「無じる真√N63」  一刀がその胸中を語り、華雄の記憶が戻った夜が終え、その翌日。  朝も早くから、一刀は普段と変わらぬ調子で廊下を歩いていた。  そんな彼の横には彼が信頼する軍師が普段通りの鋭い目つきのまま横目で一刀を見つつ、昨夜から今朝方にかけての報告をしている。  一刀はそれを一つ一つ頭の中で反芻し刻み込む。  張遼と董卓が既に出立したこと。  街の重役の一部や軍内部の関係者との対談を行ったこと。  内容は大きく分けて二つ。自分たちが行動を起こすことの説明。そして、残される公孫賛にはより一層の助けを、というものだった。 「彼らには事情の説明もしたし、白蓮の助けとなってくれるといいんだけどな」 「まあ、これまで白蓮というよりはあんたに助力してたって感じだったものね」  一刀はそのことが気掛かりだった。  時折、支援者や軍の人間の中に天の御遣いである北郷一刀に力添えをしている節が見受けられたのだ。  そんな彼らは一刀が去った後、果たしてどうするのか。そんな疑問があった。  だからこそ、二人は事前に口八丁で釘を刺してきた。  昨夜というのは流石に時刻も時刻だったため断念せざるを得なかったが、その代わりに日が昇って間もない頃に起床し、一人一人を訪ねては頭を下げ必死に訴えかけてきたのだ。 「でも、まあ、あんた本人に説得されて納得もしたわけだし、大丈夫だと素直に信じておきたいところよね」 「まあな、そうするしかないからな……」  あちこちで話を付けてきた二人が城へ戻ってきた今、時刻はすっかり朝議が行われる頃まで進んでいた。  朝議へと向かう時間も無駄にできないと、二人はここまでのことを振り返っていたのだ。 「にしても、月たちは俺以上に早く起きてたんだよな」  一刀が起床した頃には既にこの地を離れたという董卓と張遼のことを思い浮かべる。 「こっそりと出るのに人目に付いたら意味がないもの、当然よ」 「霞たち……上手くやれるといいな」 「……ええ。そうね」  僅かに表情を曇らせる賈駆に一刀は何とも言えない気持ちになった。  この表情をさせている原因は己にある。それを自覚しているだけに辛かった。しかし、だからといってもう止めるわけにはいかない。  一刀は前腕に力を込めると拳を握る。そして、すぐに手を開くと、賈駆の肩を力強く抱き寄せる。 「な、なによ、急に」賈駆が吃驚といった様子で眼を丸くし頬を赤くする。「……もう」 「やり遂げよう。そして、みんなで笑って再会しよう」  その言葉は賈駆だけではない、今ここにいない者たち……そして、何よりも自身に対してのもの。  一刀は決意を胸に遠くを見据える。その瞳はもうすぐやってくる運命に日へと向けられていた。  †  朝議が行われる中、やはり鳳統より昨日一刀が聞いたのと同内容の報告がなされた。  曹操軍の軍力集結などから推測される戦の匂い。  その曹操が朝廷と帝を召し抱えたという衝撃的な情報。  前者はまだしも後者の話が出たとき、場にいる者たちのほとんどが言葉を失っていた。  一刀も余計な発言をしないよう眼を閉じて黙っている。  ただ一人、誰よりも早く反応し曹操に対する弾劾発言をしている者がいた。 「ゆるせませんわ! このわたくしですらなしえなかったこと……あのちんちくりんが。腹立たしいですわー!」  袁紹本初、その人である。  きっちりとセットされた巨大な金色の縦巻きロールを振り乱し、喚き散らしている。  鼻息荒く、熱弁を振る彼女を止める者はいなかった。 「まったく、これだからああいう分不相応なことを思いつく輩の考えなど知るに足らないというのですわ!」  上下の歯をギリギリと擦り合わせながら宙を睨み付ける袁紹。きっと、彼女の瞳には曹操の不敵な笑みが浮かんでいることだろう。 「ああ、そうです! 白蓮さん、このわたくしの兵力を急襲したあなたならあの身のほど知らずをけっちょんけっちょんにして、ぎゃふんと言せられるはずですわね?」 「え? いや、そうは言ってもだな……」  袁紹に詰め寄らんばかりに熱の籠もった視線を向けられる公孫賛が腕組みして唸る。  公孫賛の意見がどう転ぶか、そのことで一刀の鼓動が常の三倍ほど早く脈打ち始めている。 「所詮、ぽっと出の小勢力。こちらの方が有利にことは進められるのではなくて?」 「……いえ、そうとも限りません。曹操さんの軍はどの勢力よりも兵の士気に厳しいところだと聞いています。恐らくは、統制の取れた彼らは十分に強敵となり得るかと」 「そ、そうですの……でも、それならそれで何か手を打てば……」  鳳統の発言に声色が若干弱くなる袁紹だが、まだ断念できないのか頭を捻っている。  ここで軍が動くことがどのような意味を持っているのか、昨夜のことだけで一刀には十分にわかっている。しかし、彼は自分が心の何処かで期待しているような気がした。  だが、誰一人として眉一つ動かさず冷静に袁紹を見ているあたりそれも儚いものだろう。 「諦めろ麗羽。そもそも攻めるにしてもそれなりの道理がいる、お前もそれはわかっているのだろう?」 「……もちろんですわよ。それでも、この悔しさはそう簡単に破棄することはできませんの」 「ならば、機を待てば良かろう。曹操の事だ、必ず何か大きな動きを見せるに違いない、だろう?」 「私も星さんに同意します。必ず好機は巡ってくるはずですから、今はその時を待ち、力を一層蓄えるべきだと思います」  鳳統のその言葉は一刀の心に重くのしかかる。  一刀は、自分では落ち着いているものだとばかり思っていた。だが、実際には気持ちは逸り、袁紹の理に適わぬ発言に賛同するような感情を一欠片でも抱いてしまった。  それに加えて公孫賛軍が軍備を充実させるべきという話も一刀の心を締め付ける。  大事な時機なのかもしれない、それなのに戦力を削るような真似をしている。その事実が一刀には心を押し潰されてしまいそうな程に重く感じる。  息が詰まり壮なほど胸が苦しくなる一刀に趙雲が不思議そうに声を掛ける。 「ん? どうかしましたかな、主」 「……え?」 「なにやら、顔色が悪いようですがどこか具合でも?」  その言葉に周囲の視線が一刀に注がれる。  だが、彼はそんな彼女たちに向かって笑って見せると手を振って異常がないことを強調する。 「いや、なんでもないよ。気にせず朝議を続けよう」 「そうか? 何か辛かったりするなら言えよ?」 「ああ、ありがとな」  心配そうに眉を顰める公孫賛だったが、すぐに朝議の進行へと戻る。 「先程も言ったが、曹操軍へ攻撃をしかけることはしない方向で行く。それでいいな?」 「はい。帝を奉戴している以上、正義は向こうにあると考えるしかありませんから……」 「うむ、雛里の言う通りだな。それにしても、情報が各方面へ飛ぶ前に素早く朝廷を制したということになるが、一体どのような手をもってやってのけたのか……気になるところではあるが、そこは流石は曹操と言っておくとしよう」 「ふん、それくらいわたくしでしたらもっと早くできましたわ」 「はいはい、すごいわね」ふんと憤りを露わにしている袁紹を流しつつ賈駆も頷く。「ボクも無駄に戦力を消費してまで名声に傷を付ける必要はないと思うわね」  この後、他の者たちも一様に賛成ということで意見は纏まり、対曹操に関する議題はこれといった動きをみせることなく終決した。  その後、これといった大きな話題もなく、朝議は終わった。 「さて、今日も頑張ろう……」  もう準備も始めて動く準備も着々と進めている。賈駆からも数日で出られるだろうと言われていた。  残り少ない間だが、これまで以上に仕事へ打ち込もうと決意する一刀の肩を叩く者がいた。  一刀が振り返ると、そこには趙雲が左手で肘を支えながら右手を顎に沿え、流し目を向けてきている。 「星か、どうしたんだ?」 「少々気になることがありましてな」  趙雲の言葉に一刀は気付かれないようにしつつも息を呑まざるをえなかった。 (何かとするどい星のことだ、もしかして、何か勘付いたんじゃ……)  内心はらはらとしながらも一刀は表情だけは取り繕い笑みを浮かべる。 「気になることか。一体、なんのことだ?」 「どうも今朝から一度も霞の姿を見ておりません。朝議にも顔を出しておらぬ様子、これは何かあったのではと思いましてな」 「し、霞か。それなら、実はちょっとした用事で出てるんだ」 「ほう、そうでしたか。して、どのような要件なのですかな?」 「そ、それがだな、実は俺に直々に頼みにきた人がいて、その人曰く、賊の被害を受けて困ってるっていうんだ。だから、偶々会った霞に行って貰うよう頼んだんだよ。偶々ね」  若干、つっかえつつも不自然さがないように喋ったつもりの一刀だったが、目の前で訝しんでいる趙雲を前にしては冷や汗すら出てくる。 (や、やばいかな……説明に穴がある気もするし、偶々を繰り返してるし、流石にばれたか?)  一刀が、できることならすぐにでも頭を抱えたいほどに失態を後悔していると、趙雲は顎から手を下ろして腕を組んで表情をふっと緩める。 「ふむ。そうでしたか、それならば別によいのですが」 「そうか。ま、また何かあったら遠慮なく言ってくれよな」  そう言うと、一刀は趙雲と別れ、なるべく平常時の速度と歩幅で離れていく。  彼は一刻も早く、趙雲の瞳から逃れたかった。  †  曹操軍のことが朝議で話されてから数日後の夜。  その間にも一刀たちは入念に準備を行い、出立を翌日に控えていた。  自室にて一刀は去った後、自分の仕事を受け継ぐ者のために整理をしていた。  部屋中をせわしなく動き回りながら片付を済ませると、一刀は脱いでいた上着を着る。 「これを着るのも最後か……」  元々は白く輝いていた上着……今では、落ちきらなかった汚れも所々に残り輝きも減っている。  一刀は机の上に柳行李型の保存箱をおくと中を覗く。  既に涼州へ向かっている張遼の羽織が綺麗に折りたたんで仕舞われていた。  感慨にふけりながら箱の中に視線を釘付けにしている一刀だったが、扉を叩かれる音で我に返る。 「失礼する」 「もう明日には出発なのに、どうしたんだよ、華雄……あれ? その格好」  訪問者の方へ視線を向けた一刀の視線は先ほどとは違う意味で眼を離せなくなる。  もじもじと身体を縮こまらせながらちらちらと一刀の方を見る華雄。その服装は普段の露出の高いものではなかった。  黒と紺のシンプルなドレスを着ており、華雄は恥ずかしいのか布地をしきりにつまんでいる。 「そのだな、この服をお前に見せられるのもきっと今日が最後の機会かもしれない……そう思ってだな」 「そうか。だけど、よく似合ってるよ。俺の想像以上だ」  頬を染め、眉をしかめながら語る華雄を眺めながら一刀は感嘆の吐息を漏らす。  確かにそのドレスは以前、華雄に贈った服だった。だが、一刀の想像以上に華雄を艶やかに彩っている。  一刀は彼女を見ているうちにとある考えが浮かび、彼女の腕を取って部屋を出る。 「折角だし、散歩にでも行かないか?」 「こんな時間にか?」 「誰かに見られたりしないし、華雄も気軽に出かけられるだろ?」 「それはまあ、そうだが……」 「あ、ちょっと待っててくれないか。先にやっとくことがある」  そう言うと、一刀は華雄を残して一人、廊下を駆けていった。  †  しばらくして一刀は戻ってきた。  やけに嬉々としてる様子の彼を疑問に思いながらも華雄はそれ以上にそわそわとしていた。  普段と服装の形状が大きく違うということはないのだが、無性に恥ずかしい。  腰布に当たる部分の切れ込みから素足を覗かせているのすら照れくさくなる。普段だってスリットの入った腰布を履いているのにもかかわらずである。  華雄が一人であれこれ考えているうちに、二人は街へと踏み出した。  夜中の街は時刻に即し、誰一人として起きていない。  灯りと言えば焚かれている松明の火。  そして、何よりも澄み渡った夜空から降り注ぐ白絹のように美しい月華。  特別見回りを避けているわけでもないはずなのだが、二人の傍には人がまったく寄りつかない。  日中ならば賑やかに人が行き来し、商売が行われる通りも今は猫すらもいない無人。  静かなる闇の中を月明かりのみを頼りにして二人で練り歩いているうちに華雄は少しずつ緊張が解け始めていた。  大分落ち着きを取り戻したのを見計らったかのように隣の一刀が話しかけてくる。 「夜の街ってなんだか寂しいものだよな」 「そうか? よくわからんな」 「なんていうのかな、自分だけが世界に取り残されてしまった……そんな気分になる」 「残念なことに夜警で慣れてしまっている私にはどうにもそういうことは感じられんようだ」  華雄はおどけるように言ってくすりと笑うが、それも一刀の瞳を見るやいなや引っ込んでしまう。  夜の街を見つめる彼は本当に一人だけ周囲とは別の世界に置かれてしまったかのように見える。 (そうか、そういえば。こやつ、実際に一人だったか)  今の華雄には一刀の心の内を覗くことができた。  今でこそ華雄も含め彼が普段隠している本音を話せる相手がいるが恐らくこの世界に来た当初はまさに心は一人だった事だろう。  そんなことを考える華雄の手を見ながら一刀が訊ねる。 「そういえば、今は金剛爆斧だっけ? あれ持ってないんだな」 「ふ、舐めて貰っては困る。この華雄、多くの強敵と出会いその戦法を血肉としてきているのだ。素手だろうと問題は無い」  華雄がふふん、と笑いながら拳をつくり、手刀と合わせて見せつけると、一刀はひゅうと口笛をならして感心したように腰に手を添えて頷いた。 「へぇ、徒手空拳まで抑えてるとは……恐れ入ったよ」  二人は、昼間でも人通りの少ない裏路地へと足を運ぶと、どちらからともなく、ちょうど良く見つけた階段脇の木箱へ腰を下ろす。  裾を直しつつ、後ろに手を突くと華雄は一息つく。その隣では一刀が何やらごそごそと懐を漁っている。  出てきたのは一組の酒瓶と杯だった。 「へへ、ちょっと失敬してきたんだ」 「お前は霞か……」 「まあまあ、今日くらい固いことは言いっこなし。ほら、杯もあるから」 「仕方ない。少しだけだぞ」  華雄は頭を抱えつつも差し出された杯を受け取る。そこへ一刀がにやつきながら酒を注いでいく。  注ぎ終わった酒瓶を一刀の手から受け取ると、僅かに傾ける。 「どれ、お前にも私がついでやろう」 「それじゃあ、お願いしようかな」  そう言うと一刀は自分のぶんの杯を取り出そうと懐をごそごそとやり始める。  そうして一刀が杯を取り出すのと同時に、彼の懐からやけに質素な杯が転がり出てきた。 「む? なんだ、その杯は……」 「これ? いや、なんでもないんだ。まあ、ちょっとした願掛けがしてあるんだよ」 「ほう、それでは酒は呑まんのか?」 「ああ。使うときは決めてあるからな」  そう答えると、一刀は愛おしげに眺めながら杯を懐にしまう。  華雄は別段それを気にすることもなく、ズレた肩紐を掛け直しながら一刀の杯へと酒を注いでいく。  注ぎ終えると、酒の中に白月が潜り込む。そよそよと風が通り過ぎ華雄の髪を掻き上げる。杯の月もゆらゆらと泳ぎ始めている。  華雄は手櫛で直しながら杯を一刀の方へと寄せる。 「乾杯といこう」 「ああ、それじゃあ旅立ちを明日に控えた俺たちに」 「乾杯!」二人の声が重なり合う。  華雄は酒の味を噛みしめるようにゆっくりと喉を通していく。  喉に引っかかりをおぼえることもなくするすると流れ込んでいき、まるで水のような呑み心地に彼女は酒が回る前から酔いしれそうになる。  二杯、三杯と飲み交わしていく。  そんな中、華雄は酒の注がれた杯と天、二つの月を交互に見やる。 「今宵の月は一段と美しいものだな」  そう言って酒をあおるとまた注ぎ直し口をほぐす。 「一刀、私はな、月とは優しくも強い存在だと思っている」 「へえ、どうして?」  自分で酒を注ぎながら一刀が充血し始めた瞳で華雄の顔をのぞき込む。  彼の口元からほんのりと漂う酒の匂いに鼻腔をぴくりと撥ねさせつつ華雄は語り出す。 「月というやつは自分の好きなように我らを包み込むように暖かな光を照らしている。こちらの都合などおかまいなしにだがな。しかし、その自分を貫き通す強さこそが見る者の瞳に輝きを見せているのだろう。揺らぐことのない意思を持つ……私もいつまでもそうありたいものだ」 「ううん、それはどうだろう。実はさ、月ってのは太陽があるから輝いてるんだ。それこそ月自身の意思は関係なくね。でも、それでも美しいのはきっと、月がそんな自分を好きだから……じゃないかな? なんてな。ところで、華雄は今の自分は好き?」 「ああ、好ましく思っている。これ程までに充実していると思えたことは、私の記憶にはないからな」 「うん、そうか、それは良かった」  ほろ酔いなのだろうか、一刀は終始にこにこと微笑んでいる。  いや、それは華雄も同様に違いない。何故なら、彼女もまた自然と笑みを浮かべているのだから。 「それにしても月と太陽か、面白い例えだ。ならば、月様にとっての太陽とはお前なのだろう」 「え?」 「月様は大いに変わられた、一段と美しく、そして強くなられた。それもお前という存在があったればこそなのだろう。だから私はお前を……もう一人の主人としたのだろうな」 「俺が、華雄の主人?」 「ああ、少なくとも月様と同等には主人として敬っているつもりだ」  その時、華雄はいつの間にか饒舌に語り出している自分に驚きを覚えた。何故だろうか、彼女はそんな疑問を抱くのも忘れるほどにこの時間を楽しんでいる。  それが不思議であり、同時に心地よかった。 「でも、ホント綺麗だな……」 「そうだな。酒を呑むのを忘れてしまっている程だからな」  酒を呑むのも忘れて憂いの表情を浮かべて話しかけてくる一刀に華雄は苦笑を浮かべる。 「それくらい素敵なんだよ……華雄」 「はぁ? わ、私だと? お、おま、お前は何を言ってるかわかっているのか!」 「ああ。なんでだろうな、月明かりの下、普段と違う格好で杯を傾ける華雄……すごく様になってる」 「ぬあああ、や、やめんか! 恥ずかしすぎて気を失いそうだ」  華雄はばっと一刀から視線を逸らすと、湯気を出しかねない程に熱くなっている顔をぱたぱたと手で仰ぐ。  そんな華雄の手を一刀がぎゅっと握る。  彼の掌は普段の印象と違いごつごつとした頼もしさを感じさせる。  華雄の頬にじんわりと浮き出す汗、それは掌からも出ている気がする。手を握る一刀にそのことを気付かれていないかと彼女の心臓はどきどきと鼓動する。  杯を置いた一刀の片手がスリットから出ている華雄の太腿にそっと置かれる。 「なあ、いいかな?」 「……それって、まさか」 「うん、華雄を抱きたい」 「うぅ……それは」  直球勝負を仕掛けてきた一刀に華雄の脳内は故障寸前まで熱が高まる。  前髪を書き上げて額の汗を拭う。  一刀は何も言わず華雄の返答を待っている。  場所を考えると溜め以来もまた強まってしまう。 (し、しかし……このような機会、私にはまたとないかおもしれん……)  華雄は覚悟を決めると深呼吸をする。真剣な眼差しを向け返して一刀に答える。 「構わん。だが、一つだけ言わせてくれ」 「ああ、何でも言ってくれ」  華雄は座り直すと、出来るだけ一刀の方へ寄って彼の瞳をのぞき込む。 「一刀、私はお前が好きだ」 「ありがとう」  一刀がにこりと微笑んだ。  †  距離を詰め、肩と肩が触れ合うほどに近い距離。  華雄はじっと一刀の目を見つめる。  月の明かりが差し込む瞳は煌めいており、そこらで見かけるような宝石などよりも綺麗だった。  とくとくと脈打つ鼓動が華雄の頭の中に響き渡る。  一刀は華雄の肩を半ば強引に抱き、瞳で口付けしてよいかと問いかけてくる。  華雄もまた目で頷いて答える。  外界との境目である窓を閉じる華雄。  一刀を信頼し、彼に流れを委ねる合図だった。  きゅっと瞼をつむり一刀を待つが一向に来る気配がない。 「一刀……?」  気になり眼を空けようとすると、頬に何かが触れ、その温もりが伝わってくる。  大きく逞しい掌だった。 「あまり緊張しないで……」  その言葉を華雄が耳にした次の瞬間には華雄の口に、かさついた唇の感触があった。  ほんの数秒の口付けをした後、彼は華雄から唇を離し、顔をのぞき込んでくる。  華雄は頭がぼうっと熱くなり、一刀を直視できなくなっていた。  それでも胸に染み入る不思議な暖かさに華雄は続きをねだる。 「……もっと」  恥ずかしさからあまり声量は大きくならなかったが一刀はこくりと頷いてくれた。  再び交わされる口付けは長めだった。  今度は重ねられた唇を通して伝わってくる一刀の体温をしっかりと感じ取ることができる。  唇をこじ開け、一刀の粘液にまみれた舌が華雄の中へ潜り込んでくる。  同時に、いつの間にかスリットから忍び込んでいた一刀の掌が華雄の太腿をゆっくりさする。  一刀の掌はじっとりとしており、それが華雄の柔肌へと張り付いている。 (興奮……しているのか?)  ふと、以前鳳統が所持している本を数人で集まったときのことを思い出した。 (あ、あんな風に……なるのか)  そう思うだけで緊張し、張り裂けそうになる胸に何かに包まれるような感触が起こり華雄はぴくんと撥ねる。 「……ん」 「ちゅ……んぅ……」  深く濃い口付けをしながらも一刀は華雄の乳房をゆっくりと揉み始める。  絶対にこの男から離れない。そんな思いを込めて華雄は彼の背中に腕をまわすと、強く抱きしめた。  †  華雄の口腔を丹念に嬲りながら一刀は紺の布地を盛り上げる膨らみの感触を満喫する。  普段、彼女が着ている露出度の高い服の割にはそれほど大きいとはいえない。 (俺の知る中だと……爆乳や巨乳の域とはいい難いか。しかし、ぺたんこというには立派だよなぁ)  確認するように何度もむにゅむにゅと揉みしだいて感触を確かめる。 「ん……ふぁ」  華雄の鼻息が僅かに荒くなる。  五本の指全てを駆使して入念に肉乳を揉みほぐし、おっぱい考察を続ける。 (ふむ……やはり、ちっぱいとおっぱいに二分するならおっぱいだろうな。白蓮と比べると……いや、彼女は別格だな。そう、十人並みのおっぱい、略してじっぱ……いや、しっぱい。さすがにしっぱいというには少々大きいような気もする。やはり、もっと細分化して考え直すべきか)  思考をそれだけ動かしながらも一刀は華雄の身体を堪能していた。  手は華雄の乳房を揉んだり撫でたりと愉しみ、もう片方の手を太腿から彼女の丸い腰へと滑らせ、その下に実っているたわわな双玉のような尻の上部をじっくりと味わっている。  口は彼女の口腔をしゃぶりつくし、隅から隅まで味わい尽くそうとしている。  最早、下半身がというレベルでなく、脳以外の一刀の全てが肉棒と化していた。 「んぅ……ふぁ、あぁ……」 「……じゅる、じゅるる」  思い切り舌と唾液を吸い込むと華雄の目が見開かれ身体が硬直する。  それに応じてか浮き上がった華雄の腰の下へ掌をすべりこませる。  指で下着を浮かせ空間を作ると強引に次々と指を差し入れていき、ついには手全体を布地と肌の間に侵入させた。  伸縮による下着の圧迫によって一刀の掌は華雄の尻肉にめり込む。 「あ、うぅ……ん」 「流石華雄だな……健康的ないいお尻してる」  耳元でそう囁くと、華雄が顔を真っ赤にして息をせつなげにこぼす。  一刀は、がっちりと華雄の満月のような尻に固定された手をもぞもぞと動かして指を女の渓谷へと侵入させていく。 「ん、少し動かしにくいな……」 「そんな……強引に……下着が伸びてしまったりしないのか」 「ゆるゆるになったら、脱いで帰るか?」 「頼む、か、勘弁してくれ」  はあはあと息を荒げ上目遣いですがってくる華雄の乳を揉みしだきながら一刀はにやついたまま一層無理のある動きで華雄の下着内の手を躍動させる。  下着はそれほど貧弱なわけでもないのか、ぐいぐいと強引に引っ張っても収縮して一層強めに一刀の手を柔肉にめり込ませるだけだった。  仕方なく、一刀は尻の溝を忍び込ませた指の腹でなぞる。火照っているからか、そこは水気を帯びていて指のなめらか動きを助長してくれる。 「ひあっ、は……あぁ、んぅ」  華雄は額に玉のような汗を浮かべながら一刀の服を掴み唇を噛みしめている。  その表情に一刀の興奮もますます高まっていく。  一刀は下着の中へ入れた手で彼女の排泄口を探り当てると、人差し指と薬指で広げる。すると、華雄は顔を一段と赤くさせ口をわなわなと震わせる。  そんな華雄の反応を愉しみつつ、一刀は中指でくにくにと菊紋をいじくり回す。 「うあっ……あ、ああ……」  華雄が口をぱくぱくさせて訴えかけるように見つめてくるが一刀は口付けして唇を塞いでしまう。  服を掴んでいる華雄の手が一段と握力を強め、一刀の上着に深い皺を作り上げている。  ほぐし続けていくと、華雄の息遣いが荒々しくなり、一刀の息と混じり合う。  一刀は華雄の胸をまさぐっていた手を下ろすと、腰布部へと潜り込ませ、いい加減邪魔になってきた下着を一気にずり下ろした。 「んっ……」  外気に触れるのを感じたからか華雄が眼を丸くする。その隙をついて一刀は両手で桃肉を鷲掴みにして左右に広げると、彼女の身体を引き寄せて自分の膝上に乗せる。  一刀は臀部を覆うようにたっぷりと滲んだ汗を指ですくい取ると、華雄の後ろの穴へと塗りたくる。  指の腹が皺の中心へと一刀の指が触れる度に華雄は身体を撥ねさせる。  頃合いを見計らい、一刀は十分にほぐれた尻穴へと人差し指を突き入れていく。ぬぷっという音と共に華雄の中へと逆流する一刀の指。  ぷるぷると震える華雄から顔を離して表情をよく見ようとする一刀だったが、彼女は必死にくらいついて、汗が混じりしょっぱさの混じった口付けから逃してくれなかった。  †  肉壁を掻き分けて入りこんでくる指の感触が甘い痺れとなって脳内へと伝わる。  華雄はそのごつごつとした侵入者を食い止めようと括約筋に力を込めようとするが強引に広げられた状態では満足にその役目を果たさせることができない。  華雄の全身は燃え盛るように熱く、滝のように汗が流れ出ていた。  一刀が先ほどから顔を動かしているが、華雄は口から漏れそうな喘ぎ声を聞かれたくなくて必死に口付けを終わらせずにいた。 (わ、私は……あんなところを弄られて昂ぶっているのか)  本来ならば嫌悪感を抱いてもおかしくない行為に胸が高鳴る自分が華雄は信じられなかった。  それでも彼女の汚れた道を進む指から伝わってくる不可思議な感覚は耐えられないほどではなかった。 (早く……早く抜いて……)  華雄の心臓は早鐘のように脈打ち、頭は沸騰しそうな程に茹であがっていく。  これ以上、堪えきれるか彼女自身もわからなくなっていた。 (このまま、果てるなんてい、いやだ……)  よりによって嫌忌すべき状態で気を許すことだけはしたくないという華雄の願いを通じたのか限界まで進みきった一刀の手が止まった。  華雄は解放されると安堵して気を緩めた、だが、それは失敗だったとすぐに悟る。  一気に引き抜かれる指から先ほどとはまた違う強い快感が押し寄せてきたのだ。  脳内が弾けそうになるほどの刺激に襲われた華雄は、千切ってしまいそうな程に強く一刀の服を握りしめてこらえようとする。 (な、なんなんだ。こんな感覚知らない……体中が震えそうに)  ドレスの下の背中が大量の汗でべたついているのすらどうでもよくなってくる程に華雄は今の快感に酔いかけていた。  一方、抜ききるかと思われた一刀の指が再度奥へと進み、また戻る。その繰り返しを何度も、何度も何度も行う。  華雄は入りこんでは襞を引きずりながら出て行く指によって、まるで強制的に幾度も排泄させられているかのような錯覚に陥る。 (んあっ、口……付けしないと……声が漏れ……くぅぅ)  噛みついてしまいそうになるほどがっぷりと一刀へ激しい口付けをしながら華雄は最初の絶頂を迎えた。秘裂からねっとりとした愛液が溢れ出したのをはっきりと感じた。 「お尻だけでイっちゃうなんて……意外と華雄ってエッチだったんだな」 「……うぁ、あ……ば、馬鹿な……違う、これは違うぞ」  涎にまみれ、気を許したことによるだらしのない表情を見られまいと華雄は顔を逸らす。 「違わないよ、ほらおっぱいの先端だってこんなに尖ってる」  そう言いながら一刀が紺色の布地を押し上げる乳房の先を指で弾く。 「ん、や、止め、む、胸は……」 「立てる?」 「え?」  優しく問いかけてきた一刀に頷くと、彼の上から下りる。思ったよりも力が入らなくなっている足でなんとか立つと一刀の方を見る。 (あ、あの染みって……まさか、私の……)  ズボンの一部、先程まで華雄の桃尻がのっていた箇所にしみができていた。それは間違いなく華雄からあふれ出た蜜によるものだった。  自分が本当に先ほどの行為で達してしまったのだと理解し、華雄は恥ずかしさのあまり戸惑いの表情を浮かべる。  そんな華雄の肩を抱くと、一刀は座っていた階段を彼女と共に降りていく。華雄は彼に促されるままに影となっている隅へと連れられる。 「そこに、両手をついて」  そう言うと、一刀は壁となっている階段の側面を指さす。  華雄はふらふらの足取りで壁へと向かうと、汗の滲む額を拭い、恐る恐る手をつく。 「よし、それじゃあ腰をもっとこう出して」  くびれを掴んだ一刀に華雄の腰は後方へと引っ張られる。  華雄は崩れ落ちないよう両脚を開いて身体を支える。 「やっぱり、いいお尻だな」 「お、おい……何を考えている」 「多分、華雄の想像通りかな」  一刀はそう言うと、華雄のドレスの裾をめくる。先ほど下げられた下着を元に戻していないため、彼女の真っ白な尻が外界に露わとなってしまう。 「お、おい! 本気か? こ、こんなところで……」  一刀と関係を持つことに異存はなかったが、流石に下半身を丸出しの状態にされるというのには華雄も焦りを覚える。  そんな彼女などお構いなしに一刀が蜜のようにむっちりとした華雄の腰をなで回す。 「……まあ、確かにこんな時間でも夜警とかが来る可能性もあるしな」 「だ、だったら……せめて隠すくらいは」 「でも、その方が燃えるしな」 「貴様は馬鹿だぁ! あぅん!」  尻朶に頬ずりしながら脳天気に答える一刀の言葉に華雄は絶叫と喘ぎの混じった声を上げる。 「おいおい、あまり大きな声を出すと本当に誰か来ちゃうぞ」 「っ!」  華雄は息を呑み、唇を噛みしめる。壁から伸びる二の腕にずれた肩紐がかかっているが直すために片手になれるほどの余裕は彼女にはない。  一刀の両手が先ほどのように桃割れを左右へと引っ張る。先程と違い、今回は彼がじっくりとそこを観察できる。それが気になり華雄は腰をよじるが妙な脱力感からあまり効果がない。 「綺麗な色してるな。それにもうこんなに濡れてる」 「んっ……くぅ……」  濡れそぼった蜜壷に一刀の指が触れる。秘唇を入念な調査をするかのようにゆっくりとなぞられる。  それだけで華雄の心臓は絶頂を迎える前の忙しない鼓動へと戻っていく。  一刀の指はまるで何か妖術でも纏っているかのように華雄の快感を引き出す。 (こ、この状態でこれか。指を挿れられたらどうなるのだ)  不安を抱くが、その中には期待も含まれていることを華雄は感じていた。  水音をさせながら一刀の指が華雄が待ち焦がれるものを与えようと秘部へ入りこんでくる。  背中から頭にかけて曲線を描くように反り返る身体。 「ほらほら、もっと力抜いて……」  一刀はそう良いながら華雄の微妙に開いた胸元の空間へ手を差し入れてくる。  ドレスの下にある剥き出しの乳房を一刀の手に若干強めに揉まれる。 「いっ……んあっ」 「ごめん、興奮しすぎてだんだん制御が……」 「か、構わん。お前の望むように……しろ、んぅっ」  切れ切れの息の中、華雄がそう答えると一刀は彼女の背中に寄りそうような体勢を取る。  乳房への愛撫が大切な果実を扱うかのような優しいものへと変わっていく。  秘部と胸からくる甘い感覚を受けて華雄の下腹部はずっと熱くうずき続けていた。  背中に抱きつくような形をとっている一刀に背後から首筋を舐められた華雄は悲鳴を上げる。 「はあっ、はっ、はあぁぁ……!」 「ふうん、ここか……」 「くふぅん! そんなに舐めるんじゃ……んぁっ」  ぴちゃぴちゃという音が首筋から立ち、華雄の耳を犯しつくそうとする。  華雄はその音を聞いているうちに自分の呼吸が荒くなっていることを感じ取っていた。 「ん……そこは、うぅ……」 「じゃあ、こっちの方がいいのかな?」  一刀はそう言うと、首筋からずるずると引きずるようにして舌を上昇させる。 「な、なにを……きゃっ」  耳の裏をべろりと舐められた華雄は自分でもあり得ないと思うような悲鳴を上げてしまう。 (な、なんだ今のは……き、聞かれてないよな)  そっと確認しようと顔を振り返らせようとする華雄、その瞬間耳の穴にぬめっとした感触が起こりまた悲鳴を上げてしまう。 「な、なにを……」 「ん……ちゅっ、華雄が急に動くから舌が入っちゃったんだよ。もう少し取っておこうと思ったのに……」  ぶつぶつと文句を言う煩悩男を華雄はぶん殴ってやろうかとすら思う。しかし、彼女の腕は残念なことに自分の身体を支えるので一杯一杯で今もぷるぷると震えているくらいである。  背後でする一刀の吐息が熱く激しく、華雄の劣情を掻き立て秘部に入れられた彼の指を一層ぬるぬるにするように愛液まみれにしていく。 「はぁ……はぁ……んぁっ」 「…………」 「ん? ……どうし、た?」  急に黙りだした一刀に華雄は秘部を掻き回される快感に耐えながら振り返る。  彼は裏路地の入り口の方を見て眼を細めている。 「誰か来たな……」 「あぅっ、う、嘘だろ……はぅ、んぅ」 「ほら、足音がしないか?」  余計な感覚に邪魔されながらも華雄は耳を済ましてみる。確かにじゃりじゃりと地面を踏みしめる音がしている……ような気がする。  誰かが来る、そう頭が理解した瞬間に華雄は全身がきゅっと締まるような感覚に襲われる。 「……た、確かに。んあぁ、というか、それなら、もうや、やめっふあああ」 「そう言われても華雄のあそこが俺の指を離してくれないんだもん」  不満げに答えた一刀が、一輪挿しの花瓶のような趣きの華雄の内奥にくぐらせた指を、第二関節まで深く埋め込ませて、激しく抜き差しを行う。  「あんっ、く、おかしくなってしまうぅぅ」  一刀は少し前までと比べても激しい息遣いと指使いによって華雄を責め立ててくる。  頭の中が真っ白になり、一刀の声以外聞こえなくなる。 「お、おい……足音は……はぁぁ、どうなってる?」 「どんどん近づいてる……もうすぐこの路地に入ってくるぞ」  一刀の言葉が不安を煽るが、同時に華雄の秘部は信じられないほど切なくきゅうきゅうとなる。 「ふあっ、こんな屈辱的な格好にされて……かずとにいかされるところ……みられるなんてぇ……」 「来た!」  その瞬間、華雄の中で最後の防波堤が決壊して快感が全身に流れ込み身体が弓なりとなる。 「あ、あぁ、だ、だめ……み、見ないで……フアァァァァ」  華雄は声を上げて、身体をのけ反らせる。  呼吸が、止まる。  頭の中がぐちゃぐちゃになって世界が歪む。 (みら……れた)  どこの誰ともわからない者にイく瞬間、それも下半身を露出した状態で見られてしまったが、華雄はもうどうでもよくなっていた。  そんな華雄と何も言わない一刀の元へ足音が近づいてくる。 (……む?)  何か違和感を覚える足音に華雄は顔を顰めると、その正体を見極め、彼女は涎と乱れた息が溢れ続ける口を動かす。 「……おい」 「ん? どうしたの?」 「あ、んぅ……あれはどういうことだ」  華雄は力が戻らぬ腕の代わりに顎で指し示して一刀を睨む 「にゃあん」 「どうみても猫だろうが!」  どこかから迷い込んできた野良猫が暢気に二人の方へと歩いてくる。 「あれ? 言わなかった?」 「言っておらんわ! アホか!」 「……ふうん。ということは、華雄は人に見られることで興奮してイったんだ」 「……言うな」 「へぇ、そうかそうか。もしかして、露出好き?」 「言うな……馬鹿」  腹が立つほどににやにやとしている一刀に華雄は、どうしてこんな男に惚れてしまったのか自分を問いただしたくなってくる。 「それにしても、お前はそんな奴だったか?」 「最近、勘が戻ってきた。と言っておこう」 「……なるほど」  つまり、攻め気でスケベな思考こそが一刀の素であり本当の姿である。そう華雄は認識した。 「幻滅した?」  不安の混じった声で訊ねてくる一刀だが、その顔は全く曇っていない。  内心で、わかっているくせにと思いながらも華雄は答える。 「愚問……を言うな。別にそんな理由でお前に……心奪われたわけではない」 「嬉しいこと言ってくれちゃって。ん……」 「んぅ、ぷはっ。口付けも……嫌いではない、が、腰に当たっているものをどうにかした方がよいのではないか?」 「へへ、わかる? もう限界なんだ」  一刀はそう笑うと、先程からこつこつと華雄の尻肉に擦れていた股間の膨らみをより強く押しつけてくる。  華雄は布地越しに伝わる非常に固い物質に唾を飲み込み、そのことで頭がいっぱいになりかけて必死に振り払おうとするが考えてしまう。  その時、二の腕付近にくすぐったさを感じて華雄はそちらへと視線を向けると、一刀が肩紐を持ってずらしていた。 「お、おい……今度は何を」 「ん? いや、どうせならと思って……はい、腕上げて」  急に腕を動かされて転びかけるが、一刀に抱きかかえられる。  華雄は背後の一刀に寄りかかるようにしてなんとか立っているという状態になる。 「なんだ? 力はいらないのか。仕方ないな」  微笑ましげに華雄を見ながら一刀が肩紐に彼女の腕を通して抜き去る。 「ま……待て、流石に……これ以上は……」 「ダメダメ。今日は、ここでの生活の最後なんだ。思い出を作っておかなきゃ」 「ふざける、んぁぁ」  抗議の声を発しようとする華雄だったが、剥き出しになった方の乳首を弄られることで途端に喘ぎ声へと変貌してしまった。  その隙をつかれ、華雄はもう片方の肩紐まで外されてしまう。 「うあぁ、ま、まずい、流石に胸はやめてくれ……頼む」  なんとか手で胸を隠した華雄は懇願するように一刀を見る。  しかし、彼はにっこりと微笑むと半ば強引に華雄の手をどかしていく。 「だめっ、胸はだめだ……ああ!」  剥き出しと鳴った乳房が外気に触れる。  決して小さくはないが、自分よりは小柄である賈駆や董卓と比べても大差で勝っているとは言い難い大きさである。  服の上から見てもわかるほど大きな胸を持つ面々が一刀の周囲にはおり、華雄は一人知れず劣等感を抱いていた。 「み、見るなぁ……私のむねを見るなぁ!」  その上、乳房の先端では既にピンクの蕾が硬く尖り、ピンと直立している。  関係を築いている以上、張遼の巨乳を知っているはずの一刀に見られたら、絶対に比較されてしまう。 (霞と比べられるのは、イヤだ!)  しかし、そんな華雄の願いをよそに、一刀はまじまじと乳房を見ている。いや、見ているだけでなく先ほどまでしていたように直に触れ、揉み始める。 「くっ、も、揉むな……こんな、小さい胸……」  恥ずかしさと悔しさで、華雄の鋭角な瞳は歪み、潤みを帯びてくる。 「もしかして、大きさ、気にしてるのか?」 「……おかしいか?」 「いや、華雄も女の子なんだなって実感できて得した気分だ」 「だが、やはり大きい方がいいのだろう?」 「おっぱい星人ならそうだろうな。だが、幸いなことに俺は違う」  真面目な顔をする一刀にどきりと胸が高鳴る。  一刀の腕が脇の下から入り、華雄は彼の両手に二つの果実を揉まれる。 「あ……っ?」 「うむ、予想通りだな。俺の手に収まりつつほんのちょっぴりはみ出る肉。これは絶妙なはみ出具合」 「そ、そうか? お前にとっての好みか?」 「ああ……と、いいたいんだが。俺は全てのおっぱいを愛する男! どのおっぱいが素晴らしいとは断言しない主義だ!」 「一度、本気で殴った方が良さそうだな……ふあっ、卑怯……だぞ」  大分戻ってきた力を込めて立ちながら腕を振り上げる華雄だったが、一刀の攻撃によって再び彼にしな垂れかかってしまう。  一刀の手によってむにむにと揉まれる乳房からは、先ほどの窮屈な状態とはまた異なった快感が華雄の中に生じている。  手のひらで乳首を転がされるたびに華雄の涎でぬらぬらと光る口からは甘い声が漏れてしまう。 「お、おかしい、ぞ。先ほどまでと比べものにぃ、ならないくらい、に」 「気持ちいいんだ」  一刀の質問にもう言葉では返すことができず、華雄はこくこくと頷く。  再び力が抜け始め、膝ががくがくと震えてとまらなくなっている。  引き始めた汗もまた表出し始め華雄の肌を艶めかしく輝かせている。  先程から感じる一刀の逞しい胸板の感触が華雄をどきどきとさせている。  硬くなっている先端の蕾が冷気を感じて華雄の身体にぞくぞくと寒気にも似たものを走らせる。 「うぁ……はぁ、んぅ……んああン!」  乳首を摘まれ、華雄は再び甲高い声を上げてしまう。誰かに聞かれてしまうかもしれないとわかっていてもこられられない。 「くぅ……このバカァ、わたひ、がわたひでなくなるだろ」 「大丈夫。ちゃんと責任とるさ」  その言葉に、華雄は蕩けてしまったかのような緩んだ顔で笑顔を浮かべる。  燃ゆる炎を思わせる瞳は温度が下がり温かいものとなり涙で潤み、半開きの唇からは熱い吐息が間断なくもれてくる。  白いにも関わらず健康的な肌には赤みが差し、雨に打たれたかのようにあふれ出ている汗が怪しく光っている。  華雄は眼を細めて一刀を見つめ、全てを任せる。 「それじゃあ、さっきの体勢に戻って……そろそろ、な?」 「……わかった」   熱に浮かされたように華雄は言われるままに白い山脈のような臀部を一刀に向ける。   ドレスは腰の辺りで留まったままで超し布部分もめくられているため、遠目に見たら、今の華雄は全裸に見えることだろう。 (く、すーすーする。裸に近い格好だからだが……こんな姿勢までとって……)  男を誘惑するように腰を突き出した体勢など、初めて女として相手を受け入れる者がするようなことではない。今の彼女に、隊や軍を率いるほどの猛将の面影を見いだすことなど誰にもできないだろう。  そのことを恥ずかしく思う華雄だが、今はそれ以上に一刀を求める感情の方が強まっていた。  白く美しい白桃のような尻が左右に揺れて誘惑する。色も大きさも男を知らぬ花弁に違わぬ慎ましやかさでありながらも、今は男槍を求めて蠢いており、非常に卑猥である。  勃起したクリトリスが包皮を押しあげ、半分ほど顔をのぞかせていた。  背後で一刀が唾を飲み込む音がした。次にズボンをおろす音が聞こえてきたことで、華雄はいよいよなのだと身構える。 「なあ、一つだけ……聞かせてくれないか?」  女王蜂のようにひねり出された見事な尻をわし掴みにした一刀の熱い先端が秘口に触れたそのとき、華雄はどうしても聞いておきたいことを思いだした。初体験の前に聞いておきたいと考えていたのだ。 「いつから、私のことをその……好きになったのだ?」 「うーん、やっぱり始めに好意を持ったのは迷子を母親に届けたときかな。華雄の優しさと凛々しさに見とれてたんだ」 「そうか……私の方が後、つまり負けだな。私が一刀に好意を抱いたのは、真名を思い出した……あの日だ」  少なくとも、華雄がはっきりと彼への好意を自覚したのはそのときだった。それ以前から積み重なった想いが実を付けたのだ。 「勝ち負けってなるあたりは華雄っぽいとは思うけど、こうして一緒になれるんだ、どちらも勝ちだろ。それに、もし敢えて勝ち負けを言うなら俺の負けだろ。恋愛は先に惚れた方の負けってね」 「……そうか」  華雄は、自分が好きになるよりも前から好きでいてくれたという一刀の言葉に嬉しさが込み上げ破顔したのを見られないよう俯く。  彼の答えを聞いて、華雄の中に残っていたわだかまりや躊躇は完全に消え去った。 「さあ、来い。私を、一刀の女にしてくれ!」 「……華雄っ!」  秘部に一刀の棍棒が宛がわれる。 「んっ……」 「いくぞ。力、入れすぎないようにして……な」  一刀がのしかかるように体重をかけてくるのに合わせて、業火で焼かれたかと勘違いしそうなほど熱い肉棒が女への扉をこじ開けようと突撃をかけてくる。 「くぅ……い、痛……くはない……な。これくらい、ふぅぅっ!」  更に強めの一突きが襲い来る。  その瞬間、何かがはじけ飛んだのかと錯覚するような音が頭の中で響いた気がした。直後、信じられないような太く硬いなにかが胎内に潜り込んでくるのがわかった。 「全然、たいしたことないな……うあああっ!」  少し遅れるようにして、華雄の下腹部に鋭い痛みが走る。  まるで膣壁を爪で強く引っかかれたかのような強い痛みに彼女は苦痛の声を漏らしそうになるが堪える。 「大丈夫か、華雄。痛いなら無理するなよ」 「ふ、ふん……痛っくぅなど……ない、このてい……ど」  心配する一刀が動きを止めて訊ねてくる。華雄はそれに強気に答えるが、歯を食いしばっていないと弱音が溢れてしまいそうだった。  想像していたよりは痛みがない。だからといって耐えられるかと言われれば微妙だった。  華雄は額に脂汗を浮かばせながらも強引に腰を動かそうとする。 「……何をぼけっと……動けば……よい……だろう」 「わかったわかったって。俺から動くから、華雄は動かないでくれ」  溜め息混じりにそう言うと、一刀は華雄の乳房に手を伸ばしてくる。  びんびんに張っている乳首を指で摘んだり転がしたりされると甘い感覚が華雄の脳に流れ込み、膣の痛みを僅かだが和らげてくれる。 (動くといったくせに、実際には手だけではないか……)  そんなことを思いながらも、華雄はもう一方で一刀に気遣いをしてくれたことへの感謝と大切にしてくれる嬉しさを噛みしめていた。  胸元の肉乳の感覚で痛みがやわらぐと今度は、下腹部を包む重々しい違和感が襲ってきた。  少し息苦しいし圧迫感はあるが、イヤではなかった。  それにも慣れると、今度は自分の中でぴくぴくと動く一刀の分身を感じるようになる。  自分を求めているのだと思うと、華雄は彼のことがまた一段と愛おしくなる。 「……動きたいのだろう?」 「え、いや……その」 「んっ、大丈夫だから、今度こそ好きに動け。遠慮はいらんぞ」 「…………わかった」  そう答えるやいなや、一刀は腰を動かし始める。  最初はゆっくりと、しかし徐々にその速度を増して、華雄のナカを刺激する。 「くあっ、あ、あ、んんっ、あはぁあっ!」 「やっぱり、無理か?」 「違っ、なんか少しずつ……うあっ、違う感覚が……」  一刀が腰を荒々しく突きだしながら乳房を更に激しく揉んでくる。硬くしこった乳首をいじられ、汗ばんだうなじを舐められる。 「ふあっ、ど、どこに気を向ければ……ああっ、あぅ、ひぃん!」  痛みは徐々に消え始め、代わりに膣道を貫く男根の圧倒的な存在感と、一刀の指や舌が同時に送り込んでくる快楽が華雄の中を支配していく。 「ああっ、やっ、あぁ! あっ、あうっ、はぁんっ!」  乳房を絞られるかと思うほどぎゅっと握られた直後に優しくいたわるように撫でられるのがよすぎる。  敏感になりすぎた乳首が痺れて切なすぎる。 「うっ……くぅ、お、奥まできて……うあっ、きてるぅ、一刀の先の方が一番奥の所を小突いてっうあっはひっ、うあっ、そ、そこをコリコリっていじるなぁっ!」  一刀に後方から深々と突き刺され、子宮を突きあげられる。  半剥け状態の包皮を根元まで引っ張られ、無防備になった陰核を指の腹で転がされる。 「うあっ、くぅ、いひいぃっ! ふあぁ、初めてなのに……嘘、だろぉ、くあっ、そんな、も、もう、ダメっ、うあ……このまま天に……昇って、んぅ、しまいそうだぁっ!」  想像だにしなかった快感が華雄の全身に満ちていく。本当にこれが初かと自分を疑いたくなるほどの悦楽に脳を灼かれていく。  豊満ではないが、締まっていて凛々しさのある壮麗さを誇る肢体を悩ましくくねらせながら、藤紫色の髪をした美女が初めて味わうであろう悦楽へと向けて加速を始める。 「んぅ、はぁ、な、ナカで一刀のが、大きくなって……ふくらんで、うぁっ!」  一刀の得物に何が起こっているのか本能で察知した襲粘膜があわただしく収縮する。 「く、締まる……華雄のオマ●コ、気持ちよすぎる……!」  一刀のうめき声に反応して、肉壷は更に締め付けを強くしていく。彼の種を搾取しようと蠕動を始める。 「うあ、もう……止まらない……わたひらしくないのに……あああっ!」  華雄は自分でも信じられないほどに大きく腰を振り、貪欲に快楽を求め続ける。  この日、三度目になる脳内の空白が訪れ始める。  その時、一刀が華雄の腰へと抱きついて耳元に口を寄せる  獣のように野性的な一刀の息遣いが彼女の耳を浸蝕していく。 「……か、華雄」  目の前が完全に真っ白になる、耳から直に届く彼の呼吸に脳内の全てが注がれる。  一刀の言葉を聞き逃さないように全ての神経を向ける。 「愛してるぞ――」 「っ!? ふぁ、やっ! ダメぇ、ま、真名ぁぁ、ずるっ、んあああ!」  最後の瞬間、耳元で真名を囁かれた華雄はついに完全なる一人の女性、いや少女となった。  少女は両脚のつま先をピン、と伸ばして腰を浮かせたまま固まる。 「ぐっ……出る……!」  そして、絶頂中の膣内に向けて一刀の燃え盛るような子種が注がれていく。 「ああああっ……ああっ、んあぁっ!! あ、熱……い」  初めての中出しとそれによる絶頂で華雄は甲高い嬌声をあげる。  少女となった彼女の心と肉体は共に堕ちた。その悦びに打ち震える華雄の瞳から涙が流れる。 (あぁ、まだ、くる! 初めてなのに、まだ昇り詰めるっ!)  まだ終わらない一刀の射精を感じながら、華雄はゆっくりと目を閉じた。  彼女の心と気が充実していく。 (これが……愛されるということか……)  身体とその中心にある温もりから華雄はそれを実感する。  かつて味わうことのなかった感覚に酔いしれながらも華雄は全身の硬直をゆっくりと解いていく。 (なるほど、月様や霞たちが夢中になってしまうわけだ……)  †  服を整えた二人は、再び階段に腰を下ろして暗さを増す夜空を眺めていた。  一刀は肩によりかかっている華雄を見る。 (こうしてると綺麗な女の子としか見えないよなぁ……)  実際には華雄の腰が抜けてしまっているからそうしている、という事実を残念に思いながら一刀は語りかける。 「なあ」 「なんだ?」 「部屋にきた時、その服を一度も見せずに終わるのが嫌だって言ってただろ?」 「そうだが、それがどうかしたか?」 「俺はこれで最後なんて絶対に嫌だ……必ず、また見せてくれよ」  一刀は熱くなる目頭を隠すように腕で目元を覆う。  沈黙の後、ふっと息が漏れる音がした後、華雄が一言告げた。 「ああ、そうだな。約束しよう、絶対にもう一度見せてやる……その時は、またさっきみたいなことをだな……その、お願いできるか?」  言葉を詰まらせながらも語られた華雄の思いに一刀は頷き、彼女の顔を見て笑う。 「ああ、華雄が望む望まないを別にしてでもするさ。露出だろうと野外だろうとな!」 「お前という奴は……」  びしっと親指を立ててにかっと笑う一刀に呆れた表情を浮かべる華雄だが、すぐに吹き出す。二人はどちらからともなく大笑いしていた。  旅立つ前、最後の時間であることをじっくりと感じつつ二人は帰路へとつく。 「そういえばさ」  一刀はふと思い出したことを話し始める。 「さっきの月と太陽の話だけど、もう一つだけ話してないことがあった」 「どうしたのだ、急にそのような話などして」 「月ってさ、輝く箇所が満ち欠けするだろ。それでも、うっすらとだけど他の部分も輝いていたりすることもあるんだ」 「それがどうかしたのか?」 「それってさ、俺たちがいるここも関係してるんだ」一刀はそう言うと大地を指さす。「太陽の光を受け、その反射が月の暗がりをほんのりと光らせてる」 「何が言いたいのかがよくわからんな」  首を傾げてきょとんとしている華雄に一刀はにっこりと微笑む。 「つまりだな、月を慕い、空で輝く月のように見上げている華雄もまた輝いている。そう考えても何らおかしなことはないんだってことだよ」 「そ、そうなのか?」  一刀の言いたいことを理解して気恥ずかしそうに頬を掻く華雄、その締まった細い腰に手を回す。 「ああ。そして、華雄がいなくなれば月も陰りを帯びて暗くなってしまうってことを忘れないようにな」 「……お前はどうなんだ? 太陽は自ずと光り輝くものだろう?」 「はは、太陽なんか関係ないよ。俺は華雄がいなくなったら嫌だ、それだけさ」 「やれやれ……自分で例えに出しておいて、いい加減な奴だ」  華雄は溜め息混じりに肩を竦めると、一刀の腕を抱え、その肩へ頭を乗せる。 「しかし、そんなお前に惚れたのだから私もどうかしているな」 「要するに最後に愛は勝つってことだな!」 「はあ……、頭が痛くなってきた」 「おいおい、やめてくれよ。行為に及んだ影響で出立見送りなんて」 「頭痛は……いや、どちらも詰まるところはお前のせいということになるではないか!」  人気のない夜の街。  だが、彼らのいるところだけは昼間のように明るく、そして賑やかである。  一刀は、自分たちの行く末もまた明るき未来であることを願うのであった。