いけいけぼくらの北郷帝  第三部 第二回   1.北辺  金城――馬家の故地にして、北伐の起点の一つとなるところ。  そこに、北伐左軍の大半は集結しつつあった。  城中に与えられた部屋の中、二人の武将が向き合っている。片方は優雅に酒を注いでは飲んでいるが、一人は何か気がかりでもあるのか、うろうろと部屋の中を歩き回っていた。  卓に座っているのは、白基調の袖の長い着物に、切れ長の目とたおやかな印象を与える女性。常山の昇り龍こと趙子龍。真名は星。  かたやそれを前に落ち着かなげに動き回っているのは、黒ずくめの中、染めているのか色が抜け落ちているのか髪の一部だけが真白いのが目立つ、きりりとした印象の女性――魏文長、つまりは焔耶だ。  二人は共に北伐に参陣する蜀の将だ。 「どうした、焔耶。そのように。今日は見回りを除いては、特になにもないぞ」  星の言うとおり、いまだ北伐は本格的に始動していないため、彼女たちが現状すべきことと言えば、兵や輜重の準備が整っているか見て回ったり、大量の兵が駐屯することで動揺するだろう金城周辺を警邏することくらいしかなかった。  彼女は焔耶が戦に逸って気忙しいのかと思ってそう声をかけたのだが、そうでもなかったようだ。焔耶は息を吸い、足を止めると妙に真剣な顔をして問いかけてきた。 「あの男をどう見る?」 「あの男?」 「北郷一刀だ」  ああ、と星は納得する。そういうことであったか。 「ふむ、我らが御大将のことか」 「そのような呼び方……」 「仕方あるまい。北伐左軍の大将は紛れもなくあの方なのだから。で、人物評だったか?」  嫌そうに顔をしかめる焔耶に、星は動じることもない。焔耶も相手の性格を思い出したのか、すぐに気を取り直して話を続ける。 「それも含めて、色々と、だ。あれが桃香様の害になるようなら……」 「軍師殿たちのようなことを言うものよな、焔耶」  星は呆れたように酒杯を呷る。 「お主も涼州を切り取ることが、翠たちの、そして、最終的には蜀の益となることくらいはわかっているだろうに」 「北伐のことを言っているのではない。あの男のだな」 「同じ事だろう。左軍の大将としてあの方が必要なのだ、いまは。武将としてそれに従うのになんの不満がある?」  焔耶とて、涼州平定の戦に文句があるわけではない。ただ、その大将として、北郷一刀という人物が配されていることには疑問があった。なぜ、名のある魏の将ではいけなかったのか。それこそ、騎兵戦術を得意とする張遼が大将を務めていればよかったのではないか、と。  といって、北郷に失点を見つけられたかというとそういうわけでもない。左軍全体の運営はそれなりにうまくいっていたし、何度かの模擬戦でも文句をつけられるほどひどい指揮をしたわけでもない。いや、それどころか幾度かの模擬戦では彼が所属する側が常に勝ちをおさめている。大将がいるということで兵や将の士気が上がるのだろうが、北郷自身もそれに応えられるだけの指揮を行っていると言うことでもある。 「しかし……」 「まあ……たしかに危ういな。曹操に意見できるほどの者がこれだけの兵を率いるとあれば。他にも色々ときなくさい面がないとは言わん」  星はあっさりと焔耶の疑念を認める。星とて蜀の将として、色々なことに気を配っているつもりだ。ただし、同輩達からはなぜかあまりそのように受け取られていないのだけれど。 「だが、焔耶、それだけか?」 「わからん」  問いかけに、焔耶は忌々しそうに首を振る。手を胸にやり、なにかが喉にからまっているとでもいう風にとんとんと指で叩く。 「だが、なにか、ちりちりくる。それが桃香様に仇なすこととなれば……」 「斬るか」 「斬る」  問う声も答える声もよどみない。 「華雄がいるぞ、呂布がいるぞ、張遼がいるぞ」  歌うように当代きっての使い手達の名を挙げる。だが、それを聞いても、対する女性の表情はぴくりとも動かなかった。 「関係ない」 「頑なだな、焔耶。それは私にとっては好ましいで済む話だが……」  星は目線の高さに杯を掲げて、それを焔耶に突きつけるようにする。そこになにか感じたのか、焔耶の目がすっと細まる。 「それを軍師殿たちに利用されるでないぞ?」 「どういうことだ?」 「なに。やるならば、あくまで自分の判断でやれということだ」  酒杯があさっての方向を向き、焔耶の体からも力が抜ける。生の殺気をぶつけてまで、こやつは何が言いたいのか。彼女はにこやかに微笑む星を探るように見つめながら、腕を組んで考え込んだ。 「実際、私もお主も、しっかりと判断できるほど北郷一刀という人間を見てはいまい。将をとりまとめ訓練させる腕はあるとわかったにせよ、実戦すら間近で経験しておらぬのだからな」 「まあ、そうだな。……では、お前はまだ判断するには早計だと?」 「少なくとも人に話せるほどのものはないな」 「そうか……」 「だから、焔耶。お主もよっく観察するがいい。私もこの戦の間、天の御遣いというものがはたして我らにとって、そして、この大陸にとってどんな意味を持つのか測ってみるつもりだ」 「うむ。まずは着陣を待つか……」  少し考えた後で、一理ある、と焔耶は頷いた。  たしかに北郷一刀という男に関して懸念はある。だが、彼女自身が言ったように、まだ形になっているものではない。それがなんなのか探ってみても遅くはないはずだ。  そして、なにかが明らかになれば、またそこで考えればよい。  そこでまで思考を進め、これについて彼女の中では一段落、としかかったところで、星が唐突に呟いた。 「一つおもしろいことを教えよう、焔耶」  言葉は焔耶に向かっているのに、星の視線は焔耶を見ていない。それはまるで遠いどこか、あるいはいつかを見ているようだった。 「私はあれを一番はじめに助けている」 「……ん?」 「天の御遣いがこの世界にやってきた、その時に賊から助けているのだ。風や稟と一緒にな。おそらく私の助太刀がなくば、あの方は死んでいただろう」  焔耶は首をひねる。何の話だか、皆目見当がつかなかった。奇しき縁ではある。だが、それがなんだというのだろう。天の御遣いが現れたのは、黄巾の乱よりも前の話のはずだ。そこがいまと直結するとは思えなかった。 「……で?」 「だからだな、北郷一刀という人物をこの世に招き入れた責任は私にもあり、もしも……しっ」  星の制止を受けるまでもなく、焔耶もその近づく気配に気づいていた。しばらくすると外から兵士の声が聞こえてくる。 「右軍の楽進将軍がおいでになり、緊急で軍議を開くとのことです。両将軍もおでましあれ」 「そうか、ではいこう」 「ああ」  二人はそれぞれに片付けと用意をして部屋を出て行く。  もしも、とその後にどう続けようとしていたのか。それは、焔耶にも他の誰にももはやわからなかった。ただ一人、艶然と微笑む星を除いては。  彼女はずっとその服と対峙していた。  手に持って眺め、壁からつるして眺め、細い衝立にひっかけて、自分と同じ高さにしてみたりもしてみた。  それは黒を主として白の帯を随所に入れた、華やかなものだった。様々な装飾のために派手ではあったが、全体のまとまりがあるために、下品な印象に落ちることなく落ち着いている。各所に飾り紐や、花をあしらったと思われる意匠がちりばめられていて、目を凝らせば凝らすほど、その服にかけられた手間暇と、作り手の愛情が感じられた。  もちろん、それが『ゴスロリ』と言われる様式であることなど、この世界の人間である彼女は知るよしもない。ただ、彼女の美的感覚からいってもそれは好ましいものだった。  端的に言うと、かわいらしい。だが、かわいすぎる。  単品ならばいいのだ。こうして眺めていても悪くない。  だが、これを自分が着るとなれば、話は変わってくる。  しかし、こうして贈られてきた以上、これを自分に着てほしいということなのだろうし、といってどこに着ていくというのだ。いや、そもそも誰に見せる? い、いやいや、違うぞ。別に誰に見せなくたって……と思考の渦にはまり込んでいたからだろう。彼女はもう一人の人物が部屋に入ってきたのに気づかなかった。 「あー、お姉様、それなあに?」 「うわあっ」  かけられた声に驚いて、手に持っていた服を取り落としそうになり、慌てて拾い上げてぎゅっと抱きしめるようにしたのは、栗色の髪の快活そうな女性、錦馬超こと翠だ。 「た、蒲公英にも贈られて来たろう。一刀殿からの服だよ」  声をかけられ、手を口にあててその影でにやりと笑ったのは、翠の従姉妹でもある馬岱――蒲公英。こちらは快活を通り越して、元気が有り余っている印象があった。 「うふ、知ってる。戦勝を祈って、戦勝祝いを先渡しでくれたやつねー。かわいいよねー。あ、ちなみにたんぽぽは白で、お姉様と対になってる感じだよー」  血縁と言うこともあって、蒲公英と翠はよく似ていた。体は蒲公英のほうがまだ小さいが、たしかに対になるような服も着られるだろうことは容易に想像できた。 「着てみた?」 「あ、あたしには似合わないよ」 「えー、でも一刀兄様は似合うと思って贈ってくれたんじゃないかなあ?」  顔を真っ赤にして否定する従姉を、蒲公英はにやにやしながら焚きつける。実際、蒲公英自身着てみるまではただかわいい服とだけ思っていたものの、着てみれば縫製はたしかで着心地もいい。なにより、鏡に映してみれば、まさに自分のために作られたとわかるものだった。装飾が多いわりに肩は出ていたり、動きやすさに気を遣っているのも好印象だ。さすがにそれで戦闘をしろというのは勘弁してほしかったけれど。 「そ、そうかもしれないけど……」 「一刀兄様、さすがいっぱい恋人がいるだけあって、服とかそういうの見る目あると思うなー」 「……それ、褒めてるのか?」 「え、そりゃそうだよ。一人一人、それぞれに合う意匠を考えてるんだって。すごいよね」  蒲公英の賛辞に、聞いている翠のほうは少々あきれ顔だ。 「まあ、最初に着るのは一刀兄様がこっちについてからのほうがいいかも。ちょっと遅れるみたいだし」 「遅れる?」 「あー、うん。凪さんが着いてね。なんか大事が起きたらしいよ」  あっけらかんと言う蒲公英に対して、翠の顔からは血の気が引く。 「そ、それを早く言え。将を招集して、軍議するぞ」 「もう準備してるよー。あとはお姉様がいくだけ。いまのところうちが実質的な責任者なんだし、最後に行くようにしないと他の人が困るでしょ」 「そ、それはそうかもしれんが……ともかく、行くぞ」  翠は服を椅子に放り投げて、蒲公英をひっつかむようにして部屋を出て行く。  だが、無人となった部屋に、しばらくの後、一人の人物が戻ってきた。  戻ってきた人影は、丁寧に服を畳んで梱包すると、しばらくそれを持ったまま部屋の中をうろうろしていたが、外から彼女を呼ぶ声がかかるに至って、慌てたように行軍用の荷物の中にそれをねじこんで部屋を出て行くのだった。  2.軍議 「謀反!?」  北伐では補給を担当する右軍の大将である凪の持ってきた報せを聞いて上がった第一声は、揃ってそんなものだった。  居並ぶのは馬超を筆頭に、馬岱、黄権、趙雲、魏延、公孫賛、袁紹、顔良、文醜という将軍達。そうそうたる面々であったが、このような面子が集まって一軍をなすことがあるなど、誰が考えたことがあったろう。実際、どこかまとまりを欠く構成であった。 「は、司馬氏を中心に孔融がそれに参加しているとのことでした」  凪は淡々と報告を続ける。 「孫策どのの葬儀に向かっていた、曹操さま、北郷隊長が巻き込まれ、謀反の軍に囲まれている……ということなのですが」  そこで彼女はきまじめな顔を曇らせる。 「ただ、なぜかその場には霞さまと恋どのがおられるという話でして……」 「えぇっ。霞と恋は華雄と一緒に長安にいるんじゃなかったのかよ」 「うわあ……敵の兵士さんかわいそー」  従姉妹二人が放った反応は対照的だ。彼女たちの言葉に続いて、場は騒然となった。次々に発言が入り乱れ、将達はそれぞれの思惑でその場を取り仕切ろうとし始める。 「ま、まずは一刀殿たちの無事を確認するために、いったん兵を南に……」 「しかし、北伐で中央が手薄になっているとはいえ、謀反を起こすなど……」 「司馬氏の根拠地は河内か。あまりに洛陽に近いな、無視するわけにもいかないか」 「我々がどうこういう話ではなかろう。これは魏の内部の問題なのだから」 「いや、曹操殿が丞相であることを忘れては……」  意外にも、その喧噪を破ったのは、くるくるとまるまった膨大な金髪をふりたてる袁紹こと麗羽の声であった。 「皆さん、騒ぎすぎですわ。落ち着かれたらいかが?」  あまりに予想外な発言に全員が唖然とする中、それまで黙って腕を組んでいた黄権――祭が顔を上げた。鬼面の奥で楽しそうにきらきらと目が輝いている。 「ほう、袁紹殿は率先して騒ぎ立てるものかと思ったが。意外じゃな」 「当たり前ですわ。華琳さんと我が君が一緒に居て、何事か起こるわけがありませんもの。皆さんが心配するまでもなく、無事に決まっておりますわ」  それが天地の理というものですわ、と言い放ち高笑いを決める麗羽の姿はあまりに傲然としていて、言葉を挟める者がいない。ただ二人、祭と星だけが何事か感心したように微笑んでいた。 「そ、そうだな、まずは落ち着こう」  土地柄、現状のとりまとめ役ということになっている翠の言葉で、固まっていた一同は皆座り直したり、背筋を伸ばしたりして仕切り直しという態勢になる。 「お姉様が一番動揺してた気もするけど……」 「う、うるさい。混ぜっ返すな。えっと、それで、叛乱に対してはどう動いているんだ?」 「すでに秋蘭様の部隊と親衛隊が華琳様救出と司馬氏の本拠地に向かっております」 「しかし、それでは洛陽が手薄にならんかの?」  一度軍議が形になれば、歴戦の将ばかりなだけにその進行は円滑なものであった。先ほどのように一度に発言するでもなく、会話がつながっていく。 「そこは我々北伐右軍のうち、中央軍の補給担当部隊が北上をしばし止めて洛陽内外に留まっておりますので。沙和も洛陽近くの街道沿いにおりますし」 「こちらの進軍のほうはどうなる? 皆が無事だったとしても、北郷が来るのが遅れるとなれば、予定にも影響するんじゃないか?」 「んー、でも、いまそれを言ってもねえ」 「まあ、焔耶の言うこともわかるけどな。あたしらとしてはそのあたり気にせずにはいられないしさ」 「細かいところは私にはわかりませんが、いまのところ、左軍は予定通り周辺地域の安定化と、進軍予定地域の情報収集を進めるように、とのことでした」  現実的には金城に兵が駐屯しはじめた時から、左軍地域の北伐は始まっていると言えた。最高司令官の遅参は大きな問題ではあるが、一時のことであれば、それを補えないわけではない。 「もし北郷殿の着陣が遅れても滞りなく進めるよう、準備万端にしておけということですかな」 「そうじゃな。進軍地域には翠殿の顔なじみもおることじゃし、敵対するにせよ融和するにせよ、そちらに連絡をとってもろうたり、やることはいくらでもあるからの」 「んーと、じゃあ、まずは武威あたりまでの諸勢力の鎮圧と取り込みに関して考えて実行しておくというのは?」  白蓮がしごくまっとうな案を提言する。彼女は一勢力を率いたことがあるだけあって、なにかをまとめる能力は他の者たちより優れていた。ただ、それは動きが中途半端になるという弱点にもつながっていた。 「妥当な案ですな。つまらないですが」  それを突くのは以前は彼女の客将をしていたこともある星だ。 「つ、つまらないとか言うなよ。戦ってのはこういう地味な積み重ねがだなあ……」  間に時折かけあいと脱線を挟みながら、そうして軍議は続いていくのだった。  軍議が終わり、皆が退出したあとでも、麗羽、斗詩、猪々子という袁家の三人組は居残ってお茶とお菓子を楽しんでいた。 「麗羽様、本当に落ち着いてましたねー」  何杯目かの茶を淹れながら、斗詩が感心したように会議を振り返る。 「おーほっほっほっほ。これが貴人の余裕というものですのよ、斗詩さん」  それから麗羽は少し考えるように腕を組んだ。 「まあ、それでも、さすがに沮授さんからの報せがなければ心動かしてしまっていたかもしれませんわね」 「そうですねー。最初聞いたときはびっくりしましたけど」 「でも、アニキのところの軍師が噛んでるなら、あたいらがどうこう言ってもなー」  沮授は今回の叛乱と、その裏に賈駆の策が絡んでいることをどこからかつかみ、かつての主、麗羽に知らせてきていた。麗羽は軍議の面々の中で、最も叛乱に関して情報を得ていたと言えよう。 「沮授さんや田豊さんたら、袁家が傾いた途端姿を消したことを恥じているのか、どうでもいいことまでいちいち報告してきて少々うっとうしいと思っていましたけれど、役に立つこともありますのね」 「でも……あんまりやりすぎると、沮授さんたちの立場どころか、姫の立場が……。いまは一刀さんの部下なんですし」  茶杯を配りながら、斗詩がおずおずと口にする。 「んー、それなら、いっそアニキにはっきり断っておけばいいんじゃない? 誤解されないように。あと曹操さんとか?」 「そうですわね。我が君がおいでになりましたら、お話ししておくことにしましょう。まあ、あまり気になさるとも思えませんけど」  斗詩も麗羽の言うとおり、一刀や華琳が気にするだろうとは思っていない。しかし、その他の人間までそうとは限らない。袁家の名前や、かつての領土の広さを考えると、いまの立場ではあまり目立たないにこしたことはない。 「でも……アニキ、心配だなあ」  なんとはなしに沈黙が続いた後で、ぽつり、と猪々子が呟く。 「猪々子さん」 「だめだよ、文ちゃん。みんなそう思っても押し殺してるんだから。それに……一刀さんだもん。大丈夫」  注意する二人に、むーと不平の声を漏らしていた猪々子だったが、すぐにからりと笑う。切り替えが早いのは彼女のいいところであった。 「まあ、そっか。あんまり口にしてもいけないよな。さって、兵の様子でも見てくるかなー。行こうぜ、斗詩」 「あ、うん。じゃあ、麗羽様。行ってきます」 「はいはい。せいぜい袁家の名を辱めぬようがんばっていらっしゃい。おーっほっほっほっほ」  二人が去り、ぽつんと取り残される麗羽。  そこにいてもしょうがないので、一人、自分たちの部屋に戻ってみるものの、やることがあるわけでもない。いや、実際には仕事があるのだが、そのほとんどを斗詩に任せているので彼女自身の意識にはないのだ。 「……暇ですわね」  特にあてもなく部屋の中を歩き回るうち、彼女の目が一つの袋にとまる。 「我が君に頂いたこれで遊びましょうか」  ばらばらと袋から卓に落とされたそれは、一刀がかつて彼女たちに贈った玩具だ。木片を同じ大きさに切って、丁寧に面取りし、荒い布で削り磨いた直方体の群れは、『慈圓画』とかいう天の国の遊びのためのもの。  彼女は丁寧にそれを積み上げて塔を作り上げると、子細に観察して、一つ一つ直方体を抜き取っていく。 「よっ、はっ。お、これですわね」  うまく抜き取り、さらに高く積み上げられていた塔は、しかし、不用意な接触でばたり、と卓の上に倒れてしまう。抜き取った直方体の一つを手に持ったまま、麗羽は一つ大きなため息を吐く。  体を丸め、両手で木片を包み、口元にあてる。  嗚咽が、漏れないように。 「我が……君……」  北の地に、叛乱軍潰滅、曹操、北郷共に無事の報がもたらされるには、まだ半月以上の時を必要としていた。  3.戦場  魏の軍部を統べる将軍夏侯惇は、夜の空を見上げながら剣を大地に突き立て仁王立ちしていた。夜番の歩哨たちが、怯えて近づけないほどだ。 「むー」  不機嫌そうな声を漏らすその影に、とてとてと近づいていく背の低い影。頭になにかのせたその影は相手の様子には頓着もせずのんびりと声をかけた。 「どしましたー? 春蘭さま」  問いかけたのは、魏の三軍師の一人にして、この北伐のとりまとめを行う程c。真名は風。頭にのせているのは、彼女の相棒宝ャだ。 「いや、もっと早く行かねば、謀反人どもをやっつけるのに間に合わぬではないか」 「そうは言いましてもですねー。これでもだいぶ兵を絞って足を速めてるんですよ」 「わかってはいるが……」  風の言うことを、春蘭とてわかってはいる。北伐中央軍は三十万の威容を誇るが、さすがにそれを全て転進させるようなわけにはいかない。いま引き連れているのは、彼女たちの直属の部下達で、軍の中でもかなりの練度を誇る。  これ以上の速度を要求するには騎馬の兵だけに絞る必要があるものの、騎馬は左軍に割かれているため、それをすれば極端に寡兵になってしまう。  夜間行軍を強行するという手もあるが、華琳救援の軍はすでに洛陽から出ているであろうことを考えると、そこまでするのもためらわれる。 「ま、もともと間に合うとは思ってませんけどねー」  春蘭の逸る気持ちはわかるものの、国全体を見据える風としてはまた違った見方があった。  叛乱軍など数にすればたいしたことはない。いずれ洛陽の軍が動けば討ち取れる程度のものだ。  だが、より大事なのは、謀反で浮き足だった民を慰撫することだ。彼らに魏軍健在なりと見せつけ、さらには司馬氏の後背を脅かすことで実際の討伐行を容易ならしめる。これらの要求があるために、行軍はそこまで急ぐ必要もなく、また急いではならなかった。 「なにか言ったか?」 「いえ、それよりもですね。残してきた季衣ちゃんから連絡が来ましてー」  風は本来の目的であった書簡を春蘭に渡す。かがり火の近くに寄り、それを読み進み出した春蘭の額に皺が寄り始める。 「自害だと?」  そこには、彼女の軍中にあった司馬烽ェ自害したという報告があった。 「はい、春蘭さまに申し訳がたたないという遺書があったようですー」  春蘭はくしゃりとまとめた書簡を風に突き返すと、背を向けて、ぽつりと一言だけ言った。 「莫迦が……」  その背後で風は丸め直した書簡を懐に入れ、しばらく様子を見てから声をかけた。 「一族が死んでいくのを見るのが忍びなかったんでしょう」  くるり、と春蘭が向き直る。その顔に先ほどまでの暗い翳はなく、ただ、決意に充ち満ちていた。 「しかし、華琳様に逆らった愚か者どもには、鉄槌を下さねばならん」 「もちろんですー」 「それに、こうなると我らが直に華琳様をお迎えにあがるほうがよいだろう。兵の士気も上がる」  彼女の申し出はもっともで、風としても異論はなかった。 「そですね。ともかく、周辺の動揺を治めつつ、南下するとしましょうか」 「うむ」  そうして、二人は並んで夜空を見上げる。それぞれの思いを胸に。  河内司馬氏の城から洛陽までは、黄河を渡ることを考えても二百里あまりしかない。その近さは、洛陽を脅かす側にとって圧力をかけるに十分なものであったが、裏を返せば、洛陽から攻めようと思ってもたやすいということを意味していた。  まして、呉や蜀まで攻め寄せた魏軍にとって、それほどの距離は遠征などとはとても言えぬものであった。  渡河を妨害されるかもしれぬと少々離れたところで艀を組み、攻城兵器を載せて夜間ひっそりと河水を渡ったのが功を奏し、討伐軍は被害を受けることなく黄河の北岸に立っていた。  こうなると散発的に叛乱軍が襲ってきても、主力を親衛隊が占める討伐軍に歯が立つわけがない。無理をすることなく進軍し、軍は叛乱軍本城から南に下ること二十五里のあたりに陣取ることとなった。  最後通牒を城の司馬氏が受け入れなければ、明日か明後日には戦になるだろう。討伐軍を率いる親衛隊長典韋――流琉はそう思いつつ、陣の中で整備されている衝車の群れを眺めていた。 「いやあ、いいですねえ、攻城戦。大量の衝車でどーんっ」  うきうきと呟くのは、今回軍師役として流琉につけられた張勲こと七乃だ。その傍らには彼女の主、袁術、すなわち美羽もいた。 「本当に大量ですね。よくこんなに……」 「ふふふー。実はこっそり作ってたんです。洛陽の城を落とすために」 「……七乃、さん?」  さらっと恐ろしいことを言われたような気がして、流琉は大きな目をさらに見開いた。 「……というのは冗談で、たいていが廃物利用ですよ」 「廃物利用?」  この人の冗談は心臓に悪い、と流琉は思いつつ平静を取り戻して聞き直す。 「魏の工兵部門には他国では考えられないくらい予算が投入されているのは知っています? それも真桜さんっていうとんでもない技術者がいるからで、実際に成果も上がってるんですけど。ただ、いくら真桜さんがすごくても、新兵器開発の過程ではいくつも失敗作ができるんです。真桜さんじゃない、部下の人たちが作ってる場合はなおさらですねー」 「それを利用したってことですか……?」 「ええ、新兵器には役立たなくても、衝車みたいに広く知られた単純な構造のものになら使いようがあるんですよ。それこそ、今回の城攻めだけで壊れたって構わないわけですし」  言われてみれば、多くの衝車にはつぎはぎしたような跡がある。もしもこの部隊の指揮官が真桜であったならそんなことは許されないだろうが、使い捨てにしてもいいと考えている七乃にとってそれはどうでもいいことのようだった。攻め寄せる城壁もろとも壊れてしまってもいいのだ。 「まあ、この手のものは北伐には使いませんからね……」  流琉としても兵器自体に思い入れはない。兵を損なうのでもない限り、七乃のやり方を訂正する必要もないだろう、と判断する。 「七乃ー。あれを見てきてよいかの」  美羽がぱたぱたと手を振りながら、いましも形になろうとしている大型の攻城櫓を指さす。さすがに大きいのでいくつかの部品にわけて持ってきたものを組み立てているわけだが、彼女はそうやって組み上がっていく様子がおもしろいらしく、興味津々に眺めていた。 「いいですよー。兵たちの近くに寄りすぎると危ないから、少し距離を取るんですよ」 「わかったのじゃ」  蜂蜜色の髪をふりふり走っていく美羽と、それを慈しむように眺めている七乃を見ながら、少し声を潜める流琉。 「でも、よかったんですか? 七乃さんはともかく、美羽さんは洛陽にいてもらってもよかったと思うんですけど……」 「私は美羽様のお側を離れないと決めていますし、それに……あの人が居るのに美羽様一人残すというのはちょっと」 「あー……雪蓮さんですか」  にこにこといつもの調子で返答する七乃に、納得した、というように頷く流琉。 「いまさら遺恨はないと思うんですけど、無用な騒動の可能性は避けた方がいいかなーって。一刀さんでもいれば別なんですけどね」  そもそも一刀が都にいれば、この討伐軍に自分たちが呼ばれることなどなかった気もするが、と七乃は思う。一方、流琉のほうは、一刀の名前が出た途端、心配そうに顔を歪ませた。 「兄様たち……大丈夫でしょうか」 「うーん。でも、恋さんたちがいますからねえ。心配なのはどっちかというと敵軍のほうなんじゃないかと……」 「……たしかに」  流琉は七乃の指摘に苦笑するしかない。そうはいっても心配する気持ちは変わりないのだが、武勇に優れた恋や霞がいることを思い出せば、あんまり気に病んでも仕方あるまいとも思えるのだった。 「正直、華琳さんに謀反するなんてかなりのお莫迦さんだと思いますけどねぇ。どうなるかわかってなかった……あれ? お嬢様?」  兵器を見ていたはずの美羽が手になにか持ってこちらに戻ってくるのを見て、七乃が不審げに声を上げる。彼女は美羽の飽きっぽさを正確に理解している。興味が他のものに移るには、あまりに早すぎた。  だが、そんな七乃の驚きをよそに、美羽は近寄ってくると、手に持っていたものを流琉に渡した。 「なにやら伝令がきておったのでな、持ってきてやった。北伐中央軍からの書簡じゃそうじゃぞ」  おー、美羽さまえらーい、そうじゃろそうじゃろ、もっと褒めてたも、という主従のかけあいを横目に、流琉は渡された書簡を確かめる。たしかに春蘭と風からのものらしい。 「……えーと……」 「春蘭さんからですか? なんと?」  読み返し、内容を理解した上でくるくるとまとめ直す。流琉はそこでは七乃たちに答えず、司令部となっている大天幕に戻るよう促す。  そうして、三人で共に天幕に入った後で、彼女は顔を引き締めて二人に対した。 「司馬烽ウんが自害されたそうです」 「司馬焉H」 「いま攻めている司馬氏の当主ですよ」  主の疑問に答える七乃だったが、その言葉に美羽はさらに疑問の表情を浮かべる。 「んや? それは城におるのではないのかや?」 「司馬烽ウんの弟の司馬懿さん系統がほとんどみたいですねー。ただ、司馬烽ウんの息子さんとかもいるようですけど……」 「司馬家では、長兄の司馬烽ウんが中央で華琳様にお仕えして、その他の者は地方の官にしかついていなかったようなんです。司馬烽ウんがいない間は、司馬懿さんが一族をまとめていたみたいですね」 「ふむ、長く本拠地を離れておる当主より、その兄弟姉妹が家を掌握しておったわけじゃな。ようあることじゃ」  美羽は豪族の家庭の事情や、そこで行われる権謀術数には慣れっこだ。まさに自分自身が強大な袁家という名族の中で育ってきただけに、その理解は早い。 「とはいえ、家長が己らに合流するでもなく敵の軍中で自害したとなれば、さすがに城に詰めておる者らの士気も落ちるのではないかや? いや、自害させられた、と思うじゃろか?」  うーむ、と腕を組みうなる美羽。その髪が彼女の動きに合わせてゆらゆらと揺れる。 「どう……なんでしょうね?」  流琉は、七乃に向かって助けを求めるように訊ねる。華琳の下で軍略や政治のことなど様々に学んできた流琉であったが、いまだそれらに精通しているという自信はない。特に計略や人心の動きについては一日の長がある七乃に頼るのは当然と言えた。 「んー、七分三分ってところですかねー。城の後背も警戒してますから、まだあちらも知らないでしょうし、早く知らせるのは誠意と伝わって、投降を促せるかも知れません。ただ、下手をすると、さらに発憤してしまうかもしれませんしねぇ」  吉と出るか凶と出るか。もし吉と出て投降を決意してくれたら、それはそれでありがたい、と流琉は思う。  凶と出れば……戦うまでだ。 「わかりました。司馬烽ウんの自害を伝えると共に、投降を促す文を城内に送ろうと思います。もしこれでうまくいかなくとも、城を攻める予定に変わりはありませんから」  決断を下した後で、彼女はためらいがちに申し出る。 「そこで、申し訳ないんですが、文面を考えるのに七乃さんもお手伝いしてほしいんですが……」 「ええ、いいですよー。えっと、じゃあ、お嬢様を送ってきますね。その間に流琉さん、春蘭さんからのお手紙に、司馬烽ウんがどうやって死んだかとか、何か言葉を遺したかとか書いてないか確認しておいてください。盛り込めるかもしれませんし」  快く受け入れてもらい、ほっとしたように頷く流琉。 「はい。では、そのように」  そうして、美羽を連れて流琉の大天幕を出たところで、七乃は小さく頭を下げた。  ごめんなさい、流琉さん。  たしかに自害を知らせるだけなら、司馬氏が降伏を選ぶ可能性の方が高いでしょう。七分三分というのもけして間違いではありません。  しかし、だめなんです。  きっと、敵は降伏どころか最後の一兵まで戦うでしょう。  なぜなら、私と美羽様の名前が書かれた書簡を送るということは、司馬懿の仇が攻めてきていることを示すなによりの証なのですから。  司馬家の兄弟で最も優れていると噂された傑物は、私を通じて美羽様に賄いを贈ったことで死を賜ったのですから。  彼らはけして許さないし、なにより、自分たちが生き残れる望みはないと、二人の名前を見て悟るでしょう。  だから……。 「どうしたのじゃ? 七乃」  棒立ちになっている七乃を、美羽は不思議そうに見上げていた。その目にあるのは信頼と気遣いだけ。 「え、いえ。なんでもありませんよー。あ、そうだ、美羽様。もし、美羽様は一刀さんを困らせる人がいたらどうします?」 「ん? そのような輩がおるのかや? もちろん、この妾が成敗してくれるに決まっておろ」  元気よく腕を振り上げて宣言した美羽は、しかし、何事か考え込むようにその小さな頭を下げた。 「あ、じゃが、一刀の敵ならば、華琳や麗羽ねえさまが先に手を下したがるかもしれんの。そのあたりは……早い者勝ちでよいものかの? 七乃。いや、やはり、籤で……」  七乃は、真剣に悩み始める美羽を見ていると、胸につかえていたものが氷解していくような気がした。 「ええ、そうですねえ。どう決めましょうねえ」  朗らかに笑って、彼女は美羽の手を取った。 「さ、行きましょう、美羽様」  美羽を自分たちの天幕に送った後、七乃は本陣の兵士たちの様子を眺めながら、いつも通りの笑みを浮かべる。  そうして実に楽しそうな微笑みをたたえたまま、彼女はかつて寝物語に一刀から聞いた天の国の歌劇の一節を、口の中だけで呟くのだった。 「鏖の雄叫びをあげ、戦いの犬を野に放て」  Cry "Havoc". Cry "Havoc".  戦争という厄災が、ここにもやってくる。  4.名馬  人が通る場所だけ申し訳程度に草を刈り取ったような街道を、二騎の騎馬が行く。片方は威風堂々、馬も乗り手も一体化したかのような動きで。残る一騎は、馬の動きにようやく主が合わせているという具合の。  あまりに対照的で、見る者はなぜ彼らが連れ立っているのかわからないと思うほうが多かったろう。  だが、先を行く馬上の人物は、背後の乗り手の技量よりも、その馬自体を気にしていた。 「なあ、一刀。なんでその馬なん?」  振り向いて訊ねるのは、大陸でも三本の指に数えられるであろう騎将、張遼。 「え? いや、城の人が、これは名馬って言われてたんだって……。実際、戦ではよく動いてくれたし」  答えるのは、その恋人、北郷一刀。 「たしかにええ馬やったろうけどな……。それ、もうあかんで」  前に向き直り、霞は全く飾らずに告げる。 「え?」 「年や。もうがたが来すぎとる。こないだの戦が最後の輝きっちゅうやつやったんちゃうかな」  霞の言葉に、一刀はその馬を見下ろす。けして、ぜえぜえと荒い息をしたりはしていないが、前を行く絶影を追うのが精一杯という風情はあった。絶影は紛れもなく名馬であり、霞もまた名人である。その相乗効果に対して、自分の技量の無さが負担となっていると思っていたが、そうではないのかもしれない。  そして、こと馬に関して、張遼の目利きが外れるとも思えなかった。 「昨日から右脚を引きずりがちだったけど……」 「疲れとるんや。けど、その疲れはもう取れへん。若い馬なら一日二日引いてけば直るやろけど、その馬やとずっと引きずるやろな」  二人は馬を進める。途中から、一刀は馬を下り手綱を引いて歩き出した。霞も無言で絶影の歩みを合わせる。 「……どうすればいいんだ?」  どれほど経ったか。一刀は低い声で霞に訊ねていた。 「建業まではとてもやないけど保たん。どこぞで放すか……看取るか。どっちかやな」 「放すったって……ずっと人に飼われてた馬だぞ?」 「せやな。のたれ死なすか、己で殺すか。まあ、どっちでも変わらんな」  いい草場を見つけられれば、数日、あるいは数週間は生きていられるかもしれない。けれど、そんな草場にはそこに集まる獲物を狙う肉食獣も現れる。虎とは言わず、野犬の群れでも死ぬ間際の馬一頭狩るのは難しくない。 「霞。俺の荷物、絶影に載せていいかな?」 「ん」  一刀の決断を、霞はいたって自然と受け入れた。  それから二日の時が過ぎ、江水の水の香りが漂ってきそうなあたりの森にまで南下した時、ついに一刀の馬はその足を止めた。  一刀が手綱を引いてもまるで動こうとせず、黒い大きな瞳は、不服従の猛る心ではなく虚無を映していた。 「いよいよあかんな」 「そうか……」  ゆっくりと首をなでてやるのにも、もはや反応は薄い。動いてもいないのにじっとりと汗をかき、そのくせ時折覗かせる舌は乾ききって見えた。 「ここで絞めたるんが情けや思うで」 「……俺にできるか?」  だが、一刀の問いに、霞は決然と首を振る。 「楽に逝かせてやりたい思うんならうちに任せたって」  霞とその馬が木々の向こうに消えていくのを、一刀は何も言えずに見つめるしかなかった。絶影が鼻先を彼の首筋にこすりつけてきてくれたのが、ただ一つ救いだった。  一つ大きないななきが響く。高く、儚く、空に消えていくような苦鳴。  そして、それが終わると静かになった。  その後、彼は霞に呼ばれた。  死んだ馬の皮を剥ぎとって広げ、その上で肉を切り取り、血を即席の革袋で包み込む。霞の小刀さばきは慣れたもので、彼女が何度もこういう経験を積み重ねてきているのだと如実に語っていた。  年老いた馬の肉は筋張ってけして美味いものではない。だが、肉は肉であり、そして、なによりそれが死んだものへの礼儀だろうと二人はわかっていた。  だから、二人はその作業を行う。  無言で。  ただ、粛々と。  森の中心付近には、それほど小さくもない泉があった。おそらく、地下水脈かなにかで江水とつながっているのだろう。水は澄んで、小魚たちが泳いでいる。  二人は馬の骨や内臓を埋めた後で、その池で水を浴びることにした。 「ふぃー。しかし、しばらくは絶影に二人乗りやなー。まあ、下手な馬買うよりは、建業で譲ってもらうほうがええやろし、しばらく我慢したってな」  霞はさっさとさらしと袴を脱いで水の中に入ってしまっていた。血自体はそれほどついていなかったが、精神的にも、どこぞの獣を寄せつけないためにも、血臭ははやめに落としておきたかった。  髪留めも外し、長い髪を垂らす姿は比較的珍しい。均整の取れた体に、濡れて色を濃くしたようにも見える髪が張り付く様は、見る者の心臓の鼓動をはね上げるに十分だった。 「あ、ああ、そうだな」 「……一刀、なんではいってきーひんのー?」  一刀のほうも上半身は脱いだものの、なぜか水を手でかけるくらいで、本格的に入ってこようとしない。汗もかいたろうし日差しのきつさもある。水の冷たさを警戒するなんてことはないはずなのに。 「あー、いや、ちょっと恥ずかしくて」  予想外の返答に、霞はちょっとむくれる。 「なんや、いまさら」 「だってさ、霞、綺麗すぎるから」  そう。一刀の目には、その泉で水を浴びている女性の姿はあまりに美しく感じられた。  全体としては細いくせにしっかりとしなやかな筋肉が乗り、それに支えられる大きな胸ははちきれんばかりに突き上げられる。脇腹から腰を下り、かわいらしい尻につながる曲線のなんと完璧なことよ。割れた腹筋をうっすらと肉が覆い、そこから下腹部のかげりにつながる地帯のなんと悩ましく彼を惹きつけることか。  そして、なにより、玉のように水を弾き、きらきらと輝いている彼女の肌。その腕や足の一挙手一投足は猫科の動物を思わせて、この森に君臨する女王のようにすら思えるのだった。 「……あー、もうあかんわ。もう、もう」  わけのわからないことを言っているのは、きっと照れているからだろう。けれど、けして体を隠すことなく、逆に抱き留めるように手を広げてみせる。 「だいたい、うち、普段からさらしや袴しかつけてへんやん」 「それとはやっぱり、違うよ。いまのこの姿は、他の誰にも見せたくないものだよ」  広げられた手は彼を招いている。そのことがはっきりとわかった一刀は、下の服も抜き始める。 「……はいってき?」  しかたないな、と覚悟を決めて水の中に進む男のものはすでに隆々と立ち上がっていた。女はそれを見て、声を出す前に乾燥した唇をこすり合わせて湿らせずにはいられなかった。 「興奮したん?」 「ああ」  ざぶざぶと水をかき分けて進んでいけば、女の熱い体が彼を抱きしめる。肌の上を彼女の指と、彼女の体から弾かれた水滴が流れなぞっていく感触に、男は身を震わせる。 「うちの体見ると、一刀のんはこうなるん?」  軽く握りしめるようにして、指を絡ませる。その硬さよ、その熱さよ。男の肌から漂う彼の香りとも相まって、霞は頭がくらくらするような気がした。いや、実際に、彼女の意識はもはや普段とは違う場所に追いやられてしまっているのだろう。 「ああ、そうだよ、霞」  口づけられ、舌が唇を割り入った途端、女は男の興奮に自分も絡め取られたことを知った。  ちゃぷ、ちゃぷ。  水を揺らす音がする。  ちゃぷ、ちゃぷ。  頭の中で音がする。  それが泉の水が立てている音なのか、自分たちの口内の唾液が舌でかき混ぜられることで起きる音なのか、もはや霞には判別をつけることが出来なかった。  彼女は男にしがみつくようにして、水に浮いている。肩にかけた腕の力と浮力のおかげで脚を彼の腿にひっかけるようにして浮き上がることができるのだ。  だが、彼女の体を本当に支えているのは、彼女の秘所に突き立てられた熱い熱い男のものに他ならなかった。  突き上げられる度、快楽と共に彼女の尻がはじけ上がり、水の中に沈みそうな不安感にしがみつく力を強くすると、その動きで中をこすり上げられて、さらなる快感が走る。  すでに彼女の口から出るのは、意味のないあえぎと、男の名を呼ぶ声だけ。そして、舌は彼の舌を求め突き出され、柔らかなそれに包み込まれることを欲し続ける。  彼女の体を支えつつ、尻たぶや腿をなでる指の動きの巧みさと、時折それがもたらす軽い痛み。それがより愉悦を高め、彼女を遥か高みへと追い詰めていることを、わかっていながら霞は受け入れる。いや、かえって貪欲に願う。 「一刀、一刀ぉおおっ」  もう何度果てさせられたか、もう幾度熱いものを注ぎこまれたか。  そのことすらもうわからない。  ただ、彼女は愛しい人の肌と、自分の肌が解け合ってしまえと切望する。この腕も、脚も、肌も胸も腰も尻も、熱く潤んで彼の形に変えられてしまった女陰も硬い硬い男根も、全て一つになってしまえばいい。  きっと元々一つだったのだ。そうでなければ、こうして一つになろうとして、こんなにキモチイイわけがない。そうでなければ、少しでも離れようとするだけで、こんなに切ないはずがない。 「一刀ぉおおおおおおっ」  だから、きっと、視界が光に包まれるような悦楽を感じたその時、彼らは一つだった。  夢中で幾度もお互いをむさぼり合い、気づいてみれば、すでに日は暮れかけていた。しかたないので池でもう一度汗を流し、絶影も洗ってやった後で野営を始める。  焚き火で焼き上げた馬の肉を塩につけて食べながら、一刀は腹具合と相談しつつ、荷物を枕にねそべって酒杯を傾けている霞を見る。 「これ、俺たちで喰いきれるかな?」 「んー、まあ、今日明日明後日くらいは普通に食べるとして、その後は保存を考えなあかんなあ。まだ暑いし、こっから先は余計暑なるやろし」  暦の上では秋に入ったとはいえ、まだまだ暑さは頂点を極めたとは言えず、江東の地ではなおさらにそれは激しいものとなっていた。二人が日暮れ近くまで肌寒さを感じなかったのは、お互いの肌の熱を感じていた以上に、周囲のそんな環境が影響していたと言っていい。  だから、きちんと処理をしなければ、建業に至るまでに腐ってしまうだろうことは容易に想像できた。 「数日で江水も越えるだろうし、その後は大使館で塩漬けにでもすればいいんだけどな」  現状では調味料に使う分はあっても、さすがに漬けられるほどの塩は手元になかった。 「でも、それまでに傷んでもうたらなあ……。慣れん土地で中るんは勘弁や」  それから彼女はぼんやりと周囲を見回し、しばらく先に、大半が藪で隠れている古い倒木があることに気づいた。 「せや、ええこと思いついた。明日やってみよ」 「北郷たちはまだか……」  江水に浮かぶ船の上で、思春は飽きることなく北方を見据えていた。すでに華琳達を囲んでいた軍が潰滅したことは早馬の報せで知っている。それを受けて明命率いる陸上部隊は引かせたものの、水上の部隊はいまだ警戒態勢を保っていた。叛乱後の混乱収拾のために洛陽に戻る曹操に代わって葬儀に訪れるはずの北郷一刀たちを出迎える任がまだ残っていたからだ。  謀反の残党が手を出す危険は低いとはいえ警戒するにこしたことはない。なにしろ、こちらは招いた側なのだ。  そんなわけで、彼女はこのところずっと江水を行き来しつつ異変がないか、客の到来の予兆がないかと探っていたのだ。 「なんだ、あれは」  そんな彼女の目に、もくもくと上がる煙が見えた。岸からほど近い森の中央付近、大量の煙が煙突から吹き上がるようにして空に昇っていく。  尋常ではない、と彼女は判断した。森の中の焚き火程度なら、木々の葉で紛れる。あれほどの煙を吐くわけがない。 「兵を集めよ」  思春は手近にいた武官に命を下す。命令を受けた男は、緊張の色を表情に乗せて答えた。 「しかし、北岸は魏領……」 「少人数での偵察だ。沿岸の治安維持のためなら、それくらいは通る。そうだな、十五人見繕え。私が直に率いる」 「はっ」  武官は命を果たそうと兵達の中でも精鋭を呼びに走る。彼の気配が遠ざかるのを感じつつ、思春は独りごちた。 「火事程度ならよいがな……」  最精鋭の十五人と呉の勇将甘寧が最大の警戒をもって切り込んだ先では、女性と男性一人ずつが、木々を削ったかけらを盛大に燃やして、木造の煙突のようなものの中に煙を送り込んでいた。  おそらく、その煙突は、内部の柔らかな部分が腐れ落ちたか虫たちに喰われたかした倒木の固い樹皮だけが残り円筒となったのを、さらに加工したものだろう。それを大樹にたてかけて、下から火であぶっているというわけだ。  その見覚えのある二人に思春は声を押し殺して問いかける。 「……なにを、している」 「あー、一刀の馬がいかれてもうてな。肉を燻煙しとるんよー」  あっけらかんと答える霞の声に、ひくひくと震える思春の頬。 「……即刻止めろ。煙が十里先からでも見えるぞ」 「これ、せっかく作ったんだけどなあ。ここに肉がつるしてあって、熱をこっちの枝の跡から分散させて、布を通って綺麗になった煙だけが直に……」  構造を解説し始める北郷一刀に大刀を突きつけて黙らせ、彼女は天を仰いだ。 「ああ、もう、まったく」  5.落日の洛陽 「最初に看たのは、賈駆だったか? 彼女の見立ては正しいな。残念ながら握る力を元に戻すにはかなりの時間がかかるだろう」  治療用の鍼を左腕全体にいくつも差しながら、赤髪の医者はそう告げた。まるで針鼠のようになった己の腕を見下ろしながら、秋蘭は一つ安堵の息を吐く。 「無理、というわけではないのだな」 「ああ、だが、元通り……いや、まずはそれに近いところを目指したとして、数年はかかる。俺の鍼を併用しても、だ」  神医とまで呼ばれる華侘はそこで破顔した。どこか人なつっこい、見る者に安心感をもたらす笑み。 「ただ、それは武将としての力を考えるからであって、日常生活に必要な握力は、半年も経たずに戻るだろう。そこからはちょっと長いけどな」 「そうか……だが、戻るならば、戻したいものだ。その間は右手だけで振る武器でも使うさ」  元々、秋蘭は右で弓を持ち、左で矢を番える変則的な構え方を得意とする。そのため、逆に持ち替えて弓を引いたりして敵を幻惑させることもできたのだが、こうなってしまえばそれも無理だ。片手剣かなにかでの戦い方を工夫せねばならぬな、と彼女は考えていた。 「とはいえ、それもしばらくは無理だな」 「ん? 馬手の動きも制限されるのか?」  さすがにそれは困るな、と彼女は身構える。だが、華侘は笑顔のまま、それを否定する。 「いや、違う。左の手首を固定していれば他の部分には影響はない。そうじゃなくてだな」  そして、それに続く医者の言葉は彼女のどんな予想をも軽く上回るものであった。 「おめでただ」 「……ということなのです」  王座に座る華琳に報告する秋蘭の顔は、複雑で微妙なものだった。喜びがあり、誇らしさがあり、不安があり、申し訳なさがあった。できることなら、軽くかかった前髪が顔の全部を隠してくれないものだろうか。彼女はそんなことまで思っていたくらいだ。  だが、曹魏の王はそんな彼女に一片の曇りもない笑顔を見せる。 「おめでとう。一刀にも早く知らせてあげなければね」 「あ、ありがとうございます」  怜悧な印象の将は、けれど、彼女には珍しく、ほっとしたような顔つきをしていた。喜んでくれるはずだと思ってはいても、この世で最も親しい相手に実際に喜んでもらえるかどうかは不安だったのだろう。彼女は自分自身のそんな心の動きに、少々驚いていた。 「でも……困ったわね。それでは北伐に連れて行けないわ」  一方の華琳は少し政治向きに頭を切り替え、話を続けている。 「怪我のこともあるし、今回は洛陽の守将として残ってもらうことにすべきでしょうね。謀反の後始末も含めて、流琉には任せておけない部分が出てきてしまいそうだし。またぞろ朝廷が動き出してはたまらないわ」  河内司馬氏討伐に出ている流琉からは、城攻めを開始し、陥落も間近だという報を受けている。その戦自体を流琉に任せることに全く不安はない。だが、戦場以外の駆け引きとなると、流琉よりは秋蘭に、となるのは当然の流れだった。 「そう……ですね。普段ならば流琉で十分ですが……」 「不満かしら?」  奇妙にも歯切れの悪い秋蘭を不思議に思いながら、華琳は問いただす。秋蘭は慌てて顔を上げて首を振った。 「い、いえ! ご判断は正しいものだと。流琉には、まだこのような状況より、戦闘のほうが向いておりましょうし。そうではなくて、その……子を得るということが、なんだか……実感が……」 「そのあたりは私に聞くより、桂花や稟にお聞きなさいな。あの莫迦ったらいつまでも私には……」  ぶつぶつと呟く後半は秋蘭の耳にも入ったかもしれないが、少なくとも彼女は聞こえたような素振りは見せなかった。  なんだか弛緩したような沈黙が続く中で、華琳は布と木ぎれで丁寧に止められている秋蘭の腕に目をやる。 「そういえば、腕の力がなくとも子供を抱きあげたりはできるのかしら?」 「手首から先が弱いだけなので、腕全体で支えれば問題ないそうです」 「なんだ、しっかり聞いてきているじゃないの」 「そ、それは……はい」  呆れたように言う華琳に、照れたように返す秋蘭。二人は顔を見合わせると、息を合わせたように笑い出した。  その日、曹魏の謁見の間には、温かな笑い声が溢れていた。  都の表舞台とは対照的に、洛陽の奥深く、この都の主にしてこの大陸の頂点たる帝の謁見の間には、冷え冷えとした空気しかなかった。  両側に居並ぶ近衛兵の列からさしかけられる戟で作られた三角形の空間を、華琳はかつかつと足音も高く歩く。皇帝の一声があればすぐに処刑できる、という皇帝権力の絶対性を示す古い儀式の変形だ。  本来は近衛の兵が両脇から戟を首にあて、交差させて押し出すのが正しい形であるが、三国の覇王にそこまでやる勇気のある者はいないらしく、中途半端な儀礼復活となっていた。  まあ、これでもこけおどしにはなるかもしれないわね。  冷静に評するのは華琳であり、逆に戟を捧げ持つ近衛の兵たちのほうが恐怖と緊張に脂汗を垂れ流していた。もし一歩でも動けば、死ぬのは自分のほうだと知っているかのように。  戟の屋根の下を抜け、皇帝の側近くに仕える文官達が這いつくばる中を通り抜け、それでも玉座までの距離は百歩を優に超えていた。  この宮を設計した者は、なんでもかんでも大きく広くすれば偉いとでも思っていたのか、それともなるべく人を近づかせない単なる安全策か。  華琳はそんなことを考えながら、ずんずんと帝の座る玉座へと近づいていく。もちろん、しきたりを破る行為ではあるが、誰も咎めることは出来ない。実際、当の帝からしてそれを止めようとはしていなかった。  玉座まで約十歩、他の者には会話が聞き取れない位置までくると、華琳は膝をつき、礼を取る。さすがに叩頭まではしないものの、深く頭を下げて臣下の礼を十分に示す。  免礼の言葉をかけられて立ち上がり、次いで帝からの問いを受けて華琳が返す。 「ええ、孔融の謀反の件をご報告に。孔融は死にました。我が配下が討ち取りました」  驚愕の気配。その気配に不純物が混じっているかいないか、華琳はじっと観察する。 「まあ、あなたが言うなら口調を崩すわ。孔融は息子と娘がいるけど、戦には加わらなかったので罪には問わないわ。孔家の者だし、心配せずとも自ずと芽を出すでしょうよ」  肯定と疑義。華琳は肩をすくめて答える。 「時流に乗れなかった者というのはいるもの。そして、それをなんとか挽回しようとあがくうち、幾人かは近道という陥穽にはまるのよ」  おもしろがるような声。 「帝がそう思われるならば、そうなのでしょうね」  華琳はそこで笑みと共に付け加えた。 「今日は慶事があったからね、機嫌がいいの」  期待に弾む手拍子。彼女は、はぁと失望したように息を吐く。 「前々から何度も言っているけれど、私自身がその座に登るつもりなんて毛頭ないわ。たしかに武で統一したけれど、それではあなたのご先祖の光武帝や高祖と変わらないじゃない」  嘲弄。受ける笑みも猛々しく。 「ええ。それが不敬だというなら罰してみなさい。劉邦は侠の親分だったし、劉秀は田舎豪族に過ぎなかった。そして、私は宦官の孫。それらは単なる事実よ。同じように時を得て大陸に覇を唱えた。ただ、私は帝になる気がないだけ」  玉座から発せられる純粋な疑問。 「それでも、よ。漢朝は二百年ずつ続いた。けれど、新たな朝廷は、五百年、千年を目指さなければならない。そのために必要な天子を、私は欲しているの」  沈黙。 「もちろん、それはあなたなのかもしれない。現状で帝位にあるあなたには大いにその資格があるのよ?」  それに答えるのは、一言だけ。 「そうね。わかったわ。では、しばらく待っていなさい。あと数年のうちに、あなたの望み通り、あなたの帝国を打ち滅ぼす者が現れるでしょう。せいぜい派手な終幕を楽しみなさい、陛下」  そう言い捨てて、華琳は踵を返す。因習と伝統に凍りついた古き大国の帝を置き去りにして。  6.桃園の姉妹  一刀たちは、建業につくと大使館に顔を出すこともせずに急いで王宮へと向かった。華琳が訪問できないことを呉と蜀の二国の王に断るためだ。  姉の国葬準備の大詰めで忙しい蓮華には、思春を通じて華琳からの書簡を渡してもらうことにして、葬儀の後でゆっくりと会談の時間を設けようということに落ち着いた。一方、葬儀出席まで王宮に逗留している蜀王劉備に対しては直に彼が書簡を持って行くことになった。 「すいません、俺なんかが代理で」  柔らかい印象の、けれど紛れもなく美しい女性が華琳からの文書を読んでいる横で、一刀は何度も頭を下げていた。  桃色の髪を持つその相手こそ、蜀の王劉備こと桃香だ。 「え? いえ、そんなー。大変なときはしかたないですよー。それに北郷さんなら代役として十分じゃないです?」 「華琳の代役ってのはなかなか……」  その答えに、桃香は微妙な笑みで返す。たしかに曹孟徳の代役を務められる人間などそうはおるまいが、といって、目の間のこの男性は天の御遣いというとんでもない異名を持つのだ。その人物に変に恐縮されても困る。 「でも、華琳さんはやっぱりすごいなー」 「え?」  よくわからない、という風情の一刀に、桃香は文面を示してみせる。 「だって、謀反に至った経緯とか、どれだけの影響があるかとか、しっかり書いてあるんだもん。もちろん、これは華琳さんの推測混じりだと思いますけど、これだけ内実をさらけ出せちゃう自信がすごいなー、って」 「ま、普通の国主やったら、謀反なんて起きたら、まずその影響をいかに他国から隠すかに腐心するやろな」  我関せずと茶をすすっていた霞が、桃香の言を補足する。 「ましてや数年前まで戦争しとった相手に、あえてそんな弱みを見せようとするんは、うちとこの孟ちゃんか、それこそ桃香くらいやろ」  にやにやと言われた言葉に、桃香は慌てて顔の前で両手を振る。 「私はそんな……。ほら、朱里ちゃんたちがだめって言うし」 「まあ、華琳はその点、止めようがないからな……」  一刀はしかたない、という風に肩をすくめる。 「とはいっても、華琳のように正確に知らせて、把握させるのも一つの手なんでしょうね。そこで妙に隠すことで疑心暗鬼を引き出して、変に刺激する結果になるのもよくないですし」 「諜報合戦になって、無駄に人員を消耗させてもしゃあないしな」 「いまは北伐もありますもんね」  そんなことを三人で話していると、勢いよく扉が開き、小さな影が転がり込むようにして部屋に入ってきた。 「ただいまなのだー」  元気よく言って手を振るのは、桃香と姉妹の契りを交わした赤毛の少女、張飛だ。一丈八尺という長大な蛇矛を操ることで有名な猛将の真名は鈴々といった。  彼女は部屋に来客があるのを知ると、その顔を見て思わず指さした。 「あー、女の敵の人だ」 「り、鈴々ちゃん、なに言ってるの」  桃香が慌てて立ち上がり、鈴々に駆け寄る。その肩に手を置き、これ以上口を開かないようにと伝えるにはどうしたらいいだろうと考えているうちに、鈴々はさらに言いつのる。 「でも、愛紗がそう言ってたのだ。女の子を見ると食べちゃう怖い人だ、って」 「鈴々ちゃん!」  すでに桃香の声は悲鳴の域。あわあわと恐慌をきたしている彼女と、きょとんとしている鈴々を見て、一刀はなんとも言えない苦笑を浮かべている。 「それはちぃと違うなあ」  一方、霞は二人の前に近づくと、かがみこんで視線を鈴々のそれと合わせた。 「なー、ええか、鈴々。たしかに一刀は女ったらしで、好きもんで、いい女と見ればすーぐ手を出す節操なしで、他国の女だろうとおかまいなしに子供ぽこぽこつくってるような男やけどな、己の女を泣かすような事はせーへんのや。わかるか、ん?」  静かに押し殺した声が響く度、鈴々の顔から血の気が引いていき、がたがたと体を震わせ始める。 「わ、わ、わかったのだ」  そうして、空気が氷点下まで下がりきった部屋の中で、一人、一刀だけは、霞もひどい言いようだが、まあ、女の敵よりはましな話かな。それにしても劉備さんと張飛さんが二人揃ってだらだらと汗を流しているのはなんでなのだろうな、などとのほほんと考えていたのだった。 「あれが張飛かー。蜀に行った時はあまり話さなかったからなあ」  ひとしきり話した後、部屋を辞しての一刀の第一声がそれだった。三国志や三国志演義の知識がある彼にとって、劉備、関羽、張飛、それに諸葛亮の名前は格別の感慨がある。  彼にとって張飛を見るのはかつての反董卓連合以来数回目のことだったが、今日がほとんど初めて言葉を交わす機会だったと言っていい。  なぜか妙に彼女のほうが緊張していたのは、やはりまだ悪評に引きずられているのだろうか、と彼自身少々へこみ気味ではあったのだが。 「でも、あれは強いで。おこちゃまやけどな」 「そんなに強いんだ」 「強いな。うちでも十回やってまず半分は負けるやろ。引き分け三に勝ちが一、二ってとこか。ああ、さっきやったら間違いのう勝てたけどな」  その言葉に、さすがに一刀は息を呑む。彼にとって霞の強さは桁外れのものだったが、それがあの小さな体の溌溂とした少女に通用しないとは。  もちろんそれは個人の武であって、兵を率いたときにその優劣は逆転するであろう事は想像に難くないが、それにしても……。 「ただなあ」  飛龍偃月刀を担いで先を行く霞は、実につまらなさそうに呟いた。 「鈴々たちがああして一刀を侮っている間は、何度やろうとうちらの勝ちやな」  7.母親達  天宝舎の名で知られる養育棟は、いまや魏の政治の中心となっていた。なにしろ三軍師のうち北伐に出ない二人が詰めているのだから、そうならないほうがおかしいだろう。  その二人は、いま、それぞれの子供をおさめたゆりかごを己の横に置き、仕事にいそしんでいた。 「あの名前の浸透率がどうも上がらないわね」  上がってきた報告書をこつこつと指で叩きながら、猫耳の頭巾をかぶった筆頭軍師が呟く。卓の向かい側で何かを読んでいた稟が顔を上げていつもの調子で眼鏡を押し上げた。 「『北郷六龍騎』ですか」 「ええ、そう」 「原因ははっきりしていますよ」  淡々と言う同輩に、桂花は片眉だけをはね上げた。 「一刀殿が詠と音々音に命じて、その名が広まらぬよう手を打ったのです」  途端に猫耳軍師が爆発する。立ち上がり大声を上げようとして、すーすー寝ている木犀が視界に入り、すんでで声を――彼女にしては――抑える桂花。 「な、なにしてくれてるのよ、あの莫迦っ!」 「どうも、西涼や蜀の兵であるのに自分の名が冠されるなんてあってはいけない、と考えられたようで。正しい判断だとは思いますが」 「それだけ見ればね。ったく、私たちの苦労を……」  座り直し、ぶちぶちと愚痴る桂花。計画を変えなきゃいけないじゃない、とかなんとか言うのを、稟は軽く聞き流している。  しばらくして、ふとなにかに気づいたように、猫耳がひょいと動いた。 「ところで、それ、どこから仕入れた情報?」 「詠が、私に探りを入れてきました」  稟は表情を変えることもなく、あっさりと答える。 「もし、戦意高揚のためにやっているなら邪魔しない方がいいかしら、と言って来たので、適当にとぼけておきましたが」 「そう、詠がね……。さすがは賈駆というところか。気づいたと思う?」 「まだでしょう。なにかあるかもしれないとは思っているでしょうが、確信に至るにはまだ要素が足りなすぎます」  そこで、稟は眼鏡をくいと押し上げると、頬に薄く笑みを乗せた。 「それに、気づいたとして……」  それを見つめる桂花の顔は少々心配げだが、彼女にしては平静の部類に入る。稟があえて続けなかった言葉を彼女自身もわかっているが故だろうか。 「……まあ、こちらもまだ動かなくていいでしょう。問題はその名前の件だけど」 「そうですね。北伐の様子を見ながら、でしょうか」  詩や講談と一緒に流せば、定着しないはずがありません、と彼女は続けた。要はそれだけの実績がまだ足りない、ということでもある。いくら荒唐無稽な武勲話も、核となる事実がなければ作りようがない。 「そうね……。あとは、歩兵にもなにかつけないとね。北郷八鬼将ってあたり?」 「八人って誰ですか」 「そこらへんは適当よ。江東の三人がいるんだし、三でも四でもなんとかなるでしょ。袁家二枚看板だっているのよ」 「それもそうですか。では……」  その後、彼女たちはいくつかの打ち合わせを済ませ、ふと思い出したように稟が切り出す。 「そうそう。一刀殿に伺った農法ですが」 「ああ、なんか色々持ってきてたわね」 「いくつか試してみましたが、採算にのせるにはやはり数年……十年近くかかります。現状ではどうやってもかけた労力を超えるほどの益は出ません。もちろん、慣れていないせいもあるのですが、肥料やらはともかく、連作に伴う塩害などの回避策は、五年か十年見てみないと成果がわかりませんから」  こつこつと筆で卓を叩く桂花。墨が飛び散っているが気にならないのだろうか、と稟は思うが口にはしない。 「理論的にはいいんだけど、農民たちにわからせるのは実際やってみないと無理だしね」 「ええ。最終的な収穫増も、十年単位でならしてみなければわかりませんし」 「とはいえ、さすがに華琳様も農産物の増産をそんなに早くお求めにはならないわ。あいつの新農法をやる畑とは別に、これまで通りの生産が見込める畑を確保しておけば問題ないんじゃない?」  桂花は脇にあった竹簡の一つを目にとめる。 「ああ、そうよ。漢中ででもやらせてみれば? あそこは土地も気候もいいんでしょう?」  漢中はたしかに季候がいい。なにより、これまでの五斗米道の施策により、地味もかなり肥えている。慣れない農法で成果を上げさせるにはもってこいと言えた。 「ふむ。たしかにこれまでの土地でやるよりは……。そうですね、では、南鄭近くに試験地を確保するとしましょう」  報告と申請の書類にいくつかの事項を記していく稟を見ながら、桂花は己で意識しないままに呟く。 「天の御遣い……か」  言葉にしてみれば、それは思っていたより重く、意味のある言葉だった。 「あいつはどう思ってるのかしらね」 「御遣いであることを、ですか?」  稟は顔も上げず筆を止めることもしない。桂花もそれを気にした風もなく、言葉を続けた。 「それもあるけど、自分の世界の知識を私たちに分け与えることを、よ」 「どうでしょう。いかに理にかなっていようとそもそもの基盤が違いすぎて、こちらでは使いようもないものが多くありますからね。我々の知的刺激としてはよいですが、それ以上のものでもないこともよくあることで。一刀殿もそれを知っていますし、裏では悔しい思いも持っているのではないですか」 「そりゃあ、あいつがそれで得意になってるとは思わないけど……」 「一刀殿にしてみれば、分け与えるなどという意識もないのではないかと思いますよ。ただ、役に立ちたいと思うだけで」  ようやく上がった顔は、微笑みをたたえていた。その顔に、桂花は思い切りの渋面で返す。 「……ふん。自分の価値を理解していないやつは手に負えないわ。天の国の知識なんて……」 「そのおかげで色々と迂遠な手を使わざるを得ないわけですが、まあ、これも……軍師の務めというやつでしょう」 「いっそ、直に言ってやりたくなることもあるけどね」  稟の笑みはますます深くなり、桂花の顔はさらに苦り切る。 「そうも行きますまい。与えられた答えで満足するようならば、最初からこのようなことを仕掛ける意味もありません。自ら悟ってもらわねば」 「困ったものね」  ぐずりはじめた木犀を抱きあげ、そう呟く桂花の顔には、言葉とは裏腹になぜかほんの少し、柔らかな笑みがのっていた。  8.起点 「ふぅ……ひとまずこれで終わりかな」  たっぷり入ったくずかごを抱えて、整理された部屋を見渡すのは、艶々とした黒髪を結って一本長く垂らした凛々しい女性。世間では美髪公とも称される、驍将関羽。桃園三義姉妹の一人で、真名を愛紗という。  彼女はくずかごを持ったまま、部屋を出る。  焼却場に向かうのだ。普通の塵ならば気にせず埋めたりすればいいのだが、愛紗は政治向きの仕事をすることも多く、竹簡のかけらや紙片から思わぬ情報が漏れることを警戒して、塵は一括して焼却することと軍師達と取り決めていた。  月と詠が成都を去って以来、彼女は部屋の片付けは全て自分で行っていた。信用のおけない者を部屋に入れたくないという政治的事情もあるが、仲の良い人間以外に部屋を見せたくないという心情的な理由も大きかった。  ここもずいぶんと静かになった、と愛紗は思う。  月たちがいなくなり、美以達が三国を巡るようになり、白蓮は出て行かざるを得ず、涼州の者たちは帰って行った。  さらには紫苑と桔梗が大使として洛陽に赴任し、星と焔耶は北伐へ出ている。  呉へと弔問に赴いている桃香と鈴々は程なく戻ってくるにしても、現時点ではこの城に蜀の幹部勢は二人の軍師と彼女という三人しかいないのだ。  もちろん、多くの文官、武官はいる。しかし、苦しい時を共に過ごしてきた仲間達という意味では……。 「いけない、いけない」  愛紗は首を振って自分の意識の流れを振り払おうとする。長い髪がまるで鞭のようにしなって揺れる様が美しい。  それぞれに事情があるのだし、いま自分たちの下で働いてくれている者たちを否定しかねない考えは改めるべきであった。  それに、死に別れたというわけでもない。仕えるべき主は変わったとしても、三国の交流の折には会うことも出来る。そう悲観したものではない。  そんなことを考えていると、廊下の向こうで、欄干越しに二人の軍師たちのかわいらしい帽子が揺れているのに気づく。高い帽子は雛里、丸っこいのは朱里だ。 「あ、愛紗さん、こんにちは」 「こんにちは」  こちらに気づいて駆け寄ってきた二人に、ふと愛紗は以前からの心配をぶつけてみる。 「お前達、体の方は大丈夫か?」 「え?」 「いや、最近仕事の負担が増えているだろう。北伐やらで人手も減っている」  その問いかけに、二人は花のような笑みを見せてくれた。そのことがかえって愛紗に複雑な想いを抱かせる。 「ああ、大丈夫ですよ。文官の皆さんに分担してもらっていますし」 「それに……平和になった分、世情は安定してきていますし……」 「平和……な」  雛里の言葉を受けて、愛紗は呟かずにはいられなかった。 「本当に平和なのだろうか。数十万の大軍を、北の辺境に追いやる日々が」 「それは……」  三国一の頭脳と愛紗自身が信じている諸葛亮が顔を曇らせるのを見て、愛紗は慌てたように片手を振った。 「ああ、いや、別に不平不満があるというのではないのだぞ。北伐に意味があるのだってわかっている。だが、その意味をあえて生み出しているのではないかと思う事も……あるな」  それから、彼女は少しためらいがちに言葉を舌に乗せる。 「たとえば……」  だが、それは諸葛亮の軽やかな弁舌に取って代わられる。 「たとえば、三国を桃香様が治めていたら北伐は起きなかったでしょう。五胡を防ぐために、漢の施策に倣って現状の辺境地帯に砦を築き、侵攻予測地帯に多数の見張り台を設置、いち早く本国に伝える態勢を整えるなどはあったでしょうけれど……」 「華琳さんのやり方は効果的ですが、それだけに犠牲も要求する。そういうものです。しかし、それも……」 「しかたない、か」  朱里の言葉をさらに雛里が引き継ぐ。そんな軍師たちに、愛紗はそう言うしかなかった。 「はい」 「実際に、益はありますから。たしかにやり方は私たちと違いますけど、それだけで否定するわけには……」 「ほとんどが実際に五胡の矢面に立つ魏という国の兵であることを考えると、無為に民を苦しめているという批判も難しいです。もちろん、我々も派兵していますし、協力もしているのですが、それは、西涼建国のためという側面が大きいわけですから」 「結局のところ、強引に感じる部分はあっても止めるまでには至らないというところですね」 「そうだな……」  愛紗にも軍師たちの言うことはわかる。  わかるのだ。  だから、反論することはできない。彼女たちが最も良い道を模索して、この国のため、主の理想のために動いてくれていることはわかっているのだから。  適切な言葉を探し当てることが出来ず、適当に挨拶して愛紗は軍師達と別れる。そして、しばらく歩いて焼却場に至ったところで、彼女は、ああ、とようやくその時言うべきだった言葉に気づいた。 「……我らは敗れたのだなあ」  成都陥落より二年半あまり。  関雲長、肺腑をえぐるような慨嘆であった。      (いけいけぼくらの北郷帝第三部第二回 終/第三回に続く) 北郷朝五十皇家列伝 ○道三家の項抜粋 その三 『……(前略)……これまで、道教の北郷朝における発展と、世界宗教への躍進の原動力となった熱狂的性質を見てきたわけだが、次には、実際に道教が世界宗教へと飛躍し、同時に道三家が巨大な宗教帝国を作り上げていく経緯を見ていくことにしたい。  基本的に、五十皇家の拡張過程の内、南方での西進の実働部隊は張家が担当していた。(北方での西進は主に文家。後に各航海皇家)  孟家、すなわち南蛮王家と道三家はこれを資金面や人材面で援助し、その見返りとして南蛮は西方貿易の中継点としての地位を築き、道三家は領土を手に入れた。  張家はその初代の遺言から大秦を目指すという大目標を常に掲げていたので、後背の占領地の経営を惜しみなく道三家に託した。もちろん、それは戦費や兵員の提供と引き替えであったが、道三家は張家の西進に伴って、インド亜大陸からイランの地に至る広大無辺の地を手に入れることと……(中略)  彼らは進出していく先々で、北郷朝で用いたのと同じ手法を取った。それは、現地の宗教、英雄伝説の取り込みであり、神話の一体化であった。  たとえば、中黄帝国の形成にあたり、道天家は現地のヒンドゥー教や仏教を積極的に取り入れた。これにより、ガネーシャ神は太祖太帝と孟家の祖、孟獲の二人が融合した大聖歓喜双身天王となり、同様にカーリー神は華家の祖、華雄と同一視され、大黒天母と……(中略)……  これは現地に溶け込み、宗教帝国を築くのには有効な手であったが、同時に教義の複雑化と矛盾、変質を引き起こすことになる。これに危機感を覚えた道人家は、学究僧の組織化を推し進め、道家の教え全体を体系づけて理論構築を行う手法を生み出すことに成功した。  後にペルシャ、アラブの地からアナトリア東部に至る道地家の玄真帝国が成立する頃には、道教の神話は柔軟な姿勢を見せつつもほとんど整理され、現地の宗教の神々は直接に取り込まれるのではなく、なんらかの神の化身として認定されることになる。  これにより、その神話や伝承と、中枢部分の信仰との分化が進むようになった。物語は物語として存続させ、そこから導かれる寓意とそれをいかに信徒たちが理解するか、ということに重点が置かれ……(中略)……  さて、道人家率いる学僧集団は、組織化が進むと共に強力な僧兵集団ともなり、見聞を広めるために航海皇家の船に乗り込んだ彼らは、アフリカ大陸の東方に位置する巨大な島マダガスカルにたどり着き、この島を一大研究国家と成すに至る。道三家最後の帝国レムリアの成立である。  帝国十本指の三本までが道家による宗教帝国であることを考えると、『帝国』が根本的に抱えている宗教国家的性格という側面が……(後略)』 おまけ 北伐編成表 総大将:曹操(華琳) 右軍 大将:楽進(凪) 副将:于禁(沙和) ※当初は偽装で蓮華 以下、李典(真桜)、淳于瓊、張合など。 補給任務を主とするので、全体の兵数は変動があり、確定しがたい。 中央軍 大将:夏侯惇(春蘭) 副将:程c(風) ※当初は秋蘭 以下、許緒(季衣)、典韋(流琉)など。 兵数三十万。うち、親衛隊三万。 左軍 大将:北郷一刀 副将:袁紹(麗羽) ※まがりなりにも大将軍なため 以下、張遼(霞)、呂布(恋)、華雄、賈駆(詠)、陳宮(音々音)、公孫賛(白蓮)、黄権(祭)、馬超(翠)、馬岱(蒲公英)、趙雲(星)、魏延(焔耶)、文醜(猪々子)、顔良(斗詩) 兵数 魏軍:騎馬一万五千、歩兵二万四千、工兵二千 西涼軍:騎馬一万一千 蜀軍:歩兵一万