黄 壱 −常駐アプリはゲーム重くなっちゃうよヨ。って、あかーん− 「皆さんどうぞ召し上がり下さい」  目の前には手作りの暖かさが滲み出ている家庭料理が並んでいる。  どれも見た目と香りで美味しさが分かるが、一口食べるとなるほど美味しい。 この料理を熟練の主婦が作っているという訳でなく、鈴々と同世代と思わしき少女が作っているから驚きである。  現状を説明しよう。噂に名高い桃園の誓いをリスペクトした俺たちの誓いから早二ヶ月。 志を一つにした俺達だが、実行するのには先立つものが無い。つまり資金と力だ。 この場合の力とは名声とでも兵力とでもどっちに取ってもらっても構わない。  いきなり太平を、と声高々に宣言してもついて来てくれる人もいないし、いたとしても彼らを無償で働かせるわけにもいかない。 というわけで俺達はそれらを解消するために偉大なる行動を取ることとなった。  つまり賊退治。通称困ってる人を助けよう作戦。 地味だが確実な方法である。少しずつだが有名になるし、謝礼も物の場合が多いがお金で出している村もある。 何より目の前に困っている人達を見過ごせない桃香達には最適な方法である。  しかしこのままではジリ損なのは分かっているため、一応目的地を決めてその通り道にある村を中心に回っている。 目的地というのは桃香と同門の公孫賛の下である。 言い方は悪いが桃香というコネを使い客将となり力を蓄えよう、ということだ。  まだスタートラインにすら立てていない俺達には使えるものは使おう、で意見をまとめた。 そのため村を助けるときは何かあるにつれ「天の御使い」の名前を出している。 最近では「あの……」という反応も多くなり始め、御使いの肩書きにも箔がつき始めたと思う。  そして今俺達がいるのはその行動理念の下近くを通った農村のうちの一つである。  ただ他の村と違う点があった。それは…… 「あー!その角煮は鈴々が狙ってたのにー。いきなり横取りするななのだ!この春巻き頭!!!」 「うるさい、ちびっこ!大皿でよそられているんだから早い者勝ちなの!早く食べなかったおチビが悪いんだっ」 「こら、季衣!これは兄様達のお礼のために作ったんだから少しは我慢して。またあとで作ってあげるから」 「ぶぅ〜。分かったよ。兄ちゃん達もどんどん食べてね。あっ流琉!ボク杏仁豆腐食べたいからあとで作って!!」 「鈴々も食べたいのだー!」 とこの騒がしさ。見ていてとても微笑ましい。  そう他の村と違っていたのはこの二人の少女。名前は許緒と典韋という。 ある程度三国志をかじった者になら必ずと言っていいほど知られている二人だ。あの曹操の親衛隊として功績を収めたことで有名である。 ◇◇◇  俺達が歩いていると遠くに砂煙が立っているのが見えた。そして風に乗って聞こえる怒声。 それを聞いた瞬間愛紗と鈴々が走り出した。俺と桃香は安全を確認しながら後を追う。  俺達が追いついたときには愛紗達は騒動の中心にいて二人の少女と共に五十人近くの賊と対していた。 これ以上近づいては不味いと思い遠巻きに見ていたのだが……  驚くことに鈴々と同じくらいの年齢の二人が、これまた鈴々と同じくらいの戦果を挙げているのである。 彼女らが武器を一振りするたび複数の賊が空を飛び、周りの士気が下がっていく。  そして……一人が声を上げ逃げ出した途端、多くの賊が散り散りになり逃げ始めた。  普段だったら追撃を行うのだが今回は二人の少女の保護が先と思い止まったのだろう、愛紗がこちらに合図を送ってきた。 桃香と二人でそちらに向かっていく。近づくとやはり鈴々と同世代に見える。 それにずいぶんと大きな武器を使っている。浅黄色した髪の子は大きな円盤状のもの。そして赤い髪の子は…… 熊!?さっきは遠目だったから棍棒状のものかと思っていたが熊を縛っている棒を振り回していたみたいだ。 そりゃ賊も逃げたくなるな、と思っていると愛紗が 「この者は近くの村に住んでいると許緒と典韋と申しています。予想外の実力に私も驚いていますが……」  確かに。鈴々という先例はあるが普通は信じないだろう。しかしなぜ鈴々と赤い髪の子は言い争いをしているのだろうか。 「二人とも大丈夫だったかな?しかし賊に襲われるなんて災難だったね」 と浅黄色の髪の子に話しかける。 「はい大丈夫です。あの賊たちも結構頻繁に来ているので…… あっ、すいません。そちらの方に紹介されましたが、私典韋と言います。ほら季衣!喧嘩してないで挨拶して!」 「はーい。こんにちは兄ちゃん。ボクは許緒だよ。よろしくね」  ……熊のインパクトが強すぎて忘れてたけど愛紗が許緒に典韋って言ってたな。というか現に二人ともそう自己紹介してたし。 やっぱりなのかな?あの強さを考えるとやっぱりだよな。また女性になっているのか。  もうこの世界を受け入れ始めている俺はここで考えるのを止める。 「丁寧にありがと。私劉備って言うんだ、よろしくね。それにしても二人とも強いね♪」 「チビのくせになかなかなのだ。けど鈴々のほうが強いもんね!」 「ボクのほうが強いさ!それにチビにチビって言われたくないっ!」  あぁなるほど。こうやってさっきも喧嘩が始まったのか。隣で愛紗がため息をついている。 「あの二人は放って置こうか。俺は北郷一刀、一応天の御使いと呼ばれているのかな」 「えっ、御使い様ですか!いきなり馴れ馴れしく、申し訳ございません」 「いや……いきなり畏まれても困るんだけどなぁ」 「そうだよ、典韋ちゃん。ご主人様はそんな風にされるほうが困るんだってー。だから気にしないで気軽にしてて大丈夫だよ」 「そうなんですか……ですが周りの村の人からも助けていただいたと感謝のお話を伺っていますので…… でしたら兄様とお呼びしてもいいでしょうか?」 「うん、そっちのほうがいいかな。それでさっき賊が頻繁に来てるって話をしていたけど、本当かい?」 「はい。頻繁に来ていますね。今日は季衣が狩りに行った隙に攻めてきまして…… 私一人で相手をしていたのですが、ちょうど季衣が帰ってきたんで二人で対応していたんですよ。そしたら兄様達が通りがかって」  だから許緒は熊で戦ってたのか…… 「そっか、じゃあ二人が村を守ってたんだ。すごいなぁ〜。だけど不安だね。賊の居場所って分かってないの?」 「一応見当はついているのですが、私と季衣で行くとその隙に村が襲われてしまいますし、 一人で行くには人数が多くてどうしようもなかったんですよ」 「でしたらご主人様。私達が退治して来ましょうか?あの程度でしたら私と鈴々、あと二人のうちのどちらかが着いてきてくれればどうにかなるかと」 「あまり無理しないようにね。じゃあ鈴々とあの子は相性が悪そうだから典韋頼めるかな?」 「はい、分かりました!季衣〜、ちょっと来て〜!」 「ん、どしたの流琉?今このオチビにボクのほうが強いって説明しているところなんだけど」 「だーかーらー、鈴々はチビではないのだ。胸がぺったんこだと頭もぺったんこなのかー?」 「頭がぺったんこってなにさ!それにちびっこのほうがぺったんこじゃないかっ」 「はいはい、二人とも喧嘩は止めてね。鈴々ちゃん、愛紗ちゃんと典韋ちゃんの三人で盗賊を倒して来て欲しいんだ。 で許緒ちゃんは私とご主人様の三人でお留守番」 「分かったのだ。鈴々が活躍しているときに春巻き頭は家で震えていればいいのだ」  あーあ。鈴々のヤツ許緒を挑発してるよ。また一悶着ありそうだな。それより 「桃香、俺も愛紗達と一緒に行くつもりだよ。今は御使いの名前を出来るだけ売りたいからね。 女の子たちに任せて安全な場所にいる人の言葉に重みは無いだろうし。 大丈夫。自分の力量は分かっているつもりだから後ろで待機しているよ」 「そうですね、私個人としてはご主人様も安全な場所にいて欲しいとは思いますが…… やはり先頭に立つことにより名も上がりやすいのも確かです。桃香様安心してください。私と鈴々でご主人様を守りますゆえ」 「そっかぁ。まあ仕方ないのかな。愛紗ちゃんご主人様をよろしくね。じゃあお留守番は私と許緒ちゃんかな?」 「待ったー!流琉ボクも行く!このオチビにボクのほうが強いって見せてやるんだ!!」 「こら、季衣我侭言わないの!私と季衣が行ったら誰が村の皆を守るの?」 「じゃあ流琉が残ってよ。ボクは絶対行くんだから!」 「兄様〜。季衣はこう言ってますがどうしますか?」 「なんか梃子でも動かなそうだね。じゃあ悪いけど典韋が桃香と残ってもらってもいいかな? こっちは愛紗が二人の間を受け持つから。そうだね……二人で、帰ってきたときのために料理でも作って待っててよ」  後ろで、んなっ、て愛紗が呻いていた。こういう反応をするから可愛いんだよな。 「はい、分かりました。ですが兄様、熊は下処理に時間が掛かるので今日は食べられないですよ」 と笑いながら典韋が言う。俺の考えが分かっていたみたいだ。だって食べる機会あるなら食べてみたいじゃないか。 「そっか残念だね。じゃあ二人とも行って来るよ。おーい許緒、喧嘩してないで敵の拠点まで案内してくれ」 「はーい。こっちだよ兄ちゃん!ほら、オチビも早くきなよ」 「むー鈴々が一番乗りするのだー!!!」 「む〜ん(どうやって仲良くさせるか考えています)」 と騒がしく村を出発し 「へへーん、ボクもう二十人倒したもんねー」 「鈴々なんかまだ本気の十分の一の力も出してないのだ」 「ごめん愛紗。あっちに突っ込まなくていいから取りこぼしだけ気をつけて」 「はぁ〜(実は放って置いたほうがいいのではないかと思い始めました)」 と騒がしく賊を退治して 「全然疲れてないからここから全力疾走でも帰れるのだ」 「ボクだって出来るさ!」 「愛紗、君だけは俺を置いていかないで欲しいんだけど」 「ふぅ〜(賊もほとんど倒してないしご主人様の期待に応えられず、もしかして私って要らない子?て思ってます)」 と騒がしく帰ってきた。 ◇◇◇ 「ところで兄様達は何故この村にきたんですか?」  食事が一段落し、食後のお茶を用意しながら流琉が聞いてきた。 盗賊退治を終え村に帰ってきたときに二人からは真名を許されている。 「あぁ、俺達は公孫賛さんの下に向かっていてね。大陸を平和にしたいって思っているんだけど、お金が無くって。 んで桃香が公孫賛さんと同門だったから頼ろうと思ってるんだ」 「そうだったんですか。普段この村には商人か近くの村の人ぐらいしか来ないので何故かと思っていたんですよ。 ですがやはり凄いですね。そのような大志を抱いているなんて、私にはとても遠い話です」 「そんなこと無いよ〜。ただみんなで楽しく過ごせれば良いなって思っているだけなんだから。 あっ、そうだご主人様。流琉ちゃんと季衣ちゃんにも一緒に来て貰わない?二人ともすっごく強かったし」  桃香はそう提案してきた。だが俺は……。ふと顔を上げると愛紗がこちらを見ていた。 「ありがとうございます桃香さん。ですが私と季衣は皆さんについていく事は出来ないです。 村の皆を守らないと。ですから皆さんで安心して暮らせる世の中を作って下さいね」  流琉は笑顔でそう言う。きっと責任感の強そうな彼女だ。太平の力になりたいと思っているだろう。 しかしながらそれ以上にこの村の皆を守るのが大切なのだ。残念ながら俺達がしたことは根本的な解決になっていない。桃香もそれが分かっているのだろう。 「そっか残念だね。じゃあもし私達が皆幸せーって出来たらまた一緒にご飯作ろうね。流琉ちゃんの料理気に入っちゃった」 「はい、私も心待ちにしてますね。皆さん今日はもう遅いですし、どうぞ泊まっていって下さい。 何も無いところですが、部屋は沢山ありますから。季衣手伝って、ってもう」  どうしたのかと季衣のほうを向いてみると、 「静かだと思ったら、まったく」 季衣と鈴々はお腹一杯になって満足したのだろう。二人ともお腹を出しながら寝ていた。愛紗がぼやきたくなるぐらい子供っぽい。 「ははっ。流琉悪いけど部屋を用意してもらっていいかい。二人は俺と愛紗で運ぶから」 そっと二人を部屋に運び、今日のこじんまりとした、けど楽しかった宴会は終わりとなった。 「眠れないのですか」  そう後ろから声をかけてきたのは愛紗。 「考えることがあってね」  何も無いからか、空気が澄んでいるからか月が大きく綺麗だ。こんな月が湖面に映っていたら確かに飛び込んでしまうだろう。 俺は一人あの鳳凰の杯を片手に月見をしていた。 「桃香様があの二人を誘ったことですね?」 「うん」 横に座り空になっていた杯に酒を満たしてくれる。 「ご主人様、今は夢幻の時間。ですから胸の内を話されても私はおろかご主人様さえ忘れてしまうでしょう」 この子の優しさが身に沁みる。しかし愛紗は詩人に向いてないな。本人も分かっているのだろう、顔が真っ赤だ。 「さっきさ桃香が二人を誘ったとき二人には一緒に来て欲しくなかったんだ。別に二人のことが嫌いなわけではないよ。 むしろ兄と慕ってくれるから可愛いと思う。うん、妹なんだ俺には。だからたとえ二人に戦う力があっても戦って欲しくない。 本当は鈴々もだ。桃園ではしゃいでたり、今日のようにお腹一杯になったら寝ちゃう、そんな年相応に生きて欲しい。 こんな考えは甘いのかな?」 「そうですね、普段の私でしたら甘いとお答えしますが……ご主人様と桃香様には甘いままでいて欲しいと思います。  幼子達を戦火に近づけてしまう。大事な家族を兵として戦場に赴かせてしまう。 その苦しさの一つ一つを心に刻み後の世に生かしてより良い世界を作って頂きたいと思っています。 現実は私達が見ますゆえ、あなた方は理想を追いかけて欲しい。  ただ私から一つ言えることは鈴々はちゃんと覚悟しています。あの子は自分の意思で共に歩き共に戦うと決意しました。それだけは忘れないで欲しい」 「そう言ってくれると気が楽になったよ。だけど残念だね。目が覚めてしまったら忘れてしまうんだろ?」 「……まずはそれを忘れて頂きたかったです」  膝を抱えて赤い頬を隠す愛紗。 んっ。掛け声一つ上げて立ち上がり流琉の家へと向かう。 「……ありがとう、愛紗。お休み」 「……ぃぇ……」 ◇◇◇  多くの将と兵に囲まれて二人の少女が戦っている。  彼女達は理想も考え方も違っていた。 一人は理想を追いかけて。もう一人は現実が理想になるように。  そして俺は愛しい彼女が、自分が居なくなったことを後悔するような世界を作ってくれると信じ見ていた。 いなくなる?  どうして俺はそう思っていたのか。 ◇◇◇  目を開ける。目に入ってきたのは見知らぬ天井。あぁ昨日は典韋の家に泊まったのかと思い出す。 しかし……枕が濡れている。目が腫れぼったい。そしてこの気持ち。 夢を見たことは覚えている。しかし内容は覚えていない。ただ達成感とその奥にある悲しみだけが残っている。  どうしたものか。  俺は無意識のうちに笑みを浮かべていた。  流琉の美味しい朝食を食べ終え旅の準備も出来た。 「じゃあ季衣ちゃんに流琉ちゃん、お世話になりました♪絶対皆が笑顔になれるように頑張るから、二人も村の皆をよろしくね」 「うん、任せて姉ちゃん。ボク達がちゃんと皆を守るから。おチビも兄ちゃん達の足を引っ張らないでよ」 「大丈夫なのだ!鈴々はチビでも弱くも無いのだ!」 「鈴々。答えている時点でチビだと認めているようなものだ」 「愛紗うるさーい!」  最後まで鈴々と季衣は相性が悪かったな。見ているこっちは元気になるが。 「兄様、どうかしたのですか?昨日の夜から顔色が優れませんが……」  心配そうに俺を見つめてくる流琉。やっぱりこの子達に戦場に立ってもらいたくない。  もしこの世界が三国志の世界ならば、いずれ魏の将になるかもしれない。が今は日常に生きて欲しい。 「大丈夫だよ、ありがとう」  流琉の頭を撫でる。何故か妙にしっくりくる。指に掛かる髪が気持ちよくずっと撫でてしまう。 「に、兄様。もうそろそろ止めて頂けると……」 真っ赤な顔の流琉。そして後ろには羨ましそうに見ているちびっ子二人。 「んっ。じゃあそろそろ行こうか。三人とももう大丈夫かい?」 「うん、大丈夫だよご主人様♪じゃあ季衣ちゃん、流琉ちゃん行ってきますっ!」 季衣と流琉に見送られ俺達は公孫賛の下へ向かったのだ。 ◇◇◇ 「ねぇ流琉。ボク達あの兄ちゃんと会ったこと無いよね?」 「もぅ季衣ったら村の皆は顔見知りだし、ここに来る人も少ないから一度会った人を忘れるわけないでしょ」 「分かってるよー。だけどさ、なんか兄ちゃんの傍だと安心するなって思って」  名残惜しそうに兄様達を見送る季衣。本当は一緒に行きたかったのかもしれない。 あの鈴々って子に当たっていたのも羨ましい気持ちがあったからかも。  そしてそれは私も一緒だ。兄様と話していると心地よいし、最後に頭を撫でられたときも嬉しかった。……恥ずかしかったけど。  どうして彼は初めて会ったのに此処まで私達の心に入ってきたのだろうか。 逢えるならまた逢いたい。そう思った。 続 予告 季衣と流琉に別れを告げ公孫賛の下へ向かう一刀達。 その先に一つの再開が待っていた。 新たなる歯車がまた一つかみ合っていく。 次回 「黄 弐 −アチシ白蓮っち。お前……げげごぼうおぇっ−」 編集後記 本当は此処は短くしてすぐに白蓮のところに行くはずだったのですが……。 自分が書く前に走り書きしたメモを見ると 『金なしなんで周りの農村で賊退治の仕事、路銀稼ぎ兼名売り 季衣と流琉に逢っててもいいかも(名前は聞かずモブ程度)』 とたった一行。……モブってなんでしたっけ?w 書いているとキャラが勝手に動くって話は本当だったんですね……。 えっ?季衣はどうやって熊を倒したって?……色、気かな? さて次回は白蓮っちのお話。 おまけも勝手にキャラが暴走して無駄に長くなってしまったorz おまけ 「なんか梃子でも動かなそうだね。じゃあ悪いけど典韋が桃香と残ってもらってもいいかな? こっちは愛紗が二人の間を受け持つから。そうだね……二人で、帰ってきたときのために料理でも作って待っててよ」 (キュピーン☆) 「ちょっ、ちょっと待ってくださいご主人様。やはり賊退治に行くのは鈴々と許緒、典韋の三名がいいのでは? そちらの方が村人達も変に恩を感じずにすみますし。料理なら私がしておきますゆえ」 「いや、愛紗。いきなり来た人が我が物顔で家を借りるなんてありえないでしょ」 「ですが……そ、そうだ!鈴々と許緒!あの二人のためにも年が近いの典韋のほうが間を受け持ちやすいのではないでしょうか!」 いきなりごね始めた愛紗に戸惑いつつ桃香と典韋の三人で小さな声で作戦会議を開く。 「なんか愛紗ちゃん、意地でも残りたいっぽいね。いきなりどうしたんだろ?」 「分からないな……けど、いきなり他人の家に愛紗と桃香の二人を残すのも不味いしなぁ」 「兄様、私は構いませんよ。盗られて困るものもありませんし、お二人ともそのようなお方には見えません。 それに……こちらが妥協しないと話が」 典韋ゴメン。君はこの中でも間違いなくトップクラスの大人だよ…… 「ありがと、じゃあお言葉に甘えさせてもらうか」 話がまとまったので愛紗のほうを振り返る。 「分かった。村に残るのは桃香と愛紗に決まり。二人とも他の人の迷惑をかけないようにね」 「はい!分かりました。ご主人様もどうか怪我のないようにお気をつけください。私と桃香様で食事の準備をして待っております」 「……桃香、なんか愛紗の様子がおかしいから宜しく」 「うん。ご主人様も典韋ちゃんも気をつけてね」 こうして傍から見れば遠足とその付き添いに見える四人で賊退治に出発したのだ。 そして数刻後。 「やっぱり許緒も典韋も強かったな」 意気揚々と凱旋してきた俺達。しかし村に付いた途端、誰かに抱きつかれた。 「うわ!だ、誰だ!?」 「ご、ご主人様〜」 相手はなんと泣き声をもらす愛紗だった。 「どうした!なにがあったんだ?」 いつもの愛紗からは考えられない行動に緊急事態があったのではと尋ねる。 「桃香様が……桃香様がぁ」 なにか桃香に危険がおよんだっぽい。泣き崩れた愛紗は役に立たず典韋の案内の下、桃香が居るであろう典韋の家に急ぐ。 そして部屋に入った途端。 「うっ」 何か危険な臭いが充満していた。慌てて鼻と口を塞ぐ。良く見渡すと部屋の中心で桃香が倒れているのが見つかった。 一回外の新鮮な空気を吸い、桃香を家の外まで運ぶ。すでに桃香の息は微かになっている。 「ご、主人……様?」 桃香の小さな声が聞こえる。 「そうだ、俺だ!しっかりしろ桃香!何があった」 「ゴメンね、ご主人様。私……もう、駄目みたい。一緒に平和な世界を……見た、かっ、たな」 俺の頬を触ろうとしていた手から力が抜け、だらりと地面に落ちる。 「桃香……。桃香!おいっ桃香あぁぁぁぁぁああ」 後ろに居た鈴々や許緒、典韋までも泣いている。そこに怪しげな足取りで愛紗がやってきた。 「愛紗!桃香に一体なにがあった?!」 「わ、私も分かりません。ただ、一緒に食事の準備をしていたのですが、少しずつ桃香様の顔色が悪くなってきたのです。 それで、私は桃香様を傍の椅子に座らせて一人で調理を続けていました。 暫くし、料理が完成したので桃香様に味見をして貰った途端倒れてしまったのです」 まさか毒か! 「私も毒の心配をして回りを探りましたが怪しげな気配もなく、食材も調理の前に私が毒見をしたものしか使っておりません。 ですので私も倒れないところを見ると毒でもないようです」 「ご主、人様」 か細い声が聞こえる。慌てて桃香を見ると薄くだが呼吸もしている。 「桃香無事だったのか!一体何があったんだ!」 「…………」 口が微かに動くのは見えたが、何を言ったのかは聞こえない。口元に耳を持っていく。 「愛紗、ちゃんの、料理は、食べ、ないで」 ……愛紗の料理を食べるな。俺にはそう聞こえた。確か桃香は食べた後に倒れたと愛紗は言っていた。 まさか、まさか!この異臭の原因ももしや! 「……愛紗。君が作った料理を此処に持ってきてくれないか。ちょっと気になることがある」 「は、はい。分かりました」 愛紗が料理を取りに行っている隙に典韋を呼ぶ。 「いいかい、典韋。これから俺がする行動を絶対に見逃さないように。 そしてもしも、もしも俺に何かあったら然るべき行動と、桃香を頼むよ」 と頭を一撫でして桃香を預ける。ちょうどそこに料理を持った愛紗が帰ってきた。 ……もう俺の第六感は当たりだと告げている。大丈夫、桃香だって軽い気絶で済んだんだ。一度典韋を見て頷く。 そして、匙に一掬いし……。 俺の意識はそこで途切れた。