「最近賊の活動が活発になっています。我々も出陣なさるのが良いのではないでしょうか?」 「しかし、我らが曹操様の領地では被害の話を受けておりません。他の地に入るのは周囲との関係を悪化させるのでは?」  今、目の前では活発に議論が繰広げられている。議題は分かるように最近活動が顕著になってきている黄巾党の対策。 華琳の領地では略奪などの話はないのだが、周囲、特に隣の刺史が無能らしく黄巾党の話を良く聞く。  華琳は乗り気でないのか考えがあるのか、この場に居るが話を聞いていない様子。 時折こちらを覗き見て、俺と目が合うと慌てた様子で目を逸らす。そしてクルクルツインを指で弄んでまたこちらを見る。これの繰返し。 # # #  華琳に保護されてから一ヶ月。俺は―やはりと言うべきか―文字が読めない。 そのため毎日のように秋蘭の下に文字を習うために通っている。  忙しい身であるはずの秋蘭なのだが、華琳の一声で俺の教育係りに任命された。まぁ烈火の如く怒った春蘭だが 「春蘭、黙りなしゃい」 の一言で無理矢理に怒りを収めた。秋蘭曰く、その日の春蘭部隊の訓練は想像を絶するものになっていたらしいが。合掌。  また秋蘭は貴重なマルチプレイヤーなので色々なところに皺寄せが行っているらしい。ゴメン。  そして……いつの間にか、俺の勉強部屋の名前が執務室になっていた。  秋蘭の下に通い始めて一週間が経ったくらいだろうか。これまでもちょくちょく顔を見せていた華琳だったのだが、 茶話代わりにと俺の世界の話―主に政策に役に立ちそうな―をしていたら、 「にゃかにゃか良い案ね。……そうね、これからあにゃたにたくしゃん話を聞くことになるだろうち、 わたちもここで仕事をしゅるわ。秋蘭もしょばにいるから楽になるち」 と言い放った。別に言うのは良いんだが、どうしてそっぽを向きながら言うかね。俺はどんな反応をすればいいんだ?  そしてその日から執務室はお引越し。俺が移動すればいいんじゃないか?と尋ねたが、華琳はどうしてもここにしたかったらしい。 結果、執務室には俺、華琳、秋蘭の机が並べられ、四人で仲良く仕事をしている。 ……四人?そう、いつの間にか春蘭までこの部屋に来るようになっていた。机を持ち込まずに。なかなかの根性だと思う。 しかし春蘭の仕事は主に軍事関係であるし、秋蘭が春蘭の仕事を全て把握してあるため、机が無くても大丈夫らしい。  早く一人前にならないと何より秋蘭に迷惑を掛けそうで怖い。 # # # 「なかなか決まらないな」  隣に座っている秋蘭に耳打ちをする。  華琳の気まぐれか最近は軍議に参加する機会が多くなってきた。普段なら華琳が適切な結論を提示し終わるのだが、今日は長引いている。 「そうだな、おそらく華琳様も何か考えがあるのだろうが。多分、もう少し疲弊させるとか」  あえて主語を省いた秋蘭。もしかしたら俺が三国志の話を―あらすじだけとはいえ―してしまったためかもしれない。 「だけど困っている人もいるんだよな?だったら立ち上がった方が良いんじゃないか?」 「北郷もそう思うか?何か、今日の華琳様は集中していないように見受けられる」  また華琳と目があったので手を振ってあげる。かぁっと頬を朱に染め顔を逸らす。可愛いなぁ、もう。 「仕方ない、北郷悪いが、ぽにょぽにょぽにょぽにょ」 「は?それを今やるのか?てか誰だ?」 「やってみれば分かるさ」  うーん、秋蘭の笑いが気になるが、仕方ない。うぅん。と咳払いを一つ。 「くるくるくぅる、くるくるくぅる、くるくるくるくる、麗羽ちゃん♪」 ―ビキッ―  今、空気が死んだ。 「か、かじゅと。今なんて言ったのかちら?」  ヤバイ、確実に逆鱗に触れた。あの小さな体から発する何かで体が思うように動かない。 トントン  太ももを叩かれ、無理に叩いた人間―秋蘭―の方を向く。 「もう一回だ」  ……俺に死ねと。華琳、そして秋蘭の視線が痛い。前門の虎、後門の狼。 「く、くるくるくぅる、くるくるくぅる、くるくるくるくる、麗羽ちゃん♪」  歌ったぞ!声は震えていたが歌ったぞ! 「きっ」  きっ? 「黄色きらーーーーーーーーーーーーーい」 「皆のもの聞いたか!華琳様は黄巾党を殲滅する気になったようだ。今すぐ準備を!」  ここぞとばかりに声を上げた秋蘭。周囲の皆も共感するようにオウッと掛け声一つ上げ準備に向かった。 「しゅ、秋蘭。聞きたいんだけど、今のは一体?」 「あぁ、華琳様の昔馴染みに真名を麗羽という方がおられてな。華琳様はその人物が苦手なのだ。 それでその人の印象が黄色、いや金色でな。きっとそう言うのではないかと思ったまでだ」  か、傀儡政治だ!まさか目の当たりにするとは! 「か〜じゅ〜と〜」  後ろから恨めしげな声が聞こえる。 「しゅ、秋蘭。俺も何か準備手伝おうか?」 「いや、大丈夫だ。それより北郷、華琳様がお呼びのようだ。ではな」  全ての元凶が去っていく。あぁ、神は死んだ。 「な、なにかな、華琳」  覚悟を決めて華琳の方を向く。と、大きな目に一杯涙をためていた。 「かじゅと!かじゅとは麗羽の様な女がしゅきなの?やっぱりあの大きな胸ね!かじゅともやっぱりあの巨乳がしゅきなのね!」  頭が混乱しているのか、聡明な華琳の姿は見当たらず、自分の感情を思い切りぶつけてくる。 「華琳落ち着いて!俺は君が知っている麗羽さんとあったことは無いよ。俺が言った麗羽は近所に住んでいた猫の名前なんだ」  頭を撫でながら、優しく嘘。こういう嘘は必要だよな。 「しょうなの?……しょうね、あにゃたが麗羽をちるわけがないわ。けど、猫の名前を言ったってことは向こうの天に未練がありゅの?」  まさかそう返されるとは。華琳の目には悲しみしかない。困ったな、ため息を一つ。 「華琳」  華琳を呼んで注意を向ける。こっちを向いてくれない。仕方ない。 「よっと」 「ちょ、ちょっとかじゅと!なにしゅるの!」 「だってこうしないとこっち見てくれないだろ?」  こっちを見てくれない華琳を抱っこ。慌てた様子でこっちを見てくれた。 「いい、華琳、聞いて。確かにここに来てまだ一月だし、状況も理解しきれていない。けどね、ここの一月は向こうの何年にも相当するくらい楽しかったし驚いているんだ。 それに君や、秋蘭。それに春蘭と大切な人達も出来た。未練が無いといったら嘘だけど、今俺は幸せだよ」  納得しきれていないのか俺の肩に頭を乗せてぎゅっと抱きしめてきた。 「ほら、皆戦いの準備をしているよ、総大将の華琳もしっかりしないと。頑張ったらご褒美あげるからさ」  頭をぽんぽん叩く。ひとまず満足したのか、俺の顔を見てくれた。 「ほんと?」 「ん、なんでも良いよ、俺に出来ることならね」 「だ、だったりゃ、椅子になっれ。これから政務しちゅとか、軍議のとき、あにゃたの膝の上にしゅわるわ」  人間座椅子か。これは予想外だな。……そんな上目遣いで見ないでくれぇ! 「い、いいぞ。お父さん、頑張っちゃうからな!」 「あにゃたはお父さんじゃないわ、かじゅとよ」 # # # こうして俺達の黄巾退治が始まった。 あ、あと桂花も仲間にしました。詳しくは原作にてw *拠点*華琳+桂花  きぃーっ!なによあの男!いつも華琳様の傍にいて!本当ならば華琳様の横にはあいつのような脳みそ精液男より、私のような聡明な人間が似合うのよ! 桂花の目に映っているのは庭を歩いている華琳と、その横にいる男、北郷一刀の姿。  念願叶い華琳の下で働けることになったのだが、何故かその華琳はいつも一刀と一緒に居る。 許可を貰うべく政務室を訪ねたら、たまたまか春蘭、秋蘭が席を外しており、二人きりだったり、 小腹が空いたからと食堂に顔を出すと「べ、べちゅにあにゃたのために、かってきたわけじゃないんだからね!」と肉まんを一刀に渡している華琳の姿を目にした。  桂花が知る限り殆どの時間、二人は一緒だった。 「こうなったら制裁が必要な様ね」  これ以上愛しの華琳様をあの男の毒牙から守らなくては!しかしどうするか? 恐ろしく無駄なことに王佐の才と謳われた頭脳を使う。そして 「そうだわ。落とし穴にしましょう!もし北郷が一人のときに落ちたら成功だし、仮に華琳様と一緒の時に落ちたとしても、あの男の間抜けさに華琳様も離れていくでしょ」 こうして桂花は落とし穴を作り始めた。 初日。 「きゃーー」  庭に悲鳴が響いた。横を見ると一緒に歩いていた華琳の姿は見当たらず、あるのは穴。……穴?慌てて穴を覗く。 「か、かじゅと〜」  そこには思いきり尻餅をついている華琳の姿が。 「華琳、大丈夫か!今助けるからな!」  幸い穴は浅い。華琳一人では出ることが出来ないだろうが、俺が手伝えばなんとも無い。 「ほら、掴まれ」 「あ、ありがと」  ぐいっと華琳を持ち上げる。 「大丈夫だったか?それにしても何で穴なんてあるんだ?あとで秋蘭に話しとかないと」 「か、かじゅと。手」  手を握りっぱなしだったことに気がつく。ゴメンと手を離そうとするが。 「まって。他にもあるかもちれないでしょ」  ……何を言いたいのか分からない。 「だ、だかりゃ」  ぎゅっと手を握ってくる華琳。あぁ、なるほど! 「そうだね。危険だから手を繋いでいようか。それなら安心だしね」 「ち、ちかたないわね」  さっきより強く握ってくれた。 # # #  ……なにあれ?どうして華琳様と歩く孕ませ屋が手を繋いでいるのかしら?このままだったら華琳様があの男に孕まされるかも知れないじゃない! 決めた。確かに今日のは私の優しさが無意識に出てしまっていたのかもしれない。もう遠慮はしないわ。 二日目。 「ぬわーーーーー」  まさかの二日連続で響いた悲鳴。発信源は……俺。一応警戒していたつもりだったんだけどなぁ。深さは胸辺り。頑張れば一人で出られるだろう。 「か、かじゅと!だいじょぶ?」 「あぁ、大丈夫だよ。それより華琳は大丈夫か?」 「ええ、ちょっと肩が抜けそうになったりゃけだから」  幸い落とし穴の範囲には俺しかいなかったため、落ちたのは俺だけだったのだが、昨日から歩くときは手を繋いでいた。 落ちたのが突然だったため手を離せなかったのだ。そのため華琳の肩に俺が落ちた時の衝撃が伝わったらしい。 「ゴメンな。いきなりだったから手を離せなかった」 「いいのりょ。もう痛くないち。しょれより、出れそう?」 「あぁ、少し下がって貰っていいか?ありがと。よいしょっと」  華琳に一歩下がってもらって穴から這い出て、そのまま穴の縁に座る。ととっと華琳が近づいてくる。 「よかった。だいじょぶしょうね。それにちても一体だれかちら?」 「そうだな、一応昨日秋蘭に話したんだけどなぁ。今日は華琳も怪我しそうになったし、どうにかしないといけないか。 華琳、手繋ぐのやめよっか。今日みたいなことがあったら巻き込まれて、次は怪我するかもしれない」  軽い気持ちで言ったのだが。……華琳の顔は一言で言うと『絶望』。幼稚園児に悲しい顔を描いてって言ったら描きそうな顔そのもの。 「か、華琳どうしたの?」 「もう手ちゅないだら、め、なの?」 「そうだね、今度は巻き込んでしまうかも知れないし」 「だっ、だったりゃ、抱っこちて!わたちとかじゅとは一蓮托ちょーよ!いっちょに落ちればきっとだいじょぶよ!」  きっと解決策ではないんだろうけど、それ以上に華琳に悲しい顔をして欲しくない。 「分かった、華琳。おいで」  結局俺は立ち上がって華琳を抱っこするのだった。 # # #  ……はぁ?昨日は手を繋いでで今日は抱っこ?どうして悪化しているのよ!昨日も今日も穴に落ちた痕跡があったって言うのに! もう怒った!いくら仏の桂花様と言えど、あの行為は許すまじ。今度は…… ヒュッ  次の落とし穴をどうするか考えていた桂花の耳に風を切る音が聞こえる。そう、近くに矢が過ぎていったような。 ヒュッヒュッ  またしても同じ音。というか今度はちゃんと矢が見えた。 「何!?一体何!?」 「あぁ、桂花か」  現れたのは弓を携えた秋蘭。顔には笑顔が張り付いている。 「一体どうしたのよ。危うく私に当たるところだったじゃない!」 「すまんな。先ほど北郷に会って、不審な話を聞いたので警戒していたのだ。 何でもこの城の庭に落とし穴が設置されていたらしい。しかもそれのせいで華琳様が危うく怪我をしそうになったとも。 華琳様は結果的に北郷に抱っこして貰えるようになったために満足なさっておられるが、次はどうなることやら。 まぁ、その前に怪しいものがいたら私が撃ち殺すがな。桂花も用心しておけ。特に月の無い夜は、な。ふっふっふっ」  桂花は本能で悟った。彼女は本気だと。 結局、桂花の落とし穴大作戦で得られたものは、桂花の秋蘭に対する恐怖と、 華琳が移動する際、一刀抱っこがデフォになったことであった。 続? 編集後記 ……まさかの第二話。しかも連日。自分でも驚きです。 今回の終わりは、場面的に桂花が仲間になってから、季衣の村に行くまでの間くらいです。 書くのがめんど……いちゃいちゃ重視なんで戦いは省きましたw 一刀君が穴に落ちたとき華琳様の下着は見えていません。だってはいて……鉄のスカートだから。鉄のスカートだから! 因みに一刀君が歌っていた麗羽のテーマ曲はたこ●きマントマンのOPに乗せて下さい。知っている人いるかなぁ。