天遣帰歌(てんけんきか) 序  両肩を微かに震わせる華琳の背後で、光の粒子となって霧散してゆく自分の肉体。彼女 と最後の言葉を交わしながら、北郷一刀こと俺は、元に世界に戻るのだと考えていた。流 血とは縁遠い暮らしの中で、消えることのない未練を胸の奥に抱えたまま生きてゆくのだ と、根拠もなく考えていたのだ。  だが、予想は呆気なく裏切られる。  消滅の後、俺が放り出されたのは奇妙な場所だった。  何も存在しない銀色の無重力空間。物体と呼べるものが皆無なので、空間が広いのか狭 いのかすら解らない。視界を染める水銀に似た色彩が大気の色なのか、それとも空間の色 なのか、あるいは視力の異常なのか。両腕や両脚を動かしても空気の抵抗を感じないのは 何故なのか。仮に空気が存在しないのだとしたら、どうして息苦しさを感じないのか。息 苦しさどころか空腹すら感じないのはどうしてなのか。  何ひとつ解からず、移動すらできない不自由状態。残された選択肢は変化が訪れること を期待して待つだけである。本来なら気が触れかねない状況だが、不思議と俺の精神は平 静を保ち続けた。  そして、数日……あるいは数年が過ぎた頃。  暇潰しの思考遊びに興じていた俺の中で、ひとつの疑問が首をもたげたる。  俺は自分が消滅した理由を歴史の改変が原因だと考えていた。正史の流れに沿うはずだっ た番外世界の歴史……外史を無理に変えたことで、外史は正史から完全に独立。結果、正 史側に属する存在の俺が消滅したのだと。  だが、外史は「英傑達の性別が異なる」という相違を前提にした世界だ。  歴史にとって、性別の相違は致命的である。例えば、正史の曹操には曹丕という息子が いて、彼が魏朝の初代皇帝となる。だが、華琳は出産どころか妊娠すらしていない。それ 以外にも、劉備の息子にして蜀滅亡の要因である劉禅や、長期の内乱を引き起こす息子達 が孫権にいたという話も聞かない。  俺が改変するまでもなく歴史は無茶苦茶だ。  もしかして、消滅の原因は別にあるのではないか?  既に手遅れだと理解しながらも、俺は原因の究明を開始した。自分自身の言動を回想し、 華琳達の言動を思い出し、政情や人間関係を考慮し、戦闘の勝敗が及ぼした影響を検討す る。憑かれたように思索を繰り返し、やがて、ひとつの結論に到達したのである。  だが、直後に俺は猛烈な虚脱感に全身を襲われて意識を失ってしまう。  意識が回復すると、到達したはずの結論は頭から消え失せている有様。数分が経過した 現在でも、思い出せるのは「到達した」という感触だけ。そして…… 「…………ああ」  色鮮やかに視界を染めるのは、  瞳の奥まで染まりそうな空の群青色、  遥か上空を流れてゆく雲の乳白色、  矛のように聳える岩山の象牙色、  見渡す限り続く無人荒野の赤褐色。 「ああ……うああっ……」  暴走する様々な感情。  膨張する猛烈な衝動。  制御できない情動の奔流が、  熱い涙となって瞳から溢れ続ける。 「ああ……あああ……あああああ……っ!」   全身を満たして震わせる歓喜の中、  俺は、いつまでも涙を流し続けるのだった。 1 「梁義公」  誰もいないからと安心して号泣に専念していた俺が、見渡す限りの荒野にいるという現 状を正しく認識し、別の意味で泣きたくなったのは約七分後のことだ。  見渡す限りの荒野。  つまりは「ここがどこなのか全く解らない」ということである。  現代日本であれば日暮れを待ち、夜空を照らす街の光や星座を頼りに歩き出すところだ が、ここは冗談のような広さを誇る中国大陸。街や村落を発見する前に力尽きる確率の方 が高いのだ。しかも、地図どころか路銀も食料もなし。  文句なしの死亡フラグ成立状態である。 だが、捨てる神あれば拾う神あり。暗澹たる心境で歩き続けること約半日。奇跡的にも 陳留へ向かう商人と出会い、彼の馬車に乗せてもらうことができたのだ。  道中、現在が俺の消滅から五年が経過した建安十九年だということや、魏呉蜀の間で様 々な条約が結ばれたことなどを聞き出しながら移動を続け、三日後の今日、無事に陳留へ 到着したわけである。 「うわあ……」  無数の露店が並ぶ大通りを前に、思わず感嘆の声をもらしてしまう。  行き交う大勢の通行人と商売に励む商人達。会話や足音が喧騒となって晴れた空の下に 響いている。戦時中の陳留は兵器開発を主とする軍事的役割の濃い都市だったが、その雰 囲気はガラリと変わっていた。 「陳留は初めてですかな?」  命の恩人、梁(りょう)さんが尋ねてくる。  姓は梁、名は慈(じ)、字は義公(ぎこう)。胸元まで垂れた白い髭が特徴の好々爺であ る。塩を売買する塩商人であり、別の街で商談を済ませた後、自宅がある陳留へ帰る途中 だったのだそうだ。 「以前に少し滞在したことがあります。でも、変わっていて驚きました」 「戦後、曹操様の令で各都市の大規模な改修工事が行われたのですよ」  梁さんの話によると、華琳は都市の改修以外にも大小様々な改革を実行し、いずれも民 衆から好意的な評価を得ているらしい。彼女の統治が大勢の人間から支持されいるのだと 知り、俺は自然と綻んでしまう口元を掌で隠さなければならなかった。 「……おや、私の迎えが来たようです」  促されて見ると、通りの奥から紫紺の服を着た青年がこちらを目指して駆けてくる。通 行人と衝突しそうになっては何度も謝り、ようやく俺達の所に到着する。 「お帰りなさい、父上。帰着の知らせを聞き、お迎えに参りました」  年齢は二〇歳弱。全体的に線の細い学者を思わせる風貌の男性である。  二人の年齢差を考えると、彼の実子ではなく養子なのだろう。 「ええと、こちらの方は……」 「北文慶です。馬を喪い、困っていたところを助けて頂きました」  偽名を名乗りながら拱手(拳と掌を重ねる例のアレだ)で挨拶する。  現代では会ったことがない人物の顔を映像や写真で正確に知ることができるが、この時 代における情報伝達の基本手段は言葉だ。背丈や体格、肌の色や傷の有無など、外見的特 徴で説明するしかない。例え戦場で名を馳せた将軍であろうと、初対面で正体がバレる可 能性は意外と低いのである。  だが、名前は別問題。 北郷一刀という名前は「天の御遣い」として無駄に知れ渡っている。城外で本名を名乗 るのは「ここにネギを背負った鴨がいますよ」と宣伝するようなものだ。そこで、以前に 華琳達と考えたのが「北文慶」という偽名である。 「それはそれは、災難でしたね。息子の義伯(ぎはく)です」 「伯よ、北殿を客人として当家に招待する。先に戻って支度しなさい」 「ふえっ!?」  梁さんの唐突な言葉に驚き、素っ頓狂な声をあげてしまう。  ええと、いつの間にそんな話に? 「北殿には興味深い話で道中の退屈を慰めて頂きました。満足な礼もせず別れては未練が 残るというもの。遠慮なさらず当家に御越しください」 「北殿の話、小生も聞きとうございます」 「いやいやいや! むしろ、御礼すべきはこちらで……」 「屋敷へ戻り、母上にお伝えしてきます。では、後ほど!」 「って、聞いてませんか! 無視ですか! だから、ちょっと……!」  クルリと背中を向けて駆け去ってしまう息子さん。 梁さんも「さあ、こちらです」と穏やかな笑顔で離れてゆく。 結局、俺は短く溜息を吐き出した後、諦めて梁さんの後を追うのだった。 #2 油断大敵 「…………どうしてこんなことに」  誰もいない部屋の寝台の上に倒れたまま、弱々しく呟いてみる。  傍から見れば、何か悲劇的な出来事でもあったように見えるかもしれない。  まあ、実際は食べ過ぎて動けないだけだったりするのだが。  過食気味の俺がベッドに寝転がっている理由は単純明快。梁さんの家で夕食を御馳走に なり、美味しい料理に興奮して食べ過ぎてしまい、再び梁親子の有無を言わせぬ会話で宿 泊が決定。そして、案内された部屋で唸っているわけだ。  我ながら馬鹿である。 「…………それにしても」  何となく夕食時の会話を思い出してしまう。  為政者としての功績を積み重ねている華琳だが、すべてが順調に運んでいるわけではな いらしい。彼女の統治に批判的な人間が少なからず存在し、昨年の春、批判の種が解りや すいカタチで芽吹いたのだという。国境に駐留していた魏兵八〇名以上が、呉の都市へ攻 め込もうとしたのである。事前に情報を掴んでいた華琳は軍を派遣して領内侵犯前に鎮圧 したが、俺が気になったのは暴走を扇動した首謀者の主張だった。 「呉蜀は魏の属国である。掠奪して当然ではないか」  掠奪云々はともかく、主張の前半は間違っていない。五年前の決戦で華琳は劉備と孫策 の連合軍に勝利し、国家としての関係上、呉蜀は属国の立場にあるからだ。  しかし、それは短絡的な見解に過ぎない。華琳は呉蜀を併呑せず、両国の統治も劉備と 孫策に統治を委ねており、更には内政不干渉を宣言している。総合的観点から言えば、属 国というより「国家連合」である。  たぶん、これが華琳が実行した最大の改革だろう。世界最初の国家連合であるスイスの 建国が一三世紀末だから、百年以上も早く国家連合が誕生したことになる。しかも、中華 思想が支配する古代中国でだ。  中国の文化が世界の中心であり、他国の文化を認めず、優等民族である自分達が世界を 統治すべきだとする中華思想。だが、それは「世界」という言葉が地球規模まで拡大した 現代の考え方であり、この時代における「他国」とは、魏にとっての呉蜀、呉にとっての 魏蜀、蜀にとっての魏呉。そして、暴動首謀者にとっての呉蜀だったのだろう(だからと いって、掠奪を正当化することはできないが)。  もしかすると、華琳を批判する人間も似たような思想の所有者なのかもしれない。  そして、こう考えているのではないだろうか。呉蜀を滅ぼすという統治者の義務を果た さない曹孟徳に魏王を名乗る資格はあるのか、と……。 「………………って、あれ?」  不意に我に返り、俺は首を傾げる。  何やら難しいことを考えていたが、俺って、こういう人間だっだだろうか。  少なくとも、国家連合だの中華思想だのと小難しい用語を並べて沈思黙考するタイプで はなかったはずだ。実は、例の意味不明な銀色の無重力世界に長くいたせいで思考回路が 壊れていた、とかだったら嫌だなあ。 「……いかん、いかんぞ、北郷一刀! 今更知的キャラを目指しても手遅れだ!」  ええと、普段は何を考えてたっけかな?  もっと俺らしいことを考えるんだ! 働け、俺の灰色の脳細胞! 「……………………はい、ムラムラしてきました」  って、成年指定の映像思い出してどうする!  誰が乙女演義のボタン押せって言ったよ!  回想モード突入してどーすんだよ! バカなの!? 死ぬの!?  俺らしいことを考えた結果がエロシーンって!  本気で自分の人格疑いそうになるわ!  自虐趣味でもあるんですか、俺の脳細胞! 「…………素直に今後の予定を考えよう」  説明するまでもなく、俺の目的は華琳と再会すること。  つまり、目的地は陳留から馬で約四日の距離ある魏の都、冀州の業城である。  だが、俺の懐に路銀はなく、馬も食料も買えない状態。梁さんに融通してもらうという 案も考えたが、夕食と部屋まで用意してもらい、挙句の果てに借金を申し込むのは、幾ら 何でも情けなさ過ぎる。多少の路銀くらいは自分で解決すべきだろう。 「とりあえず、明日は太守に面会を申し込んでみるか」  現在、陳留の太守は徐晃。  姓は徐、名は晃、字は公明。正史では樊城で関羽と関平に包囲された曹仁を救出し、凱 旋した彼を曹操が七里先まで出迎えた英傑である。五将軍のひとりでありながら華琳の配 下に姿がなく、不思議に思っていた人物のひとりだ。四年前に仕官したそうだが、この短 期間で太守まで昇進している以上、正史に違わず有能なのだろう。  だが、面識のない俺が訪ねたところで、面会を許してもらえるかどうか疑問だ。  何しろ、軍規が浸透した徐晃の部隊に曹操が感動し、彼を「周亜夫(前漢の名将。陣中 を訪れた当時の皇帝を「作法ですから」と言って下馬させた)の風格がある」と賞賛した と魏書に記されている人物だ。本名の「北郷一刀」で面会を申請しても、素性を証明する 手段がなければ却下されるかもしれない。 「……まあ、とにかく訪ねてみよう」  溜息を吐き出して瞼を閉じる。  そして、滲み出る睡魔に意識を委ねようとしたときだった。 「…………!」  この部屋に接近する物音に気付いて跳ね起きる。  床を乱暴に踏みつける慌しい足音と金属が擦れあう硬質の音。  間違いなく、武装した人間が移動する音である。 「マズイッ…………!」  初対面の俺に対する過剰なまでの歓待。  感謝しながらも疑ってはいたのだ。梁義公の行動は善意ではなく別の意図に因るもので はないか。梁義公は俺が「北郷一刀」であることに気付き、悪事に利用しようと企んでい るのではないか、と。  だが、俺は柔らかな寝台の感触に安堵し、愚かにも緊張を解いてしまった。襲撃された 場合の行動を考える暇は充分あったはずなのに、危機感の欠片もなく貴重な時間を無為に 過ごしてしまったのだ。……くそ、とんでもないマヌケを晒しているぞ、俺は!  既に足音は間近に迫っており、扉からの脱出は自殺行為。  窓も頭が辛うじて通り抜ける程度で、逃走経路として利用不可能。  ここで襲撃者を迎撃するしかないが、俺は短剣すら携帯しておらず、室内にも刀剣の類 いは存在しない。仕方なく寝台横に置かれていた椅子を抱えて扉の前へ移動する。武器と しては頼りないけれど、素手で立ち向かうよりはマシだ。襲撃者が扉を開けたら全力で殴 り倒し、それが駄目でも隙を見て逃げ出してやる。  足音が扉の前で停止する。  肌が痺れるほどの静電気に似た気配。 「畜生、途轍もない凄腕じゃないかどわああっ!?」  突然、轟音とともに扉が砕け散り、俺は破片と衝撃で床に薙ぎ倒される。  慌てて視線を戻すと、入口に立っていたのは予想外の人物だった。 「…………春蘭?」  姓は夏侯、名は惇、字は元譲、真名は春蘭。  長い黒髪と隻眼が特徴的な、華琳の信頼する従妹である。  正史での夏侯惇は、戦時においては兵站の統括、平時においては灌漑整備など、事務処 理能力に長けた人物として語られているが、外史の夏侯惇……つまり春蘭は、前線で部隊 を指揮して活躍する猛将だ。  基本的には素直な心を持つ美人。応用的には短気で怒らせると厄介な美人。俺は過去に 何度も地雷を踏み、その度に愛用の刀「天星餓狼」を振り回す彼女に追いかけられた経験 がある。……うん、アレは結構本気でシャレになりません。  さて、本来なら五年振りの再会を喜ぶ場面なのだが、気になるのは、彼女が自慢の黒髪 を逆立たせんばかりに激怒している点である。 「……え〜と、春蘭さん?」 「……………………………」 「……………ひ、久し振り」 「……………………(怒)」  こええっ! 超こええっ!  しかも、無言で刀抜きましたよ!? 「………………………北郷」 「は、はいっ!?」  呟くような春蘭の声。 「……何か言いたいことはあるか」 「へ? いや、だから、久し振り……ってオイ! 何で刀振り上げるんだよ!?」 「……心配するな。マヌケな遺言だが、華琳様にはお伝えしておく」 「いやいやいや! 意味解んねえよおおおおぅッ!?」  振り降ろされた斬撃を横に転がって緊急回避。  目標を失った斬撃が嫌な音とともに壁面を深々と切り裂く。 「逃げるなっ!」 「逃げるわっ!」  ていうか、今のは本気でヤバかったぞ! 「何で問答無用で斬り殺されなきゃなんねえんだ!? 俺が何をしたんだよ!?」 「何をした、だと!?」 「ぬおおおうっ!」 「何をした、だと!?」 「どわああぁっ!」 「何をした、だと!?」 「うおおおおっ! って、怒鳴る度に刀振り回すな!」  解説いれる暇すらありゃしねえ! 「うるさい! 華琳様を捨てておきながら、よくもそんな世迷言をっ!」 「はあ!? 俺が華琳を捨てた!?」  今明かされる、驚愕の新事実!  ……などと悠長にボケてる場合じゃない。 「ちょ、ちょっと待て! 誤解だ、それは!」 「とぼけるつもりか、貴様っ!」 「だから、俺は……」 「おとなしく死ねええぇっっ!!」 「話を聞けっつーのおおおっ!!」  薙ぎ払われた刀を必死で避け、春蘭の腰にタックルする。  普段の春蘭なら簡単に跳ね返すところだが、冷静さを失っている彼女はフラフラと体勢 を崩してしまう。その隙を見逃さず、全力で押し倒して両手首を押えつけた。 「話を聞いてくれ、春蘭! 誤解だ! 俺は華琳を捨ててなんかいない!」  鼻先が触れるくらいの距離で、言葉ではなく表情で春蘭に訴える。 彼女の場合、長々と説明するよりも態度で説得したほうが早いのだ。  果たして、瞳に踊っていた憤怒の光が弱まり、表情にも理性が戻ってくる。 「誤……解……?」 「そう、誤解だ。五年前、俺は天の国へ連れ戻されたんだよ、無理矢理な」  春蘭には出会ったときに俺が未来の人間だと説明しているはずだが、彼女のことだから 辻褄合わせの設定である「天の御遣い」で理解しているに違いない。多少嘘をつくことに なってしまったが、今は春蘭を納得させるのが先決だ。 「皆の傍にいたかったけど、俺の意思ではどうにもならなかったんだ……すまない」 「……どうして謝る。貴様の意思ではなかったのだろう。それとも嘘なのか」 「事情はどうあれ、春蘭にも随分心配させたみたいだから」 「なっ…………!?」  不意を突かれた春蘭の顔に朱が差す。 「ば、馬鹿者っ! 誰が貴様の心配などするものか! 変な勘違いをするな! わ、私は だな、あくまで華琳様の御心を…………ニヤニヤするな! 馬鹿にしているのか!」  必死になって取り繕う春蘭。どうやら、もう手を離しても大丈夫のようだ。  春蘭の素晴らしいツンデレっぷりに感心しながら彼女を助け起こす。 「聞いているのか、北郷! 私は常に華琳様の御心を……」 「解ってるよ、春蘭。ありがとう」  正史の夏侯惇は自分の褒賞を部下に与える人物だったと伝えられているが、その為人は 春蘭にも共通する。彼女が持つ気性の激しさは、裡にある優しく純粋な心が反応した結果 なのだ。故に彼女は兵卒から信頼され、民衆(特に子供)から慕われる。そもそも、武芸 が達者なだけの粗野で短慮な人物であれば華琳に重用されるはずもない。  そんな春蘭のことだから、姿を消したことに激怒しながら、それでも俺を心配してくれ たに違いない。それが自然と理解できるからこそ、俺は彼女を両腕で抱き締め、万感の思 いを篭めた言葉を繰り返すのだ。 「ありがとう、春蘭」 「………………ああ」  溢れそうになる涙を堪えながら、俺は、彼女の温度を心地よく感じていた。 (続) コメント 最後にコメントを書いておられる方が多いので、私も自己紹介として。 先日、後輩に「三国志が好きならオススメですよ」と借りてエロゲを初プレイし、 更には勢いに任せて二次創作小説にまで手を出した「裏方」です。 当初は完成してから投稿しようかと思っていましたが、近日中に少しばかり 忙しくなりそうなので、とりあえず書けているところまで投稿しました。 個人的にはオーソドックスな「蜀」の物語が好きだったのに、 というか、華琳というキャラクターにも思い入れもなかったにも関わらず、 プレイ終了後に「書いてみるか」とエディタを起動して数分後。 気付いてみると「魏」の後日談を書いていたというと有様。 あのエンディングですから、書きたくなって当然かもしれませんね。 勿論、良い意味です。 説明するまでもないと思いますが、題材である「恋姫無双」の解釈や、 古代中国における文化や生活等の描写は、大半がウィキペディア先生と 私の推測や雑学に基づいたものです。 そんなヒトはいないと思いますが、素直に信用しないで下さいね。 ていうか、これを読んでるヒトがいるのかどうかも疑問ですけれど。 それでは、いずれ、いつかまた。