作られた外史――。  それは新しい物語の始まり。  終端を迎えた物語も、望まれれば再び突端が開かれて新生する。  物語は己の世界の中では無限大――。  そして閉じられた外史の行き先は、ひとえに貴方の心次第――。 さあ。 外史の突端を開きましょう――。  序章 「ありがとうな華佗。斗詩たちにも迷惑かけたな。」 「まったくですわ、一刀さんのせいであの貧相な宿に何日足 止めを喰らったと思いますの。」 「麗羽さま〜そんな病み上がりを鞭打つようなことを……」 「いや麗羽姉さまの言う通りじゃ。わらわもずっと待たされ ておったなも! かずと!治ったならさっさと荷物持ちせい! 出発じゃ!」 「そうだそうだ〜、よ!お嬢さま情けムヨ〜だ!カッコい〜♪」 「あら〜ん、皆さんご主人さまをいじめちゃダメよ〜ん、 荷物なんか貂蝉におまかせ〜うっふ〜ん♪」 華佗の治療を終えた一刀のまわりでてんでばらばらに勝手な ことをほざく麗羽たちが旅仕度をしている。 一刀たちが立ち寄った村の流行り病は華佗の活躍で終息し、感 謝する邑人を後に一刀たちは麗羽&美羽の南の楽園探索ツアー に出発しようとしていた。 「一刀、治ったばかりだ。無理するなよ。」 治療の間にすっかり意気投合した一刀と華佗。その背中に貂 蝉、卑弥呼がくねくね悶絶する。 「うっふ〜イイオノコがふたり、美しい友情だの〜♪」 「そしてその友情がやがて…あは〜んたまらないわ〜ん♪」 二人の漢女の熱い視線を余所に一刀たちの会話は進む。 「それで一刀、これからどうするんだ? ただ南の楽園と言っ ても目当てはあるのか?」 「いや〜はっきり言って全然ない。」 「そんな自信満々にないって…大体なんでそんな旅してるん だ? 言っちゃ悪いが、まるであいつらの小間使いみたいに…」 「まあ、実際拾われた身としては小間使い扱いも仕方ないか らな〜」 「拾われた?」 「ああ、野垂れ死にするとこをあいつらに拾われたんだ…」 「そうか、命の恩人なのか…」 「そゆこと〜 ま、根は悪い連中じゃないしな、気長に行くさ。」 「そ、そうか(気楽な奴だな〜)」 「それよりよかったのか?一緒に旅をするって… 病魔に苦し む民を救うのなら……」 「ああ、だが病魔に苦しむ人々はどこにでもいる。 そして 旅をしていてわかったんだ。 医で救うにはいくつもの人の協 力がいる。 これまでも貂蝉、卑弥呼のおかげで救えてきた。 だからしばらくは皆と一緒に行くよ。で、これからどうする?」 「う〜ん、今まであの二人の気分で右左とふらついたあげく 流行り病にやられちまったからな。」 悩む二人に意外な声がかかる。 「ならば、あちらに向かおう。」 振り向くと華雄が馬上から二人を見下ろしていた。 「あそこって。華雄、なにか見つけたのか?」 「ああ、ここからしばらく行った所に賢者が潜む庵があるらし い。 どんな難題も解決するとの評判だそうだ。」 「ほ〜賢者か。そやつなら楽園のことも知っておるかもしれな いの〜七乃。」 華雄のネタに美羽がぱっくり食いつく。 「さすが美羽さま〜いきましょう。さっさといきましょう〜」 「ちょ〜と、お待ちなさい! そ〜ゆ〜決定はこの三公を成した この私にはかるべきではなくて!」 ギャーギャー騒ぐ麗羽たちにまた苦笑しながら一刀は華雄を仰 いだ。 「じゃ、とりあえず行ってみようか。」 ……… …… … 「占い師?」 「うむ最近、滅法当たるっていう占い師が噂らしい… 冥琳、 知らんのか?」 「ええ、初耳です……まずいな。」 「まずい?」 「忘れたのですか祭殿。 雪蓮は呪い(マジナイ)とか占いとか嫌 いでしょう。 ちょうど今日は視察するとか言ってたから…… 面倒なことにな らなければいいけど。」 「おお、そういえばそうじゃな。 本人は勘を重視するわりには 占いや呪いのたぐいは嫌っとったのう。 はっはっはっ♪」 豪快に笑う祭を横目に呉の軍師は不安げに建業の街を眺めた。 「祭殿、すまないが…」 「おぬしも心配性だのぅ、わかった ひとっ走りしてこよう。」 ……… …… … 「あれがその賢者の庵か、、、」 竹林の奥に見える屋敷に進む一刀たち…やがて門前に到着する。 「なんだかポロっちいところですわね。」 「そうですか、清楚な感じでいい所じゃないですか。ね〜文ちゃ ん。」 「ん〜よくわからんけど斗詩が良〜ならいんじゃね。 お〜い誰 かいるか〜?」 ドンドン門を叩き、猪々子が怒鳴るのを眺めていた貂蝉が呟く。 「ん〜 変ね〜?」 「どうした貂蝉。なんかあるのか?」 「ん〜ご主人様、な〜んかさっきから変な感じするのよね。 なんか、こ〜お尻の奥がむずむずして〜うふん♪」 「痔か?華佗に診てもらえ。」 「やん!ご主人様ったら〜違うわよ〜」 くねくね尻を振る貂蝉を尻目に門に眼をやると、扉がゆっくり 開き人影が現れた。 「あ、貴方は……」 その姿に珍しく貂蝉の表情が硬くなる。 「? なんだ知り合いか?」 「左慈、、、なぜ貴方がここに……」 そう、そこにはあの左慈が不敵な笑みを浮かべ佇んでいた。 「ふん、久しぶりだな。貂蝉 そして……北郷一刀。」 …真・恋姫†無双 第五の選択… 第一話「王のけじめ」 「捕らえろ!」 建業の街に凛とした雪蓮の命令が響く。 「おやおや、穏やかではありませんね。 私がなにをしたという のですか? 孫伯符殿。」 「黙れ于吉!怪しげな術で民を惑わす不埒な導師が! この孫策 の街で勝手はさせぬ!」 「ほう…なにか具体的に被害届でも貴女の所にあったのですか? これでも良心的な営業に努めたつもりですがね。」 数十の鋭槍に囲まれながら于吉は平然と雪蓮に問い返す。 その余裕が彼女の感情を逆なでた。 「黙りなさい!そんなもの要らぬ! キサマの頚を落とせば済む ことよ。」 美しい切れ長の釣り目を怒らせて于吉を睨み据える雪蓮。 そんな姉を同行した蓮華が戸惑い気味に見つめていた。 「思春、姉様は一体、、、民も驚いてるわ。」 「皆が占い師に夢中で雪蓮さまに気づかなかったのが不快だった のではないでしょうか。」 「まさか、姉様はそんな狭量ではないわ。」 「いずれにしろ少々まずい雰囲気です。 民も雪蓮さまに少し非 難めいた感じです、蓮華さまはお下がりください。」 「だめよ、姉様を置いていけない。」 そんな二人の不安をさらに事態は増加させる。 「おやおや、証拠も無しにいきなり断罪とは…とんだ恐怖政治で すね、 やはり母君にはおよびませんか。」 「っ! なんだと…」 ぶわっと雪蓮のオーラが変わった。 蓮華、思春にはそれが戦場モードになったのがわかる。 「まずい…」「姉様、だめ!」 二人が同時に声をあげたときにはすでに雪蓮の躯が紅い影となっ て南海覇王を閃めかせていた。 斬ッ…  ブシュ――――――――― 于吉の首が飛び、一瞬遅れて鮮血が噴水のように噴き出す。 返り血を浴びた凄惨な姉の姿を蓮華たちは茫然と眺めていたが、 やがてまわりがざわめき始めた。 「いけません 蓮華さま、暴動になるかもしれません。 雪蓮さま を連れてさがりましょう。」 「え?あ!そうね、姉様!」 聞こえない距離ではないのに雪蓮はぼーっと南海覇王を見つめて いる。 「姉様……え?!」 姉を気づかせようと近づく蓮華の脚が止まった。 「なっ……」 「ばかな…」 思春も雪蓮も驚きのあまり絶句する目の前でなんと首無しの胴体 が動いているではないか。 ざわめきたった民衆もあまりの光景に水をうったように静まる中 見つけた首を抱え于吉の胴体はとことこ走り去った。 「…………はっ! な、何をしてる!追え!」 夢から覚めたように雪蓮が慌てて怒鳴るが、兵たちもあまりの出 来事に戸惑い気味だ。そこへ制止の怒号が響いた。 「追う必要はない!」 「ぬ、誰だ? あ……」 兵を止める声に振り向くと、そこには祭が仁王立ちで雪蓮を睨ん でいた。 「策殿、冥琳がお待ちじゃ…すぐ戻られよ。よいな!」 「………くっ。」 ……… …… … 「犯した罪も明らかでない者を民の目の前で斬るなんて!雪蓮! 何を考えているの!貴女は指導者として一番やってはいけないこ とをしたのよ!」 「・・・」 建業の王宮で青ざめた軍師の説教を雪蓮は唇を噛み締め黙って聞 いていた。 「于吉のことは調べたわ。確かに呪いや占いを商売にしてる。 でも代金は安いし無償で病を治してもいる。評判も悪くない。 そんな人物を権力者が力ずくで殺す……」 「待って冥琳!于吉は死んでないわ。あれは導師が使う玄術なん でしょ?」 見かねたように蓮華がフォローするが逆効果だった。 「なお悪い!そのくらいのことも見抜けずに! 結局、民に横暴 な権力者・マヌケな権力者と印象つけてしまったわ。 雪蓮、いつもの貴女ならひっかかったりしなかったはずよ。 一体どうしたの?そもそもなぜ一方的に絡んだりしたの?」 「・・・」 「黙っていたらわからないわ! 雪蓮!私たちの築いてきたものが 底辺から崩れ落ちる音が聞こえないの! 民の信頼!孫堅さまから 築いてきた…」 ギラッ! その瞬間、おとなしく説教を聞いていた雪蓮の瞳が冥琳を射貫い た。 殺気すら感じる眼光に冥琳の背筋に冷たいものが流れる。 「しぇ、雪蓮?」 「…………そっか、冥琳もそう思ってたんだ。」 底冷えするような雪蓮の声に皆が凍りついた。 「なにを……言っているの、雪蓮。」 「私なんかが母様に敵うわけない。呉を継いだのもただ血が繋が っているから、、、ホントは蓮華でも小蓮でもよかったんで…」 パンッ! 凍りついた部屋に冥琳の張り手が響いた。 余程の力で叩いたのだろう。よろめいた雪蓮が崩れ落ちる。 「いつ、、一言でも、、、私がそんなことを言ったかっ! しぇれんっ!」 双眸から涙を流し冥琳が雪蓮の両肩を揺する。 「私たちの誓いを忘れたのか? 共に孫堅さまの悲願を達成しよう誓いあったあの日を!」 「………………………………………ごめん。」 殴られた勢いで乱れた髪間から覗く唇にうっすら血が流れる。 「ふむ、どうやらこの辺でお開きにしたほうがよいの。 冥琳 お前も少し頭を冷やせ。」 「……はい、すみません。祭殿。」 祭の一言で解散となった後、蓮華が祭を追ってきた。 「あの、、、祭は、、知ってるの?」 「知ってるとは?」 「その…姉様が、、、普通じゃなかった。 占いが嫌いにしても あの激昂ぶりは普通じゃないわ。 母様へのこだわりかたといい… 今までただ目標にしてるだけかと思ってたけど、、、」 「ふむ、まあ〜心当たりは確かにある。」 「祭、、、」 見つめる蓮華に祭は困り顔で首を傾げる。 「じゃが、これは策殿が自分で克服すべきことでの。 話すなら 自ら語るじゃろ。すまんのぅ 権殿。」 「そう、、、そうね、ごめんなさい、祭。」 ……… …… … 「まさか貴方がこちらに来ていたとは〜びっくりしたわん! あの感じは貴方だったのね〜」 「ふん、、、」 庵の居間で茶を飲みながら貂蝉と左慈が二人にしかわからない会 話をしている。 「貴方がいるということは于吉も来ているわけ?」 「ああ、今は街に出稼ぎに行ってるがな。」 「出稼ぎ?あら〜ん、なんでまた〜?貴方たちにお金なんて…」 「…それが必要なのですよ、今の私たちはね。貂蝉お久しぶりです。」 街から戻ってきた于吉が顔を出した。 もちろん首はちゃんとくっついている。 「遅くなりましたね、これが今日の上がりです。」 左慈はぽんと手渡された革袋の重さを計ると懐にしまう。 「遅くなった割には軽いな、なにがあった?」 「迂闊にも孫策に出会ってしまいましてね… やはり相性が悪い のでしょうか、見事に絡まれましたよ。」 苦笑しながら茶を呑む于吉に七乃が驚く。 「孫策に絡まれましたってあの孫策相手によく無事でしたね〜」 「七乃の言う通りじゃ、わらわは何度も腕を切られるとこじゃっ た。 あんな狂暴な女はおらんぞ。」 「まあ、めくらましで逃げましたから… しかし、もうあの街で は商売できませんね。結構良い売上だったのですが…」 「それよ〜な〜んで貴方たちそんな金儲けとかしてるわけ〜 仮にも剪定者でしょ〜ん。」 「おや、左慈 まだ説明してないのですか。」 「ああ、お前が戻ってからと思ってな。」 「なるほど。では改めて……貂蝉、実は私たちはもう剪定者では ないのですよ。 老師によって能力を封じられ、このように日々の 糧を得なければならない身の上なのです。」 「な〜るほど〜それで近づいても貴方がたの気配をはっきり感じ なくてお尻がむずむずしたわけ〜でもど〜して封印されてこの外史 にいるのよん?」 「それについてはこちらの文を…老師より貴方が来たら渡すよう にと授かりました。」 そういうと懐から封書を渡す。 貂蝉はその中身にしばらく目を走らせていたが… やがてなにやら納得した様子で顔をあげた。 「なるほど、、、わかったわ。 しばらくご主人様はお二人に任せ ましょう。 未練たらたらだけど老師の命じゃしょうがないわん。」 「なに?貂蝉 おぬし!?」 黙って聞いていた卑弥呼が驚きの声をあげる。 「いいのよ 卑弥呼。ほら……」 貂蝉に渡された封書を読む卑弥呼の表情も変わる。 「なんと!まさかこのような……うむ〜これはワシもゆっくりは できぬ。」 ピクピク髭を震わせ卑弥呼が立ち上がった。 「華佗ちゃんよ!心残りではあるがワシは急ぎ倭に戻らねばなら ぬ! 必ず戻ってくるゆえ寂しくとも耐えるのじゃ!」 「うふ〜ん、ご主人様もやっ〜と会えたのにごめんなさいねぇ〜 ん。 すぐ戻ってくるわ〜ん♪」 ふたりのくねくね筋肉ダンスに華佗&一刀が引き気味に笑う。 「い、いや、なにかは知らんが緊急事態なら仕方ない。 気をつけてな。それと…ふたりとも今までありがとう!」 「ああ、華佗のいうとおりだ。気をつけろよ……まあふたりなら 心配いらないと思うけど、、、」 「ああ〜ん!やさしいのね〜!んちゅ〜!」 「うぬ!ワシも!んちゅ〜!」 「「うわっ?!」」 「気色悪いわ!とっとと飛んでけぃ!」 「あら――――――――――――――――――ん☆キラーン」 「むほ――――――――――――――――――ん☆キラーン」 華雄の一閃がガツンッと二つの筋肉を星にした。 「ほう、あのふたりを……なかなかの武力ですね。」 「ふ、まあまあだな。」 感心する于吉と左慈に一刀が尋ねる。 「なあ、さっきの…なんか大変なこと書いてあったのか?」 「ふふ、気になりますか?今は内緒です、ご主人♪」 「ご、ご主人って…俺のことか?そういや貂蝉の奴、俺を任せる とかなんとか言ってたな?」 「ええ、私と左慈は今日より貴方の下僕、なんなりとご命令くだ さい。ふふふ……」 妖しい笑みを浮かべる于吉と仏頂面の左慈。 また癖のありそうなふたりが仲間になることに一刀の胃はキリキ リ悲鳴を上げた。 「ちょっと待ってくれ、うちはすでに(え〜と 麗羽、猪々子、 斗詩、美羽、七乃に華雄か)都合6名の大所帯だし……」 「大所帯だからこそ、我らが合力が必要なのでは? 食費だけで も馬鹿にならないでしょう。」 「うっ……」 「それともなにか宛がありますか? 贅沢&我が儘美姫、甘やか し大将軍に大食猪将軍…まともな顔良将軍とご主人の稼ぎでいつま で持ちますか? 私たちがいれば少しは負担は減りますよ♪」 麗羽たちに聞こえないよう囁く于吉の提案は、拾われて以来苦労 しっぱなしの一刀にはとても…いや かなり魅力的だった。 「うう、じゃあ……」 ……… …… … 「あぅ〜 も、もう勘弁してくださ〜い。」 盃を伏せて亞莎が降参するが雪蓮は首を横に振る。 「なに情けないこと言ってるの。呉の将がこのくらいの酒で…… さ〜あ、今夜はとことん呑むわよ。あ〜しぇ♪」 頬を腫らせた雪蓮がぐいっと盃を傾けると、ずきっと口腔に痛み が走る。 「痛っ……もう冥琳たら本気で殴るから切れちゃったじゃない。 痛いなぁ〜ヒック♪」 「あの、やはり今日はこれくらいで……」 すでに真っ赤な雪蓮を心配して何度目かのお開きを申請するが呉 の大虎は聞き分けない。 「だ〜め♪んふふ〜亞莎、ほら呑んで、一気♪一気♪」 「そ、そんな、瓶ごとなんて無理ですぅ〜 あ、明命!助け…」 「亞莎、何事ですか これは?」 ごろごろ転がる酒瓶を避けて明命が近づいてきた。 彼女が密偵装束なのに雪蓮が気づく。 「あら、どこいってたの 明命?」 「はいっ、冥琳さまの命で于吉の居所を探りに行ってきました!」 元気いっぱいに答える明命を酔った眼が見据えた。 ……… …… … 「外史?なんだよそれ……」 「外史とは正史と似て異なるもの。貴方には自覚がないでしょう がすでに四つの外史を貴方は経験しているのですよ。」 そういうと于吉は一刀の目の前で指を立てる。 「最初にそこの左慈との一件から始まった外史。次の外史は蜀の 外史、三番目は呉の外史、、、」 四つ目の指を立てたとき于吉の眼がじっと一刀を捕らえる。 「…そして最後に魏の外史。そこで異変が起きた。」 「ごくっ……い、異変?どんな異変だ?」 生唾を呑み答えを待つ一刀に于吉は肩をすくめ、あっさり答える。 「わかりません。わかっていれば私達は貴方の元へ派遣されなか ったでしょう。」 「なっ…なんだよ、意味ありげに、、、俺はなにもしてね〜ぞ。 外史なんて覚えてね〜し。」 「覚えてなくて当然ですよ。問題は貴方が覚えているかではなく ……誰かが貴方を覚えているかも知れないということです。」 「へ〜誰かが俺をね〜… って!俺を?なんで?」 于吉の言う意味がわかり驚く一刀に彼は眼鏡を光らせ、にこりと 笑う。 「だからわかりません、ご主人。普通ありえないのです 外史が 変われば全てリセットされるのがこれまでの外史でしたが…」 眼鏡の奥の瞳に真摯な光が宿る。 「この外史にはどこかに前の外史の記憶を持ったままの人物がい るのです。一人かそれとも…」 「でもそれってそんなにまずいのか?あんまたいしたことない気 がするけど…」 頭をひねる一刀に于吉が憐れむようにため息をつく。 「はぁ〜ご主人、いいですか、前の記憶があるってことは、ある 程度この世界の歴史を知っているということです。多少違いはあっ ても同じ方向へ時代は動く…ということは、歴史を変える、、いや 支配することも不可能ではない。」 「支配…歴史を? そんなことが、、まさか、、」 「十分可能でしょう。大局を見る眼と細心にして大胆な行動力が あればそう難しいことじゃありません。そんな異常な外史が誕生し たらいったいなにが起きるか…老師はそこを心配して私達を派遣し たのです。」 そこでふっと肩の力を抜いた于吉がニヤリッと笑った。 「という訳で、まあよろしくお願いしますよ、ご主人。」 「という訳って…まあいいや、こちらこそよろしく。」 ぽりぽり頭を掻きながらあっさり受け入れる一刀を于吉ははんば 呆れ顔で見つめた。 「随分 落ち着いてますね、不安はないのですが?」 「あ〜そりゃ〜大丈夫!一刀の肝っ玉は、ナニと一緒で太いから♪」 一刀が答えるより早く猪々子がカラカラ笑いながら答える。 「だってさ、あのときも関羽相手にハッタリかまして麗羽さまや 斗詩を護ってくれたんだぜ。 シビレたよな〜あんときは!」 「(いやいやいや、あのときはお前らが俺を盾にしたからだろう が!めっちゃ怖かったんだぞ!)」 声にならない抗議をする一刀の横から華雄が自慢気に声をあげる。 「うむ、北郷のここ一番の度胸はたいしたものだぞ。 以前も私の特訓にわざわざ付き合って……危うく命を落とすとこ ろだったが、おかげで私は新たな必殺技を……」 「(いやいやいや!それも嫌がる俺を無理矢理 岩にくくりつけ て転がしたのはお前だ!)」 声にならない叫びをあげる一刀の横から美羽が高笑いをあげる。 「そうじゃ!わらわのときも蜂蜜採りに行ったら間違ってスズメ バチの巣を壊しおっての!あれは楽しかったぞ!」 「(いや……美羽 あれはマジやばかったんだぞ。大体間違えたの おま…)」 思い出したくない過去にげんなりする一刀に麗羽がトドメを刺す。 「おーほほほほっ!そーですわ、一刀さんは私の華麗な南の楽園 計画の信奉者ですのよ。私のためならなんでも……」 「姉さま それはちがうなも〜かずとはわらわを愛してるぞよ。 わらわのいうことならなんでも聞くのじゃ、のう七乃。」 「え?え〜と そうですね?あはは……」 「まあ!美羽さん それはどうかしら。事実 一刀さんはいつも私 の荷物をたくさん、た〜くさん、運んでますわ。お〜ほほほ〜」 最後はいつもの麗羽と美羽の張り合いを斗詩と七乃がなだめつつ 于吉に話を戻す。 「すいません。話それちゃって……続けてください。」 「ふふふ、ご主人は愛されてますね。まあこれから左慈共々一緒 によろしくお願いしますね。」 そう言われて一刀がおとなしく茶を呑む仏頂面を見ると、途端に 厭そうに顔をそむけてしまった。 「……なんだよ。」 「ふん……」 ふたりに険悪な空気が流れるのを于吉がフォローする。 「困りますね、左慈。この件は了解したはずですよ。ご主人にそ んな態度では……」 「わかっている。仕事はちゃんと果たす。心配するな。」 淡々とぶっきらぼうに言うとギンッと一刀を睨み据える。 「ったく、よりによってコイツの護衛など……クソ老師め。」 「なんだよ、眼飛ばしやがって……感じ悪い奴だな。」 「うるさい、、、そうだな、最初に言っておく。」 茶を置くとすっと立ち上がる。 「はっきり言うが俺はお前が嫌いだ。 だが一度結んだ約は果たす。 だから命のみ淡々と言え。馴れ合うつもりはない……以上だ。」 言うだけ言うとさっさと部屋を出ていく左慈。 残された一刀たちはぽかんとその後ろ姿を追う。 「まあ、あれが彼の持ち味なんですよ、どうです…萌え可愛いで しょう。くくっ♪ 気にせずどんどん使ってあげてください、ご主人。」 「(おいおい、あれが可愛いって?どんだけだよ〜)」 にこにこ頬すら染めて喜ぶ于吉に妖しい匂いを感じ、ちょっと後 悔する一刀だった。 ……… …… … 「ヒック……ここね……」 ふらふら千鳥足で于吉たちの庵の壁に寄り掛かる。明命から聞き 出して駆けに駆けてきたため、完全に酩酊状態だ。 「んぐ……ぐっ……げろげろげろ〜」 何度目かの嘔吐を繰り返すと目的地についた達成感も手伝い急速 に眠気が襲ってくる。 「く……まだよ……あいつを……こら…しめる…までは……」 数歩歩くが途中でずるずると壁にもたれ寝込んでしまった。 「まったくも〜お嬢様ったら……困ったちゃんですね、、、ん? あらら〜」 なにやら買い物から戻った七乃が崩れ堕ちた彼女を見つけ脚を停 めた。 「あれ?ひょっとして……孫策…さん?」 「そうか 雪蓮に聞き出されてしまったか、、、」 冷静に明命の報告を聞きながらも冥琳の心中は穏やかでなかった。 長い付き合いで朋友が何をするか彼女の鋭利な頭脳はたちまち弾 き出す。 「(まずい、まずいぞ。雪蓮、早まるな!)」 暴走したときの朋友の危うさを知るだけに冥琳は焦った。 「兵も連れずに単身乗り込むとは……無謀にもほどがある。明命 、すまんが道案内を頼むぞ。」 「はい!」 ふたりが出ていこうとしたところに蓮華たちが入ってきた。 「冥琳、姉様が行方不明って本当なの?」 「蓮華さま、落ち着いてください。孫呉の王族が慌ててはいけま せん。雪蓮の行方は知れています。ご安心を。」 いつもの冷静さを粧った美周郎の言葉に蓮華の愁眉が消える。 「そう、、、取り乱してごめんなさい。でもお姉様にも困ったも のだわ……いつも冥琳や私たちを心配させて、、、」 「ははは、まあ、あいつに振り回されるのはいつものことです。 慣れましたよ。」 笑顔で応対しながら胃がキリキリと痛むのを冥琳が我慢している 頃…… 「ん、、、あれ?わたし……」 ぼんやりとした頭で雪蓮が眼を覚ますと、見知らぬ部屋の中にい た。 「あれ?私……そうか、確か酔い潰れて、、、ん?んん?!」 そこで彼女は自身が縛られ吊るされていることに気づく。 「な、なに?これ……」 がちゃがちゃと手枷を外そうと暴れるがびくともしない。 「(く、この程度ちょい本気出せば……え?力が出ない?)」 「あらあら〜お目覚めですか、孫策さん♪」 背後から聞こえた声に雪蓮の血の気が冷える。そう この声には 聞き覚えがあった。 「(この声、まさか……張勲!)」 雪蓮の視界に、にこにこと微笑む七乃の姿が現れる。 「孫策さん、お久しぶりです。随分酔われてたようですね〜運ぶ のに苦労しました〜うふふ。」 「そ、そう、手間をかけたわね。ついでに降ろしてほしいんだけ ど……」 「うふふ〜それはだめですよ〜それじゃ お嬢様が怖がっちゃい ますから〜ふふ♪」 「お嬢様って袁術のことね。まだ呉の領内にいたの。まあいいわ 、とっとと降ろしなさい。これは命令よ!」 くわっと睨みつけると七乃は震えて身を竦めた。 「きゃ〜怖〜い、さすが孫呉の小覇王〜 怖〜いよ〜………なん ちゃって えい♪」 ばちぃん! 「痛っ!」 怖がったふりの七乃の手に握られた乗馬用の鞭がじわっと雪蓮の 太ももに赤い痣を刻む。 「きさま……」 「うふふ、そんなに睨んでもお嬢様じゃないから恐くありません よ。孫策さん、今の立場 理解してます?」 そこで雪蓮は気づく、にこにこ笑う七乃の眼が笑ってないことに。 「……なに?今更、私を殺して江東を取り返せるとでも思ってる わけ? 無駄よ、私がいなくても孫呉は揺るがないわ。」 「ああ、それはもういいんです。お嬢様も今更 窮屈な宮廷生活 に戻る気ないみたいですから〜」 「……じゃあ なんでこんな真似を……」 「それはですね〜お嬢様に謝ってほしいんです〜」 「はぁ?なんでそうなるのよ、私があのガキに謝る? は!馬鹿 じゃないの?」 びしっ! 再び七乃の鞭が走り雪蓮が苦痛に唇を噛み締める。 「お嬢様を侮辱しないでくださいね〜」 「覚えてなさい……もう片手落とすくらいじゃ赦さない。」 「そう。それです。孫策さんがそうやって怖がらせたせいで、お 嬢様はすっかり孫策恐怖症になっちゃいました。責任取ってくださ い。」 「はぁ?なんでよ?悪いのはそっちでしょ!散々私らを顎でこき 使っといて!…痛っ……ふん!何度打たれようと謝んないわ…ぐっ …好きなだけ打ちなさい!」 太ももに数条の痣を浮かせながらも耐える雪蓮だったが、ふと七 乃の瞳がじっと観察しているのに気づいた。 「なによ……陰険な眼で見て。ちっとも恐くないわよ。眼を飛ば すならもっと…っ?!」  ドクンッ! 嘲笑うつもりの表情が突然の全身がぶれるような激しい動悸に凍 りつく。 「(な、なにこれ?……あ、熱い……)」 突然の動悸がドクンッドクンッと続くたびに躯の芯が熱い熱を帯 びていく。 「(あ、あ、熱い……へその奥が……子宮が焼ける……あぁ)」 震え汗を流す雪蓮に七乃が面白そうに覗き込む。 「ふふふ〜ど〜したんですかぁ孫策さ〜ん。なんだかもじもじし ちゃって〜くふふ♪」 「き…さま…くふぅ……な…に…をした……ぅくっ…」 頬を染め全身に汗を噴き出す雪蓮に七乃はにやにや懐から小瓶を 出して見せた。 「ほら〜私ちょっと前まで政(まつりごと)に携わっていたじゃ ないですか…あ〜ゆ〜ことやってるといろいろ面白い物が手に入る んですよね〜 例えば〜女密偵拷問用の媚薬とか♪」 「媚薬……くぅぅ……」 「ふふふ〜これを呑むと躯の力が抜ける代わりに全身の性感帯が 敏感になるんですって〜生娘でも肉棒欲しがってむせび泣くって代 物ですぅ〜♪」 そういうとつぅーっと七乃の指が雪蓮の腹を走る。 「!! ぐぉぅぅぅぅぅ――――っ!」 たちまち快楽電流が背骨を駆け上がり脳を焼く。弓なりになって 悶える雪蓮の前で七乃がけらけら笑っていた。 「くの!……あ!」 蹴り上げようとした脚がのろのろと上がったかと思うとくんっと 止まる。膝を縄で縛られていることに今更気づき、彼女は臍を噛ん だ。 「あれ〜?今ひょっとして私を蹴飛ばすつもりでした〜?も〜孫 策さんお茶目なんだから〜えい!」 七乃がいくつかある綱先を引くとぐいっと膝が持ち上がりM字開 脚で宙釣りになる。 「くっ…こ…んな……屈辱……ぁふぅ……赦さ…な……い!」 「うふふ、そんなに睨んでも下の唇からだらだらよだれ垂らして ちゃ全然迫力ないですよ〜そんさくさ〜ん♪」 くちゅりと七乃の指がM字の中央に触れる。たちまち先程とは比 較にならない電流が雪蓮の快楽中枢を突き上げた。 「ぐおっ!おおおおおぉぉぉ――――っ!!!」 嬌声を出すまいと歯を食いしばり声を殺しても情け容赦なく七乃 の指は女陰を掻き回す。 「くふふ、ど〜したんですかぁ〜孫策さ〜ん、凄いですよ〜だら だら溢れ出てますぅ〜私の指ふやけちゃいそう〜恥豆もこんなにお っきくして〜いやらしいですね〜ぐりぐりしちゃいましょ♪」 「ゃめ…お!おおおおおぉぉぉっ!ひいいぃぃぃ――――ぃぐ! いぐぅ!いぐいぐいぐいぐいぐぅぅぅぅ――――――――……」 ぐりぐりとクリトリスを弄られ、雪蓮は縄が切れんばかりにがく がくと反り返り 気をやった。 「あは、あはは、イッちゃった? あの孫策がイッてる?! 日頃 軽蔑してる私の指でイかされてる! 孫呉の小覇王が仲の大将軍に 恥豆ぐりぐりされて だらしないメス顔 晒してイキまくってる! あはぁ〜さいこ〜最高のメスっぷりだよ、孫策ぅ! くくく♪」 雪蓮を見る七乃の瞳に情欲の灯が燈る。ヤバいスイッチが入った ようだ。 「はぁはぁ……こ、このくらいで勝ったつもり……っ!(な、な に?また子宮がうごめいて?!)」 「ふふ、激しくイッたばかりなのにまたイキたくなってきたでし ょ?くくく、言ったでしょ 女密偵拷問用だって…イけばイくほど 生殺しになる、せつなくて苦しくて最後にはなんでもするから楽に して〜ってなっちゃうって代物ですよ。さあ〜孫策さんは何回イッ たら堕ちちゃうかな〜♪」 再び七乃の責めが始まる。雪蓮の喜悦の声が部屋に響き渡った。 「ぐぅぅぅぅぅ―――――!ぐぉおおおおおぉぉぉ―――――― ――!ひいいぃぃっ―――っ!おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ ―――――!!!」 何度もイカされてようやく指が離れる。 「あははっ随分イキましたねぇ〜凄いですよ、孫策さん。ほら床 に水溜まりが出来てる。メス汁の水溜まりがぁ〜くくく…………さ てと、一応聞きますけどお嬢様に謝ってもらえます?」 そう雪蓮を七乃が覗き込むと… ぺっ……ぴちゃ! …七乃の顔に唾が吐きかけられた。 「ふざけるな…はぁ…はぁ……死んでも…謝るも…んですか!」 「………………………………ふ〜ん、そうですか……」 懐からハンカチ状の布を出して顔を拭くと七乃は無表情に雪蓮を 見上げた。 それは下手な怒眼よりぞっとする無感情な…物を見るような瞳。 全身を襲う快楽のさざ波に堪えながらもその眼に雪蓮の防衛本能 が総毛立つ。 「(殺されるっ?!)」 しかし七乃が懐から出したのは懐刀ではなく軟膏瓶だった。 瓶を開くと指先に中味をすくう。とろ〜りとローション状の琥珀 色の液体が糸を引くのを見て雪蓮の直感がアラームを鳴らした。 「ふ、顔色が変わりましたね。でも今更謝っても赦しませんよ。」 七乃はたっぷりとろとろになった指をぐちゅぐちゅと女陰に塗り 込んでいく。無造作に情け容赦なく…… 「ぐっふぅ!な…なによ…あひぃ……こ…れぇ?」 「…正直これはどうかな〜可哀相かな〜と思って使う気なかった んですけど……ま〜覚悟してください。気が狂うと思いますから… ……おや?」 「あ…あああ…ああ…ああぁ……」 「もう聞こえてませんか、、、凄い効果ですね〜性感帯が百倍に なってイキっぱなしなんて誇大広告だと思ってたんですけど〜」 カラン〜と空になった瓶を捨てるとイキまくる雪蓮を見上げる。 「あ〜ぁ、白目剥いてよだれ垂らしてだらしないメス顔しちゃっ て…聞こえてないと思うけど、私ちょっと用事思い出したのでしば らく放置しときますね〜思う存分よがり狂ってください。」 返事のない雪蓮を残し七乃は扉を閉じた。 「おおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」 よがり狂う雪蓮だけになると、部屋の隅 光の届かない闇からむ くりと黒い塊が現れる。 その全身 黒装束の怪しい人物はよがり狂う雪蓮を見て低い笑いを 漏らした。 「くくく…これは面白いことになった。左慈たちがどうするか見 物よ。ふふふ……」 印を組み なにやら呪を唱えると手を雪蓮にかざす。雪蓮の躯がび くんっと硬直し瞳孔の開いた瞳が虚空を見つめる。 「あ……あ…あ………」 「ふふふ…さあ、解放するがいい…お前の魂魄の底にある闇を… …本当のお前をさらけ出せ……」 「いや……かあさま…ゆ…るして……わたし……」 雪蓮の双眸から涙が流れ落ちる。 彼女は虚空に赦しを求め泣いた。 「……ああ…ちがうの…そんなつもりな…かった………とおさ… まが……ちが…ちがう……ちがうちがうちがうちがうちがうちがう ちがうちがうちがうのおおおおおおぉぉぉ―――――――……」 血を吐くような絶叫と同時に涙が黒く染まる。その黒は雪蓮の全 身を容赦なく黒く染めていく。 「ふふふ、さすが三國を代表する英傑…凄まじい。くく、于吉、 左慈、能力を封印された貴方たちがどうするか、愉しませて貰うと しよう。」 ……… …… … 「お嬢様さま〜」 「ん〜七乃、なんじゃ?」 「ちょ〜っとよろしいですか、ふふふ。」 ちょいちょいと手首を振って美羽を呼び寄せると耳元に囁く。 「んふふ〜お嬢様いいこと教えちゃいますぅ〜ひそひそ……」 「ん?ん〜……! な!なな!」 七乃の言葉に美羽の眼が点になる。 「んふふ〜ど〜ですお嬢様、びっくりしました?褒めて褒めて〜」 得意顔でにこにこする七乃だったが返ってきたのはお褒めの言葉 でなかった。 「ば、馬鹿者〜!な、七乃!お、お前、なんという馬鹿な真似を ぉ〜!あの孫策を!そ、そ、孫策ぉ〜(涙)」 ぶるぶる涙目で震え上がる美羽に七乃はノンノンと指を振る。 「大丈夫ですって〜ちゃ〜んと繋いでありますから噛みついたり しませんよ〜ふふ」 「そ、そうなのか?」 「そ〜ですよ〜今なら棒でつついても大丈夫です。むしろ棒で突 いて〜って喜んでくれますよ〜うふふ♪」 少しおやじっぽい笑い方をする七乃に意味がわからず美羽は小首 を捻る。 「ふむ、じゃがの〜七乃、孫策に謝らせた後どうするのじゃ?」 「へ?謝らせた後?」 「そうじゃ。ひょっとして殺してまた江東の主にわらわはなるの かえ?」 「ん〜お嬢様なりたいですか?」 七乃の問いに美羽は即座に首を横に振る。 「んんん〜もうあんなめんどくさいの いやじゃ!」 「ですよね〜あれ?となると孫策さん殺すとまずいな〜」 「まずいな〜って、七乃!そこまで考えて捕まえたのではないの かえ?!」 「いや〜とりあえずベロンベロンだったんで捕まえてお嬢様さま の孫策恐怖症を克服してもらおうかと……どうしましょう?」 「どうしましょう?じゃないのじゃ!ど、ど、どうするのじゃ?! ま、またあんな怖い目にあうのはいやじゃぞ、七乃ぅ……」 「そ〜ですね〜考えてみたら今度は呉だけじゃなくて魏、蜀にも 手配されるから逃げ切れないかなぁ……しょうがないですね〜こう いうときは、、、」 「こういうときは?」 「彼に任しちゃいましょう♪」 にこりと笑う七乃を見て美羽の脳裏に「彼」の顔が浮かぶ。 「おお!そうじゃの!こ〜ゆ〜ときは、わらわのかずとに任せる のが1番じゃ♪」 「さすがお嬢様〜お得意の丸投げですね〜♪」 きゃきゃと無責任に盛り上がるふたりの後ろから本人が近づいて きた。 「俺がどうしたって?美羽。」 「おお、かずとちょうど良いところにきたなも!ふふふ、おぬし を見込んでやってもらいたいことがあるのじゃ。」 「断る。」 迷いのない即答に美羽の目が点になる。 「な、なな、なぜじゃ!わらわはまだなにも……」 「ど〜せ、また厄介事を押しつけるつもりだろ?やだよ。やんな い。お断りします。」 けんもほろろに断る一刀に美羽の瞳にみるみる涙の玉が浮かぶ。 「ぅく、、、かずと、なんでじゃぁ〜かずとはわらわが嫌いなん じゃな…だから意地悪するんじゃな……ひっく…う〜」 「あのなぁ〜泣いたってダメだぞ。いつもそれで……」 「う………う……う…ぅわ〜ん!!!!!!!!!!」 豪快に泣いて駄々をこねる美羽に七乃は心の中で拍手をする。 「(でた〜お嬢様の必殺、泣き堕とし!さあ〜今日は何秒で堕ち るかな?)」 瞳に星を光らせてワクワク成り行きを見ている七乃の向こうから 于吉がす〜っと足音もなく近づいてくる。 「ここにいましたか、ご主人。幼女をいじめて興奮してる場合で はありませんよ。」 「誰がそんな歪んだことするか!人を性癖倒錯者みたいに言うな。」 「そんなことはどうでもいいのですよ。それより……」 于吉の眼が七乃を見据える。 「確か張勲さんでしたね。とんでもないことをしてくれましたね。」 「へ?え?え〜と、なんのことでしょ〜?へへ〜」 明らかに挙動不審な七乃に一刀の経験則が閃く。 「七乃おまっ!またなんかノリでやっちまったな!それで美羽使 って俺に…」 「なんのことでしょ〜七乃わかんな〜い。」 ぺろりと舌を出してすっとぼける七乃を美羽が庇う。 「七乃をいじめてはいかん!どうしてもというならわらわが…… ぅく…わらわが……」 また涙目になる美羽に一刀はがっくり肩を落とすと于吉に振り向 いた。 「はぁ…于吉、なにがあったんだ?」 「先程、妙な気配を感じましてね。どうやら誰かが道術を使った 気配なのですが…」 そこまで説明したとき、屋敷自体が震えるような震動と共に床壁 が爆発した。 ドガッーーー…!!! 「うおっ!なんだ?!」 「遅かったようですね……」 「なにごとだ!北郷!」 「なんの騒ぎですの、騒々しいですわ。」 「お?喧嘩か?おっしゃ〜♪」 華雄たちがわらわら駆けつけてくる中、もうもうと上がる砂煙の 中から獣のような唸り声が響く。 「ぬ!下がれ、北郷!」 ぐいっと一刀の前に入った華雄の金剛爆斧がガキンッとなにかを 弾く。 「ぐっ!重い…何者だ、貴様!」 「………ぅう…」 ゆらりと砂煙の中から現れた姿に華雄たちが息を呑む。 そこには裸体を黒く染めた雪蓮が銀髪をゆらゆら揺らめかせ紅い 瞳を光らせていた。 「まあ孫策さん、ずいぶん日に焼けて…もともと日焼けしてまし たけど、それは焼きすぎではなくて。染みになりますわよ。」 「姫、それは違うと思う。あたいでも空気読むよ。斗詩ぃ、ちょ 〜と下げといて。」 「うん。さ、姫こっちです。」 「ちょっと…むぐ!う〜゛」 相変わらずKYな麗羽を斗詩が引き下げるなか猪々子が華雄の隣 に並ぶ。 「へへ〜華雄のアネキ〜ずるいぜぇ〜こんな美味しい相手独り占 めなんて♪」 「ふん、油断するな。普通じゃないぞコイツ。」 「だな〜ヤバすぎる気がガンガンくるぜ〜へへ〜」 斬山刀を構え、じりじり間合いを詰める猪々子たちの後ろで一刀 が于吉に尋ねる。 「さっき道術がどうとか言ってたな。あのブラック孫策はそのせ いか?」 「ブラック孫策…良い例えですね、あれはかつての私の同僚の仕 業ですよ。人の心の闇を利用するこのやり方…智多星か魔術師の得 意とする術ですね。」 「闇…つまりダークサイドに堕ちたってことかよ、なんとかでき ないのか。」 「今のうちならなんとかできますよ、殺すほうと救うほうどちら がいいですかご主人。」 「後者。」 「ふふ、即断即決ですね。おお左慈ちょうど良いところに…その 様子では奴には逃げられましたか。」 「ああ、あの逃げ足の早さはどうも魔術師のようだな。」 どうやら黒装束を追っていたらしい左慈の報告に于吉が頷く。 「ふむ、やはりそうですか。あのふたりが組んだとなると厄介で すね。まあとりあえず今はブラック孫策をどうにかしましょう。」 「ほっといて外の連中に任せたらどうだ、めんどくさい。」 「そうはいきませんよ。」 素っ気ない左慈をたしなめる于吉の会話に一刀は口を挟む。 「外の連中?」 「ええ、五百人くらいの兵に囲まれてます。この気配…率いてい るのは美周郎のようですね。」 「…それってやばくないか?」 「ふ、彼女を迎えにきたのでしょうが…厄介になってきましたね 、ふっ。」 「冥琳さま、包囲完了しました。あと、やはり雪蓮さまはまわり には見当たりません。」 「すでに中に侵入したか拉致されたか…よし。明命はこのまま後 方待機。」 「はい。」 下がる明命を横目に冥琳は于吉たちの庵を睨む。 「(雪蓮……無事でいてくれ。)」 ちょうど朋友のことに気持ちを移したその瞬間、目の前の壁が吹 き飛んだ。 「なっ」 ドガッと豪快な爆音と一緒に猪々子が転がり落ちる。 「痛っ〜!んなろ〜やりやがったな!」 斬山刀を持ち直し立ち上がる猪々子にゆっくり近づくブラック雪 蓮が見えた。 「しぇ、雪蓮…なのか?」 その声にぴくりと雪蓮の歩みが止まり、朋友の変わり果てた姿に 絶句する冥琳を見つけると唇が歪んだ。 「そ…うよ…め…りん…あなた…のしぇ…蓮よ。どうした…のそ んな、か…顔して…くくく…」 硬直した喉を無理矢理滑らかにするような声が冥琳の感性を青ざ めさせる。 「(これは一体…尋常ではない。)」 「冥琳…どうしたの、さあいつものように抱いて……あぁ寒いわ 、ねぇ、め〜りん!」 カッと紅い瞳が冥琳の瞳孔に絡みつく。視線を逸らそうとするが すでに遅かった。 「(しまった!これは……)くっ、や、やめろ雪蓮!」 視線を逸らせない。視線に乗ってなにか見えない触手のようなも のが冥琳の中に侵入してくる。 「くぅ…やめ……(なんだこれは……気持ち…いい?)」 ぞくぞくと躯の中を淫靡な触手が撫で回す。全身がみるみる敏感 になっていく。 「ふふふ、気持ちいいでしょ、冥琳。貴女の感じるところは全部 知ってるわ。さあ私と一緒に……堕ちるのよ。」 「あ…あぁ……」 冥琳の耳朶を先程までぞっとした黒い声音が甘美な旋律のように 侵入してくる。 冥琳の抵抗力がどんどん堕ちていくのを感じた雪蓮の銀髪がゆら ゆら冥琳に伸びてくる。 「(こ、このままでは……堕ちてしまう……)」 「くふ、いいわ…冥琳。さあ…私のモノに……堕ちなさいっ!」 「アネキィ 今だぁー!」 「うおおおぉぉーーー!」 隙を見た斬山刀と金剛爆斧が一閃した。 ガキキィィーーーーンッ! タイミング絶妙の攻撃だったが雪蓮はあっさり跳ね返す。 しかしその瞬間、冥琳の呪縛が解けた。 「く!雪蓮っ!」 冥琳の手から伸びた白虎九尾が銀髪を弾く。 「(なにがあった?先程の妖しげな力…)まさか于吉に操られて いるのか?」 「失礼ですね。私のほうこそ貴女の朋友のおかげで庵がボロボロ ですよ。結構気に入ってたんですがね、美周郎殿。」 いつの間にか傍に立つ于吉にぎょっとなる冥琳、その一瞬に雪蓮 の影が動いた。 「おっと、そこまでですよブラック孫策殿…左慈 今です。」 獰猛な猫科肉食獣のごとき動きで間を詰める雪蓮。 だがそれを凌ぐ速さで間を取った左慈の拳が炸裂する。 「破っ!」 吹き飛んだ雪蓮が庵の壁を再び木っ端みじんに砕いた。 「左慈、あまり壊さないでくださいね。直すの大変なんですから ……」 「そんな余裕あるか。さっさと結界を張れ。」 「はいはい。」 于吉が懐から出した呪符を印を切り大地にばらまくのと起き上が った雪蓮が飛び込むのは同時だった。 「封!」 カッと呪符が光り輝き雪蓮の動きが止まる。 「ぐ…ぐぐ……」 見えない鎖に繋がれたかの様に抵抗する雪蓮。 「く、きついですね。能力を封印されていなければもっと簡単な のですが…早めに頼みますよ、左慈。」 「ふん、相手は英傑が闇の力を得た化け物だ。しっかり抑えとけ。」 抵抗する雪蓮に左慈が近づき懐から呪符を出したとき… 「待て!雪蓮さまに何をしている!」 騒ぎを聞き駆けつけた明命の魂切が左慈を襲った。 「ち、馬鹿が!」 「左慈!」 すんででかわす左慈に気を取られた于吉の印が弱くなった瞬間… 「ぐおおおおおおぉぉーー!」 パァーーーンッ 空気が弾けるような音を発てて呪符が弾け散った。 「くそ、于吉なにをしてる!」 「これはまずいですね。」 ふたりが警戒する中、自由になった雪蓮の牙が狙ったのは、皮肉 にも己を助けた明命だった。 「え…?雪蓮さま?まっくろ?」 「明命!逃げろっ!今の雪蓮は…」 雪蓮の黒い牙襲が明命を引き裂かんとしたそのとき… 「あぶねー!」 横から飛び込んだ一刀が明命の小さな躯を押し出す。 ザクッと嫌な音と同時に一刀の背中に焼け火箸を押し当てたよう な熱が走った。 「(やばっ!やられた?)」 「北郷っ!」 「アニキッ!」 華雄たちの声を遠くに感じ意識が遠のく。 「し、しっかりしてください。傷は浅いです。」 第二撃を放とうとした雪蓮を華雄たちが牽制している隙に、明命 が懸命に一刀を引っ張っているところへ華佗が駆けつけた。 「ああ、華佗さま!助けてください。傷は私の時よりは深くない と思いますけど…」 「傷そのものは深くないが、奴が暴れていては治療ができん。応 急処置はしてみるが…」 手当する華佗に冥琳が驚きの声をあげる。 「お前、華佗じゃないか…そこの連中の仲間だったのか。」 「あんたは確か…そうだ虞翻さんとこの…周瑜さんだったか。あ そこで暴れてるの、確か孫策さんじゃないのか?」 「そうなのだが…あの様といい、明命に手を出すなど……于吉! 説明してもらおうか!」 ギンッと睨む冥琳に于吉は肩を竦めた。 「説明したいのは山々ですが、今はいろいろ先に手を打たないと 手遅れになります。美周郎、お互いの主人のため、ここは手を組み ませんか?」 「なんだと……」 「貴女は知的な方。理解していただけると思いますが?」 「……」 しばしの沈黙、しかしその間、冥琳の頭脳はフル回転する。 「(ここは雪蓮を救うのを最優先すべきだが…信用できるか?)」 ふと一刀の苦しげな顔が目に入る。 「(明命を救ったこの男…北郷と言ったな。どこかで見た気がす るが……いや、今重要なのはそれではない。)」 顔を上げた冥琳の瞳に迷いはなかった。 「雪蓮を救えるんだな?」 「ええ、貴女の主人も私の主人も救える策があります。ただその ためには一つ確認せねばならないことがあります。」 「なんだ?」 「一度の封印に失敗したため、闇の力が反動でさらに根深く孫策 殿に食い込んでいます。もはや彼女から引きはがすにはその根っこ を知らねばなりません……彼女を苦しめている原因はなんですか?」 「!…なんのことだ。」 心当たりがあるのだろう、冥琳の顔色が変わる。 「周瑜殿、いいですか。今 貴女の主は自らの心の底にある闇に飲 み込まれています。 その闇は彼女の人生でもっともつらい経験、心の傷が生み出して いるのです。 我らの道術でその闇の増加を抑えることはできますが、元栓を閉 めなければ意味を為しません。 教えていただけませんか、彼女の心の傷がどこにあるのか。断金 の交わりと評される貴女ならご存知でしょう。」 「……」 真摯に語りかける于吉、その後ろでは変わり果てた朋友が華雄、 猪々子相手に暴れていた。 二人は連携してよく雪蓮を足止めしているが劣勢は明らかだ。 「(時間がない、許せ雪蓮。)わかった…教えよう。」 「なんだと!姉様が?!」 伝令の報告を聞き、蓮華の顔色が変わる。 「冥琳がいくので問題ないかと思ったが…うむ、あやつが抑えき れぬとは。」 冥琳たちの部隊から定期報告に走った伝令からの報告に蓮華たち は騒然となった。 決して伝令は誤報はしていない。むしろ正確に伝えたために騒ぎ になったのだ。 いわく「孫策さまが壁を壊して暴れまくり……」 いわく「孫策さま、真っ黒になるほど怒り狂い……」 いわく「周泰さまをお手打に……」 などなど。 「(おかしいのう、、、いくら酔いが深いとはいえ、冥琳相手に 暴れる策殿ではないはずじゃが……まさかあの件でもめておるので はあるまいな……策殿、いつまでも逃げていてはならぬ。乗り越え るのだ。)」 漠然とした不安が経験豊富な呉の宿将の胸中に広がる。 「すぐに向かう!思春、馬を!」 「御意!」 すっくと立ち上がる蓮華と呼応する思春に祭の声がかかる。 「待たれよ、権殿。」 「止めないで、祭。姉様を止めないと!」 「……」 涙目で訴える蓮華と黙って睨む思春を前に、祭は頭をかいた。 「止めはせん。ただ策殿を止めるには、権殿も事情を知っておい たほうがよさそうじゃ……」 「このことは孫呉の秘中の秘。知るのは私と祭殿くらいだ。その ことをよく心得てもらいたい。」 そう念押しをすると冥琳は語り明かす。 「雪蓮の心の傷…それはおそらく母親にして孫呉の大王・孫堅さ まと父君・景さまにある。」 「呉景殿…ですか。確か孫堅殿の亡くなる少し前に先立たれたと か。まさか孫策殿の傷とは……」 「うむ、雪蓮はその父君の死は自分に責任があると思っている。 そのために母親に疎まれ恨まれててるとな……お前が絡まれたのも そのせいだ、于吉。」 「よく見えませんね……なぜ孫家の親子の確執に私が?」 眉を八の字にする于吉に冥琳は眼を閉じ話を続ける。 「策殿は、昔は占いが大好きでの。わしもよく占ってもろうたわ。」 「まさか、あの姉様が占いを?耳にするのも嫌がるのに。」 「自分で勉強してそれなりに本格的な占いをしておったよ。これ がまた結構当たってのう。すごく喜んでおった。じゃがある日、戦 で父君の進軍路を山か江を占ってな……」 「確か呉景さまは江で行方知れずになったと聞いておりますが…」 黙って聞いていた思春も我慢できなくなったのか口を挟んだ。 「…景殿も本気で占いに従った訳ではない。戦術的にはどちらで も危険度は同じ…なら、娘の喜ぶ顔が見たくて占い通り江を進んだ のだ……結果は皆の知る通りじゃ。」 「……まさか、母様が姉様を責めたのですか?」 「いや、堅殿がそんなことするわけなかろう。勝敗は兵家の常と 言っておったよ。しかし策殿はそうは思わなかった……」 「それから、雪蓮は占い呪いの類を嫌い憎むようになった。お前 に過敏に反応したのはそういう訳だ。すまんな于吉。」 頭を垂れる冥琳に于吉は軽く手を振る。 「なるほどそうでしたか。気にしてませんよ周瑜殿。それよりよく 話してくれました。これで孫策殿を救う目通しが立ちましたよ。」 「うっ……ど…う…するんだ于吉。」 「おや、意識が戻りましたか。話は聞こえていましたか?ご主人。」 「ああ、華佗の応急手当の間にな。それよりどうするか教えてくれ。 華雄たちももう限界だろ。」 見ると孫策を囲むメンツに左慈に斗詩が増えてカルテットで攻め るが雪蓮に疲れた様子は見えない。 「そうですね、策は一つしかありません。しかしその策はご主人 の身を危険にさらすことになるのです。健勝であっても危険なのに 今の貴方では…」 「かまわない。なんでもいいからやってくれ。」 「……よいのですか?貴方が孫策のために命を削る必要はないと 思いますが?ここは傷の手当を優先するべ…なにを?!」 ぐいっと一刀の手が于吉の胸元を掴み引き寄せる。 「いいか、俺を主人と呼ぶなら俺がやると言ったらやってくれ! 孫策があんなになっちまった理由の一つに七乃が絡んでんだろ。ほ っといたら華雄たちも危ないんだ。早くしてくれ!」 「……なるほど…また仲間のためですか…あの頃と変わりません ね、貴方は。」 「あの頃?なにのことだ?」 「最初の外史ですよ。と言っても今の貴方にはなんのことだかわ かりませんでしょうが……」 懐かしそうに言う于吉に苛立ち起き上がる一刀を華佗が支える。 「おい、無理するな。傷口が開くぞ!一刀。」 「大丈夫、華佗のおかげでなんとか我慢できる。さあ于吉、早く やるぞ。教えろ、なにをどうする?」 「ふむ、ではやりますか……左慈!こちらへ!あれをやります。」 于吉の声に戦闘中の左慈が振り向くが、なぜか顔を歪め聞こえな いふりをした。 「左慈、困りますね、そのように我が儘では…約は果たすのでし ょう?」 「? あいつなんであんな嫌そうな顔してんだ?」 「嫌だからですよ…おや観念したようですね。」 本当に渋々といった表情で近づいてきた左慈を于吉が、にこにこ 迎える。 「ふふ、そのようにむくれないで。これから本来の力を使えるの ですよ、喜ぶところでしょう。」 「ふん!コイツに触るだけで虫ずが走るというのに…喜べるか!」 「本来の力?どういうことだ、お前ら封印されたとか言ってなか ったか?」 「ええ、そうです。ですが老師より、ある条件下限定でならば私 たち本来の力が解放されるのです。短い時間ですがね。」 「その条件って?俺の命に関係あるのか?」 ふと厭な予感に襲われる一刀に于吉はニヤリと唇を歪める。 「ええ、その条件とは貴方の躯を媒体にすることで成立します。 具体的には私と左慈が貴方を触媒に融合することで可能になるのですよ。ふふふ♪」 「くっ……」 左慈の顔がこれ以上ないほど嫌そうな歪みを浮かべる。 「俺を触媒に融合?つ、つまり俺の中にお前らが入るってことか よ?マジ?」 「心配することはありませんよ、痛くしませんから、ふふふ。」 「(なんだよ、この嬉しそうな眼は。左慈と真逆じゃね〜か。)」 引き気味の一刀に于吉が駄目押しする。 「先程なんでもいいからやれと言ったのはご主人ですが?」 「う、、、お前それでさっき俺を怒らせようと、くどくど言った んだな。」 「さあ〜なんのことでしょう。それより時間がありませんよ、ほ ら。」 于吉の目線の先では雪蓮が三人を吹き飛ばしたところだった。 「ぐ…おのれぃ!」 「きゃあ!」 「斗詩ぃ〜」 みな致命傷は受けてないものの満身創痍の状態なのを見て一刀は 奥歯を噛み締める。 「北郷と言ったな。」 突然 冥琳に話し掛けられ一刀は振り向くと彼女の真剣な瞳があっ た。 「頼む。雪蓮を救ってくれ。我らは王に矢は向けられん、向ける ことなどできん。頼む……」 血を吐くような言葉が胸に刺さる。親友の苦しむ姿に彼女が悩み 苦しんでいるのが伝わってくる。 「わかった!周瑜さんだっけ。安心しな、なんとかやってみるか ら。」 「北郷…殿。」 空元気でにっこり笑いかけると一刀は于吉たちに宣言した。 「それじゃ、この躯この命、好きに使ってくれ!」 「……了解です、ご主人。左慈。」 そう促して于吉が一刀の左指を己の額の入れ墨に当てる。 「ち、しかたない。」 同様に右指を捕り己の額の入れ墨に当てた。 「ご主人、気を楽に、心を無に……変幻!」 「転身!」 「「陰陽無極」」 カッ!!!!!!!!! 影すら白く染まる強光が辺りを包み雪蓮をたじろかせる。 光がやみ眼が慣れてきた頃、そこには異形の道師がひとり立って いた。 太極の意匠を施した面で顔を覆ったうえ、全身も白黒の太極意匠 の道師服姿に北郷本人が驚く。 「な、なんだこりゃ?どうなってる?」 『ふふ、落ち着いてください、ご主人。』 『ふん。』 頭の中で于吉と左慈の声が響く。 「この奇天烈な格好はなんだよ?!」 『私のデザインですがなかなか素敵でしょう♪』 『………』 于吉の得意げな気配と左慈のうんざりしたような気配を受けて、 一刀は仮面を外そうとするがびくともしない。 『ご主人、そんなことをしている場合ではありませんよ、ほらブ ラック孫策が。』 「え? うわ!?」 気がつくと目の前に雪蓮が迫っていた。 鋭利な刃のごとき銀髪 が襲い掛かる。 「(やばい!またやられる?!)」 そう思った瞬間、身体が勝手に動き、四肢が一つの流れるリズム で回ったときにはすでに雪蓮が吹っ飛んでいた。 「え?え?」 自分が雪蓮を吹き飛ばしたと理解できずにいると再び于吉の解説 が始まる。 『今のは左慈の発勁です。基本 体術は彼が、道術は私がサポート しますのでご安心を。』 起き上がった雪蓮が猛攻を仕掛けるが一刀(の身体を操る左慈) は的確に捌く。 「お…のれ……」 紅い眦を上げて憤怒の表情でさらに激しくなる攻撃を捌く自身に 一刀は驚嘆する。 「すげえ…華雄たちが束でもてこずる猛者を。」 『ふふ、封印さえなければ左慈は無敵ですよ。ましてや今の融合 状態ならおそらくあの飛将軍ですら大丈夫でしょう。』 『無駄口を叩いてないでさっさとしろ!』 唐突の左慈の声に于吉が首を竦める気配を一刀は感じた。 『わかりました、では右手を借りますよ。』 雪蓮の猛攻を左手で捌きながら于吉の意識が一刀の右手を使い印 を宙に切る。 『…陰陽転化。』 ブワッと雪蓮、一刀を中心に大地が光り輝くと八卦爻の結界が現 れた。 「がっ!ぐぐ……おの…れ、えせ道師がぁ……」 結界が雪蓮を大地に引き寄せる。 『ふ、よほど道師が嫌いなのですね。よくがんばる。』 己にかかる重力だけが強力になったのを憤怒の形相で踏ん張り堪 える。 「わ…たしは…孫呉の小…覇王だ…決して…ひざま…づいたりし ない!」 歯を食いしばり耐える雪蓮に冥琳は思わず駆けだしそうになるの を堪えた。 「(ダメだ!今は…奴らに任せるんだ、、、)」 内から沸き上がる衝動を抑えている彼女の耳朶に聞き慣れた声が 届く。 「冥琳……助けて…」 「っ! 雪蓮……」 八卦爻の中から朋友が見つめている。さきほどのような紅い瞳で はなくいつもの瞳で。 見ると黒く染まっていた肌もいつもの褐色の肌に戻っていた。 「(いつもの…雪蓮に戻っている?)」 期待に冥琳の足が一歩前に出ると… 「まだです。近づいてはいけません、美周郎。」 一刀の声で于吉が警告すると雪蓮の顔が再び黒く歪む。 「余計なことを!クソ道師がぁ!」 「ふ、やはり擬態か。諦めろ。」 今度は左慈が声帯を使い雪蓮に近づく。 「く……」 身動きの取れない雪蓮が睨みつける中、一刀(左慈)の手刀が上 がる。 『今、楽にしてやる。』 「(おい?殺しちゃダメだぞ!)」 『心配ありませんよ、眠らせるだけです。』 『気が散る、黙ってろ。』 三者三様の心中会話が背後に迫る存在への対応を一瞬遅らせた。 「お姉様から離れろ!下郎っ!」 「蓮華さま!」 「!」 突然、白刃が一閃する。冥琳の声に危うくかわした一刀の前に蓮 華の碧眼が怒りに燃えていた。 「蓮華さま、危険です!お下がりください!仮面道師の相手は私 がっ!」 遅れて駆けつけた思春が蓮華をガードするつもりで追撃を一刀に 放つ。 『チィ またか!呉には馬鹿しかいないのか!』 『まずい!八卦爻が!』 蓮華より遥かに鋭い太刀筋をかわした瞬間、結界が緩んだのを雪 蓮は見逃さなかった。 「おおおおおぉぉぉ!!!!」 雄叫びと共に全身から黒いオーラが広がる。 『いけませんね!左慈!』 『ちぃ!あと一歩のところを!』 黒オーラから素早く下がる中、ふと見ると蓮華主従が茫然と立ち 尽くしていた。 「お姉様……」 「雪蓮さま…なのか?」 真近で見て彼女の変わり様に固唾を呑むふたりを黒オーラが包み 込む。 「ぐ!蓮華さまっ!お逃げくださいっ!」 「…し、痺れる…思春、構わず逃げて……」 黒オーラが触れた途端、四肢が痺れ動けなくなる。 『まずいな、取り込まれるぞ。』 『ふたりともなかなかの英傑。ブラック孫策がハイパーモードに なってしまいますね。』 「いやいやいや!見てないで早く助けろよ!」 一刀は駆けだすと構わず黒オーラの中に飛び込んだ。 「痛ぅ!確かに痺れるな。くのっ!」 歯を食いしばりふたりの腰をぐいっと抱え飛び出す。 「大丈夫か?」 「う…き、貴様……蓮華さまから離れろ……」 「……」 気丈に睨む思春に比べ蓮華はかなりグロッキー気味だ。 「(大丈夫なのか?ふたりとも顔色悪いぞ。)」 『このくらいなら休んでいれば回復するでしょう。』 ふたりを離れた場所に降ろしたとき冥琳の声が響いた。 「や、やめて、雪蓮!」 『ち、それが狙いか』 左慈の舌打ちに振り向くと冥琳の躯が黒いオーラに引きずり込ま れるように消えていった。 「き、消えちまった?」 『落ち着いてご主人。彼女は孫策の闇に飲み込まれました……こ のふたりより周瑜のほうが力になると判断したのでしょう。』 その于吉の言葉を証明するように冥琳を取り込んだ雪蓮がゆっく り一歩踏み出すと踏み込んだ大地がズシンと地響きを発てて揺れる。 「(うわ〜なんか大覇王にクラスチェンジって迫力なんすけど… …)」 『来るぞ。』 左慈の緊張した意識を感じた途端、雪蓮の姿が消えた。 「あれ?」 『馬鹿!後ろだ!』 罵倒と同時に身体が勝手に捻り右手がガードする。 ガッ!とぎりぎりのところで攻撃を受けるとその勢いを殺さず受 け流す。 バランスを崩し空いた隙に一撃を加えるが寸前で雪蓮の身体が消 えた。 『チィ!北郷、キサマの身体を全部借りるぞ。このままではつい ていけん!』 ひょいと首根っこを掴まれて後ろの棚にでも置かれたような感じ が一刀を襲ったかと思うと身体の感覚が無くなった。 『お、おい?!』 「そこで休んでろ。」 声の主体も完全に左慈になるとひょいと左手で宙を殴る。 ドガッ! なにもない空間に手応えがあったかと思うと殴られた雪蓮が飛び 下がった。 「ふん、随分鈍った肉体だな……急所を外した。」 『悪かったな、これでも体脂肪は低いほうだ、、って殺しちゃダ メだろ。』 「ふん。」 怒りに炎眼を逆立てる雪蓮の豪撃を受けながら鼻を鳴らす左慈に 于吉が注意する。 『左慈、時間がありませんよ。もう一度八卦爻をやります。』 『無理だ。今の奴は周瑜を取り込んでパワーアップしている。こ うやって拮抗するのが精一杯だぞ。』 『しかし時間が経つほど不利になります。』 悩む于吉の意識に完全に傍観者の一刀が質問する。 『なあ、具体的にどうやるんだ?』 『ん?そうですね、先程までは私が抑えたところを左慈が核を破 壊していれば終わりだったのですが……』 『核?』 『ほら、あの臍の下辺りにある黒い球体ですよ。あれが闇の力を 増幅しているのです。あれさえ破壊できれば楽なのですが……』 見てみると確かに孫策の臍の下に黒い球があった。 『なら俺たちが抑えてる間に誰かに破壊してもらえば、華雄と か。』 『無理ですね。あれは私たち道術に精通した者にしか見えません。 英傑といえど彼女たちにはなにもないようにしか見えないでしょ う。』 『見えなきゃ狙い撃つわけにいかないもんな、、、う〜ん…お、 そうだ!』 なにか閃いた一刀は不乱に闘う左慈の意識に声をかける。 『左慈、集中してるとこ悪いが声だけ返してくれ。』 「……いいぞ。』 途中から一刀の喉に実感が戻る。 「おしっ!華佗!」 突然呼ばれた華佗が何事かと近づいてくる。 「一刀、やはりお前なのか?その格好は一体?」 「説明は後だ。それよりお前なら孫策の臍の下になにか見えない か?」 「臍の下?なにかあるのか?」 「ああ、いつもの病魔を見る心眼ってやつで見てくれ。」 病魔と聞いて華佗の目つきが鋭くなる。 「よし!任せろ!うおおおーーーゴッドヴェィドウー!病魔よ! その姿を現せぇぇー!!」 喝っと見開いた華佗の瞳に黒い球体が姿を現す。 「見えたぁ!コイツが孫策を蝕む病魔の本体だな!」 「よし!華佗、俺たちが孫策の動きを止めてる間にあの黄金の鍼 でそいつをぶっ飛ばしてくれ。」 「わかったぁ!任せろ!」 『なるほど確かに五斗米道は道家の流れ…彼ならできるかもしれ ませんね。時間もない、左慈、全力で孫策を抑えますよ。』 『承知!』 左慈の猛攻で雪蓮の動きを封じてる後ろで華佗が鍼を構え気合い を入れる。 「うおおぉー!病魔伏滅!一心健勝!我が金鍼に全ての力、賦し て相成るこの一撃!輝けぇぇ!賦相成・五斗米道ォォォォォッ! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇー!!」 輝く黄金の鍼が真一文字に球体に貫いたかと思った瞬間、華佗が 弾き飛ばされた。 「うお?!く、くそ、なんて硬さだ!俺の黄金の鍼が貫けないな んて……」 再び構える華佗、しかし何度挑んでも黄金の鍼はやはり球体に傷 一つつけられない。 「く、、、ダメなのか?後一歩なんだ。なにか、なにか手はない のか!師匠、俺はどうすれば……」 その時、斗詩の姿が彼の視野に入った。 ピキィィィィ――――――ン 瞬間、華佗の脳裏になにかが閃く。 「顔良さん、そいつを貸してくれ!」 「え?!あ、これ?はいっ!」 びっくりした斗詩が思わず放った得物・金光鉄槌が弧を描く。 ガシッ 受け取ったその時、彼の中でなにかが弾けた。 「おおおおおおおおおお……」 「お!よっしゃ斗詩、ここでもう一声!ぼそぼそ……」 「え?なんで?」 「いいからいいから、こーゆーのはノリが大事!」 「そうなの?え〜と、か、華佗!最終融合!承認よ!」 カッ!!!!!!!!!!! 「よっっおぉぉっーーしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 光り輝く金光鉄槌を掲げ、華佗は胸の奥から噴き出す激情に 全身を震わせる。 「この力!この勇気!できる!今なら俺ならできる!賦相成・ 五斗米道ォォォォッ究極奥義! 外無・儀瑠・巌・號・虞符雄! 反魔ぁぁぁぁぁぁてぇんとごくぅぅぅーーー!!!!!!」 黄金の輝きに全身を包み華佗の鍼が黒球を穿つ。 「ひ・か・り・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!」 続く金光鉄槌の一撃が黒球を砕くとまばゆい光が辺りを包んだ。 キィィィィィィィィィーーー………ン ……… …… … … …… ……… ……どこだ?ここは? 光に包まれたと思った一刀がゆっくり瞼を空けるとひとり闇の中 を佇んでいた。 『気がつきましたか、ご主人。』 「于吉!どこだ?」 『探しても無駄です。今ご主人は意識の海にいるのですから…』 「意識の海?…なんだそりゃ?」 『人の潜在意識の世界とでもいいましょうか…今 貴方は自らの 記憶領域にいるのですよ。ほら、ごらんなさい…』 ポゥと闇に淡い光の窓が開く。 若干 不安を感じながら近づくと、ふと懐かしい感覚を感じた。 「? なんだ?この感覚?」 そのぼんやりと開いた窓にはどこかの荒野が広がっていた。 「誰か…いる?」 まるで窓の向こうに人の気配を感じるような感覚に一刀は戸惑う。 『そうです。貴方こそ、この乱世をただし万民に笑顔を!平和を 与える天の御遣い!この関雲長がお仕えするご主人さまです。』 涼やかな凛とした声音と共に美しい黒髪をサイドテールにした美 女が現れる。 黒耀石のような綺麗な瞳を輝かし きりっと桜色の唇を結ぶ彼女 に一刀は不思議な思いで見つめる。 「あれ、この娘(コ)? 確か関羽……」 そこで窓が閉まるように消えるとまた隣で空間が開いた。 『…愛紗が真名を許したなら鈴々もいいのだ。お兄ちゃん、今日 から鈴々のことも鈴々と呼ぶのだ!』 少年のような活発そうな少女がキラキラ瞳を輝かせ嬉しそうに見 上げている。 「誰? 鈴々?」 また空間が閉まり少し離れた処に新たな窓が開く。 「今度は……なんだ?」 近づくとぶるんっと巨大な双球がどアップで揺れる。 「おお!?」 思わず鼻の下を伸ばし近づくとふんわりと髪を伸ばした美少女が いた。 「すげぇ〜巨乳……」 その柔らかそうに揺れる巨乳に見とれているとその娘の左右にさ きほどの関羽と鈴々と名乗った娘が現れた。 『我ら四人っ!』 『姓は違えども、姉妹の契りを結びしからは!』 『心を同じくして助け合い、みんなで力無き人々を救うのだ!』 『同年、同月、同日に生まれることを得ずとも!』 『願わくば同年、同月、同日に死せんことを!』 三人が杯を掲げ笑顔がこぼれる。 「彼女が話し掛けてるのは…ここにいる俺にじゃないってことは ……彼女と一緒にいる奴の視界を俺は観てるのか?」 目の前の美少女は頬を染め幸せそうに見上げている。どうもこの 視界の人物の話を聴き入ってるようだが、その内容は一刀には聞こ えなかった。 「この娘らは…いったい?」 『彼女たちは、かつてご主人がいた外史の英傑ですよ。貴方の記 憶に刻まれたね…』 「まさか、だって記憶はリセット…」 『…ご主人はパソコンは詳しいですか?』 突然 質問が変わり面食らうが答える。 「あぁ…アキバは浅草に近いし自作パソコンくらいは造ってたぜ ?でもなんで……」 『…記憶リセットというのは、FATの更新されたハードディスクの ようなものと考えれば理解できますか?』 「そうか…何処に何の記憶があるかアドレスが判らないだけで、 ディスクに記憶したことが消えちまった訳じゃないんだ……」 『そうです。ここで記憶に触れていくことで、ご主人の前の外史の 記憶が少しずつ戻り謎が解けるはずですが…』 と、于吉の躊躇う意識が漂う。 「? 于吉?」 『…あまりゆっくりはできません。』 「ゆっくりできないって…なんかヤバイのか?」 『はい。現在、ご主人の意識の海には孫策殿の記憶領域が繋がっ ています。長く繋いだ状態ですと記憶が混じり合い、あまり好まし くない不具合が…あるかと。』 「それを早く言え!なんで繋がってんだよ!」 『おや、孫策殿を助けたいのではなかったのですか?先程 人の 胸倉掴んでカッコいいこと言ってませんでしたか?』 「うっ、、、(コイツ結構根に持つタイプか?)」 『ふふふ、冗談です。繋いだのはご主人に彼女のトラウマを修復 していただくためです。』 「トラウマの修復って…あの親父さんの件か。俺にできんのか?カ ウンセリングなんて知らないし…大体どこにいるんだ?孫策って。」 『さあ?頑張って探してください。あまり時間はありませんよ♪』 そう告げると于吉の意識はふっと消えた。 「くっそ〜、やっぱ根に持ってやがるな。仕方ない、探すか…」 ぽつぽつ歩く一刀の少し離れた処にまた窓が開いた。 近づき覗くとそこには真っ赤に燃える大河が広がる。 『冥琳……見ていたか?勝ったぞ。……我ら孫呉の勝利だ。』 額に入れ墨をした褐色の美少女が泣いている。その碧い瞳から流 々と涙を流し冥琳に語りかけていた。 「この娘はわかるぞ、確かさっきいた娘だ。」 すぐに場面は変わる。まるで目まぐるしく変わるテレビを見てい るようだ。 「今度は誰だ?」 新しい窓に眼を凝らすと暗闇にひとりの少女が佇んでいた。 どこか小川の近くなのだろうか、虫の鳴き声に交ざってせせらぎ が聞こえる。 「(誰だ この娘?小さい娘だな、なんで背中向けてんだ?)」 その時、少女の囁くような声が聞こえた。 『綺麗な月ね……』 「っ!?」 その声を聴いた途端、胸の奥が絞めつけられるような感覚に一刀 は驚く。 『……帰るの?』 その声は涼やかだった。 『……けれど、私は後悔していないわ………』 誇り高く、気高い意志がその小さな背中から伝わってくる。 『……当たり前でしょう。この私を誰だと思っているの?』 その小さな蒼い背中を見つめて気づく。 『………ずっと私の側にいなさい。』 ツインドリルが揺れている、その心を顕すように。 『……ダメよ。そんなの認めないわ。』 これは離別の時。 『どうしても……逝くの?』 この少女は懸命に堪えているのだ。 『恨んでやるから……』 振り向きたいのを必死に堪えている。 『……………逝かないで…』 きっとその瞳に大粒の涙を溜めているのだろう。 「(なんだ、なんでこんなに哀しい気分に?俺とこの娘は一体… …)く、振り向け、顔を見せてくれ!」 しかし一刀の叫びに反して窓はフッと消えてしまった。 「あ〜あ、せめて顔くらい見たかったな……なんなんだ、この切 ない気分は?」 まわりを見渡すが今ので終りなのか場はシーンと静まり返る。 「……ん?泣き声?」 よ〜く耳を澄ますと微かに子供の泣き声らしき音が聞こえてきた。 「(さっきの娘かな?それにしては幼い泣き声だが……)」 泣き声便りに歩むと遠くにぼんやり音源が見えてきた。 「子供?」 小さな女の子が座り込みぐずぐず泣きじゃくれている。 「お嬢ちゃん、どうしたの?」 近づきしゃがみ込んで顔を覗く。 「えっくえっく…ととさまが……しんじゃったの……あたしのう らないのせいで……」 褐色の頬をボロボロ大粒の涙がこぼれ落ちる。 「(孫策?子供の頃か)それは…お嬢ちゃんのせいなの?違う気 がするけどな。」 「だって!あたしが、かわがいいってうらなったから……ぐすっ …」 「そうか…それでお母さんに怒られたのかい?」 一刀の質問に少女はふるふる小さな頭を振り否定した。 「んん…かあさまはしょうはいはへいけの…えっと、えっと、、、」 「兵家の常…かな?」 「うん!そうそれ!そうゆっておこらないの……でもぜったいお こってるよ、、、あたしのこときらいになったんだよ、う、うう、 ぐす……」 再び泣き出す少女の頭を撫でながら一刀はゆっくりと話し掛ける。 「う〜ん、それはどうかな?聞くけどお父さんとお母さんは仲悪 かったの?」 「…んうん、すっごいなかよしだよ、なかよすぎてときどきさい にしかられるの。きょういくじょうよくないって?……だからかあ さま、きっとおこってるの。」 「…それはどうだろ。俺は違うと思うよ。占ったのはお嬢ちゃん かもしれないけどその結果を良しとしたのはお父さん本人だろ。お 母さんが素っ気ないのは…きっとお母さんはお嬢ちゃんに負けない くらい悲しくて…どうしていいかわからないくらい悲しくて…お嬢 ちゃんに構ってあげられないんだと思う。」 「……そうなの?でもかあさまないてなかったよ?」 きょとんと見上げる彼女ににこりと微笑む。 「それは偉い立場にいるからじゃないかな。まわりにいる人たち に心配かけまいと我慢してるんだと思うよ。ホントはお嬢ちゃんみ たいに泣きたいんだと思う。」 「かあさまかわいそう……おにいちゃん、どうしよう?あたしど うしたらいいの?」 ぎゅうっと小さな手がしがみついてくる。震えるその躯を優しく 抱いて一刀は素直に思ったことを口にした。 「泣かせてあげるといいよ。悲しい時に泣き、楽しい時に笑う。 人の心はそういうもんだよ。無理に我慢すると良くないしね。お嬢 ちゃんに出来ることでお母さんを助けてあげるといいよ。それがお 母さんをきっと笑顔にするから。」 「あたしができること?かあさまを…………うん!やってみる! ありがとうおにいちゃん、しぇれんがんばってかあさまをたすけて あげるの!」 にぱっと満面の笑顔になる幼い雪蓮の頭をなでなでしていると次 第に彼女の姿が光り輝きだした。 「あ!もういかなきゃ、、おにいちゃん、あたしのまな、しぇれ んだよ!おにいちゃんは?」 「あ、ああ、俺は一刀、北郷一刀だよ。」 「かずと……うん!かずと、またね…あた…し…き……」 光が強くなり声も姿も消えていくと同時に一刀の意識も薄れてい った。 ……… …… … 「おや、気がついたみたいですね。」 目を覚ました一刀を于吉が覗き込む。 「于吉……」 「気分はいかがですか?ご主人。」 「ん…なんか凄いけだるい………」 「ああ、それは融合の後遺症でしょう。陰陽合壱は気力に負担を かけますから、ご主人の気力を相当減少させたはずです。また身体 も……」 そう言いながら于吉が一刀の手を持ち上げた途端、激痛が走った。 「ぐぉ!痛ぅ!」 驚き痛がる一刀に于吉が微笑む。 「…このとおり全身筋肉痛です。なんせ左慈が手加減なしに使い ましたからね。」 クククッと笑いを噛み殺す于吉を睨みつける。 「人の身体だと思って勝手に………」 「まあまあ、おかげで孫策殿も周瑜殿も無事助けられました。 もっとも一つ問題が残りましたがね……」 「問題?」 「孫策殿が黒化したのは我らのかつての同僚の仕業なのですが… そのきっかけはどうも張勲殿らしいのですよ。」 「張勲って…七乃か。七乃の奴、なにしたんだ?」 大体ろくなことじゃないなと思いながら確認すると案の定ろくで もないことだった。 「……という訳で使った媚薬の中和薬を華佗殿に造ってもらった のですがね。」 浮かない表情で小瓶を見つめる于吉に痛い首筋を捻り尋ねる。 「なんだ?効かなかったのか?」 「いえ。使用法に問題がありまして……」 「使用法って、それ飲み薬だろ?孫策が飲みたくないって言って るのか?」 「いえ。これは女性が飲んでも意味がないんですよ。」 キラッと于吉の眼鏡が光った気がした。 「へ、へぇ〜そうなんだ……」 「ええ、そうなんですよ、ご主人。」 「……で、でも媚薬に侵されてるのは孫策なんだろ。女性が飲め ないんじゃ意味ないよな。」 キラリッと眼鏡が確かに光った。 「それが華佗殿の診断では、孫策殿を救うにはこの薬を飲んだ男 性とまぐあい、その精を子宮に受けれなければいけないそうです。」 「………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……………………………………………………………………………… ……え?」 放送事故ぎりぎりの間で返ってきた返事に于吉の眼鏡がピカッと 光る。 「という訳で、ご主人。後はよろしくお願いします。」 「まて、なにがよろしくだ!それならお前らが相手に…」 「ハハハ、ご冗談を。私が女性と?そんな気持ち悪いことはでき ません。華佗殿は医師として客観的立場にいるべきとのことですし。」 「さ、左慈は?あいつだって男だろ。」 「そ・れ・は・わ・た・し・が・赦・し・ま・せ・ん!」 ギラリッと輝く眼鏡に睨まれ一刀は絶句した。 「ちなみに張勲殿と袁術殿は現在、孫権殿の手で軟禁中ですので がんばってください。ふたりを救えるのはご主人だけです。」 「ちょ、おま…痛ぅ!」 立ち去る于吉を止めようと身体を動かした途端また筋肉痛に動き が止まる。 「ではお待たせしました。後はごゆっくり よしなに。」 そういって差し出した小瓶を褐色の細い指が受け取る。 「お、おい……」 于吉の気配が消え、ひたひたと誰かが近づいてくるのがわかる。 「…北郷…一刀……貴方が北郷一刀。我慢できてるうちに礼を言 っておくわ。我が姓は孫、名は策、字は伯符。 貴方の英断で私と冥琳は助かった。この恩は生涯忘れない。呉の 女は恩は十倍、仇は百倍にして返す。だからまず貴方の部下がしで かした不始末からけじめをつけてもらいましょうか。その躯でね♪」 そういうと彼女は小瓶の中身をぐいっと口に含んだ。 「ちょっと待っ……うぐっ」 一刀の意見を無視して雪蓮の唇が彼の口腔をこじ開け含んだ薬を 流し込む。 「…う……ぐ……ごくっ…」 飲み干した後も雪蓮の舌がしばらく彼の口腔を犯し続ける。彼女 の唾液がだらだらと流し込まれるのを我慢していると鋭い眼で睨ま れた。 「飲みなさい…私のよだれを飲むのよ!」 「うう、、、ごくっ」 瞬きも忘れ見つめている雪蓮の眼力に気圧され飲み干すと途端に 彼女の瞳に喜悦の色が浮かぶ。 「ふふ、いい子ね。可愛いわ♪大丈夫、お姉さんに任せなさい。 優しくしたげるから」 そういう彼女は息も荒く、上気した頬に爛々と輝く瞳を見開いて 一刀を見下ろし舌なめずりをした。 「……………じゅる♪」 「っ! (く、喰われる!喰われるのか、俺?!)」 全身筋肉痛でまさにまな板の鯉状態の一刀の服の上を細い指先が 這う。 「大丈夫よ、緊張しないで、、まずは服を脱ぎましょ……あん、 何この服、どこから脱がすのよ?」 ポリエステル服に悪戦苦闘していたが… 「あーもーっ!面倒っ!」 びりびりびりびりっ〜! 「キャーッ!」 服の引き裂く音と一刀の黄色い悲鳴がこだました。 「おや、始まったようですね。」 隣の部屋でのんびり茶をすすっている于吉に祭がうかがう。 「お、おい…今の悲鳴、、おぬしの主じゃないか?」 「そうですね、絹を引き裂くような叫び声でしたが……(これで ご主人も女嫌いになれば棚ぼたですがね)ふっ♪」 「う〜む、策殿も堪え性がないからのぅ。やり過ぎねばよいが、 あの爛漫娘……」 祭の心配通り暴走モードの雪蓮は次々と一刀を剥いでいく。 「(お、おか、犯される!)そ、孫策さん!ちょ待っ!待った! 待ってくれ!」 「待たない!い〜でしょ、減るもんじゃなし、往生しなさ〜い! ほらほらほら〜あらん♪」 ぶるんっとそそり立つ勃起魔羅を見つけて爛漫娘の猫眼が輝く。 「な〜んだ、口じゃなんだかんだ言っても躯はしょ〜じきね♪ な〜に、この勃起魔羅は?いやらしいわ…ハァ…こんなにカリ大き く開いて…ハァ…血管ドクドクさせて…ハァハァ…なんていやらしいの。」 息を乱し魔羅から視線を外さない雪蓮の尋常ではない形相に一刀 赤面しながら言い訳する。 「ち、違う…それはさっき飲まされた薬のせいで……」 「そう、、、じゃあ 私を抱きたいわけじゃないんだ? この呉王 の躯を抱いて無茶苦茶にしたくないんだ?」 そう宣うとほぼ一瞬で全裸になる。くびれた腰に手を当て豊満な 肉体を見せつける雪蓮を一刀は呼吸も忘れて見上げた。 「(す、すげ〜ビヨ〇セ並のパーフェクトボディ!)」 一刀の脳裏に某ミネラルウォーターのCMで踊るスーパーモデル 級ダンサーの鍛えられた肢体が浮かぶ。しかし目の前の四肢は遥か に美しく眩しかった。 厳しい戦さの日々に鍛え上げられたその裸体は無駄な贅肉など一 切なく、ある種 究極の機能美・肉体美を具現化している。 細い指先から走る艶やかな流れは二の腕の筋肉をよどみなく越え 、肩から鎖骨 そして豊満な乳房を降だると腹筋を回って美尻を引 き締め完璧な曲線美を構築して脚先に到る。 褐色の肌が健康美も醸し出し、一点の曇りもない完全無欠な女体 そのものがそこにはあった。 「ごくっ…」 「…いやらしい眼で視姦して……気のせいか魔羅がまた大きくな ったみたい(あぁ…こんなに太くして…)どうしたいの?一刀…… …ハァハァ………正直にいいなさい……侵れたいんでしょ……ハァ……そ のぶっとい…デカマラを……私のここに……ぶち込みたいんでしょ ……ぶち込んで…掻き回して…ぁぁ…私を……この呉王・孫伯符を ……ハァ…ヒィヒィ…よがり狂わせたいのね…ハァ…」 自分の言葉にヒートアップした雪蓮は一刀の返事など待たずに馬 乗りになる。 「熱ぃ!ごついデカマラが熱いわ…ごつごつしたマラが恥豆に当 たって気持ぢぃいじゃない あはぁ、くやしい、、たまんない、勝 手に腰が動くのぉっとまんないぃぃ♪」 「す、素股……やべ、気持ち良すぎて…出ちまう。」 ロデオの如く激しい腰振りに射精感が高まるが歯を食いしばり我 慢する。 「…ぁは…あ…ぁ…く、来る。凄くぃい…きちゃうぅぅ… ひぃ ぃぃ!」 びくんっと弓なりに反って硬直する雪蓮の爪が一刀の胸板にキリ キリと数条の爪痕を創る。 「痛っ!」 その痛みに眉をしかめる彼をとろんとした眼で見下ろし雪蓮は婉 然と微笑んだ。 「ご…ハァ…めん…あんま…り…ハァ…気持ちいい…から…ハァ…つい …引っ掻いちゃった。痛かった〜?ぺろ♪」 胸板の紅い爪痕をぺろぺろと這う舌が乳首を捕らえた。 「あは……ハァ…乳首勃ってきたぁ…男も感じるんだ…ハァ…コリコ リしてる、ふふ、アタシこうやって甘噛みされるのが好きなの…ハァ…」 舌と歯で乳首を攻めながら指先で魔羅を捕らえ女陰にあてがう。 「さ〜て…ハァ…それじゃ…ハァ…そろそろ…ハァハァ…いただきましょ うかっ!て…ね……んんっ!」 腰を落とすと、くちゅりと亀頭が女陰を押し開く。 「はぁ…すごぃ…目一杯拡げられて…侵ってくるぅ…ハァ…痛ぅ! く、こ、これくらい…矢傷の痛みに較べれば…なんてことは…な いっ!」 ぷちぃっと引きはがすような抵抗を感じ、一刀は驚いて見上げる。 「孫策…まさか…初めてなのか?」 「ふ、ふふ…ハァ…なに意外って顔してんのよ…ハァ…遊んでる女だ と思った? 残念でした。女遊びはしても男遊びはしないの…ハァ… ふふ♪」 「その、、今更なんだけど、、、よく知らないこんな馬の骨が最 初の男なんて…すまないな〜なんて思ったりしてな。」 「ぷっ…アハハ、なに言ってるの。この戦乱の世に処女がどーし たなんて…ハァ…甘ったるい考えじゃ國主なんて努まらないわ…ハァ… …それに」 すっと雪蓮の顔が近づいて耳元で囁いた。 「私が一番辛くて哀しかったとき、慰めて、励まして、助言して くれたじゃない…かずとおにいちゃん♪」 「え?!それって…」 驚き、顔を見る一刀ににんまりと眼を細めて微笑む。 「私が最初に真名を許した男(ヒト)。そんな男に処女を捧げる… 悪くない初体験だと思ってるわ。」 「でもそれは…」 「わかってる。道術で私の記憶に手当をしたのでしょ。于吉から 大体聞いたわ。 でもそれはどうでもいいの。大切なのは、あのとき貴方が私を救 ってくれたってこと。」 紅い唇が近づく… 「…理屈じゃない、あの時 貴方が精一杯泣きじゃくる娘(コ)を 慰めてくれた…抱きしめておでこを撫でてくれた。それがとてつも なく嬉しかった…凄く安心した。」 繋がる唇、交じり合う舌… 「…ん…ちゅ…好きよ一刀、貴方のおかげであんなに悩んでたの が嘘みたいに晴れ渡ってる…貴方は命だけじゃない、この孫策伯符 の魂も救ってくれた…」 情熱的な接吻とともに腰がうごめきだす。 「あぅ…い、痛いのに…ぁはぁ…痛いの何百倍も、き、気持ち… いぃぃのぅ…一刀のデカマラがぁ…きもちぃいのぉ……あぁすごぃ ぃ…押し拡げて…どんどん奥にくるぅ! だめ…だめになっちゃ… ぁひぃ!あた 当たってるぅ! おっきいぃさきっぽがぁ…す すご いぃ ぐりぐりあたってるのぉぉぉー! ね、ねぇ、よんで、しぇ れんって、ょんでぇーあ、あ、あ、だめ ためぇ らめぇぇーっ! しんじゃうっ! こんなのらめぇっ! あはぁ ひぁ あひぃらめ きちゃ きちゃう すごいのきちゃぅぅぅぅーーー……」 銀髪を振り乱しよがり狂っていた雪蓮がギュンッと弓反りびくん っびくんっと気をやると、きゅうと女陰が絞まり子宮口が亀頭に吸 い付いた。 「ぐっ…しぇ、しぇれんっ!」 睾丸が萎み、ドクドクと我慢に我慢をしてきた精液が噴き出す。 子宮にほとばしる精液が注がれた瞬間、雪蓮の肢体を先程までと 較べものにならない快感が走る。 「ひぃぃぃーーはひ はひってふるっ! ひゃすとのあっついのが っ! あっついせーえきいっぱいくるぅぅぅーー と、とけちゃぅ しきゅ〜とけちゃぅのぉーーとけて…ひ…ひとつになっちゃっ! ひぃ ま まらはひってふるっ! らめぇ もぅぃっぱひなのぉ はひ らないぃぃぃ ゆるしてぇぇぇぇーっ! ぁ、ぁ、あ、くる…しゅ ごぃのきちゃぅっっ いくっ!いくぅいぐぅいぐいぐいぐいぐいぐ いぐぅいぐいぐいぐいぐいぐいぐぅいぐいぐいぐいぐいぐいぐぅい ぐいぐいぐいぐっっっーーーーー……・・ ・ 」 壮絶なよがり声を上げ、背骨が折れるかと不安になるほど弓反り 痙攣したかと思うと、ふっ と糸の切れた人形のように脱力した。 「しぇ、雪蓮?」 倒れ込む躯を受け止め、問いかけるが返事はない。 見ると白目 を剥いて失神している。 「……お疲れ様、雪蓮。」 びくんっびくんっと時折痙攣する褐色の重さを快く感じながら、 一刀は愛おしそうに銀髪を撫でた。 ……… …… … 「それでまた寝込んだかや、全くだらしないかずとじゃの〜」 「全くです〜お嬢様に迷惑かけるなんてぷんぷんですぅ〜」 「…七乃、お前 誰のせいだと思って…」 「ま〜ったくですわ!一刀さんのおまぬけのせいで、私の華麗な 計画が遅延しまくりですわ!全身筋肉痛なんて情けなくって睫毛一 本分の涙も出ませんわ。」 「まあまあ 姫、一刀も悪気があったわけじゃないし… とはいえ 筋肉痛になるほど、ヤりまくるってのもどうかと思うけどねぇ〜」 「ちょ まっ、猪々子 ちが…」 「一刀さんも男なんですね…」 「いや 斗詩、ごかぃ…」 半壊した庵で華佗特製軟膏包帯をぐるぐる巻きにして寝込む一刀 を囲み美羽達が、やいのやいのブーイングをあげる。 そこへパンパンと手を鳴らし于吉が入ってきた。 「はいはい 病人を弄って遊ばないように。ご主人、お客様ですよ。」 「かずとに客? 一体だれ…ひぃ!」 「そ、孫策さん?!」 美羽と七乃が青ざめる目の前に于吉に案内された雪蓮がいた。 「あわ、あわ、あわわ〜ななの〜ガクガクブルブル」 「だ、だ、大丈夫です、お、お嬢さま〜」 抱き合い震え上がる二人を雪蓮が見据え唇を開く。 「心配しなくてもあんたらを今更どうこうしないわよ。くびり殺 すつもりなら解放なんかしないわ。フン!」 そういうと二人を無視して一刀の床に近づく。 「どう、調子は?」 「見ての通り…華佗のおかげでだいぶ痛みは和らいだけどね。」 「…ごめんね、アタシあのとき自分止められなくて、、」 「気にすんなって。それより、あの後 大丈夫?」 「あ、うん、平気。しばらくなんか入ったまんまな感じで歩きに くかったけどね♪」 「ああ、そう(…いやそっちのことじゃないんだが)」 苦笑する一刀の髪を雪蓮の指先がすく。 「ありがとね…一刀。」 見つめ合う二人の後ろ姿に猪々子と斗詩が囁く。 「あれ?なんかいい感じじゃね?」 「うん、孫策さんなんか…乙女してるね。」 「そっかぁ〜コマされちゃったのかぁ〜さすが、ちんこアニキ。」 にやにやと二人を眺めていると後ろからなにやらどたばたと足音 が近づいてきた。 「北郷殿、失礼する!ここにうちの爛漫女王がお邪魔して…む! おったぞ、冥琳!こっちじゃ!」 「チ! 早いなぁ〜もうばれたか……」 祭に見つかった舌打ちに一刀が驚いて見上げる。 「雪蓮、勝手に出てきたのか?あまり…あれ?」 そこで彼は雪蓮の顔に違和感を覚えた。 「…雪蓮っ、勝手な真似を!すぐ王宮に戻るんだ。」 祭に続いて冥琳が現れた。冷静な彼女がめずらしく怒りに柳眉を 逆立てている。 「…雪蓮、入れ墨が無いぞ。額にあった入れ墨が、、、」 「うん、消したの。王様やめたから♪」 「え……………………え?」 「「「「えーーっ!」」」」 あっさり爆弾発言を放つ雪蓮を一刀達が驚き見つめる中、額に血 管を浮かべた冥琳がつかつかと近づき…… 「こんのぉ 爛漫不良王がぁっ!」 ビタ〜ン!!!!! 「っ …ぃたぁ〜! あにすんのよっ!痛いじゃない。」 思いっ切りはたかれてぶーたれる雪蓮に祭の怒声がぶちあたる。 「当たり前じゃ!わしらの出かけとる間に勝手に王位を権殿に譲 るなど!言語道断っ!今度という今度は…」 「待って!祭!違うの!」 怒る宿将の手を捕り、潤んだ瞳で見つめる。 「ぬ…」 「聞いて…今度の件じゃみんなに迷惑かけた…街でも于吉にあん なことして民も不安に…謝って済むことじゃない……けじめをつけ なきゃ…いけないのよ。」 「むう…」 涙目で訴える雪蓮に祭の怒りが少しずつ下がったかと見えたその 時… 「それで勝手に王権をほっぽりだして、愛人のところに入り浸り か…」 ぞっとするようなブリザードな気が場を支配する。 「……あれ? め、冥琳?」 「迷惑かけた? 民も不安に? …ふ…ふふ…ふふふふ そんな殊勝 な王様なら今までどんなに楽だったかなぁ、しぇ〜れ〜〜〜ん」 美しい黒髪をメデューサのようになびかせ、じわじわと近づく朋 友に雪蓮の頬が引き攣る。 「め、冥琳、や、やだな〜眼鏡が光ってるぅ〜は、はは…ひっ!」 ドガァァァーーーーーーンッ! そして半壊してた庵は、綺麗に全壊したのだった。 ………………………………………………………………続く 次回予告… ようやく全快した一刀だが、そこへ思わぬ訪問者が… 暗躍する魔術師達… 安定していた三國の平和が再び戦乱の嵐に覆われる中、一刀が選 んだ選択肢は…… 次回 真・恋姫†無双 第五の選択 第二話 「青龍の涙」 「忘れられてしまう…このままではみんなに忘れられる…うっ… くぅ…」 かみんぐすーん