「しかしどうしたものか」  眉間にしわを寄せて考え込む愛紗。原因はもちろん小さくなってしまった桃香について。 自分が商人から買い取った薬のせいだと思われるので、なおさら辛い。  当の本人はと言うと……璃々の服を、璃々と二人で着せ合いっ子をして楽しんでいるのだが。 「璃々ちゃん、これ可愛いね♪」 「きっと桃ちゃんに似合うと思うよー」  因みに璃々には彼女が桃香とは知らせていない。本当のことを知らせても混乱するだろうと、愛紗が預かることになった桃(もも)と紹介した。 「んー。そんなに深く考えなくてもいいんじゃないか?」  両手を前で組んでいた翠が口を開く。今玉座の間にいるのは主要な将と桃香、そして璃々だけだ。 流石に国の長である桃香の幼女化。広めるべきではない。 「だが!桃香様が幼女化したとなれば民に不安が走るではないか!」  荒々しく否定をする愛紗。主として、そして何より姉と慕っている女性への過ち。責任感が強い彼女には耐えられないのだろう。 「では聞くが、お主は桃香様の求心力は外見だけであると。桃香様のお考えは二の次で、どうでも良いということか?」  しらっとした目で星が問う。 「今さら疑うものか!私は桃香様を信じる!」 「そういうことだ」  分かってるではないか、と星。 「しかし、今は魏、そして呉との緊張状態だ。もし桃香様にこんなことが起きたと知られれば、攻められるかも知れんぞ」  頭と感情が一致していないのか、どうしていいか分からないまま口を開く。周りからはため息か。 「確かに愛紗さんの言うことには一理ありましゅ」  閉塞し始めた軍議にて、とうとう口を開いた大御所。そう私、諸葛孔明。えへへ。なんて思いながら朱里が口を開く。そのせいで最後を噛んだ。 「はわわ」  噛んだことで、早くも彼女の限界を突破したらしい。使い物にならない。 「しゅ、朱里たん落ちちゅいて」  朱里を落ち着かせようとした雛里も落ち着いていない。これまた使えない。 「だったら皆が桃香のフリをすればいいじゃない」  意外と似合うめいど服を揺らしながら詠が提案をする。 「どういうことなのだー?」 「だから、愛紗は桃香がいない事が他の国にばれたら拙いって考えているんでしょ?それなら影武者を使えばいいじゃないってことよ。  まぁ、流石に朱里と雛里は政策に外せないから、それ以外の人たちが順番決めて」 「そうね、それがいいわ。でも私達が桃香様に変装してもすぐに気が付かれないかしら?」  愛紗から薬の出所を聞いて落ち着いた紫苑が、ここら辺が適当な落としどころだろうと思い、詠の意見に乗る。 いや、見る人が見ると、商人を追いたくてさっさと会議を終わらせようとしか見えないのだが。 「皆のもの、私に妙案がある。しばし待たれい」  不敵な笑みを浮かべながら星が玉座の間から退室した。 # # # 「皆ごめんねー。寝坊しちゃった。おっかしいな、昨日は早く寝たんだけどなぁ。今は何の話をしてるの?」  星が部屋を出て幾許か。扉を開けて入ってきたのは……桃香の姿。 「とっとと、と、桃香様?何故桃香様がそちらから現れるのだ?」  皆の視線が自分に向いたのが分かったのか桃香(幼女)が視線を上げる。 「何ー?どうしたの皆……って私がいるぅ!?」 「小さい桃香様に大きい桃香様だと?ここはまさに夢の……いや待て、貴様何者だ!貴様からは桃香様の匂いがしない!」  小さい桃香に惚けていた焔耶が新しい桃香の登場と共に言い放つ。 「ふふっ、流石焔耶だ。その桃香様への歪んだ愛情はこの仮面の魔力すら凌駕するか」  そんな台詞と共に桃香の顔がずれる。いや、桃香の顔だと思っていたものが取られ奥から星の顔が。 星の手を見ると桃香の顔をかたどった仮面が握られていた。 「どうだ?初見なら気付かないだろう。ましてやここに居る者たちは普段から桃香様と接している者どもだ。民や間者なら騙せるだろうな」  悪戯が成功した少女のような笑みを浮かべる星。 「星お姉様、すごーい!たんぽぽ全然気が付かなかった♪」 「ふーん。中々ね。桃香の服を着てそれをつければ変装も簡単そうね。あとはそれぞれ桃香っぽく行動すれば大丈夫でしょ。 じゃあ、今日はうだうだ言っている愛紗から。解散」  すでにこの場の仕切り役になっている詠。奥から「私達の、私達の居場所なのに……」なんて聞こえるが無視。 こうして『皆で隠そう。桃香幼女化事件』は始まった。  因みに桃香は今まで頑張っていたからと休暇扱いになり、璃々と遊ぶことになった。 # # # 初日 担当:愛紗 「うーむ」  腕を組んでうなっているのは桃香……に変装している愛紗。 一人自室で桃香の服と星から渡された仮面をつけて姿見を見ている。 「た、確かに瞬間的には桃香様に見えなくもないか?しかし桃香様の女性らしさがないような……」  服の裾を持ち上げてみたり、むやみやたらに腕を動かしてみたり。その全てを姿身の中の桃香も行う。 まるで自分が変身したかの恍惚感を愛紗は感じる。 「はぁ……。やはり桃香様のあの柔らかさがないような……。中身が私だからか?だがばれたら拙い。 そうだ詠も言っていたではないか。桃香様っぽく行動をしろと」  何かを悟り考え込む愛紗。周りの音には気が付かない。 ――コンコン 「愛紗ちゃん。ごめんね迷惑掛けて。私は全然気に……」 「あぁー。こけちゃった。駄目駄目。私ったら天然なんだから、もぅ(棒読み)。こ、こうか?普段の桃香様はこんな印象だが」 「あ、愛紗ちゃん?」 「えっ?と、桃香様!?」 「私、そんな変な子じゃないもーーーーーーーーーーーーーーーーん!」  走って逃げさる桃香。 「桃香様、お待ち下さい!」 ――こけっ。 「いたっ。こけちゃった。どうして私こんなに鈍いのかな……はっ、ち、違うんだからね。愛紗ちゃんの馬鹿ぁーーーーーーーーーーっ」 「桃香様ーーーーーーーーー!?」 # # # 二日目 担当:星 「今日は私か。なるほど、華蝶仮面とは異なる趣がある」 「星さ、んんっ、桃香様、今日は市への視察が入っています」  危うく星と呼びそうになり、「……朱華蝶……」と言われ慌てて修正する朱里。 「そうか、では町に出るとしよう」 「劉備様、いつもありがとうございます。今日も安心して生活できるのは劉備様のおかげです」 「ははっ、そんなに気にするな。私は自分がしたいことをしているだけだ」 「?なんか今日の劉備様は普段と違うような?」 「(おや、忘れていた)えーそんなことないよー。今日も一日張り切っていこー!」 「!あぁ、普段の劉備様だ。それでは失礼します」 「ふぅ、人に化けるのも意外と疲れるものだ。おや、アレは……、お邪魔しまーす」 「いらっしゃいませー。おや劉備様。これは珍しい。てっきり趙雲将軍かと。雰囲気も似ていらしたので」 「んー、星ちゃんはもっとかっこよくて、真面目で、強くて、しっかりしてると思うなー」 「そ、そうですか。では私は奥におりますので」 「ちょっと待って、店長さん。これってまさか……」 「おや?劉備様、それに気が付かれるとは。いやはや趙雲将軍だけだと思っておりましたが中々。 はい、そちらは極上のメンマになっております。趙雲将軍が参られたらお渡ししようかと思っておりまして」 「店長さん、それは私が星ちゃんに渡しておくよ、だから、ちょっと味見していいかなー?」 「はい、どうぞ。趙雲将軍も少し程度なら気になさるお方ではありません」 「ありがとー。いただきまーす。こ、これは!? ある程度大きくなった筍の穂先だけを使い、柔らかさの奥に、少し芯の入った硬さがあることで歯ごたえに良さがある。 それに加え、味付けも絶妙だ。くどさを感じず、見事に筍の味を際立たせている。しかし軽いのではなく、地に足を乗せたような安心感。  これを作れるのは……ま、まさか伝説のヤンおばさんか?そうであろう店主よ」 「え、ええ。まさか劉備様もそこまでメンマに造詣が深いとは。口調もまるで趙雲将軍が乗り移っているようで。 私も感動しました。これからは毎週劉備様に高級のメンマを送らさせて下さい!」 「ありがとー。けど、出来れば私じゃなくて星ちゃんに送ってあげてほしいなー。いつもメンマは星ちゃんと食べてるんだよ。 じゃあこれからも頑張ってね♪」 「ありがとうございましたー」 (ふふっ、まさかこの姿にこのような特権あるとはな。僥倖よ) 今日の桃香: 「璃々ちゃん。私一回でいいから華蝶仮面ごっこをしたかったんだー。一緒にやろ」 # # # 三日目 担当:恋 「…………おなかすいた」 「おぉこれは劉備様。町の視察ですか?」 「……違う、警邏」 「りゅ、劉備様が警邏ですか。でしたらお腹空いていませんか?今丁度肉まんを蒸かし終えたところです」 「…………食べる」 「ではこちらを。お熱くなっておりますのでお気を付け下さい」 「……ありがと。もきゅもきゅ」 「こ、これは!呂布将軍と同じ匂いを感じる!この食べ方……ほわー。りゅ、劉備様もう一つ如何でしょうか?」 「もきゅもきゅ。(コクッ)もきゅもきゅ」 「はぅぁっ!どうぞお食べ下さい。オイ、皆のもの!いますぐ呂布将軍と同じ準備をしろ!早く、美味しく、丁寧にを忘れるな!」 「もきゅもきゅもきゅもきゅ」 今日の桃香: 「斗詩ちゃーん。璃々ちゃんと三人でお菓子つくろー」 # # # 町にて。 「おい、お前最近劉備様見たか?」 「ああ、見た見た。まさか劉備様があんなに肉まん食べるとはな」 「はぁ?何言ってんだ?最近の劉備様はメンマだろうが」  広場で男二人が話している。話題は我らが太守様。最近の劉備は彼らの印象とは違うことばかりをしている。 そしてその男たちの会話が聞こえたのだろうか、他の男が話に入ってくる。 「そうなのか?俺が見た劉備様は、いきなり現れて『ここにいるよー♪』って言ってどっかに行ったんだが」 「俺は犬に追われて必死に逃げているのを見たな」  いつの間にか広場にいた全ての人が自分の見た劉備の話を始める。驚いたことに同じ人間とは思えない行動ばかりが話題に上がる。 それに注目した瓦版の記者がそれを取り上げ、その日から一面には『今日の劉備様』という記事が載ることになる。 そして『今日の劉備様』は人気が人気を呼び、それ目当てに瓦版を買う人も出てくるようになった。 少し抜粋してみた。 # # # 十日目 担当:音々音。 瓦版 今日の劉備様:でこっぱち。ただそれだけ。 今日の桃香: 「璃々ちゃん。私ね、歌を考えたんだ。ん、んんっ。いっくよー。か〜え〜る〜の〜き〜も〜ち〜♪」 # # # 十三日目 担当:白蓮 瓦版 今日の劉備様:居なかった。と思ってたら、いつの間にか目の前に居た。全然気が付かなかった。 今日の桃香: 「ほら、璃々ちゃんも一緒に、せーの。か〜〜え〜〜る〜〜の〜〜、だい、がっ、しょ〜♪」 # # # 十八日目 担当:美以 瓦版 今日の劉備様:三人の女の子を連れて店の商品を勝手に持ち帰る。可愛いから許す。……ちゃんと後でめいどさんが支払いに来ました。 今日の桃香: 「あー張々ちゃんだっ!えーっ!? 私が命令するのーっ!? やだっ、怖いよーっ!じゃ、じゃあ……、愛紗ちゃんをやっつけろ♪」 # # #  蜀の皆が桃香の変装をして一月ほどが経った。未だに変装はばれて……いない。 他の国は王が幼女化したり、御使いが三国同盟のために動いていたため、蜀の混乱は悟られていないのだ。  そしてすでに小さい身体に慣れた桃香は璃々と紫苑の三人で町を散策していた。 「お母さん、これ買ってー」 「紫苑さん、私もー」  いつの間にか身体に合わせるように中身も幼くなってきた。紫苑は優しい目で二人を見る。  桃香は桃香で、小さくなったことで、紫苑の優しさや包容力をなおさら感じ、わざと甘えている節もある。  因みに……紫苑は薬を手に入れることは出来ませんでした。 「おい、今日の劉備様読んだか?」 「あぁ読んだ読んだ。いやー最近の劉備様は凄いな。俺達が知らない色々な顔があったってことか」 「でも可愛いから許す!」  こんな会話が桃香の耳に入ってきた。 「ねぇ、紫苑さん。今日の劉備様って一体何?」  最近璃々と遊んでいたため、子供たち独特の話しか聞いていない。 「え、えぇ」  紫苑は知っているが、伝えていいか戸惑っている。 「あーなんか隠してるでしょ?子供だからって馬鹿にして。いいもーん。そこのお兄さーん。聞きたいことがあるんですけどー」  中々答えない紫苑に痺れを切らした桃香は先ほどの会話をしていた青年たちに近づく。 「あのーさっき話してた今日の劉備様って一体なんですか?」 「あぁ、最近の劉備様は色々凄いんだ。いきなり酒屋にきたと思ったら一番強い酒を買って呑み始めたり、豚に乗って街中を回ったり。 それでそんな劉備様を追っているのが瓦版の『今日の劉備様』って記事なんだ。ほら」  はいっと記事を見せてくれる青年。そこには、 今日の劉備様:おーっほっほっほっと高笑いをしながら競馬をしていた。しかも大穴開けてた。  と書かれていた。 「なにこれ。お兄さんこれって前のはある?」 「はい。俺これが大好きでね。切り取って集めてるんだ」 と青年は懐から過去の記事を出す。そしてそれを黙々と読む桃香。どんどん肩が震えてくる。 「お兄さん、ありがとー♪じゃあねー」 「あ、あぁ」  柔らかい笑みを浮かべて青年に感謝を伝える桃香。しかし青年には異なるように映ったようだ。そして紫苑のほうに振り返る。 「紫苑さん。もしかして知ってたのかなー♪」 「まさか」 「ですよねー。知ってたら止めますよねー。あれ?紫苑さんはなんて書かれたんですか?」 「確か『色気むんむんでした。ぽわわーんな劉備様もいいですが、妖艶な劉備様もいい』……はっ!?」 「へぇ。やっぱり紫苑さんも知ってたんだ……。 皆ひどい!私の格好なのにーーーーーーーーーーーーーーーー」 「桃か……桃ちゃん待って!」 ――コテッ 「もうイヤーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ」  桃香は本能のままに走り去った。 # # # 「人に夢と書いて儚い……か」  一人いじけ、石を蹴りながら街中を歩く。 「皆ひどいよ。私のことだからって好き勝手しちゃって」  ブツブツ言いながら目的地もなく歩く。すると 「こんばんは」  突然声が降ってくる。その声色の優しさに思わず顔を上げる。目の前には一人の青年が。逆光で顔は見えない。 「もう夕方だ。こんなところで一人でいても大丈夫なのか?」  そう声を掛け周りを確認する青年。私のお供を探しているようだ。 「うん。良い街だ。これなら君みたいな可愛い子が一人歩いていても大丈夫そうだね。やっぱり劉備さんは優しい人なんだろうな」  可愛いと言われ思わず照れる。しかし青年が続けた言葉はそんな気持ちを吹き飛ばすほど、今の私には重い一言。 「どうしたの?」  それを機敏に察知した青年は尋ねる。 「劉備さんが優しいからではないと思います。回りの皆が凄くて、劉備さんは飾りなんじゃないかな?」  最近の私の様に。とまでは言わない。が、今の街に自分は何も関与していない。周りの愛紗や朱里、雛里が頑張っているからだ。  青年は困った顔を一瞬し、私の前にしゃがみこむ。 「それは間違いだよ。俺はね、実は劉備さんに少しだけ逢ったことがあるんだ」  慌てて自分の記憶を手繰り寄せる。こんなに暖かい青年に会ったことがあっただろうか? 「そこでお話をしたんだけど、とっても暖かい気持ちになったんだ。それは彼女の周りにいた子達も感じていたと思うよ。 だから劉備さんは飾りではないんだ。皆きっと劉備さんのために頑張ってるからこんな暖かい街が出来たんだよ」  そう言って親指で私の目尻を拭う。自分でも気が付かないうちに涙をこぼしていた。 「ご、ごめんなさい」 「いいよ、気にしないで」  空いている片手で頭を撫でてくれる。その暖かさに耐えられなくなり、私は彼に抱きついて泣き始めた。 # # # 「落ち着いたかな?」 ――コクッ  青年は私が泣いている間、ずっと抱きしめて背中や頭を撫でてくれた。 先ほど青年は私と会って暖かくなったと言ってくれたが、私のほうが暖かい気持ちにしてもらっている。 「ありがとうございました」  青年は頭をぽんぽんと叩き笑顔で離れていく。彼の暖かさがなくなっていくことに寂しさを覚える。 「もう日が落ちちゃったね。君の家は何処だい。送っていくよ」 「えーと……」  何となく城には帰りたくない。落ち着いたら、皆は私の穴を埋めてくれたのに、自分だけのことを考えてしまっていたと恥ずかしくなる。  そういえば、青年はこの町はいい街だと言っていた。つまり彼はここの街の人ではないのではないか? 「お兄さんはどうするんですか?ここの街の人ではないようですけど」 「あぁ、実は劉備さんに逢いたいと思っていたんだけど、迷子になってしまってね。今日は宿にでも泊まろうかと思っているよ」  私に逢いにきた。もう少しで思い出せそうなのだが、まだ思い出せない。 「なら、一緒に城に行きませんか?私城に住んでいるんで、お兄さんを泊めてもらうことも出来るかも」 「本当かい?嬉しいんだけど、迷惑じゃないか?」 「大丈夫ですよ。先ほどお兄さん言ってたじゃないですか。暖かい街だって。なら城の人達もきっと暖かいですよ」 「ははっそうだね。じゃあお言葉に甘えようかな」  そういって私の前にまたしゃがみこんで来た青年。一体どうしたんだろう? 「よいしょっと」  掛け声一番私のことを抱っこする青年。突然のことで慌ててしまう。 「えっ、あっ、うー」 「あぁ、ごめんね。いつもの癖で抱っこしちゃった。イヤだよね?」  そう言いながら慌てて下ろそうとする青年。だが、 「このままが……いい……です」  何故か私の手は青年の首に回されていた。 「そっか、じゃあしゅっぱーつ」 「しゅっぱーつ♪」 「あのーお兄さん。つかぬ事をお伺いしますが、貴方のお名前は?」 「ははっそんな硬い言葉を使わなくていいよ。俺の名前かぁ。今はあんまり名乗りたくないんだよな。んー取りあえず一刀って呼んで」 「はい、分かりました。今日はありがとうございます、一刀さん。貴方にあえてよかったです」  ?一刀?どっかで聞いたことがある。一刀、一刀……北郷一刀?あぁ北郷一刀さんか。確か曹操さんと一緒にいる御使いさんだっけ。 「ええぇぇぇえぇぇぇえぇ!?」 「い、いきなりどうしたの?」 「あっ、ごめんなさい」  間違いない、この人は御使いさんだ。良く見れば外套を着ているが、中はあの独特な服。 そして抱っこされて目の前にある顔は確かに彼の顔。普段抱っこしているって話も頷ける。ここは曹操さんの特等席だ。  それにしても、御使いさんは私に何の用だろう? # # # 「とう……桃ちゃん!」  城門に近づくと一人の女性の姿が。紫苑さんが立っていた。 「心配したんですからね、もう」  そう言いながら近づいてくる。やはり紫苑さんはお母さんだ。しかし……。 「なぜ貴方がここにいるのでしょうか?」  私を抱えている青年にいち早く気が付いたのか、ある程度の距離を置いて警戒している。青年の顔には苦笑い。 「別にどうしようと思っていたわけではないんだけどなぁ。えーと、桃ちゃん?ごめんね。やっぱり俺は城には入らないでおくよ。 じゃあ、もうお姉さんに心配掛けちゃ駄目だよ」  そう言いながら私を下ろす一刀さん。そして敵意は無いと示すように両手を上げて数歩下がる。 それを確認して紫苑さんが私を抱きかかえる。どうしてだろう、すごく寂しい。 「ねぇ、紫苑さん……」 「桃ちゃんは黙ってて。貴方が何の用か分かりませんが、正式な使者を立てるべきではありませんか?」 「そうだね。俺の考え足らずだった。ただ信じて欲しい。俺は君たちの安寧を脅かすために来たわけではない」 「口ではなんとでも言えるわ。それにそれならこんな時間でなくても」  紫苑さんの気持ちは分かる。御使いは私達にとって警戒しなければならない相手だ。曹操の寵愛を一身に受けているとも聞いている。  しかし、私は知っている。この人はとても暖かい。そして私に自信を取り戻せてくれた。だから…… ――ぴょん  紫苑さんの腕から飛び出して一刀さんの前に立つ。慌てて紫苑さんが追いかけてくる。 「北郷一刀さん。貴方にお話があります」  一刀さんと紫苑さんから驚きの声。二人とも私が北郷一刀だと気が付いているとは思っていなかったようだ。 「私の名前は劉玄徳。ここの太守をしています。とある事情で姿は変わっていますが、出来れば信じていただきたいです。 そして私は今、貴方を客人として、この城に迎えたいと思います」  目の前の青年は何かを呟いて、何故か納得した顔。 「俺の名前は北郷一刀。ここの太守である劉玄徳に用があり、参りました。失礼を承知ですが訳あって使者を立てておりません」 「なにか重大なお話なのでしょう。私の真名は桃香。今から私の真名を貴方に預けます」 「ありがとう。君の真名、そして天の御使いの名において、君達の平穏を乱さぬと誓おう」 「ありがとうございます。夜も遅いです。今部屋を用意いたしますので、どうぞごゆっくり」 「お言葉に甘えます。ありがとね、桃香」  もう正式な話が終わったと分かったのか一刀さんが笑顔で真名を呼んでくれた。それが嬉しい。 じゃあね、と手を振り侍女に連れて行かれ奥に消えていった。おそらくだが誰か見張りがいるのだろう。そこだけは我慢して貰うしかない。 「紫苑さん、ごめんね」 「いいですよ。桃香様がお決めになったことです。それに彼に会ったのは初めてですが危険な雰囲気はありませんでした」  彼が私を暖かいと思ったように紫苑さんも彼の中の暖かさに気が付いたようだ。 「ありがと。あともう一ついいかな?」 「はい」 「明日ね、一刀さんに会う前に、街の皆に今の私を見てもらおうと思うんだ。きっとここの人達はどんな私でも認めてくれると思うんだ。 だってこんなに暖かいんだもん」  紫苑さんは笑顔で頷いてくれた。 終 編集後記 ロリ華琳スピンオフ第二弾。今回は全くもって華琳は登場しませんでした。 実は一刀君、肩甲骨辺りからロリに対するフェロモンが出てます。嘘。 以前にも書きましたが、このロリ華琳シリーズ、全くプロットを書いてません。 本能のまま、浮かんだことを書き綴っています。だから深くは追求しないで下さい。 このお話、朱里と雛里がポンコツです。なぜなら……私に二人の有能さを書く能力がないからorz 関係ないけど、やっぱ月可愛い。そして最近貂蝉の文字を見るだけで漢女が出てきて困る。