「やっと着いたでー、陳留!」 「遠かったのー。けどこんなに大きかったら可愛い服も多いと思うのー!」 「沙和。私達は観光に来たわけではないんだ。気を引き締めろ」 # # # 「お腹減ったぁ!さっさと食事できる場所探しましょ」 「ねえ、人和ちゃん。ここが次の私達の活動する場所なの?」 「そうよ、天和姉さん。ここは活気が溢れているし、裕福だから興行で稼げそうなの」 # # #  桂花を中心とした文官達が情報収集で右へ左へ。俺達は町を散歩していた。……違うよ、警邏だよ。  桂花が掴んだ情報によると、黄巾党の中心人物が陳留の近くで目撃されたらしい。 そのため俺達は住民の安全、そして黄巾党を増やさないために見回りを始めたのだ。 「かじゅと、ちゅぎはあっちに行きましょ」  普段通りに華琳を抱っこしたまま大通りを歩く。周りには護衛の兵は居ない、様に見える。実際は戦いが得意な隠密部隊が同行している。 警邏の話になったとき華琳に護衛をつける話になったのだが、華琳が頑なに拒否。 「かじゅとはわたちが守りゅわ」 とのこと。ぱっと見幼女な華琳に言われる俺って……。実際は華琳のほうが圧倒的に強いのを知っているが、切ない。 しかしそれを良しとしない将たち。特に春蘭と桂花。ただでさえ俺と華琳が一緒に居ることに難色を示しているのに、兵を付けないとは如何なるものか!だそうだ。  春蘭、秋蘭、桂花の会議の結果、華琳が気配を悟れず、敵が来ても瞬時に届く範囲に隠密部隊を置くことが決定した。 そしてそれは今のところ華琳にばれていない。 「これは一体なにかちら?」 「あぁ、これはなぁ自動茶坊主ゆーてな、ここに淹れた茶を置くと勝手に運ぶんや」 「お茶は誰が淹れるのかちら?」 「んなもん、自分にきまっとるやろ。人の手で淹れた茶ぁが一番や!」 「だったら意味ないじゃにゃい」  今華琳は目の前のからくり売りに夢中だ。大通りを歩いていたら、露店を開いている女の子を見つけた。 そしてその子が売っていたものが、かなり独特。曰く自家製のからくり。少し見てみたが用途はともかく、からくりは凄い。 本当にここは三国志の世界なのかと疑いたくなるものも見受けられた。 「あにゃた中々おもちろい物をちゅくるのね。どうかちら、わたちの下で働かないかちら?」 「すまんなぁ、嬢ちゃん。残念ながらウチ等はここの太守はんの曹操様の下で働くためにここに来たんや」 「にゃら丁度いいじゃにゃい。わたちがここの太守の曹操よ」 「んなアホな。そこの兄ちゃんも何か言ってぇな!」 「うん。この子がここの太守である曹操だね。そして俺は北郷一刀。天の御使いって言われてるよ」 「ホ、ホンマ?ちょっ、そこの通行人A!この方は一体誰や?」 「この方?曹操様ではないですか!それに御使い様も!先日の大勝、おめでとうございます」 「当然よ。わたちはあにゃた達を護るのが仕事だもの」  そのままペコペコと頭を下げている、少女曰く通行人A。 「……ほんとかいな。曹操様、先ほどのご無礼のほど……あれ、この場合なんて言うんやっけ?凪ー、凪ぃ!アカン、なんでこんなときにウチ一人なん」 「気にちなくて良いわ。それよりあにゃた、もう一度問うわ。わたちの下で働かないかちら?」 「おおきに!あ、けどウチの他にあと二人いるんやけど、アカン?」 「その子達は有能かちら?」 「おぉ!有能やで、特に凪っちゅうやつはかなりの手練れや!」 「なら、連れてきなしゃい。この目で見てみたいわ」 「えぇっと御天道さんは、と。お、丁度いいやん。そろそろ集合時間やから一緒に来て貰えれば紹介できるでー」 「そ、ならいっちょに行きましょうか」 # # # 同時刻。 春蘭。 洋服屋で沙和と遭遇。共感。勧誘。 秋蘭。 賊発見。凪登場。一緒に倒す。勧誘。 # # # 「あら、春蘭に秋蘭。一体どうちたの?」  俺達が李典―移動しているときに聞いた―に連れられて彼女達の集合場所に着いたのだが、待ち受けていたのは見知った顔、と見知らぬ二人。 そしてその二人は李典と話しているところを見ると待ち合わせをしていたのは彼女達らしい。 「えぇ、先ほど物取りが現れまして。丁度そこにあの楽進も居て、一緒に退治したのです。 僅かでしたが、彼女の動きは中々のものでしたので、我が軍にと勧誘した次第で」 「そう、わたち達も、あの李典がにゃかにゃかの技師でね。是非と思ったにょ、春蘭もかちら?」 「え、ええ!そう、私もそんな感じです!」  確実に嘘だろうな。とりあえず乗ってみた感じ満々だ。しかも手荷物増えてるし。 「まぁ、二人の御眼鏡にかかるなら本物でちょう。しょこの三人、どうかちら、わたちの下で働かないかちら?」  すでに李典が話したのか、他の二人は華琳の傲慢とも思える台詞を指摘しない。 そして三人は頷くのだった。 *拠点*華琳+凪、真桜、沙和 「いーや」 「駄目」 「や」 「め」  かれこれ5分くらい同じやり取りをしている。 まったく。ふぅとため息を吐く。切欠は新しく仲間になった三人の処遇。というかその先。  あの三人娘は警邏隊の管理及び新兵教育に当てられた。しかし問題はいきなり仲間になった将をそんなに比重の高い地位に収めていいのか。 そのため古参の者がその上に就く案が出されたのだが、春蘭、秋蘭はすでに軍の最高職、季衣と流琉は親衛隊長に就いているため却下。 他の武官は残念ながら三人―特に凪―より弱く、それをカバーできる戦果もない。さらに文官は問題外。  最終的に白羽の矢が立てられたのが俺、北郷一刀である。  秋蘭をかなり劣化させたマルチプレイヤーな俺。そして天の御使いという通り名もある。 また、その天の御使いが警邏をすることで、より現実味を帯びるのではとの考えもある。  因みに春蘭と桂花が積極的に俺を推している。きっと華琳と俺が一緒の時間が減ることが狙いだと思われるが。  華琳はそれを即座に却下。こちらの言い分は、俺にはまだ早い、だそうだ。 俺が驚いたのは、俺が知る限りいつも華琳を味方していた秋蘭が、今回は春蘭、桂花側なこと。 そして俺も、華琳におんぶに抱っこだと流石に拙い、ので春蘭、桂花側。役職が俺では満足しなさそうだが。この場合って役が満足してない側だから人不足?なんか違う気がする。  ともあれ、結果華琳は孤立無援なのだ。そして今俺は華琳を納得させるべく二人で話し合っている。 「華琳、こっちにおいで」  自分の太ももをポンポンと叩く。華琳はそこをチラリと見て行きたいんだけど、今は対立中だから行けない、と葛藤している。 「ほーら」 「や、やめりぇ」  無理矢理抱っこして座らせる。華琳はツーンと明後日の方を向いている。 「華琳、良く聞いて。俺はね、皆の役に立ちたいと思っているんだよ。今の俺は皆に迷惑を掛けてばっかりだ」 「しょんなことにゃいわ。わたちはかじゅとが居てくれてとてもたしゅかっていりゅんだから」 「ありがとう。だけどね、それは皆が認めていることかな?今の俺はただ華琳の傍にいて寵愛を受けているとしか皆思ってないと思うよ」 「ち、ちょうあいっれ。それれもいいじゃない」 「そうだね、普通だったら良いかもしれない、けど君は誰で、何だっけ?」 「曹孟徳よ。そちて覇王」 「うん。君は覇王だ。俺もそうだと思うよ。その覇王が好き嫌いで人を動かしたら駄目だ。覇王だって人間だから多少は仕方ないけど」 「分かってりゅ。わたちだって分かってりゅわ。けど、かじゅとといっちょにいたいの」  こっちを向いてくれたと思ったら、ぎゅっと抱きしめられた。 「ありがと。俺もそう思っているよ」 「だったりゃ!」 「でも駄目だ。前例を作ってしまえば皆期待してしまうんだ。華琳に気に入られたら無能でも良い役職につけるのではって。 そして真面目に働いている将は、自分は献策、戦果を上げているのに、とふて腐れるかもしれない。そしたら国はおしまいだ。華琳は俺を傾国の原因にしたいのかな?」  多少きつい言い方になったかもしれないが、華琳は聡明だ。本当は俺が言わなくても分かっている。ただちょっと、そう、ほんのちょっと甘えが出てしまっただけだ。 「でも……」  華琳はまだ踏ん切りがつかないらしい。仕方ない。 「じゃあ華琳、俺からの提案。今まで日中はずっと一緒に居ただろ?けどこれからは一緒に居られないかもしれない。 一応俺も書類の仕事を多くするつもりだけど。だから、今度から一緒の部屋で寝ようか。そして寝る前に二人でその日あったことを話そう」  たまに俺の部屋に潜り込んできて一緒に寝たことがあったが、片手で足りるくらいだ。これで満足してくれたら良いんだが。 「ちかたないわね。それで我慢しまちょ」  フンとそっぽを向いたが一応満足してくれたらしい。向いたのは顔だけ。腕の力は抜いてくれない。 「ありがとう、華琳。じゃあ俺は三人と顔合わせに行くけど、華琳はどうする?」  頭を撫でながら尋ねる。 「わたちは良いわ、考えたいこともあるち。いってらっちゃい」  一回ぎゅっと俺を抱きしめて膝から降りる。あれ?はぐらされた感はあるが深くは気にせず俺は三人の下に向かった。 「誰かありゅ!」 「はっ」 「桂花を呼びなしゃい」 「はっ」 # # # 「君達はこれからこの三人の下で訓練を行って貰う。そしてその後は軍の兵として働くことになるだろう。力の弱いものを護る術をこの三人から学んで欲しい」  多くの新兵を前に挨拶を行う。まだ心構えが出来ていないのか少しざわついている。まぁ一番の理由は別にあるのだが。 「隊長、アレはどうすればいいのー?」 「気にしないでくれ」 「そんな。アレほどツッコミどころ満載なん、中々あらへんで。血ぃ疼くわ」 「真桜我慢しろ、アレはどう考えても隊長専門だ」  皆ひどいなぁ。まぁ俺も他人だったらそう思うけど。 「分かった、俺がどうにかするよ。えー、皆。これから三人の下についてもらう。 一番端から君までが楽進将軍、君から君までが李典将軍、そして君からそっちの端までが于禁将軍の命令に従ってくれ。 あと、君は何処にも行かないように」  他の皆は俺の指示通りに別れ訓練を開始している。  そして俺の目の前には三人がアレと言ったものであり、俺が一人だけ名指して呼び止めたもの。 色々おかしい。何故か今回支給された新品の鎧ではなく使い込まれた鎧。また鎧の下は独特のかぼちゃパンツ。 兜の中は顔を隠すためか布を巻いており、頭と大きさが合っていないのだろうぐらぐら揺れている。そしてネコミミも装着済み。 あと頭と体のバランス悪すぎ。慣れてないのかふらふらしている。 「なにやってんの?」  兜を取る。すると二つの顔が。華琳と桂花。桂花が華琳のことを肩車しているのだ。 「べちゅに」  君は何処のタレントさんかな?ぺちっとでこピンを一つ。 「いたい。かじゅと何しゅるのよ!」 「君達こそ何しているんだ!今は新兵の訓練中なんだよ。ほら、桂花も何か言って」 「華琳様のおみ足が……太もも……ふにふに……」  静かだと思ったらトリップしてやがった。これは使い物にならない。 「ほら、とりあえず桂花から降りなさい。君達ならこんな細工しなくても見て良いんだから」 「いやー!わたちもかじゅとの訓練うけりゅの!かじゅとの初めては全部わたちのものなの!」  何か納得できないのか頑なに桂花の頭から降りることを拒否している。 「どんどん力強くなってきたわ。幸せ……この柔らかさ、そしてすべすべ感」 「降りなさい!」 「いーや!」 「あら?どんどん体が軽くなってきたわ。もしかしてここは桃源郷かしら?華琳様の匂い、だ、らけ、だ、わ……」  ん?何かおかしい。慌てて桂花を見てみると、見事に華琳の足が桂花の首を絞めている。 「ちょ、華琳、桂花が拙い!早く足の力を緩めるんだ!」 「しょんなこと言ったって騙されにゃいんだから!」 「ぶくぶくぶくぶく」 「桂花ぁぁぁあああぁ!」 警邏隊隊長就任初日、仕事内容。 桂花の看護。華琳にお説教。                 以上。 続? 編集後記 この物語の「魏の種馬」フラグは折られました。 ……実は一刀の個室の下には真桜特製の地下路があって……嘘です。 真桜達は元々華琳目当てで陳留に来ています。 どうでも良いけど、辞書入りなら水鏡先生は「みずかがみ」って打つより「まおう」の候補で出てくる水鏡の方が早いかも知れない。 拠点にて華琳が桂花を選んだ理由として、運動神経が人並み、そして身長です。 春蘭は動きが新兵に見られないだろうと戦力外非通知を受けました。 電車の中で桂花のアレがかぼちゃパンツで良いのか、ズロースやパニエなどの画像を見ていたとき色々切なかったです。 おまけ 拠点舞台裏。 「華琳様、離れることで育まれる愛もあります。もしかしたら、離れたことで北郷は華琳様のことを考える時間が増えるのかもしれません。 いつも一緒に居てはそれが自然になってしまって、ありがたみを感じないものです」 「そ、そうかちら?で、でもそちたらわたち、かじゅとのこと考えすぎて仕事出来なくなるかもちれない」 「駄目です、華琳様。そこは我慢を。仕事をこなしたら北郷はきっと華琳様を褒めえるでしょう」 「えへ、えへへ」 (まぁ、離れたとしても北郷が華琳様のことを考えると限らんのだがな)