあればもう片方も存在する。ただ、それが同時に現れるというのは随分と希有な話である。 「世界が続いていたことは即ち大切な仲間たちの中にはそいつの知る仲間がいるってことだった。でもな、表面上は〝違う〟仲間なんだよ。外見も性格も何もかもが寸分違わぬ仲間、でも男の知るかつての仲間じゃない」 「それはなんというか奇妙な……それでいて悲しい話ですな」 「そう。とても辛いことさ、かつての仲間と重ねて見るなと言われても見えてしまう……それこそ、見たくないと思ってもね」  そう告げた一刀の顔は趙雲には悲壮に満ちたとても哀れなものに見える。 「でもな、それでも側にいられると知ったことは素直に嬉しかったのもまた事実なんだ」 「ほう、それが今の状況とどう関係しているというのですか?」 「まだ終わりじゃない。いいか、その世界は戦乱の世、仲間たちは世界のあちこちに散らばっている。もちろん、何も知らず互いに命のやり取りをすることだってあるんだ」  語る一刀の顔には次第に暗い影が差し始める。部屋の空気が急に重くなったように感じられる。 「もちろん、それを食い止めようと男はあがくんだ。その一方で、かつての世界から継続して傍にいる女の子たちのことも気になっている」 「気になっているのなら素直になってもよいのでは?」 「そう簡単にいかないんだよ。まあ、それは置いておいてだ。その食い止めようとするために、男は女の子たちの中で資格を持った娘たち以外を置いて飛び出したんだ」  ここまでの話を聞いて、趙雲はようやく彼が行動を起こした理由を理解した。彼の記憶に残る〝誰か〟を守るために彼は動いたのだ。愛おしくも遠い誰かの為に。  そう思うと、趙雲としては面白くない。要するに彼と共に歩く資格がないと見なされたわけだから致し方ないだろう。 「何故、私にそのことを打ち明けてくださらなかったのですか?」 「俺が離れても白蓮を守ってくれる人……頼りになる仲間を残していきたかった。これが一つだ」  頼りになると言われたことにちょっとだけ嬉しくなるが、それでも顔には出さずむっとした表情のまま一刀の言葉を待つ。 「そして、星。君も、俺にとっては掛け替えのない存在であると同時に懐かしい愛し人……なんだよ」 「っ!?」  どこか切なげな一刀の表情に趙雲の胸がきゅんと疼く。不思議な感覚だ、今ほど愛おしく思ったことがないのではと思うほどに心が彼を求める、狂ってしまいそうな程に胸が震える。  一刀の瞳は趙雲を写している、だがそこには愛おしさと共に繊細なものを前にしたときの労りの色が見える。 「なるほど……主は、そのためにあの日、私にあのようなことをしたわけですか」 「はは、まあね。星なら誘いに乗って強引に責めればボロを出すってわかってたから」 「つまり、主に手玉に取られていたわけですか」  そう思うとなんだか悔しい。他人を手玉にとって遊ぶのは好きだが、逆に良いように弄ばれたとあっては趙子龍の名が廃るというものだ。  それ故に、あの日から次機会が訪れたどう反応したらよいのかなど色々と考えていたのだが、いざ蓋を開けてみればなんとあっけないことだったのだろうかと趙雲は笑うしかない。 「くく……まさか、こんな簡単な答えがあったとは」 「どうしたんだ?」 「主よ、かつての私がどうだったかなど知りません。ですが、今の趙子龍は主を求めておりますよ……狂おしいほどに」 「星……でも、その想いはかつての――」 「野暮なことは仰らぬよう」  一刀の口を人差し指で押さえ言葉を遮ると、趙雲はやれやれと首を振る。  北郷一刀という人物は心優しい。そして、それ故に欲望に従うことよりも趙雲を傷つけることを恐れる気持ちが上回っているのだろう。  だが、趙雲から言わせればそんなもの杞憂に過ぎない。何故なら、彼女は彼を愛しているから。 「この子龍、誓って嘘偽りは申しておりませぬ。主の傍にいて、観察し、考え、そして導き出した結論こそ、主が欲しい、主に欲して頂きたいという願望……欲望なのです」 「……はあ。そこまで言わせてうじうじするのもダメだよな。なら、正直に言うよ。俺は星が欲しい。自分のものにしたい」 「主、では……」  寝台の上で膝立ちになりながら趙雲は一刀に詰め寄ろうとする。だが、一刀は「ちょっと待った」と言って彼女の動きを制する。 「折角だから、星のご希望に添えるようにしてみようか」  そう言うと、一刀はどこからともなく取り出した手ぬぐいで膝建ちになっている趙雲の目元を覆い、そのまま後頭部でぎゅっと結ぶ。すっかり視界は塞がれて何も見えなくなった。 「え、主? 何を……」 「いいからいいから、このまま俺は星に色々とやってくから素直に反応してくれればいいよ」 「いや、しかしですな。何も見えなくてはその――ひゃっ!?」  急に耳に息を吹きかけられた趙雲はぞくりと背筋を震わせながら悲鳴を上げる。視覚が奪われているためあらかじめ耐える準備ができず、無防備となってしまう。 「あ、主? ど、どこです、何か言って……ひゃんっ、主っ!」  一切言葉を発しない一刀の手が趙雲の太腿を撫でる。一つの感覚が無い代わりに他の感覚が敏感になっているのか、普通に触られているとは思えない程にくすぐったい、いやそれを更に強化したような感覚が触れられた箇所に走る。  だが、下手に抵抗すれば一刀を殴りかねないため動けずあちこちを触られて感じる甘い痺れを唇を噛んで耐えることしか趙雲にはできない。 「つ、次はどこを……あんっ、ちょ……急に」  身体の外側をなぞるように撫でられていたのに唐突に乳房を掴まれた趙雲の口からは艶っぽい声が漏れてしまう。 (どこから? いつ? 何もわからないから感覚が……んっ)  何が起こるかわからないことが不安を煽る、目が見えないことがこれ程までとは思わなかった。もし、戦場に立ったときにこうして目の前を見ることができなかったらあっという間に骸の山の一部となるだろう、などと的外れなことを考えてしまう。  だが、そんな関係のないことを考える暇すら与えないかのように全身への愛撫は続く。 「んっ……なんだか……凄く、触れれている感じが変……」 「目を閉じてると、違うだろ?」  耳元で囁かれて趙雲の身体がきゅっと締まる。  そうしている間にも一刀の手はゆっくりと、だが着実に腿の付け根へと進んでいる。腰布と素肌の間に滑り込ますように侵入してきた手の感覚に趙雲はぞくぞくとして妙な甘い刺激を感じる。 「……大丈夫か?」  再び囁いてくる一刀の声に耳がぴくぴくと痙攣しているのを感じながら趙雲はこくりと頷く。  先程から薄皮一枚剥がされたように鮮明な触覚に戸惑いながらも、趙雲は確かに口唇愛撫をしていたとき以上の胸の高鳴りを覚えている。 「……っ、……はっ……い……んっ」  思わず息が詰まりながらも、趙雲は身体の動きに遅れて漸く細切れに返事を返した。 「……ん、あっ……」  確実な進軍を行っていた一刀の指が彼女の下着の縁へと到達する。 「ふぁ……ん……あ、んっ――!」  一刀の手がそっと下着の上から身体に触れてくる。布一枚を隔てて触れられる性器。  ぞくぞくと背筋を駆けずり上がる衝撃に、口から嬌声が漏れてしまう。 「あ……ふっ……ん……はぁ……ぁ……っ……」  摩擦が繰り返される膣の入り口。敏感になっている趙雲の身体は、その動きに合わせてじっとりと汗を浮かび上がらせていく。 「ふ、普通の愛撫……であっていますかな?」 「ああ、別に特別な触り方はしてないよ……足りないのかな? それじゃあ――」  そんな返答が聞こえた後、指の動きが少し強めになり、趙雲は後ろに仰け反りそうになる。だが、何か固いものにぶつかってそれは遮られる。 (そうか……いま、私は主に抱きかかえられているのか……)  身体を這う快感を送り込む手のひらに戸惑っていて気がつかなかったが趙雲の背に覆い被さるように一刀の身体が感じられる。  そのことに安堵を感じて気持ちが緩みそうになる。その隙間に入りこもうとするじんじんとした甘美な痺れは徐々に趙雲の中心へと迫ってくる。 「ん……っ……はぁ……っ」  性感帯を弄られる事によって生じる快感。趙雲は想像よりも遙かに気持ちの良い愛撫に、心を蕩けさせていた。  一刀の手が胸元へと回る。素肌と生地の間へと指が入ってくるのが感じられる。 「……下ろすよ」 「…………え、ええ……お好きなように」  強がって応えるが、声は小さくて擦れるようだった。それが逆に恥ずかしくもあった趙雲の身体にするりと思いも寄らないほどにすんなりと布が擦れていく感覚がする。そして、あっという間に胸元が楽になった。 「脱がすのがお上手なようで」 「……こう言うのもあれだけど、慣れ…………かな」 「主……それは雰囲気ぶち壊しですぞ」 「ごめん……」  見ることはできないが、申し訳なさそうに眉尻を下げて頭を掻く一刀の顔が容易に思い浮かび趙雲はくすりと笑う。  だが、そんな笑みも胸に走ったぴりっとした感覚で消え去ってしまう。 「ひあっ……ま、前置きもなく……んっ」  乳房を掴んだ手で一刀がゆっくりとこねるように揉み始める。 「んっ……ふあっ……っ……」  入念に調査をするように弄ばれる胸元の白い双丘が一刀のごつごつ手によって形を変えているのが感覚でなんとなく分かる。 「これは結構官能的というか……」  ぽつりと呟いた一刀の声に趙雲の頬が上気する。見えないために自分の乳房の歪みがどうなっているのか正確にはわからない。 (そんなに……いやらしい形になっているのか)  そう考えるだけで様々な想像図が浮かび上がる。その一つ一つが趙雲の脳髄を刺激し、戦闘中のように気分を高揚させていく。 「うひゃあっ!?」  熱で浮かれつつあった趙雲の頭に痛いほどに甘ったるい感覚が走った。乳房を丹念に揉みし抱いていた手から伸びた指が唐突に先端を突っついたようだ。 「はぁ、はぁ……主……先程から……きゅ、きゅうすぎます……ぞっ!」  乳首を爪でかりっとひっかかれた趙雲は訴えている途中でありながら声を途切れさせてしまう。膝建ちの体勢でありながら勝手に爪先がぴんと伸びる。  指できゅっと摘まれたり転がされたりと弄ばれる先端部の桜桃の果実から贈られる衝撃で趙雲の口からは嬌声と涎が飛び出る。 「んはっ……あんっ……」 「それじゃあ、もう少し脱がすぞ」 「へ……?」  頭の中が真っ白になりかけていた趙雲にそう囁いたかと思うやいなや、一刀の両手が腰の横に回り、そこまで下ろされた着物に指が掛かり、ずるずると膝の辺りまで強引に下ろされていく。  趙雲は顔を熱くさせながらも成り行きに身を任せていた。  自分ではどうなっているのかを把握できないためか、趙雲は酷く恥ずかしいという気持ちでいっぱいになる。 「あ、主? あの……あまり、見ないで……」  着物と同時にずり下げられた下着は太腿の中間辺りにおり、陰部を隠すものは現在何も無い。 「……ああ」  声は趙雲の顔の斜め前からする。だが、背中には胸板の感触がある。  ということは、変事とは裏腹に一刀は顔をのぞき込ませているということだ。それを理解した瞬間、趙雲はぼっと火が付いたかのように体温が上昇したのを感じた。 (み、見られている……)  ドキドキと胸の鼓動が聞こえてくる。自分のものかはたまた密接している一刀のものか。 (見られているの……だな……)  のぞき込んでいるらしい一刀の目を意識して趙雲の下腹部が熱く疼く。肩、乳房、へそ、下半身……そのどれもが部屋の空気を直に感じている。  なによりも、股間は風通しが良くなっていることを感じ、晒された膣の肉が勝手にひくひくと動いてしまっている。膝立ちの今、両脚は肩幅ちょい開いている。  趙雲は恥ずかしさの余り思わず手で隠そうとするが、一刀の腕に阻まれる。 「ダメだろ……」  趙雲の腕をどけた一刀の手がそのまま陰唇に触れる。 「んっ…………っ」  趙雲は驚きながらもなんとか声を堪える。だが、割れ目の両側をなぞられるにつれて少しずつ吐息が溢れる。  ずっと感じている変な痺れがびりびりと首の後ろまで駆け上ってくる。 「はぁ、はぁ……んっ……ふあっ……」  ゆっくりと優しい愛撫が繰り返される。だが、その刺激は生やさしいものではなく、趙雲の心臓をばくばくと強く脈打たせる。  感覚が全て触覚に奪われたかのように一刀の指へと集中している。快感が強く、元々濡れ始めていた自分のそこはすっかりとろとろに蕩けてしまっているだろうと趙雲には察しがつく。 「はうっ……」  不意に指が膣内へと潜り込んでくる。腰はびくりと震え、脚に緊張が走り硬直する。 「あ……あっ……あぁ……」  視覚を奪われた趙雲には一刀の行動は唐突すぎる。ずっと、なんの予告もなく刺激を送り込まれている。 「あ、主……んっ」 「なに?」 「いえ……呼んでみた、だけ、です……っ」  頭が朦朧とし始めて自分がどこにいて誰にナニをされているのかを見失いそうになっていた……もっとも元から目は見えないのだけれども。  だから、愛しい人の名前を呼んでしまった。 「そっか……何か嫌だと思ったりしたら遠慮無く言っていいんだからな」  膣壁を指でなぞりながら一刀が優しい声をかけてくれる。趙雲は嬌声と吐息しか出ない口で応える代わりに小さく頷く。  穏やかな声は趙雲の心を安心させてくれる。そっと髪の毛に触れる手が安堵を与えてくれる。そして、同時に感情を昂ぶらせ、性器を弄る一刀の指から伝わる快感を一層強める。  自分の全てを包み込まれるような感覚に趙雲は心酔していく。 「……はぁ……はぁ……」  視界を塞がれた、普段とほんのちょっとの違いなのにそれが一段と変な気持ちにさせる。いつもならからかったり、他者を手のひらで踊らせたりして意地悪な笑みを浮かべる彼女が、今は一刀に支配されている。その事実が趙雲を不思議とぞくぞくさせている。  一刀の指が掻き回すように膣内で動き回り、その度に愛液が増し、そのくちゅくちゅという水音が趙雲の耳へと届く。それは彼女の羞恥心を煽り、興奮を覚えさせる。 「ん……あっ……んぅ……」  それから暫くの間趙雲の膣内を刺激し続けていた指が抜かれ、何だろうかと思いながら趙雲は後ろに倒れてしまい、寝台の上に仰向けで寝るような施政になってしまう。 (な、なんだ……なにが起こった? ……あ、主はどこに?)  急に背後から消えた安心の源が無くなり、ふっと沸いてきたような不安が広がる。だが、すぐに太腿付近に触れた手のひらの感触に消え去る。 「あ、主……どうなされたのですか?」 「ん? まあ、ちょっと……」  そう答える一刀の声は脚の方からする。どうやら場所を移動しているようだ。  何となくで一刀の居場所の目星をつけた趙雲の股間になにかが触れる。さわさわと撫でるようなそれは何十本、何百ぽんとある細い糸の束のようなもの。 (これは……毛か?)  これはなんだろう、そう趙雲が思った次の瞬間。 「ひゃっ……あぁっー!」  女性器にぬめりとした先ほど指されたときとはちがう刺激が走る。趙雲は驚いて反射的に脚を閉じようとするが、間には確かに感じた……人の頭部のようなものを。 「あ……主? まさか……」  撫でられている箇所の少し上の辺りに生暖かい風が当たる。股間のあたりに触れたのは毛……髪の毛。そして、この風は吐息。  つまり、今趙雲の両脚に挟まれるような位置に存在しているのは。 「あ……ああ、主っ!」  自分の秘唇を先程からなぞっているものがなんであるのかもわかった。舌と唇……一刀の顔が、趙雲の、秘部の、目の前にあるのだ。 「ま、まさか……そんあ、う、嘘ですよね、主?」 「ん?」  何がというような声を一刀が上げるのと同時に趙雲の陰部に生暖かい風が当たる。 「あ、主……そのようなところを……んあっ……だ、だめぇ……」  頭が沸騰して爆発するのではと思える程になり、両脚の間に手を伸ばす。指の隙間に髪の毛が絡みつき、間違いなくそこに彼の頭があることを実感する。  手を頭にあてがうものの、体勢の問題もあってかまったく抵抗にならない。 「大丈夫、星のここ、凄く綺麗だから……」  安心させるような優しい声でそう言うと、一刀は趙雲の腰を掴んで引き寄せる。深々と趙雲の秘部へと埋もれる一刀の顔。  縁を撫でていた舌が肉壷へと入りこんでくる。その肉の塊はまるで単独で生きている存在であるかのように膣内で蠢く。  腰の力が抜ける。  陰核すらも舌で舐め上げてくる、その行為によって趙雲は羞恥と恍惚に翻弄される。 「はぁ……んぅ……あっ、そん……ひっ!」  舌先の動きが少しずつ激しさを増していき、趙雲は思わず小さな悲鳴を上げる。力が弱まっていながらも両手を寝台に踏ん張らせて腰を逃がそうとするが、白い尻を一刀の手が掴んでいて上手くいかない。  その間に一刀はぴちゃぴちゃと陰部を舐めていく。 「うあっ……はっ……うう……そんあ……っ」  一刀の絶妙な舌技によって趙雲の中にある波が激しくなり、趙雲は全身を小刻みに震わせながら達してしまった。  趙雲はなんとか乱れた息を整える。想像以上の快感に驚きっぱなしだった。 「どう? 気持ち良かった?」 「……思っていた以上でしたよ。やはり、場慣れしている御方は違いますな」 「ぐっ……ここでそれを言うか……」  先程の失言のことを思い出したのか、一刀が苦々しい顔をする。  そんな彼の様子に顔を綻ばせながら趙雲は手を伸ばしながら語りかける。 「主……もう、いいですよ」 「……いいのか?」 「ええ。心構えもできておりますので」  趙雲の意図を察した一刀が趙雲の両脚を抱え、自分の腰へと回させる。そして、両脚の間に自分の腰を置いた一刀がゆっくりと濡れそぼった趙雲の秘部へと亀頭をあてがう。 「痛かったらいってくれ」 「ええ……」  緊張に胸が高なる中、ぬぷっという水音と共に太く熱いモノの先端が入ってきた感覚がした。  一刀の分身が少しずつ慎重を期すようにして趙雲のナカへと入ってくる。愛液でたっぷりと濡れているとは言え、やはり男根で強引に広げられていくというのには痛みを感じ、趙雲は僅かに顔をしかめる。 「痛い?」 「いえ、これしきならば耐えられます。続けていただいて結構」  なんとか、応えながら趙雲は堪える。一刀の肉棒が突き進むにつれて膣からはメリメリという音が聞こえてきそうな程な拡張が進められていく。  手は寝台の布をぎゅっと握り、足は絡めた一刀の腰を締め付けながら耐える。 「ふう、まずはこれくらいか」 「も、もう……入りきったのですか?」  これくらいなら大したこともない、そんなことを趙雲が思っていると一刀が苦笑を浮かべる。 「いや、まだ半分だよ」 「そ、そうですか……」  趙雲は動揺を隠しながらなんとか頷く。もしかしたら全部ではないかと思っていたが半分とは予想外だった。 「どう? 痛みは」 「平気ですよ。ですから、どうかもっと深くまで来てください」 「わかった……いく、ぞっ!」 「んっ!」  ずぶずぶと肉壁を掻き分けながら豪槍が奥へ奥へと向かっていく。ごりごりとした感覚が下腹部から広がっているのが変な感じだなと思うくらいにはまだ彼女には余裕があった。  だが、何かをぶち破るような音が身体の中で響いた瞬間、趙雲は眼を見開いた。 「うぐっ……んぅ……」 「流石に痛いよな……その、悪い」  趙雲を労るような申し訳ないというような情けない顔をする一刀に不敵な笑みを浮かべてふるふると首を振る。脂汗混じりの顔で言葉も出せないほどに歯を食いしばっているのがバレバレなのか、一刀の表情は晴れない。 「あ、主……なにか、話を……」 「そうだな。それじゃあ、今だから話せる俺の本音でも語ろうか」  何気に興味のある話題に趙雲は耳を傾ける。 「星はさ、冗談かどうかはわからないけど、何かと色々と誘惑したりしてただろ? あれ何でもないような風を装ってたけど結構堪えてたんだよ」  鼻の頭を掻きながら一刀が照れくさそうにする。  それからこれまでのことなどを交えながら色んな話をしてくれる。その度に見せる仕草が愛おしく、優しい声は気持ちを温かくしてくれる。  少し痛みがひいたことに気がついた趙雲はふっと表情を和らげると、一刀を見つめる。 「主……もう、大丈夫です。  今度はただこくりと頷くだけで、集中しているのかもの凄く真剣な眼差しで趙雲を見つめている。  ゆっくりと膣内にいる一刀の熱棒が動き出す。  まだヒリヒリとした痛みが残っており、肉茎が前後する度に引っ掻かれるような感覚がして趙雲は思わずぎりっと歯軋りをしてしまう。  一刀が心配そうな顔を浮かべるよりも速く笑みを作って大丈夫だと暗に語る。戸惑いながらも一刀の腰が趙雲の下腹部にぶつかってくる。  だが、少しだけ速度が緩やかになっている。 (気遣い……ですか)  相変わらずだと思いながらも内心ではその優しさに触れていることが嬉しい。  何度か一刀の腰が前後しているうちに趙雲は自分の内部の変化に気付いた。  同時に、一刀が荒い呼吸に交えながらうめき声を漏らす。 「うあっ、星のナカ、凄く絡みついてきて……んっ」  内壁やひだが一刀の肉棒に絡みついているのには趙雲自身も驚いていた。だが、それ以上に先程から疼くような痛みとは異なる別の感覚に戸惑っていた。 (ん……な、なんか……凄く……いい……)  痛みも残ってはいるが、それに追いつこうとするように強さを増す快感が生じ始めていた。 「主、もう少し無理をしても大丈夫そうですぞ」 「…………そうか」  それだけ言うと、一刀は唐突に趙雲の背中に腕を回して引き起こした。開かれた一刀の両腿の上に腰掛け、互いに顔を見合わせるような体勢となった。  そして、同時に趙雲の体重によってずん、と肉棒を深く膣内の奥へと沈み込ませることになった。 「はぁっ!」  趙雲の息が止まる、灰の中の全ての酸素を吐き出してしまっているような感覚だった。  徐々に戻ってくる酸素によって呼吸を再開していく。何も考えられなくなるような衝撃だった。 「やっぱり、ちょっと無茶だったか……?」  一刀が心配そうに訊ねてくるが、趙雲には何も答えられない。首を振ることすら今は辛い。ただぎゅっと一刀の背中に爪を食い込ませて痛みを堪えることしかできない。  ふうふうと荒い息をしながら趙雲は必至に呼吸を整えようとする。  そのとき、不意に一刀の手が、趙雲の髪へと伸びた。掬われた髪がはらはらと指の間から溢れていく。 (…………んっ…………)  彼の手が髪に触れているだけ、趙雲の心は何だか満ち足りていき、股間に残っていた痛みが不思議と和らぐ。  何度か髪を弄んだ後、一刀が不意に口付けをしてきた。趙雲の胸はこれ以上ないほどにどきりと高鳴った。 「なんだか、順序があやふやだけど……勘弁してくれ」 「……いえ、こういうのも良いもの……ですな……主、もう動いてもよいですよ」 「うん」  頷くと、一刀は少しずつ腰を動かしていく。  その一突きごとに趙雲の中に快楽の波を引き起こす。それは重なっていき段々と大きなものへと変貌していく。 「はっ……あっ……んぅ……ああんっ……」  徐々に激しさを増す、一刀の腰。それに伴い、趙雲の身体は下から突き上げられるように何度も撥ねる。  肉竿が内壁に擦りつけられて、あの甘い痺れを何重にもしたような快感を趙雲の脳内へと溢れさせていく。  息ができないほどに苦しい。身体がばらばらになりそうなほどに激しい衝撃に目眩すらしてくる。頭の中でばちばちと雷のようなものが何度も起こり、目の前がチカチカとする。 「あ、主……も、もう……んあっ……ああっ」 「俺も……だ、い、いくよ……星……うっ」  そして、趙雲の視界は点滅するように白と黒が交互に広がっていった。  すっかり精も根も尽き果て息も絶え絶えな趙雲の髪を指で弄ぶ一刀。  趙雲はぐったりとした倦怠感の中、彼の顔を見る。 「……主」 「何?」 「どうやら、この趙子龍。自分を取り戻したようです」 「……え?」  ぽかんと口を開け放った一刀の顔が可笑しくて込み上げる笑いを留めることなく表に出しながら趙雲は大切なことを告げる。 「私の初めてが二度とも主であったこと……至極光栄に思います」 「せ、星……本当に?」 「ええ、どうやら最後の瞬間に雷のようなものが走った折、その反動で記憶の封が剥がれ落ちたようです」  趙雲がそう言って微笑んでみせると、一刀は目元に前腕を乗せたままふるふると震え出す。 「よかった……そうか……凄く、嬉しいや」  触れる声の一刀に対して趙雲は瞼を下ろし手静かな声で語りかける。 「主。この趙子龍、どこまで行こうとも主のものであり、昇り龍がそうであるように天と共にあることお許しくだされ」 「ああ、ああ。星は俺と一緒にいればいい。それでいい、それがいい!」  そう叫ぶと一刀が趙雲の身体をぎゅっと抱きしめてくる。趙雲は腕の中で青年の顔を見て慈しむような笑みを浮かべて抱き返すのだった。 (離れませんとも。何せ、主と共にあってこその趙子龍だと思い知らされてしまったのですから)  そんなことを考えほくそ笑む趙雲を一刀が不思議そうに見つめる。 「どうしたんだ? にやにやしちゃって」 「いえ。嬉しくて仕方害のですよ」  そう言ってにっこり笑うと一刀が期待に満ちた瞳をするので、趙雲は悪戯な笑みを浮かべてこう言うのだ。 「行動の切欠はメンマでしたからな、やはりメンマは神が与えてくださった奇跡の象徴であると確信できましたので、その喜びがあふれでしているのですよ」 「なんだそりゃあ……」  眉を潜ませて残念そうに肩を落とす一刀。趙雲は彼に気付かれないようにぼそっと呟く。 「……こうして主との関係を変えてくれたのです。感謝せずにいられるわけがないではありませぬか」  そう、趙雲はあの極上メンマを神と崇めても良いほどに思っている。  なにせ、趙雲にとって愛し人と再び引き合わせてもらうという極上メンマ以上に素晴らしい至福の瞬間を与えてくれたものなのだから。  †  二人が結ばれた翌朝、一刀の部屋へ訪問者があった。それは、彼に今後のことについて話し合おうという目的とは別に彼の寝顔をみようなどという邪な思いをもった少女だった。  後ろで結った赤みがかった髪をゆらゆらと左右に揺らしながら部屋へ入った彼女は真っ先に寝台へと駆け寄り声を掛けようとする。 「おーい、一刀。起き……ろ?」 「んぅ……何事ですかな?」 「……いや、むしろ、こっちが何事かと聞きたいんだがな」 「やあ、おはよう」 「おう、おはよう……じゃない! なに自然に挨拶してるんだ、お前は! 少しは恥じらうなり焦るなりしろよ!」 「え? 白蓮は、俺と星がこうなるの嫌だったのか?」  きょとんとした顔で訊ねてくる一刀に公孫賛は若干の殺意を覚えながらも堪える。 「そういうことじゃなくてだな……」 「ふむ。では、主。我らは共に駆け落ちと参りましょうか……さあ、服を手に取り今すぐ!」 「お、おい! それは不味いだろ」  急に変なことを言い出す趙雲を一刀が慌てた様子で止める。公孫賛は一刀がまだまともな考えを持っているのだなと胸をなで下ろす。 「流石にこんな布一つで外に出たら変質者だろ。せめて下着をだな……」 「そっちかよ!」 「え?」 「え、じゃない! お前、寝ぼけてるだろ!」 「ふあぁ……そうだな。じゃあ、寝るか……」 「白蓮殿は何をしに来たのかがまったくわかりませんな」  あくびを噛み殺しながら一刀は寝台へと戻り、のそのそと横になる。趙雲もそんな青年の隣へと潜り込む。  公孫賛はぷるぷると震える拳を強く握りしめながら精一杯の声で叫んだ。 「お前ら、いい加減にしろー!」  朝一番に幸福な時間を過ごそうとした一人の少女は疲労を募らせる一時を過ごすハメになるのだった。  また、この日を境に一刀の部屋へ侵入しようとする少女とそれを阻もうとする少女の妙な攻防があったりするのだがそれはそれ、別の話というやつである。