「それは本気?」 「ええ、もちろん」  傍から見たら一組の親子。しかしながら二人の関係は―断金―。  金の切れ目が、縁の切れ目。というわけではない。金をも断つような硬い仲という意味だ。 それほどまでに二人は、お互いを信頼し、尊敬し、そして愛している。 「どうして急に?」 「別に急ではないわ。ただ機を見て敏だっけ、それよそれ」 「その機って貴女が小さくなったこと?」 「いいえ。私が……」  何かを考える素振。否。彼女の中ではすでに答えは出ている。 「……一刀に逢ったことよ」 「それにしてもこの部屋暑くない?」 「そんなことない。むしろいい風が入ってて丁度いいぐらいね」 「うっそー。こんなに熱いし、何かくらくらするし、それに冥琳が三人いるし」 「……風邪ね」 「姉様!姉様!もう一つおまけに姉様!」  あー煩いわね。頭痛いんだからもう少し静かにして欲しいなー。ちゃんと書置きしたんだから。 「姉様一体これはなんですか!『頭痛い。ついでにこれから王は蓮華で宜しく』って! 私は姉様を心配すればいいんですか!?それとも呆れればいいですか!?」  扉の向こうから聞こえる蓮華の主張。残念だが今の蓮華は部屋に入れられない。一回落ち着いてもらおう。  私は今寝台で寝ている。傍にいるのは冥琳、そして祭。 「権殿、いや蓮華様も策殿が一度言ったら覆さないと分かっているであろうに」 「いきなりですからね。ですが方法は考え物ですが私も蓮華様が王になることには賛成です」 「それは儂もじゃが」  二人の視線が私に集まる。あのさ、病人を労るって考え方はないの? 「はいはい、私が悪かったですよ。けどこの先、きっと私ではなくて蓮華が王の方が色々便利だと思ったのよ」  蓮華は性格的に内政に向いていると思う。なにより一刀と相性がよさそうだしね。 そう、私のカンだとこれから必要になるのは私の攻撃性ではない。 「ふむ、皆考えるのは同じと言う事か。それより策殿、随分と顔色が悪いようだか」  ……今さら? 「これでも飲んで気付をすればよろしいじゃろ」  ぼーとしていた私は何も考えずに祭から受け取ったものを飲み干した。 「……はぁ」 「はっはっはっはっ。いくら策殿でもその姿では形無しということか」  私は今幼女。誰がなんと言おうと幼女。いくら元酒好きといえ幼女。  祭から渡されたのは白乾児。くいっと一気にあおったのも拙かった。体中が熱い。動悸、息切れが治まらない。 「ぅぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅうぅぅぅ」  くらっくらするー。 「お、おい雪蓮?」 「策殿?」 「がああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあ」  しゅわっしゅわするー。 「雪蓮?雪蓮!?」 「だれか湯を持ってまいれ!」 ――ポンッ。ビリッ。 「ふう、すっきり」  開いた口が塞がらない。そんな顔の冥琳と祭。一体どうしたのかしら? 「姉様!大丈夫ですかっ。一体な、に……が……裸?」  騒ぎを聞きつけたのか蓮華が慌てて飛び込んでくる。がその蓮華もすぐに止まってしまう?裸? 「雪蓮様、どうして裸なのでしょうか?それに姿も元に戻っているようですが」  蓮華と共に入ってきた思春が尋ねてくる。取りあえず自分の身体を確認。  ……裸ね。胸もあるわね。自慢じゃないけど、形もいいし、張りと柔らかさも丁度いいのよ。 「戻った!」  何故か分からないが私は以前の姿を取り戻していた。 「遠かったわね。一刀の驚く顔が楽しみだわ」  今私は許昌の城門にいる。一刀に会うためだ。  何故か分からないが、前の姿に戻ったのを一刀に見て欲しかった。一刀の驚く顔が見たかった。 それだけが頭を支配していて、いつの間にか馬に乗って許昌に向かっていたのだ。  そしておよそ一週間。ようやく着いた。ずっと大人の姿のままだ。何が要因か分からないが完璧に治ったようだ。 「さて問題はどうやって入ろうかしら」  魏と呉は開戦していないとはいえ、約束もなしに城に入れるわけもあるまい。  が、いきなり城門が開いた。そして出てきたのは二騎。蜀の方向に向かっている。 私は嫌な予感を覚え、その二つの影に近づいていった。 # # #  話はすこし戻る。雪蓮が許昌に着いた日の朝のことだ。 「ん、んぅ」  太陽の光がまぶしい。もう朝になったのか。幸せな時間とは過ぎていくのも速い。 いつものように目の前にいるであろう一刀を抱きしめる。 ――スカッ  暖かい、が温かくない。軟らかい、が柔らかくない。  おかしい。そう思い未だ重たい瞼を開ける。 「……いにゃい」  またか。一緒に寝るようになって暫く経つが何度かあった。 「まったくかじゅとはまだわかってにゃいのね。かじゅととわたちは一心同体にゃのに」  どうせ食堂にでもいるのでしょう。私は普段どおりに侍女を呼んだ。 「華琳様、おはようございます。今日は兄様とご一緒ではないのですね」  着替えが終わり食堂に顔を出す。普段一刀に抱っこをして貰っているため、やたらと遠く感じた。  食堂に入ると、もう食堂の主といっても過言ではない流琉が鍋を振りながら挨拶をする。 「朝起きたら居なかったにょよ。その様子じゃりゅりゅもかじゅとにあっていにゃいにょね」 「はい、今日はまだお会いしておりませんね。庭に散歩にでも向かったんではないでしょうか。今日はいい天気ですし」 「しょう。ありがと」  まったく一刀はどこにいったのだろうか。 「華琳やないか?一刀に置いてかれたん?」 「ちあ。随分とはやいにょね」  一刀を探して庭にやってきた華琳の目に映ったのは何かから開放された雰囲気がある霞の姿。 「今日夜勤やったからな。もー、眠ーてたまらん」 「ごくろうしゃま。ところでしゃっき、かじゅとがどうとか言っていたけど一体にゃに?」 「あー昨日の夜一刀にあったんよ。そしたら『ちょっと人に会いに行ってくる。まあ心配しないでくれ』ってゆーてたで」 「……だれに?」 「んー確か劉備て言ってたな」 「……ちあ?」 「……もしかして劉備ってあの劉備?」 「誰か、秋蘭をよびなしゃい!」 「あーの、ばかちんがー。華琳、ウチも行くで!」  こうして華琳を前に乗せた秋蘭と、霞の二騎が秘密裏に蜀へと向かった。 # # #  二つの影に近づく。少しずつ輪郭がはっきりとしてくる。 「……まさか」  いや、見間違うはずが無い。あんな幼女そうそう居て貰っては困る。 「曹操!曹孟徳!止まりなさい」  大声で呼ぶ。馬の足が弱まり、一騎だけがこちらに近づいてきた。 「なんやねん。ウチ等急いでんのや。用件なら……って孫策?なんでこないとこ居んねん。それに大きなっとるし」 「霞、急いでるんだ。早く行くぞ」  曹操を抱えている夏侯淵が大声を張り張遼を呼ぶ。 「曹操。私よ、私、孫伯符。一刀に用があってきたんだけど、今忙しいの?」  一刀の名前を出した途端空気が変わった。夏侯淵の馬が近づいてくる。 「本当に孫策ね。姿も戻ったようね。けどわたちたちいしょいでるの。かじゅともいにゃいから呉に帰りなしゃい」  かなり苛立った様子で答える。 「一刀が居ないってどうゆうこと?」 「ちらないわよ。只、ちあが言うには劉備に会いに行ったらちいわ」  頭に衝撃が走った。一刀が劉備に会いに行った。私ではなく、劉備に。なんかいらつく。そして私の中の何かがはじけた。 ――ボンッ  私はまた幼女になった。 # # # ――一刀が劉備に会いに行った。  華琳の頭に流れているのはただそれだけ。 ――私を置いて一刀は劉備に会いに行った。  全てがこの一言に支配されている。 ――一刀は私では無くて劉備を選んだ。  そして華琳の頭で何かがはじけた。 # # # 「「小娘が、調子こきやがって」」 今魏呉同盟が生まれた。 続? 編集後記 呉のメンバー動き方わかりません。まとめをみていただくと分かると思いますが、私、ほとんど呉を出したことありません。 冥琳と祭さんがこんなに難しいとは思わなかった。雪蓮も崩れ気味だしorz って書いてる途中に普通に鼻呼吸してたら鼻血噴出しました。稟の辛さが分かりました。しかし私には風が居ません。止まりません。 さてさてこのお話、前回の一刀君が秘密で蜀に向かったときの魏でのお話。 一刀君の乗馬テクと霞たちのテクじゃあ追いつくだろうにって突っ込みはなしの方向でお願いします。 雪蓮が大きくなった理由ですか……バーローwww ……鼻血止まった。