ぷろろーぐ −There are more things− 「一、刀……」  夜とは質が異なる暗さの中、目を開ける。 目の前に広がるのは秋蘭の顔と幾重もの幕。しかしながらそこには意識は行っていない。 (さっきのは?)  今まで見ていたものはなんだったのか。夢か現か、幻か。 夢にしてはやるせないし、幻にしては儚い。現実として考えるなら……。  なんにせよ私は後悔をしていない。あれこそが私が選んだ道であるし、歩むべき道であったろう。 ただ一つ……。 「気が付かれましたか、華琳様」 と秋蘭の声で思考の海から戻ってくる。と同時に状況を理解し始める。 私は天蓋に設置してある寝台の上で横になっているらしい。そしてそこに付き添っている秋蘭の姿。 「私はどうしたのかしら?」  どうしてこのような状態になっているのか記憶に無い。 「先ほどの軍議中に突然倒れられまして、安静に、とこちらに運ばさせて頂きました」  倒れた、か。四肢に違和感はないし、内臓や脳にも問題はなさそうだ。 異常は感じられないので体を起こしながら先ほどから気になっていたことを尋ねる。 「私はどれほど気を失っていた?あと何か外が騒がしいようだけど」  本営にいるため微かしか感じられないが喧騒とした空気が流れている。 「はっ。四半刻ほどでしょうか。外は先ほど華琳様が倒れられたとのほぼ同時に天から星が降ってきたと報告がありまして、 そのため兵たちがざわついているのかと。現在はその真偽を確かめるために放った偵察隊待ちです」 「……位置と方向は把握できている?」  もう一度四肢に力を入れる。……これなら馬に乗れそうだ。 「おおよそは。馬も三頭ならすぐに出せるでしょう」  さすがね秋蘭。それにしても四半刻か、間に合うかしら。 「すぐに春蘭と馬の準備を。軍は適当な者に任せなさい。ぐずぐずしていたら置いていくわよ!」  秋蘭の返事を背中で受けつつ、そこにいるであろう相手に思いを馳せる。 待っていなさい、一刀。 ◇◇◇ 「しかし華琳様はいきなりどうしたのだ。話だけで自らが赴くなど」  鬼気迫るように馬を操る華琳様。しかし長年付き添っている我らにしか分からないであろうが笑顔である。 「さあな。しかし華琳様にも思うことがあるということだろう」  うぅむ。とまだ納得の行かない声を出す姉者。普通はそうだろうな。 しかし私は先ほど華琳様が気を失っていたときにつぶやいていた一つの名前がどうも気になった。 「一刀、か」 ◇◇◇  少し先に秋蘭が放ったであろう物見らしき一団が目に入った。無意識に一刀を探してしまう。が見当たらない。 「報告を」  馬から降り責任者らしき人物に問う。 「はっ。我々が到着したときにはすでに不審な影は存在しませんでした。しかしながら複数人が争った形跡があります。 また足跡も逃げるようにしてついているものと、その他に二組あり片方は町へと続いています。 馬を出して向かえば追いつけると思いますが、いかがしますか?」  町へ向かったと思われる足跡を確認する。 ……四人分か。一刀と保護した者達の物と考えるのが妥当だろう。しかしなぜ別の方向に伸びたものがある?  とそこまで考えて私は笑ってしまう。  他の案も考えられる。現に春蘭か秋蘭に聞けば違う考えが出てくるだろう。 そう、一刀は私が見た「なにか」の登場人物だ。存在するかも疑わしい。なのに私は自分の答えが正しいと確信している。 「いえ、いいわ。放っておきましょう。春蘭、秋蘭本営に戻るわ」  これもまた必然なのでしょう。それに一刀ならいずれたどり着く。そんな気がした。  ふと初めて一刀と話した光景を思い出す。 「……胡蝶の夢か」  あれを見ていたのは私か一刀か、これを見ているのは私か一刀か。それとも……。 「また夢で逢いましょう、一刀」  数日後、華琳のもとへ一報が届く。 天の御遣いと称される人物が三人の女性とともに民衆のために賊退治をしている、と。  この報を聞いて華琳は確信したという。間違いなく一刀だと。 果たしてそれが賊退治をしている点でだったのか、はたまた連れ添いが女性三人である点だったのかは華琳のみぞ知る。 続 予告 いつの間にか知らない世界に来ていた北郷一刀。 そんな彼に向けられる凶刃。それを救ったのは一人の白い服の少女だった。 この世界はどこなのか、彼女たちはいったい誰なのか。 次回「始 壱 −スタートはいつ燃える−」 編集後記  初めての長編っぽい何か。そしてまさかの夢オチスタート 自分の筆の遅さに驚愕しました。どうぞよろしくお願いします。 華琳達は賊退治のために遠征していた設定です。書く場所がなかったのでここで。  おまけでは春蘭が活躍を期待していますが、しばらく春蘭達の出番がありません。 おまけにまだいない人がいるのはご愛嬌。桂花がただの黒い子になってる…… おまけ1 「すぐに春蘭と馬の準備を。軍は適当な者に任せなさい。ぐずぐずしていたら置いていくわよ!」 「もはや馬と同等。下手したら(存在感が)食われるぞ、姉者」 「まだだ、まだ慌てるような時間じゃない」 「ムカつくわね、その春蘭ならやってくれるって顔」 おまけ2 「今回は出番が少なかったな、姉者。台詞なんて一つと一唸りだけだったじゃないか」 「台詞の多さが今後の活躍の決定的差ではないことを見せてやる!」 「そうだ、その意気だ姉者。そうでなければ偵察隊長にすら負けてしまう」  ('・ω・`)