「無じる真√N39」  会稽郡に入ってからは留まることなく突き進んできた孫策軍。何度か王郎軍ともぶつかり合うこととなったが、それらを無事うち破り、ついには王郎、厳白虎が四肢や頭を甲羅に引っ込めた亀のごとく籠もっている城へと攻め込む時を迎えていた。  徐々に減り始めていた孫策軍の兵数はここに至って当初のほぼ半分となっていた。それでも固く閉ざされた城壁、斥候からの情報にあった誰一人として中へ入れようとしない、といった対策を見て王郎の警戒心が未だ強く最も敏感な状態であるということがよくわかった。 「ふぅ、結局は籠もりきることしかできないわけね」  閉じこもっている王郎に対する呆れの感情を込めてため息を吐く。 「まぁ、仕方あるまい。根性が座っておるはずないのじゃからな」 「それもそうね」  黄蓋――字を公覆、真名を祭という――の切り捨てるような言葉に苦笑の混じった声で肯くが、その顔に笑みは一切浮かべてはいない。孫策はその真剣な眼差しを城へと向け続けているのだ。そこに、自分がこれまで仲間たちと共に様々な事に耐えてきたことに対する大きな報いが舞っていると信じているのだ。 「もうすぐ。本当にもうすぐね」 「そうじゃな。ここまで長いようで早かった。そう感じるのは年のせいかのう?」 「ふふ。いや、それは私も同じよ」  今度は僅かではあるがその口元に笑みを湛える。 「さ、行きましょ……私たちの未来へ」  そう呟くと孫策は深く息を吸い込み、頬を張って表情を引き締める。そして、流れるような動きで背後を振り返る。そこには、すでに戦闘態勢を整えた孫策軍の将兵たちが並んでいる。  多くの者たちを人取り見渡すと、孫策は胸を反らし、堂々とした姿勢をとる。 「いいか、孫呉の兵たちよ! この一戦によって我らは新たに道を切り開くこととなる。それは、きっとまだ細く頼りないかもしれない。しかし、前に進むための歩を踏み出すことは出来る。さぁ、今こそ己の中にある孫呉の一員としてのチカラを見せてみよ!」  腹のそこからの声を出した。それこそ隊列の最後にいる者たちにも……いや、その心の底にでも届かせんとばかりに。強く、大きな声を、叫びを轟かせた。 「おおぉぉ!」  一気に軍中から喚声が上がる。兵士たちは皆、それぞれの得物を掲げ孫策にその意思の強さを窺い知ることができるほどに鋭い視線を孫策へと向けている。  それらを受けながら孫策は自らの得物を、南海覇王を城へと向けるようにして腕を上げていく。徐々に切っ先が城の外側、城壁、内側と移動し、そして城へと差し掛かると、孫策は腕を止めた。弓手が狙いを定めるように眼を細めて視線を飛ばす。  鼓動が早くなる。躰が高揚感によって震える。今すぐにでも駆け出したい。それを一拍だけ抑えて、孫策は大きく息を吸い込む。 「者ども、敵をうち破るぞ!」  そう叫ぶと、いの一番、孫策が先頭を切って進み出る。この瞬間が彼女にとって、爆発する瞬間だ。その体内に流れる孫呉の、先代、孫堅の血が孫策の鼓動を強くし、生を感じさせる。  後に続いて、将兵が駆け出す。  城との距離をあっという間に埋める。  城壁の上で見張っていた王郎軍の兵が慌ただしく動き始める。  歩兵が盾を掲げながら突き進み城壁へと取り付こうと進み出る。  守城側の者たちが城壁上から矢を放ってくる。  雨のように降りかかる矢。  その、ぶぅうんという唸りはいなごの羽音のようだ。  孫策や将兵はそれをまさにいなごだと言わんばかりに打ち払う。もしくは盾で防ぎきる。 「怯むな、恐れるな。我らの強さ、とくと思い知らせよ!」 「おおぉぉおおー!」  一層の雄叫びを上げながら兵たちが城壁、城門へと次々と向かう。また、その先頭では黄蓋が指揮する隊が、弓による一斉射撃を行って城壁場の敵兵に応戦している。  しばらくは、そのまま一進一退の攻防が繰り広げられる。それでも、攻城戦なのだ。孫策軍の方が消耗率は高い。  それを感じ取ったのか、城門が開かれ中から王郎軍の騎馬隊が急襲をかけてくる。  前戦にいる黄蓋の安否をきにしつつも、孫策は新たな支持を飛ばす。 「このまま、一度後退する! 退け!」  そう言うと、孫策は自ら颯爽と方向を変えて駆け出す。それに続くように孫策の部隊、その他の部隊、そして、黄蓋の部隊が後退を始める。 「いいか! このままを保て!」  後ろに食らいつく王郎軍の騎兵隊をちらりと一瞬だけ視界に捕らえると、孫策は他の者たちの様子も観察する。  特に恐怖は無い。皆、孫策を、そして各将を信頼しているのがわかる。  何里走っただろうか、城の姿も大分小さな者となった頃、孫策は指示を出して一隊を敵の応戦に向けさせる。  黄蓋が連れてきた太史慈の騎馬隊だ。一瞬としか思えない速さで隊の位置を後方へと動かし、迫り来る敵兵を自慢の得物でなぎ倒している。 「へぇ、やっぱり強いわね……」  隊の中でも獅子奮迅の活躍をしている太史慈の動きを視線で追いながら孫策は感心したように息を吐く。 「よし、そろそろ反転して反撃に出る!」 「は!」  孫策の一声で隊は反転し追撃してきた王郎軍へと真っ向からぶつかる。金属導士がふれあう音、得物の刃と刃が擦れ会う音が一気に増える。 「我が名は孫策! 江東に覇を唱えんとする者なり!」  吹き付ける風が心地よい、まるで孫策の頬を撫でるかのように流れていく。不思議と気分が高揚してくる。  それはいつものことだ。孫呉の……いや、母より受け継いだ血がたぎっているのだ。 「王郎軍の兵よ! 命が惜しくなくば、ここで相手をしてやるぞ!」  一人、斬り捨てると叫ぶ、戦場では精神面が勝敗を分けることがある。孫策の気迫は軍全体を奮い立たせるのには十分だった。 「よし、太史慈隊によって動きを封じられている今が好機、射てぇ!」  黄蓋の声を覆うようにいくつもの矢唸りが戦場をかける。先程まで太史慈の隊によって思うように戦えずにいた王郎軍に矢の雨が降り注ぐ。  太史慈の攻撃を凌ごうとしていたものたちは防ぐ余裕もなく矢に貫かれる。また、詰め寄ってきていた騎馬が互いの動きを妨害し合い、もたつき矢を受ける。  馬を貫かれ落馬する者もいるようだ。防げたのはどの程度なのか、孫策にはそれをわざわざ数えるような趣味はない。  乱れに乱れる敵兵を前にしても太史慈は変わらず己の前に現れる敵を打ち倒している。 「く、これ以上はまずい。退け! 退けぇ!」  先程の孫策とは比べものにならないほど狼狽を含んだ声で王郎軍が引き返す。 「今度は、我らが追う番だ! 皆、我に続け!」  そう言って、孫策はいち早く駆け出し、先頭を走る。 「よし、黄蓋隊続くぞ!」  一番早く続いたのは黄蓋隊。その他の隊もすぐに後に続く。改める必要もないほどに兵数の損耗はない。  逃げる敵兵を追ううちに城の姿が再び近くなる。ついさっき、孫策が攻め込んだ時と比べ防備が薄くなっている。城壁には兵の姿が殆ど見えず、城門も半開きとなっている。 「どうやら、上手く言ったようね」  城門の隙間から見える喧騒……二つの勢力がぶつかり合っている、その片方……王郎軍ではない方が逃げ込んだ騎兵が張られた罠に引っかかり馬上から墜ちていく。そこを何人もの兵が襲いかかる。遠巻きながらも、砂煙に紛れたその様子をなんとか視認することができた。  孫策はその光景に思わず口角を吊り上げる。そして、更に勢いを付け、一気に城門を突破して中へと突入していく。 「敵は、もはや墜ちる寸前、前将兵よ、全力で這いつくばらせろ!」  まだ、胸が熱い。  辺りを埋め尽くす鉄かなにかと思われる金属の匂い、身体にまとわりつく紅い液体。煌めく刃。光を纏い風を切り裂いて飛び交う矢。四方八方から聞こえる怒声。  これが戦場なのだ。孫策の気分を高めていくものだ。 「孫策隊、黄蓋隊らが合流した。正気は我らにあり! 全軍、力を出し切れ!」  いつも聞いていた凛とした声、冷静なようでその実熱の籠もっている声。 「冥琳、やっぱ貴女は最高ね!」  自らの相棒が見事役目を果たしたことを確信し、孫策はさらに勢いを付ける。  そう、周瑜――字を公瑾、真名を冥琳――は周泰、呂蒙らと共に以前より考えていた水軍を用いて海から城へと侵攻したのだ。  もちろん、普通に当たれば迎撃され、城への侵入もままならないだろう。だからこそ、孫策は惹きつけたのだ。敵の注意を、兵を、戦力を。 「とはいえ、総大将をおとりにするのはどうなのかしら?」 「ふ。雪蓮ならばそれでも討たれしまい」 「冥琳」  いつの間にか隣へと移動していた周瑜を孫策はちらりと見やる。 「貴女も不足無く動いてくれたのだな」 「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるのよ」  飛び掛かろうとする敵を斬り伏せる。南海覇王から線を引くように血が飛び散る。 「江東の小覇王……孫伯符、だろ?」  そう言って孫策の背後へと白虎九尾で打ち付ける。敵兵が怯みふらつく。そこをすかさず孫策が南海覇王の刃を一瞬で通す。 「はぁ!」  敵兵の空がまるで線が切れた操り人形のように倒れるのを見届けると、孫策は周瑜に笑みを向ける。 「いいわね、江東の小覇王。気に入った!」  まるで、かつて楚屈指の勇将と謳われ、漢の高祖劉邦と覇権を争った項羽のようではないか。それならば、その呼び名に伴った活躍、勇猛さを見せねばならない、孫策はそう決意し、再び駆け出し将兵入り乱れる中へと飛び込んでいった。  それから制圧完了まではあっという間だった。一日と持たずに城は陥落し、ついに会稽も孫策のものとなった。  †  戦が終結を向かえたとき、孫策が早足で周瑜に近づいてくる。 (どうやら、今回はさすがにキタか……)  先程会話を交わしたときから孫策の眼が血走っていたのを周瑜は見逃していなかった。孫策には特殊な体質が備わっているらしく戦場に出ると過度な興奮状態となり、戦が終わっても収まりがつかないことがあるのだ。  そして、その周瑜の予想は見事に当たったらしい。孫策が周瑜の腕を掴み城内へと突き進む。正直、掴まれて……いや、握られている部分が痛い。爪も食い込み僅かに血が滴り始めている。  それでも周瑜は何も言うつもりはない。本当に辛いのは孫策自身だとわかっているからだ。  この特異体質については一部の人間しか知らないうえ、そう易々とだれかに頼むようなことも出来るはずがないもので。  大抵は大喬か、周瑜が彼女の昂ぶる心を鎮める役目を担っている。この日は、大喬がいないため周瑜が担当となった。ただ、それだけのことだ。周瑜の中ではそうなのだ。  そして、手頃な部屋を見つけた孫策が中へと入る。もちろん周瑜も同室する。 「…………」  入室してすぐに孫策は何も言わず周瑜の躰をぐっと強く抱きしめる。周瑜も彼女の腰に手を回し、孫策とは逆に優しく抱擁する。  そして、すかさず唇を重ねる。それはまるで決まっていた手順のように自然に、なにもつっかかりなく行われる。 「……ん、ちゅ」 「ふ……ん」  孫策の息が掛かる。荒々しい。まさに戦場から運ばれてきた高揚を露わにしている。  舌を絡め、ねっとりとした唾液を絡ませ会う。互いのソレが混ざり合い、ぴちゃぴちゃと水音を立てる。 「ぷはっ」  どちらからともなく唇を離す。瞬間、周瑜の躰は寝台へと勢いよく倒される。 「っ!?」 「……ふー、ふー」  衝撃に顔をしかめながらも覆い被さってくる孫策の躰を離すようなことはしない。息も荒れ、先程までよりも目は血走り、非常に興奮状態にあることがわかる。 「雪蓮……」  がっと、孫策が力強く乳房に触れる。周瑜は顔を歪めることもなくそれを受け入れる。  代わりに、周瑜は彼女の腰に回していた手を滑らせていき、臀部を撫でる。 「……冥琳」 「ん……」  孫策の手がするすると服の中へと潜り込んでくる。乳房、腋と指が移動し、再び乳房へと手が移る。周瑜も孫策の臀部を両手で揉みしだく。そして、口で器用に孫策の服から大きな塊を出す。 「……ふぅ……ふぅ」 「ふふ、我慢は良くないぞ」  周瑜を傷つけないよう孫策は自分を押さえつけている。いつものことだが、その心遣いは嬉しい。だが、周瑜もしっかりと孫策を受け止める覚悟しているわけで、多少乱暴になっても問題は無い。 「めい……りん……」  孫策が、彼女にも劣らぬ大きさを誇る周瑜の乳房へ顔を埋める。ざらざらとした舌が谷間をなぞるように動く。それに合わせて周瑜の背筋がぞくりと震える。 「ちゅ……ん、ちゅ」 「はっ、んぅ」  胸元の感覚に身悶えしながらも周瑜は孫策の腰から垂れ下がってる服の一部分をめくり上げ、下着越しに彼女の尻をこねくり回す。 「めいりん、めいりん……ちゅ、ぺろ……じゅぅ」 「……は、ン。はム」  孫策の口が胸を移動し、先端付近をなぞるように口付けをなんども繰り返していく。周瑜も孫策の首筋に唇を這わせ、濡らしていく。 「ん、んン……ハァ」  孫策の顔が位置を固め、周瑜の乳房で固くなっている小豆を口に含む。唇で挟みながら舌で転がしたり甘噛みしたりといじくり回してくる。  周瑜も孫策の尻朶を撫でていた指を使って下着を、股の中心を覆う部分を、ずらして指を彼女の秘部へと直接宛がう。既に濡れそぼっているのがよくわかる。 「……めいリン、めいりン」  何度も何度も名前が呼ばれる。孫策の声で名前を呼ばれる度に胸が熱くなる。何故だろうか、久しぶりだからなのか、はたまた……。  そう思っていたら、一層孫策が愛おしく感じ、周瑜は彼女の肉壺を指でかき回す。蠢く肉壁の感触を楽しみながら上下にゆっくりと動かしていく。 「ン……ふぅぅ!」  孫策の躰がわずかに硬直する。それでもすぐにそれは解け、孫策は再び周瑜の乳房を口で弄ぶ。そんな彼女の腕が気付かぬうちに下着の中へと滑り込み、周瑜の股間に密着している。蕾をキュッと摘まれるだけで落雷にでもあったかのように躰が痺れる。 「んンン!」 「はぁ……あ、ン」  先程までの荒々しいものから艶めかしいものへと変わった吐息が乳房をくすぐる。それと下腹部にある蕾を弄られるのが周瑜の躰に一本の線を引いたかのように感覚を走らせる。  胸の中でわき上がる想いを孫策に伝えようと彼女のナカをかき回す指を早めていく。 「はぁ、はあ……めいりん、めいりン」 「し、雪蓮」  互いの腕の動きが速くなる。そして、 「めいリン……冥琳!」 「雪蓮、雪蓮ンンンン!」  二人揃って、喘ぐような声で互いを呼び合いながら同時に意識をはじけさせた――。  †  ようやく熱が収まった孫策は部屋を出て周瑜と共に城内を歩き始める。廊下を通り、玉座の間を見る。 「ここも、私たちの手に落ちたのね」 「あぁ、長かったようで短かったな」  周瑜のその言葉に孫策は思わず、吹き出す。 「ぷっ、くくく」 「む? 何が可笑しい?」 「いえ、ちょっとね。思い出し笑いよ……」  何やら近いときに似たことを言っている人物がいたが、周瑜も意外と若年寄なのだろうかと思わず考えてしまった。 (説教ばっかりなところなんて年寄り臭いかもね)  そんな孫策のことを周瑜がただ怪訝そうに見ている。 「ふぅ、だけど……あぁ、また一つ段階を経たって感じがするわね」 「そして、次なる段階を登っていくのだな」  今度は互いに視線を合わせ、頷き会う。 「さて、折角だし、街の方も見ましょうか」 「あぁ、そうだな。だが、落ち着くまでは外を出歩くのは止めて貰いたいものだな」 「えぇ〜」  周瑜のキツイ言葉に孫策は口先を尖らせて抗議の視線を送る。周瑜はそれを者ともせず眼鏡の縁をクイッと上げながら口を開く。 「酒を買いに行って隠れていた敵の残党に襲われるなんてことには勘弁して欲しいからな」 「なによ、別に負けないわよ。私は」 「そういう問題じゃない。仮にも君主たる者が襲われればまた慌ただしくなるだろうが」  ため息混じりにそう答える周瑜に孫策は肩を竦める。 「わかったわよ。それじゃ、せめて街を一望するとしましょ」 「まぁ、それならいいか」  そして二人は街を一望できる場所へと出る。  そこからは街全体をくまなく見渡すことが出来た。よく見れば、城中のあちらこちらに立てられた孫の旗が見える。  風にたなびく自軍の旗を眺めながら孫策は感慨深く言葉を漏らす。 「これで、既に抑えた丹陽郡、呉郡と合わせれば広大な土地を得ることができたわね」 「そうだな。この会稽郡をとったのは大きいぞ。丹陽、呉、両郡で未だ帰順しない者たちへの良い決断材料を与えることになる。それに、我らの地盤が出来た」 「まぁ、今はまだ袁術のものという話だけどね」 「ふ、それもあくまで一応でしかない」  意味深な笑みを浮かべる周瑜に孫策は安堵する。 (もう悩みは解消したのかしら?)  ずっと何かを抱えているようだった周瑜の顔がこの一戦では特に見られなかった。周瑜はもう乗り越えたのだろうか。そんなことを考えていると、周瑜が再び話し始める。 「だが、これからだぞ。雪蓮」 「そうね。それはわかってるわよ」 「あぁ、これからは蓮華様だけでなく。貴女もちゃんと内政にあたらなければな」 「ぐぅ……なんでこう、いい気分に浸りたいときにそういうことをいうのよ」  恨みがましく周瑜を睨む。 「そう、怒るな。普段から、もっと真面目に取り組んでいるのならこうも言わんさ」 「…………はいはい。どうせ、私は抜け出すクセがありますよーだ」 「はは、そう拗ねるな。これからは一勢力を引っ張っていくことになるのだ、あまり情けない顔を見せないでもらいたいものだな」  周瑜の言葉に孫策が大きくため息を零し項垂れるのと同時に呂蒙がやって来た。 「敵兵の捕縛がおおよそ終わりました……って、どうかしたのですか?」 「うむ、では捕虜のうち帰順する者だけは受け入れ、それ以外は放つといい」  今回は戦の後始末に関することを呂蒙に課していたが、どうやら上手く切り盛りしているようだ。 「わかりました。それで、えっと……雪蓮様は何を」 「気にする必要はない」 「いえ、でも何やら……」  先程から呂蒙は視線を何度も孫策と周瑜の間を行き来させている。余程自分の行動が気になるのだろうと孫策は思うが、視線は周瑜からそらさない。  孫策の視線に耐えながら周瑜が呂蒙を促す。 「ほら、時間が無いのだろう。早く作業を終わらせるためにもすぐに行くのだ」 「は、はぁ……」  それからも何度か呂蒙が振り返りながら立ち去っていくと、周瑜が孫策の方を見る。 「まったく、何を考えているのだ?」 「いや、冥琳をじっと見てたら、あの娘が来ちゃったじゃない。きっと、私が冥琳のことをじぃっと見つめたら、意味が分からなくて戸惑うだろうなぁ〜なんて思ってたら案の定、そうだったでじゃない?」 「あぁ、そうだな。というか自覚はあったのだな」  周瑜の口元がぴくぴくと小刻みに震わせながら孫策を睨み付けてくる。 「まぁまぁ、それでさ、あの娘が相手なら冥琳も少しは面白い対応をするかな〜とか、困らせることができるかな、とか思っちゃうじゃない」 「普通は思わないぞ、そんなこと」 「え〜、そうかしら? まぁ、なんにしても、白々しい冥琳を見てたら面白くなっちゃって、止めどきがわからなくなっちゃった」  そう言って「参ったわね、こりゃ」と舌を出してとぼけ顔をしてみる。 「あ、あなたという人は本当にもう……」  周瑜がげんなりとした表情で頭を抱えてしまった。孫策はそんな彼女の肩にそっと手を添える。 「元気出しなさいよ、冥琳」 「雪蓮がそれをいうのか!」  周瑜の悲鳴にも似た叫びが夕空に舞う。気がつけば、日は地平線へと沈みかけている。視線を再び軍へと向けると、王郎の元にいた兵たちが僅かに数は減っているものの大分残っていた。  これでまた孫策軍の規模は膨れあがるだろう。 「もう少し……もう少しで檻から出られるのね」 「あぁ、そうだな。だが、それだけで満足するわけにもいかないぞ」 「わかってるわよ」  言われなくとも、と内心で付け加えて孫策は歩き出す。周瑜もそれに続く。彼女たちにはまだやることがあるのだ。いや、これからが本当に大事なことだ。  ――――それは、一つの区切りを迎えた日のこと。二人はその胸に抱く遠くて近い未来、尊いけどどこにでもありそうな夢、それに向かって大きな一歩を踏み出したのだ。