幕間 -blue moon-  鳳凰が描かれた杯を傾ける一人の少女。  空に浮かぶは欠けの見られない月。月見にはもってこいの満月だ。 しかしながら美しい月光とは裏腹に、少女の顔に冴えはない。あるのは哀愁。 「想い出、いやこれはもう呪に近いわね」  自嘲の笑みを浮かべる。少女の脳裏によぎるのはある少年との想い出、いや彼女に言わせると呪。 ◇◇◇ 「綺麗な満月だな。あっちじゃここまで大きくも綺麗にも見えなかったと思うんだけどなぁ」  独白にも近い台詞を吐いたのは一人の少年。  ここに居るのは少年と少女の二人だけ。一対の杯を用い、月見をしている。  少年があっちと言ったのはこの世界では天と称されている世界。少年の故郷でもある。 少年がそちらの世界の話を懐かしげに喋るたび、少女は切なくなる。そんな少女の気持ちを知らずに少年は続ける。 「やっぱり、空気が澄んでるからか?星もこんなに見えなかったよーな」  いい加減、切なさより苛立ちが大きくなってきたため口を挟む。 「綺麗ならいいじゃない。無粋なことを考えずに今はこの場を楽しみなさい」  そうだな、と少女の方を向き微笑む少年。その笑みを見てふんっと鼻を鳴らし杯を傾ける少女。  傍から見れば長年連れ添ったかのような雰囲気を醸し出している二人。 お互いが杯を空ける間が分かるのだろう。二人とも丁度良い時機で酒器を手にする。 しかしながら二人が過ごした時間はそれほど長いわけではない。ただ、相手への気持ちと、過ごした時間の環境と密度がそれをもたらした。 「他の子達も誘わなくても良かったのか?」  お互いに程よく酒が回り良い気分の中、少年は気になっていたことを訊ねる。 他の子とは二人の仲間である。少女のことを傾倒している子も多く、ここに他の人が居ないことは少年からしたら不思議である。 「たまには静かに飲みたいと思ったのよ。あの子達が居たら自ずと煩くなるでしょう。それとも何?私だけだったら不服ということかしら」  二人だけで飲みたかったと本心は告げず、少年を責める。少女の常套手段だ。とんでもない!と少年は否定をする。  二人の間には口を開かない限り、虫の鳴き声と風の流れる音しかない。 「ブルームーンか……」  またしても口を開いたのは月を見ていた少年。どちらかと言えば気が付かずに口にしていた様だ。 「……なに?」  思わず訊ねてしまった少女。 「あぁ、ブルームーンて言ったんだ。ブルーが色の青でムーンが空の月って意味。俺が居た世界では幸運の象徴だったものだよ」  また元居た世界の話かと切なさが募る。 「青い月が何故幸運の象徴なのよ?」 またしても苛立ちからか、それとも少女本来の知的好奇心か、はたまた少年のことをもっと知りたいという女の性か。少年に先を促す。 「大気中の塵とかで月が青く見えることを指しているんだ。それって中々ありえないことだから、もし見れたら幸せになれるんだって。 あと一月に二回満月になることもそう言うらしい。こっちも機会は少ないね」 と少年は答え、一緒に太陽暦、月齢の話をする。 「ふーん。貴方の世界でも天に拘っているのね」  天の御使いと称されている少年に対し薄ら笑いをする少女。それに苦笑いで返す。話は終わったのだろう、また静寂が訪れた。 「だったら……」  今度は少女が沈黙を破る。優しい顔で少年は少女を見る。 「今度から二人で飲むときの合図にでもしましょうか? 貴方はあちこちに手を出しているから、私と二人だけで飲むのは中々ありえないでしょ。 私も貴方と二人だけで飲みたくなるなんて、そうそう無いことだしね」  またしても本意を見せない少女の弁。だが、それは伴侶とも言うべき少年。一瞬驚き、笑う。 「そうだな。二人だけで飲めるなんて幸運に違いない」 これ以降満月や月見などそれに関係するような単語は二人だけの暗号になる。 そして……少年と少女の最後も満月の下であった。 ◇◇◇  ふぅとため息を吐く少女。彼女の横に少年の姿はない。いや、未だ出会ったことがない。 「今日は満月よ、一刀」  少女の声が少年に届くのはいつになるのか、それこそ天のみが知るのかもしれない。 さてさて、ここで一つ詰まらない話でもしようではないか。 少女たちが天と称した少年の故郷にはブルームーンと冠した飲み物がある。奇しくも酒―カクテル―の一種なのだが。 その飲み物にはある意味が存在する。一つは叶わぬ恋。そしてもう一つは……。 続 予告 太平への道を歩き始めた一刀達。 しかし志と裏腹に力を持っていない。 そのため地味ながら確実な方法をとる。 そこには小さな出会いがあった。 次回 「黄 壱 −常駐アプリはゲーム重くなっちゃうよヨ。って、あかーん−」