「無じる真√N-拠点イベント40」  旭日の陽光と空気の澄み渡った中、北郷一刀の部屋では妙にぎこちない歩調の人影が部屋の主である少年の枕元へと近寄ろうとしていた。  快眠を絵に描いたような寝姿を晒す一刀の元へと歩み寄った人影が彼に向かって手を伸ばす。 「起き――朝――」 「ん……んぅ……」 「ご主人様……起き――」 「んぅ……月ぇ?」  寝ぼけ眼に映り込んだ眩しいほどの白さが目立つ前掛け。  服の上からもわかる程よく締まっていそうなくびれ。  ふくよかとは言い難いがそれでも柔そうな印象を与える胸元。  それらを視認した一刀の脳は、自分の世話をしてくれる侍女ことメイドの少女であると判断した。  一刀は寸秒だけ考えた後、自分の身体を揺すっている彼女に対して唐突に抱きついた。  胸に顔を埋めると、やはり女の子らしいふっくらとした感触に包まれ、一刀の鼻に甘い匂いが届き眠気が増大していく。 「ひっ」  小さな悲鳴が聞こえる。  一刀はそれに気付きながらも無視して顔をふにふに乳房へとこすりつけていく。 「良い匂いだな……うん、好きだな」 「なっ……ななっ、何しやがるんだ!」  ごっという鈍い音が部屋中へと響き渡るのと同時に一刀は先ほどまでのマシュマロのような感触から一転して固く冷たい床へ顔を密着させることとなった。  自分の知る少女にしては違和感のある反応に一刀は頭痛に歪む顔を上げる。 「何をするだぁー! って、猪々子?」  そこには青磁色の髪を逆立てながら一刀を見下す少女の姿があった。 「……い、いきなり何すんだよ!」 「いや、というかなんで猪々子が?」  一刀は確かめるように文醜の姿をまじまじと観察する。  彼の野望の一つとして普及させつつあるメイド服を身に纏っており、それだけでも普段とは雰囲気が違う。  そのうえ、更にバンダナは付けておらず、代わりに濃藍のリボンで髪を小さく結ってあるその姿は活発そうでありながらも侍女の雰囲気もさりげなく感じさせる。 「じろじろ見るなよ」  気恥ずかしそうに頬を赤めつつ睨んでくる文醜に一刀は首を傾げる。 「一体どうして急にそんな格好を?」 「この間言ったろ、あたいがこのめいどってのをやるから斗詩のめいど姿堪能させろって」 「そうだっけ?」 「そうだ」  むくれながら詰め寄る文醜に後ずさりしかける一刀だったが、ふと過ぎった思考がそれを食い止めた。 「時に猪々子くん」 「なんだよ急に……」 「君はメイドなる者が一体、どのような存在であるかわかっているのかね?」  存在しないメガネをくいと押し上げながら一刀は問い詰めるように文醜へとキツイ視線を送る。 「し、知らないけど……この服着ればいいんだろ?」 「何もわかっていないじゃないか!」  一刀はかっと眼を見開いて先ほどと立場を逆転するように文醜へと詰め寄る。 「事前に知っておかねばならないことがあるのだよ」 「そ、そうなのか……というかそのしゃべり方やめてくれ、何か腹立つ」  一刀の威厳にたじろいだのか文醜が微妙ではあるが身体を後ろへ反らしている。  †  文醜は急にテンションを上げてきた目の前の男に別の意味で脅威を抱いていた。  そんな彼女の内情など知る由もない男はずいと顔を迫らせてくる。 「知らないのか? あれを」 「え、あ、ああ……」 「ならば、教えておくか」  にやりと笑みを浮かべると、一刀は五本全ての指を広げて手のひらを文醜の前に突き出す。  その形に文醜は見覚えがあった。 「ぱー、だっけ?」 「違う! 俺的、メイド五箇条だ!」 「……そんなの知るわけないだろ」 「だまらっしゃい!」  どこか文醜の主人である女性のような顔をする一刀が彼女の言葉をぴしゃりとはねつける。  正直、気持ち悪いと思った文醜がさりげなく後ろに下がって距離を空けるが、一刀はそれをぐいぐいと詰めながら五箇条を勝手に語り出す。 「一、心技体の鍛錬を怠らざるべし。奉仕の心をいつでも胸に、それを体現するためにも家事の基礎から妙技まで覚える。そして、何より大事な資本となる身体の調整を怠らない」 「まあ、それは侍女とかでも似たようなものだよな」 「一、仕える以上、主を主と見て接すること。主への助言、忠告、補佐はいいけど、馬鹿とか間抜けとか、変態とか、チ●コ人間とか、下半身思考男とか、そういう別の意味でくる発言はしないこと。結構傷つくんだぞ!」 「知るかよ、そんなこと」  何故か涙目になっている一刀は拳を握りしめるとぐしぐしと目元を拭い、胸元で拳固に力を込める。 「一、その佇まいに反することがなきよう、淑やかであれ。主人を蹴り飛ばす、しばき回すなど言語道断だ! 変な扉開いて新たな自分を見つけちゃうだろうが!」 「何の話をしてるかわかんないんだけど……」  いやに息を荒くしている一刀の姿を見て文醜は若干引き気味だった。 「一、主人の幸せが己の幸せであれ。ただし、そこには愛を込めよ。主人を喜ばせようとあれこれ試行錯誤しながら尽くす。その考えこそがメイドであり続けるためにもかかせないことだ。愛がなければ継続は無理だろうし、何よりメイド魂が感じられん。ま、何よりその方が俺が嬉しいしな」 「いや、あたいが愛を向けるの斗詩だし……」  腕組みしてうんうんと頷く一刀を半眼で見ながら文醜はこの馬鹿に対して呆れ始めていた。 「一、メイド服は安易に脱がざるべし。メイド服は戦場を駆け抜けるための装束なのだ、故にこれを脱ぎ捨てると言うことはメイドとして大打撃を受けてしまうことになる。それに……メイド服を着たままだからこそ普段とは違う興奮ができるわけで」 「腐ってやがる……エロすぎたんだ」 「そ、それは酷くね?」  気持ち良さそうに語っていた一刀が肩を落としている。 「だってなぁ、どう考えてもチ●コ脳じゃん。それより今言った何箇条だっけ? それってさ、詠は結構破ってるんじゃないか?」 「はうあっ!?」  一刀は眼を剥いて動揺を露わにすると、胸を押さえながら吹き飛ぶようにして寝台へと倒れ込んだ。  文醜も急なことに駭然として一刀の顔をみつめる。 「どうしたんだよ、アニキ」 「随分と痛いところを突くじゃないか……そうさ、これまでで守っていたのは月と斗詩くらいだ。後は詠、麗羽、美羽、みんな五箇条に則っていないんだ」 「それは、面子が面子だからなぁ。期待する方が間違ってるだろ」 「それでも期待しちゃうんだよ……悔しいけど、俺は男の子なんだな」  ふっと微笑を浮かべながら流し目で見てくる一刀に文醜は白い眼で返す。 「ただのスケベだろ。アニキの場合」 「失敬だな、君は。メイドさんに癒やされる、それは男のロマンなのだよ」 「それだけじゃないんだろ?」 「まあ、メイドさんとにゃんにゃんできたらそれはそれで……」 「結局、スケベ心丸出しなだけじゃん」 「はっ!? ゆ、誘導尋問とは卑怯な!」  一刀はそこに机があるかのように何も無い空間を叩く。  無駄に良い動きで反応をする彼に対して文醜は呆れを通り越し本格的な頭痛を覚え始めていた。  文醜の視線の意味に気がついたのか、一刀は咳払いをすると場の空気を切り替えるように真剣な表情を浮かべる。 「とにかく、五箇条にそぐわなかった面々も服装だけはきちっとしていたんだ。色んなバリエーションに別れていたけどな」 「ふうん、そうなのか」  心底どうでもよかった。 「それに比べて……なんだ、その格好は?」 「へ?」  一刀に指摘されて文醜は改めて自分の服装を見る。別段おかしなところはない。  何が言いたいのだろうかと彼の顔を見ると、顎に手を当てて一点を見つめている。 「着こなしはそれなりにできているようだが、甘い。なんだその胸元のだぼだぼは」 「……これは斗詩のを拝借したからだ」  すかすかの胸元をぽんぽんと叩いて項垂れる文醜。  服の微妙な寸法の違いも大抵は帯などを強めに締めたりすることでどうにかなっていた。だが、一点の差だけはどうにもならなかった。  意味を察した一刀が眼を反らし、気まずそうに頭を垂れた。 「えっと……その、ごめんなさい」  沈黙が流れ、どちらも口を閉ざしたまま何とも言えない空気となる。  空気を打破しようとしたのか、一刀は明るい笑顔を浮かべ親指を立てて文醜に見せつけてくる。 「俺は猪々子のおっぱいも好きだぞ!」  何も言う気になれず、文醜は黙って彼の頭に拳骨を振り下ろすのだった。  †  真昼の太陽がじりじりと修練場を照らしている。  ゆっくりと流れる風が周囲の木々を揺らめかせている。  その一画で文醜はその細腕からは想像がつかない怪力で斬馬刀のように大きな剣……斬山刀を振り抜く。  ボゴンと投石機による攻撃でもされたかのような音と地響きが起こる。  大地は大きく抉られるが、そこに獲物の姿はない。  吐き捨てるような舌打ちをすると文醜は視線を敵へ向ける。  彼女は先ほどからひらひらと蝶のようにまって文醜の斬撃を避けていた。  歯軋りをさせつつ、文醜は上段の構えを取る。  ふっと息を吐き出しながら上方からの振り下ろしを行う。  しかし相手はそれを刃すれすれのところで交わし、滑り込むようにして文醜の懐へ迫ってくる。 「くそっ、相変わらず細かい動きしやがってぇ!」 「甘いぞ!」  舌打ちする文醜へ向けて中段から牙のごとき二本の刃による突きが放たれる。  直線的な動きで襲い来る龍牙の一撃を文醜は敢えて前進することで強引に肩当てへと接触させる。  龍牙の刃は文醜が左にのみつけている肩当てをごりごりと削る。表面を穿った槍はそのまま彼女の後方へと流れていく。だが、その際に起きた振動で文醜も顔を歪め斬山刀を動かせなくなる。  彼女はそのまま距離をとり、息を整えつつ相手……趙雲を睨み付けた。 「や、やっぱ強ぇな……」 「ふ、お主が注意散漫になっているだけだろう?」 「なんだと!」  鼻で笑われむっと眉をしかめる文醜だが、趙雲の反応は変わらない。 「何があったかは知らぬが、いつもの集中力が感じられん。そんな中途半端な状態で戦場に出たらすぐに死ぬぞ?」 「うっせぇ! 余計なお世話だっつの!」  大ぶりな一撃。  もちろん、そんなものが当たるわけもなく、趙雲はひらりと舞うようによける。 「やれやれ。本当にどうしたというのだ? 伸るか反るかな博打精神でいるときの方が今より余程太刀筋も良かったというのに」  趙雲の言葉に文醜の眉がぴくりと動く。 「少なくとも数十倍はマシだっただろう」 「あたいはいつも通りだ! 何もおかしくなんてないっつの!」  文醜はうなり声を上げながら斬山刀肩へ担ぐ。  趙雲の言葉を聞いているだけで嫌に汗を掻いていた。  べたつく手汗を拭い得物を握り直すと、文醜は大地を踏みしめながら八双の構えを取る。  バンダナの下から流れ落ちる汗が頬を伝う。  趙雲の動きを予測していう。  前方か、後方か。はたまた右か左か、それともまた別か。  文醜は一箇所に全てを賭けると思い切り踏み込んで斬山刀を振り下ろした。 「そこだぁ!」  その一撃で勝負は終わった。  それからしばらくの間、文醜は修練場の一画で大の字になって寝転がっていた。  どこまでも広がる青い空が今はいやに忌々しい。  結局、趙雲には避けられ反撃を防ぐことができず敗北を喫した。  元々勝てる可能性の低い相手だった。とはいえ文醜からすればそれを面白く思うところである。  しかし、先程の鍛錬では普段通りに楽しむことができなかった。  吹き抜けるそよ風が汗を拭い去っていく。 (やっぱ、女らしくないあたいじゃ……めいどなんて無理なのかなぁ)  気がつけば、今朝のことを思い出して気分がめいっている自分がいることに文醜は気がつく。  今日はずっとそのことで頭がいっぱいになっていた。趙雲にもそれを見破られていた。  様々なことに対して溜め息を吐きながら、ぼんやりと空を眺める文醜の耳に未だに修練をしている少女たちの声が届く。 「どうしたのじゃ、七乃! 妾に真の力を見せてみよ!」  小柄な少女が自慢の金髪をふりふりと揺らしながら満面の笑みで張勲へと語りかける。 「そんなこと言ったって、相手はお嬢さまでなくて恋さんなんですよぉー! 死んじゃいますってぇ!」 「…………よそ見するのは、よくない」  ぼそっと呟く呂布の言葉をかき消さんばかりの轟音をさせながら方天画戟が修練場の地面をえぐり取る。 「ひぃぃぃ! 大体、なんで私まで、きゃーっ、参加しないと、いやーっ、いけないんですかぁ!」 「そら斗詩が何か呼び出されてどっかいっちまって人が足りないからだろ」  大地で肘を支えた文醜は横になったまま頬杖をついてぶっきらぼうに答える。  半泣きの状態の張勲が文醜の言葉に悲鳴混じりの抗議をする。 「もっと、ひぃっ! 別の人がいるんじゃないんですきゃぁぁぁぁ!」  袁術親衛隊正式採用鋼剣を両手で持ったまま、ぴょんぴょんと跳ね回りって逃げる張勲とそんな彼女に対して手加減してるのか不明な様子で襲いかかる呂布。  まるで捕まって溜まるかと逃げ回る兎と、それを狩ろうとする猛獣のような光景がしばらく続いた。  †  へばって俯せ気味になり、腰を天に突き出すような姿勢で眼を回している張勲の元へ袁術がぱたぱたと駆け寄っていく。 「頑張ったのう、七乃」 「うう、もう美羽さまのハチミツを用意できなくなるかと思いましたよ……」 「な、それは困るのじゃ。ようやった、七乃。よくぞ生還したのじゃ!」 「美羽さまー」  ひしっと互いに抱きしめあい涙する二人にをみながら文醜は身体を起こし、あくびを噛み殺す。 「ん……まったく、愉快な奴らだよな」  苦笑を浮かべた文醜は胡座をかいたまま肩を回すなどして身体をほぐす。  そこへ駆け気味の足音が近寄ってくる。 「あれ、麗羽さまじゃないっすか。どうしたんです?」 「猪々子。ちょっと、よろしいかしら?」 「え、あたいに何の用です?」 「少々、力仕事を頼みに来たんですの。荷物運びですけれど、勿論やっていただけますわよね?」 「はぁ、別に構いませんけど……」 「斗詩さんは、いませんのね?」  袁紹が修練場をきょろきょろと見渡しながら訊ねてくる。 「あれ? 麗羽さまは何も知らないんですか?」 「わたくしが知るわけないでしょ? 何をおしゃりますの」 「おかしいなぁ……確か、斗詩を呼びに来たやつが麗羽さまがどうのって」  文醜は修練場へと来る途中のことを思い出す。  廊下を歩いている二人の元へ一人の兵士がやってきて、顔良は何やら会話をした後、青い顔でどこかへと慌てた様子で飛んでいったのだ。  その時、確かに「袁紹様が……」と兵士が言ったのを文醜は覚えていた。 「何をぶつぶつ言ってるんですの? ほら、行きますわよ」 「ま、いいか」  ずんずんと一人で先へ進もうとする袁紹の後を追って文醜も歩調を早めていく。  袁紹と共に門の付近へと到着した文醜の前には彼女の倍はあろう高さに積み上がった荷物の山がそびえ立っていた。 「え……もしかして、これ全部あたいに運べって事ですか?」 「――なるほど、つまり……あの箱のがあれで、そちらの小瓶が例の……そうですのね」  目の前に広がる光景に呆然としながら文醜が声をかけるが、袁紹は何やらここまで荷物を運んできたと思しき商人とひそひそと話をしていて気付かない。  文醜はそっと近づき聞き耳を立てる。  わかったのは、袁紹がとんでもない額の買物をしてその支払いを全て一刀に回したらしいということ。  金額には驚いた文醜だったが、別に自分にとってはどうもよいことばかりだと気にすることを止めた。 「しかし、この量をあたい一人って……無理だろぉ」 「さ、猪々子。ちゃきちゃき運びなさいな」 「斗詩さえいればなあ……どこいったんだよ。あたい一人に面倒押しつけて」  ぶうぶうと文句を垂れても状況は変わるわけもなく、荷物の山は依然変わりなくそこに巨大な姿を晒し続けている。  文醜は肩を落とし、諦めの境地に達すると、ここまで持ってきていた斬山刀を近くの木の枝にかけて荷物運びに取りかかることにした。  †  翌日、またもや文醜はメイド服へと着替えて一刀の部屋を訪れていた。  今度は急遽用意した自前のメイド服であり、勝負を賭ける気満々である。  そう、顔良のメイド服姿を堪能するための約束を取り付けるまでは彼女も諦めるつもりはなかった。 「なんだかんだでめいどとして認められてないからな……」  一刀との話ではメイドになることで顔良のメイド姿を近くで、というものだった。  しかし、肝心の一刀が文醜をメイドとして認めなかった。  だが、彼女はついに秘密兵器を手に入れた。 「ひっひっひ。こいつを使えば、辛抱たまらなくなるだろうな」  半透明の小瓶を目の前で軽く振りながら文醜は邪な笑みを浮かべる。  袁紹がそれを仕入れた意図が不明な物品の中からくすねてきた薬だった。  かなり効果があり、しかも即効性の媚薬であるという説明を盗み聞きしていたのだ。 「不本意ではあるけど、追い詰めて手玉にとってやれば……へへっ、斗詩ぃ、待ってろよ」  文醜の計画は単純なものである。  一刀に媚薬を飲ませ興奮した状態に。すると、手近な文醜でその欲望を吐き出そうとするはず。  そこで彼女が一刀を上手くじらして合格を引き出す。  その後は、仕方ないので一発ぬいてやり、文醜は文醜で顔良へ欲望を向ける。 「完璧すぎる作戦だ。さすがあたい……」 「ん、んぅ……」 「おっと、少し気が昂ぶりすぎちまったかな」  寝返りをうった一刀が文醜の方を向く。  文醜は小瓶と睨み合うことしばし、中身を自分の口へと含む。 「せめてもの情け。あたいが口移しで飲ませてやろう……」  こぼさないよう口先を伸ばしつつ、ゆっくりと一刀の口元へ狙いを定める。  逞しさの中にも柔和な印象をもたらしている少年の顔が視界いっぱいに広がるまで接近する。 (み、妙に……どきどきするな……い、いいのかな、いいんだよな?)  文醜は上気した顔の先でぷるぷると震える唇をゆっくりと近づけていく。  その瞬間―― 「ん、んああっ、来るな、ちょ、貂蝉! あっ――!」 「んぐっ!?」  唐突に暴れた一刀の腕が勢いよく衝突し、文醜は薬をごくりと飲み干してしまった。 「げっ……あ、あたいが飲んじまった……ひっ」  どくどくと心臓が早鐘のように脈打ち、鼓動が高鳴っていく。  身体の芯からわき出てくるように熱が起こり、体温がみるみるうちに上昇していく。 「く、苦しっ……それに、熱くなってきて……うっ、アニキが起きる前に鎮まって……ふぁ」  文醜のスカートの中、ひいては下着の奥で女の部分がきゅうきゅうと切なくうずき出す。  顔は完全に火照りきり、止めどなく溢れる涎でびちょびちょになっている唇からは熱い吐息が漏れている。 「ん……んぅ、だからやめろって言ってるだろうが! あれ?」 「…………」 「猪々子?」 「な、なんだよぉ」 「そんなとこで突っ立ってどうしたんだ?」  あくびを噛み殺しつつ、一刀は頭をぼりぼりと掻きながら寝ぼけ眼を文醜へと向ける。  文醜は彼に背を向けたまま胸元を押さえていた。真っ赤にそまり汗ばむ顔を見られまいとするささやかな抵抗だった。 「ん? 様子がおかしいような」 「き、気のせいだろ?」 「いや、顔を見せてみろ」  そう言われた文醜が逃げようとした矢先、一刀の手が彼女の頬に触れた。 「なんか、熱いぞ……風邪でも引いたのか?」 「ひうっ……うあ……くぅ」  触れている一刀の手のひらから電撃を送り込まれたかのように激しくも甘い痺れが駆け巡り文醜はそれを堪えるので精一杯となっていた。  そんな彼女の様子に気がつくこともなく一刀は手を引っ込めた。 「馬鹿は風邪引かないなんて言うけど、体調管理もできない程の馬鹿だと逆に引くからな……」 「……はぁ、はぁ……べ、別になんともないって」 「ん? 本当にどうしたんだよ、絶対変だって」  眉をしかめた一刀がぬっと腕を伸ばしてくる。  その手が文醜の二の腕付近を掴んだ瞬間、彼女の全身を先ほどよりも強みを増した感覚が走り、ついにはその場でへたり込んでしまった。 「な、なんだ!?」 「あぅ……ちょ、ちょっと待って……」  ぶるぶると震えのとまらぬ身体を抱きしめながら文醜は一刀に小瓶を手渡し事情を説明する。 「つまり、この媚薬を誤って自分で飲んでしまったと」 「……うん」 「自業自得だな……とはいえ、大丈夫か?」  空の小瓶を見ながら一刀が訊ねてくる。 「ちょっと……まずい、かも。なんか、さっきから身体中が熱くて、頭もぼうっとするし、ヘンになりそうで……」 「だけど、効果はしばらくは抜けないんだろう?」  小瓶から眼を離した一刀がふらふらの文醜を流し目に見る。  文醜が小さく頷くと、彼は溜め息を吐いて頭を抱える。 「なにやってるんだよ……」 「あ、あたいは……ただ、めいど姿の斗詩を食べ……夢を叶えようとしただけなんだ」  そう言って立ち上がろうとした文醜だが、足をすべらせて一刀に向かって飛び掛かるような形で倒れてしまう。  一刀に抱き留められたまま文醜は床へと倒れ込む。 「いてて……どっか打ってないか、猪々子」 「う、うん。あたいは何処……ひぅっ!」  文醜は瞳孔を開いたまま息を呑んだまま黙り込む、いや呼吸すら出来なくなっていた。  転倒の際に両脚で挟み込んだ一刀の膝が彼が身体を起こすのと同時に文醜の秘部を直撃していたのだ。  歯をがちがちと鳴らせながら文醜は頭の中に火花が散る映像を見た。 「う……あっ、んぅ……」  じんじんと頭に向かって響いてくる官能の調べを奏でようと文醜は一刀の腿から膝にかけて線を引くように腰を前後させていく。  一刀の脚と秘裂が擦れる度に文醜の口からは吐息と小さな喘ぎが溢れ出る。接着面からはくちゅくちゅという淫靡な水音が飛び交いそれがまた文醜の心を昂ぶらせる。 「しっかりしろって、相手は俺だぞ! 斗詩じゃないんだぞ、おい、見えてるか」 「そ、そんなことイッたってぇ……うぁっ、はぁ、くぅ」  制止の言葉を聞きながらも文醜の腰は前後運動は一層速さを増し、淫音も部屋中に響くほどに大きくなっていく。 「とまらないぃ……らめぇ……とまらないのぅ」 「し、仕方ない。一度イかせた方が楽だろうし……」  何やら呟いた一刀がわしわしと文醜の尻朶を握りしめて揺さぶってくる。 「んぅっ! は、あぁ……はぅっ、あぁ! んぅ……」  口から飛び散る飛沫もなんのそのと文醜は乱れる。  とろりとした液体が一刀の服へと飛び散り、シミをつくっていく。  ふらつく腕を一刀の下半身、太腿の付け根へと添えて更に激しく腰を動かしていく。 「は……はぁ、はぁ……んぅぅぅ」  ぶるぶると痙攣をした後、文醜は大きく息を吐き出した。  全身の痺れもまだ残っているものの、文醜の分頭の中の靄も大分抜けてきていた。  そして、同時に自分の行為を振り返る余裕も出てきた。 「あ、あたい……ぐすっ」 「仕方ない。うん、仕方なかった……これは事故だ、な?」 「う、うっさい。関係な……くないよな、服汚しちゃった」 「気にしなくていいよ。それより、落ち着いたか?」 「うう……斗詩には……んっ、言うなよ」 「わかってるよ」  そう言って一刀がにこりと微笑む。  不思議と安心しかける自分に動揺し、文醜はばっと立ち上がる。彼女の股ぐらから一刀のズボンにかけて銀色の糸が張っていた。  それを見て益々顔を赤くすると、文醜はふらつく足で彼から逃げるようにして部屋を出て行く。 「お、おい! 無茶しない方がいいって」 「うっさい! ほっといてくれ……」  一度ならず二度までも彼の前で失態を演じてしまった。  もっとも、一度目は一刀の意識があったわけではなく文醜しかしらない。だからこそ恥も堪えられたが今回のはばっちりと見られた。 「どうすりゃいいんだよ……」 「おい、猪々子ー!」 「げっ、く、来るなぁ」  ふらふらと左右に揺れながらも文醜は背後から追いかけてくる一刀から逃げる。  イっても武官。頼りない足取りだろうと関係なく、ひたすら逃げ回る。  そうして、続けた逃走の後、門の付近まで来ていた。  口元から垂れた涎を拭いながら木陰に隠れようと木の方へと近づく。 「どこだ、猪々子!」 「ま、まずっ!」  近づいてくる声に焦ったためか、文醜は木に正面からぶつかってしまう。  次の瞬間、昨日から置きっぱなしになっていた斬山刀が文醜へと落下してきた。 「あ、そういや……忘れてた」  目の前にある光景に文醜は苦笑を浮かべる。  弱っているうえに、長期にわたり走り続けた彼女にはもう避けるだけの余裕はなかった。  文醜は眼を瞑り、受け入れることにする。  ざしゅっという音、そして遅れること一拍。文醜の身体にどしっという衝撃が走る。 「…………あれ?」  特にこれといって何も感じない。本来ならあるはずの傷口からはっする熱のような痛みもない。  恐る恐る開かれた文醜の瞳は確かに血の赤を見た。  だが、それは自分を抱えた人物の者だった。 「あ、アニキ?」 「大丈夫だったか? 危ないな、武器の管理くらいしっかりしておかないと……」  諭す一刀の声は僅かに細く力がない。  何より、その二の腕からは血が流れ出ており彼の象徴でもある白い衣に赤い染みを広げている。  傷ついた左腕は力なくぶら下がりその表面を血が流れ、指先に滴っている。 「あ、あ……あぁ……」  この程度の怪我なら戦場で見慣れている。  なのに、文醜の顔からはみるみる血の気が引いていく。  「本当に、大丈夫か? 猪々子」 「あ、あたいを気にしてる場合じゃないだろ!」  我に返った文醜はすぐに抱えられる側と抱える側を逆転させて、自分の太腿へ彼の頭を乗せる。  彼女の顔を見上げる一刀がくすくすと笑う。 「なんだ、血を見て慌てるなんて猪々子も十分女の子らしいんじゃないか」 「何馬鹿なこと言ってるんだよぉ……わき水みたいにどんどん血が出てきてるんだぞ!」  何故か焦燥感が絡みついて離れなくなっている文醜の頭に手のひらが触れる。  一刀が撫でていることに気付くのに時間が掛かった。  彼は弱々しい力で絡みつく文醜の青磁色の髪と格闘しながら手を動かしていく。 「と、とにかく止めないと……」  髪がくしゃくしゃになってしまうのも構わずに文醜はひたすらに一刀の左腕を持ち上げて、患部付近を手のひらでぐっと押さえ込む。  今はメイド服に身を包んでいるため指無し手袋すらしてない白い手は一刀の血で赤く染まっている。 「そ、そうだ……」  文醜はいそいそと自分の頭から濃藍のリボンを取り外す。 「どうした……んだ?」  質問を投げかける一刀に対して言葉ではなく行動で返すように一刀の腕の付け根をリボンで縛る。 「これくらいしか思いつかなかったけど止血には使えるだろ……長さがたりないな」  ぎりぎり届きそうだが、これでは適切な止血ができない。  文醜はすぐに近くに転がっている斬山刀を拾い、メイド服の裾を切り裂いていく。 「お、おいおい……もったいないことをするなぁ」 「馬鹿なこと言ってんなよ」  嗜めるように一刀の顔を一瞥すると、剥かれた果実の皮のようになっている生地を彼の腕の付け根に回して縛り付けていく。 「よかった。今度は、大丈夫そうだな。応急措置だからな、少し落ち着いたらすぐ治療して貰わないと」 「……ありがとな」 「何言ってるんだよ……全部あたいのせいだ。迷惑かけて怪我までさせて、そのうえ服もこんなにして……これじゃあ、めいどとして不合格ってのも仕方ないよな」 「いや、合格だよ」  一刀の言葉の意味がわからず、文醜は数秒の間言葉を失う。 「え? 今、合格って言ったのか?」 「そうだよ。意外だったけど、猪々子は女の子らしいところがあるし、処置してくれているときは結構母性を感じた。それって何気に高得点だぞ」 「はぁ……こんな時までなに言ってるんだよ」  へへっ、と笑う一刀に文醜は呆れ、そして思ったより深刻でなさそうなこと胸をなで下ろした。  †  夜になっても一刀は寝付けずにいた。  明るいうちから寝台で横になっていたのがいけなかったらしい。  治療を受けた一刀は、腕についた裂傷はそれほど深いものではなく出血に比べるとそれほど大した傷ではないという診断を受けた。  それでも安静にしているよう言われ、身近な少女たちに自室へ押し込まれるはめになった。  何度か抜け出して仕事へ向かおうとするが、その度に誰かに見つかり力任せに自室へ強制送還された。 「おかげで……昼寝はできたけどさ」  しかし、今はすっかり眠気がやってくることもなく一刀はぼうっと本を読むことしかできない。  どうしたものかと頭を悩ませていると、訪問者があった。 「あれ、どうしたんだ猪々子」  一刀は寝台から身体を起こして文醜の方を見る。  普段の彼女らしくないどこか控えめなもじもじとした態度に一刀は訝しむ。 「なんかさ、薬の効果が残ってたのかな? 胸がさ、ドキドキして止まらないんだ」 「そんなに効果が持続する薬あったかな……」 「寝ようと思って今日を振り返ってたら眠れなくなるし」 「それで、事情を知る俺の所にねぇ」  事が事だけに顔良や袁紹への相談はできないのだろう。  かといって、こうしてやってこられても一刀としてもどうしてよいのかわからない。 「いや、別にだからってあたいがどうのってことじゃなくてだな……」 「違うのか?」 「その……怪我した腕じゃ……ほら、処理とか出来ないだろ?」 「まあ、やりづらいけど」  支障はないと言う前に一刀の両脚の間に割って入るようにして文醜が膝立ちした。  文醜は一瞬、躊躇いを見せるものの意気軒昂に一刀のズボンから肉棒を取り出す。  股間からぼろんと出てきた肉の棍棒を文醜が丁寧かつ豪快に握りしめる。 「ちょ、そんな急に――っ!? いだだだだ!」  思わぬ股間の激痛に一刀は叫び声を上げる。  驚いた文醜が後ろに下がって寝台から落ちそうになる。 「う、うわわっ! な、なんだよ」 「強く……握りすぎ……ひ、引きちぎられるかと思った……」  やはり勢いまかせな文醜といえど緊張しているのかとんでもない握力だった。  一刀が無事を確認すると、もう一人の一刀は縮みかけた状態から再びむくむくと膨張する。 「女性を貫く矛とはいえ、換えはきかないんだから気をつけてくれ……」 「わ、悪かったって」 「それにしても、なんで急に?」  どういった心境の変化があったのかがわからず一刀は多少の戸惑いを覚える。 「秘密。……にしても、なんというかちょっと異様な風体だな、こいつ」  一刀の股間に直立している異形を文醜がまじまじと見つめながら指でつつく。  ちょっぴり一刀の中に見られているという羞恥と快感が沸き立ち始めていた。 「……うし」  文醜は小さく意気込むと、再び手を伸ばす。  ひんやりとした感触に一刀の肉棒は硬直していく。 「へぇ、以外と熱いんだな……それにどくどくいってる」  観察するように手でむにむにと揉まれる肉竿はぴくぴくと震えながら強度を増していく。  黒光りする亀頭に鼻を近づけ匂いを嗅いだかと思うとチロと出した舌をちびちびと這わせる。  その大胆とは言い難くも各自に触れているという感覚が一刀に小刻みに快楽の信号を送ってくる。 「はぁ、はぁ……」  文醜のかすかな吐息がまた一刀のそれを刺激して感覚を際立たせている。  よく見ると、文醜の瞳が先ほどまでと比べてどこかうっとりとしたものになりつつある。  同時に、一刀の男根を刺激する舌の面積が広がり、全体を絡めるようにして舐め始める。  ぎこちないながらも丹念に舐められる快感に一刀は呼吸を速める。  文醜は熱に浮かされた顔で、そのまま舌を動かし続ける。  はしたない程に舌を伸ばし、密着した状態で一刀のオトコを舐めしゃぶる。  いつも見ている彼女の姿からは想像も付かないほどの色っぽさに一刀のものは更に硬さを増していく。  文醜は更に前進して、一刀の下半身に纏わり付くようにして口淫を続けていく。  舐められ続けた肉棒はべとべとになり、ほとんど密着状態でいたために、文醜の顔も既にぐちゃぐちゃになっている。 「ん……猪々子。そろそろ咥えてくれよ」  意図せず焦らすような攻めを繰り出してきた文醜に一刀はより強い刺激を求める。  一刀は文醜を促すようにそっと右手で彼女の頭を撫でてやる。  文醜はちらりと一刀を見上げると、名残惜しそうな表情を一瞬だけ見せて、一刀の分身から顔を離してとろんとした表情でそそり立つカズトを見つめる。  だが、ふっと我に返ったように眼をぱちぱちと瞬かせると、一瞬で沸騰したように真っ赤になる。 「うあ……アニキの……」  どうやらまともに男の象徴を見ることができないらしい。  文醜はちらちらと目をそらしたり、興味深げに視線をやったりを繰り返している。  ごくりと唾を飲み込むと、彼女はゆっくりと一刀の股間へと顔を埋めるように近づけていく。 「……ちゅっ、……はむっ」  文醜は唾液でてらてらとヌメリを帯びた肉棒に口付けをすると、まるで特大の肉まんを頬張るときのように一気に銜え込んでしまった。  一刀は自らの分身が粘液に覆われた肉壁に触れるのを感じて気分を昂ぶらせていく。 「ほへが……あにひのあじ……ん、ちゅる」  徐々に積極性を増し、まるで一刀の肉棒に顔をこすりつけんばかりに文醜は貪り付く。  唾液が口と男根の隙間から漏れ、根本へと垂れる。 「ふぁ、ん……じゅ」  不慣れなのがよくわかるほどに一つ一つの挙動に迷いが感じられる。  しかし、それがまた絶妙な波となって一刀に快感を及ぼしていた。  文醜の舌が手探りで進むようにゆっくりと雁首にそって這っていく。 「く……い、猪々子」  予想とは異なる文醜の舌使いによる快感に一刀はうめき声を漏らす。  文醜はそんな彼の驚きなど露知らずと言った様子で、一心不乱に亀頭をねぶる。  どこで知ったのか、それとも本能なのか歯をあてないようにしている。 「ぐちゅ、ちゅ、んっ、ふぅぅ……んちゅ」  ねっとりとした唾液を巧みに潤滑油代わりにして舌が動かされる度に、いやらしい音が薄紅色の口元から響く。  普段、顔良をひたすら追いかけている彼女を知っているだけに、一刀の中には妙な感情が渦巻いていた。  背徳感と嗜虐心である。  逡巡しながらも一刀は、本能にはあらがえず文醜の頭を掴み動きを強くさせていく。 「んんっ、あぅっ、くっ」  勢いを付けすぎた反動で文醜の口が男根の根本まで飲み込んでしまい、彼女は亀頭が喉に触れたことで大いに噎せ返ってしまう。  苦しそうにしながらも文醜は一刀の手を払いのけようとも吐き出そうともせず、ゆっくりと味わうように肉棒を引きずり出していく。 「ふぅ、ふぅぅん。はぁ、んっ、……ちゅぽん」 「無茶はしないでくれよ」  自分でもどの口が言うんだと思いながらも、一刀は声を掛ける。  しかし、文醜はもう一度肉棒を加え込んだ状態のまま首を横に振った。 「へひひ…んっ、へいきだって。めいど五箇条の一つ、主のために尽くすってな」 「お、おい。あれを本気で……んぅっ」  涙目になりながらもニヤリと口角を吊り上げてみせる文醜に驚く一刀だが、何かを言う前にナニをしゃぶられ違う言葉を発する。 「猪々子が……それでいいなら、いいんだけど辛かったら言ってくれよ」 「ふぁふぁっへるっへ」  わかってる、その返答を後押しするように文醜は咥えたままの肉棒と同じく一刀の股間にある精子袋へと手を添える。  もにもにと袋を揉みし抱き、精液生成を活発化させる。  徐々に動きの緩急の付け方などを把握し始めたのか、ぎこちなさがなくなり始めていた。  幾度も往復を繰り返す文醜の頭。  前へ後ろへと動く度にじゅぷじゅぷと、はしたない音を立てる。 「ちゅ、ん、んぅ、ちゅぅぅ、ん、くちゅ、ちゅくちゅく……じゅぷっじゅぷっ」  速度は次第に速まり、比例するように水音も増していく。 「くぅ……いいしぇ……」  一刀が漏らす声に反応するように、彼女の動きはますます速くなっていく。  口腔における舌の動きも更に快感を紡ぎ、射精を急き立てるように刺激し続ける。  膨れあがった幹と脈動する血管、かさを大きく開いている雁首まであますとこなく貪られていく。  初めてと思い、油断したのもあったが一刀は想像を超えた文醜の口淫に快感を絶頂まで高まっていくのを感じていた。  しかし、このまま達すればどうなるか理解している一刀は彼女の頭を掴み肉棒を引き抜こうとする。 「って、あれ……い、猪々子」 「んぅー! んあっ、ちゅる……はむ、んぅ……」  一刀が彼女を思いやる余り力を込められないのを差し引いても文醜は強引にしがみついて口腔から彼の分身を脱出させることを許してくれない。 「くっ、うあ、も、もうだめ……で、出る……な、中にでちゃうから離し……」 「ふぅー! ん、んぅぅぅ!」 「はぁ、あ、く、もう……限界、出すぞ!」  そう宣言をするのと同時、一刀は限界を迎えそのまま文醜の口腔内へと大量の精液を注ぎ込んでいく。  一刀が男槍をずるりと抜き取ると、許容量を超えた白濁液が文醜の口元からこぼれ落ちる。 「ふあ……熱……どろどろら……」  どこを見ているのかわからない目でうっとりとしている文醜の口からこぽこぽと精液があふれ出ていくが、気がついた文醜は、それを手で口へとかき戻していく。  そうしてギリギリの状態まで賜っている粘液を文醜は四苦八苦しながら飲み干してしまった。 「はあ……結構、飲みにくいもんなんだな……」 「ま、まあ、そうなのかな?」  自分のを、いや男の出したものを飲むようなことなどしたことのない一刀には今一わからない。せいぜい、少女たちの喉を自分のものが通る様子を見るときになんとなく辛そうだなと思う程度である。 「それにしても……本当にどうしたんだよ、急なことだから吃驚したぞ」 「だから、言っただろ。ひ、み、つ」  文醜は口元に残った精液を指でぬぐい取るとぺろりとなめて寝台から降りる。  一刀はせがむような視線を送りながら、股間のいちもつを仕舞いながら後を追う。 「教えてくれよ」 「そのうちなー」 「あ、おい……」  手をヒラヒラとふると、文醜は疾風のように去ってしまった。  残された一刀は頭をぼりぼりと掻きながらぼやくことしかできなかった。 「なんだかなぁ……」   †  文醜による性欲処理を受けてから数日後の昼下がり、普段通り仕事に勤しみ労働の素晴らしさを実感した一刀は昼食をとろうと廊下を歩いていた。  あれから、文醜に一体何があったのかと幾度も首を捻る一刀だったがその度にしてもらったことを思いだしニヤついてばかりいた。 「アーニキっ!」 「うおっ、ど、どうしたんだよ?」  当の本人である文醜に背後からしがみつかれ驚きながらも一刀は腰元から顔を覗かせる彼女を見る。 「んー、なんでもない。えへへ」  文醜はどこか照れくさそうにはにかむ。  そのまま彼女に好きにさせつつも、一刀はあごの下をこしょこしょと指先で撫でてみる。 「んぅ……くはっ、くすぐったいって」 「なんというか人肌恋しくなった猫だなこりゃ……」  ごろごろと喉を鳴らしてじゃれつく文醜を見ながら一刀は眼を細める。  猫口になって顔をこすりつけている文醜の葵い瞳が一刀を見上げる。 「ねえ、アニキ」 「何?」 「お小遣いちょーだい。武器の手入れしたいんだけど予算が足りなくて」 「……それが目的かよ」  やけに態度がおかしいと思っていたものの、本当に裏があったと知ると妙に落胆するのは何故だろうかと思いつつも一刀は少額だが手持ちから渡す。  文醜は一刀から腕を放すとそれを受け取る。 「へへ、あんがと」 「やれやれ、ん――」  溜め息が吐き出されるはずだった一刀の口をほんのりとした温もりと柔らかな感触が塞いだ。  瞳孔が開いたままの一刀の顔からゆっくりと離れると文醜は照れ笑いを浮かべながら後退する。 「落胆すんなって。アニキはあたいの……あたいにとって掛け替えのない唯一の……その、アニキなんだからな!」 「何が言いたいんだ?」 「だから、あたいは……アニキが……あたい……その……あの……どの」  視線を宙に漂わせながらぶつぶつと呟きながら自分の世界へと入って行く文醜。  本当のところ、一刀には綽然としない気持ちはなかった。  実は彼女が言いたいことは理解できていた。 (偶にはこうしてからかってみるのもいいもんだな)  目の前で真っ赤になって口をもごもごさせ、言葉をくちにしかけては躊躇している文醜に自然と一刀の頬は緩み若干邪悪さを感じさえする笑みを作る。 「……それで、だから……アニキが……あれで……その」  まったく一刀の様子に気付かない当たり相当に混乱しているようだ。  流石にいつまでもこのままでは可哀想かと一刀は声を掛けようと口を開く。 「どうしたの、文ちゃ――猪々子」 「あたいの気持ちとしては……って、斗詩! いつから?」 「偶々通りかかっただけだよ。それより、どうしたの?」 「いや、なんでもないって。ちょっとそろそろ武器の手入れしようと思ってさ。それで、アニキに予算の援助を頼んでただけだよ」 「ふうん。あ、そうだ。私もちょうど手入れしないとって思ってたんだ。一緒に行こうよ」 「おう、いいぜ」 「それでは、失礼しますね。ご主人様」 「へ? あ、ああ……じゃあな」  一刀は、口を挟む余地を一切与えてくれぬまま会話を締めた顔良に唖然としつつも小さく頷いた。  顔良は強張った笑みを浮かべ、文醜の手を掴んで引っ張っていく。そんな顔良の行動に文醜は眼を回して「え? え?」と繰り返している。  普段ではなかなか見ることのない彼女たちのやり取りに一刀は首を傾げつつも、心の内ではどこか微笑ましさを感じていた。 「ほらほら、行こうよ、猪々子」 「あ、ああ……てか、どうしたんだ?」 「なんでもなーい」  首を捻る文醜の腕に顔良はがっちりと抱きつく。  文醜は困惑して慌てたのか足取りを狂わせて動揺した様子を見せている。 「お、おい斗詩! ど、どうしたんだよ、いつもの斗詩らしくないぞ。いや、あたいとしては嬉しいけどさ」 「なんでもないよ。ただ……なんかさっき知らない猪々子がいたから不安になって……」 「しっかりしろ、斗詩! そんな意味不明なことをのたまうなんて熱でもあるんじゃないのか!」 「文ちゃんの……馬鹿」  普段とは逆の関係になっている二人が陽光の差す廊下を歩いて行くのを見ているうちに一刀は笑いを堪えきれなくなって吹き出す。  我慢しすぎた反動なのか、一刀は二人の姿が見えなくなった後もなかなか大笑いを止められなくなってしまう。 「よくわからないけど仲良きことは素晴らしきかな」  そんな彼を通りすがりに見てぎょっとした表情を浮かべた袁紹が、哀れみと軽蔑の混じり合った視線を送りつけるのだった。 「何を一人で笑っているんですの? 気持ち悪いですわね……」 「……………………」  袁紹の言葉にショックを受けている一刀はまだ知らなかった。いや、予測すらしていなかった。  今回の一件によってこれから更なる事態が彼を待っていることを。